著者
千代 浩之 山崎 信行
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.2227-2237, 2010-12-15

Responsive Multithreaded Processor(RMTP)のアーキテクチャはSimultaneous Multithreading(SMT)にリアルタイム処理で用いる優先度を導入した優先度付きSMTアーキテクチャである.RMTPでは同時に実行するタスクの組合せにより,最高優先度以外のスレッドで実行するタスクの実行効率が変動してしまうので,これらのタスクのリアルタイム性を保証することは困難である.最高優先度以外のスレッドでリアルタイム性を要求しない拡張インプリサイスタスクの付加部分を実行させることで,付加部分の実行割合を向上させることが可能である.拡張インプリサイスタスクを用いた準固定優先度スケジューリングアルゴリズムRate Monotonic with Wind-up Part(RMWP)はシングルプロセッサ用なので,優先度付きSMTプロセッサに適用できない.本論文では,最高優先度以外のスレッドで実行するタスクの付加部分の実行割合を向上させるために,RMWPを拡張したResponsive RMWP(R-RMWP)を提案する.スケジュール可能性解析では,R-RMWPのスケジュール可能上限はRate Monotonicのスケジュール可能上限と等しいことを証明する.シミュレーション結果では,R-RMWPはRMWPより付加部分の実行割合が向上したことを示す.Responsive Multithreaded Processor (RMTP) has the Simultaneous Multithreading (SMT) architecture with priority for real-time processings, called prioritized SMT architecture. In RMTP, execution efficiencies of tasks executing in threads except the highest priority thread fluctuate by multiple combinations of tasks executing simultaneously so that it is difficult to guarantee real-time properties of the tasks. When optional parts of extended imprecise tasks not requiring real-time properties are executed in threads except the highest priority thread, reward ratios of optional parts can be improved. Rate Monotonic with Wind-up Part (RMWP), which is a semi-fixed-priority scheduling algorithm with extended imprecise tasks, is for a single processor and cannot be adapted to the prioritized SMT processor. This paper proposes Responsive RMWP (R-RMWP), which is an extension of RMWP to improve reward ratios of optional parts. The schedulability analysis shows that the least upper bound of R-RMWP is the same as that of Rate Monotonic. Simulation results show that R-RMWP improves more reward ratios of optional parts than RMWP.
著者
本田 雄亮 間 博人 村上 広記 津崎 隆広 三木 光範
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.2015-2022, 2017-12-15

自転車競技では,定められたコースを効率的に走破するために,体力管理が重要となる.長い坂を登るヒルクライムでは,適切なペダリングが難しいため,体力消費が激しい.プロの競技者は,自身の感覚や経験に基づいたペダリング技術を持つが,初級者にはその技術の習得が難しい.本研究では,自転車競技のヒルクライムにおけるペダリング技術の向上を目指したペダリング支援システムの提案と開発を行う.提案するシステムは,自転車のスピードとケイデンスから現在のギア比を推定し,競技者の心拍数に合わせてギア変更とペダリングの指示を行う.本稿では,ギア比の変更とペダリングの指示を行うデバイスの実装と評価を行ったのでこれを報告する.
著者
滝澤 修 山村 明弘
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.320-323, 2004-01-15

視覚復号型秘密分散法の考え方を自然言語テキストに適用した新しい秘密分散法を提案する.提案手法は,日本語テキストを対象とし,複数枚の分散テキスト(share text)を重ね合わせて,上層から下層に読んでいくと,その文字列の中に秘密テキスト(secret text)が現れるようにするものである.重ね合わせて得られた文字列の中から秘密テキストを抽出する際には,意味を持たないフレーズが1文字の形態素の連鎖になる割合が多い性質を利用して,形態素解析器を使用する.
著者
石井 健太郎 香川 将樹 島谷 和樹
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.2127-2138, 2019-12-15

