著者
梅埜 國夫 下野 洋 富樫 裕
出版者
国立教育研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1 高等学校生物教育の内容として、教科書から抽出した455項目について、各項目ごとの必要度を評価してもらうために、生物教育の専門家792名に対してアンケート調査を行った。(内訳は、生物教育学会の会員である大学教官126名、教育センター所員44名および教育センターから推薦してもらった高校教員623名)回答は、557名(70.3%)から得られた。2 このアンケート調査の結果を参考にしながら、高校生物教育のミニマム・エッセンシャルズを策定した。3 ミニマム・エッセンシャルズを基にして、高校生物教育の教育課程試案(シラバス試案)を作成した。この試案では、高校生物の内容を9つの領域に区分し、各領域毎に、具体的な内容項目をA・B・Cの3ランクに示けて示した。Aランク:国民的教養としてのミニマム・エッセンシャルズ。すなわち、生徒の将来の進路のいかんを問わず高校卒業生の一般教養として必要不可欠な内容。したがって、できれば必修科目の中でとりあげたい内容。Bランク:発展的・補修的内容。すなわち、生徒の将来な進路の希望によって、選択科目の中で取り上げたい内容。Cランク:参考程度の内容。もし余裕があれば取り上げても良いという程度。4 本研究についての研究報告書を作成した。
著者
大矢 雅則 須鎗 弘樹 渡邉 昇 下井田 宏雄 宮沢 政清 戸川 美郎
出版者
東京理科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

この一年間に亘る研究成果について述べる.数理科学を対象とする領域は多様であるが,その中で情報科学と関連のあると考えられる分野に焦点を当て,それを解析的,特に函数解析や確率解析の手法を用いてできるだけ統一的に展開した.つまり,多様な分野を横に結ぶ″Key″となる概念を見い出し,それによって統一的に様々な分野を扱い,具体的に次のような内容の研究を行なった.1.情報理論の基幹であるエントロピー理論を解析的,確率論的,量子論的に展開し,量子制御通信過程における誤り確率の数学的な一般式を導き,光パルス変調方式の効率を数理的に調べた.2.遺伝子配列の整列化,相互エントロピーを用いた生物の類縁度の定式化による系統樹を作成し,遺伝子の情報論的取り扱いの有用性を示した.3.一般量子系の状態に対して,幾つかのフラクタル次元,及び量子ε-エントロピーを定式化し,それの具体的な力学系への応用を議論した.4.ニューラル・ネット及びシミュレーティッド・アニーリングについて数学的に厳密に定式化を行なった.特に,ニューラル・ネットを用いた最適値問題の解法における解の安定性を保障する幾つかの結果を得た.5.R^<n+>上で定められた非線形力学系の漸近安定解の外部からのノイズの影響について研究を行った.また,負性抵抗を含む回路がストレイキャパシタンスの影響により不安定になるケースについて調べた.6.デジタル回路網におけるバースト型のトラフィック問題を待ち行列モデルを使って解析し,光通信における通信路や交換機バッファーの容量,誤り確率等の最適値問題を数理的に研究した.7.最近のスーパーコンピュータの発達と数式処理のソフトウェアの発展を利用して函数値の高速かつ精密な算法を情報理論的見地から再検討し,組合せ最適値問題や非線形画法などで利用可能な新しい計算手法を開発するための基礎的研究を行なった.
著者
戸川 美郎 須鎗 弘樹 渡辺 昇 下井田 宏雄 宮沢 政清 大矢 雅則
出版者
東京理科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

今年度の研究実績について述べる.エントロピー理論はClausius,Boltzmann,Shannon等に始まり,その後,von Neumannによって,量子力学構築が試みられ,量子系のエントロピー理論が生まれ,現在も様々な分野において,その研究が続けられている.本研究計画においても,以上のような背景にもとづいて,次に示すような研究実績をあげてきた.(1)解がカオス的に境界に漸近する力学系において,境界が存在する相空間上の位相的エントロピーのパラメーター依存性を調べた.(2)画像処理に用いられる回路の安定性の条件を見つけることができた.(3)光通信における誤り確率の定式化並びに相互エントロピーによる変調効率の比較等を行うことができた.(4)ガウス通信過程への相互エントロピーの応用等を論じた.(5)量子系のエントロピーの最大化,ファジーエントロピーの諸性質などについても論じた.(6)遺伝子解析にエントロピー理論を応用するため,2個の生物塩基配列,あるいはアミノ酸列をコンピュータによって,整列化する際,DP matcingを用いたアルゴリズムを提案し,従来の整列化法を比較検討した.(7)また,2個の塩基配列だけでなく,n個の塩基配列を同時に整列化する方法も提案し,その速さ等を従来の方法と比較検討した.(8)RGSMP(Reallocatable Generalized Semi-Markov Process)と呼ばれる一般の待ち行列ネットワークに応用することが出来る確率過程を提案し,その基本的な特性の解析を調べた.(9)RGSMPの定常分布の構造をあらかじめ仮定することにより,RGSMPの状態推移の構造が定常分布にどのように反映しているかを議論した.(10)ポアソン到着を持つ無限窓口待ち行列の系内仕事量のモーメントを計算しバースト型到着モデルへの応用を論じた.(11)率保存則についてサーベイを行うとともに,パルム測度に関する基本的な公式や各種の確率過程の定常分布を特徴づける式などがすべて率保存則より導かれることを示した.
