著者
松本 義之
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
日本知能情報ファジィ学会誌 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.115, 2016

<p>コンピュータプログラムが市場動向に対応し,自動的に証券売買や為替取引のための注文を繰り返し行い,金融商品の取り引きを行うことをアルゴリズム取引という.このアルゴリズム取引は,1990年代以降にアメリカの金融取引市場から始まり,日本の金融取引市場でも普及してきている.</p><p>アルゴリズム取引では,コンピュータプログラムが自動的に売買を行うため,1秒間に数千回の頻度で売買を行う超高速取引(High frequency trading : HFT)が可能である.2010年5月にアメリカ・ニューヨーク市場のダウ平均株価が数分間に約1,000ドル下落した後,すぐに元の水準までもどる「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれる現象が起きた.この現象は,アルゴリズム取引が原因の一部であると考えられている.また,東京証券取引所の株式売買システムである「arrowhead」は,売買注文の応答を0.5ms 未満で行うことができるが,その取り引きの6割以上はコンピュータプログラムによるアルゴリズム取引であるとされている.こういったコンピュータプログラムによるアルゴリズム取引が市場の不安定要因になっているとの指摘もあり,欧米や日本では規制を行う動きも出ている.</p><p>アルゴリズム取引には人工知能技術も応用されている.証券取引を行うトレーダーの知識を人工知能に学習させ,人間の代わりに証券取引を行うことが可能となっている.これまでは,トレーダーが市場動向を調査し,その分析結果に基づいて証券投資を行ってきた.人工知能技術による取り引きでは,これらの市場分析をコンピュータプログラムが行い,自ら判断して投資を行う.超高速取引のような短期間の売買だけではなく,長期間に渡る資金運用についても人工知能を応用したコンピュータプログラムによるアルゴリズム取引が利用されつつある.</p>
著者
前野 仁 山川 烈
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.719-734, 2005-12-15 (Released:2017-05-02)
参考文献数
26

小型船舶の動特性は, 船の状態(船速, 載貨状況など)や外乱(波, 風, 潮流による外力)の影響のために大きく変化しやすい.従って, 従来から小型船舶用オートパイロットに用いられてきた固定式PIDコントローラでは, 常に良好な保針性能を維持することは難しいとされてきた.また, 従来の大型船舶用適応アルゴリズムを用いるとしても, 小型船舶ではシステム同定や規範モデルの設定が困難なので, 良好な結果は得られない.本研究は, これらの問題を解決するために, システム同定や規範モデルを必要とせず, オンラインで船の動特性の変化に適応できる小型船舶用適応型オートパイロットの実現を目的とする.本研究では, ファジィ理論を用いた教師無し学習アルゴリズムによって, 適応アルゴリズムを構成する.教師無し学習を用いた適応アルゴリズムでは, 制御対象の的確な挙動評価が必要とされる.先ず, 小型船舶に適した船体挙動評価方法として, 位相面軌跡評価(Evaluation with Trajectory On Phase diagram : E-TOP)法を提案する.次に, E-TOP法とファジィ理論を用いた教師無し学習アルゴリズムを組み合わせた, 適応型オートパイロットを構築する.さらに, シミュレータによる動作検証と, 実船を用いた保針性能比較実験の結果から, 本研究で提案するE-TOP法と適応制御アルゴリズムによる適応型オートパイロットが, 安定して良好な保針性能を実現できることを示す.
著者
徳永 弘子 武川 直樹 寺井 仁 湯浅 将英 大和 淳司
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.889-900, 2013-11-15 (Released:2013-12-19)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

