著者
守岡 知彦
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.171-178, 2020-02-15

複数の包摂粒度を許容する漢字構造記述を内容アドレッシングを用いた分散データモデルの1つであるIPLDに基づいて実現する試みについて述べる.IPLDはMerkle DAGというデータ構造を用いている.これは暗号学的ハッシュを用いてラベル付けされた不変オブジェクトをノードとする有向非巡回グラフであり,オブジェクト間の関係は片方向しか表現できない.この制約の下で編集可能な文字知識を表現するために,不変性の高い基礎的オブジェクトへのリンクを含む複合的なオブジェクトによって可変性のある文字オブジェクトを表現するための形式を提案する.また,IPLDグラフの逆リンクや場所アドレッシングの実現手法について検討するとともに,既存のグラフストレージでの試験的実装についても述べる.
著者
畠山 正行 金子 勇
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.2060-2073, 1998-07-15

オブジェクトに基づくシミュレーションシステムは,大きな特長を持ちにもかかわらず,従来のモデリング方法との差異による違和感やプログラミング(実装)の難しさ等の実用技術上の難点のゆえにその普及ははかばかしくない.そこで本研究では,これらを克服すべくUNIXシステム上にオブジェクトシミュレーションシステムを構築する新規な方法論を提唱し,従来のシミュレーションシステムやUNIX環境との整合性が良くプログラム言語に依存しない,実用性の高いシステム構築方法の確立を目指す.そのために,UNIXファイルシステムのディレクトリをオブジェクト単位ととらえ,その構成要素であるファイルへのアクセスを同一ディレクトリ内からのプロセスに制限する.その目的実現のため,我々はオブジェクトの構成とUNIXシステムとの対応関係を見直してわずかなシステムを加えた.それを用いることでカプセル化および情報隠蔽化されたプロトタイプベース・オブジェクトの構成要件を満たし,オブジェクトとしての振舞いや相互作用条件も満たした汎用的なオブジェクトシステムとして再構成した.これに基づいてオブジェクトシミュレーションの実際例を構築・駆動させ,当初の目標をほぼ達成した.著者たち自身の使用経験によれば,従来のシステムと比較しても実装の簡潔性,分かりやすさ,使いやすさ,表現能力は良好である.結論として,すぐにでも実装・実行可能なほどに実用性の優れたオブジェクトシミュレーションシステムがUNIXシステムを再構成することで,実際に構築され,高い有効性や有用性が検証された.
著者
前田 敦司 中西 正和
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.574-583, 1997-03-15

本論文では,幅優先で式の評価を行う新たな計算機アーキテクチャであるキューマシンを提案し,その実行モデルを用いて関数型言語を特殊なハードウェアのサポートのない密結合並列計算機上で効率良く自動並列実行する言語処理系の構築法を述べる.関数型言語においては複数の関数呼び出しを並列に処理することが可能であるが,すべての関数呼び出しの実行が終了するまで待って実行を再開するための同期オーバヘッドが問題となる.また,通常スタックに保持する局所的な実行の文脈をヒープ上に保持する必要があるため,メモリ管理のオーバヘッドも増大する.本論文では,キューマシンの実行モデルを模倣してスタックをキューに置き換えることにより上記のオーバヘッドを大幅に削減することができ,既存の計算機上で並列関数呼び出しが効率良く実現できることを示す.この手法を用いたプロトタイプ言語処理系の実行時間を密結合並列計算機で測定した結果,逐次実行ではCなどの他の(逐次)言語処理系に劣るものの,2CPU以上では他の処理系を上回り,高い台数効果が得られている.
著者
藤木 淳 牛尼剛聡 富松 潔
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.3762-3771, 2007-12-15

人間は静止した2 次元画像の観測からだけでなく,2 次元動画像によるキャラクタの運動表現からも3 次元構造を解釈する視知覚特性を持つ.一方で,静止した2 次元画像から3 次元構造を解釈する際に,1 つの2 次元画像から推測される3 次元構造が一意に定まらない場合がある.我々はこのような2 次元動画像に対する3 次元解釈の視知覚特性を利用したインタラクティブなだまし絵表現を持つアニメーションシステムOLE Coordinate System のプロトタイプを考案した.また,プロトタイプで提案する5 種類のキャラクタのだまし絵表現の評価のために被験者実験を実施した.本論文ではシステム概要と5 種類のだまし絵表現について述べ,被験者実験から本だまし絵表現が鑑賞者の知的好奇心を刺激する効果とシステムの有効性を議論する.
著者
Yuta Hirasawa Hideya Iwasaki Tomoharu Ugawa Hiro Onozawa
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, 2022-10-15