著者
小島 陽 落合 鍾一 福沢 康
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

機能的かつ機械的性質に優れたウィスカ強化アルミニウム合金複合材を得るには、製造法がポイントとなり、いかにウィスカを均一に分散させるかにある。現在のところ製造法には、大別して鋳造法と粉末冶金法がある。本研究では、粉末冶金法でウィスカ強化アルミニウム合金複合材を得る製造工程を確立し、複合材の特徴である耐熱性、耐摩耗性にも優れた高性能製品の作製のための基礎データを集め、また得られた複合材の高温特性を調べ、金属組織学的立場から高温特性と金属下部組織との関連を明らかにすることを目的とした。本研究に用いた粉末法は、SiCウィスカとA6061アルミニウム合金粉末を混合後、ホットプレスで一次成形した後さらに熱間押出しを行ない複合材を製造し、機械的特性や摩耗特性について調べた。特に、SiCウィスカの前処理、アルミニウム合金粉末の粒度、混合方法の影響について調べ、複合材の製造における問題点を考察した。本研究で得られた成果をまとめると以下のとおりである。SiCウィスカに前処理を施して、44μm以下のアルミニウム合金粉末を用いることにより強度は向上した。混合方法としてボールミルを用いると、ウィスカの体積率で5%、マグネットスターラを用いるとウィスカの体積率で2%までの複合材で強度の向上がみられた。混合方法によりウィスカの損傷や分散状態に差が生じ、これが強度に大きな影響を及ぼしていることが示された。また、ウィスカの損傷は、押出し工程までに激しくなり、アスペクト比も混合方法などに関係なく一定となった。SiCウィスカ強化アルミニウム合金複合材は、ウィスカ体積率10%で耐摩耗性が母材のアルミニウム合金の約3倍と非常に大きな結果となり、耐摩性材として有効であることが明らかとなった。
著者
新飯田 宏
出版者
横浜国立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本研究では、まず不当廉売における不当性の評価基準として、(イ)資源配分の効率性、(ロ)企業行動の戦略的効果の2つの観点から理論的にアプローチすることを意図し、簡単な寡占モデルによって競争政策に適用可能なルールの導出を検討した。その結果、次の点が明らかとなった。(【i】)資源配分の最適性を保証するように、限界費用に価格を等しくするように価格を値下げしても、それが一時的な値下げである限り、何ら社会的厚生を増大させることはない。したがって、特定の廉価販売を単純な短期の価格・費用の関係から、不当廉売に関する判断基準を作成することは不可能である。(【ii】)不当廉売の問題で重要なのは、その廉売が相手企業の戦略行動を予想した長期にわたる動態的プロセスであり、戦略的最適化の問題である。そこで廉売を潜在的参入者の参入阻止と、相手企業のシェア拡大阻止を狙う行動としてみたとき、不当廉売の判断基準として、(1)価格は限界費用以下ではならない(限界費用ルール)、(2)価格は総平均費用以下ではならない(平均費用ルール)、(3)新規参入の後、既存の企業は参入前の産出量以上に生産してはならない(生産量制約ルール)の三つを理論的に検討した結果、社会厚生最大の観点からは、産出量制約ルール>限界費用ルール>平均費用ルールの順で望ましいことがを明らかとなった。しかし、不当廉売を行っている企業が周辺企業に印象づけている"評判"という"情報"としての機能を考慮すると、競争政策として比較的コストを少なく不当廉売規制を行うとすれば、何が望ましい政策かが次に問題となる。現実の不当廉売問題と上記の理論的な結果を併せ考慮すると、「すべての廉価販売をまず自由に認め、その上で資源配分の効率性を高めるように、原則として相当期間、廉売商品について元の価格以上に戻ることを認めない条件を付するのがよい」というのが結論である。
著者
田中 康夫 井上 庸夫 鈴木 雅一
出版者
独協医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

誘発耳音響放射(OAE)に関する私共の行なってきた研究(Tamaka et al.,1988他)からこの音響現象が騒音難聴などの内耳障害程度の指標として役立つことや,更にそれがdip型聴力障害の易傷性と関係を有していることが示唆されてきた。本研究では実際の騒音環境にある対象で耳音響放射の測定を行ない,音響易傷性の個体差について検討を行なった。対象としてF中学校女子吹奏楽部員33名およびS自動車部品工場勤続2年従業員16名を選び,聴覚検査とOAEの測定を行なった。騒音測定装置を用いて解析した作業場の騒音レベルは90.0〜97.0 dBLcegであった。1). 中学吹奏楽部員33名64耳のうち,41耳(63.5%)に自記オ-ジオグラム上のdip型聴力損失を認めた。