著者
山口 光國
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.217-221, 2003
参考文献数
11

肩関節不安定症(instability)とは,あくまでも関節運動に際し,不安感,疼痛,脱臼を伴う病的状態と定義されている。肩関節不安定症は関節の解剖学的,生理学的破綻が基本となるが,肩に限らず身体の関節機能の障害や,日常生活動作の不備が強く関与する。よって肩関節不安定症に対し理学療法は,表出される愁訴を全て解剖学的,生理学的破綻と決め付けることなく,あくまでも機能的な問題の関与を疑い,対応を図る必要がある。また,肩関節不安定症に対する手術療法は,構造上の物理的破綻やそれに伴う生理学的な破綻に対するものだけでも,その対処法は多岐に渡り,さらに機能的,個体的な要因を加味された場合の対処法も異なるなど,病態,関わる因子により選択される方法は異なる。よって,術後の理学療法は,医師の指示をもとに対処された術法の目的を熱知した上で,生理学的な回復過程に準じ,施行されなければならない。さらに,肩不安定性への起因となりうる,身体機能ならびに運動についても術前から調査し,術後の機能回復ならびに予防的対応としての理学療法が施行されることが望ましい。
著者
小林 孝至 松嶋 真哉 横山 仁志 武市 梨絵 渡邉 陽介 中田 秀一 中茎 篤 相川 駿 駒瀬 裕子 峯下 昌道
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.166-173, 2020 (Released:2020-04-20)
参考文献数
18

【目的】COPD 急性増悪(以下,AECOPD)患者の栄養状態を調査し,退院時の自立歩行の可否に与える影響を明らかにすることである。【方法】対象は入院前歩行が自立していたAECOPD 患者であり,理学療法を実施した101 例である。栄養状態は低栄養の有無とエネルギー充足率を調査した。自立歩行の可否は歩行FIM で6 以上を可能と判定した。統計解析は自立歩行の可否を目的変数,低栄養の有無とエネルギー充足率を説明変数とした多変量ロジスティック回帰分析を実施した。【結果】自立歩行の可否に対して低栄養の有無(OR 3.9)とエネルギー充足率(OR 0.7)は,有意な因子であった(p<0.05)。【結論】AECOPD 患者における栄養状態は,退院時の自立歩行の可否に影響する可能性が示された。そのため,理学療法介入時には栄養状態の評価が必要と思われ,エネルギー充足率の低い患者へは早期からの栄養補給療法の併用が重要と考えた。
著者
金子 文成 車谷 洋 増田 正 村上 恒二 山根 雅仁
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.115-122, 2005-06-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2

本研究の目的は,一連の投球動作中に変化する筋活動の様相について,先行研究にあるように投球相毎に平均化するのではなく,連続的時系列データとして動的変化を示し,肩関節回旋筋腱板を構成する筋における活動動態の差異について検討することであった。大学生野球部投手1名の投球中(球種は直球)に,肩関節回旋筋腱板を構成する4筋から筋電図を記録した。そのうち棘上筋,小円筋,肩甲下筋にはワイヤ電極を使用した。棘下筋には能動型表面電極を用いた。筋電図は振幅および時間軸共に規格化した(nRMS)。各関節運動の加速度はビデオカメラで記録した画像から算出した。反復した投球間における,nRMSのばらつきである変動係数は,筋によって異なる特徴を示した。筋活動動態の連続時系列的変化として,10球分のnRMSを平均した(nRMSavg)曲線の最大値出現時間は,筋毎に異なっていた。投球において動的機能が重要視される肩関節回旋筋腱板において,nRMSavgが時々刻々と入れ代わる様子が明らかになった。筋間の相関性も筋の組み合わせによって異なり,棘下筋と小円筋が強く相関していた。反復した投球における筋活動動態のばらつき,連続時系列的なnRMSavgの変化,そして筋間の相関性の特徴は,個人内での筋活動動態の特徴を検出するための指標として有効である可能性があると考えた。
著者
宮下 浩二 越田 専太郎 浦辺 幸夫 工樂 義孝 小林 寛和 横江 清司
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C0172, 2008