パスワード/パスコード認証やパターンロック認証では,認証場面ののぞき見により他者が不正認証を受けるための情報を取得することが容易である.本研究では,この問題の低減を目指して,ワンタイム図形生成に基づく認証手法を提案する.提案手法では,正規のユーザが知る認証図形群生成ルールに基づいて,ワンタイムの正解図形とダミー図形を生成して画面に提示する.被認証者は,提示された図形群の中から正解図形を選ぶことによって認証を受ける.画面にはつど生成された図形が提示されるため,のぞき見が行われた場合であっても正解の手がかりをつかみにくいことが期待できる.詳細な検討の結果,提案手法の認証図形群生成ルールとして,4カテゴリ12ルールを定義した.定義したルールについて,1名の実験参加者が認証を受けている場面をもう1名の実験参加者がのぞき見を行う評価実験を行ったところ,のぞき見を認めているにもかかわらず高い本人パス率と他者拒否率を示し,同様の既存手法と比較してのぞき見への対策性能が高いことが示された.
著者
中澤 仁 望月祐洋 徳田 英幸
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.2573-2584, 1999-06-15
参考文献数
19
被引用文献数
2

既存アプリケーションのホスト透過的な移送を実現する ホスト透過型オブジェクト移送モデルを提案する. 本モデルは プロセス移送や分散ウィンドウシステムにはないプラットホーム独立性を提供し さらにオブジェクトを単位として移送の粒度を柔軟に制御できるのが特徴である. 本研究で Java 言語によって実現したホスト透過型オブジェクト移送システム Mogul は 既存アプリケーションコードに対する変更をともなわずに ホスト透過的なアプリケーション移送を実現する. Mogul では アプリケーションを移送可能オブジェクトとホスト依存オブジェクトとに動的に分離し それらの間のメソッド呼び出しをリダイレクトする 動的メソッドリダイレクションによって透過性を確保している. 本論文では アプリケーション移送の実現手法を比較検討したうえで Mogul の機能および特徴を示し 実装と評価について報告する.This paper proposes a transparent object migration model which enables existing applications to migrate between hosts without depending on platforms. The key issues are transparency and reusability of existing applications to exploit application mobility for mobile computing. In this research, we have developed an object migration system named Mogul with Java. Using Mogul, existing applications can migrate transparently Without changing their code. The novelty of Mogul is Dynamic Method Redirection which provides applications transparency. In this paper, at first, some conventional approaches for migration are presented with discussion of their features. Then we describe design and implementation of Mogul, and finally, usability of Mogul is discussed based on the result of evaluations.
著者
山下 直美 葛岡 英明 平田 圭二 工藤 喬
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.1706-1715, 2014-07-15

本論文の目的はうつ病患者の家族看護者が直面する困難を明らかにし,家族看護者が生活の質を維持するために必要なICT支援について提案を行うことである.そのため我々は,家族のうつ病患者を看護した経験がある成人15名に対面インタビューを行い,分析を行った.その結果,家族看護者が抱える矛盾や葛藤,家族看護者が自身のストレス軽減のために取っている方策,そして情報技術が彼らの日常生活に果たしている機能が明らかになった.この調査結果に基づき,うつ病患者の家族看護者に対するICT支援方法を検討した.
著者
吉田 健一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.959-967, 2021-03-15

株価予測は学問的にも実務的にも重要な研究テーマであり,伝統的なファイナンスの観点から古くから研究されてきた.また近年では深層学習などデータマイニングの手法を使った研究もさかんである.本報では,日次の終値の変化と標準偏差のみを入力に用いたGradient Boosting Decision Tree法が代表的な株価インデックスであるTOPIXや日経225先物の翌日の値を予測可能であり,代表的な取引手法であるインデックス投資と比較して超過収益が得られることを示す.この結果は月次データに関して報告した代表的な株価インデックスが持つ特徴と同じ特徴(株価の分析における混合分布分析と学習期間調整の重要性)が日次データにも存在することを示している.本報では,学習期間調整の重要性は日次の方が顕著であり,また日経先物の分析結果からは限月という先物特有の要因が有効な学習期間に影響している可能性も指摘する.
著者
加藤肇彦 高野 忠 上杉 邦憲 周東晃四郎 山田 隆弘 金川 信康 井原 廣一 田中 俊之
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.35, no.9, pp.1936-1948, 1994-09-15
参考文献数
23
被引用文献数
2