OAEの持続が6ms以上であった。cーOAEは36耳(56.3%)に認められた。cーOAE(+)耳群のうちdip損失のあった耳は80.6%なかった耳は19.4%であった。dip損失のあった群のうちcーOAE(+)耳は70.7%,cーOAE(-)耳は29.3%であった。2). 工場従業員16名32耳のうち,16耳(50.0%)にdip型聴力損失が認められ,20耳(62.5%)にcーOAEが観察された。cーOAE(+)20耳のうち,13耳(65.0%)にdip型損失あるいは高音急墜がみられたが,7耳(35.0%)には障害が認められなかった。cーOAEが(+)であり,かつdip損失を伴っていた耳群のうち8耳は,22ケ月前の調査で,全例がcーOAE(-)であり,そのうち7耳はdip損失も伴っていなかった。今回の中学校における調査結果は以前に行ったH中学校で得られた成績と同様に,OAEの持続する耳と音響易傷性の関係を支持するものであった。工場における調査では,両者の関係を実証する統計的に有意な結果は得られなかった。工場の調査ではcーOAEが素因ではなく結果である可能性が示唆され今後,作業環境,耳栓装用,および検査前休養時間などの条件をさらに厳密に一定化して検討する必要があると考えられた。
著者
田中 康夫 岡田 真由美 井上 庸夫
出版者
独協医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

騒音の曝露によって起る聴器障害の程度の個体差は大である。この個体差が何に基因するかは未だ不明である。誘発耳音響放射(OAE)は内耳の微小機械系振動の外耳道への投影と考えられており、騒音難聴の初期像であることの多いdip型聴力損失との関係が示唆されている。本研究ではそのような関係の有無を実際に騒音環境下にある中学校女子吹奏楽部の部員および、板金工場の従業員に対し動特性分析器および現有の聴力検査機器を用いて施行したOAEならびに聴力の測定結果より検討した。1.吹奏楽部員62名118耳の調査結果、1)dip型聴力損失を有する耳は純音オ-ジオグラム上は10.2%に存在し、連続自記オ-ジオグラム上では59.4%に認められた。2)持続が6ms以上であったC-OAEは50耳42.4%に検出できた。3)純音オ-ジオグラム上にdipのある耳は、C-OAE(+)耳で16.0%、C-OAE(-)耳で5.9%であった。連続自記オ-ジオグラム上でdipのある耳はC-OAE(+)耳で82.0%、C-OAE(-)耳で34.8%であった。2.板金工場で騒音下作業7年以上の従事者34名52耳の調査結果、1)連続自記オ-ジオグラム上で高音急墜型の聴力損失は2耳3.8%dip型聴力損失は34耳、65.4%に見られた。2)C-OAEは17耳32.7%に認められた。3)C-OAEのみられる耳において高音急墜型およびdip型聴力損失を示す耳の割合は82.4%、C-OAEのない場合には62.9%であった。C-OAEをもつ耳の頻度は正常聴力群で3.0%、dip型聴力損失群および一側dip型健側群で約90%であることを以前に報告した。今回の実際の騒音環境下での調査においても、主として騒音障害の初期像であるdip型聴力損失の発生頻度はC-OAEをもつ耳で高いことが示された。C-OAEは内耳の微小機械系の可動性に関係があるので、音響受傷性の個体差の一因子と考えられ、易傷性の予知に役立つ指標といえる。
著者
石井 一 木幡 勝則 佐藤 ハマ子
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.4ーピリドン類の合成と確認図1でn=0,1,2,4,6,8,10,12のアルキル鎖を有する8種の4ーピリドン類を合成し、元素分析、IR、NMRスペクトル、融点測定を行って合成した化合物の構造と純度を確認した。2.抽出平衡の検討(1)合成した4ーピリドン類の酸解離定数(Ka)及び配定数(K_D)を求めた。Kaはアルキル鎖の長さを変えても変らないが、Kaはアルキル鎖中の炭本数(n)と共に増大し、両者の間にはlog K_D=0.52+1.42で表わされる直線関係が認められた。(2)レアメタルとしてIn,Pr,Eu,Ybを選び各4ーピリドン類を用いて抽出実験を行い、錯体の結合比、半抽出PH、分抽定数(K_<DC>),抽出定数(Kex),安定度定数(β_3)を求めた、その結果 いずれの金属にも1:3(金属:配位子)錯体としてジクロルエタンに抽出され、Kex,β_3 はアルキル鎖長による影響は認められなかったが、K_Dはnと共に増大することがわかった。3.抽出速度の検討上記金属の4ーピリドン錯体はジクロルエタンに容易に抽出され、速度はアルキル鎖が長くなるにつれ僅がづつ遅くなったが、いずれの錯体も数分〜数十分の振り混ぜて定量的に抽出された。抽出の速度論的な詳細な今後引き続いて行うつもりである。以上の結果より、本研究でとりあげた4ーピリドン系化合物は、金属に対する選択性は乏しいが、上述の4元素はもとより、いわゆる硬い酸に分類される金属(例えば、Al,Ga,Ti,Zrなど)の抽出剤としては有用と考えられる。
