著者
西村 和記 東 徹 土井 勉 喜多 秀行
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.I_809-I_820, 2019 (Released:2019-12-26)
参考文献数
26
被引用文献数
1

利用者の減少等から地域公共交通の維持が困難な状況となっているため,行政から補助金等の財政支出がなされている.しかし,これまで企業として独立採算で運営されていた交通事業者に補助金を継続して投入することに対しては,行政側の財政難からの否定的な意見なども少なくない.一方,地域公共交通の価値や必要性を重要視する声も多数あるが,これまでは定性的に述べられていることが多く,収支率以外に定量的に評価されたものが残念ながら少ない状況である.そこで本研究では,クロスセクター効果の考え方から,地域公共交通の定量的な価値算定を試みるものである.このことを通じて「公共交通の赤字」という意味を改めて考え直し,地域公共交通への支援は赤字補填ではなく,地域を持続するための必要な支出であることを考察するものである.
著者
森山 真稔
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.I_39-I_46, 2022 (Released:2022-05-18)
参考文献数
45

PFIに関する経済学的研究の知見は我が国のPFIの政策,実務の双方に示唆を加えるものであり,特に近年その重要性が増している.このような背景を受け,本稿は我が国のPFIを分析対象とした経済学的研究の論点整理と展望を目指し,これらの研究の包括的レビューを行った.レビューの結果,(1) 理論研究は契約理論をベースに発展してきており,諸外国の著名な先行研究と整合的な結果を得ていること,(2) 実証研究は我が国のPFI事業の入札に関するデータを用いて競争入札に関する理論や契約理論の検証を行っており,これらの理論を支持するような結果が得られていること,の2点が明らかになった.その一方で,実証研究は主にデータの制約から分析内容が限定されており,この分野の研究のさらなる発展に向けては課題が残るといえる.
著者
塚井 誠人 原 祐輔 山口 敬太 大西 正光
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.I_349-I_358, 2018 (Released:2019-01-10)
参考文献数
10

2016年に50周年を迎えた土木計画学研究委員会では,これまでの歩みの検証と,今後の展望を議論するための幹事団が設けられた.そのミッションは,2016年春大会から開催された4回のイベントを通じて,今後の土木計画学研究委員会について,議論を深めることであった.本稿では,土木計画学の研究トピックスの変遷の分析(第54回研究発表会,長崎大学で報告)を,この間の幹事団の議論とともに記録することを目的とする.1985年~2015年までの約30年間の土木計画学研究・論文集に基づくデータベースにトピックモデルを適用して,研究トピックスを定量的に抽出した.その結果,基礎研究を終えた多くの研究テーマが,社会で活用されながらも,新たな課題とともに再び学術的な研究テーマとなるサイクルの一端が窺えた.
著者
岸川 知樹 和田 健太郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.I_1109-I_1119, 2022 (Released:2022-05-18)
参考文献数
11

鉄道における保安装置・自動運転の性能向上により,今後極めて高速に車両同士の連結・解結が可能となることが期待される.本研究では,高速車両連結(解結)技術,つまり,柔軟に車両編成数を変えることができるシステムを前提として,新たな高頻度鉄道運行スキームを提案する.具体的には,郊外方向では急行列車が駅に停車する度に新たな各駅停車列車を生成(切り離し)する,その反対に,都心方向では多数の各駅停車列車が急行停車駅で 1 本の急行列車に連結される運行スキームを考える.この提案スキームを表現する連続体近似に基づく数理モデルを構築し,従来型運行スキームとの比較を通して,提案スキームの特徴や優位性を明らかにする.
著者
板橋 昂汰 和田 健太郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.I_1045-I_1055, 2022 (Released:2022-05-18)
参考文献数
14

本研究は,ネットワークへの需要分布が上位選択(交通モード選択や住宅立地選択等)により内生化された,タンデムボトルネック・ネットワークにおける出発時刻選択問題の特性を理論的に考察する.具体的にはまず,上位選択に制約のない単純な同時選択均衡を考え,2 つのボトルネックに限定した均衡状態パターン(どの地点で需要・渋滞が発生するか)が上位選択固有の費用(効用)差,隣接ボトルネックの容量比によって分類できることを示す.そして,このパターン分類が,一般的なボトルネック数の問題や上位選択に制約を加えた問題の分類にも有用であることを明らかにする.また,均衡状態と社会的最適状態との関係についても議論を行う.
著者
甲斐野 翼 日比野 直彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.I_329-I_338, 2020 (Released:2020-04-08)
参考文献数
16

