著者
コリム モハマッド アブドゥル 縄田 栄治 重永 昌二
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.16-25, 1994-03-01

完全型六倍体ライコムギ3品種, 置換型六倍体ライコムギ7品種, パンコムギ6品種, ライムギ5品種および六条オオムギ4品種について, それらの子実収量に及ぼす塩分濃度の影響を解析するため, 0,25,および50mMの塩化ナトリウム水溶液を灌水処理するポット栽培試験をガラス室内で行った.各作物の耐塩性を, 塩分濃度に対する子実収量の反応を指標として比較すると, オオムギの耐塩性が最も高く, 次いで完全型六倍体ライコムギが高かった.置換型六倍体ライコムギ, コムギおよびライムギでは互いに同程度の耐塩性を示した.また各作物において耐塩性の品種間差異が観察された.50mMの塩化ナトリウム水溶液処理では完全型六倍体ライコムギの6品種と置換型六倍体ライコムギのBeaver, RosnerおよびYoremeは耐塩性が高く, また置換型六倍体ライコムギのWelshとKoalaは耐塩性が低いことが分かった.パンコムギでは鴻巣25号および埼玉27号は耐塩性が高く, Sonalikaおよび農林42号は耐塩性が低く, ライムギではVegetale, VulgareおよびPetkusは耐塩性が高く, KingIIは耐塩性が低いこと, またオオムギは供試品種のいずれも耐塩性が高かった.上記の指標による耐塩性の値が比較的低い品種であっても, 子実収量の個々の構成形質に対しては塩分に比較的高い耐性を示す例も観察された.品種の耐塩性と, 塩水処理を受けた個体の葉のK/Na比との関係は必ずしも明瞭ではなかったが, 六倍体ライコムギとコムギにおいては各品種の耐塩性と葉のK/Na比の間に正の相関関係が, またオオムギでは負の相関関係が認められた.また六倍体ライコムギ品種おける細胞質やRゲノム染色体構成の違いと耐塩性との関係は必ずしも明かではなかった.
著者
ピパタナウオン ナロンチャイ 藤重 宣昭 山根 健治 居城 幸夫 尾形 亮輔
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.101-105, 1996-09-01
参考文献数
23

中性イチゴは生育期を通して連続的に開花するため, ランナー生産性は低い.中性イチゴのランナー生産を改善することを目的として, GA_3,BAおよびGA_3+BA葉面散布処理並びに施肥量が3つの品種('サマーベリー', 'みよし'および'円雷')のランナー生産, 開花および生長パラメータに及ぼす影響について検討した.50ppmGA_3,50ppmBAおよび50ppmGA_3+50ppmBA処理によって'みよし'のランナー生産が2から3倍に有意に促進された.GA_3およびGA_3+BA処理により'円雷'および'サマーベリー'のランナー生産がそれぞれ約8および4倍に増加した.葉柄長は'みよし'と'円雷'ではGA_3処理により, 'サマーベリー'ではすべての散布処理により増加した.葉数は'みよし'においてはGA_3処理, 'サマーベリー'ではBA処理により増加した.花序数と葉面積はすべての散布処理によって増加しなかった.2週間ごとの1植物体当たり100mgのCDU化成(NPK(15-15-15))施用は50mgの施用よりも3品種の花序生産, 生長パラメータおよび植物体重を増加させた.また, '円雷'のランナー生産を有意に促進した.生長調節物質処理と施肥量によってランナー生産を改善しうるが, 品種によって反応の異なることが示唆された.これらの結果は熱帯におけるイチゴの栄養繁殖の問題に対しても示唆を与えると考えられる.
著者
久保田 尚浩 小合 龍夫 宇都宮 直樹
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.99-110, 1992-06-01
被引用文献数
1

