- 著者
-
青木 邦勲
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- pp.100021, 2013 (Released:2014-03-14)
1.はじめに 地理Bの学習内容について,教科書で取り扱う内容の順番と各社発行の受験問題集が取り扱う内容の順番が異なっていることは周知の通りである.昨年度より,発表者が担当している授業では受験参考書の順番を採用して授業計画を立てている.この理由は高校2年生では週4時間で授業を行っているが,学習内容が系統地理学の部分で終わってしまうため,地誌学の学習までたどり着かない問題を抱えていたためである. そこで,受験問題集数冊の項目立てから授業の流れが崩れない方法を考え,前半の系統地理学と後半の地誌学を合わせて「系統地誌学」という概念を思いついた(ただ,この概念は発表者が初めて提唱するものではなく,以前からこのような教育方法が提唱されていたのではないかと考えている).この方法で授業を進めると地誌の内容を扱うことも可能になるので生徒が興味を持ち自主的な取り組みが見られ,履修者の減少に歯止めがかかった.また,授業内容や授業回数の短縮にもつながり,3年生の11月に行なわれる日本大学付属学校等統一テストや各大学で実施している推薦入試に対応できると考えている.2.今回の発表内容 5月に行なわれた日本地球惑星科学連合大会では上記の2年生の授業の前半部分について,「特に地形学の授業の進め方を工夫することで,世界の鉱工業の理解が深まり,各地域の特色が明らかになるので生徒が興味を持ち,生徒自らが思考を深めてくれる」という内容で発表を行った.今回は視点を地理B全体に向けて「地理教育」としての観点から発表を行う. 3.発表の具体的な中身と構成 具体的には昨年度2年生の授業(週4時間)では「地形学・世界の鉱工業とエネルギー資源・気候学・世界の農牧業」という流れで授業を進め,今年度3年生の授業(週6時間)では「村落・都市・国家間の結びつき・現代世界の諸課題(民族・人口・環境問題)・林業・水産業・地図の図法・統計演習」で授業計画を立て,現在は現代世界の諸課題まで終了している. このような形で授業を行ったところ,以下のような結果(良い方向への変化)が見られた.①2年生のうちから各地の様子を詳しく見ることができるため,生徒の授業中の活動が積極的になった.②系統地理と地誌の関係が明確になり,各単元で何を学習してどこへ到達させるのか?が生徒自身で理解できるようになった.③生徒の思考が深くなり,各地域の特色について生徒自らがまとめる作業を行なうようになった.よって,従来の地誌学の考え方である各地域の総合的な特色については生徒自身でまとめる作業をしている.④2年生から3年生への地理継続履修者に減少の歯止めが掛かった. 教える側が先に全体の概要を示すことが大前提となるが,生徒自らが進んで地理を選択してくれる状況は整えたと考えている.また,受験のために授業をしている訳ではないが,各種実力テストでも偏差値50を確実に超えてくれている.成果が上がっているが,この方法にはまだ改善の余地があると考えているので,ご意見を賜りたい. 残念なのはこのような状況にあって大学入試で地理が受験教科にないこと,地理学科を持っている大学の入試制度が多様化していないことが残念である.