著者
道本 徹
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.203-209, 2001

昨年都立病院で発生した女性患者が消毒液の注射により死亡した事件で, 死亡した患者の遺族が医療ミスとその隠蔽工作によって受けた精神的苦痛に対して提訴する考えであることが報じられており, これに対し病院側は医療事故対策を検討し再発防止のために「航空機の事故防止対策の手法を取り入れ, 事故報告をどんどん出すように奨励している」と述べている.また, 今年の5月の朝日新聞の記事では医療ミス防止に向けてNASA (航空宇宙局) 方式を導入する米国の復員軍人省の例が紹介されている.<BR>NASA方式というのは航空の自発的安全報告制度のことでFAA (米国連邦航空局) から委託を受けて第3者であるNASAが1976年から運用している制度であり, 人間はミスを犯す者であるとの認識から故意でない限り, 報告者を罰するより事故の再発防止の方を重要視する免責制度を基本とした安全報告制度である.この制度は航空機のパイロットや客室乗務員, 整備士, 航空管制官等が, 安全を脅かすようなミスを犯したり, いわゆるヒヤリ・ハット的な出来事を自発的に報告し, 事故となる前にプロアクティブに対策をとり事故を未然に防止するために活用されている.米国においてはこのような免責を基本とする安全報告制度は航空の世界だけでなく他の交通機関や医療の事故を未然に防ぐ対策を取るうえで有効とされている.<BR>最近の航空機事故の原因を分析するとヒューマンファクターに起因するものがほとんどであり, 事故後のパイロット, 整備士あるいは管制官の証言で「その問題は前から分かっていたんだよ」ということがしばしばある.GAINはこれら航空に携わる人々の自発的な安全情報を集め, 分析し, 事前に安全対策を取る世界的なネットワークを構築しようとするものである.本稿は航空の専門家でない利用される立場の皆様に航空界で現在進められている安全報告制度「GAIN」の活動についてご紹介すると共に, 「GAIN」のプロアクティブな事故防止の考え方はあらゆる方面での事故防止対策に応用され得るものであることをお伝えするものである.
著者
小伊藤 亜希子 岩田 智子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.47-58, 2011-01-15 (Released:2013-07-16)
参考文献数
6

This paper first identifies the different security measures and parental restrictions on children's playing activity in a number of elementary school districts. It then clarifies the cause of the difference by analyzing the environmental factors of each district. In districts which are crowded with high-rise condominiums and highways, and in which the alternative places for children to play are few, control is found to be stricter. It is also found that the increasing level of crime and the excessive information about it often makes the parents control the children's activities very carefully and their playing area very small and within a five-minutes walk from their homes.
著者
名倉 秀子 大越 ひろ 茂木 美智子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.753-762, 2007 (Released:2010-07-29)
参考文献数
23

A questionnaire survey was carried out in 1998 to determine the regional characteristics of the main dishes and side dishes eaten on new year's day. The respondents were either university or junior college students from twelve hometown regions, and data were taken from 1,801 valid responses. The average number of meals eaten during the day was 2.92, those eaten out being 0.34. The number of meals eaten out in the Kanto-I area was the highest, while in the Hokkaido and Kyushu areas, was the lowest. The number of main dishes and side dishes was 2.56 dishes a meal per person including 1.97 animal foods. According to the special coefficient analysis, area was the highest for fish and shellfish, and that in the Hokkaido area was the highest for meat. It was proved that there is the regional characteristics of feast day dishes for new year's day.
著者
須見 洋行 浅野 倫和
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.937-942, 2001-10-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
15

