著者
磯島 愿三 鈴木 隆男 石神 寛通
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.805-813, 1991-12-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

実験Iは信号音が帯域雑音で, 遮蔽音が純音の場合である。 そのconventional PTCは信号音のレベルの上昇に従い, 高域勾配は急峻となり, 低域勾配は浅くなる。 この勾配の変化は信号音の持続時間には依存しない。 PTCの勾配は一次ニューロンのFTCの勾配より急峻である。 これは結合音, ことにoff-frequency listening効果の大きさに依存する。 PTCの帯域幅は信号音のレベルにも持続時間にも依存しないが, 聴覚系のフィルタの等価方形帯域幅より狭い。 PTCの先端部での遮蔽閾値は信号音レベルが10dB, 20dBSLでは, 信号音の時間積分が見られるが, 30dBSLでは時間積分はみられない。 これはPTCが臨界帯域と強い関連を持つことを示す。 実験IIは信号音が純音で, 遮蔽音が帯域雑音の場合である。 低域, 高域勾配は実験Iの場合よりも急峻となる。 PTCの帯域幅は実験Iの場合と同じか広くなる。 これは信号音レベルが10dB, 20dBSLでは, 先端部の遮蔽閾値の平坦化が持続時間が長くなるほど広くなるためと, 遮蔽音の帯域幅が持続時間20msの信号音帯域幅の約2倍であるためである。 信号音レベルが30dBSLでは, 持続時間に関係なく平坦化は見られない。 実験IIの結果は, 線形興奮パターンモデルからの予測と一致する。 PTCの先端部遮藪閾値は実験Iの場合と同様である。 conventional PTCは心理的周波数選択性を表わし, その3dB帯域幅は臨界帯域に対応するが, これらは信号音あるいは遮蔽音に用いた帯域雑音の帯域幅に強く依存する。
著者
古木 省吾 佐野 肇 栗岡 隆臣 井上 理絵 梅原 幸恵 原 由紀 鈴木 恵子 山下 拓
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.256-262, 2020-08-30 (Released:2020-09-09)
参考文献数
15

要旨: 補聴器増幅特性の決定は補聴器フィッティングの中で最も重要なプロセスである。 NAL-NL 法や DSL 法などの処方式を選択しソフトウェア上で算出した設定値は平均的な外耳道, 鼓膜の特性を基に計算されたものであり各耳の個体差は考慮されていない。そこで我々は, 純音聴力検査の結果をフィッティングソフトに入力し選択した処方式から算出された設定値と, 実耳測定を用いてターゲット値に近似するように調整した後の設定値との差を比較し, フィッティングソフトにより算出される設定値の妥当性を評価した。結果, 全周波数の修正が±4dB以内に止まった割合は NAL-NL2では10% (2/20耳), DSLv5では5% (1/20耳) とかなり低値であった。適切なフィッティングには実耳測定が重要であることが再認識された。しかしながら, 実耳測定を行っている施設はおそらく限定的である。どのような方法で実耳測定の代用方法を構築できるかは今後の課題である。
著者
亀井 昌代 佐藤 宏昭 上澤 梨紗 米本 清 小田島 葉子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.308-314, 2021-08-30 (Released:2021-09-22)
参考文献数
14

要旨: 補聴器が音声を実質的にどれだけ増幅しているか測定する方法として2015年に JIS より「音声に近い試験信号による補聴器の信号処理特性の測定方法」が発行された。我々は, 4機種の補聴器に国際音声試験信号 (以下 ISTS) を提示したときの長時間平均音声スペクトル (以下 LTASS) やパーセンタイル音圧レベルを測定算出し, 種々の機能を on や off の条件で比較検討した。また, 難聴症例50例を対象として装用している補聴器の LTASS やパーセンタイル音圧レベルを測定しその結果と, 補聴器適合検査結果と比較検討した。一般的に補聴器の特性は機能を on と off の条件で同じであることが望ましいが, 本研究の結果では補聴器メーカによっては差がみられることがわかった。また難聴症例の中には, 補聴器適合検査結果と ISTS の測定結果との間に乖離のある症例もみられた。しかし, この測定方法 (分析方法) は補聴器を装用している条件で分析でき, その特性に会話音域が十分含まれているかの判断材料となると考えられた。
著者
大山 健二 和田 仁 高坂 知節
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.46-55, 1992-02-29 (Released:2010-04-30)
参考文献数
16
被引用文献数
2

Distortion product otoacoustic emissions (DPOAE) の計測による蝸牛機能の評価の臨床的な有用性について検討を行った。 正常の聴力を有し中耳機能に問題がないと考えられた例では, f2/f1=1.2とした場合, 10kHzから500Hzまでのf2に対して2f1-f2の周波数において雑音レベル上10-35dBの安定したDPOAEが検出された。 感音性難聴耳では, その聴力に応じてDPOAEレベルの正常値からの偏倚が認められた。 DPOAEは誘発耳音響放射と比較すると, 反応の蝸牛内の場所への特異性がはるかに高いと考えられ, その測定値をDP audiogramとして記録すると聴力図と極めて良く一致するものが得られた。 いくつかの問題もあるが, 本法が今後外有毛細胞機能低下の蝸牛内分布に関する客観的な情報を得るための臨床的検査法として, 盛んに利用されていくことが予想される。
著者
鈴木 恵子 岡本 牧人 鈴木 牧彦 佐野 肇 原 由紀 井上 理絵 大沼 幸恵 上條 貴裕 猪 健志
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
Audiology Japan (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.588-595, 2009-12-28
参考文献数
10
被引用文献数
2 4

