著者
松岡 由幸 谷郷 元昭 寺内 文雄 久保 光徳 青木 弘行
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.57-66, 1997
参考文献数
8

近年, 製品に対するニーズが多様化する傾向にあり, 製品開発においてユーザーの嗜好性の違いを考慮した設計方法の構築が望まれている。そこで, 嗜好性の違いを考慮する方法として, ロバスト設計の方法に注目した。ロバスト設計とは, 製品における機能のばらつきに対処する方法である。本研究では, この方法を基に, 機能のばらつきを人の嗜好性の違いに置き換えることで, 嗜好性の違いを考慮する設計方法の構築を図った。具体的には, 自動車用シートのギャザーパターンをケーススタディーとして, シート設計におけるいせ込み量と引張力を制御因子, ギャザーパターンの外観に対する嗜好性の違いを誤差因子とし, ロバスト設計の手順に従うことで設計方法の構築を試みた。また, 従来の設計方法と比較することにより, 本方法の有効性を検討した。その結果, 今回の方法が製品設計において嗜好性の違いを考慮する上で有効であることを示した。
著者
樋口 孝之 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.1-10, 2004-01-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
78
被引用文献数
1

「意匠」の語としての由来は、3世紀後半に、文章の構成の進めかたを説いた陸機『文賦』という漢籍にあり、8世紀に、杜甫が詩のなかで画の構想を苦心して構想する描写に用いた用例が広<知られる。それらの解釈は、作文や絵画の制作における「構想」「旨趣」として理解される。日本では、漢籍からの解釈が学ばれる一方で、字義の訓から、「こころだくみ」「こころのたくみ」としての解釈がなされる。このときの「たくみ」は、「匠」の字義からではなく、ヤマトコトバの語義で理解されたものとみられる。明治初期に、作文や絵画の制作に関する表現以外に、普遍的な思考・思想の上での「考案」や「工夫」といった意味で用いられたことが確認された。「意匠」は、明治の初期には多用されることばではなかったが、明治中頃になって、一般的に用いられるようになっている。Designの対訳語として用いられる以前に、日本語語彙のなかで使用された漢語としての語義の構造があきらかになった。
著者
趙 英玉 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.35-44, 2000
参考文献数
44

満州族の支配下におかれた清時代には、漢民族の被服文化に大きな変容が生じた。本研究では、清時代に書かれた小説『紅楼夢』にみられる被服の記述を抽出し、清代民族文化の出会いによる新しい文化創生の物語を、被服形態と着衣観念の側面から考察した。1)被服形態における特徴 : 外出服には満州族の被服がそのまま導入されているのに対し、在宅服には満州族の被服をそのまま導入する場合と、丈が短い上衣やほっそりとした仕立ての上衣など満州族の被服特質の一部を取り入れた新しい被服が着装される場合とがある。2)着衣観念における特徴 : 漢民族の古代思想は、陰陽観念をその基本に据え、被服においても陰陽の両面から解釈された。たとえば、上衣は「〓」より高貴な存在とみなされ、貴族は「〓」を露出せず、下着としてのみ着用した。しかし、『紅楼夢』には、「〓」を表に着用する場面が数ヶ所に現われる。このことは、清代中期における漢民族の衣生活にあっては、陰陽の観念に基づいた儒教観念の影響が薄らぎ、新しい被服文化が創生されつつあることを意味している。
著者
川野 江里子 野原 佳代子 ノートン マイケル 那須 聖
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.3_31-3_40, 2020-01-31 (Released:2020-02-25)
参考文献数
34

本研究は理工系大生と美大生の異分野間で協働するイノベーション・ワークショップを対象とし,ワークショップの空間を,参加者が実際にどのように捉え使いこなしているのか,その実態を明らかにすることを目的としたものである。会場のしつらえとアンケートから得られた参加者の印象・評価との関係を考察することでワークショップの物理的環境と議論の進んだ場所についての仮説を構築し,その上で,行動・会話観察をもとに会場における参加者の動きとコミュニケーション出現及び議論の内容との関係を考察した。議論時に思考の外在化を促す仕掛けとして準備したホワイトボード等の活用は,議論の活性化につながるコミュニケーション出現の起点となっており,議論中に思考が拡がるにつれ,使用する空間が面的に広がり,壁や窓,柱などの広い空間を利用しているケースが見られた。また,議論中の場所移動の様子からは,全てのケースに共通していることは見られなかったものの,一部のケースで,ワークショップ空間や空間移動を思考のためのツールやコミュニケーションのきっかけとしている事が確認された。
著者
神野 由紀
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.65-74, 1998-05-31
参考文献数
60

