著者
安岡 則武 安岡 則武
出版者
姫路工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

硫酸還元菌Desulfovibrio vulgaris Miyazaki F 株のヒドロゲナ-ゼは膜結合性の酵素で、2個あるいは3個の鉄ーイオウ・クラスタ-のみを活性部位としている。このヒドロゲナ-ゼ結晶(分子量89000)の鉄原子の異常分散を利用して、その活性部位の位置を決定するため5波長のX線を用いて回折実験を行い、活性中心を同定することができた。X線の光源には高エネルギ-物理学研究所のSR光を使い、測定装置は坂部らの開発した巨大分子用ワイセンベルグカメラを利用した。反射デ-タは富士フィルム社のイメ-ジングプレ-トに記録させ、BA100で読み取った。回折強度の結晶間のスケ-リング時に導入される誤差を除くため、5波長の回折デ-タを1個の結晶から収集した。X線の波長は1.75(Δf'=5.34,Δf''=0.47)、1.74(Δf'=ー6.1,Δf''=3.94)、1.73(Δf'=ー4.49,Δf''=3.89)、1.49(Δf'=0.89,Δf''=3.03)、1.00A(Δf'=0.236,Δf''=1.56)を用いた。測定した回析強度パタ-ンを指数づけした後、ロ-カルスケ-リングなどを施し一連のデ-タセットとした。スケ-リングのR値(Rscale)は全てのデ-タセットについて4〜5%前後であり、測定時に大きな系統的誤差が導入されていないことがわかった。各波長のデ-タ間のRmergeに着目すると、Δf'やΔf''の差が大きい波長において、Rmergeの値が大きくなっている。これは予想通り異常散乱効果が観測されたことを示している。得られたFーデ-タについて、(F(1.74)ーF(1.00))^2,(F(1.75)ーF(1.00))^2,(F^+(1.74)ーF^ー(1.73))^2などを係数とするパタ-ソン関数を計算した。それぞれのハ-カ-セクションにおいてつじつまの合うピ-クが現れている。しかもこのピ-クが異なったパタ-ソン関数に共通して見られる。このようにして 2つの鉄ーイオウ・クラスタ-の位置を同定することができた。
著者
遠部 卓 上 真一
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

瀬戸内海において1‐3時間間隔で25‐72時間にわたって採集された海産枝角類の育房内の胚発生段階を調べ、Penilia avirostris(ウスカワミジンコ)では仔虫放出の日周性はないが、Evadne nordmanni(ノルドマンエボシミジンコ)及びEvadne tergestina(トゲナシエボシミジンコ)では夜間暗黒時にのみ産仔行動が起ることを再確認した。Evandne属は極めて大きい黒色の眼をもつので、仔虫放出直前のメス個体は育房中に多数の黒点をもち非常に目立ちやすいため、この時期を暗黒時にのみ経過することは視覚による捕食者を回避するための適応的戦略とみなされる。また、購入した赤外線カメラ撮影装置を装置した高画質顕微鏡ビデオ装置により、育房中の胚発生の経過と夜間暗黒時におけるEvandne tergestinaの産仔行動を撮影することに初めて成功した。特に、産仔は母虫の速やかな脱皮とともに起り、放出された仔虫は直ちに泳ぎ去る過程が明らかになった。この研究成果については「第3回国際枝角類シンポジウム」(ノルウエー・ベルゲン、1993年8月)において講演する予定である(Onbe,T.:Nocturnal release of neonates of the marine cladocerans of the genus Evandne,with observations by infraredlight video microscopy)。また4種の海産枝角類Penilia avirostris,Podon leuckarti(オオウミオオメミジンコ),Evandne nordmanni及びEvandne tergestinaの消化管内容物中の植物プランクトン色素(クロロフィル及びフェオ色素)を指標として、摂食活動の日周性を調べた。その結果前2者については色素量は昼間より夜間において有意に高く、顕著な日周性を示すことが明らかとなった。しかし、Evandne属2種については、摂食活動の日周性は認められなかった。この内容は現在日本プランクトン学会報に投稿中である。(Uye,S.&T.Onbe:Diel feeding variations of the marine cladocerans in the Inland Sea of Japan.Bull.Plankton Soc.Japan)。
