著者
黄 錫炯 辻野 嘉宏 都倉 信樹
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.1003-1011, 1995-04-15
参考文献数
10
被引用文献数
1

オブジェクト指向プログラミングにおいて、品質の良いプログラムを作成するためには、プログラムの性質と構造などを厳密に理解した上でプログラムの複雑さを減らすための方法を考える必要がある。オブジェクト指向プログラムでは、プログラムの複雑さはクラスの間のメッセージ転送より発生するクラス間の相互依存関係に起因する。この考え方に基づいて、クラス間の不必要な相互依存関係を減らすためのプログラミングスタイルに関する規則としてデメテノレの規則(TheLawofDemeter)が知られている。しかし、その定義が非常に暖味であるため、いろいろな解釈が生じる恐れがあり、実際にプログラムに適用する際には問題がある。本論文では、従来の非形式的なデメテルの規則を実際のプログラムに適用、評価するために、クラス間の関係として継承と集約、そして関連などの諸定義を行い、それらを用いてデメテルの規則を定式化する。またデメテルの規則の判定アノレゴリズムと、デメテルの規則に違反したプログラムに対する変換方法について述べる。
著者
峯崎 智裕 松木 萌 井上 創造
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.1701-1711, 2017-10-15

本論文は,複数介護施設における事故報告書を使用して,テキストマイニングおよび機械学習により事故の起こりうる状況を分析した結果について述べる.まず,テキストデータと多変量データが混合したデータに対して,テキストマイニングおよびランダムフォレスト法を組み合わせて,事故の結果に対して影響する要因を抽出する方法を提案した.テキストデータについては分かち書きを行い単語文書行列を構成し,単語についてクラスタリングを行った結果を元の多変量データと結合し,事故の結果として目的変数を設定しランダムフォレスト法を2段階で適用しながら重要な単語クラスタおよび重要な単語と属性を抽出し,決定木によって可視化するという手法である.この手法を,介護施設から得られた5,189件の事故事例について適用したところ,(1)表皮剥離または出血,原因不明のあざが発見されて,初めて事故が起きたことを介護士が把握していること,(2)リハビリやレクレーション,移乗を始めとする行動をともなう場合に,転倒・ずり落ちによって打撲につながる可能性があること,(3)共有スペース・個室両方での誤嚥が起こりうること,(4)無断外出につながるいくつかの行動があること,が分かった.
著者
伊藤 孝行 大栗 和久
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.2792-2804, 2004-12-15
参考文献数
15
被引用文献数
2

コンピュータ関連技術の進歩による作業の非同期化,作業環境の分散化,勤務形態の変化にともない,組織のメンバの状況をリアルタイムに知ることが重要になっている.組織内の位置情報をメンバ間で共有することができれば,相手の状況を配慮したコミュニケーションやコラボレーションの方法を動的に選択することが可能となり,組織活動をより効果的に支援できる.一般的に,位置情報取得技術には,状況によっては位置検出ができないという問題点がある.また,より正確な検出と,そのコストにはトレードオフが存在する.本研究で用いた位置検出システムEIRIS も,同様に利用状況によっては位置検出できないという問題点をかかえていた.本研究ではEIRIS により取得した位置情報とともに,状況に応じて位置検出システムの過去の情報から構築した確率ネットワーク,経験的ルール,スケジュール,書き置き情報を基にした推定による情報を表示する位置情報システムを実現した.位置情報システムでは位置検出が困難な際にも連続的に位置情報を提示することを可能としている.また本研究では,メンバの行動傾向の取得が比較的容易な組織として,大学院の研究室を対象とした.本位置情報システムを7 名から構成される研究グループにて試用し,実験を行った.実験では,各メンバの位置情報を共有することによる利用者の影響と推定情報の精度についての2 つを主な評価項目として行い,実験結果を基に評価・分析することにより位置情報システムの有用性を示す.In this paper, we present an implementation of a real-time position inference system for a research group. In a research group, knowing the other members' presence, predicting visitors, and holding real-time meetings are time-consuming but important tasks in everyday life. Thus, in this system, we realize a prediction mechanism for group members and visitors. We also develop a support mechanism for holding real-time meetings. In order to implement a real-time position inference system, we need to detect location information of group members. In our school building, EIRIS (ELPAS InfraRed Identification and Search System) has been installed, and we utilize EIRIS to detect members' positions. However, there exists a trade-off between the value and cost of detecting exact positions. Thus, we first try to complement EIRIS's detection ability by employing a stochastic method, probabilistic reasoning, and heuristic rules. Then, we implement a visitor prediction mechanism and a real-time meeting support mechanism. Our experiments demonstrate that our position inference mechanism is more effective than a simple prediction mechanism that employs only stochastic data. According to questionnaires, we could confirm the effect of our system. Furthermore, we discuss on privacy issues that are important in planning positioning system for people.
著者
岩本 健嗣 杉森 大輔 松本 三千人
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.739-749, 2014-02-15