著者
石井 一 佐藤 ハマ子 小尾 英樹
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.ヒドラゾン化合物の合成と確認図1でn=1,3,5,7のアルキル鎖を有するヒドラゾン(SAAH)および図2の5-ブロモ-,3,5-ジブロモ-及び5-ニトロ置換ヒドラゾン(SSAH)を合成し、元素分析、IR、NMRスペクトル、融点測定を行って合成したヒドラゾンの構造と純度を確認した。2.抽出平衡の実験(1)合成したヒドラゾンの酸解離定数(Ka)及び分配定数(K_D)を求めた。SAAHのK_D値はアルキル鎖を長くすると増加し(炭素原子1個当りlog K_Dで0.64)、Ka値もアルキル鎖を長くすると増加した。SSAHの場合も、ブロモあるいはニトロ基の導入はKa値及びK_D値に対して極めて有効であった。(2)レアメタルとしてPr,Eu,Yb(一括してLn)を選び、各ヒドラゾンを用いて抽出実験を行い、錯体の結合比、半抽出pH、抽出定数(Kex)を求めた。その結果、いずれのLnもTBP及びClO^-_4の存在下で(Ln^<3+>)(HL^-)_2(TBP)_3(ClO^-_4)錯体として1,2-ジクロルエタンに抽出された。電子吸引性の導入は錯体のKex値の増大に極めて有効であった。3.抽出速度の検討図1でn=7のヒドラゾン(SOH)とYb(III)との抽出反応を速度論的に検討した。その結果、SOHによるYb(III)の抽出は二通りの反応経路、すなわち、Yb^<3+>+HL^-→P及びYb・TBP^<3+>+HL^-→Pで進行し、水相中で1:1錯体の生成反応が律速段階であることがわかった。以上の結果より、合成した一連のヒドラゾン化合物の中では、図2でX及びYにブロモ基を導入したヒドラゾン(DBSAH)がランタノイドの抽出剤として最もバランスのとれた有用な抽出剤であることを実証した。
著者
畑江 敬子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

魚類の骨は一般に廃棄されているが、カルシウムを多く含むことからこれを食品として利用できれば、栄養的に有意義である。東北・北海道の郷土料理の一つである「氷頭(ひず)なます」は、サケの鼻軟骨あるいは頭部を食酢に数時間から数日間浸漬し薄切りにして、ダイコン、ニンジンの線切りと合わせた酢の物である。酢に浸漬して軟化した軟骨の独得の食感を賞味する。そこで魚骨の有効利用という観点から、酢酸浸漬によるサケ鼻軟骨の軟化の機構を知ることを目的とした。そこで先ず、酢酸浸漬中のサケ鼻軟骨のテクスチャ-および嗜好性の変化を物性測定と官能検査により検討し、あわせて化学成分の変化を測定した。船上凍結後ー40℃で2ー3ケ月貯蔵したアラスカ産シロザケ頭部を4℃16時間解凍後、鼻軟骨の部分のみ実験に用いた。これを2mm厚さの薄切りにし4%酢酸水溶液に168時間まで浸漬し経時的に測定を行い、以下の結果を得た。1.サケ鼻軟骨は酢酸処理により生臭いにおいがなくなり、テクスチャ-は軟らかく、もろくなり、嗜好性が高まることが官能検査によって確められた。酢酸浸漬時間は24時間程度が適当とされた。2.テクスチュロメ-タ-による硬さ、圧縮に要するエネルギ-および保水性の測定によっても鼻軟骨の軟化が示され、特に浸漬初期の軟化が著しかった。3.軟骨のpHは比較的短時間のうちに浸漬液のpHに近づき、168時間後には軟骨のpHは浸漬液のpH(pH3.10)に等しくなった。4.サケ鼻軟骨成分は浸漬により、水分、粗タンパク質量はほとんど変化しなかったが、糖質と灰分量の減少が著しかった。5.糖質と灰分の主成分であるムコ多糖とカルシウムは著しく減少し、168時間後には未処理の1/2となった。
著者
山本 博美 若松 秀俊
出版者