Virtual machines (VMs) for dynamically managed languages such as JavaScript are generally implemented in C or C++. Implementation of VMs in such low-level languages offers the advantage of high flexibility, but it suffers from problems of descriptiveness and safety. These problems are due to the fact that even though a variety of VM operations are based on the VM's internal datatypes for first-class objects in the target language, the C code typically treats all VM internal datatypes as a single type in C. In addition, VMs implemented in C or C++ have a size problem which is a serious issue for VMs on embedded systems. The reason for this problem is the difficulty of eliminating unnecessary code fragments from the C code for a specific application. To solve these problems, we propose a domain-specific language for describing VM programs and a corresponding compiler to C programs, called VMDL and VMDLC, respectively. We also propose related utility tools. This framework enables generation of C source code for an eJSVM, a JavaScript VM for embedded systems. VMDL's concise syntax enables static VM datatype analysis for optimizations and error detection. We evaluated the framework and confirmed its effectiveness from both qualitative and quantitative viewpoints.------------------------------This is a preprint of an article intended for publication Journal ofInformation Processing(JIP). This preprint should not be cited. Thisarticle should be cited as: Journal of Information Processing Vol.30(2022) (online)DOI http://dx.doi.org/10.2197/ipsjjip.30.679------------------------------
著者
渡辺 大登 柗本 真佑 肥後 芳樹 楠本 真二 倉林 利行 切貫 弘之 丹野 治門
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.1564-1573, 2022-10-15

自動プログラム生成(APG)の実現を目指し,生成と検証に基づく自動プログラム修正(APR)を転用した手法が提案されている.APRはバグを含むソースコードをすべてのテストケースに通過するように全自動で改変する技術である.APRを転用したAPGでは,初期状態のソースコードを未実装,つまり複数のバグが含まれていると仮定し,ソースコードの改変,評価,選択を繰り返してソースコードを目的の状態に近づけていく.一般的なAPRでは改変ソースコードの評価指標として,テストケース通過数がよく用いられる.この指標は単一バグの修正を目的とした場合には問題にならないが,複数バグの修正時にはコード評価の表現能力不足という問題につながる.よって,初期状態に複数バグの存在を仮定するAPGにおいては,解決すべき重要な課題である.そこで,本研究ではAPGの成功率改善を目的とした多目的遺伝的アルゴリズムの適用を提案する.また,多目的遺伝的アルゴリズムによる高い個体評価の表現能力を利用した,相補的なテスト結果の2個体を選択的に交叉する手法も提案する.評価実験として,プログラミングコンテストの問題80問を題材に提案手法の効果を確かめた結果,成功率の有意な向上を確認した.
著者
新堀航大 兵頭 和幸 砂山 享祐 三上 貞芳
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.1170-1180, 2009-03-15

探査作業のような未知環境の下でロボットを用いるような研究が進められているが,ロボットのパーツの破損によって移動不可となる可能性などについては,まだ研究の余地が残されている.本論文では,ロボットが破損した場合でも,回収が困難な場合には破損部以外の利用可能なアクチュエータを用いることで移動法を再獲得するようなシステムを想定し,想定外の状況にもある程度適応できるような移動法獲得を,強化学習を用いて実現する.提案する手法では,脚形状から車輪形状などの想定外の形状へのアクチュエータモジュールの換装もある程度可能なシステムを前提とする.このような前提では新たな移動手順を広く探査することになるが,ロボットの移動機能を迅速に回復するためには,なるべく有用な行動を速く探査し利用することに重点を置く必要がある.このため,本研究では強化学習手法に対して,時間的信頼性に基づいた「行動価値の成長」と呼ぶ再探索手法を導入する.3D物理シミュレータによる6脚移動ロボットの実験により,提案する方法が比較的高速に良い候補となる移動法を獲得できていることが示されている.
著者
Masayuki Takeda Yusuke Shibata Tetsuya Matsumoto Takuya Kida Ayumi Shinohara Shuichi Fukamachi Takeshi Shinohara Setsuo Arikawa
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.370-384, 2001-03-15

This paper describes our recent studies onstring pattern matching in compressed textsmainly from practical viewpoints.The aim is to speed up the string pattern matching task in comparison with an ordinary search over the original texts.We have successfully developed (1) an AC type algorithmfor searching in Huffman encoded files and (2) a KMP typealgorithm and (3) a BM type algorithm for searchingin files compressed by the so-called byte pair encoding (BPE).Each of the algorithms reduces the search timeat nearly the same rate as the compression ratio.Surprisingly the BM type algorithm runs over BPE compressed filesabout $1.2$--$3.0$ times faster thanthe exact match routines of the software package {?tt agrep} which is known as the fastest pattern matching tool.
著者
山本 界人 水野 竣介 ターウォンマット ラック
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.2328-2335, 2014-11-15