【目的】投球動作の肩最大外旋位で疼痛を生じる選手が多く、投球障害を発生しやすい肢位である。肩関節外旋運動は、主に肩甲上腕関節外旋運動、肩甲骨後傾運動、胸椎伸展運動により構成されている。しかし、投球動作においてこれらの関節がなす角度を詳細に分析した報告は少ない。本研究では、肩最大外旋位における肩甲上腕関節外旋角度と肩甲骨後傾角度および胸椎伸展角度を明らかにし、さらに肩最大外旋角度と各関節角度との関係を分析することを目的とした。<BR>【方法】対象は男子大学生19名(年齢22.2±1.5歳、野球歴9.8±3.6年)とした。対象にオーバーハンドスローでの全力投球を行わせ、ステップ脚の足部接地時からリリースまでの肩外旋角度を三次元動作解析にて算出した。肩外旋角度は前腕と体幹のなす角度とした。これは肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節、胸椎など肩関節複合体としての外旋角度を示す。肩甲上腕関節外旋角度、肩甲骨後傾角度、胸椎伸展角度を算出し、肩外旋角度が最大値を呈した時(肩最大外旋角度)の各角度をもとめた。さらに、肩最大外旋角度を目的変数、肩甲上腕関節外旋角度、肩甲骨後傾角度、胸椎伸展角度を説明変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。さらに、各角度の相関についてピアソンの相関係数を用いて解析した。危険率5%未満を有意とした。なお、本研究は当大学の倫理審査委員会の承認を得て行った。<BR>【結果】肩最大外旋角度は149.6±9.5°であり、その時の肩甲上腕関節外旋角度は102.7±17.4°、肩甲骨後傾角度は25.1±14.2°、胸椎伸展角度は9.7±6.6°であった。肩最大外旋角度(MER)に対して、肩甲上腕関節外旋角度(G)、肩甲骨後傾角度(S)が関連する因子として選択された。重回帰式はMER=0.30G+0.47S+106.8であった。また肩甲上腕関節外旋角度と肩甲骨後傾角度は有意な負の相関が認められた(r=-0.48)。<BR>【考察】投球動作で肩最大外旋位を呈した際の肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節、胸椎のなす角度を明らかにできた。肩最大外旋角度は過去の報告とほぼ同様に約150°であったが、この位相において肩甲上腕関節外旋角度は約100°にとどまっていた。肩最大外旋角度に影響を及ぼす要因としては肩甲骨後傾角度が最も強く、同時に肩甲上腕関節外旋角度と肩甲骨後傾角度は負の相関があることが示された。これは、肩甲骨後傾運動が減少することで肩甲上腕関節外旋角度が増大することを示しており、投球障害肩の予防的観点からも投球動作における肩甲骨の運動の重要性が確認された。今回は肩最大外旋位における各関節の影響を分析したが、今後は各角度の最大値との関係も分析する必要がある。これにより胸椎伸展運動の重要性も示されると考える。
著者
久保 秀一 畠中 泰彦 松井 知之 長谷 斉 村田 博昭 久保 俊一
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.C0018, 2005

【目的】大腿軟部腫瘍患者の腫瘍摘出術後の歩行能力は、前面であれば大腿四頭筋の有無、後面であれば坐骨神経の温存状態により大きく左右される。歩容では四頭筋部分切除患者は立脚期に困難を示し一見し異常に気づくがハムストリングスのみ切除した患者の場合正常歩行と見分けがつかない。しかし、「歩けるが走れない」と言った訴えを聞く。<BR>そこで、われわれは「走れない」ことに着目し、ハムストリングスを切除した患者の自由歩行,早歩き,ジョグにおいてハムストリングス切除が下肢に与える影響について検討した。<BR>【対象】対象は左半腱様筋,半膜様筋,大腿二頭筋を切除した左大腿部軟部腫瘍の男性1名(51歳、身長168cm、体重61kg)。坐骨神経は温存。術後左膝関節の可動域に制限はなく、ハムストリングスの筋力はMMT4レベルであった。術後1.5ヶ月時の化学療法施行中に測定した。<BR>【方法】両肩峰,大転子,膝関節裂隙,足関節外果,第5中足骨頭に赤外線反射マーカーを貼った被験者に床反力計(kistler社:9281B1)を2枚設置した7mの歩行路を自由歩行、早歩き、ジョグを行わせ、三次元動作解析装置(BTS社:ELITE Plus)にて撮影し、十分な練習後、測定した。<BR>この時の床反力データおよび空間座標データを生体力学常数とともに臨床歩行分析研究会の提唱する数学モデル,力学モデルに代入し下肢関節角度,関節モーメント、関節パワーを計算し床反力データと供に比較検討した。<BR>【結果】健側と患側を比較すると、床反力垂直成分に明らかな差異を認めなかった。関節角度変化は若干の変動を認めるが、肉眼では跛行を感じなかった。遊脚後期の膝関節屈曲モーメント極値(Nm)は歩行-早歩き-ジョグと速度が速まるにつれ,患側:3.7,5.3,9.1、健側:11.5,20.7,27.8と各々増加するが患側のジョグ時は健側自由歩行時よりも少なかった。また、遊脚後期の膝関節パワー極値(Watt)では、患側:-17.2,-24.5,-41.8、健側:-56.2,-115.4,-137.4と関節モーメントと同様に患側のジョグ時は健側の歩行時よりも少ない結果となった。<BR>【考察】患側健側ともに通常歩行よりも早歩き、ジョグへと歩行速度の増加に伴いハムストリングスの活動も大きくなった。また、その歩容は見かけではどちらが患側か判別できない状態であったが、患側ではモーメント、パワーともに著明に少なくハムストリングス切除の影響の反映と考えた。歩行中のハムストリングスの活動は関節モーメントから大よその見当がつくが関節パワーを求めた事により、膝関節屈筋として遠心性収縮による仕事が明確になった。ハムストリングス切除の影響は遊脚後期の下腿の制動すなわちターミナルインパクトの回避が最も困難であり、走行出来ない理由であると考えた。
著者
大矢 暢久 富田 知也 太田 祐敏 川村 博文
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.176-183, 2013
参考文献数
31

