著者
藤井 進也 中島 振一郎 野田 賀大
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

近年、音楽経験を豊富に積んだ高齢者は、音楽経験の少ない高齢者に比べて、ワーキングメモリーや実行機能など、認知課題の成績が優れていると報告された。これらの先行研究を踏まえると、音楽はヒトの認知機能の改善や維持、長寿健康社会の実現に有用であると示唆されるが、その神経生理メカニズムは十分に解明されていない。そこで本研究では、核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)と、経頭蓋磁気刺激と高解像度脳波の同時計測手法(TMS-EEG)を用いて、音楽家と非音楽家の前頭前野グルタミン酸・γアミノ酪酸(GABA)神経機能を横断比較し、音楽機能・認知機能との関連性を解明する。
著者
小野田 慶一
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2204si, (Released:2022-08-27)
参考文献数
136
被引用文献数
1 1

意識は長らく哲学や心理学において扱われてきたが,近年漸く神経科学の正当な研究対象として扱われるようになってきた。そこでは意識を科学的に扱うための実験的アプローチや情報理論に基づく数理的研究が進展してきた背景がある。本稿では神経科学における意識研究がどのように意識の問題に取り組んできたかを概観する。さらに意識と脳の複雑性の連関を踏まえた上で,統合情報理論に基づき意識の神経基盤を探求した自身の研究を紹介する。
著者
野田 百美
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.77-81, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

要旨 脳白質のモデルとして使われているマウス視神経を用い,飲用水中の分子状水素(H2)が虚血による視神経機能障害を改善させるかどうかを検討した.視神経機能の測定には,摘出後,複合活動電位(CAP)の面積を測定した.灌流チャンバーを脱酸素・脱グルコース(OGD)にすると,CAP は速やかに消失し,再灌流後は25%程度しか回復しない.ところが,10~14 日間,H2 水を飲用したマウスの視神経では,CAP が完全に消失することはなく,再灌流後の回復も顕著に改善された.虚血・再灌流後の視神経線維の脱落は,H2 水飲用群で有意に減少しており,グリア細胞(とくにオリゴデンドロサイト)の核8-オキソグアニン(nu8-oxoG:酸化DNA 障害のマーカー)の蓄積は,H2 水飲用群において,有意に抑制されていた.これらの結果は,有髄神経が占める白質の保護にH2 水飲用が有効であることを示唆しており,酸化ストレス耐性と治療の有用性が期待される.
著者
野田 篤 利光 誠一 栗原 敏之 岩野 英樹
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.99-113, 2010 (Released:2010-10-13)
参考文献数
82
被引用文献数
9 8

上部白亜系の和泉層群は横ずれ堆積盆を西から東へ埋積した地層と言われているが,四国の西部と東部とでは岩相や地質構造に違いがあり,堆積盆の埋積過程やテクトニクスが異なっていた可能性がある.今回,四国中央部の新居浜地域の和泉層群を調査し,北縁相の楠崎層と主部相の磯浦層・新居浜層の3つの新しい地層名を定義した.新居浜層に挟在する珪長質凝灰岩を用いたフィッション・トラック年代は79.1±2.2 Maを示した.また,新居浜層の泥岩から産出した放散虫化石群集は,前期-中期カンパニアン階のDK群集帯に対比された.これらの結果は新居浜層の堆積年代が中期カンパニアン期であり,四国西部(松山地域)に分布する同層群とほぼ同時期に堆積したことを示唆している.本地域の和泉層群の岩相や地質構造は四国西部と東部に見られる同層群の両方の特徴を持っており,その堆積盆形成・埋積プロセスの過渡期に堆積した地層であると考えられる.
著者
坪井 義夫 梅本 丈二 野田 雅子
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.27-30, 2022 (Released:2022-06-15)
参考文献数
8