今日,ユビキタス技術の研究,開発が進み,様々な認識,推定技術に関する研究が行われている.本論文では,行動的特徴を用いた個人認識技術に着目する.人が行う動作には様々あるが,今回は人が日常的に行っている歩行動作を利用した歩行者推定手法を提案する.また,歩行動作を検知する手段として3軸加速度センサを搭載した携帯電話を用いる.携帯電話を用いた歩行者推定を行うためには,状態推定,携帯電話の所持位置推定,ユーザ推定をそれぞれ行う必要がある.本論文では,携帯電話を用いてユーザの移動データから特徴量を抽出し,歩行者を推定する実験とその評価を行い,提案する歩行者推定手法が有効であることを示した.
著者
吉川 雄一郎 篠沢 一彦 石黒 浩 萩田 紀博 宮本 孝典
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.1284-1293, 2007-03-15
参考文献数
16
被引用文献数
5

人間同士のコミュニケーションにおいて,視線は意図の伝達や会話の調節など,重要な役割を持つことが知られている.人間と対面するロボットやスクリーンエージェントの従来研究においても,それらの視線をどのように構成するかに注目が集まっているが,相手の視線の動きを考慮した枠組みの研究は少ない.しかし,相手の視線が自分の視線に対してどのように変化しているかを見ることは,人間が相手の視線を認識するうえで重要な手がかりになっていると考えられる.そこで本研究では,対面相手の視線に基づいて自身の視線を動かすことのできるロボットを構築し,応答的視線によってより強い被注視感を相手にいだかせることができることを示す.In face-to-face communication, eyes play a central role, for example in directing attention and regulating turn-taking. For this reason, it has been a central topic in several fields of interaction study. Although many psychology findings have encouraged previous work in both human-computer and human-robot interaction studies, so far there have been few explorations on how to move the agent's eye, including when to move it, for communication. Therefore, it is this topic we address in this study. The impression a person forms from an interaction is strongly influenced by the degree to which their partner's gaze direction correlates with their own. In this paper, we propose methods of controlling a robot's gaze responsively to its partner's gaze and confirm the effect of this on the feeling of being looked at, which is considered to be the basis of conveying impressions using gaze in face-to-face interaction experiments.
著者
内田 奈津子 久野 靖 中山 泰一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.1393-1414, 2021-07-15

現代社会において,プログラミングは義務教育の1つとなり,誰もが学ぶべきものとなったが,高等教育においては,プログラミングの内容を含む必須カリキュラムの実施には至っていない.新しいカリキュラムでは,言語を学びコードが書けるようになることを目的とするのではなく,プログラミングの概念を学び,その原理を理解することに加え,プログラムを活用するために,ソフトウェア開発プロジェクトの知識を含める必要があると考えた.著者らは,1科目のみで構成する,誰もが学ぶべき入門レベルのカリキュラムと位置づけ,プログラミング入門にPBL(Project-based Learning)を組み合わせた方法を提案し,この提案に基づき2単位90分15回のカリキュラムを構築した.本論文では,プログラミング入門にPBLを組み合わせたカリキュラムを設計・構築し,実践授業から得られたデータ(コンピテンシー評価,履修者の課題や最終レポートなどの提出物)をもとにカリキュラムの妥当性を検証した.
著者
萱島 信 松本 勉
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.1097-1104, 2008-03-15
被引用文献数
1