著者
坂野 潤治 馬場 康雄 佐々木 毅 平石 直昭 近藤 邦康 井出 嘉憲
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

本研究は昭和62年度の総合研究「政治過程における議会の機能」の成果を前提にしつつ対象を限定し、議会政の成立・発展の歴史過程を社会経済的・思想的背景との関連でより詳細に検討することを目的とした。研究目的の性格から研究対象が各人の得意とする分野に細分化されるおそれがあったが、その欠を補うために、比較の観点を意識的に打ち出し、そのために異なった分野を対象とする研究者から成る研究会を頻繁に行って意見交換をすることに留意した。主たる研究発表の場である「比較政治研究会」は東京大学社会科学研究所において月一回のペースで行われた。そのさいメンバー以外の研究者も招いて発表をお願いした(福沢研究の高橋眞司氏他)。この研究のメンバーはほぼ一巡して報告を終えたが、主な研究は次のようなものである。まず日本については、坂野が明治憲法体制の成立史という永年の研究視角を深め、植木や兆民との対比において福沢を経済的保守主義の源流として批判的に位置づけた。一方平石はイギリス的議院内閣制の導入における画期的意義を福沢に認め、福沢が用いたバジョット・トクヴィルら西欧政治思想との関連において日本啓蒙思想を読解する視角を示した。西欧に関しては、馬場がイタリアにおける普通選挙法成立の政策過程と権力過程の分析を通じて第一次大戦前のイタリア議会政の構造を明らかにした。また佐々木はシヴィック・ヒューマニズムやスコットランド啓蒙との関連からフェデラリストのアメリカ憲法論を精読し、理念が時代状況のなかでいかに制度に結晶するかを跡づけた。森はヘーゲル学派を材料にドイツ自由主義の特色とその挫折とを検討した。以上の研究成果はその一部がすでに公刊され、他も発表誌未定ながら公刊を想定している。研究の性格上統一的な結論めいたものはあり得ないが、今後ともこの方向で研究を深めてゆきたいと考える。
著者
山田 明
出版者
共栄学園短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

身体障害者療護施設における介護ー被介護場面の観察調査をした結果以下のような諸点が研究成果として確認された。1)身体介護場面における精神的(心理的)側面の重要性介護を要する重度障害者に対して起床、摂食、排泄、入浴、その他の介護が行なわれているが、身体的介護としてだけで実行されている場合が少なからずある。食事介助場面を例にとると、食事をただ口に運ぶだけになっていて、楽しい食事の雰囲気づくりなどに留意されていない場合が過半であった。介護福祉士の養成教育でも事故防止などのための技術は学ぶが、被介護者との介護場面におけるあたたかい精神的関係づくりの方法などを学ばせていない。介護技術の最重要点のひとつがここにあるだけにないがしろにできない問題であろう。2)言語活動過程における指示・抑圧的特徴介護職員が介護場面で発する言葉は「早くしなさい」「がんばって食べて」などの指示的言語であったり、「〜しないで」などの禁止、抑止言語である場合が多い。その反対に「そうね,いたいんだよね」などの共感語は少ない。言葉を出す声のト-ンも冷たくて固いものが多く、やわらかくてあたたかいものが少ない。これは被介護者の心理的活力を減少させるものとなっている。3)非言語活動としての身体表情の非共感的特徴介護者の被介護者を見るまなざしも指示・抑圧的であったり非共感的である場合が多い。身体の表情、動作の表情も全体に固く、非受容的、非共感的である場合が多い。パ-ソナルスペ-スは大きくなりがちで、意識的なアダチメントやアイコンタクトも少ない。パ-ソナルな近親性に乏しい。これが被介護者の孤立感、無力感をつよめていることが考えられる。