高速道路ではICとは異なる救急車専用の緊急入退出路を設置し,救命救急に貢献している.しかしながら,高速道路会社管理道路では緊急入退出路の設置は全国でわずか17箇所に留まっており,今後の更なる整備が望まれるが,整備に向けた実務的な面での検証は十分ではない.本研究では,緊急入退出路の整備経緯や利用実態を明らかにしたうえで,新規設置に向けた検討を行う.具体的には,整備に関する議事録等を基に,整備の動機や整備の流れを明らかにし,また,対象病院への搬送データ等を基に利用実態を明らかにする.それらの結果を基に新規設置のために必要な条件について言及するとともに,その条件を満たす効果的な新規設置検討箇所について明示する.
著者
大谷 悟 佐渡 周子 今野 水己 土谷 和之 牧 浩太郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.I_163-I_171, 2013 (Released:2014-12-15)
参考文献数
41
被引用文献数
1 1

主要先進国・国際機関の公共事業評価に適用される社会的割引率について調査を行った結果,1990年以降,主要先進国等の多くで,公共事業評価に適用される社会的割引率の数値の引下げ,その算定方法の見直し,不確実性への対応の進展(時間逓減割引率の導入,感度分析の実施等)等が行われていることがわかった.これらは,実質市場金利の低下,世代間の公平性への配慮,関連する分野での調査研究の進展等を主たる理由としている.我が国の公共事業評価に適用される社会的割引率は4%と設定され,10年以上改定されていないが,これらの調査結果を踏まえ,社会的割引率の水準及び算出方法等に関する論点の整理を行った.
著者
宮谷台 香純 谷口 綾子
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.II_798-II_811, 2022 (Released:2022-04-20)
参考文献数
33

自動運転システム(以下,AVs)の実証実験や運転支援技術の実装に伴い,将来利用者となる人々のAVsに関する議論や課題も多様化していると考えられる.今後,AVsの社会的受容性を検討するうえで,これらを把握する必要がある.そこで,マスメディアの一つである新聞による報道に着目する.新聞は議題設定効果を有していると言われており,新聞分析では人々が抱える議題を明らかにできる.本報告では,AVsについて新聞が社会に提供した議題を明らかにし,AVsの開発・導入の議題の変遷を把握することを目的とする.読売新聞を調査対象とし,「自動運転」の登場よりAVsに関する記事を収集し,質的分析を行った.その結果,国際競争で勝つために開発するといわれる背景にガラパゴス携帯の失敗があること,技術への過信が危惧されていることなどが明らかとなった.
著者
中村 陸哉 神田 佑亮
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.II_241-II_251, 2022 (Released:2022-04-20)
参考文献数
12

COVID-19の感染拡大による外出自粛に伴い,移動需要が急激に低下している.我が国の公共交通業界は収入が大きく落ち込み,公共交通サービスの提供の継続が困難な状況に直面している.公共交通の受けた影響の規模を把握するために,経営状況への影響度を多面的に把握する必要がある.本研究では,全国の上場交通事業者が開示する決算資料を集計し,営業収益や営業利益・損失の推移,雇用調整助成金の受取状況を分析した.その結果,交通事業者の危機的状況は加速しており,赤字・減収に対する支援も不十分であることが示された.
著者
柿本 竜治 上野 靖晃 吉田 護
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.I_57-I_68, 2017 (Released:2017-12-27)
参考文献数
29
被引用文献数
2

「自然災害に対するリスク認知が高くても,そのリスクへの防護行動を取らない」という自然災害リスク認知のパラドックスの存在が指摘されている.このパラドックスの存在は,自然災害リスクの認知を向上させるだけでは,防護行動を促すことが難しいことを意味する.これまでに,防護意図や防護行動の促進および阻害要因を抽出する研究は数多く行われているが,抽出された要因が防護意図や防護行動に与える影響は結果が異なっている.そこで本研究では,リスク認知のパラドックスの解消に向けて,同じ質問項目内容のアンケート調査を6地区で行い,個人の減災行動の地域性や共通性を検証した.その結果,非常持ち出し品の備えを促す上で,リスク認知改善よりむしろ反応コストに関する対処評価認知の改善が地域に共通して有効であることが示唆された.
著者
柿本 竜治 上野 靖晃 吉田 護
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.I_51-I_63, 2016 (Released:2016-12-23)
参考文献数
70
被引用文献数
2 6