今日,インターネット技術を用いたネットワークでは,サービス不能(Denial of Service,DoS)攻撃対策が重要になりつつある.DoS 攻撃手法は,ホストの脆弱性を悪用する脆弱性攻撃タイプと,大量のIP パケットでホストやネットワークのリソースを使い尽くすFlood 攻撃タイプがある.特に後者は,分散サービス不能攻撃(Distributed DoS,DDoS)の出現で深刻化している.そこで本論文では,分散DoS 攻撃の影響を回避する方式を提案する.本提案方式は,アクティブ計測手法であるOne-Packet 方式とパケットペア/パケットトレイン方式の長所を組み合わせて実現した"パストラフィック推測機構" と,TCP プロキシを用いたオーバレイネットワークで実現した"代替パス構築機構" により構成される.本論文では,Flood 攻撃のシミュレーションにより,パストラフィック推測機構が従来の帯域推定手法より有効に機能することを示した.さらに,代替パスを構成する他の実現方法との比較により,代替パス構築機構の実用性を評価した.On Internet-based networks, defending networks against attacks, particularly denial-ofservice (DoS) attacks, is becoming important. DoS attack methods can be classified into two types: the first type uses a security hole in a target host, and the second type exhausts network bandwidth by sending a large number of data packets to a target. The second type is becoming more of a problem because distributed DoS attacks are now taking place. We have developed a method that reduces the severity of distributed DoS attacks. Our method uses two mechanisms: an "path traffic estimation mechanism", which works by combining onepacket and packet-pair models; and a "substitution path construction mechanism", which uses a tcp-proxy. We demonstrated that "path traffic estimation mechanisms" effectively reduced the severity of a simulated flood attack. And we demonstrated that "substitution path construction mechanism" is more practical than usual method.
著者
大村道郎 瀬能 浩史 上田 真琴
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.756-765, 2011-02-15

近年の大規模集積回路における製造技術の進歩にともない,MCMに加えて,回路素子自体を3次元に集積化するものや,複数のダイを貼り合わせて3次元化する3次元VLSIに関する研究が発表されるようになってきている.これらのLSIでは,3次元の配線が重要になってくる.格子スタイナー木は,LSI概略配線設計等にも応用される重要な問題の1つであり,ナノCMOS時代の配線に関しては,折れ曲がり(ビア)が増えると,配線遅延が増え回路の性能を落とす等,様々な悪影響を及ぼす.しかし,最小限の折れ曲がりを持つ格子スタイナー木では障害物を柔軟に避けることができない.本論文では,空間上に3次元座標を持つ点Sの集合,それらを結ぶユークリッド最小全域木,障害物が与えられたとき,木の枝をX軸,Y軸,およびZ軸に平行な線分に置き換え,最小+1の折れ曲がりを使うことにより,配線長が短く,障害物がある場合は柔軟に避ける,3次元最小格子スタイナー木を求める並列遺伝的アルゴリズムを提案する.本手法では評価基準に,層を積み重ねるZ軸方向の長さに重みを付けた木の長さの合計と木の直径の線形和を用いた.本論文では提案する手法と性能評価のために行った実験結果について述べ,手法の有効性を示す.As manufacturing technology has advanced in recent years, 3-D VLSI in which circuits or dies are piled on top of each other, MCM and so on have been the focus of attention. A rectilinear Steiner tree is one of the most important problems that are applied to the global routing in LSI or other designs. In the routing design, wire bends (vias) had various bad influences such as propagation delay and therefore degrade circuit performance. However, rectilinear Steiner trees with the minimum number of bends cannot avoid obstacles flexibly. In this paper, we propose a parallel genetic algorithm which can obtain a rectilinear Steiner tree with short wire length and can avoid obstacles flexibly by using minimum+1 bends. In our method, given a set of points S in the space, a Euclidean minimum spanning tree for S, and obstacles, each edge of the Euclidean spanning tree is replaced by the segments which are parallel to the X-axis, the Y-axis, or the Z-axis. For the evaluation criteria, a linear sum of the wire length and diameter of the rectilinear Steiner tree is used. The experimental results to show the effectiveness of the proposed method are also shown.
著者
久保 ゆき子 高島 康裕 中武 繁寿 梶谷 洋司
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.881-888, 2000-04-15
参考文献数
10
被引用文献数
8

平面配線領域上に指定された複数の点を相互に結ぶスタイナ木を別のスタイナ木へ変換するアルゴリズムFlipを提案する.これは,現スタイナ木の1枝をそれを含む面上のパスで迂回させる操作である.Flipは高速で働き,また任意のスタイナ木から任意のスタイナ木へ多項式回の適用で到達できることが証明できるので,VLSI配線における複雑な評価に対する有効なアルゴリズムになる.Flipは,2層HV配線領域のスタイナ木にも適用できるよう拡張される.例として採用した総配線長,クロストーク,スキュー,VIA数などの複合評価関数に対応する実験では,従来の構成的手法では達成できない特徴を有する結果を得ることができた.また,類似の手法であるrip-up and reroute手法との差異を付録で論ずる.Given a Steiner tree thatconnects designated terminals on a plane routing area, the Flip isdefind as a procedure that makes a current Steiner tree change itsconfiguration.It is to replace one of the edges of the Steiner treewith a detour on an adjacent face.Since the procedure runs quickly, and the reachability is proved, theidea can be a useful routing algorithm if it is implemeted bysimulated annealng.The idea is enhanced to the 2-layer HV routing.The performance of the algorithm was experimented for multipleobjectives.Some unique and satisfiable results were observed.The difference from the rip-up and reroute strategy is discussed in Appendix.
著者
敷田 幹文 アルニー ラティカン
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.166-175, 2017-01-15