近代における「子供の発見」が市場としての子供の存在をも見出し, 子供のためのデザインが生み出されていく。本研究は近代日本でのその歴史を明らかにするものであるが, 本稿では特に子供部屋の出現と受容の変遷に焦点をあて考察した。欧米で子供部屋が急速に普及するのは19世紀以降で, 子供という存在の発見と尊重, さらに夫婦と子供を主体とする新しい家族像の誕生などが直接的な影響を及ぼしていた。日本では, 明治期の児童教育運動で家庭教育の重要性が唱えられる中, 盛んに紹介され始めるが, その内容は児童博覧会や家庭雑誌などを通じて人々に提供された。さらに大正時代中頃からは一連の生活改善運動や童心主義児童文学の影響を受け, 子供部屋への関心は一層強まる。こうした動向の下で「子供部屋」は百貨店など企業により商品化されていくが, 実際の子供部屋普及率の低さとは無関係に, 強い関心を持たれた近代日本の子供部屋には, 商品としての西洋的=近代的イメージが付されていたといえ, 人々の消費の欲望の対象になっていたことが明らかになった。
著者
小林 茂雄 中嶋 聡 小林 美紀
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.2_103-2_110, 2014-09-30 (Released:2014-10-25)
参考文献数
24

本研究は、視覚を完全に遮断した空間で協同造形作業を行う際、どのような対人協力行動やコミュニケーション効果が得られるかを実験的に検討した。幼稚園児から大学生までの被験者実験で得られた主な結果を以下にまとめる。 1)暗闇では明所の作業に比べ、声が大きく、発話量が増える傾向にあった。暗闇では初対面同士でも発話が増えることと、小学生以下の低年代の方が声が大きく発話が増える傾向にあった。 2)暗闇では明所に比べ、他者との協同作業が顕著に観察された。協同作業が、低年代では身体接触によって、高校生以上の高年代では言語によるコミュニケーションによって、より活性化されていた。 3)暗闇での協同作業は困難であったと被験者に評価されたものの、視覚が働かないことの非日常性による楽しさや、他者と躊躇なく関われるなどの対人行動に対する障壁の低さが言及された。
著者
落合 太郎 大嶺 茉未
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2_71-2_80, 2016-07-31 (Released:2016-11-15)
参考文献数
11

直接情緒に働きかける音楽は,人の時間経過の感覚に影響を及ぼすと考えられ,モーツアルトのK.265/K.300eキラキラ星変奏曲が同じメロディで12の異なる様式に演奏されている点に注目して感覚時間比の測定を行った。予想と異なり,静かで緩やかな曲が時間の経過が短くむしろダイナミックでアップテンポの曲の方が長く感じるという結果であった。この実験過程で曲ごとに異なる色彩イメージを連想するという副次的結果を得たため「和音」に着目し,派生する色彩感覚を追加実験によって検証した。追加実験ではC(ド)のmajor,minor,sus4,diminishを代表和音としてデザイン学科学生を対象に聞かせた。色彩トーンや色相の連想イメージを聞くと一定の傾向が見られ,先行研究で報告された色聴保持者と共通する結果が得られた。和音は色彩イメージを誘発し,さらに当該色彩を介して環境デザインで指定された機能イメージと連動させることが理論的に可能となるため,和音が「言語」に替わるサインとして空間に機能するということが示唆された。
著者
石村 真一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.47-56, 1997-01-31 (Released:2017-07-25)
参考文献数
5