The amount of weight loss in patients with Parkinson disease (PD) documented in the literature varies from 52 to 65%. As reduced energy input, hyposmia, cognitive impairment, depression, gastrointestinal dysfunction, and dysphagia are thought to be causally related to weight loss. On the other hand, weight loss and malnutrition are also the result of a negative energy balance, which means that energy expenditure exceeds intake caused by tremor, rigidity, and dyskinesia. To predict total energy expenditure, a calculation method to multiply basal energy expenditure by 1.1–1.3, or PD coefficient which is appropriate to the degree of rigidity and tremor has been proposed. For nutrition therapy to replenish energy in PD patients, functional food including medium–chain triglyceride supplements may be helpful.
著者
野田 航 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.287-296, 2014 (Released:2015-11-19)
参考文献数
14
被引用文献数
4 3

本研究では、掛け算スキルの習得に困難がある小学生2名の事例において、掛け算スキルの流暢性に焦点をあてた応用行動分析に基づく指導パッケージの効果を検討した。公立小学校の通常学級2年に在籍する男児2名が研究に参加した。指導は週2回放課後に実施された。指導パッケージには、3C学習法(Cover-Copy-Compare; Skinner, Turco, Beatty, & Rasavage, 1989)と、タイムトライアルを用いた練習における目標設定とフィードバックが含まれていた。タイムトライアルにおける正答数と誤答数を従属変数とし、教材セット間多層プローブデザインを用いて指導効果を検討したところ、2名の掛け算スキルの流暢性が向上し、指導パッケージの効果が確認された。しかし、1名の児童は設定した達成基準を満たすことはできなかった。最後に、指導法の改善点や研究デザインなどの改善点について考察した。
著者
下山 進 野田 裕子 勝原 伸也
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.93-100, 1998-02-05 (Released:2010-02-16)
参考文献数
17
被引用文献数
3 7

日本古来の浮世絵は,最も広く世界に行き渡った絵画形式であり,西洋文化に対する芸術的衝撃,特に多くの印象派の画家たちに与えた影響は“ジャポニズム”と言われる文化現象として知られている.1823年ごろに刷られた葛飾北斎の浮世絵“四日市”の赤色の着色料(R1~R3)と黄色の着色料(Y1~Y3),そして1821年ごろに刷られた五渡亭国貞の浮世絵“木母寺暮雪”の青色の着色料(B1~B3)について,それらの非破壊分析を光ファイバーを用いる三次元スペクトル法によって実施した.色刷り標準試料のそれぞれと三次元蛍光スペクトルの等高線図を比較した結果,赤色の着色料はベニバナの花弁から得られた染料“サフラワー”,黄色の着色料はウコンの根から得られた染料“ターメリック”,そして青色の染料は藍の葉から得られた染料“インジゴチン”であることが明らかとなった.
著者
野田 潤
出版者
東洋英和女学院大学
雑誌
人文・社会科学論集 (ISSN:09157794)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.27-46, 2022-03

In the process of modernization of family in Japan, home cooking has been given a special value, and homemade meals became as a symbol of family love. As a result, even today, homemade meals by married women function strongly as a symbol of love. This may be one of the reasons why the excessive burden of housework put on women and the division of gender roles have not changed much when compared to other countries.This paper examines the origin of the norm in Japan that a wife should prepare extremely time-consuming homemade meals for her family in relation to modern family norms of affection, using text analysis.First, an analysis of articles from Yomiuri Shimbun (1874-2020) that included koshi-ben, aisai bento, and aijo bento in their headlines revealed that a strong connotation of between a homemade bento and affection was established in the mid-1960s to 1970 in Japan and has continued to the present day.Second, an analysis of articles on daily family food menus and recipes that appeared in Yomiuri Shimbun (1915-2020) shows that social standards for daily homemade meals in Japan rose sharply in the 1970s, and the menu consisting of one soup and three dishes became commonplace between the end of 1980s and the early 1990s. But it was also found that from the mid-1990s onward, there was a growing awareness of the need to shorten time and save labor when preparing meals.The above analyses reveal that the rapid rise of social standards for wives' homemade cooking went hand in hand with the emergence of the idea that a married woman's homemade cooking is a sign of her love for her family. This suggests that the deep-rooted tendency in Japan to view a wife's home-cooked meal as a proof of love is one of the reasons why wives have been slow to reduce their burden of housework, even today.
著者
野田 昌宏 盛 真一郎 出先 亮介 馬場 研二 喜多 芳昭 柳田 茂寛 柳 政行 奥村 浩 石神 純也 夏越 祥次
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.1107-1112, 2014-09-30 (Released:2015-02-04)
参考文献数
12