著者
野呂 影勇 落合 勲 井上 哲理
出版者
早稲田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究は、コンピュータを中心としたマシンへの人間の感情の働きかけ、マシンからのメッセージに対する人間の受けとめ方に関する研究であり、その調査では対人行動の分析、特に交流分析を援用して深層面接を行った。そして面接結果をもとにコンピュータ操作場面の分析を行った。分析から以下の知見を得た。1.コンピュータに対するさまざまな態度基本的には大人(A)と大人(A)の理性的な交流、自分をコンピュータに順応させていく(AC)ような交流をとっている。しかし、エラーや不測の事態が起こった場面では攻撃的な傾向、動揺して萎縮する傾向(AC)、成果がでた時には自然な感情表現(FC)ややさしい言葉をかける(NP)などのさまざま態度をとっていることがわかった。2.交差交流(くいちがい)が起こっている順応したこども(AC)からコンピュータを罵倒するなどの態度をとる、あるいは養育の親(NP)から「がんばって」といった働きかけをするなどの働きかけを行っても、コンピュータからのメッセージが理性的な大人(A)の立場から発せられているため交流にくいちがいがおこっていた。3.熟練者のマシンとのやりとりの特徴コンピュータの熟練者達は、マシンとの表面のメッセージ上の理性的な大人(A)と大人(A)のやりとりのみならず、子供(C)や親(P)の状態にメッセージを自分なりに置き換えて使用していることが分かった。これらの結果から、操作者の情緒や感性を誘発し、創造的な作業を可能にするためには、人間の自由な子供(FC)の引き出す養育の親(NP)や自由な子供(FC)部分をコンピュータにもたせることが必要であると思われる。
著者
小島 治
出版者
京都府立医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1.Zoladexの抗腫瘍効果の基礎的検討1)ヒト培養胃癌細胞(KATO-III細胞とMK01細胞)とヒト培養乳癌細胞(HBC-4細胞とHBC-5細胞を用いてZoladexの抗腫瘍効果を検討した。胃癌、乳癌ともFR陽性細胞(KATO-III細胞とHBC-4細胞)の増殖を抑制した。1×10^<-7>MのE_2を加えるとZoladexの効果がよく発揮された。2)ヌードマウスヒト移植胃癌、乳癌培養細胞をメスヌードマウスに移植して、それぞれの細胞によってつくられた同型腫瘍の増殖を検討した。Zoladexを投与すると、ヌードマウスの血清E_2濃度は著明に低下し、それに伴い腫瘍の増殖も抑制された。FR陽・陰性細胞間の増殖の差は認められた。2.ヒトスキルス胃癌患者へのZoladexの投与1)ヒトスキルス胃癌患者へのZoladex投与による血清E_2の変化は投与4〜5日目より著明に低下し、同閉経前女性患者におけるE_2の低下は最大であった。高齢女性では投与前のE_2が低いので、Zoladex投与の影響はあまりなかった。しかし、E_2の高い男性患者ではE_2の低下が認められた。Zoladexの投与量は乳癌の投与量と同じ量であった。2)Zoladex単独投与によるヒトスキルス胃癌の抗腫瘍効果は明瞭でない。現在、予後を検討しているところである。以上、Zoladexをヒトスキルス胃癌患者へ投与して、その安全性は認められている。その治療効果、予後に対する影響を今後検討せねばならない。
著者
小郷 直言
出版者
