著者
酒見 由美 伊豆 哲也 武仲 正彦 野上 保之 森川 良孝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.1542-1553, 2010-09-15

出入国の厳格かつ迅速な管理を目的として,国際民間航空機関(ICAO)は電子パスポート(e-Passport)の導入を推進しており,日本を含むいくつかの国ですでに発行が開始されている.2009年8月に開催された国際会議においてCoron,Naccache,Tibouchi,Weinmannは次世代のe-Passportが使用するISO/IEC 9796-2署名の偽造攻撃法と,実際の偽造署名データを発表した.Coronらは計算機実験データをもとに,他の条件下での攻撃コストを予想している.Coronらの署名偽造攻撃では,条件を変更した場合,攻撃計算量の算出に必要なパラメータの計算方法に影響が生じる.しかし,Coronらの評価方法では,その影響について考察されていないため,他の条件下での脅威が判断しにくいという問題がある.本稿ではCNTW攻撃の詳細な計算量を算出・評価するとともにCoronらの署名偽造攻撃を次世代e-Passportに適用した場合の偽造可能性を議論する.For establishing strict and rapid immigration control, ICAO has been spreading the electronic passport (e-Passport), which is introduced in some countries including Japan. Recently, on August 2009, Coron, Naccache, Tibouchi, and Weinmann announced a new forgery attack against the signature scheme ISO/IEC 9796-2, which will be used in the next-generation e-Passport. Using the experimental results, Coron et al. estimated the attack's cost under other conditions, but they did not consider that parameters which used to compute the attack's cost depend on the conditions. Therefore, it is difficult to evaluate the attack's threat by their estimates. In this paper, the detailed cost of the attack is shown. Then, this paper discusses the possibility and the effect when the attack is applied to the next-generation e-Passport.
著者
江川 悠斗 谷口 義明 井口 信和
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.1298-1306, 2021-05-15

Wi-Fiネットワークを介して様々なIoT機器がインターネットに接続されているが,小規模組織や家庭ではIoT機器が適切に管理されておらず,十分なセキュリティ対策が講じられていない場合がある.管理されていないIoT機器を管理するためには,まず,無線LAN内のIoT機器を把握する必要がある.そこで本稿では,ノートPCのみを用いて無線LAN内のIoT機器の把握を支援できるシステムを提案,開発する.提案システムは,まず,無線LAN内の無線フレームを観測することにより,無線LAN内に設置されたIoT機器のアドレス一覧を取得する.また,IoT機器から送信される無線フレームの受信電波強度を利用して,システム利用者がシステム上に表示されたアドレスと実際のIoT機器の対応付けを行う際の補助を行う.さらに,利用者が所在を把握していないIoT機器がある場合は,そのIoT機器の設置場所に利用者を誘導する.本稿では,研究室内に設置したIoT機器を利用した実験により,提案システムを用いてIoT機器の把握を支援できることを示す.
著者
中野 亜希人 脇田 玲
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.1528-1537, 2013-04-15

近年,実世界の様々なモノの形を変える研究が注目を集めている.剛体や弾性体など固体を用いた形状ディスプレイについて多くの研究がある一方,流体に着目した形状ディスプレイの研究はあまり進められていない.そこで筆者らは,磁力に引き寄せられ,変形,移動する磁性ゲルの形を幾何的かつ位相的に操作することが可能な形状ディスプレイを開発している.実世界の流体の形を操作することができれば,まったく新しいデザイン支援や発想支援の可能性を切り開くと考えられる.筆者らは,磁力のON/OFFを制御する装置と,撹拌棒ジェスチャによるインタラクションシステムを構築し,磁性ゲルの多様な変形を実現した.本論文では,磁性ゲル形状ディスプレイのシステムおよびそのインタラクション手法を示す.In recent years, researches on shape displays have been getting popular, which produce the new interaction between human and physical objects. We have developed an environment where we can manipulate the shape of gel geometrically and topologically with the use of our unique magnetic gel via the stirring rod. On/off control of magnetic power varies the gel shapes. We describe the details of the system and the interaction method with the stirring rod gesture.
著者
梶並 知記 松村 瞬 辻 裕之
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.1747-1755, 2017-11-15