2012年1月から2013年12月までに当教室で経験したフルニエ壊疽6例を検討し,2008年から2013年までに検索しえた101例を加えた107例の検討を行った。自験例6例中Fournier’s gangrene severity index(以下,FGSI)およびUldag Fournier’s gangrene severity index(以下,UFGSI)が高値であった2例は周術期に死亡した。107例の検討では周術期死亡は10%であり,平均年齢59.3歳であった。84%に基礎疾患を有し,糖尿病が最多であった。嫌気性菌の関与が35%にみられ,混合感染も多く認められた。治療は適切なドレナージ,デブリードマンが最も重要であり,嫌気性菌をカバーした広域抗菌薬投与,全身管理,創部の適切な管理が必要である。FGSIと UFGSIは,フルニエ壊疽の重症度判定と予後予測に有用であった。
著者
安藤 沙耶 日野田 卓也 藤本 順平 山田 浩史 有薗 茂樹 菅 剛 金尾 昌太郎 石藏 礼一 小林 由典 鶴田 悟
出版者
日本小児放射線学会
雑誌
日本小児放射線学会雑誌 (ISSN:09188487)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.106-112, 2021 (Released:2021-03-27)
参考文献数
17

ビガバトリンとはGABA(γ(gamma)-aminobutyric acid)アミノ基転移酵素を阻害し脳内GABA濃度を上昇させ抗てんかん作用を有する薬剤である.Vigabatrin-associated brain abnormalities on magnetic resonance imaging(VABAM)とは,ビガバトリン投与中に生じる頭部MRIでの異常を指し,淡蒼球や脳幹背側,歯状核,視床などにT2強調像・拡散強調像で高信号を認めるとされている.症例1は6か月女児.点頭てんかんに対しビガバトリンとACTH療法の併用にて治療中,フォローの頭部MRIにて両側歯状核,中脳被蓋,淡蒼球,中脳黒質にT2強調画像・拡散強調画像で高信号を認めた.症例2は6か月女児.結節性硬化症に伴う点頭てんかんの発症予防目的にビガバトリンを使用中,フォローの頭部MRIにて脳幹背側の中脳四丘体・前交連に拡散強調画像で高信号を認めた.症例1,2についていずれも関連すると思われる臨床症状については認めなかった.特徴的な画像所見を呈し,また薬剤減量や中止で改善することがVABAMの特徴であり文献的考察を交えて報告する.
著者
岩室 紳也 古田 昭 岩永 伸也 野田 賢治郎 波多野 孝史 中條 洋 田代 和也
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.35-39, 1997-01-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