高岡短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究は人間の協働活動をコンピュータにより支援するために必要な実システムの実現と利用実験を行った。ならびに、内外のコラボレーションに関する理論的、工学的な展開について調査を行った。1.協働支援システム(もんじゅと呼ぶ)のLAN上への移植作業を行った。 協働支援システム(もんじゅ)はわれわれの考えるグループウェアの基礎となるシステムであり、サーバ/クライアント方式を採用した。2.リアルタイム・グループライティング&ドローイング 本格的なグループウェアとしてリアルタイム・グループライティング&ドローイングはネットワーク上で共有ウィンドウを使って共同執筆を試みるプログラムであり、これをわれわれの手でワークステーション上に開発した。このグループライティングの特徴は応答性能に優れ、WYSWISが満たされ、利用者はいつでも書込みが可能な点である。現在さらにシステムの機能を充実する作業を続けている。3.グループウェア利用実験 学生を対照にシステムを実際に利用し実験データを集め、分析を行い、システムの改良を続けている。協働を対象とする研究にあっては、実践を目指し、それに対して検討がなによりも重要である。4.内外の文献を調べた後、市販されているグループウェア商品を導入している企業を訪問し、その利用形態、状況を実態調査した。協働についての研究のサーベイの結果、協働は学際的な研究対象であり、経営組織論、相互作用的状況論、メディア論、分散協調システム、分散人工知能、ネットワーク論などを含む広範囲な研究領域と関係することがますます明確になった。
著者
種田 明
出版者
桃山学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

技術の制度化とは、本研究においては、技術の高等研究教育機関の発展・展開と、技術の「時代と社会」への浸透いいかえれば技術の社会的受容との、2つの側面をさしている。現代技術文明の核心は、生産する技術と廃棄物を処理する技術がバランスをとらなくてはならない(加藤尚武『技術と人間の倫理』)ところにある。機能や効率ばかりを重視していては、人間のための技術は生まれないし社会的にも受容されないであろう。19世紀末ドイツで、「制度化」してゆく大学「問題」は政治・経済・社会に大きな影響を与えた。大略にはイ)科学技術研究の装置・設備が巨大化し、それにともない研究組織も拡大し財政支出も巨額化していったことロ)科学技術の社会的受容、すなわち技術者の社会的地位の向上と市民の科学技術への期待の増大、が進捗したハ)技術の数量的確大、すなわち学生数・大学/企業研究所数の増加;政治・経済・社会との接点の増加(兵器、自動車、家電製品など);貿易・海外取引の多角化/国際化が加速したこと、を挙げることができよう。20世紀後半から世紀末の日本では、これら19世紀ドイツ・ヨーロッパそしてアメリカに基盤をもつ現状技術文明の負の側面と危機管理の脆さを露呈する事故が陸続している(高速増殖炉もんじゅ事故、阪神淡路大震災など)。一方で、19世紀末に技術者を含む全職業世界に「資格社会」の枠組みを成立させたドイツは、20世紀後半にはEU(欧州連合)の中のドイツを目指している。他方、日本は生産工場の海外移転を促進するのみで、未だアジアの中に技術文明の地歩を築きえないでいる。しかし日本にも、1995年11月「科学技術基本法」が成立した。技術文明はいまや、企業やエリート職業人技術者のみが担うものではなく、全世界の人びと・環境に関わるものとなっているのである。
著者
末田 達彦
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

木曽山中には、中世・近世に枯死したが、その後数百年の間腐朽を免れ、今日まで保存されている木曽ヒノキの倒木が散在する。これらの倒木が中近世に起源を持つものであることは、倒木更新し、現在では樹齢300年前後に達した老大木が、依然その上に鎮座していることから明らかである。本研究では、木曽山中を探索してこれら中近世の木曽ヒノキ倒木を発掘したうえ、これらを樹齢300年の木曽ヒノキ現生木の年輪曲線に繋ぎ、全体として西暦1100年代まで遡る長さ800年の標準年輪曲線を作成した。この標準年輪曲線と過去100年間の気象観測の応答関数解析により、中部山岳における年輪成長には、第一に成長に先立つ冬季の気温が、第二に前年成長期の降水量が、支配的な影響を及ぼしていると判明した。