衛星搭載用高信頼コンピュータ開発と、その運用による実証について報告する。高い信頼性が要求される衛星搭載用コンピュータの構成要素として、高価で低集積度の宇宙用半導体に比較した地上用半導体の利点に着目し、その短所を補強しながら、高信頼の衛星搭載用コンピュータを構成する方法を検討した。宇宙線の入射による劣化と誤動作に加え、衝撃、振動、温度環境、重量・寸法・消費電カの制限は、いずれもソフトウェアとシステム構成への厳しい要求条件となる。そしてこれらのすぺてを満足するアプローチとして、フォールトトレランス方式を採用した。フォールトトレランス方式を空間ダイバーシティと時間ダイバーシティに大別し、空間ダイバーシティを部品内レベル、部品間レベル、システムレベルで実現した。特にシステムレベルでは処理ユニットを多重化し、緩い同期による出カの多数決をはかった。空間ダイバーシティに宿命的に付随するシングルポイント故障を回避するために、時間ダイバーシティ、具体的には出力フィードバックを採用し、空間・時間ダイバーシティを含めた診断アルゴリズムを創出した、さらに、各状況における最も正しい出力の選択のために、ステップワイズ・ネゴシエーティング・ボーティングの診断法を考案した。最後にこれらの各高信頼化技法を実機で実現し、軌道上で運用してその正当性を実証した、今後は実績をもとにさらなる拡張発展をはかる。
著者
神田 陽治 平岩 真一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.8, pp.1855-1864, 1995-08-15
参考文献数
9

「場面に応じた音声情報空間」は、作業者の行動領域を分割した部分空間の集まりであり、各部分空間にはそれぞれ作業が割り当てられ、それぞれの作業の遂行に必要とされる音声情報が流される。場面に応じた音声情報空間は、共同作業用のアプリケーションの構築に生かせる次のような特徴を持っている。一人の作業者が音声情報空間を移動すれば、次々と異なる音声情報を聞くことになる。複数の作業者が同一の音声情報空間に入れば、同じ音声情報を聞くことになる。我々は、この特徴を生かす応用例として、議事録を会議の発言に遅れずに作成できる、議事録作成ツールを試作した。本議事録作成ツールでは、重要な発言はいったんボイスメモとして記録される。ついでボイスメモは、議事録作成者によりテキストメモに起こされ、議論の流れが議事録として、進行中の議論を追う形でまとめられる。ボイスメモの内容が明確である場合、ボイスメモは議事録作成者のみに聞こえれば十分である。しかしそうでない場合、ボイスメモの内容を全員が聞いて、内容を明確にする必要がある。本議事録作成ツールは、複数個の場面に応じた音声情報空間をうまく使い分けることにより、どちらの再生要求にも応じられる。試用結果を通じ、場面に応じた音声情報空間の助けにより、議事録作成者が会議の調整役として貢献できる可能性が示された。
著者
山本 眞也 村田 佳洋 安本 慶一 伊藤 実
出版者
一般社団法人情報処理学会
巻号頁・発行日
2006-02-15