(背景と目的) 新生男児の大半は包茎であるが, 包茎に関しては明瞭な治療指針がない. われわれは新生児期から包皮を翻転し, 包皮内の清潔を保つ指導をすることで亀頭部を露出できる可能性について検討した.(対象と方法) 1994年1月より1995年10月の間に当院で出生した男児の母親に対して新生児期からパンフレットとビデオで包茎と包皮翻転指導の有用性について説明した後に泌尿器科医が母親に対して包皮翻転指導を実施した. 指導内容は1) 無理のない範囲で包皮を翻転し, ガーゼ等で包皮内面や亀頭部を陰茎根部に向かって拭く, 2) 包皮の翻転はおむつを替える度と入浴時に行う, 3) 操作後は包皮を戻すを原則とした. 包皮翻転の進捗状況は1ヵ月健診時に泌尿器科医がチェックし, 亀頭部が完全に露出できる状態を完了とした.(結果) 初診時の亀頭部の用手的露出度を不可 (0)~亀頭部中間 (III)~完全 (VI) の7段階に分類した. 新生児538例中, 亀頭部を完全に露出できるVI度の症例はなかった. しかし, 包皮翻転指導を行った結果, 継続的に経過観察し得た372例は埋没陰茎の2例を含め全例亀頭部を完全に露出することができた. 亀頭部が完全に露出できるまでに要した期間は, 0度は平均2.94月, III度は1.78月, V度は1.22月, 全体の平均2.32月であった. 指導に伴う特記すべき合併症はなかった.(結論) 新生児期から包皮を翻転し亀頭部を露出する指導を徹底することで, 真性包茎状態の新生児でも経過観察できた全例が仮性包茎となり, 手術を回避することが可能になると思われた.
著者
千田 譲 伊東 慶一 大山 健 米山 典孝 原 一洋 中村 亮一 野田 智子 橋詰 淳 熱田 直樹 伊藤 瑞規 渡辺 宏久 安井 敬三 小竹 伴照 木田 義久 岸本 秀雄 祖父江 元
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.441-447, 2013-11-25 (Released:2013-11-25)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

要旨:【目的】回復期入院リハビリテーション(リハビリ)での脳梗塞branch atheromatous disease(BAD)の治療成績を検討した.【対象と方法】レンズ核線条体動脈領域(LSA-BAD)90 例と傍正中橋動脈領域(PPA-BAD)21 例に対し,入院時・退院時の脳卒中重症度(NIHSS),機能的自立度評価法(FIM),上肢・手指・下肢各Brunnstrom stage(BRS)を検討した.【結果】LSABAD群はPPA-BAD 群に比べ入退院時NIHSS は有意に重症であり,手指・上肢の機能改善は不良であった(p<0.05).LSA-BAD 群は入院時上肢・手指BRS の退院時3 段階以上の回復は稀だったが,両群とも退院時FIM は多くが100 点以上であった.【結論】回復期リハビリでのBAD を分類し検討することで,皮質脊髄路障害部位の違いによる運動麻痺と機能的自立度評価の回復過程を評価できた.
著者
野田 康文
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.93, pp.106-121, 2015-11-15 (Released:2016-11-15)

本稿の目的は、内田百閒の小説『柳検校の小閑』(一九四〇年)に描かれた盲者の視覚性の特徴と達成を、谷崎潤一郎の小説『春琴抄』(一九三三年)を補助線としつつ明らかにすることにある。まず、『春琴抄』に対する内田百閒の共感と対抗意識を踏まえつつ、『柳検校の小閑』のテクストの構造に盲者の視覚性がどのように方法的に組み込まれているのかを、記憶の表象との関わりから考察し、同時に盲者の視覚性に着目することによって拓ける読解の可能性を導き出す。次に、百閒と親交のあった盲目の筝曲家・宮城道雄の随筆との関連について、盲者の視覚性の形象をめぐって、内田百閒と宮城道雄双方が互いの作品に及ぼした相互作用・相乗効果を考察し、その共同作業によって、盲者の視覚性についての互いの認識を、単独ではたどり着けなかったであろう深みにまで達せしめたことを証明する。
著者
野田 岳志
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

インフルエンザは主としてA型およびB型インフルエンザウイルスを起因とする呼吸器疾患である。飛沫を介してヒトからヒトへと効率よく伝播することが最大の特徴であり、毎年、人口の5-10%がインフルエンザに罹患する。ヒトインフルエンザの研究においては様々な動物モデルが使用されているが、小型で効率の良い飛沫伝播を再現する動物モデルは存在しない。本研究ではインフルエンザの新たな飛沫伝播動物モデルを確立するため、ハムスターを用いた実験を行った。その結果、ウイルス株によって、飛沫伝播を起こすものと起こさないものが存在することが明らかになった。2009年に出現したH1N1ウイルスは、効率よく個体間を伝播した。