この結果から伝達関数を用いて過去800年の気温変動を復元したところ、13世紀中葉から19世紀中葉まで続く寒冷期を挟んで、その前には顕著な寒冷化の傾向が、その後には現在まで続く温暖化の傾向が現われた。この[寒冷化→寒冷期→温暖化]という気候変動は、それぞれ『中世の温暖期』の終焉部、『小氷期』、『地球温暖化』に対応するもので、北米、ヨーロッパなどの気侯変動などともよく同調している。また、本年輪曲線と過去の火山噴火の関係を解析したところ、南極やグリーンランドの氷床にまで硫酸降下の痕跡を残すほどの大規模な噴火の直後には、年輪成長が顕著に低落し、それが10〜20年ほど続くことが判った。この結果は、火山噴火で成層圏にまで吹き上げられた硫酸エアロゾルがその日傘効果により気候を寒冷化させるという気象学上の仮説を裏付けるものである。
著者
成田 健一
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、都市内に存在する緑地のもつ環境調節効果を多角的に把握する目的で、以下の二つの測定を実施した。一つは、夏季に行った短期集中観測で、グラウンドから樹林を通って市街地へとつながる側線を設定し、夏季における卓越風向に沿った緑地内部とその周辺の詳細な気温分布を測定した。その結果、これまでの数値モデル計算では表現されていなかった、平均流に逆らって乱流で輸送される水平熱輸送の存在が指摘された。このことは、たとえ風下側に位置するとしても、周辺市街地は緑地内部の熱環境に大きく影響を与えていることになり、緑地計画において緑地の規模を論議する場合にも、このような現象は無視できないと考えられる。二つめは、設計データとしての緑地効果の定量的な把握を目的に行った、1年間にわたる長期気温測定である。これまで我が国では「みどり」の熱的効果というと夏季の暑熱緩和機能のみが注目されてきたが、実際の設計を考える上では、冬季も含めた年間の環境把握がまずもって必要である。今回、1年間を通してのデータを解析することにより、落葉樹林における日中の気温低下には樹木の落葉・展葉と対応した明確な季節変化があること、それに対し夜間の気温差は年間を通して一定していること、緑地と周辺市街地との日最高気温差は盛夏には日中の最高気温時、秋以降は日没後の夕方から夜間にかけて出現頻度が高いことなど、興味深い成果が数多く得られた。
著者
斎藤 義夫
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では,異機種の知能化機器で構成された加工セルを対象として,セル内での協調作業の分析を行うとともに,協調制御を実現するために知識獲得方法の獲得および学習機能の付与を試みた.また,具体的に画像処理装置とロボット加工セルよりなるシステムを実際に構築し,木材の加工を行い,自己学習の実現を目標に研究を行った.その結果,下記に示すように多くの新しい知見を得ることができ,所期の目的を満たす研究成果があげられた.1.協調制御に関する知識獲得過程の分析と自己学習機能の検討:個々の知能化レベルにより具体的な協調動作は異なり,事前に獲得した知識レベルの状態が重要な因子となる.そこで,知識工学や心理学など幅広い分野の成果を集め,知識獲得と自己学習の過程を分析し,学習過程において重要となる概念形成の構築を試みた.具体的には,「図面,図形に対する類似性の概念構築に関する研究」として,概念形成の自動学習方法について新しい提案を行った.2.協調制御加工セルの試作と自己学習の実現:ロボットとビジョンシステムで構成された加工セルのプロトタイプを試作し,これを用いて知識獲得による自己学習の実現を試み,運用面での問題点について検討を行なった.実際に,「ロボットビジョンシステムによる木版彫刻加工の最適化」を試み,知能化機器が自分及びセル内の他の機器の知能化レベル(レディネス)に対応して作業内容を分解し,それぞれに適した内容として実行することを行った.ここで,各工程で獲られた新たな知識を自分自身に取り込む過程を繰り返すことにより,自己学習を行ない,実際の協調作業に適したセルとして成長することを目標とし,その実用化における問題点を明らかにすることができた.