「自然災害に対するリスク認知が高くても,そのリスクへの防護行動を取らない.」といった自然災害リスク認知のパラドックスの存在が指摘されている.自然災害リスク認知のパラドックスの存在は,自然災害リスクの認知を向上させるだけでは,そのリスクへの防護行動を促すことが難しいことを意味する.そこで,本研究では,既往研究の中に見られる自然災害リスク認知や減災意識と防護行動との乖離の要因を抽出し,自然災害リスク認知パラドックスの存在を確認する.そして,防護動機理論の枠組みを援用して,研究の視点や枠組みを整理することを通じて,個人の自発的な減災行動の包括的な理解を促すことを目的とする.また,同時に阿蘇市および南阿蘇村で実施された予防的避難の実行状況と自然災害への意識の分析から意識と行動の乖離の要因を探る.
著者
林 勇朔 浜岡 秀勝
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.I_653-I_663, 2015 (Released:2015-12-21)
参考文献数
6
被引用文献数
1 2

単路部横断では,高齢者は横断時間が長いため,横断開始のタイミングを誤り,横断後半で車両との事故の危険性がある.そこで本研究では,安全島を用いた二段階横断が有効と考えている.安全島により,横断歩道を一度に横断せずにすみ,安全島で一時停止もできる.また,横断の前半部は右側,後半部は左側のみの確認で良いため,高齢者でも横断タイミングを誤らずに横断しやすくなる.以上より,二段階横断にすることで,歩行者の安全性が向上すると考えられる.仮説を検証するために,調査対象区間にてビデオを撮影し,歩行者,車両の到着時間を取得した.また,これらデータを用いてシミュレーションを行い,その場所に適した制御方法を明らかにした.シミュレーションの結果,5つの制御方法のうち,安全島の設置が有効であると明らかになった.
著者
大口 敬 山口 智子 鹿田 成則 小根山 裕之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.I_1175-I_1183, 2012 (Released:2013-12-25)
参考文献数
8

交通信号制御における切替り時の損失時間は,交差点円滑性指標の遅れに影響を与え,また交通安全上も重要である.切替り時における損失時間の開始と終了(有効青時間の終了と開始)のタイミングは,これまでほとんど研究されていない.損失時間を厳密に評価することが,より安全で効率的な交通信号制御に繋がる.本研究では,青丸表示から右折矢印表示への切替り時に着目し,飽和交通流,最終車と先頭車の通過タイミング,および青丸表示時に右折車が停止線を越えて交差点内に滞留するスペース長などの幾何構造を調べ,損失時間と有効青時間を分析する.幾何構造の異なる5交差点の分析から,右折専用現示前には損失時間ではなく有効青時間が重なるゲインが存在することを実証し,このゲインの大きさを交差点形状から推定する方法を提示する.
著者
尾野 薫 山中 英生 中西 雄大
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.I_859-I_869, 2018 (Released:2019-01-10)
参考文献数
15

本研究は,自転車の普及や法的整備の歴史から道路通行システムにおける自転車の位置付けと通行実態の変遷を明らかにし,自転車の歩道通行の常態化や双方向通行の要因について一示唆を得ることを目指す.各法制度の変遷から,1970年と1978年の道路交通法改正で自転車の位置付けが変化したことがわかった.次に,1960~85年の自転車通行状況を写した写真や映像資料からデータベースを作成し自転車の道路通行実態の変遷を把握した結果,改正前は自転車の車道・左側走行が浸透していたが,1970年の道路交通法改正後に歩道走行が出現し,1978年の道路交通法改正後に車道走行が減少し歩道走行が増加したことがわかった.最後に,道路通行システムへの理解不足,自転車の車両特性との齟齬が自転車の歩道通行の常態化や双方向通行の要因である可能性を示唆した.
著者
田中 皓介 稲垣 具志 岩田 圭佑 大西 正光 神田 佑亮 紀伊 雅敦 栗原 剛 小池 淳司 佐々木 邦明 佐々木 葉 Schmöcker Jan-Dirk 白水 靖郎 泊 尚志 兵藤 哲朗 藤井 聡 藤原 章正 松田 曜子 松永 千晶 松本 浩和 吉田 樹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.129-140, 2021 (Released:2021-06-20)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本稿ではCOVID-19の蔓延および政府からの社会経済活動自粛要請に伴う,人々の意識行動への影響を把握することを目的にWebアンケート調査を行った.その結果,感染・死亡リスクを,現実の数倍~数千倍過大に評価している様子が明らかとなった.また,接触感染対策として効果的な「目鼻口を触らない」の徹底度合いが他の対策に比べて低く,周知活動の問題点を指摘した.さらに,緊急事態宣言に対する65%以上の支持率や,「家にいる」ことについて,「ストレス」を感じる以上に「楽しい」と感じる人が多いこと,行動決定のために参考にするのはキャスターや評論家や政治家よりも「専門家の意見」の影響が大きいことなどが明らかとなった.
著者
吉枝 春樹 小林 渉 岩倉 成志
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.43-62, 2020 (Released:2020-04-20)
参考文献数
25

