- 著者
-
八木 正博
- 出版者
- 日本マイコトキシン学会
- 雑誌
- マイコトキシン (ISSN:02851466)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, no.1, pp.69-74, 2002 (Released:2009-01-08)
- 参考文献数
- 12
化学物質過敏症やシックハウス症候群といった室内空気中の化学物質による健康被害について社会的関心が高まっており,厚生労働省の⌈シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会⌉は既にホルムアルデヒド,トルエン,キシレンなど12物質の室内濃度指針値案及び暫定指針値案を策定し,総揮発性有機化合物(TVOC)の暫定目標値を定めた1).個別の指針値案はリスク評価に基づいた値であり,その濃度以下であれば通常の場合はその化学物質は健康への悪影響を及ぼさないと推定された値である.上記検討会は今後も引き続き他の化学物質の指針値案を策定していく予定である.しかし,実際の室内空気には複数の化学物質が存在すること,リスク評価を行うためのデータが不足していること及び指針値を決めていない化学物質による汚染の進行を未然に防ぐ目的からTVOCの暫定目標値も定められた1).ところで,最近の室内空気問題というのは新建材の開発や建築技術の発展などに伴い,種々の化学物質が用いられ,それらが室内空気中に揮散され,さらに住居の気密化が進んだことにより室内空気中の有機化学物質濃度が高まったために問題が生じてきたと考えられている.家具や電気製品などの家庭用品についても種々の化学物質が用いられており,これらも有機化学物質の発生源になっていると推定されている.今回,室内空気中化学物質の濃度指針値案が策定されたことにより,建築物や家庭用品等の関係者が室内空気中化学物質の濃度を下げる工夫をすることが期待され,今まで原因がわからず,健康被害があった人々の多くが健康を取り戻すことができると思われる.さらに調査研究が進み,有害な化学物質の発生の少ない,地域の風土に適した21世紀型住居が建てられ,その住居に適した住み方が検証されることにより,室内空気中化学物質による健康被害で悩む人が減ることが期待される.