東南アジア, 特にインドネシアの農村に広く分布するホームガーデンの構造及びそこでの植物利用の実態を明らかにするため, 雨季にジャワ島各地で11のホームガーデンについてその面積, 標高及び用途別の有用植物の種類数を調査した.ホームガーデンの面積及び植物の種類数は各々500〜3200m^2,24〜76種と園によって大きく異なったが, これらに地域間での大きな差は認められなかった.園が大きいほど植物の種類数もやや多い傾向があった.各園とも, 果樹を始めとして野菜, デンプン作物, 観賞植物など用途の異なる種々の植物が存在したが, 果樹と観賞植物の占める割合が著しく高かった.用途別の植物の種類数は果樹36,野菜25,デンプン作物12,香辛料植物13,薬用植物14,工芸作物8,観賞植物79及びこれら以外のその他の植物(建築用や燃料用の樹木などを含む)31の合計218であった.このうち, 果樹, 野菜, デンプン作物などは多くの園にみられたが, 工芸作物, 薬用植物, 観賞植物及びその他の植物は調査した園のうち1園だけにしかみられないものが半数以上を占めた.以上のように, ジャワ島には植物の種類数が少ないものから多いものまで, 種々の様式のホームガーデンが存在したが, その地域性を明らかにすることはできなかった.
著者
松田 正彦 縄田 栄治
出版者
Japanese Society for Tropical Agriculture
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.247-258, 2002-12-01 (Released:2010-03-19)
参考文献数
22

ベトナム北部の紅河デルタと山地部において, タロイモ数種の利用と栽培について調査した.その現状や変化を農業生態・社会・経済的な側面から考察し, また, 異なる生態地域間での比較をおこなった.さらに, 収集した30系統のタロイモについては, 形態・倍数性・リボゾームDNAにおける制限酵素断片長多型 (RFLP) の調査から遺伝的変異を明らかにした.本研究ではColocasia esculenta var. esculenta, C.esculenta var. aquatilis, C.gigantea, Xanthosoma sagittifolium, X.violaceum, Alocasia macrorhizaおよびA. odoraが観察された.デルタの調査地では C. esculenta var. aquatilis (2n=2x=28) が灌漑水路脇や池の周囲に頻繁に群生しており, その葉柄や匍匐枝は野菜やブタの飼料として利用されていた.このvar. aquatilisはデルタの農業生態系で機能していることがわかったが, 近年, 水路や池の舗装や飼料の多様化などにより、その重要度が低下していた.C. esculenta var. esculenta (2n=2x, 3x=28, 42) はデルタでは商品作物として栽培され, 一方, 山地部では自給用に焼畑で栽培されていた.リボゾームDNAのRFLP分析より, デルタ地域あるいは山地部の調査地内ではそれぞれ遺伝的に近縁なvar. esculentaの品種がみられた.しかし, 両地域に分布する近縁な品種はみられなかった.この分布の傾向は, アジアにおけるC. esculentaの複数の伝播経路がこの地域に影響した結果と考えられた.Xanthosoma spp. (2n=26) はすべての調査地に分布し, その利用や栽培に類似性がみとめられた.収集したXanthosoma系統も遺伝的に均一であった.Colocasia gigantea (2n=28) もそれほど頻繁ではないが野菜として広く複数の調査地に分布していた.Alocasia odoya (2n=28) は薬用として用いられ, A. macyoyyhizaは山地部でブタの飼料として頻繁に採集されていた.
著者
林 満 石畑 清武
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.79-83, 1991-06-01
被引用文献数
14

ダイジョ(Water yam, Dioscorea alata L.)のソロヤム品種では, 塊茎の肥大生長が基本栄養生長性よりもむしろ環境的要因によって支配されている可能性が示唆された.本研究は, 塊茎の肥大生長を誘起させる環境的要因を明らかにするために, 日長と温度の影響について検討した.生育初期の幼植物では, 9時間日長で30回以上の短日処理によって塊茎の肥大生長が誘起され, 短日処理の回数が増加するにしたがって塊茎の重量は大となった.しかし, 15時間日長と自然日長は無効であった.生育中期では, 11時間日長で10回の短日処理によって塊茎の肥大生長が誘起され, 生育の進行に伴う加齢効果が認められた.しかし, 12時間日長で30回の処理ではほとんど効果が認められなかった.夜間の低温には, 塊茎の肥大生長を誘起させるような作用は全く認められなかったが, すでに肥大生長を開始していた塊茎に対し低温はその生長を促進した.以上の結果から, 短日はヤムイモの塊茎の肥大生長を支配する主要因であり, この肥大生長を誘起させる要因としての低温の単独効果は認められなかった.
著者
石井 龍一
出版者
Japanese Society for Tropical Agriculture
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.332-338, 2003-12-01 (Released:2010-03-19)
参考文献数
7
著者
倉内 伸幸 古庄 雅彦 寺島 竹彦 谷口 きよ
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.258-263, 1997-12-01
被引用文献数
1