東京圏の都市鉄道は莫大な乗降者数による停車時間の伸長が,混雑率緩和のための運行頻度増のネックとなっている.これを極めてシンプルな着想で解決する.それは,現在の信号システムに比べ,列車間隔をより短く制御できる移動閉そくシステムで運行頻度を増やして,列車毎の乗降者数を減じ,停車時間を縮減して,大幅に混雑率を低減させるというものである. このため,2つのアプローチをおこなった.まず,運転理論に基づく分析で,最小運転間隔90秒の可能性を示す.次に,停車時間を規定する乗降行動と列車挙動のエージェントシミュレーションモデルを構築する.これを用いて停車時間と運行間隔の縮減を分析し,検討路線では移動閉そくと主要駅の改良により95秒間隔で運転でき,大規模な線増投資を行わずに,混雑率150%まで緩和できることを示した.
著者
長江 剛志 赤松 隆 清水 廉 符 皓然
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.264-281, 2020 (Released:2020-09-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本研究は,経路と出発時刻を同時に選択する動的利用者均衡配分 (DUE-SDR: dynamic user equilibrium with simultaneous departure time and route choice)モデルの解法を開発する.具体的には,まず,一起点多終点もしくは多起点一終点の一般ネットワークを対象とし,待ち行列の物理的長さを捨象したpoint-queueモデルを用いて渋滞を表現する枠組を示す.この枠組の下で,DUE-SDRモデルを混合線形相補性問題として定式化する.次に,こうして定式化された問題が,適当な離散時点の枠組下で等価な二次計画問題に帰着することを明らかにし,これをFrank-Wolfe法を用いて解くアルゴリズムを開発する.最後に,提案解法をSioux-Fallsネットワークに適用し,未知変数が数万個に及ぶ問題に対しても,実用的な時間内に均衡解が求められることを示す.
著者
石原 凌河 松村 暢彦
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.I_101-I_114, 2013
被引用文献数
3

東日本大震災の教訓として,過去の自然災害の教訓や知恵を後世に伝え,それを地域での防災まちづくりや防災教育に活かすことが重要であると言われている.そこで,本研究では,地域で受け継がれている災害伝承の実態を把握するとともに,災害伝承と生活防災行動,防災意識,地域への態度,避難行動,防災対策との関係性について明らかにするとともに,地域単位で災害伝承を行う意義について考察した.その結果,年月が経つにつれて,地域で脈々と受け継がれてきた過去の災害伝承が途切れる可能性が示唆された.また,災害伝承は防災意識や避難行動,地域への態度に直接的な影響はなく,生活防災行動を通じて防災意識や避難行動,地域への態度の醸成につながることが明らかになった.
著者
梶原 大督 菊池 輝 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-8, 2014 (Released:2014-01-20)
参考文献数
31

人々が,政府の基本政策に対して如何なる態度を示すかは,土木における諸政策を検討する上で重要な問題である.この認識の下,これまで「政府に対する批判」の原因を探る様々な研究が行われてきたが,これらが明らかにしてきた諸要因だけでは,政府に対する態度全般を完全に説明しているとは必ずしも言えないのが現状であり,政府に対する態度の要因を探る研究は未だ必要である.本研究では,政府や政府の政策方針に影響を及ぼす基礎的な変数の一つとして「人は皆,純粋なる利己主義者である」という信念,「利己主義人間観」が存在しているという議論に着目し,アンケート調査により,政府に対する否定的態度の形成に関する理論仮説を検証した.その結果「政府に対する批判」の背景に利己主義人間観が一つの要因として存在している可能性が示唆された.
著者
川井 涼太 金 利昭
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.I_1091-I_1100, 2018 (Released:2019-01-10)
参考文献数
8

近年,警察庁と国土交通省により自転車レーンや車道混在といった車道部の自転車通行空間の整備が推進されており,車道を通行する自転車の増加が見込まれる.車道を通行する自転車には駐停車車両の回避等の際に他車両と接触する危険性があり,後方確認や後方合図といった安全挙動の必要性が考えられるが,現行の交通規則は実効性に乏しい.そこで,本研究では,車道通行自転車の進路変更時における安全挙動に関してビデオ観測調査を行い,安全挙動の遵守実態の把握と安全挙動に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした.その結果,進路変更時に安全挙動を行っている自転車運転者は全体の半分以下であることが判明した.さらに,安全挙動の遵守率には,駐停車車両の路上占有幅,離隔幅,PET値,追い越し車種が影響を与える要因として抽出された.