本研究では,3人の会話において,話者が次々と交替する順番交替の仕組みを,参与者らが表出する態度とその解釈から明らかにする.これまでの順番交替の研究は,現話者と次話者との間に交わされる発話や視線の方向など直接観測可能な情報を対象に分析されてきた.それに対し本稿では,参与者の視線や表情,しぐさは自己の内部状態が表出された態度であると捉え,態度の表出と順番交替の関係を明らかにする.そのため,順番交替の直前に表出される「話したい」「聞きたい」などの態度を評定し,続いて,次に自分が「話し手になる」「聞き手になる」役割志向態度と順番交替の関係を定量的に分析する.さらに,役割志向態度による順番交替のプロセスを事例分析する.結果,聞き手の役割を志向した参与者が次話者になる場合があるなど,表出された態度が参与者相互に解釈理解されて,場に適した順番交替が選択されていることが示唆された.この分析の結果は,コミュニケーションの構造が視線や仕草など,観測される個々の行動だけからではなく,それらを統合して解釈される態度によって検討されることが必要であることを示唆するものである.
著者
西田 泰士 本多 克宏
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.543-547, 2018-04-15 (Released:2018-04-15)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本研究では,特許文献データを対象とし,技術課題の解決手段の可視化を通して解決手段の着想を支援する手法を提案する.まず,代表となる単語を抽出し単語レベルの共起確率ベクトルを生成する.そして,生成した共起確率ベクトル自身の相関係数を算出しベクトル化を行い,SOMに入力させる.共起確率ベクトルにより描いたSOM,そして相関係数ベクトルにより描いたSOMとを比較し考察することにより,新規技術開発における重要な関連要素の抽出を通してイノベーション加速を支援する手法の可能性を示す.
著者
真部 雄介 齋藤 隆輝 嶋田 弦 菅原 研次
出版者
Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.988-1001, 2012
被引用文献数
4

バイオメトリクス認証技術の中でも行動的特徴を用いた手法の開発は,様々な分野での応用が期待される重要な研究課題である.行動的特徴を用いる方法の中で最も代表的なものは歩行・歩容(gait)認証であるが,近年では,歩行動作を正面から観測して個人を特定することが可能となってきている.正面観測による歩行認証は,人間が個人を特定する方法との親和性や歩行対象者を観測する機器の設置条件などの点で応用上優れた利点を備えているとされており,このような利点を生かした技術の開発は,ロボットへの自然な個人認証機能の実装や実世界の状況や文脈に応じて妥当な処理結果を出力するような個人適応型のコンピュータシステムの開発にとっても重要な意義があると考えられる.そこで本論文では,正面方向から観測が可能な特徴量である歩行時の頭部動揺時系列に加え,顔画像および身体骨格から計量される寸法を用いた個人認証手法を提案する.頭部動揺時系列,顔面寸法,身体寸法のそれぞれの類似性を DP マッチングおよびユークリッド距離により独立に評価し,評価結果をAND/OR演算またはファジィ推論により融合することで個人認証精度の向上を実現する.利用するこれらの特徴量は,一定の個人性を含んではいるものの,それ単体では必ずしも個人を特定することができないと考えられる特徴であり,ソフトバイオメトリクスと呼ばれるものの一種と考えることができる.7人の被験者に対する個人認証実験の結果,提案する融合方法によって,本人棄却率0%の下で平均他人受理率0%を達成した.単一の特徴量のみを用いた個人認証の場合と比べ,利便性を維持したまま照合精度を改善できることを示す.

1 0 0 0 OA 方言音声分析

著者
高丸 圭一
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.195-195, 2013-12-15 (Released:2017-12-14)

方言音声の研究では,日本各地の方言についてその音声的特徴の記述が行われる.重要なものの一つにアクセント体系の記述があり,古くから聞き取り調査によって研究が進められている.日本語のアクセントは単語ごとに規定される高低のパタンで,「雨」「飴」などの同音異義語の意味を弁別する機能をもつ.アクセントは地域によって異なり,例えば「雨が」は東京式アクセントでは「アメガ」,京阪式アクセントでは「アメガ」のように発音される.また,アクセントによる意味の弁別をしない無アクセントの方言もある.消滅しつつある伝統的方言を収集することは緊急の課題とされ,近年,全国規模で音声を収録して分析する調査が盛んに進められている.工学的には,標準的な日本語音声に対する研究は進んでおり,テキストを入力すると自然なピッチパタン(声の高さの変化パタン)で話す音声合成装置が開発されている.また,関西弁などの方言で話すカーナビもあり,方言は工学的に応用されている.合成音声のピッチパタンは,標準語や特定の方言の典型をモデル化したものである.自発音声ではピッチパタンに,方言ごとに異なるアクセントのほか,日本語のイントネーション(例えば,疑問か平叙か),方言イントネーション(例えば,尻上がり調),さらには表現方法の個人性などが含まれる.一つの連続量に様々な情報が重畳されるため,ピッチパタンを加工した合成音声による知覚実験により,方言を担う変化成分を特定する研究も試みられている.方言音声分析において,方言学と情報工学が連携できる可能性は大きい.統計的手法や機械学習の手法を用いて大規模な音声データに含まれる地域差を分析することができる.そこから得られる知見は,方言学の研究成果になるだけでなく,工学的な音声認識理解の研究にも役立つ.文系・理系の垣根を越えた学際的な研究連携の進展が望まれる分野である.
著者
大塚 真吾 宮崎 収兄
出版者
Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.717-727, 2012