『きこえについての質問紙2002』のうち “聞こえにくさ” に関わる10項目を, 補聴器適合のための主観評価法として応用することを目指し, 補聴器装用者232例 (軽~高度難聴), および補聴器適合を行った軽中等度難聴82例 (補聴器装用前・装用後ともに資料あり) の回答を解析した。解析結果をもとに, 軽中等度, 高度の群別に得た各項目の回答スコアの中央値, および装用前からの1以上のスコア軽減を評価基準とする補聴器適合のための評価表を試作した。中央値以下のスコアを得た項目数が, 補聴器に対する全体としての満足度, および装用時の語音明瞭度と有意な正の相関を示し, スコアの中央値を評価基準とすることの妥当性が示唆された。以上から, “聞こえにくさ” 10項目と評価表を, 適合評価のために応用できると結論した。
著者
広田 栄子 小寺 一興 工藤 多賀
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.755-762, 1988
被引用文献数
4

The purpose of this study was to provide the methodology how to use speech discrimination test (57-words list by Japan Audiological Society), and its usefulness for the fitting of hearing aids was evaluated. Speech discrimination score of 163 sensorineural hearing-impaired patients with/without hearing aids were mesured by means of speaker methods, and the results were analysed. The results were 1) When speech discrimination score with hearing aids is 10% lower than the score obtained without hearing aids, it is considered that the patient requires refitting of the hearing aids. 2) The improvement of consonants by hearing aids was varified according to the degree of discrimination score without hearing aid in the hearing-impaired. It is possible to predict that the consonant and vowel can be improved by fitting hearing aids after the speech discrimination score of respective subjects is evaluated. 3) Credibility of speech discrimination score without hearing aids increases if this is measured again and compaired with discrimination score with hearing aids obtained 2 months after the initial discrimination score of tained without hearing aids.<br>From this study, it was found that upon comparative measurement of speech discrimination score with/without hearing aids of individual cases, the use of speech discrimination test is usefull for considering the adaptability of hearing aids.
著者
福田 正弘 市川 銀一郎 原田 克己 芳川 洋
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.654-658, 1983 (Released:2010-04-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

The influence of the sleep stage upon the morphology and the response threshold of the acoustically evoked 40Hz ERP (Event Related Potential) was studied. The results were as follows:(1) The amplitude of the 40Hz ERP was most prominent when the subjects were awake, and during their sleep state, the amplitude of the response dicreased as they fall into the deep stage.(2) The response threshold of the 40Hz ERP in the awake state was 10±5.5dB and in the sleep stage, 24±4.6dB. These facts suggested that the threshold discrepancy was approximately 13dB and it seemed quite stable among subjects.(3) These data drow our attention to apply the 40Hz ERP for screening test of hearing evaluation.
著者
伊藤 壽一
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.175-180, 2014

要旨: 1985年に我が国で最初に人工内耳手術が行われてから30年近くになり, すでに7000人以上の方が手術を受けている。人工内耳は高度難聴に悩む方への福音となっている。各人工内耳機器の改良, 適応の拡大などによって, さらに今後手術を受ける方が増加していくものと考えられる。一方, 現在の人工内耳の適応が適切か, 手術後のリハビリテーション施設数, 言語聴覚士の数の問題, 聴覚以外のコミュニケーション手段との関係, 人工内耳機器の取り換え (アップグレード), 人工内耳に関わる費用の問題など検討すべき課題も多い。本稿では表1の各項目に関し, 人工内耳医療の現状とその問題点を, 医学のみでなく, 社会医学的な問題として解説する。
著者
岡本 康秀 神崎 晶 貫野 彩子 中市 健志 森本 隆司 原田 耕太 久保田 江里 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.694-702, 2014-12-28 (Released:2015-04-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1 2

要旨: 音声の情報として, 周波数情報に加えて時間情報は極めて重要な因子である。 今回時間分解能の評価として Gap detection threshold (GDT) と temporal modulation transfer functions (TMTF) を用いた。 対象を老人性難聴者とし, 年齢, 語音明瞭度を中心に時間分解能の検討を行った。 その結果, 加齢により GDT と TMTF の低下傾向を認めた。 また, 語音明瞭度に影響する因子として, TMTF における peak sensitivity (PS) が強い相関を認めた。 このことは音声知覚において, PS のパラメータであらわされる時間的な音圧の変化の検知能力が語音聴取能力に強く影響を及ぼしていることが示唆された。 今後は時間分解能の臨床応用に加えて, 時間情報をもとにした強調処理などの補聴処理技術が開発されることが望まれる。
著者
岡本 牧人 設楽 哲也 籾山 安弘 平山 方俊 石井 豊太
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.81-86, 1989-02-28 (Released:2010-04-30)
参考文献数
11
被引用文献数
6 5