ナットウキナーゼ活性を指標として納豆菌 (Bacillus natto NB-1株) による大麦の固体発酵が可能であることを明らかにした.その活性は37℃の発酵で1日目にピークを示す一過性のものであり, その後漸減したが, 1.0M尿素の共存下ではピーク後の濃度の減少は抑えられ, 酵素の生産量は持続的に高められることが分かった.この納豆菌による麦発酵物中にはナットウキナーゼが持つ強力なフィブリン分解能 (10万IU以上/100g乾燥物) と共に, Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA, H-D-Val-Leu-Lys-pNA, Suc-Ala-Ala-Ala-pNAなどの合成アミド基質に対する分解能, そして大量のビタミンK2 (メナキノン-7) (約9,500μg/100g乾燥物) の存在が確認された.また, 未処理物に比べて発酵大麦は遊離アミノ酸含量が高く, 特にPhe, Val, Tyr, およびGlu濃度は10倍以上優れていることが分かった.
著者
石井 克枝 土田 美登世 西村 敏英 沖谷 明紘 中川 敦子 畑江 敬子 島田 淳子
出版者
日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.229-234, 1995
参考文献数
25
被引用文献数
7

本研究は牛肉の低温加熱による呈味物質と呈味性の変化についてみたものである.牛肉を薄切りにし,真空パックしたものを40,60,80℃で,10分,1,3,6時間加熱した.遊離アミノ酸は40℃,6時間加熱したときにもっとも多く生成し,酸可溶性ペプチドは60℃,6時間加熱したときにもっとも多く生成した.60℃,6時間加熱した牛肉エキスと,60℃,10分加熱した牛肉エキスの呈味を官能検査により比較すると,60℃,6時間加熱した牛肉エキスの方がまろやかだった.二つの牛肉エキス中の遊離アミノ酸,5'-IMPはほとんど同量であったので,まろやかさは加熱によって増加したペプチドによるものではないかと考えられた.
著者
長野 宏子 大森 正司 矢野 とし子 庄司 善哉 西浦 孝輝 荒井 基夫
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.389-393, 1992-05-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
20
被引用文献数
1

植物由来のEnterobacter cloacae GAO と, 腸由来のE.cloacae IAM 12349, E.coli IAM 12119 との簡易判別法開発のための検討を行った.(1) E.cloacae GAO の生育はグルコース, アスパラギンを含むG培地にリンゴジュースを添加すると約2倍に, カザミノ酸を添加すると約3倍に促進された.(2) GAO の炭素源としてはリンゴジュース中に存在するブドウ糖とショ糖がIAM 12349に比べよく資化された.セロビオース, リボースがよく資化されており, 特にキシロースはIAM 12349ではごくわずかな資化性であるが, GAOではよく資化された.(3) GAO は, pH4から10までの広い範囲で生育が可能であり, E.coli はpH7以下, pH10では生育せず, またGAO はエスクリン分解陽性であったが, IAM12349, E.coli は陰性であり相違が明らかであった.以上の結果より簡易判別法になりうるものであった.
著者
丸山 悦子 坂本 薫
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.97-103, 1992-02-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
7

炊飯における米の浸漬については, 松元らにより米粒切片の膨潤状態から30~120分間が適当であるとされ, また関らは, 20℃で浸漬した場合, 30分間以上15時間まで飯のα化度には浸潰時間による差はみられず, 食味上はいずれも同様に好まれたと報告している.米の浸漬温度や浸漬時間は、炊飯過程における昇温時間と相互に関連しており, 昇温時間を長くすることによって浸漬時間の不足をカバーすることができるとされている.浸漬における吸水量が多くなると昇温時間は短くてよいと考えられ、浸漬による吸水量を増加させることによって浸漬時間や昇温時間を短縮することが可能と思われるが、浸漬時間や浸漬温度と昇温時間との関連性については、ほとんど検討されていないのが現状である.すでに市販の自動炊飯器においては、米の浸漬中の吸水を40℃で行い, 炊飯を迅速に行うために種々の工夫がされているものがあり, 日常炊飯においても, 米の吸水を急速に進行させるために温水を用いる場合もある.今回は, 米の浸漬温度や浸漬時間, 昇温時間との関連を明らかにすることを目的として実験を行い, 若干の知見を得たので報告する.炊飯過程における米の浸漬温度や浸漬時間, 昇温時間は重要な加熱要因である.本報では, 浸漬と昇温との関連を検討するため, 合計30種類の方法で炊飯を行い, 米飯のテクスチャー, 還元糖量, 全糖量の測定, 飯粒断面の顕微鏡観察, 官能検査等を行った.その結果, 60℃で浸漬した米飯は20℃のものに比べ米粒周辺部の付着物が堅固であり, 表面が滑らかな状態で, 付着性が小さかった.また, 還元糖量は全体的に昇温時間, 浸漬時間が長く, 浸漬温度が高いほど高い値を示すことが明らかになった.テクスチャー測定による硬さは食味評価による米飯の硬さに対応しており, 官能検査の結果では, 40℃および60℃で浸漬した米飯が好まれた.
著者
田結庄 順子 柳 昌子 吉原 崇恵 中屋 紀子 牧野 カツコ
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.951-959, 1992