本論文では,働く女性を対象としたWebページ閲覧行動についての調査を行うために,都内の働く女性を対象としたフリーマガジンと連動するサイトのアクセスログの分析を行った.アクセスログ解析では一般的にアクセスをしたユーザの性別や年代を推定することは難しいが,本論文では働く女性が興味を持つコンテンツのみを提供しているサイトという特徴を活かすことで,特定のユーザ層に関する閲覧行動の抽出を試みた.解析結果から,ユーザの特徴的な行動パターンを発見することができた.
著者
砂山 渡 竹岡 駿 西村 和則
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.558-566, 2017-04-15 (Released:2017-04-15)
参考文献数
13

近年,社会問題や製品開発における問題解決に向け,蓄積される大規模なデータから,新たな知識を抽出するニーズが高まってきている.しかし,普段からデータ分析を行っていない人にとって,データから情報を抽出することは難しい.そこで,多くの人々にデータの活用を可能にするための環境として,テキストマイニングのための統合環境TETDMが開発されている.本研究では,統合環境TETDMに3つのゲームの要素を加えることで,利用者の利用意欲を向上させ,より多くの人がテキストマイニング技術を利用できるようになることを目指す.評価実験の結果,これらの要素が,テキストマイニングシステムの利用意欲の向上に役立てられることを検証した.
著者
稲邑 哲也 タン ジェフリートゥ チュアン 萩原 良信 杉浦 孔明 長井 隆行 岡田 浩之
出版者
Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.698-709, 2014

ロボカップ@ホームはHuman-Robot Interaction (HRI) 研究の発展のために,今後重要な位置づけを持ったコンペティションである.HRIにおける研究開発では,膨大な量の対話実験による経験データベースが必要となる場合が多いが,実機のロボットでは実験実施のコストが高く,また,シミュレーションでは人間とロボットとの身体的インタラクションに制約が生じる.そこで,没入型のユーザインタフェースと,複数のクライアントが同時に同一の仮想世界にログイン可能な機能の双方をロボットシミュレータに搭載し,HRI研究を促進させることの可能なロボカップ@ホームシミュレーションの枠組みを提案する.また具体的なシステム実装に必要となる基盤技術の設計指針を示す.
著者
益子 行弘 萱場 奈津美 齋藤 美穂
出版者
Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics
雑誌
知能と情報 : 日本知能情報ファジィ学会誌 : journal of Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.186-197, 2011-04-15
参考文献数
32
被引用文献数
1

これまで「笑顔」は「喜び」の感情が表出した表情として扱われてきた.しかしながら「笑顔」には「喜び」といったポジティブな感情だけでなく,「苦笑い」などネガティブな感情を示す語も日常的に用いられる.本研究では,日常用いられ,意味の違う5種類の「笑い」語から表出された表情について,表情の変化量とポジティブ度から分類を行った.クラスター分析およびクラスター間に検定を行い,変化量が小さくややネガティブな笑顔,変化量が中程度でポジティブ度も中程度の笑顔,変化量が大きくポジティブ度も大きな笑顔の3つのクラスターを設定した.さらにこれらの特徴を検討するため,運動解析ソフトを用いて顔の各部位の変化量を測定した.その結果,ポジティブ度が高くなるにつれ,眉尻は上がり,目の縦幅は狭くなり,口の縦幅は広くなるが口角の変化は小さくなることがわかった.特に変化の小さな笑顔は,口の変化量に対して眉・目は変化量が小さいため,口元の変化を元に笑顔の度合いが判断される可能性があると考えられる.3種の笑顔の心理的な影響を検討するため,それら笑顔について,人物印象評定を行った.因子分析の結果,[好感度][活力性][支配性][女性らしさ]の4因子まで検討した.変化が大きくなるほど[活力性][支配性][女性らしさ]が高いと評定されるが,[好感度]については変化量が大きくなるほど低くなることが明らかとなった.
著者
張 建偉 河合 由起子 熊本 忠彦 白石 優旗 田中 克己
出版者
Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.568-582, 2013
被引用文献数
1