本論は日本の桶・樽の造形文化に関する研究の第2報として, 鎌倉後期の絵画資料に描かれた中国風の桶を検証し, 我が国の桶文化が受けた中国大陸の影響を探ることを目的とするものである。検証の対象は『東征伝絵巻』, 『弘法大師伝絵巻』, 『大江山絵詞』という3種類の絵巻に限定し, 絵巻に描かれた桶をまず摘出した。続いて, 個々の桶を形態, 構造, 使用方法という要素から分類し, 中国の絵画資料, 民俗資料と比較検討し, 次のような事実を明らかにした。『東征伝絵巻』に関しては, 中国の桶文化を広く学んで描かれている。『弘法大師伝絵巻』に関しては, 特に運搬用桶の形態と機能について中国の桶文化を参考にしている。『大江山絵詞』に関しては, 部分的に中国の桶文化を取り入れて描いている。
著者
青木 弘行 久保 光徳 鈴木 邁 稲村 栄一郎
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1990, no.82, pp.65-72, 1990-11-30 (Released:2017-07-25)

電子レンジ加熱下における食品の温度分布を予測する昇温理論を適用して,均一加熱を目的とした容器形状の検討を行った。設計の対象としては一般的な角型容器を取り上げ,コーナー曲率半径・容器の深さ・半減深度をパラメータとして検討を行った。形状の決定は,容器形状をマイクロ波の入射数によって規定される領域に分割し,各領域における比電力を算出し,比電力の最大値と最小値の比をもとにした均一分布度を定義することにより実施した。・その結果,コーナー曲率半径の増大および容器の深さの減少にともなって,加熱むらが抑制される傾向にあることが明らかとなり,これらの結果をもとにして最適容器形状の提案を行った。また,本検討で実施した一連の手順を整理,体系化することにより,均一加熱を目的とした電子レンジ用容器の形状設計指針を作成した。
著者
山田 浩子 原田 利宣 吉本 富士市
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.1-8, 2003-09-30
被引用文献数
1

今日,ゲームやアニメ作品等に登場する2次元(2D)キャラクターが3次元(3D)CG化や立体造形(以下、フィギア)される傾向にある。また,アニメ等の作品自体の人気をも左右するキャラクターデザインは,今後益々重要になると考えた。そこで,本研究ではフィギア,日本人形,およびリカちゃん人形の顔の造形にはどのような相違があり,また人の顔と比較することによりどのように人の顔を抽象化しているかを明らかにすることを目的とした。まず、人や人形の顔の形状を3次元計測し,顔の曲面を構成するキーラインとして顔の特徴点における断面線7箇所を抽出した。次に,それらにおける曲率半径とその変化の仕方の分析結果と,高速フーリエ変換による曲率半径の周波数分析からそれぞれの顔の特徴分析を行った。また,その解析結果を人形の顔作りに応用し,評価を行った。その結果,それぞれの人形の特徴を作り分けることができ,その指針の有用性を確認した。
著者
大塚 康平 植田 憲 宮崎 清 朴 燦一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.53-62, 2003-07-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
41

本稿は、江戸時代に、どのような経路を経て、裂き織りの材料となった古布・木綿布が木綿を栽培することができなかった寒冷地・東北地方に渡ったかを、文献資料に基づいて整理したのもで、以下の点を明らかにした。1)裂き織りの材料となる古布・木綿布は、近郊に生産地を抱えていた大阪に集積され、交易船によって、大阪から大消費都市・江戸に運ばれた。寒冷地・東北地方の港には、西廻り航路(北前船)、東廻り航路で運ばれ、港からは河川交通によって内陸部に搬送され、陸揚げ後は、陸路を通じて移送された。2)東北地方や蝦夷地の帰り荷として、鰊や鰯の搾り粕が木綿を育てるための肥料として運ばれ、畿内を中心とする木綿栽培地で活用された。3)主要な寄港地に存在した古着屋は、裂き織りの材料としての古手・ボロ布の流通に重要な役割を果たした。とりわけ、大消費地・江戸の古着屋は、資源循環・再利用機構の要をなした。
著者
角山 朋子
出版者
Japanese Society for the Science of Design
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.21-30, 2013-03-31