足利工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本年度は、3年間にわたって開発した通信回線を含む電子保護システム全体について、実際に特別養護老人ホ-ムの施設で運用を繰り返し、その信頼性や経済性などについて研究を行った。まず、特別養護老人ホ-ムに設置した電子保護システムに、前年度までにシュミレ-ションを行って確認したパ-ソナルコンピュ-タ-とモデムを接続し、さらにNTTの電話回線を接続した。また実際に監視側コンピュ-タ-(研究室)から施設側コンピュ-タ-をアクセスし、徘徊デ-タの転送収集を平成3年3月から平成4年3月の期間にわたり、繰り返し行った。同時に市販の多機能ポケットベルが作動することを確認し、老人の外出時の救護が平均約10秒程度であることがわかった。これは介護者が、救護のために警戒する出入口に急行し、出入口に設置してある警報解除スイッチを操作した時間である。このことから電子保護システムは、介護者が目 を離した隙に徘徊性老人が外出しても、確実に警報を発し介護者も平均10秒以内に急行していることからいって、その有用性が確認できた。つぎに、電話回線を通じて施設側コンピュ-タ-から送られてくる警報デ-タは、収集プログラムの改良を行い、短時間で転送できるようデ-タ圧縮転送方式およびデ-タ処理のプログラムを開発した。なお、監視システムをパ-ソナルコンピュ-タ-で構成できたので、経済性の面で有利である。また今後は、一施設のみならず栃木県圏内の数ケ所の施設間で、ネットワ-クを構築し、電話回線を通じて送られてくる警報デ-タの処理および分析が必要である。また、デ-タの送信時のノイズ等による影響については、ソフトウエアの開発によりその影響を取り除き、確実にデ-タ送信できるシステムに改良した。
著者
平賀 紘一 山本 雅之
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1.グリシン開裂系構成酵素をコードする遺伝子の発現が協調的に調節されているかどうかを知る目的で研究した。このためには、本酵素系は4種の構成酵素から成るので、少なくともこの中の2種の蛋白をコードするcDNAをまずクローン化しなければならない。そこで、我々はまず、本酵素系が触媒する反応の最初の段階に必要なグリシン脱炭酸酵素とH蛋白のそれぞれをコードするcDNAをクローン化した。Hー蛋白cDNAは840塩基長であり翻訳開始メチオニンから164アミノ酸より成るHー蛋白前駆体をコードしており、これに続いて約300塩基の非翻訳領域をコードしていた。一方、グリシン脱炭酸酵素cDNAは3514塩基長であった。翻訳開始メチオニンコドンはcDNA中に含まれていなかったが、遺伝子をクローン化して解析すると、cDNAの5'末端から24塩基上流にそのメチオニンコドンが発見された。グリシン脱炭酸酵素前駆体は1004アミノ酸から成る分子量約12万の大きなサブユニットであった。3.この2種のcDNAをプローブとして、35:11:1の割合で本系活性を示す肝腎、脳での両遺伝子の転写、両mRNAの存在量を調べた。その結果、これらの臓器ではグリシン脱炭酸酵素遺伝子とHー蛋白遺伝子は1:2の比率で転写されるが、転写量は比酵素活性の違いを反映していた。また、両mRNA量はどの臓器でも等モルずつ存在していたが、それらの絶対量はやはり、比酵素活性の比率と等しい割合で各臓器に分布していた。これらの結果は、グリシン開裂系構成酵素遺伝子の発現は協調的に起こるよう調節されていることを示す。4.しかし、心筋、脾など本系活性を示さない臓器では、グリシン脱炭酸酵素遺伝子だけが発現しておらず、本系構成酵素遺伝子は臓器により、ある時は協調的に、或は非協調的に発現される。
著者
小谷 朋弘
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

本研究は、現代社会における紛争処理の能様について明らかにすることをネライとしており、主に3つの部分から構成されている。第1は、市民の法意識であり、ここでは法意識の方向と水準の2つの視点からアプローチされている。「方向」は、個人主義ー相互主義と公志向ー私志向の2つの尺度でとらえられ、「水準」は、規範主義ー順応主義の尺度でとらえられている。平民においては、相互主義が圧倒的に優勢であるが、公志向と私志向では私志向が優勢であり、平民はよりよい社会をつくることには賛成しているが、かといったそのために個人の権利まで放棄するものではないことがわかる。第2は、市民の紛争処理の態様である。ここでは紛争処理の志向と紛争処理の経験の2つの視点からアプローチしている。前者からは、市民が紛争処理にあたって、第1次的紛争処理機関よりも第2次的紛争処理機関の利用に傾斜しており、他方後者からは、実除に、恵2次的紛争処理機金の役割がきわめて重要な位置を占めることがわかる。第3は、紛争処理における弁護士と市民との相互の関係である。ここでは、弁護士職に対する職業行価、弁護士アクセス、弁護士職の職業構成の3つの視点からアプローチされている。前者からは、市民と弁護士の間にとくに弁護士職の安定性と高収入性の2点について認識の中カップが大きいことがわかる。中者からは、アクセス経路が困難的であり、かつまたクライアントの階層が上層に傾斜していることがわかる。そして後者からは弁護士職が員訴訟業務に特化していることが明からになっている。
著者
小池 吉子 浦田 芳重 小池 正彦