This study aims to consider consumer education in school by the survey data of the pupils' parents as consumers.<BR>The results were summarized as follows : <BR>1) Mothers did not take consumer behavior considering the protection of environment.<BR>2) The parents have had a tendency to decide commodity buying by talking with door to door sales person. This fact suggests that the most parents' decision-making were influenced by sales persons. Therefore, consumer education for parents is required to keep up with the times.<BR>3) The parents considered that problems of consumptive behavior of children are due to their consumptive environment. The parents have had anxiety for children's future consumptive environment, particularly credit cards and commercial messages.<BR>4) The parents have considered that role differentiation between home and school in consumer education as follows : fundamental consumer behavior should be taught children in home life, while knowledge of commodity, quality labeling, safety commodity and marketing system should be taught them in school.
著者
田結庄 順子 柳 昌子 吉原 崇恵 中屋 紀子 牧野 カツコ
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.951-959, 1992-09-15

This study aims to consider consumer education in school by the survey data of the pupils' parents as consumers. The results were summarized as follows: 1) Mothers did not take consumer behavior considering the protection of environment. 2)The parents have had a tendency to decide commodity buying by talking with door to door sales person. This fact suggests that the most parents' decision-making were influenced by sales persons. Therefore, consumer education for parents is required to keep up with the times. 3) The parents considered that problems of consumptive behavior of children are due to their consumptive environment. The parents have had anxiety for children's future consumptive environment, particularly credit cards and commercial messages. 4) The parents have considered that role differentiation between home and school in consumer education as follows: fundamental consumer behavior should be taught children in home life, while knowledge of commodity, quality labeling, safety commodity and marketing system should be taught them in school.
著者
富田 道男 斉藤 学 春山 洋一
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.229-233, 1992-03-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
9
被引用文献数
2

(1) 水の煮沸により重金属溶出の認められなかったのは, ホーローびき鍋のみであった.(2) 5%酢酸水溶液の煮沸では, どの鍋 (鉄鍋を除く) からも重金属の溶出が認められ, その溶出量は水煮沸の場合の10倍に達するものがあった.(3) 5%酢酸水溶液の煮沸で溶出量の増加が最も少なかったのは, フッ素樹脂加工のアルミニウム鍋であった.(4) スズ引き銅鍋からは鉛の溶出が認められた.(5) シリコン強化焼き付けと称するてんぷら用鉄鍋は5%酢酸水溶液の煮沸により, 内面の塗装皮膜のほとんどが剥離した.このように, 使用方法の限定された表面処理の施された鍋を他の目的に使用するさい, その性質について十分調べることが肝要である.
著者
野中 美津枝
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.101-106, 2013 (Released:2014-05-31)
参考文献数
8
被引用文献数
3

This survey identifies the health conditions by dietary habits needing correction in high school students. Only 14.3% of the high school students had no dietary habits needing to be corrected. About 40% of the students had irregular mealtimes, and often had between-meal snacks and midnight snacks. A difference was found between the boys and girls in the dietary habits which should be corrected. The high school boys had such dietary habits as greasy meals and eating alone, while the high school girls tended to diet and generate leftover food. Those high school students having many dietary habits needing correction generally also had poor health.
著者
日比 喜子 安達 町子 前田 昭子 早川 史子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.183-192, 1999-02-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
26