1990年から1992年にチュニジアで収集したオオムギ遺伝資源について, 農業形質に関する一次特性および二次特性調査を行い, チュニジアオオムギの育種素材としての有用性について検討した.また, 収集地域別に形質の地理的傾斜があるかどうかを検討した.一次特性は, 300系統を調査した.供試系統は, すべて並性でかつ皮性であり, 芒が多く, 粒大であった.また, 出穂期, 成熟期, 稈長および穂長にはそれぞれ大きな変異がみられ, 日本品種と比較すると, 出穂, 成熟がやや遅く, 長稈で長穂の傾向が認められた.1000粒重は53.0gであり, 日本品種の35.4gに比べ種子が大きかった.地域別の農業形質の特徴をみると, 北部の系統は長稈で穂が短いのに対し, 南部の系統は短稈で穂の長い傾向が認められた.中部の系統は, 北部と南部の系統の中間を示した.二次特性は, 縞萎縮病抵抗性について, 158系統を検定し, 2系統が抵抗性を示した.縞萎縮病抵抗性を示した系統は北部および中部から収集した系統であった.うどんこ病抵抗性については, 149系統について調査し, 75系統が抵抗性を示した.北部, 中部, 南部から収集した系統から, うどんこ病抵抗性を示す系統が見出された.播性については206系統について調査した.135系統(66%)の系統がII以下の低い秋播性, 57系統(28%)の系統がIII, IVの中程度の秋播性で, 14系統(6%)の系統がVI以上の高い秋播性を示した.高い秋播性を示した系統は, チュニジア西部のアトラス山脈山麓から収集された系統であり, そこでは強い耐寒性と高い秋播性が要求されるためと推定される.以上のように, チュニジアオオムギ在来種から, 多収性および耐病性育種に利用が期待される系統が見出された.
著者
田中 豊三
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.323-327, 1992-12-01
被引用文献数
1
著者
鍵渡 徳次
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.35-39, 1990-03-01

東京都八丈島のパッションフルーツ園で, 果実が腐敗し, 早期に落果する病害が発生した.腐敗果には灰褐色の菌糸を密生するものと, 大形黒色の菌核を形成するものとが見られた.前者からはBotrytis sp.が, 後者からはSclerotinia sp.が分離された.Botrytis sp.の分生子は淡灰色, 単胞, 卵円形, 9-13×7-10μmであり, また多犯性であるので, Botrytis cinereaと同定された.本病菌による果実の腐敗の記録ははじめてである.病名はパッションフルーツ灰色かび病を採用した.Sclerotinia sp.は大形の菌核を形成し, 子のう盤を発生させる.子のう盤は淡褐色で皿状に展開し, 径3.5-6mmである.子のうは無色, 棍棒状, 127-160×7-12μm.子のう胞子は無色, 単胞, 楕円形, 11-15×6-7.5μmである.また多犯性であるのでSclerotinia sclerotiorumと同定された.本病菌による果実の腐敗の記録ははじめてである.病名はパッションフルーツ菌核病を採用した.両病菌の発育適温及びpH価は, 20-25℃, pH5.0-7.0であり, 類似した発育相を示した.
著者
佐藤 達雄 久保 深雪 渡邊 清二
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.77-82, 2003-06-01