本研究は、オーストリア近代デザイン史を取り上げ、デザイン会社「ウィーン工房」(1903-1932 年)の設立から1920 年代初頭の活動の特徴を解明し、ウィーン近代デザイン運動の変容をあぶり出すことを目的とする。ウィーン工房は英国アーツ・アンド・クラフツ運動の影響の下に設立され、メンバーは「ドイツ工作連盟」(1907 年-)から派生した「オーストリア工作連盟」(1912-1934 年)工芸部門の中心的存在でもあった。1910 年代、ウィーン工房は深刻な経営難を克服すべく、当初の工芸改革の先鋭的理念を減じ企業的性格を強めた。第一次世界大戦後、オーストリア工作連盟では新国家のデザインの方向性をめぐり激しい対立が生じ、他方、ウィーン工房では戦前の趣味性を継承した芸術性と経済性の両立を試みる、市場を見据えた戦略的デザイン活動が展開された。20 世紀初頭の急速な社会的変化に対応しつつ、ウィーン近代デザイン活動における初期の工芸改革的テーマは、デザイン、芸術、経済活動をめぐる問題へと移行したのだった。
著者
三井 直樹
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.11-18, 1999-11-30 (Released:2017-07-21)
参考文献数
43

本論文では印象派絵画とフラクタル幾何学との関わりを検証し, 印象派絵画のフラクタル性を明らかにしたい。印象派の画家たちは戸外での自然観察による制作をするようになり, それに伴い, 「筆触分割」と「視覚混合」という新しい手法を使い20世紀美術に革新をもたらした。また, 生き生きとした自然を再現するために日本美術に見られる大胆な構図の切り取り, 俯瞰構図などを積極的に取り入れた。フラクタル幾何学は従来のユークリッド幾何学では定量化することのできない様々な自然の形を扱うことができることが知られている。フラクタル幾何学では自己相似性がその重要な概念となっているが, 自然の形体や色, 自然光が再現された印象派絵画もこのフラクタルの特性を持ち合わせているはずである。本稿ではフラクタル幾何学を, 美的価値をはかる一つの客観的なバロメータとして捉え, 印象派絵画に表現された様々な造形要素を検証し, 具体的な作品の事例を通して新しい解釈を試みる。
著者
林 孝一 御園 秀一 渡邉 誠
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.6_29-6_38, 2014-03-31 (Released:2014-06-10)
参考文献数
37

本研究は戦後日本の自動車デザインと政府の政策と規制の関係性を考察した。戦後復興のための産業保護育成策、輸出振興政策により工業デザイナー育成を目指すデザイン振興策が起り、自動車産業でも技術者とは異なるデザイナーという職種が確立する。「国民車育成要綱」は各社が非採算性を指摘しつつも、参考とし大衆車というジャンルを生み出し、低コスト車のデザインを学び、20年後の変革期に世界を席巻する礎となる。貿易と資本自由化政策では、国内メーカーの合併・提携など現在に至るメーカー間の棲み分けの基礎が築かれた。道路整備政策による舗装と高速道路網の拡大は車体プロポーションに変革をもたらし、'70年代の低全高のウェッジシェープデザインの出現と同調した。安全実験車の開発ではバンパーとボデー構成の一体化への影響が見られた。安全規制は年々追加改正され要求が複雑化しデザイン調整作業の増加に影響している。近年、消費者は排ガス、燃費規制の環境対応に高い関心を持つが、デザインの価値・意味を見失うことはない。
著者
竹田 直樹
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1992, no.88, pp.153-160, 1992-02-01 (Released:2017-07-25)

本研究は,我が国の公的空間における彫刻作品に対する規制と撤去・破壊の史的変遷を整理することにより,規制や撤去・破壊が行なわれた理由・社会的背景について分析し,現在,公的空間において盛んに設置が行なわれている美術作品としての彫刻作品の本質的な存在意義や性質について次のような考察を行なった。1)美術作品としての彫刻作品は,江戸時代の石仏の類や明治から第2次大戦までの銅像と同じように,社会の意志を表現するという本質的な存在意義を有している。2)美術作品としての彫刻作品の性質は,本質的な存在意義と作品内容が乖離しているため,見る人が本質的な存在意義を理解しにくくなる恐れがあること,および,作品内容に具体的な基準が存在しないため,作品内容は作品ごとに異なる自由なものとなり,作品に対する見る人の評価が,作品あるいは見る人ごとに多様なものとなりやすいことである。
著者
西田 智裕 伊藤 孝紀 福島 大地 仙石 晃久 伊藤 孝行
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1_1-1_10, 2019-07-31 (Released:2019-11-15)
参考文献数
16