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

ヒトピルビン酸脱水素酵素(PDH)は、ピルビン酸の異化分解に与るピルビン酸脱水素酵素複合体の成分酵素の一つで、その初段階の酸化的脱炭酸反応を触媒する代表的なチアミン酵素で、α及びβサブユニット(鎖)から成りα_2β_2の四量体である。慢性酸血症を呈する代謝異常症の病因の一つに本酵素欠損症があげられているので、本酵素遺伝子の構造を明らかにし、欠損症の本体の解明を意図した。ヒトPDHα,β鎖cDNAをプロ-ブとして、白血球ゲノムライブラリ-からPDHα,β鎖遺伝子をクロ-ニングし、特性を調べた。1.ヒトPDHα鎖遺伝子ー全長17kbに及ぶ2個のクロ-ンを得、全塩基配列を決定した。本遺伝子は11のエクソンから成り、イントロン/エクソン境界は全てGT/AG則に従ってした。転写開始点は翻訳開始コドンより124bp上流のチミンと推定した。5'上流域にはCAATbox,TATA様box,2つのSpI結合領域が認められた。2.ヒトDPHβ鎖遺伝子ー18kbの1個のクロ-ンを単離し、その全塩基配列を決定した。本遺伝子は10のエクソンからなり、イントロン/エクソン境界は全てGT/AG則に従っており、転写開始点は翻訳開始コドンより129bp上流のアデニンと推定した。プロモ-タ-領域にCAATboxのみを認め、TATAbox及びSpI結合領域は認められなかった。Coding領域は3'側の9kbに存在していたが、α遺伝子との接合部は見出せなかった。3.制限酵素消化パタ-ンーPDHα及びβ鎖遺伝子の制限酵素消化パタ-ンに多型性は認められたが、本酵素欠損症患者DNAに特有なパタ-ンは認められず、本法をPDH欠損症の診断に応用することはできなかった。4.PDH欠損症患者遺伝子ーPDHα,β鎖遺伝子の各エクソン領域を患者遺伝子をテンプレ-トとし、PCR法で増幅し塩基配列を調べ、変異部位を解析中である。
著者
石川 忠晴 田中 昌宏
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

まず始めに、昭和63年度の現地観測結果に基づき、日成層と吹送流の相互作用について検討した。その結果、(1)日成層の混合過程が吹送流のせん断不安定により生成される乱れによっている、(2)吹送流の速度分布が混合層内のエネルギ-バランスによって支配されている、と推論された。次に、上記の推論に基づいて、日成層と吹送流の相互作用を表わす数理モデルを検討した。まず日成層の混合過程が、いわゆるDIM(Dynamic Instability Model)と基本的に同じものであると考え、既存のDIMの問題点を明確にした後に、より完全な定式化を行った。今回構築されたモデルの特色は、日成層と吹送流の相互作用を力学的に厳密に取り扱っていくために、モデルパラメ-タの物理的意味が明確であるとともに、その値が演繹的に決定されている点にある。次に、上記モデルに、湖の岸のもたらす効果や日成層下部の密度勾配の影響を加えて、実際現象を十分シミュレ-トできる数値計算モデルを作成している。その結果を現地観測結果と比較したところ、非常に良い一致を見た。最後に、上記モデルを用いて、霞ヶ浦などの浅い富栄養湖の水質が急変する条件について検討した。日成層がその日のうちに消滅しないと底層水が数日間嫌気状態になって底泥から栄養塩の溶出することが昨年の現地観測で明らかにされている。そこで、日成層がその日のうちに消滅しなくなる気象条件、具体的には1日の総日射量と風速の関係について明らかにした。
著者
堺 正紘
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

木材の流通・利用をめぐる状況の変化の中で、すなわち(1)住宅供給形態の変化(企業の進出やプレカットシステムの増加)、(2)冷暖房の普及や遮音・断熱性に対する要求の向上、(3)大型木造建築物の増加、(4)伐出産生の機械化や原木市売市場の発達等による木材の生産・流通構造の変化、などに伴って木材の乾燥問題がクロ-ズアップされるようになった。しかし、1987年の乾燥木材の生産量は945m^3で、製材工場の製材品出荷量の3.1%を占めるに過ぎない。しかも大半が造作材、フロ-リングや集成材の原板、家具用材、梱包用材等であり、柱角のような建築用構造用材は29%に過ぎない。本研究では、建築用木材の分野での乾燥木材の生産・流通の最適シストムを明らかにすることを目的に、製材工場(1989年度)とプレカット工場(1990年度)の木材乾燥に対するアンケ-ト調査並びに原木乾燥に関する産地調査(1991年度)を実施した。木材乾燥は原木の天然乾燥と製材品の天然及び人工乾燥との効果的な組合せが課題であるが、スギ材産地の製材工場では、製品の天然乾燥(1ヶ月以上)は39%、人工乾燥は22%、原木天然乾燥(1ヶ月以上)でも48%が行っている過ぎない。