著者
J クスマノ
出版者
上智大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究は、被験者によるヨガ介入の効力知覚、ならびにそれによるセルフ・エフィカシィ知覚に対して、生理学的な指標の即時フィードバックが影響を及ぼすか否かを明らかにするために計画された。仮説として提起したのは、ヨガ介入が効果的と把握されればされるほど、被験者が自発的にヨガをやる確率が高くなり、しかもヨガを継続的に実行するようになり、継続することによって望ましい効果が得られるというものである。ヨガの指導を受けてから、実際に何人の被験者がその後も継続したかをフォローアップで調査しなかったために、本研究では直接に応諾の問題には対処しなかった。むしろ本研究では、介入の効力知覚を高めることをねらったフィードバックの使用に焦点を当てた。換言すれば、本研究で直接扱うのは、ヨガ介入の効力知覚を高める手段としてのフィードバックである。ヨガ介入の効力を測定するために、今回はリラクセーション達成率を調べた。前記の仮説をより大きな準拠枠に当てはめてみると、実際に本人が遂行した介入に対する効力知覚が大きければ大きくなるほど、セルフ・エフィカシィは高まる。そして、セルフ・エフィカシィ知覚が高くなればなるほど、応諾率も上昇すると推測される。62人の学部生を被験者としてヨガによるリラクセーションのセッションを行い、リラクセーション達成率を測定した。被験者は、実験群とコントロール群の2つのグループに分けられた。実験群では、介入前後に血圧と脈拍数を測定し、その数値を提示した。コントロール群には、同数値のフィードバックを与えなかった。その結果、この2つのグループ間でリラクセーション達成率に有意差は示されなかった。しかし、両グループにおいて、男性に比べて女性の方が自分の達成率を有意に高く評価した。
著者
高橋 慎也
出版者
中央大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本年度は特に、80年代以降の日・米・独・墺のメッセージ・ソングのテキストに関して収集と分析を進めた。その結果、独・墺においてもこの時間のメッセージ・ソングは主としてロック系の歌手によって作成され、リーダー・マッハーと呼ばれるフォーク系の歌手の活動が著しく低下したことが明らかとなった。またメッセージの内容に関しては、環境保護・男女平等・社会的弱者の保護・反原発など、各国に共通する一般的なテーマが主流となり、その分、国毎の個別性が希薄化している傾向が見えてきた。いわゆるヒット曲とメッセージ・ソングを比較してみると、80年代のヒット曲の歌詞には物語性が乏しい点、またリズムやメロディーによって聴衆を快楽を与える点が傾向として見えてくる。つまり、ある特定のメッセージを一定の物語として表現し、聴衆の理性に訴えるというスタイルの歌が衰退し、リズムやメロディーによって聴衆の無意識に訴えて快楽を与えるというスタイルが人気を得るという傾向が、80年代には定着するのである。80年代にはメーッセージ・ソングというジャンルそのものがマイナー化し、社会的影響力を失っていったようである。こうした事実が明かになったことを踏まえて、その社会的背景を現在考察中である。断定できる段階ではないが、80年代に福祉国家が独・墺で一応の完成したことに伴う個人主義化や自己中心化の進行が、メッセージ・ソングの衰退に影響したものと考えられる。歴史的影響関係に関してみると、トゥホルスキーやケストナーおよびブレヒトに影響を受けた作品を発表してきたリーダー・マッハーの活動力が80年代には著しく低下したことが明確となった。また共時的影響関係にに関してみると、英米系のロック歌手がメッセージ・ソングのテーマを決定するという傾向が顕著となり、独・墺系のリーダー・マッハーの独自性は薄らいできていることが明かとなった。
著者
神原 廣二
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