本研究では,オンライン上のワークショップによる家具の商品開発を事例として、オンライン議論システムにおける配色・素材・フェイズについて可視化することを提案し,その有効性および課題を明らかにすることを目的とする。可視化に向けて,参加者が配色・素材を選択しやすい表現について評価調査をおこない,投稿への添付機能を作成した。また,配色・素材・フェイズの可視化による有効性について評価調査した。これらを踏まえ,オンライン議論システムへ添付機能と可視化を実装し,議論実験をおこなった。議論実験より,配色・素材・フェイズの可視化は,議論内容の把握を支援するため,投稿を促したり,構造的な議論を促したりする効果があることを明らかにした。
著者
樋口 孝之 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.11-20, 2004
参考文献数
43
被引用文献数
1

本稿は,明治期の主要な英和・和英辞書,専門用語辞書によって,日本語「意匠」と英語単語との対応関係を調査し,「意匠」の意味の考察を行なったものである。今日,designと「意匠」の対応は,おおむね「形状・色彩・横様などの結合的な考案」という意味に受けとめられている。「意匠」は,明治初期の主要な英和辞書において,構成する字義の訓「こころだくみ」として解釈された語義から,「ムナヅモリ」の漢字表記として用いられた意味合いが強く,designの'amental plan'の語義に対応していた。これは,美術や工芸の制作に限らない,一般の語法としての「心中における計画・工夫」の意であり,文脈に応じて,「企て」「胸算用」「工夫」などの類義として用いられた。調査対象とした辞書においては,図像を示すdesignへの対応はみられなかった。また,明治10年代に,哲学上の目的論(Teleology)において'adaptation of means toends'の意味で用いられるdesignに対して「意匠」があてられたことが確認された。
著者
藤原惠洋
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.53-60, 1992
被引用文献数
1

制限図は,日本近代の国家神道体制下において造営・整備される神社の様式・規模・社殿配置を規制した。本稿では,まず明治初期の制限図検討過程を通し,限られた予算下において国家神道体制の拠点施設として神社の再整備が必要とされたため,適度な規模内容を持った全国一律の様式的普遍形式を生み出す規制的標準設計の役割を制限図が担ったことを究明した。次に検討期を経て整理された制限図の規制内容が,(1)神仏習合の近世神社を遡り古式遵奉をめざすため,流造本殿・入母屋造拝殿を中心とする独立社殿により構成された。(2)社殿の配置・平面・規模を決めた平面的規制と,立面姿絵・仕様表示による造形的規定から成る意匠規制の性格を持つ。(3)大中小の社格に応じた規模と仕様の差異を厳格に見せた,という3点に代表されることを明らかにした。一方,制限図が別格官幣社創建を中心に明治年間から大正期明治神宮造営頃まで適用されながらも,明治34年以降,伊東忠太に主導され制限図批判が展開した点を考察,昭和初期における制限図の終末を示した。
著者
常見 美紀子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.9-18, 2004
参考文献数
33

「構成」はバウハウスに留学した水谷武彦がドイツ語の「Gestaltung」を翻訳した言葉である。構成教育は、戦前は普通教育の中に普及していたが、デザイン教育のための基礎および専門教育としては、戦後に発展をとげた。桑沢デザイン研究所では、当初から構成を基盤とするデザイン教育を行っていたことが教育課程などから明らかになった。とりわけ初期には、勝見勝と高橋正人が、研究所のデザイン教育に貢献していた。勝見はハーバート・リードとミューズ教育という幅広い造形概念の上に、バウハウスを起源とするデザイン理論を展開した。高橋は、デザイン教育における「基礎」として、美学・心理学・構成理論という純粋研究、人間工学・コミュニケーション理論のような基礎工学的研究、設計製作・印刷・写真などのような実際技術とこれに伴う技術理論という三領域を挙げ、「構成理論」は「構成の原理」という純粋研究を対象とすることを明確にした。「構成の原理」には、「造形の要素(造形言語)」と「造形の秩序(造形文法)」があり、造形の要素は形、色、材料、テクスチェア、光、運動が、造形の秩序にはリズムやコンポジションなどが含まれる。高橋は構成をデザインの基礎および専門教育と位置づけ、構成の原理の研究と教育を通じて、構成をより広くより高次元、すなわち構成学へと導いた。