本論文では,ネットワークゲーム向け分散型イベント配送方式を提案する.本方式は,ロビーサーバを用いたHybrid P2P の環境で多人数参加型ネットワークゲームを実現することを目的としている.これを実現するため,ゲームで発生するイベントの登録・通知をゲーム領域の分割によってできた部分領域ごとにゲーム参加者の計算機に担当させ,分散処理させる.各領域のプレイヤ数が増加してイベント通知を担当する計算機の負荷が高くなると,複数の計算機からなる負荷分散木を動的に構築し,イベント通知を負荷分散木を経由して行うことで1台あたりの負荷を軽減する.また,負荷分散木上のノードの動的入れ替えによる,エンド・エンドのイベント配送遅延の短縮法,各プレイヤの視界が複数の部分領域にまたがる場合のイベント配送法を提案する.LAN環境で動作するプロトタイプシステムによる実験と,ns-2によるシミュレーション実験を行い,提案手法が現実のネットワークゲームを実現するうえで,実用的な性能を達成できることを確認した.In order to achieve multi-party networked games with lobby server in Hybrid P2P enviroments, we propose a publish/subscribe based distributed event delivery method. In our method, a shared game space is divided into multiple sub-areas and some nodes are selected from all players to deliver game events occurring in their responsible areas to player nodes. This method also includes a load balancing mechanism which allows each responsible node for the crowded area to dynamically construct a tree of multiple nodes and deliver events along the tree to reduce event forwarding overhead per node. We also propose techniques (1) to reduce end-to-end event delivery latency by dynamically replacing nodes in the tree, and (2) to efficiently deliver events to players who have visible areas over multiple sub-areas. Experiments in LAN using our prototype system and through simulations with ns-2, we have confirmed that the proposed method can achieve practical performance for MMORPG.
著者
久野 文菜 近藤 拓弥 松本 拓磨 山本 玲 畑中 衛 濱川 礼
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.737-745, 2020-03-15

本論文では任意の画像から,画像内に存在する物体の図形の構造を考慮した絵描き歌を自動生成するシステムについて述べる.相手に物事を説明するシーンにおいて,口頭のみでの説明と比べ,それに絵を加えた説明のほうが聞き手に強い印象を与えることができる.しかし絵を描くことに対して苦手意識を持つ人は,絵を描いて説明するということに対し羞恥心を感じ,口頭のみでの説明を行わざるを得なくなる.そこで我々は絵を描くことに対して苦手意識を持つ人が気軽に絵を練習できる方法として絵描き歌を提案する.任意の絵に対して,いちいち絵描き歌を人が作成するのは非常に手間がかかるため,我々は任意の画像から自動で絵描き歌を生成するシステムを開発した.さらに物体の構造に着目することでより人間に理解しやすい絵描き歌手法を提案する.従来の絵描き歌の歌詞は物体を構成するパーツの形状をとらえて作成されており形状に対するユーザの理解を促進するが,絵を描くのに必要な『位置関係』については触れられていないため,本手法では従来の歌詞に加えてパーツの位置関係も明示することにより,さらに詳しく物体の特徴をとらえることを可能にした.ユーザは絵描き歌にしたい対象を撮影し,システムに入力する.システムはユーザが撮影した画像を受け取り,パーツ分けをする.その後パーツごとの構造(形状・位置関係)を取得し,それに合わせた歌詞を自動生成する.本システムについて評価を行った結果,本システムを利用することにより絵を描くことに対する苦手意識の低減につながることが確認できた.
著者
熊本 忠彦 伊藤 昭
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.422-432, 1999-02-15
被引用文献数
1