クルーズトリパノソーマの感染哺乳類中の非増殖型トリポマスチゴートは体液中に孤立するため,多くの生残機能を発達させている。一つの手段として筋肉細胞をはじめとする宿主細胞に侵入して増殖型に変化する。したがって侵入は早ければ早い程原虫にとって宿主の攻撃をまぬがれることになるが,種の維持のためには昆虫(サシガメ)に吸血され昆虫内発育をする必要がある。このためには他方で血流中での長期生存機能を発達させねばならない。私達は牛血清アルブミンを含む低pHのMEM中で,トリポマスチゴートがすみやかにアマスチゴートに変化することを認め,この系を用いて形態維持因子を検出しようとした。まず低pH条件で促進される形態変化が原虫にとって生理学的なものであることを証明するため,電子顕微鏡による観察を用い,キネトプラスト構造を中心とする変化が,非増殖型から増殖型に向かう典型的な生理変化であることを示した。さらにイミュノブロッティングを用いて副鞭毛蛋白がこの変化に伴い消失することから,アマスチゴートへの変化であることを示した。トリポマスチゴートは中性条件においても血清または血清アルブミンの共存なしには生残できない。この原因は私達がこれまで考えてきたトリボマスチゴートから分離される細胞膜溶解物質の中和によるのでなく,アルブミンまたは他の血清成分はトリポマスチゴートの膜構成の安定化に必要であるためらしい。いくつかの血清成分の形態維持作用が調べられたが有意な効果を認めない。形態変化に伴いいくつかの蛋白が失われるが,このうちトランスシアリダーゼは早く消失するものの1つである。各種の細胞内情報伝達に影響を与える試薬の形態変化に対する影響を調べてみると,オカダ酸,KT5720に形態変化促進作用がある。このことと形態維持因子がいかにかかわっているのか,果して形態維持因子が特定できるのかは今後の問題である。
著者
八木 正
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

建設産業は今まで、その主要な労働力として出稼ぎ労働者と寄せ場日雇労働者に依存してきた。しかし最近では、出稼ぎ労働者は高齢化などにより激減しており、その分だけ寄せ場日雇労働者への依存率を高めつつある。しかも若者の間に、「危険、汚い、きつい労働」への忌避が広まっている現状では、大型プロジェクトを遂行するためには、いやが上にも寄せ場労働者に対する需要は高まらざるをえない。全般的な「人手不足」時代を迎えたこともあって今、「寄せ場」は空前絶後の好景気に沸きかえっている。このような有利な諸条件の中で寄せ場労働者の賃金は高騰し、かつて出稼ぎ労働者との間にあった賃金格差は完全に逆転している。現状では、日雇労働者の賃金相場が、出稼ぎ賃金をリ-ドしている。その結果、高齢の出稼ぎ労働者の中には、企業の雇用条件が悪いために、日雇労働者となって働いているという注目すべきケ-スも表れてきている。このような状況から、部分的には出稼ぎ労働者と寄せ場労働者との関係が逆転している現象もあるが、基本的な地位関係までも覆しているわけではない。出稼ぎ労働者を主要に雇用している中堅企業と、日雇労働者を主要に雇用している零細企業との間にレベルの格差があるからである。また一般に建設企業は、寄せ場労働者と較べると相対的に安定している、勤勉な出稼ぎ労働者の雇用を優先させ、比較的安定した労働条件を与えるからである。「飯場」は今や、少なくとも表向きには完全に死語と化している。今では、「作業員宿舎」と呼ばれている。その実態もかなり変化している。地価の高騰もあって、大型化すると共に、個室化が進んでいる傾向が見られる。この面でも、出稼ぎ労働者の宿舎個室の改善は目覚ましく、中には冷暖房のついている部屋を用意しているところもある。ちなみに、出稼ぎ労働者の賃金は、需要供給の関係から「東高西低」型となっている。
著者
高崎 講二