これは乾燥木材と生材との価格差が小さく乾燥コストが償えないからであるが、木材乾燥による材質や商品管理上のメリットについては多くの製材工場が認めている。プレカットは在来木造建築の分野では顕著な伸びが続いているが、プレカット工場の木材品質に対する要求は一般工務店よりも厳格である。部材の含水率管理の現状はまだ甘いが、それは乾燥木材供給量の絶対的な不足によるところが大きい。葉枯らし等による乾燥原木の生産量は688千m^3、国有林230千m_3、民有林458千m^3であり、民有林では奈良県を中心とする近畿地区に36%が集中する等地域性が大きい。またマニュアルの見直しを求める声も強い。
著者
平井 啓久
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

(1)ヒト第2染色体形成メカニズムを再検討する目的で、ヒト第2染色体ペイントDNAおよびα-サテライトDNAをプローブとして、ヒト、チンパンジー、およびゴリラの染色体に蛍光in situsハイブリダイゼーション(FISH)を行った。その結果、ペイントDNAは、従来の見解(ヒト第2染色体はチンパンジー第12・13染色体の末端融合によって形成された)を、確認した。α-サテライトDNAは、厳しい条件下で、ヒト第2染色体、チンパンジー第12染色体および小型メタセントリック(未同定)、およびゴリラ第11染色体のセントロメアに対してポジティブな反応を示した。今回のデータからでは、ヒト第2染色体の形成メカニズムに新しい知見を加える事はできなかったが、チンパンジーに、共通セントロメアを有する2対の染色体が存在する事は、その2対の染色体が共通の染色体から派生した可能性を示唆している。そこで、現在、染色体顕微切断法を用いて、チンパンジー第13染色体のセントロメアのDNA採取およびそれを用いてのFISHを行っている。また、チンパンジーの染色体分化の解明のための新戦略を検討中である。(2)シロテテナガザル、アジルテナガザル、ミューラーテナガザル、クロッステナガザル、およびワウワウテナガザルの染色体をC-バンド染色で観察したところ、従来発表されているパターンと異なるデータが得られた。腕内介在バンド、末端バンド、短腕全ヘテロクロマティン等を有する染色体が多く観察された。また、G-バンド染色で従来観察されていた第8染色体の逆位多型も、以前とは異なる状況で観察された。現在、染色体44本型テナガザル類の染色体分化のメカニズムを、今回観察した事実を基に、従来とは異なる方向から検討している。さらに、そのデータを基に、染色体変異ネットワークおよび核グラフ法を用いて数量的に解析中である。
著者
小松 和彦
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

今回の調査研究の目的は、高知県香美郡物部村に伝承されている陰陽道の末流「いざなぎ流」の宗教者たちの諸儀礼とくに村野年中行事としての性格をもつ儀礼およびかれらの日常生活を調査するとともに、その様子を映像に記録することであった。「いざなぎ流」の宗教者たちは調査されることを嫌うという傾向が強かったが、その態度が、この数年大きく変わり、積極的に調査を期待するようになってきていた。今回の調査は、これに応える形で計画されたものであった。宗教者たちの協力もあって、当初から予定していた「七夕まつり」と「盆行事」については、その一部始終をビデオに収録することができ、また、宗教者たちの日常生活についても、同様の成果を上げることができた。さらに、「七夕の祭文」など多くの祭文や年中行事についての聞き取り調査も、十分に行うことができ、その様子もビデオに収録した。しかしながら、調査を予定していた村内の高坂山の「峰入り」行事や旧家で行われるとされていた「家祈祷」については、残念ながら、目的を達成することができなかった。いずれも祭りが行われなかったことがその理由であるが、前者について言えば、昭和天皇の病気による自粛として一昨年の祭りが中止となったあと、諸般の事情で祭りの廃絶に至ったからであった。この背景には高度成長以後始まった過疎化がいまや最末期の状況を迎えて、集落の消滅や高年齢化したという事情がある。いざなぎ流の宗教者たちが調査に協力的になったのも、「いざなぎ流」が近いうちに消滅することを感じ取っているからである。「いざなぎ流」の諸儀礼が行われる機会は、ますます減るであろう。その消滅を目前にして、諸儀礼の映像記録の作成は、急務の課題であろう。ここしばらく、引き続き調査・研究を行っていくつもりである。なお、これまでの調査で集積した映像記録は、編集のうえ、来年度の映像民族学の会の年会で、発表する予定である。
著者
亀谷 乃里
出版者