本稿では,テトリス®のプレイにおける,HOLD機能の使用傾向について4つの観点から分析した結果を報告する.テトリス®は,盤面に上方から落下してくる4つの正方形を組み合わせたテトリミノと呼ばれる7種類のブロックを用いてプレイするパズルゲームである.プレイヤは,落下中のテトリミノに回転操作を加えて横1ライン隙間なく埋め,そのラインを消す.テトリス®には,落下中のテトリミノを,後で使うために一時的に保持するHOLD機能を備えている.従来,テトリス®を対象にした研究には,AIを用いた自動プレイに関するものや,テトリス®が人間に与える影響に関するものがある.それらの従来研究に対し,本研究は,人間であるプレイヤのテトリス®のプレイ技能向上を長期目標とした研究の1ステップである.本稿では,テトリス®のプレイヤをプレイ技能に応じて熟練者と非熟練者の2つに分類し,プレイヤのプレイ技能に応じてHOLD機能の使用傾向について分析する.Tetris Online Polandから操作ログファイルを収集し,(1) HOLD機能を使用する頻度,(2) HOLDするテトリミノの種類,(3) HOLDするテトリミノの順序,(4) HOLDミスの頻度が,プレイ技能に応じて異なることを示す.
著者
井口 幸洋 向殿 政男
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.27, no.12, pp.1155-1161, 1986-12-15
被引用文献数
1

PLAの面積削減法に 隙間を利用してPLAの行や列を畳み込む方法がある.その一つに 畳み込みにおいて切断点を縦1列にそろえたワンカット行畳み込みがある.畳み込みは 従来よりマスクPLAを対象としていたが 本論文では このワンカット行畳み込みをフィールドでも可能にしたFPLA(Field PLA)の構造を提案する.また そのための畳み込みアルゴリズムを示す.さらに これに関して簡単な実験を行ったので その結果についても述べる.この畳み込みアルゴリズムは 従来の発見的手法に基づくアルゴリズムより良い解を出している.
著者
田浦 健次朗 米澤 明憲
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.1490-1499, 2000-05-15

専有された,分散記憶並列計算機において,局所ごみ集めのスケジュール戦略が性能に与える影響について考察し,実験結果を報告する.分散記憶並列計算機におけるごみ集め(GC)方式は一般に,局所GCと大域GCを組み合わせて用いる.各プロセッサはメモリのある一部の領域を,他のプロセッサの協調なしに回収するために局所GCを行い,複数のプロセッサにまたがるごみを回収するのに大域GC(参照カウントや大域マークスイープ)を行う.局所GCのそもそもの動機は,特に大規模な並列計算機では高価である,プロセッサ間の協調や通信をできるだけ避けることであるため,それらは一般に各プロセッサによって独立にスケジュールされることが多い(独立スケジュール方式).しかし,我々の実験結果はそのようなスケジュール方式は,通信遅延に敏感なアプリケーションの性能を大きく低下させることを示している.この原因は,そのようなスケジュールによって,GC中のプロセッサが,入ってくるメッセージに対して反応が遅くなることにある.一方で,全プロセッサが同時にごみ集めを行う,同期スケジュール方式は,それによって余分な同期やごみ集めのための仕事が生じるにもかかわらず,はるかに頑強な性能特性を示す.さらに,アプリケーションの通信挙動を観測することで,実行時に望ましいスケジューリング戦略を選ぶことが可能であることを示す.
著者
宗森 純 川津 美菜穂 伊藤 淳子
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.560-571, 2021-02-15