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究では、非定常噴霧燃焼におけるNOx制御方法として、水添加燃料を提案し、まず燃料噴射システムの改良と、燃料と水の噴射率測定装置の製作を行った。燃料噴射システムは、着火に至るまでは燃料のみを噴射し、着火後に水添加した燃料を噴射できることが必要である。本研究では、等圧吸い戻し弁付きの燃料噴射ポンプを用意し、毎サイクルの燃料噴射終了後、噴射ノズルホルダーの燃料通路に水を送り込む装置をそれに付加した。これにより、燃料通路からノズル先端までの燃料が先に噴射され、その後に水添加された燃料が噴射されるようにした。燃料と水の噴射率測定装置は、ボッシュ式の噴射率測定装置では燃料と水の区別ができないため、まったく新しい発想のものが必要となる。本研究では、東工大方式回転円盤形噴射率測定装置が適当と考え、それを改良した回転スリット式のものを製作した。この装置で噴射率を測定した結果、噴射期間中、水が好ましい形で燃料中に分布していることが予想されるデータが得られた。さらに、実際のディーゼル機関のような高温・高圧の燃焼室内では、水添加による噴霧の到達距離の違いが燃焼に大きな影響を及ぼす。そこで、大型のディーゼル機関を使用して燃焼の可視化を行い、噴霧の運動量と到達距離の関係を明らかにした。以上の実験から、この方法による燃焼制御の有用性が明らかとなった。
著者
木村 修三
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.平成4年度においてはとくに、冷戦の終結とソ連の解体及び湾岸戦争が中東紛争の構造に及ぼしたインパクトの分析に重点を置いた。とりわけ冷戦の終結とソ連の解体に関しては、(1)従来、対ソ戦略上の観点からイスラエルの戦略的価値に重きを置いていた米国の中東政策の転換と米イスラエル関係の変化、(2)従来、旧ソ連から政治的・軍事的支援を受けていたアラブ対決諸国及びPLOに及ぼした影響、(3)旧ソ連からの大量のユダヤ人移住者の流入がイスラエル社会に及ぼした影響、(4)それに伴う入植地建設の増大が西岸・ガザ地区のパレスチナ人社会に与えた影響などをイスラエル、米国、アラブ諸国及びパレスチナの文献によって把握に努めた。2.また湾岸戦争に関しては、(1)イラクからのスカッド・ミサイルの攻撃にさらされたイスラエル政府及び市民の安全保障観の変化、(2)イラクのサダム政権に支持を寄せた西岸・ガザ住民の挫折感とそれがインティファーダに及ぼした影響、(3)いわゆるリンケージ論がパレスチナ問題に与えた国際的影響、(4)湾岸産油諸国、とくにクウェートのパレスチナ問題に対する支持の低下及びパレスチナ人追放がインティファーダに与えた影響などの把握に努めた。3.さらに湾岸戦争後に開始された中東和平国際会議は、いわゆる占領地住民の自治による解決策を浮上させることになったが、(1)これがイスラエル社会に与えた影響、とくにリクード政権から労働党政権への交代の背景、(2)それが西岸・ガザ住民に与えた期待と幻滅感、(3)自治に期待を寄せるPLO支持勢力と占領地イスラム過激派勢力との分裂、(4)イスラム勢力ハマースの過激なテロ行為によるインティファーダの変質、(5)それに対するイスラエル政府の過剰な反応が中東和平交渉に及ぼしつつある影響などの分析に努めた。
著者
沢田 昭二 小林 昭三 斎藤 栄 安野 愈
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

量子色力学(QCD)の低エネルギー有効理論である非線形シグマ模型のソリトン解であるスキルミオンに関する研究を行うとともに、QCDの成立にいたる過程において重要な役割を果たし現象論的にも実験事実をよく再現する非相対論的クォーク模型との関連についても研究した。成果を項目的にまとめると次のようになる。1.量子化したカイラル・ソリトンのトポロジカルな性質に付いての研究については、特に3次元球面上のカイラル・ソリトンのスピン-アイソスピン空間における回転およびソリトンの中心を中心とする伸縮運動(ブリージング・モード)を集団座標の方法によって量子化し、この系の相転移構造を調べた。2.スキルミオン描像に基づき、高次補正を含めて一貫した矛盾の無い方法によって湯川相互作用やパイ中間子-核子散乱現象を記述することができるかどうかは、この描像の長い間の懸案であったが、この問題について基本的な解決を得ることが出来た。3.カイラル・ソリトン描像と非相対論的クォーク模型の描像の両者をQCDのカラー自由度N_Cを変化させてバリオンのスピン・フリップ・頂点について研究した。4.カイラル・ソリトンに採り入れられていないクォークの自由度を考慮した研究の新しい芽も生まれている。