キュウリにおいて,サリチル酸含量の分析ならびに全身獲得抵抗性(SAR)関連遺伝子CuPi1の発現解析により,熱ショックがSARを誘導することが示唆された.キュウリ22品種を2001年7月23日から9月14日まで,ガラス室において換気窓を密閉することにより最高45℃,1時間の熱ショックを与えながら栽培レ葉中サリチル酸(SA)濃度をキャピラリー電気泳動装置で測定した.熱ショックによるサリチル酸含量の増加が18品種で認められた.しかしSA含量と,クロロフィル蛍光測定法による高温感受性の間には相関が認められなかった.熱ショックで誘導されたSAがSARのシグナル伝達物質として作用することを証明するため,RT-PCR法により遺伝子CuPi1の発現を解析したところ,CuPi1のmRNAは熱ショック処理の後,発現した.CuPi1はサリチル酸や病害感染によって誘導されるSAR関連遺伝子である.以上のことから,SARは化学的誘導因子や病害感染だけでなく,熱ショックによっても誘導されることが明らかになった.
著者
松島 憲一
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.64-74, 2001-03-01

1998年8月26日〜9月9日に日本財団が派遣した調査団に参団し, 西アフリカの農業・国際協力の現状について調査を行った.この調査の際, コートジボアールの農業・食料事情を知り, 今後の農業技術協力推進および地域農業研究の参考とするため国内3市場において農産物に関する調査を行った.3地域の市場において確認された農作物は49種にのぼり, 果菜類15種, 果実類10種, 茎葉菜類7種, 根菜類5種, イモ類5種, 穀類・豆類5種, 油料・調味料作物4種が確認できた.これらは分類学上26科に属する植物からなり, そのうち7種がナス科, 6種がマメ科, ウリ科, 4種がイネ科, 3種がユリ科に属した.各種内の変異も大きく, トウガラシなど果菜類では様々な品種が見られた.また, 同国の食料供給は危機的な状況に至ってはいないものの, 農村部では親に対する栄養教育が行き届いていないために, デンプン食物偏重が原因と思われる栄養失調児がみられた.今回調査した各市場でみられた多様な農産物の存在はこれら栄養的問題を解決する鍵となると考えられる.
著者
豊原 秀和 吉松 円 出田 まき 室井 明子 妙田 貴生 小塩 海平 菊池 文雄 藤巻 宏
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.188-194, 2002-09-01
被引用文献数
2

ダイジョ (Dioscorea alata L.) は,雌雄異株植物であるが,種子による繁殖は確認されておらず,通常は塊茎による無性増殖が行われている.それにもかかわらず,塊茎や葉の形状あるいは植物体各部の色素の発現などに多様な変異が観察され,染色体数についても3倍体(2n=30)から8倍体(2n=80)までの幅広い変異が報告されている.本研究では,パプアニューギニア(PNG)より導入した地方品種12点とその他の地域から収集し東京農業大学で保存栽培されていたダイジョ品種22点を供試して,葉の形状の種内変異を解析した.分散分析および主成分分析により葉の形状の変異を解析した結果,葉の大きさや形について多様な遺伝的変異があり,一部の塊茎形状と葉形状との間に関連性があることがわかった.さらに,染色体数の調査を行い,4倍体(2n=40)ならびに8倍体(2n=80)の存在を確認し,葉ならびに気孔の大きさと倍数性との関係も一部明らかにすることができた.
著者
豊田 由貴夫
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.27-36, 1997-03-01
被引用文献数
1