近年,情報ネットワークの高速化,ビデオ通信の高画質化によって,遠隔地とのテレビ会議が普及してきた.遠隔会議では参加者の映像や音声は鮮明に再現されるが,議論において重要なノンバーバル情報の伝達が十分でない.特に,視線の不一致によって誰に向かって話しているか分からないことが,存在感の薄れに影響しており,遠隔参加者が他者と対等に議論することの妨げとなっている.この課題に対して,視線一致を実現するディスプレイを用いる研究では,装置が特殊で高価になる可能性がある.また,視線を代替する装置を用いる研究でも会議室側で話が盛り上がると遠隔参加者は注目されなくなる.本論文では,参加者の大半が会議室1カ所に集まり,1人だけが遠隔地から参加するテレビ会議で,遠隔参加者の存在感を伝えてソーシャルプレゼンスを実現するために,弱い光のランプを視線情報に基づいて点灯させるアウェアネス支援方式を提案する.また,被験者を用いた会議の実験で,遠隔参加者が他者と同程度に注目され,会議中のアイディア数も増加することを確認した.
著者
牧野 泰才 村尾 将和 前野 隆司
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.1644-1656, 2011-04-15

本研究で我々は,指下で生じる振動を取得する方法を提案する.爪に圧電素子を貼付し,接触や操作により生じた振動を検出する.このようにして得られた振動は,指の姿勢や外来ノイズに影響されることなく,接触対象や動作によって異なる波形を示すことを確認した.対象により接触音が異なることから,何を触ったのかを検出可能である.ヒトは行動を起こす際,多くの場合何かに触れる.したがって,この触対象が何かという情報は,新しいライフログのデータとして利用可能である.実験により提案手法の対象識別精度を確認した結果,12種類の日常動作を94.4%の精度で識別できることを確認した.また,ライフログの利用価値についても考察し,本手法が有効である用途の検討も行った.
著者
小西 健三 瀧 和男 木村 宏一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.797-807, 1995-04-15

本論文では、新たなシミュレーテッド・アニーリング(SA)法の並行(コンカレント)アルゴリズムとして「温度並列SA法」を提案し、その評価を行う。温度並列SA法は、温度スケジュールの白動化、時間一様性(任意の時点での終了、あるし)は継続による解の改善が可能)、並列処理との高い親和性、という優れた性質を持つものである。本アルゴリズムは開発以来応用が先行しており、逐次SA法と比較した場合の最適化能力、実行時問の優劣については明らかでなかった。そこで本論文では、まず温度並列SAアルゴリズムについて報告し、次に逐次SA法との比較評価を実験的に行った。最適化能力における温度並列SA法と逐次SA法の比較では、同じアニーリングステップ数での比較に加えて、同じCPU時間を与えた場合の比較においても、温度並列SA法の方が優れていることが判明した。つまり、1台のCPUで同じ計算時間をかける場合でも、逐次SA法より温度並列SA法の方が良質の解が得られることを示しており、温度並列SA法のアルゴリズム自体の優位性を確認した。また、処理時問の短縮という観点からは、温度並列SA法は温度数まで並列処理が可能であり、また、従来の並列SA法とは異なり、並列実行しても最適化能力が劣化しないことも確認した。
著者
松井 祥悟 田中 良夫 前田 敦司 中西 正和
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.8, pp.1874-1884, 1995-08-15
参考文献数
12
被引用文献数
4

本論文では、並列型(parallel)および漸次型(incremental)ガーベジコレクションの基本アルゴリズムである相補型ガーベジコレクタ(Complementary Garbage Collector)の提案およびその評価を行う。このアルゴリズムは、増分更新型(incremental update)とスナップショット型(snapshot-at-begiming)という2つの基本アルゴリズムを相補的に組み合わせたものである。ゴミの回収効率の良さと正当な(無矛盾な)実装の容易さという両者の長所を併せ持つ。このアルゴリズムは、現在広く便用されているスナップショット型アルゴリズムを代替する。この型を基本アルゴリズムとしている現存の並列型および漸次型ガーベジコレクションに直ちに応用できる。Complementary Garbage Conectorを並列型mark-and-sweep法および潮次型mark-and-sweep法に組み込み、評価を行った結果、ゴミセルの回収効率は一括型GCと同程度まで改善されることが確認された。これにより実行速度、実時間性(無停止性)が改善された。
著者
細谷 英一 橋本 佐由理 原田 育生 小野澤 晃 上田 繁
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.2742-2756, 2008-08-15
被引用文献数
1