【目的】急性期肩関節周囲炎患者の肩関節痛に対する消炎・鎮痛に関わるパルス超音波療法の非温熱効果を検証することである。【方法】肩関節周囲炎と診断された者のうち急性期の者12名を対象とし,コンロトール(C)群6名と超音波照射(US)群6名の2群に無作為に割つけて実施した。パルス超音波療法は,周波数1MHz,出力0.5W/cm^2,照射時間率20%,照射時間10分間の照射条件で3回/週,2週間実施した。効果判定は,C群,US群とも治療前後に,超音波検査,疼痛(VAS),関節可動域,主観的健康感(SF-36)などの評価を行い,有効性を検証した。【結果】US群はC群に比べ超音波検査での棘上筋腱厚,夜間時痛,関節可動域(屈曲,外旋)で有意差が認められた。【結論】肩関節周囲炎の急性期患者に対して,本研究での照射条件のパルス超音波療法による非温熱効果は,有効であることが示唆された。
著者
髙橋 真 岩本 浩二 門間 正彦 水上 昌文
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
2020

<p>【目的】大学野球選手における投球側肩関節の外旋角度の増大に伴う上腕骨頭-肩甲骨関節窩後縁の骨間距離(以下,PGHD)を明らかにすることである。【方法】対象は大学野球選手11 名の投球側肩関節11肢とした。MRI 撮像時の肩関節肢位は肩90°外転位から90°,100°,110°外旋位の3 肢位とし,各肢位のPGHD を計測した。【結果】PGHD は肩関節90°外旋位よりも110°で有意に低値だった。【結論】肩関節外旋角度が増大すると,上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁が接近した。</p>
著者
竹井 仁
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.8, pp.378-380, 2007-12-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
4
著者
内田 智也 古川 裕之 松本 晋太朗 小松 稔 佃 美智留 土定 寛幸 大久保 吏司 藤田 健司
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
2020

<p>【目的】投球動作におけるステップ脚膝関節動作と肘外反トルクとの関連から肘関節負荷を増大させる動作を検討する。【方法】中学生投手20 名のFoot Contact(以下,FC)以降のステップ膝動作を膝関節位置の変位が生じない固定群と投球方向へ変位する前方移動群の二群に群分けした。FC・肩関節最大外旋位(以下,MER)・ボールリリースのステップ膝屈曲角度,投球中の肘外反トルク(身長・体重での補正値)および投球効率(肘外反トルク/ 球速)を群間比較した。【結果】固定群は14 名,前方移動群は6 名であり,前方移動群のステップ膝屈曲角度はFC からMER にかけて増大することが示された。また,肘外反トルクおよび投球効率は固定群が前方移動群より有意に低値を示した。【結論】前方移動群はFC 以降に膝の縦割れが生じていることで,肘関節に過度な負荷が加わっていることから,ステップ膝動作の評価は野球肘の理学療法において重要であることが示唆された。</p>
著者
内田 智也 藤田 健司 大久保 吏司 古川 裕之 松本 晋太朗 小松 稔 野田 優希 石田 美弥 佃 美智留 土定 寛幸
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.75-81, 2018