インターネットの普及により,自国にいながらにして世界中の人とインターネットを通じてMMORPGを楽しむことができる.そこでは外国人とグループを組んで協力して楽しむ機会が増えている.しかし外国人とのコミュニケーションは言語が壁となりお互いの共通言語,たとえば英語などを理解していないとコミュニケーションをとることは難しい.そこで,定型文を含む絵文字のみで文章化してコミュニケーションをとる,チャットシステム「EMO-GコミュニケータII」を提案する.絵文字定型文を既存のゲームを参考に6つにジャンル分けしたところに特徴がある.遠隔地間で「EMO-GコミュニケータII」を用いて外国人とのゲーム内でのコミュニケーションの理解度を計算した結果,コミュニケーションの理解度は平均89.6%となり,チャットのうち絵文字定型文の使用率は73.7%であった.このことからゲームの展開を定型文である程度示すことが可能であることが示唆された.また,絵文字定型文によるコミュニケーションは,ゲームだけでなく定型文のコミュニケーションが多く含まれる対象では使用できる可能性が示唆される.
著者
藤本 敬介 守屋 俊夫 中山 泰一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.1031-1040, 2008-02-15
参考文献数
10
被引用文献数
1

陰関数表現から三角形メッシュを生成する手法としてMarching Cubes 法(MC 法)がよく知られているが,本論文ではその改良手法について述べる.従来のMC 法は,等間隔にグリッドを設定し,格子点に対して境界面との内外判定を行うことでメッシュを生成するため,(1) 格子に対して細い物体が存在するときにそれが欠損してしまう可能性がある,(2) 物体の鋭角部が鈍った形状に変換されてしまう,といった問題が発生していた.本論文では,これらの問題に対し各格子点の位置を物体の形状に対して適応的に移動させ各格子の形状を変形させるDeformed Marching Cubes 法(DMC法)を提案する.DMC 法では,各格子点の周辺を探索して重心点を求め,また格子と等値面の関係から鋭角の頂点座標を求め,それぞれ求めた座標に最も近い格子点を移動させる.これにより,少なくとも格子内に物体が1 つしか存在しない場合においては,(1) 探索精度以上の細い物体の非欠損性の保証,および(2) 鋭角部の再現,を同時に実現した.実験により,MC 法における格子の1 辺の長さに対し1/5 以上の幅を持つ物体の非欠損性を保証する場合でも,従来に対し約25%の計算時間増だけで処理されることを確認した.We describe an algorithm that improves the ability of detailed expression of the Marching-Cubes (MC) method. The MC method is a technique for generating triangular meshes from implicit function. It sets the uniform grid, and generates mesh with the judgment whether the lattice point is on the inside to the boundary. Therefore, it has two problems. First, there is a possibility that the thin part of the object is lost. Second, the sharp part is converted into the smooth shape. In this paper we present a Deformed-Marching-Cubes (DMC) method that changes the shape of the grid form by moving lattice points. The steps of the DMC method are: 1) detecting a thin part by searching for surroundings of each lattice point, 2) calculating coordinates of the sharp part, 3) moving a lattice point that is nearest from each calculated point. As a result, when only one object exists for the grid interval, this method realized guaranteeing the non-loss of an object that is bigger than the search accuracy, and reproducting the sharp part. Consequently, we proved that the method guarantee non-loss of the object of the width of 1/5 compared with the grid size only by the overhead of only about 25%.
著者
中山 颯 鉄 穎 楊 笛 田宮 和樹 吉岡 克成 松本 勉
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.1399-1409, 2017-09-15

IoT機器の中にはTelnetサービスが動作し,容易に推測可能なIDとパスワードでログインができるものが大量に存在しており,この状況を悪用したサイバー攻撃が多数観測されている.本研究ではTelnetを利用したサイバー攻撃において,特にログインチャレンジとログイン成功後に使用されるシェルコマンド系列に着目した分析を行う.特にハニーポットにより観測される攻撃とハニーポットにより収集したマルウェアの動的解析により観測される攻撃を突合することで,攻撃元のマルウェアの識別を行い,マルウェア流行の状況把握を試みる.また,攻撃に利用されるID/パスワードを調べることで攻撃目標となっている機器の種類が増加傾向にあることを示す.
著者
伊美 裕麻 伊藤 孝行 伊藤 孝紀 秀島 栄三
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.1996-2010, 2015-10-15