対話は対話者同士による協同作業であるため 発話の形式や内容だけでなく 対話の進め方なども話し相手によって大きく異なる. しかしながら 機械である対話システムとの対話においてユーザがどのように振る舞うのか ヒューマンファクタに関する解析は十分とはいえず 頑健な対話システムを開発する際の妨げとなっている. 対話システムにユーザとの対話を通して何らかの課題を解かせ その課題を解くまでの対話量を競うというコンテスト(DiaLeague'97)がWWW (world-wide web)ページを介して行われた. 本稿では当コンテストで得られた対話(728対話)のうち 最も頑健であった対話システムとユーザとの対話(141対話)を中心に分析し 機械である対話システムとの対話においてユーザがどのように振る舞うのか 特に対話システムの頑健性に関する要因に焦点を当て調べた. その結果 (1)ユーザはデス・マス調で発話する (2)ユーザは間接的な発話形式を採用することがある (3)ユーザ発話数の増加にともない 異なり形態素数は対話の順番に関係なく増えているが 発話パターン数はユーザ先手のときの方がハイペースに増えている (4)ユーザはシステムの発話パターンをまったくそのままの形では再利用しない (5)ユーザは文脈から外れた予想外のシステム発話に対しても好意的に振る舞う (6)「わかりません」というシステム発話やシステム発話の反復に対して ユーザは 自分の発話を修正して言い直すことよりも 発話内容そのものを変え まったく別のことを発話する方を好む (7)発話理解や対話処理に失敗したときにはシステム発話の繰返しという対話戦略が有効であるといったことが分かった.A dialogue is a collaboration between dialogue participants. Therefore, identification of a conversational partner influences not only the form and contents of an utterance but also the context and expansion of a dialogue. The human factors in a man-machine dialogue, however, are not obvious enough to understand with regard to how people talk with a dialogue system. DiaLeague'97 was the second dialogue contest in which a natural language dialogue system engaged in a dialogue with a human to solve a specific problem. Each of the dialogue systems that participated in the contest obtained a score according to the amount of dialogue with a contest participant. this contest was held on the WWW (world-wide web) pages for one week, and the five dialogue systems had 728 dialogues with Internet users. We analyzed mainly the 141 dialgues between the users and the robustest dialgue system, and investigated the dialogues at the utterance and dialogue levels. As the results, we found the followings: (1) users talked to a dialogue system in a polite manner, (2) users did not always make a sentence using the direct speech, (3) the number of different words increased similarly either in user first or system first, and the sentence patterns observed in a dialgue were richer in variety when the dialogue began with a user question or request, (4) users were not influenced by system sentence patterns in making a sentence,(5) users did not ignore an unexpected system utterance, (6) users preferred to change the contents of their utterance rather than to express it differently when the dialogue system said "I don't understand," and repeated a system question, and (7) dialogue confusion which was caused by the failure of spoken language understanding and dialogue processing was often recovered by repeating a system question.
著者
平井 誠 北橋 忠宏
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.240-249, 1987-03-15
被引用文献数
1

計算機による日本語文解析には動詞の表層格構造が広く用いられているが その際の主要な問題点として 1)名詞句内の多様な助詞表現をいかに格構造記述に吸収し 文解析に利用するか 2)助動詞および補助用言によって惹起される表層格構造の変化にどう対応するか という2点が挙げられる.1)については 名詞句の構文的特性を一組の格助詞で表現された表層格と助詞列から一意的に決まる"格の強度"という2属性で表現した.格助詞を含まない名詞句に 格助詞で表現された表層格を与えるために 係助詞と副助詞に対してそれらが代行可能な格助詞を"潜在格"として付与した.これにより 表層格構造が格助詞だけで記述可能になるとともに 単文の形態的制限を格構造に反映することが可能になった.2)に関しては 助動詞「させる られる たい できる」 補助用言「もらう する おく やすい」等について格変化の様式を決定する構文的および意味的特性を整理し 各々に対応する格構造変換規則としてまとめるとともに一般的な用言句の表層格構造を自立語用言の格構造から生成する手続きを示した.格変化の様式を決定する要因は1)格構造に含まれる格の種類 2)意志性 3)「移動 変化 発生 消滅」という観点からみた動詞の概念的構造 4)動詞の格要素間の関係(因果関係 物理的関係 パラメータ的関係) 5)格要素の有生無生の別である.
著者
鶴田 節夫 鬼塚武郎
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.427-438, 1989-04-15
被引用文献数
7