ニュースサイトは日常生活における重要な情報源であり,閲覧者は発生事象の情報を受信する(受ける)のと同時に,書き方によって「楽しい」,「悲しい」,「怒り」等の多様な印象も受けている.特に,賛否両論となるニューストピックに関しては,複数のニュースサイトで報道傾向が異なるため,異なった印象を受ける.また,同じ話題であっても,時間が経つと報道傾向が変化する場合には異なる印象を受ける.そこで本研究では,記事の書き方を「印象」という評価指標で分析することで,ニュースサイトの報道傾向を視覚的に比較可能な分析手法を提案する.提案手法は,まずニュース記事の多様な印象を表現するのに適した複数の印象軸を設計し,ニュース記事に対する印象辞書を構築する.次に,この印象辞書を用いて各記事と各ニュースサイトの印象値を算出し,最後にサイトごとの報道傾向の違いおよび時間的推移を閲覧者へ比較提示する.本論文では,多様な印象に基づくニュースサイト報道傾向分析手法を提案し,国内 15 社,国外 10 社の計 25 社のニュースサイトに適用したシステムを用いて,その有効性を検証する.
著者
金城 敬太 海老名 剛
出版者
Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.690-700, 2013
被引用文献数
1

書籍などの財の購買行動は,ランキングや全体の販売数といった外部の情報(外部性)に強く影響される.口コミなどの小さな準拠集団による外部性に関する研究は多く行われてきたが,上記のような大きな準拠集団による外部性が購買にどれくらい影響するのかについて,あまり研究が行われてこなかった.本研究では,上記の外部性を組み込んだ階層ベイズモデルを提案した.その上で,書籍に関してコンジョイント分析に用いられる調査を行い,調査データを用いてモデルのパラメータを推定した.加えて,推定結果を用いて販売数のシミュレーションを行った.結果,外部性がどのような分布になっているか,さらには外部性に関連する属性を明らかにした.特に,書籍市場で,性別では女性,また年齢としては高齢になるほど,外部性が高くなる傾向にあることを示した.加えて販売数のシミュレーションにより,最終的な需要量が外部性によって一定程度の影響を受ける可能性があることを示した.
著者
高間 康史 瀬尾 優太
出版者
Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics
雑誌
知能と情報 : 日本知能情報ファジィ学会誌 : journal of Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.316-326, 2009-06-15
参考文献数
21

本論文では,可視化表現共有型掲示板システムに基づく地域防犯活動支援システムを提案し,防犯活動に関するオンライン議論の支援機能について有効性を検証する.近年,子供を狙った犯罪が各地で発生しており,地域防犯活動の重要性が高まっている.数多くの地方自治体などにおいても,防犯活動に向けた様々な取り組みが行われるようになってきているが,児童への安全教育,防犯情報の共有などの個々の活動は独立に行われており,連携はあまり考慮されていない.本論文では,児童による地域安全マップの作成から,得られた安全マップを保護者などで共有し,これを元に防犯活動についてオンラインで行う議論までの一連の地域防犯活動を包括的に支援可能なシステムを構築する.児童が作成した地域安全マップを題材としてオンラインで行われる,防犯活動に関する議論を支援するために,可視化表現共有型掲示板システムのコンセプトを採用する.近年,コミュニケーションやグループでのデータ分析における可視化表現共有の有効性が指摘されており,可視化表現に対する気づきや解釈を共有し,議論することで対象データセットの広い探索・深い理解につながることが期待されている.タスク志向の議論を支援するために,可視化表現共有型掲示板システムでは可視化表現中の着目部分に注釈(グラフィカルアノテーション)を付与してメッセージ中で引用する機能,議論のコンテクストを把握するための関連メッセージ検索機能を備えている.本論文では,議論対象とするアノテーションを効率的に検索する機能も新たに提案し,タスク志向の議論をより効率的に支援する事を試みる.提案システムを小学校の授業で実際に利用してもらい,得られた地域安全マップを題材とした地域防犯活動に関する議論を,提案システムを用いて行った.議論参加者による評価の結果,提案システムは防犯活動に関する議論支援に有効であることを示す.また,議論支援機能のオンライン議論における使われ方について,スレッドを分析して考察した結果,スポット引用機能,スポット検索機能が具体的なスポットに言及しながらの議論を促進する役割を果たすことを示す.本論文で提案したシステムの支援機能は現状では限られたものであるが,今後,犯罪・事故情報なども共有可能とすることや,議論中の情報見落としを防ぐ機能の追加などにより,地域防犯活動支援システムとしてより実用的なものへ拡張していくことが期待できる.
著者
奥村 健太 酒向 慎司 北村 正
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.557-569, 2016-04-15 (Released:2016-04-20)
参考文献数
26