オンライン議論に関する研究分野では,多様な視点を持った大規模な人数による意見集約が重要な研究課題となってきている.たとえば,都市開発での市民参画の分野において,強い民主主義や効率的な都市計画の実現を目指し,市民から直接的により多くの意見を集める議論システムの実現が求められている.一方で,集合知の観点から,WikipediaやLinuxのような大規模な参加を前提としたオープンな協働活動やオープンソースソフトウェア開発活動では,一部のマネジメント層による管理や整理がきわめて重要であることが指摘されている.オンライン議論においても,自然に集約が進むわけではなく,マネジメント層が必要であるといえる.本論文で提案するシステムCOLLAGREEでは,大規模なオンライン議論におけるマネジメント層の役割として,人間のファシリテータを導入し,適切な議論プロセスの進行を導く.社会実験として,名古屋市次期総合計画に関するインターネット版タウンミーティングにCOLLAGREEを導入した.本社会実験では,2週間で,264名の登録者,1,151件の意見,18,466件の閲覧を得ることができた.実験結果より以下の4つの知見を得た.(1)ファリシテーションの有用性が確認できた.また,ファシリテーション支援機能とファシリテータによる(2)炎上のような不適切な状態の回避と,(3)議論における発散と集約の適切な進行ができた.さらに,インターネット版のタウンミーティングとして,(4)若い年齢層の参加者を集めることができた.
著者
荒屋 真二 百原 武敏 田町 常夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.28, no.7, pp.768-775, 1987-07-15
被引用文献数
3

純粋なプロダクションシステムではパターン照合が推論コストの大部分を占める.この照合コストを削減するために Reteアルゴリズムはプロダクション間の類似性に関する知識と 各プロダクションが作業記億の内容によって現在どの程度満足されているかについての知識をうまく活用している.本論文は上記2種類の知識に加えて プロタクション間の排他性に関する知識と 照合成功確率に関する知識を利用した より強力なパターン照合アルゴリズムを提案し Reteアルゴリズムにはかなり無駄な照合が残されていることを明らかにする.また OPS5と同様の文法をもつプロダクションシステム記述言語を16ビットパーソナノレコンピュータ上に実現し 三つのサンプルプログラムによって提案アルゴリズムの有効性を実験的に示す.
著者
折田 三弥彦 長谷川 純一 鳥脇 純一郎 金崎 守男 高藤 政雄
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.105-113, 1988-02-15
被引用文献数
2

処理手法に関する知識だけを用いて手順を推論する画像処理手順のプロタ"クションシステムを提案する.すなわち 画像の特徴を大局的データベース 処理手法に関する知識をプロタゥクションルールとして各々対応付けるものであるまた 手順推論の高速化および柔軟性の向上を目的として 問い合せによる会話型評価と特徴例示による自動評価とを融合させる方式を採用した.実例を引用して本方法を考察したところ 知識ベースの簡単化 あるいは推論の柔軟化が図れるものと期待できる.さらに本方法に基づき 部分的ではあるがモデルシステムを試作 評価したところ 画像処理エキスパートをより実用レベルに近づけられることが確認できた.
著者
川口 喜三男 王 思鴻
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.521-530, 1983-07-15

漢字四角号碼が中国語漢字入力の有力な手段として利用し得ることに着目し はじめに 四角号碼の数学的構造を明確にするため 四角号碼を伴う漢字の抽象的モデルー字形モデルという-を導入する.この字形モデルは一種の代数系として取り扱うことができ そこでは あらゆる漢字の集合は14の字形類に類別され 2種の並置演算と6種の包摂演算に関して閉じた系をつくる.このため すべてのより複雑な漢字はより単純な字または部首からこれらの演算を施すことによって得られると同時に その四角号碼もこれに伴い代数演算によって機械的に求められる.さらに 四角号碼と耕音を組み合わせた中国語漢字入力法として'声形法'を提案する.この声形法によれば 最大4文字(4打鍵)からなる漠字コードの入力によって目的の漢字は90%以上の確率で正しく選択されることが実際例をもって示される.
著者
沼尾 正行 志村 正道
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.247-256, 1985-03-15