女子栄養大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

バルバラの生涯と未発見作品並びに彼に関する批評の発堀作業の結果報告。1.Soci【e!´】t【e!´】 des gens de lettres所有の古文書から(1)1846年12月8日付、協会長宛のバルバラの手紙(入会願い)(2)1847年1月6日付、バルバラの入会確認書、(3)1872年12月2日付、墓石商未亡人の協会宛の手紙(バルバラの基地使用期限切れの件)(4)1882年12月2日付、バルバラの弟、ジョルジュの協会長宛の手紙(シャルル・バルバラの遺児のため奨学金依頼の件)、以上を発見。(1)にはそれまでに発表されたバルバラの作品リスト及び寄稿したp【e!´】riodiguesの記載があり、中には未発見作品も含まれp【e!´】riodiguesに実際当って次の作品と事実が発見、判明した。・"Un Chiffonnier,"Almanach populaire de la France,Paris,1845,pp.95-100;・"O【u!`】est le drame? O【u!`】est la farce? Un Paillasse",Le Tam-Tam,11 sept,1836;・Le Conteur Orl【e!´】anais(recueil),Orl【e!´】ans,1845に寄稿;・Le Corsaire,Le Corsaire Satanに寄稿し始めた年が1845年又は1846年と判明。・1846年にバルバラがN゜2 M.le Princeに居住した事実が判り、シャンフルリの『回想』の中で語られている諸事件の年代が判り、以後の調査のための大きな手懸りを得た。(2)よりバルバラの文芸家協会入会年月日が判明。2.バルバラの友人ナダールの寄稿を手懸りに、・"Le Tems la Vie et la Nourriture 【d!´】unHomme,Le Commerce,24nov.1843を発見。3.バルバラの二児の出生証明書を発見しその名前と出生年月日が判明、(Marie Charles Eug【e!`】ne Antoine,1862年10月22日;Pierre Gabriel,1864年12月3日)、4.義母とGabrielの死亡証明書を発見し、バルバラとその妻、息子の一人、義母が5日間で相次いで死亡したことが判明。5.Arthur Pouginによるバルバラの記事、"Charles Barbara",La France musicale,7 oct.1866を発見。この中で未だ知られていないバルバラの作品の題"Organiste"があげられていて、以後の作品発見の手懸りを得た。
著者
塩野 正明
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.LDE法によりリボヌクレアーゼAp1の直接構造決定を試みた。分解能8Aの反射にランダムな位相を与え、実測データの上限である分解能1.17A(23853反射)まで位相を拡張及び精密化を行ったところ、平均位相誤差81.7°、規格化構造因子と修正後の電子密度から得られた構造因子の大きさにより重みを付けた平均位相誤差76.5°が得られた。この位相により計算された電子密度から主なピークを拾ってみると、大きなものから順に、1、4、5、8番目のピークがS原子のものであることが判明した。ちなみにリボヌクレアーゼAp1の分子は5つのS原子を含む。2.リボヌクレアーゼAp1の空間群はP2_1であり、b軸に垂直にハーカーセクションが現れる。ハーカーセクションが現れるピークがすべて自己ベクトルに起因するものと仮定し、電子密度にフィルターをかけてみた。これを用い、全反射にランダムな位相を与えて初期値とし、位相精密化を行ったところ、20回の試行のうち18回、1.で得られた位相と同等のものが得られた。3.リボヌクレアーゼAp1の5つのS原子の位置より計算した位相を初期値として精密化を行ったところ正しい構造が得られた。LDE法は部分構造から全体構造を導出する能力に優れており、1.と2.で得られた電子密度から正しい構造が得られる可能性は十分にある。これについては現在計算中である。4.LDE法とヒストグラムマッチング法の比較検討を行った。ヒストグラムマッチング法は低分解能から高分解能のデータまで適用出来、ある程度は位相精密化可能である。LDE法は、低分解能領域においてはヒストグラムマッチング法に劣るものの、高分解能領域では位相拡張及び精密化の能力は非常に優れていることが判明した。5.LDE法を、実測データが手元にある2‐Zn‐pig‐insulinとリボヌクレアーゼSaに適用した結果、どちらの構造でも平均位相誤差70°からはじめて、重み付き位相誤差55°程度まで精密化することに成功した。