本稿では,対戦型ゲームにおける戦略多様性の観点からゲームバランスの分析を自動的に行う手法を提案し,その有用性を評価した.ゲーム開発におけるゲームバランスの分析,調整は面白いゲームを作成するためには不可欠な要素である.一方で,その分析,調整のプロセスには時間的コストがかかる.開発期間に限りがあるゲーム開発の現場では,十分にゲームバランスの分析,調整を行うことができない場合も少なくない.このため,ゲームバランスを自動的に分析する手法が必要とされている.既存のゲームバランスの自動分析手法は,1つの状況を分析するために大きな計算時間を必要とする,もしくは事前に人間がゲームタイトルに依存する専門的な知識を必要とするものだった.このため,人間が知識を獲得していない,かつ多くの状況が存在するゲームへと適用する場合には大きな計算時間を必要とした.そこで,本稿では,Stochastic Genetic Algorithm(StGA)を用いて,専門的な知識なしに多くの状況を持つゲームを分析する手法を提案する.国際AI大会のプラットフォームとして利用されているFightingICEを対象にした実験から,本手法の有用性を確かめた.
著者
酒向慎司 宮島千代美;徳田恵一 北村正
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.719-727, 2004-03-15

隠れマルコフモデルに基づく音声合成方式を歌声合成に拡張することにより構築した歌声合成システムについて述べる.本システムでは,歌い手の声の質と基本周波数パターンに関する特徴をモデル化するため,スペクトルと基本周波数パターンをHMMにより同時にモデル化している.特に,自然な歌声を合成するうえで重要な要素となる音符の音階や音長の基本周波数パターンへの影響を精度良くモデル化するため,楽譜から得られる音階と音長を考慮したコンテキスト依存モデルを構築している.これらのモデルに対して決定木によるコンテキストクラスタリングを行うことで,未知の楽曲からの歌声合成が可能となっている.実験から,歌い手の特徴を再現し歌声の合成が可能であることを示す.
著者
黒田 満 斉藤 剛 渡辺 由美子 東 正毅
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.555-562, 1997-03-15

計算機援用の形状設計に有用な,曲率が弧長の区分2次関数となる曲率微分連続な補間曲線の導き方について述べている.弧長によってパラメトリック表現されるこの曲線は,曲率がスパン内に変曲点を持たず比較的変化が少ないという好ましい性質を持っている.汎用の数式処理システムを導入して与点通過と境界条件からなる非線形連立方程式を解いてこの曲線を導いている.記号式も数値と同様に処理できるのでアルゴリズムを簡潔に記述することができるとともに種々の境界条件をデータとして与えることができる.また,導出された曲線の各スパンをG2連続な2クロソイド弧で局所的に近似する方法を示して従来曲線との整合性をとっている.
著者
内田 奈津子 久野 靖 中山 泰一 Uchida Natsuko Kuno Yasushi Nakayama Yasuichi
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.1393-1414, 2021-07-15

現代社会において,プログラミングは義務教育の1つとなり,誰もが学ぶべきものとなったが,高等教育においては,プログラミングの内容を含む必須カリキュラムの実施には至っていない.新しいカリキュラムでは,言語を学びコードが書けるようになることを目的とするのではなく,プログラミングの概念を学び,その原理を理解することに加え,プログラムを活用するために,ソフトウェア開発プロジェクトの知識を含める必要があると考えた.著者らは,1科目のみで構成する,誰もが学ぶべき入門レベルのカリキュラムと位置づけ,プログラミング入門にPBL(Project-based Learning)を組み合わせた方法を提案し,この提案に基づき2単位90分15回のカリキュラムを構築した.本論文では,プログラミング入門にPBLを組み合わせたカリキュラムを設計・構築し,実践授業から得られたデータ(コンピテンシー評価,履修者の課題や最終レポートなどの提出物)をもとにカリキュラムの妥当性を検証した.
著者
中川 郁夫 米田 政明 安宅 彰隆
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.42, no.12, pp.2887-2896, 2001-12-15