分散処理システムで グラフリタクション方式により関数型言語を評価するためには システムを構成する各プロセッサにグラフを分散して配置する必要がある.グラフが各プロセッサに分散していると リタクションを行うために他のプロセッサ内の記憶装置を参照したり 書き換えたりすることが必要となる.また 複数のプロセッサで一つのグラフを書き換えるため グラフのアクセスに対して危険領域を設定しなければならない.本論文では これらの煩雑な問題を解消するため ノード単位でリダクションを行う方法を述べる.この方法では プロセスがグラフの各ノードに割り当てられており アークを通して互いに通信し合う.これらのプロセスにより リタクションがノード単位で行われるので グラフを分割して各プロセッサに割り当てることが容易である.リタクションの基本操作はノードの消去とノードのコピーであり これらの二つの操作を組み合わせることにより リダクションが行われる.ノード単位でリダクションを行うことにより グラフを各プロセッサの共用データとする必要がなくなるため 共用データにアドレスを割りふったり アクセスを行うプログラムに危険領域を設けたりする必要がなくなる.このため 大規模で拡張性の高い分散リタクションシステムを構築することが可能となる.
著者
有馬 淳
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.887-896, 1992-07-15
参考文献数
13
被引用文献数
7

2つの事柄がある共通の性質(S:類似性)を有している時 一方(B:ベース)の持つ性質(P:投射性)を他方(T:ターゲット)も持つと推定する類推について考察する本研究では類推の論理的な分析が行われ その結果に基づき 与えられた公理Aのもとで類推要素T B S P が満たすべき例証的基準と呼ぶ論理的関係が示される.ここで例証的基準は以下の2つの前提から得られる:"類推はベースが満たす何らかの性質をターゲットに対し投射することによってその推論が行われる一般的に非演繹的な推論である" "ターゲットは特殊な個体ではない"類推研究では 1)"あるターゲットに対し何をベースとするか"2)"どの性質をもって類似性というか"3)"ある類似性に対してどのような性質が投射されうるか"が長い間 本質的な問いであり続けている例証的基準は これら1) 2) 3)の問題に対する1つの解答になっており 類推研究の1つの一般的な足掛りとなることが期待されるまた この基準に関して これまでの研究のいくつかが実際にこの基準を満たしていることが示されるとともに 従来類推と独立に研究されてきた仮説推論 アブタクション EBG とも密接な関連があることが記される
著者
松山 隆司 尾崎 正治
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.191-204, 1986-02-15
被引用文献数
26

本論文では 画像処理に関する知識を利用して画像のセグメンテーションを自動的に行うエキスパートシステムについて述べる.システムに対する要求は 画像から抽出すべき画像特徴(長方形 線など)とその属性(面積 長さなど)に対する制約条件によって表される.システムは 要求された画像特徴を検出するための最も有効な処理方針を推論し それに従って実際の画像処理を実行する.また 処理が途中で失敗した場合には 処理方針 処理アルゴリズム 処理パラメータを適宜変更し 処理をやりなおす.こうした推論 処理の過程は 画像処理に関するヒューリスティックスを表すプロタクション・ルールによって制御されており 試行錯誤的な解析など柔軟な解析が実現できる.
著者
門田暁人 佐藤慎一 神谷 年洋 松本 健一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.2178-2188, 2003-08-15

ソフトウェアに含まれるコードクローン(重複するコード列)は,ソフトウェアの構造を複雑にし,ソフトウェア品質に悪影響を与えるといわれている.しかし,コードクローンとソフトウェア品質の関係はこれまで定量的に明らかにされていない.本論文では,20年以上前に開発され,拡張COBOL言語で記述されたある大規模なレガシーソフトウェアを題材とし,代表的なソフトウェア品質である信頼性・保守性とコードクローンとの関係を定量的に分析した.信頼性の尺度として保守工程で発見された「フォールト数/LOC(Lines of Code)」を用い,保守性の尺度として「モジュールの改版数」を用いた.分析の結果,コードクローンを含むモジュール(clone-includedモジュール)は含まないモジュール(non-cloneモジュール)よりも信頼性(平均値)が約40%高いが,200行を超える大きさのコードクローンを含むモジュールは逆に信頼性が低いことが分かった.また,clone-includedモジュールはnon-cloneモジュールよりも改版数(平均値)が約40%大きく(すなわち,改版のためにより多くの保守コストが費やされてきた),さらに,モジュールに含まれるコードクローンのサイズが大きいほど改版数がより大きい傾向にあることが分かった.
著者
加藤常員 小林 博昭 小沢 一雅 今枝 国之助
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.418-428, 1988-04-15
被引用文献数
2