滋賀県, 京浜地区, 阪神地区および長崎県の4地域において, それぞれを主な生育地とする女子学生 (18~22歳) を対象に茶, 特に紅茶の嗜好に関するアンケート調査を行い, 次のような興味ある結果が得られた.(1) 緑茶と紅茶の嗜好の比較では, 京浜地区と阪神地区では緑茶より紅茶の方が好まれるが, 滋賀県と長崎県では緑茶および紅茶の嗜好に有意差がなかった.(2) 緑茶あるいは紅茶を好む理由については, 地域間に有意差は認められず, いずれの地域においても緑茶あるいは紅茶を好む理由は圧倒的にそれぞれの “味” であり, “色” をあげた者はごくわずかであった.また, 茶を好む理由として “香り” をあげた割合は, 紅茶嗜好者の方が緑茶嗜好者よりも高かった.(3) 女子学生の紅茶飲用頻度は概して低いが, 飲用頻度の平均値は茶葉から抽出する紅茶よりも缶入り紅茶において, また, 緑茶嗜好者よりも紅茶嗜好者において高かった.しかし, 最も好きな紅茶は, 全体的には, 緑茶・紅茶の嗜好にかかわらず, 茶葉から抽出して飲む紅茶であった.(4) 缶入り紅茶の中では, いずれの地域においてもミルク紅茶が好まれるが, 特に滋賀県, 長崎県で非常に好まれていた.茶葉から抽出する紅茶の中では, いずれの地域でも紅茶液をそのまま飲む, 砂糖だけ入れて飲む, および砂糖とミルクを入れて飲む紅茶が好まれるが, 特に砂糖とミルクを入れて飲む紅茶は阪神地区で非常に好まれていた.(5) 緑茶嗜好者よりも紅茶嗜好者が多い京浜地区と阪神地区の紅茶嗜好者について, 前者では缶入りのレモン紅茶およびミルク紅茶を好み, 後者では茶葉から抽出して砂糖・レモンを入れる紅茶, および砂糖・ミルクを入れる紅茶を好む.
著者
松尾 眞砂子
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.1029-1034, 1999-10-15
参考文献数
20
被引用文献数
4

The usage of okara koji (Koji), okara fermented by Aspergillus oryzae, as a new food stuff was tested by preparing cookies and cupcakes, and their texlural properties and palatability were studied. The capacity for water-holding and oil-absorption of Koji was respectively 5 times and 2 times higher than that of soft flour. Koji could be substituted for soft flour by up to 10% in cookies and 5% in cupcakes without any effect on their textural properties and palatability. Koji significantly suppressed the oxidation of lipids in cookies and the retrogradation of starch in cupcakes during storage. These results suggest that Koji could be a useful foodstuff, not only as a substitute for soft flour, but also as a freshness-retaining ingredient in high-fat baked products during storage.
著者
小川 信子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.1153-1155, 1994-12-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
1
被引用文献数
2
著者
福永 淑子 永嶋 久美子 小川 睦美
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.147-157, 2015 (Released:2015-04-16)
参考文献数
12

shimi-mochi is a preserved food in the Tohoku area of Japan. The main materials used for shimi-mochi are glutinous rice and non-glutinous rice powder. shimi-mochi is repeatedly frozen and thawed in natural cold air to dry. It is soaked in water and cooked to eat, making it tender and easily broken. We made artificial shimi-mochi in this study by only using those main materials. The effect of the freezing and drying conditions on the characteristic inner structure and sensory properties of artificial shimi-mochi were investigated. It was possible to make artificial shimi-mochi by freezing and drying at -5℃ for 18 hours and at 3℃ for 6 hours, repeating this cycle for 28 days. Artificial shimi-mochi produced in this way had many vacant spaces similar to the traditional product, although it absorbed water in a shorter time than the traditional product. After absorbing water, artificial shimi-mochi retained its shape and, after cooking, retained its softness and stickiness for a significant time. Artificial shimi-mochi had the characteristic inner structure and sensory properties of the traditional product. Although the visual appearance was similar, the inner structure of artificial shimi-mochi produced under other conditions was completely broken after absorbing water. This result revealed that subtle differences in the process of freezing and drying affected the success or failure of producing artificial shimi-mochi.
著者
久保 妙子
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.27-37, 2003-01-15