近年,国内の各地において,地域内の通信を効率的に実現することを目的として地域IXを構築するケースが増えている.地域IXは通信の効率化をはかるだけではなく,地域内通信の安定性の向上や耐障害性の向上などにも効果が期待されている.富山地域においても1998年に地域内にIXを実験的に構築し,地域内のプロバイダや大学,研究機関など計10以上の組織間で相互接続を行ってきた.著者らは富山地域IXを中心として経路情報や通信状態などの観測を行い,地域ユーザ間の通信経路の安定性に関する研究を行った.本論文では通信経路の安定性に関する評価関数を定義し,富山地域IXで得られた観測結果をもとに,地域IXを介さずに行う通信に比較して地域IX経由の通信経路が非常に安定していることを示す.また,不安定な経路では経路の変化にともなって深刻な問題が発生することがある.本論文では地域ユーザ間の通信が地域外を経由する場合に経路の変化にともなう通信障害や通信品質の変化が発生しうることを実例を用いて述べ,地域IXの実現によりこれらの問題を回避できたことを示す.
著者
正木 博明 柴田 健吾 星野 秀偉 石濱 嵩博 齋藤 長行 矢谷 浩司
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.1892-1902, 2020-12-15

ナッジは人の選択肢を奪うことなく人の行動をある方向に誘導するものである.本研究では,若年層ユーザがSNSにおけるプライバシや安全上の脅威を避けるためのナッジの効果を検討した.プライバシや安全上の脅威に関する9つのシナリオにおける若年層SNSユーザの意思決定が,15種類の異なる警告文のナッジによってどのように変化するのかを比較するオンライン調査を実施した.若年層SNSユーザから合計38,606回答を収集し,異なるナッジが回答に与える影響を統計的に分析した.最後に,若年層SNSユーザのためのナッジデザインのデザイン指針を述べる.
著者
熊田 ふみ子 倉橋 節也
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.1331-1344, 2022-07-15

SDGs(持続可能な開発目標)に代表されるように,相互に関連しあい複雑な問題に直面している現在,個人では正解を導き出すことは難しい.そのために,1人1人の知識だけでは創造できない高次元の集合知が求められている.そして,集合知を生み出すためには,ファシリテーションが重要といわれている.そこで本研究は,ダイバーシティ・マネジメントの研究分野のフォールトライン(以下,FL)理論を応用して,議論のプロセスを可視化する.そのうえで,議論の進行と集合知の生成関係と,そのプロセスへのファシリテータの関与を明らかにすることを目的とする.FLとは,グループを1つ以上の属性によりサブグループ(以下,SG)に分ける仮想の分割線である.実際に議論された内容をテキストデータに起こし,議論の特徴語を分散表現でベクトル化する.そのベクトルを特徴語の属性と見なし,10発言を1つのグループにして特徴語の関係性をFLとSGで測る.そして,移動平均法を用いて,議論の発散・収束プロセスをFLの強さ,多様性をSG数の変化で可視化する.その結果,特徴語を引継ぎながら発言が続いた後に,ある特徴語を中心に収束し,新たに拡大に転じることによりFLが収束・発散を描き,その過程で補完による集合知に発展する可能性がある話題展開が発生することが分かった.また,そのプロセスにおいて,ファシリテータがテーマを絞り込むことが重要であることも分かった.
著者
水野 淳太 渡邉 陽太郎 エリックニコルズ 村上 浩司 乾 健太郎 松本 裕治
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.3408-3422, 2011-12-15

情報検索技術の発展により,あるトピックに関連する多様な情報を容易に入手できるようになった.しかしながら,これらの文書に記述されている情報には,不正確な記述,偏りのある意見などが多数混在している.そのため,個々の情報や意見の信憑性を判断するためには,多様な情報源からの意見との整合性を調べる必要がある.しかし,限られた時間で数多くの情報源を調べることは難しいため,ユーザが持っている先入観が正常な判断を妨げてしまう場合がある.我々は,そのような状態を避けるために,言論マップ生成課題に取り組んでいる.これは,検索された文について,まず,トピックに対する賛成意見であるのか,それとも反対意見であるのかを分類し,次に,賛成および反対する根拠を含むかどうかを認識し,それらを俯瞰的に示すというものである.本課題において最も重要な問題は,1組の文対が与えられたときに,その間の意味的関係を分類する文間関係認識である.これは近年さかんに研究されている含意関係認識と重なる部分が多い.しかしながら,ウェブ上の実文に対して既存の含意関係認識を適用しても,その分類性能は限定的であるという報告がある.そこで,我々は,評価用データセットとその分析に基づく文間関係認識モデルを構築した.本論文では,検索された文において,クエリの内容に対応する部分を正しく同定することが,最も重要な技術的課題であること,また,いくつかの制約を変化させることで,関係分類の精度と再現率を制御できることを示す.
著者
竹内 俊貴 田村 洋人 鳴海 拓志 谷川 智洋 廣瀬 通孝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.2441-2450, 2014-11-15