考古学へのコンピュータ・サイエンスの応用 とくに文化とその伝播に関するモデル化および計算機シミュレーションについて述べる.ある特定の文化に帰属する遺跡の集まりを取り上げ 遺跡間の文化の伝播のネットワークを求めるモデルを提案する伝播は 遺跡間の係わり合い(交流)が基本であり その大きな要因と考えられる空間的距離に着目する.距離についての伝播負担関数および伝播係数を導入する.伝播係数の特性である中継効果を明らかにする.中継効果を使い遺跡相互の伝播路のネットワークを求める.このネットワークを伝播路網と名付ける具体例として 後期旧石器時代・国府型ナイフ形石器文化の56か所の遺跡を対象にシミュレーションを行った結果を示す.また 弥生時代中期・畿内の拠点集落遺跡理か所について 考古学的手法による結果と比較・検討を行う.
著者
大森 晃
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.976-1023, 2019-03-15

本論文では,少なくとも以下のような内容を含む「所与の文が要求を表現しているか否かを判別するための言語学的知識」を与えた.(1)文レベルでの要求概念の定義,(2)所与の文(特に単文と複文における主節)が要求を表現しているか否かを判別するために必要な言語学的知識,(3)複文の接続節における要求表現に関する言語学的知識.本論文では上記(1)~(3)の内容からなる言語学的知識を「要求文同定論」という.要求文同定論は,様々な産業において要求に携わる技術者・研究者などの助けになるものと期待できる.そのため本論文では特定の産業分野に限定せずに要求文同定論を提供することを目指した.上記(1)については,日本語モダリティ論を手がかりとして要求とは何かについて考察し,文レベルで要求概念を定義した.上記(2)については,1つのまとまった言語学的知識として「要求の態度」を明らかにした.上記(3)については,どの接続節が要求を表現しえて,どの接続節が要求を表現しえないかに関する言語学的知識を明らかにした.また,要求を表現しうる接続節がどのような場合に要求を表現するのかに関する言語学的知識も明らかにした.上記(2)と(3)は所与の文(単文と複文)が要求を表現しているか否かを判別するための豊かな言語学的知識を与える.本論文では要求文同定のための言語処理技術についても言及した.さらに擬似要求文について検討し,「疑似要求文同定論」への発展の可能性を示唆した.
著者
勝山 恒男 安家 武 野村 祐士 若本 雅晶 野島 聡 木下 和彦 村上 孝三
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.1810-1822, 2009-08-15

IPスイッチの処理能力向上にともない,レイヤ2ネットワーク規模が拡大し,経済的に大規模なレイヤ2ネットワークの構築が可能となってきている.これにともない,障害の波及範囲も広域化し,障害復旧に時間を要し,可用性を低下させる要因となっている.レイヤ2ネットワークの典型的な大規模障害であるループ障害では,ループパケットは,消滅することなくネットワーク内を転送し続ける現象が起き,システム全体の稼働停止に至ることがよく知られている.この現象は,本来バス構造であったLANセグメントをスタートポロジにしたが,ブロードキャスト型のプロトコルを変えていないために起きる本質的問題である.これを回避する従来技術としてSTP(Spanning Tree Protocol)が適用されているが,十分な効果が得られない場合も多い.そこで,本論文では,ループ障害を対象に,従来の障害事前防止型のアプローチではなく,その原因箇所をリモートホストから迅速に探索発見する診断型のアプローチを提案する.本方式は,第1ステップとして,診断探索を行う端末から送信するロングパケットによってノード負荷の低減を行い,また,架空MACアドレスからのブロードキャストARP要求の送信によってMACアドレス誤学習を訂正し,本来の通信機能の回復を行う.次いで,第2ステップとして,誤学習の成否と大量パケット受信ポートの分析によってループ箇所の特定を行う2ステッププロセスからなるリモート診断を特徴としている.