パプアニューギニア, セピック地域の農業に関して、過去いくつがの開発案が提示されてきたが, 最近, サゴヤシを生業の中心とする低湿地に対する総合的な農業開発の計画案が提示された.これは, サゴヤシが生育している土地を棚田化(水田化)し, その立体的土地利用をはかる, というものである.このような農業開発を実施する際には多くの課題が指摘できるが, 本論は, そのような課題の中で, 文化的・社会的要因に関わる課題を考察した.1993年8月の約1カ月間, 現地住民に対する聞き込みを中心に調査を行った結果, 以下のような課題があることが明らかになった.(1)「開発」, 「発展」は常に外からやってくると認識する傾向があるために, 長期間にわたって現地住民だけで計画に関わる作業を実行するのは困難であること.(2)農作物は, 単なる作物や食料としてだけではなく, 社会の中で別の性格を持っている場合が多いため, 開発計画に際して計画が与える影響を考慮する必要があること.(3)開発側の人間が地域共同体と接触することにより, その地域共同体の社会関係, 特にリーダーシップの関係に影響を与える可能性がある.このため, 活動の際に交渉相手を選択・決定する際には慎重に対処する必要がある.(4)農耕に関わる作業では, 男女の作業が厳密に区分され, 互いの作業を異性の人物が代行する場合が不可能な場合が多い.(5)土地の登記が書類で明確に示されてなく, また土地の所有の概念・利用方法が近代的な概念・方法と大きく異なっているために, 土地利用形態の変更が困難なこと.(6)現金が貯蓄されない傾向があるために現地住民の資本の蓄積が困難なこと.
著者
下田 博之 パワー A.P.
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.242-250, 1992-09-01
被引用文献数
5

前報に続いて本報では, パプアニューギニア東セピック河下流域に分布するサゴヤシ林でのサゴヤシの繁殖, 並びにサッカー移植後幹立ち期までのロゼット期における生育状態について報告する.野生林の林床では落下した野生種のサゴヤシ種実が発芽して生長するが, 多収種の繁殖はすべて住民が行うサッカー移植による栄養繁殖であった.新たにサッカー移植した幼植物の調査から幹立ちまでの年数に変種間差が認められ, 最短でも4.5〜5年を要した.クランプ内のサッカー・幹立ち樹の樹齢別構成はクランプ間差が大きく, また幹立ち期に達したサッカーの少ないことが知られた.このことはサゴヤシ林内調査でも認められた.サッカーを間引き処理したクランプのその後のサッカー発生経過を調査し, その間引き作業を行う上の留意点を検討した.
著者
宮川 修一 Konchan Somkiat
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.p255-259, 1990-12

東北タイ, ドンデーン村における菜園の重要作目であるトウガラシの生産性を1983年7月から1984年2月まで調査した.対象とした16の菜園での平均収量は生重で3kg/100m^2/月, ないし2kg/100株/月であったが, 菜園間の差異はおおきかった.9,10月の収量が最も高く, 11月以降は更新によって若齢株が多くなるため収量は低下した.7,8月の低収量は大雨による着花不良や田植作業との労力競合が原因と推定された。面積当たり収量は株当たりの収量に強く支配されており, 旺盛な生育が得られるように管理方法を改良してゆくことが重要と考えられる.
著者
Zarza-Silva Hugo A. 丸尾 達 高垣 美智子 北条 雅章 篠原 温
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.45-52, 2005-03-01

実用規模の毛管水耕システム(CHS)を作成し, 熱帯条件下でのサラダナ栽培における適用性を調査することを目的とし, 2001年春, 夏, 秋の計3作栽培を行った.それぞれの実験で, ハウス内気温2水準(25-30℃, 30-35℃)と培養液流速2水準(50, 80ml・min^<-1>・m^<-1>)を設け, それぞれを組み合わせた4水準の処理を行った.どの季節においても, 気温の低い設定の処理区で良い生育を示した.夏の高温処理条件下では, 培養液中の溶存酸素濃度が低くなるため, それが補償できる流速の速い処理区での生育が良かった.植物体の品質, 葉色は温度処理, 流速処理による影響を受けなかったが, 季節の違いによる影響は見られ, 春と秋の栽培では, 葉色, 硝酸濃度が高くなり, 夏の栽培では, 葉色が淡く, また, ビタミンC濃度は高くなった.パラグアイおよびタイにおける, CHS作成にかかる材料費を, 現地の価格で算出したところ, それぞれ栽培面積1000m^2当たり665,950円, 659,100円であった.熱帯諸国で算出される材料費は日本で算出される材料費の3分の1程度であった.本実験より, CHSを用いた高品質サラダナの栽培は, 熱帯の気候条件下でも安定的に行うことができると考えられる.