JIS改訂後の人間ドック受診者の聴力を年齢別に検討した。男女とも平均値, モード値, 中央値のいずれも年齢とともに聴力は悪化した。 この傾向は高音域に著しい。 会話領域の聴力は平均値, モード値ともに高齢になってもよく保たれており, 90%値でみても平均40dBであった。年齢を代表する値として平均値が最もポピュラーであるが, 正常範囲の大まかな目安としては90%値の方が有用と思われた。男女差は4000Hzで男性の方が悪く, 250Hzで女性の方が悪かった。旧JISと新JISとの差は換算値の約70%であった。
著者
草刈 潤
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.322-338, 2006-08-31 (Released:2010-08-05)
参考文献数
140
被引用文献数
2 3

聴性脳幹反応 (ABR) は蝸牛から下丘に至る聴覚路で誘発された反応で, 振幅は小さいが再現性が良好で睡眠の深度や意識レベルの影響なども認められないことから臨床検査として広く用いられている。本稿ではABRの測定法, 発生機序, 臨床応用などについて概説した。その要旨は次の如くである。(1) ABR各波の発生部位に関しては一部意見の不一致がある, (2) 有用な他覚的聴力検査法であるが, クリック誘発の反応は主として2~4kHzの聴力のみを反映している, (3) トーン・ピップによる誘発反応の有用性に関しては賛否両論がある, (4) 聴神経腫瘍が内耳道内に限局している場合には偽陰性もかなりあるが, それよりも大きな腫瘍では感受性は非常に高い, (5) 本態性後迷路障害, 多発性硬化症, 脳幹循環障害や橋髄内腫瘍, 意識障害, 脳死などの診断・評価や術中モニターとして極めて有用である。
著者
河野 淳 加藤 朗夫 田中 豊 小泉 理華子 舩坂 宗太郎 間 三千夫
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.51-56, 1994-02-28 (Released:2010-04-30)
参考文献数
10
被引用文献数
1

Full dynamic range compression (FDRC) 補聴器“ED2”は会話音声の音圧レベルにおいて等しく圧縮がかかる。 この論文では, 提示音圧レベルを変え“ED2”の圧縮比と語音聴取能 (単語了解度) の関係について検討した。 対象は11名20耳の軽度-中等度難聴者。 圧縮比 (1:1, 1.5:1, 3:1), 音声の提示音圧 (50, 65, 80dBA), 提示音声には各条件25個の単語を使用した。 単語了解度の平均は, 50dBAの1:1, 1.5:1, 3:1それぞれで43.1, 77.6, 84.3%, 65dBAではそれぞれ78.8, 90.8, 93.6%, 80dBAではそれぞれ89.2, 93.0, 90.1%であった。 提示音圧50, 65dBAの圧縮比1:1と1.5:1の間にそれぞれT検定にて危険率0.01%, 1.55%の有意差がみられた。 提示音圧が低い場合, 圧縮比を増し, 鼓膜面音圧を大きくすることにより有意に単語了解度が向上し, 補聴器“ED2”におけるFDRCの有効性が示唆された。
著者
杉内 智子
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.193-199, 2008
被引用文献数
1

補聴効果の評価には, 補聴器使用時の可聴閾値検査, 語音弁別検査, 質問紙などがあり, これらを総合的に検討して補聴器の適合を判定することが必要である。しかし現実には補聴器の選択や調整は聴覚障害者本人の判断に頼りがちで, 補聴効果を適確に評価できる検査法の確立と適合判定の基準化が望まれている。<br>当施設の補聴器外来では複数の検査法を組み合わせて補聴器の効果測定を行っている。これらの検査は補聴器の適合確認だけではなく, 検査結果と難聴者の訴えを照合することによって調整ポイントが判明することもあり, 極めて有用であった。この当外来の現状を報告するとともに, 今後の課題について概観した。
著者
仲野 敦子 仲野 公一 沼田 勉 今野 昭義
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.584-591, 2001-12-28 (Released:2010-04-30)
参考文献数
14

1998年1月から2000年3月までに聴神経腫瘍に対してガンマナイフ治療を施行し, 3ヵ月以上経過観察できた聴神経腫瘍28例を対象として, 治療後の聴力の変化を検討した。 新鮮例13例中4例, 術後例15例中13例が治療前に聾であり, いずれも治療後に聴力の回復は認めなかった。 聴力残存11例のうち, 聴力の改善した例は2例あり, 2例とも6ヵ月までの早期に改善を認めていた。 聴力悪化例は3例あり, 1例は治療6ヵ月後までに急激に聴力が悪化し聾となり, その後改善が認められず聾のままであった。 残り2例は治療後より徐々に悪化していた。 現在まで聾となった症例は1例のみであり, 聴力温存率は90.9%であったが, 治療前にGardner & Robertsonの分類でclass 1または2であった5症例のうち, 治療後もclass 1または2であったものは3症例 (60%) であった。 聴力変化と, 腫瘍体積の変化には一定の傾向は認められなかった。