<p>【目的】投球中の肩関節ストレスの軽減には,良好な下肢関節動作が重要となる。そこで,本研究はFoot Contact(以下,FC)以降のステップ脚膝・股関節の力学的仕事量と肩関節トルクの関係について検討した。【方法】中学生の投手31 名の投球動作解析で求められた肩関節内旋トルクについて,その平均から1/2SD を超えて低い群(以下,LG)10 名と1/2 を超えて高い群(HG)10 名の2 群に分け,ステップ脚膝・股関節の力学的仕事量(正・負仕事)を群間比較した。【結果】FC から肩関節最大外旋位(MER)におけるLG の膝関節屈曲-伸展の負仕事量が有意に低値を示した。【結論】ステップ脚膝関節伸展筋力は良好な投球動作獲得に寄与し,FC 以降の膝関節の固定および下肢関節からの力学的エネルギーを向上させることは肩関節ストレスを軽減させると考えられた。</p>
著者
太田 経介 萬井 大規 坂野 康介 中城 雄一 森若 文雄 宮田 一弘
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11684, (Released:2020-03-31)
参考文献数
45

【目的】脊髄小脳変性症の歩行重症度の評価に,Mini-Balance Evaluation SystemTest(以下,Mini-BESTest)とBerg Balance Scale(以下,BBS)が適応可能か検討すること,歩行自立度の判別精度を検討することとした。【方法】脊髄小脳変性症患者30 名を対象に,重症度分類を用いて3 群に分類した。Mini-BESTest とBBS の得点分布,および群間比較を行った。FIM 点数よりROC 曲線を用い歩行自立度の判別精度の検討とカットオフ値を算出した。【結果】Mini-BESTest とBBS は歩行重症化にしたがい低値を示した。Mini-BESTest とBBS はArea under the curve(以下,AUC),感度,特異度が高値であった。BBS は天井効果を認めた。【結論】Mini-BESTest は高いAUC,感度,特異度を有し,歩行自立度の判別精度に有用性の高い指標であることが示唆される。
著者
三鴨 可奈子 片桐 浩史 汐田 まどか
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11681, (Released:2020-04-01)
参考文献数
20

【目的】症候性側弯を呈した症例に対し装具療法とともに運動療法とシーティングを実施し,脊柱アライメントと姿勢の改善がみられたので報告する。【対象と方法】対象は症候性側弯症をもつ2 例で,症例1はCobb角36°,骨盤傾斜Pelvic Obliquity(以下,PO)13°,体幹偏移Trunk Shift(以下,TS)10 mm,症例2 はCobb 角51°,PO25°,TS139 mm であった。どちらも動的脊柱装具Dynamic Spinal Brace(以下,DSB)の装着を開始した。圧力分布測定器で座面圧力の左右対称性を確認し座位練習など運動療法およびシーティングを実施した。【結果】症例1 は Cobb 角18°,PO5°,TS2 mm,症例2 はCobb 角33°,PO2°,TS39 mm と改善した。【結論】装具療法に併せ座面圧力を確認しながら座位荷重訓練やシーティングを行ったことが改善につながったと考える。
著者
高取 克彦 岡田 洋平 梛野 浩司 徳久 謙太郎 生野 公貴 奥田 紗代子 鶴田 佳世 庄本 康治 嶋田 智明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.52-58, 2007-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
33
被引用文献数
4