本稿では,特定の演奏者が持つ表情の特徴に忠実な演奏の自動生成を目的とした手法を提案する.多くの既存手法は演奏生成に際して演奏者が有するような専門知識の入力を必要とする.それらは使用者自身が演奏者として介在する用途には有用であるが,本提案の目的には不向きである.提案手法では演奏者による実際の演奏事例から得られる表情の特徴に対し,楽譜から専門知識を用いることなく得られる情報を関連付けたモデルを定義する.さらに楽譜の指示を基準に用い,個々の演奏事例について定義したモデル群をその表情の特徴別に分類することで,任意の演奏事例に付与された表情の特徴と楽譜の指示との因果関係を体系的に記述した規則を構造化できる.この構造を辿ることで,未知の楽譜の指示に対応する演奏事例の候補が得られる.これらの候補の中から最適な表情を備えた演奏事例の系列を探索する問題を,動的計画法の適用によって解決する.客観評価実験により,提案手法は最適な事例の系列を効率的に探索できることを示した.また,主観評価実験によって提案手法による表情の品質の高さを確認したほか,多様な楽曲で演奏者に忠実な表情の特徴を再現できることを示した.なお,提案手法による演奏は,自動演奏表情付けシステムのコンテストにおいて自律生成部門の第1位を獲得している.
著者
山西 良典 古田 周史 福本 淳一 西原 陽子
出版者
Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.501-511, 2015
被引用文献数
1

インターネットの発展に伴って普及したWebレビューには,有用な情報が含まれている一方で不要な情報も含まれている.そのため,対象の評価視点および評価視点間の関係を捉えることは難しく,レビュー全文を閲覧することはユーザにとって大きな負担となる.本稿では,自由記述形式のレビューにおける評価視点とその評価視点間の関係が不明瞭という問題点を,レビュー構造の俯瞰によって解決可能であると考えた.提案手法では,評価視点の出現頻度とレビュー中の構文特徴を用いることで,レビュー構造の俯瞰に有用な呈示評価視点として,頻出の評価視点と頻出する評価視点に意味的に関連した評価視点を採択する.評価視点抽出実験の結果,評価対象の種別によらず,採択された呈示評価視点には高い適合率が確認された.そして,呈示評価視点採択時に用いた構文特徴を参照することで,獲得する評価視点間の関係の呈示を実現した.
著者
小松 孝徳 山田 誠二
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.500-512, 2008-08-15 (Released:2008-11-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究では,ユーザに対して特定の態度を想起させるような人工音を,それぞれ異なる外見を持つエージェントから表出させて,実際のユーザがそれらの人工音にこめられた態度をどのように解釈するのかを実験的に考察した.その結果,たとえ同じ人工音であってもその情報を表出するエージェントの外見が異なると,その人工音が必ずしも同じ意味として解釈されないことが明らかになった.具体的には,予備実験で選定した被験者に対して特定の態度を想起することができる8種類の人工音をMindStorms,AIBOといったエージェントから表出した場合,その態度一致率は,PCからの表出に比べて有意に低くなることがわかった.この結果は,同じ情報であっても外見の異なるエージェントからそれらを表出することで,異なる意味として解釈されてしまうことを明確に示していた.また,ポジティブ/ネガティブといった態度をユーザに解釈させる場合,1).エージェントの外見から予期できるような情報を用いた上で,2).その情報に対して「自然なエネルギーの流れから逸脱させるか否か」という属性を付与する,という二点を満たすことが重要だと考えられた.