本研究では接地型の住宅地として,一般的な戸建住宅地,分譲テラスハウスおよび市営住宅を選び,近隣コミュニケーションの現状と意識を,居住者に対する質問紙調査をもとに考察したものである。結果を要約すると以下のとおりである。(1)近隣コミュニケーションの第一歩と位置づけられる,住戸外に出る回数は,テラスハウスで最も少なく,戸建住宅では中間程度で,市営住宅で最も多い。またこれらの接地型住宅地では,住戸外に出る回数が高層集合住宅に比べて多い傾向がある。(2)親しいつきあいをしている人がいる割合は,男性では3〜4割,女性では6〜7割で,とくに戸建住宅の女性で親しいつきあいが多い。(3)立ち話をする人がいる割合は,男性では7〜8割,女性では9割以上で,とくに戸建住宅で多い。それに対して挨拶する人数は,テラスハウスと市営住宅のほうが戸建住宅より多い。戸数密度がやや高く,範囲を認識しやすい特徴ある住宅形態が,一つのまとまりとして居住者に捉えられていると考えられる。(4)近隣コミュニケーションのきっかけは,家が近いことの他に,子供や自治会の関係を通じてが多い。子供を通じては女性が多く,自治会はどちらかというと男性で多く,きっかけの得にくい男性にとって自治会の果たす役割は大きいといえる。(5)立ち話の場所は,日常的に通る玄関前や街区内の道路が多く,コミュニティスペースとして設けられた公園等は少ない。さらにコミュニティスペースとして,東屋や貸し菜園,ベンチ等の要求がみられる。(6)向こう三軒両隣におけるつきあいの状態は,「会えば挨拶する程度」「なかには立ち話する人もいる」「なかには親しい人もいる」が、約3分の1ずつで、必ずしも親しいつきあいが行われているとは限らない。意識としては,7〜8割が向こう三軒両隣にこだわらず気の合った人と付き合いたいと考えている。(7)近隣コミュニケーションとしておこなわれていることで多いものは,「旅行等のお土産のやり取り」「宅配物の預け合い」「食料品などのおすそわけ」「留守にするときの声かけ」「慶弔時の手伝い」である。一緒に出掛けるような親密なつきあいは,向こう三軒両隣に限られず離れた家との間にも生じている。「日用品の貸し借り」は高層集合住宅の方が多く,「留守にするときの声かけ」は接地型住宅地の方が多い。(8)近隣コミュニケーションについての意識は,つきあいの有無に関わらず,近所づきあいをしたいという肯定的な意見と,したくないという否定的な意見が,対象による差はあるものの全体としては約半数ずつで拮抗している。(9)市営住宅において,建設当初から住み続けている高齢男性の間に,長い年月をかけて形成された親密なコミュニティの事例がみられる。以上のような接地型住宅地においては,接地していることによって住戸外に出やすく,近隣コミュニケーションも少なからずおこなわれている。しかし,かつては近隣の基本単位であった,向こう三軒両隣におけるコミュニケーションは必ずしも親しいものではなく,近隣のなかでも気の合った人と必要なときにコミュニケーションがとれる状態であることが求められているといえる。住戸のタイプごとの形態と密度,そして市営住宅の例にみられるように,長く住み続けられるか否かが,近隣コミュニケーションに影響を与えていることがうかがえた。また,接地型住宅地においてはコミュニケーションのための空間が充実しているとはいえず,日常的に使用しやすい簡易は休憩の場所等を含めた,住環境の総合的な計画が必要とされていると考えられる。
著者
久保 妙子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.27-37, 2003