産業分野におけるエキスパートシステムの開発が盛んであるが 1人の専門家を代行するエキスパートシテムが中心である.現実社会では複数専門家の協議の必要な大局判断が判断業務のネックとなる場合が多いが 目標や制約が複雑・不明確かつ競合するため その計算機化は難しい.例えば 列車タイヤ作成など列車(運行)スケジューリングでは 列車・旅客・運用など各関係の専門家間の利害調整や協議がネックになる.本論文では 列車スケジューりングを具体例に 大局判断ネックの軽減を目的として複数専門家の推論・協議を計算機と1人の人間(熟練者でなくても良い)により代行可能とする協調推論型知識情報処理の一方式を提案する提案方式は オブジェクト指向やアクタ理論をベースとするが 「オブジェクトの理論的表現であるアクタ理論のアクタとは異なり 1人の専門家に相当するオブジェクトをアクタ(俳優 登場人物.ただしユーザである1人の人間もアクタと考える)として 一般のオブジェクトと区別して概念化し 複数のアクタが互いに関連する要求や問題点をメッセージバッシングにより交信するための枠組としての協議劇」として スケジュール立案のための複数専門家の推論や協議すなわち協調推論をモデル化するものである.実験システムを開発し その有用性を示す.
著者
稲葉 通将
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.11, pp.1779-1791, 2021-11-15

本論文は,プレイヤ間で会話することで進行するパーティゲーム「人狼ゲーム」を題材とし,自然言語によりユーザに上手に説得されることでユーザを楽しませる対話システムの構築手法を提案する.提案システムはゲームの状況とユーザとの対話の流れに応じて適切な応答を複数の応答候補から選択することで対話を進めるものであり,そのためのマルチタスク学習に基づくニューラルネットワークモデルを提案する.また,自然な説得対話の実現には,システム側はユーザの説得に徐々に応じるように態度を少しずつ変化させる必要がある.そのための手法として,自然な説得の受諾を実現するためのデータドリブンな説得対話管理手法を提案する.実験ではデータに基づく客観評価とユーザとシステムが実際に対話を行う主観評価の両方を実施し,ベースラインシステムと比較して自然かつ楽しい対話が可能であることが確認された.
著者
小野束 江川雄毅
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.880-890, 2004-03-15
参考文献数
7
被引用文献数
3

デジタルコンテンツの著作権保護手段として電子透かしが用いられている.しかし,最近は不正コピーの形態も変化しつつある.デジタルデータを不正にコピーする問題以外に書店などでカメラ付き携帯電話により書籍のコンテンツを無断撮影することが社会問題となっている.本論文ではこのような印刷物からの画像撮影に対して抑止力として電子透かしが利用できるか否かを主眼に,印刷耐性のある電子透かしの提案と問題点について検討した.A digital watermark is used as a copyright protection of digital contents. However, illegal copy tools are changing and developing recently. These becomes such a social problem as taking a picture of the book without permission by using the cellular phone with the camera in the bookstore. In this study, a digital watermarking scheme which is robust against such pictures is proposed. Moreover, the watermark is examined for the robustness when the scheme is applied to the image of printed media.
著者
田村 晃裕 高村 大也 奥村 学
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.1954-1962, 2006-06-15
参考文献数
12

既存の質問応答システムは,複数文で構成される質問には答えられない.そこで,我々はそのような複数文質問にも対応できる質問応答システムの構築を目指す.その第1 段階として,複数文質問の質問タイプを同定する手法を提案する.具体的には,まず最初に,入力として与えられた複数文質問から質問タイプを決める際に最も重要な1 文を抽出する.そして,その抽出された1 文を用いて質問タイプを同定するという手法をとる.また,本論文では,質問タイプを同定する際に有効な情報となる名詞を特定するルールも提案する.複数文質問を含んだ実験データに対して,これらの情報と手法を用いて質問タイプを同定することで,F 値が8.8%,正解率が4.4%改善できた.Conventional QA systems cannot answer to the questions composed of two or more sentences. Therefore, we aim to construct a QA system that can answer such multiple-sentence questions. As the first stage, we propose a method for classifying multiple-sentence questions into question types. Specifically, we first extract the core sentence from a given question text. Then, we use the core sentence in question classification. We also propose a rule for extracting the effective noun in question classification. The result of experiments with the dataset including multiple-sentence questions shows that the proposed method improves F-measure by 8.8% and accuracy by 4.4%.
著者
吉見 憲二
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.2119-2126, 2021-12-15