本文では,客観視点型遠隔講義システムを提案するとともに,被験者実験を通じてその有効性を評価した結果について報告する.提案システムは,遠隔地で撮影された映像に透明度を与え,実時間で半透明重畳した映像を合成するミラーインタフェースと,仮想的に同一の共有空間にいるユーザを客観視点から撮影したような映像を提供する共有空間設計を組み合わせることにより,ユーザに同一空間で対話しているような印象を提供して自然な対話を誘発することができる.この結果,グループ演習をタスクとする実験を通じて,視線理解容易性,対話容易性,同室感などにおいて,テレビ会議を用いた演習より高い評価を得た.また,提案システムは,市民サービス講座の場を利用した実証的実験においても有効性を示し,講座として直接対面方式の講座に匹敵する効果があったことも確認できた.A remote lecturing system that creates transparent remote images and superimposes them on each other using a mirror interface is proposed. This system allows a lecturer and his or her students to view their own appearance in a virtual shared space from an objective viewpoint. Experimental results from social skill lectures with exercises requiring student involvement showed that the proposed system made it easier to recognize gazings between individuals compared with conventional videoconferencing systems. It also improved communication between the remote lecturer and the local students. Another verification experiment performed as a public service trial also gave consistent results, proving that the lectures using the proposed system were equally as effective as ones held in the same real space.
著者
松井 亮平 保木 邦仁
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.2063-2073, 2018-11-15

不確定性を持ち,ストーン配置やショットが浮動小数点数で表されるデジタルカーリングを題材に,一般化方策反復に基づく強化学習の一手法を検討した.強化学習はおおよそカーリングの予備知識を用いない行動集合とランダム方策から開始した.行動価値は重みの総数1,000万ほどの畳込みニューラルネットワークを用いて,挙動方策が生成した総数6億ほどの行動から推定した.行動集合が巨大であるため,グリーディ方策はモンテカルロ法により近似的に求めた.この実験によりグリーディ方策がサンプルプログラムに比する程度の強さを持ち,初歩的なショット知識に基づいた行動をとるようになる過程を明らかにした.
著者
斉藤 典明 金井 敦
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.295-308, 2013-01-15

現在,組織の知識を蓄積するために多くの組織では共有フォルダを用いてボトムアップ的に情報を大量に蓄積している.しかしながら,多くの情報は情報管理の属人化がおこり,組織環境の変化によりどこにどのような情報があるのかが分からなくなった結果,情報が死蔵され,組織知識の忘失がおこる.そこで,長くにわたって情報を継承してきた事例を基に,死蔵することなく組織の知識を継承する手法を検討した.その結果,長期にわたって情報を蓄積するためには,時間(年度),知識分類,案件の順番で情報を管理することが有効である.また,組織知識として蓄積・継承するべき知識の分類には7つの項目があるが,そのうち組織の記録が最も重要であることが分かった.
著者
山内 利宏 福島 有輝 乃村 能成 谷口 秀夫
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.2279-2290, 2019-12-15

サービスを提供する応用プログラム(AP)の処理内容に合わせ効率的に実行するには,そのサービスに適した独自のオペレーティングシステム(OS)が有効である.しかし,独自OS機能をサービス提供に特化させるために,多数のドライバや高機能なOS機能を開発する工数は大きい.このため,既存OSのドライバ機能やファイル管理機能を利用できるようにし,利用に必要なOSの入出力操作の機能を実現する工数を最小化することが望まれる.そこで,本論文では,マルチコアプロセッサを利用して,独自OSと既存OSを独立に走行させ,既存OSの入出力操作の機能を独自OSが利用する手法の実現方式について述べる.具体的には,独自OSでありマイクロカーネル構造を持つAnTオペレーティングシステム(AnT)と既存OSのLinuxを共存して走行させ,AnT上のAPからLinuxの入出力操作の機能を利用する手法を述べる.また,提案手法の実現方式と処理構造を述べ,工数とLinux入出力操作の機能利用の性能を明らかにする.
著者
長谷川 武光 鳥居 達生
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.985-993, 1985-11-15
被引用文献数
1