本研究では,個人の電子的な生活記録であるライフログとあらかじめ決まっているスケジュールに基づいて,未来のタスクの進捗状況を予測・提示することで,円滑なタスク進行を促す手法を提案する.複数のタスクの重複による管理の煩雑さや,人間の時間選好性によるプランニングの誤りにより,将来的なタスク状況を適切に意識できずに破綻が生じることがある.提案手法は,未来のタスク状況を逐時フィードバックすることで,作業量を修正するようにユーザに自発的に行動変化を起こさせる.自由記述形式のライフログを取得する実験から,日常行動を「睡眠,食事,生活,タスク,予定,移動,余暇」の7項目に分類することとした.ユーザは各行動に当てた時間をスマートフォンを用いて記録し,また,Webカレンダを用いてあらかじめ定まっているスケジュールを記録する.これらの情報から,簡単な単回帰モデルによる未来予測を行い,馴染みのある日記を模したインタフェースに未来のタスクの進捗状況を提示するシステムを構築した.ユーザスタディにより,予測提示が被験者の行動に影響を与えたことを確認した.また,提案システムにおいては,日記を模したインタフェースが,グラフを用いたインタフェースよりも有用であるという評価が得られた.
著者
安齋 潤 松本 勉
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.8, pp.2344-2351, 2006-08-15

近年,移動体の位置情報を利用したサービスがさかんに研究されている.移動体のような物理オブジェクトの測位方式として複数の方式(GPS やRFID 等)が存在する.異なる測位方式を備えた複数の位置情報(位置トークン)の提供者,その位置トークンを用いて自身の位置を証明する証明者,位置トークンにより証明者の位置を検証する検証者からなる位置トークンモデルを考える.位置トークンモデルでは,測位方式の違い等により位置トークンの形式も異なる場合があり,必ずしも検証者がトークンを検証可能とは限らないという問題がある.本論文では,検証者に代わり位置トークンを検証する位置証明機関を想定することで,このような位置トークン検証問題を解決する.また,位置証明機関による位置トークンの検証方式についても検討する.
著者
田中 一晶 小山 直毅 小川 浩平 石黒 浩
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.622-632, 2018-02-15

人とインタラクションを行うロボットの感情表現は,感情状態をそのまま表現するか,感情状態とは無関係に社会性を表現するか,いずれかの方針で設計されている場合が多い.本研究では,これらの感情表現を情動的表現,社会的表現と定義し,新たに両方を組み合わせた感情表現手法を提案した.人が愛想笑いを行うとき,目元の表情には感情が不随意に表れるが,口元の表情を随意に変化させて微笑むといわれている.この知見に基づいて,提案手法では,目元は情動的表現によって,口元は社会的表現によって表情を決定する.人との対話実験において,提案手法を実装したロボットと一方の感情表現しか行わないロボットとを比較した結果,提案手法は人間らしい印象と社会的な印象の両方において高い評価が得られる可能性が示唆された.さらに,親密さの評価として,友だちになりたいなど,強い社会的結合を必要としない項目の評価では社会的表現が有効に働くが,一緒に生活したいなど,より強い社会的結合を必要とする項目の評価では,情動的表現も必要であることが示唆された.
著者
池上 祐太 山内 利宏
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.2047-2060, 2014-09-15

標的型攻撃でカーネルルートキットを使用する事例が増加している.カーネルルートキットに感染した場合,標的型攻撃の検知までに要する時間が長引き,計算機への被害が拡大する可能性がある.攻撃による被害の抑制には,カーネルルートキットの早期検知が重要である.しかし,既存のルートキット検知手法は,カーネルルートキットを早期に検知できるものが少なく,カーネルの拡張性を制限するという問題がある.そこで,カーネルルートキットに感染前と感染後のカーネルスタックの比較により,カーネルルートキットを検知する手法を提案する.提案手法では,カーネルルートキットに改ざんされる可能性の高いシステムコールの発行後に呼び出される正規のシステムコール処理ルーチンの呼び出し前に,処理をフックし,その時点のカーネルスタックの情報をホワイトリストと比較する.また,正規のカーネルモジュールの情報を事前にホワイトリストに登録しておくことで,提案手法による誤検知を防止する.本論文では,提案手法の設計,Linuxを対象とした実現方式,および評価結果を報告する.