本研究では接地型の住宅地として, 一般的な戸建住宅地, 分譲テラスハウスおよび市営住宅を選び, 近隣コミュニケーションの現状と意識を, 居住者に対する質問紙調査をもとに考察したものである.結果を要約すると以下のとおりである.<BR>(1) 近隣コミュニケーションの第一歩と位置づけられる, 住戸外に出る回数は, テラスハウスで最も少なく, 戸建住宅では中間程度で, 市営住宅で最も多い.またこれらの接地型住宅地では, 住戸外に出る回数が高層集合住宅に比べて多い傾向がある.<BR>(2) 親しいつきあいをしている人がいる割合は, 男性では3~4割, 女性では6~7割で, とくに戸建住宅の女性で親しいつきあいが多い.<BR>(3) 立ち話をする人がいる割合は, 男性では7~8割, 女性では9割以上で, とくに戸建住宅で多い.それに対して挨拶する人数は, テラスハウスと市営住宅の方が戸建住宅より多い.戸数密度がやや高く, 範囲を認識しやすい特徴ある住宅形態が, ひとつのまとまりとして居住者に捉えられていると考えられる.<BR>(4) 近隣コミュニケーションのきっかけは, 家が近いことの他に, 子供や自治会の関係を通じてが多い.子供を通じては女性で多く, 自治会はどちらかというと男性で多く, きっかけの得にくい男性にとって自治会の果たす役割は大きいといえる.<BR>(5) 立ち話の場所は, 日常的に通る玄関前や街区内の道路が多く, コミュニティスペースとして設えられた公園等は少ない.さらにコミュニティスペースとして, 東屋や貸し菜園, ベンチ等の要求がみられる.<BR>(6) 向こう三軒両隣におけるつきあいの状態は, 「会えば挨拶する程度」「なかには立ち話する人もいる」「なかには親しい人もいる」が, 約3分の1ずつで, 必ずしも親しいつきあいがおこなわれているとは限らない.意識としては, 7~8割が向こう三軒両隣にこだわらず気の合った人とつきあいたいと考えている.<BR>(7) 近隣コミュニケーションとしておこなわれていることで多いものは, 「旅行等のお土産のやり取り」「宅配物の預け合い」「食料品などのおすそ分け」「留守にするときの声かけ」「慶弔時の手伝い」である.一緒に出掛けるような親密なつきあいは, 向こう三軒両隣に限られず離れた家との間にも生じている.「日用品の貸し借り」は高層集合住宅の方が多く, 「留守にするときの声かけ」は接地型住宅地の方が多い.<BR>(8) 近隣コミュニケーションについての意識は, つきあいの有無に関わらず, 近所づきあいをしたいという肯定的な意見と, したくないという否定的な意見が, 対象による差はあるものの全体としては約半数ずつで拮抗している.<BR>(9) 市営住宅において, 建設当初から住み続けている高齢男性の問に, 長い年月をかけて形成された親密なコミュニティの事例がみられる.<BR>以上のような接地型住宅地においては, 接地していることによって住戸外に出やすく, 近隣コミュニケーションも少なからずおこなわれている.しかし, かつては近隣の基本単位であった, 向こう三軒両隣におけるコミュニケーションは必ずしも親しいものではなく, 近隣のなかでも気の合った人と必要なときにコミュニケーションがとれる状態であることが求められているといえる.住戸のタイプごとの形態と密度, そして市営住宅の例にみられるように, 長く住み続けられるか否かが, 近隣コミュニケーションに影響を与えていることがうかがえた.また, 接地型住宅地においてはコミュニケーションのための空間が充実しているとはいえず, 日常的に使用しやすい簡易な休憩の場所等を含めた, 住環境の総合的な計画が必要とされていると考えられる.
著者
下坂 智恵 村木 路子 江原 貴子 下村 道子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.963-970, 1997

骨つきのマアジをから揚げにしてマリネ処理するときの温度の違いによる魚の物性とくに骨の硬さと成分の変化について調べ, 以下の結果を得た.<BR>(1) 官能検査において, 浸漬時間による硬さの差は, 魚肉ではみられなかったが, 骨ではマリネ処理の時間の長い方がやわらかいと評価された.<BR>(2) マリネ処理した魚の骨の硬さは, 揚げた魚を高温で食酢に浸漬した方が低温にしてから食酢に浸漬したものよりも低下の程度が大きかった, <BR>(3) 高温浸漬による酢漬魚は, 低温浸漬によるものよりも重量増加が大きく, pHの低下, 食酢の浸透が速やかで浸透量が多いことが認められた.<BR>(4) 骨つきのマアジを油で揚げて後マリネにすると, カルシウムなどの無機成分が溶出して骨が軟化していることが示された.