近年,多くの大学で研究における倫理審査が導入されてきているが,内輪での非公開の審査にとどまっており,倫理面への配慮よりもアリバイ証明としての側面が強くなっているとの批判がある.同時に,複雑化する情報社会では潜在的な倫理面の問題に対応できる研究倫理審査に期待される役割も高まってきている.本稿では,倫理審査に関する先行研究を概観したうえで,現行の倫理審査や倫理審査委員会がかかえる課題について整理した.さらに,情報社会学分野で近年倫理面での問題が注目された事例を取り上げ,倫理審査が与える影響について検討した.最後に,倫理審査委員会3000個問題とも呼ぶべき現状に対して,2つの観点から解決策を提案する.
著者
高橋 克巳 梅村 恭司
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.8, pp.1906-1915, 1995-08-15

日本人名のかな表記にゆれとよばれる変形が存在し、日本語情報検索システムの問題となっている。本論文では人名のかな表記にゆれが存在してももれのない検索を可能とする近似文字列照合法を提案する。ゆれの問題に対処するためには表記を統一して検索を行うことが一般的であるが、現在かな表記を統一する墓準は明らかではなく、そのため統一すべきゆれが多種になった場合の対策も明らかになっていない。本文では日本人名約3 000万件を解析し、姓のゆれのデータを収集分析する。その結果、娃は9万種の姓のゆれ単位に分類できること、実データ上で58%の姓に何らかのゆれが存在すること、ゆれの原因は連濁などの接続部の変化が大部分を占めることを明らかにする。さらにこのゆれの関係に墓づいた正規化による照合を提案する。すなわち、実際にすべてのゆれを21 276組の文字列の等式関係で記述し、そこから自動的に15 841の正規化規則を作成して照合する方法を提案する。この正規化規則を使った照合法を人名の分布にしたがった検索に適用し、再現率と適合率の観点から評価を行った。その結果、93%の適合率を達成したうえで、完全一致検索では1検索あたり15%存在していたゆれによる検索もれを解消した。人名についてかな表記のゆれが荏在してももれのない検索が可能となった。
著者
北井 克佳 吉澤 聡 マシエルフレデリコ 鍵政 豊彦 稲上 泰弘
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.39, no.11, pp.3044-3053, 1998-11-15
参考文献数
20
被引用文献数
2

並列計算機のスケーラビリティを活かした並列ネットワーキング方式について検討した.複数のネットワーク・インタフェースを用いて同一クライアントと双方向通信を可能とするOSの機能拡張により,並列通信による通信性能の向上とインタフェース間の負荷の均一化によるシステム性能の向上を図った.32ノード構成の研究用並列計算機Paradise (Parallel and Data?way Oriented Information Server)を用いて評価した結果,6並列通信で転送量50MB以上の場合には通信性能が5.6倍に向上した.This paper discusses the parallel networking feature that supports performance scalability to the number of network interfaces.On our experimental parallel processor,Paradise(Parallel and Data-way Oriented Information Server),we have developed a new IP routing feature that allows every network interface to communicate to and from the same client processor,thus providing scalable high-performance communication not only for a single session by using multiple network interfaces,but also for total system throughput by balancing the sessions among the network interfaces.The results of performance evaluation,using six Ethernet nodes on Paradise,ATM-LAN and three workstations,has demonstrated the effectiveness of this parallel networking feature.