緩減少かつ定符号の関数にf(x)に対する無限援動積分J(a ∞)=∫^^∞__af(x) cosωx dx (∫^^∞__af(x) sinωx dx)に対する自動積分法を示す.この積分は符号が交代する無限級数の形で表されるが その収束が非常に遅いので困難な問題とされている.収束を速めるため Sidiの一般化リチャードソン補外法を加速法として適用する.カロ速の入力数列は関数f(x)のチェビシェフ展開を利用して不定積分J(a x)を求めておくことにより能率的に計算されるこのとき3項漸化式の最小解を安定に求める算法が効果的に利用される.数値例によって本自動積分法が能率の高い方法であることが示される.
著者
金久保 正明
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.2495-2506, 2011-08-15

近年,いわゆる「ことば工学」の一環として,駄洒落,なぞなぞ等の言葉遊びをコンピュータで自動生成する研究が始まっている.駄洒落を謎解きとするタイプのなぞなぞ生成システムもすでに研究開発事例はあるが,なぞなぞ質問文のテンプレートが決められ,それに特化した単語データベースが用いられている.そこで本論文では,概念の上位下位の体系や格フレーム等の一般的な概念データベースからなぞなぞ生成を試みる.具体的には,格フレームの連結に相当する文型を定義し,一般的な概念体系を用意する.駄洒落を形成する2語のそれぞれから上位概念をたどり,共通する文型があれば,答えとすべき単語は上位概念で伏せ,質問文を提示する.難度を高めるため,提示する方の単語を異音同義語で隠したり,謎解きに英語読みを用いたりする等した.被験者に解答してもらう実験では,人間が作成するなぞなぞと同等以上の難度を有し,面白さと意外性を持つなぞなぞが生成されることが確認された.Some systems which generates Japanese punning riddles have been proposed. However, these systems employed special concept dictionaries and templates used to generate the surface texts. This paper proposes the generation system of Japanese riddles using only a general concept dictionary. This paper shows subjects experiments in order to confirm the validity of the proposed system.
著者
鍵福竜也 松原 繁夫
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.2457-2465, 2012-11-15

本研究では逐次参加型m票先取の投票方式の性質を調べる.投票は優れた意見集約法の1つであるが,状況により適した投票方式は異なる.本稿では,投票結果に対する責務などの点で投票参加に費用を要すると仮定する.このとき,強制参加のように全員に投票を強いる方式は,大きな費用が発生する.一方,ランダム意思決定では費用を削減できるが,意思決定の品質に疑問が生じる.つまり,集合的意思決定の品質向上と投票に要する費用削減をどう両立させるか,という課題が存在する.この課題を検討するため,本稿では逐次参加型m票先取の投票方式に着目する.これと類似した投票方式は人気投票などで用いられているが,その性質はまだ十分に議論されておらず,より広範な応用への妨げとなっていると考えられる.そこで,本稿では,可決票数mの設定法や,他の投票方式と比較しての有効性などを明らかにする.本研究の貢献は,(1)投票参加に費用を要する場合の逐次参加型投票モデルの構築,(2)動的計画法を用いた最適投票戦略導出法の考案,(3)可決票数mや投票期間などの設計パラメータの影響の分析,(4)意思決定の品質向上と投票費用削減の両立という点で,逐次参加型m票先取投票方式が有効となる状況の解明である.This paper examines the property of the m votes to win mechanism with sequential participation. Voting is an effective way to achieve a collective decision making but a suitable voting system depends on the environments. This paper assumes that voting behaviors may incur a cost, for example, because voters have a responsibility for their votes. In this case, compulsory voting incurs a larger cost. Random decision making can reduce the cost for voting but is skeptical in the quality of decision making. That is, we face the problem of how to improve the quality of collective decision making with the reduction of the cost for voting. To consider this problem, this paper focuses on the m votes to win mechanism, which can be seen in the case of popularity polls. However, the property of the m votes to win mechanism has not sufficiently studied, which prevents its use for various situations. Thus, we try to answer the questions include how to find an appropriate value of m and what situation this mechanism is superior to other mechanisms. The contributions of this paper are (1) providing the model of the costly voting with sequential participation, (2) developing a method of calculating the optimal voting behavior based on dynamic programming, (3) providing the information for selecting the design parameters such as m, the length of the voting period, and (4) clarifying whether the m votes to win mechanism is superior to other voting mechanisms.