リハビリテーション専門病棟入院中の慢性期脳卒中片麻痺患者32例を対象に,Functional reach test(FRT)を応用した非麻痺側上肢の最大リーチ見積もり距離(Perceived reachability: PR)を評価し,実際のリーチ距離との誤差(以下,誤差距離)と入院期間中に生じた転倒回数との関係を調査した。PRはリーチ目標物が遠位から近位に接近する条件で評価し,誤差距離は実測値との差を絶対値で記録した。また両者の関連性を,他の要因を含めて検討するために,調査項目にはこの他,FIM移動項目点数,Functional reach距離(FR距離),下肢Brunnstrom's recovery stage,下肢感覚障害の程度,転倒恐怖心を含めた。解析は誤差距離と転倒回数との相関と,転倒の有無で分類した2群間の誤差距離とFR距離それぞれの比較,および上記評価項目の全てを含めた転倒関連因子の抽出とした。誤差距離と過去の転倒回数との関係にはピアソンの積率相関係数を用い,転倒関連因子の抽出には目的変数を転倒の有無に2項化したステップワイズ法でのロジスティック回帰分析を用いた。結果として,誤差距離と転倒回数には有意な相関が認められた。また転倒の有無を基準に2群化した場合,誤差距離は転倒群が有意に大きかった(p<0.01)。ロジスティック回帰分析の結果では,誤差距離,FIM移動項目点数,性別が転倒関連因子として採択された。回帰式を用いた判別分析による予測判別率は85%であり,転倒群の92%は6cm以上の誤差距離を有していた。以上のことから,片麻疹患者に対するFRTを応用したPR見積もり誤差の評価は,転倒ハイリスク患者を判別する簡便な評価法の1つとなる事が示唆された。
著者
岡田 洋平 高取 克彦 梛野 浩司 徳久 謙太郎 生野 公貴 鶴田 佳世 庄本 康治
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.279-284, 2008-10-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
3

本研究は,地域高齢者163名(平均年齢75.9 ± 5.2歳,男性55名女性108名)を対象に,自己の身体能力の認識誤差の指標としてリーチ距離の見積り誤差(Error in estimated reach Distance: ED),および転倒恐怖心を評価し,転倒との関係について調査した。評価項目は,過去1年間の転倒歴,Functional Reach Test(FRT),ED,ED絶対値(|ED|),転倒恐怖心(Falls Efficacy Scale: FES)とした。データ解析は,「転倒無し」「1回転倒」「複数回転倒」の3群における各調査項目の比較,「複数回転倒の有無」に関係する調査項目の抽出を行った。その結果,EDは,複数回転倒群は負の値を示し,転倒無し群と比較して有意に小さく,自己のリーチ能力を過大評価する傾向にあった。複数回転倒の有無を目的変数,FRT,ED,|ED|,FESを説明変数として,年齢と性別を調整して多重ロジスティック回帰分析を行った結果,複数回転倒の予測因子としてEDとFESが選択された。以上の結果から,リーチ距離の見積り誤差が地域高齢者の複数回転倒に関連している可能性が示唆された。
著者
加藤 倫卓 森 雄司 光地 海人 森本 大輔 角谷 星那 鬼頭 和也 濱 貴之 小鹿野 道雄 田邊 潤
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.175-182, 2018 (Released:2018-06-20)
参考文献数
32

【目的】植込み型除細動器(以下,ICD)あるいは両心室ペーシング機能つき植込み型除細動器(以下,CRT-D)を装着した慢性心不全(以下,CHF)患者に対するストレッチング体操が,血管内皮機能と運動耐容能に与える影響を検討した。【方法】対象をICD あるいはCRT-D が植え込まれた運動習慣のないCHF 患者32 名(男性27 例,平均年齢69 ± 9 歳)とし,ストレッチング体操を実施するストレッチング群と対照群に無作為に分類した。4 週間の介入前後の反応性充血指数(以下,RHI)と6 分間歩行距離(以下,6MWD)を評価した。【結果】ストレッチング群のRHI と6MWD は,介入前と比較して介入後に有意に増加した(P <0.01,P <0.01)。介入前後のRHI と6MWD の変化量は,有意に正相関(r =0.53,P < 0.05)を示した。【結論】ICD あるいはCRT-D 患者に対するストレッチング体操の効果として,血管内皮機能障害と運動耐容能の改善が考えられた。
著者
市橋 則明 伊藤 浩充 吉田 正樹 篠原 英記 武富 由雄
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.388-392, 1992-07-10 (Released:2018-10-25)

健常女性30名を対象に大腿四頭筋とハムストリングスの求心性収縮と遠心性収縮による筋力と角速度の変化の関係を検討した。その結果,求心性収縮においては,大腿四頭筋とハムストリングス共に角速度が増加するに従い有意にピークトルクは低下した。遠心性収縮においては,大腿四頭筋のピークトルクは角速度の変化の影響を受けなかったが,ハムストリングスのピークトルクは角速度が増加するとともに有意に増加した。また,H/Q比は求心性収縮においては,角速度が増加するに従い有意に大きくなったが,遠心性収縮においては,有意な変化を示さなかった。E/C比は角速度が増加するに従い両筋共に有意に大きくなった。