著者
吉田 正夫 大津 浩三 山本 雅道
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

受容膜のターンオーバーに関しては, 感桿型をもつ甲殻類, 昆虫, 繊毛型をもつ脊椎動物の各視細胞で知られている. 本研究のナメクジウオは同一動物が再種の型の視細胞をもつが, 明暗によりターンオーバーを示すものは感桿型であるジョセフ, ヘッセ細胞のみであった. 繊毛型のラメラ細胞でターンオーバーが見られなかったが, 脊椎動物の円盤膜も, それ自身がターンオーバーするのではなく色素上皮細胞に喰われることによる現象であること, 即ち視細胞自身の活性に基くものでないことに着眼, 進化的2型と対応したターンオーバーの意味を探ることを本年度の目標とし, 繊毛型視細胞(クラゲ, ホタテガイの遠位網膜)の明暗順応過程の調査を行っている. 現在のところ上記の作業仮説に反する結果は得られていないが, 進化的にも, 膜の生理機能の上でも広く且重要な結論となり得るので, 今少し調査の必要がある.
著者
本川 達雄 松野 あきら
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本研究の最大の成果は、カルシウムイオンがキャッチをひきおこすことを強く示唆する結果が、はじめて得られた事である。シカクナマコの体壁を、無刺激でキャッチしていない状態と、高濃度のカリウムイオンを含む人工海水でキャッチ状態にしたものとを、ピロアンチモン酸存在下で固定して、電子顕微鏡で観察した。キャッチしていない状態では、ピロアンチモン酸の沈澱は、2種類の細胞の中に観察された。大きなvacuoleを持った細胞のvacuole中と、0.2-0.6μmの楕円形で電子密度の高い顆粒をたくさん持つ細胞の顆粒の中とである。分析電子顕微鏡(EDAX)の分析により、これらの沈澱はカルシウムを含むことが分かった。一方、顆粒中の沈澱には変化がなかった。以上の結果は、vacuole中からカルシウムが放出されることによりキャッチが引き起こされることを強く示唆しており、キャッチ結合組織の機構を理解する上での、重要な発見といってよい。もう一つの成果は、ヒトデの腕のかたさとその変化を、はじめて定量的に記載し、この変化が、キャッチ結合組織によることをほぼ確実にしたことである。腕のかたさは曲げ試験を行い、梁理論を適用することにより求めた。腕の形態学的研究から、腕の形と断面二次モ-メントを記載する関係式をつくり、これをもとに、たわみ量からかたさ(ヤング率)を産出する式をもとめた。アオヒトデのかたさは、刺激をくわえない状態では8MPaであった。機械刺激により、かたさは3倍に増加した。かたさはイオン環境により大きく変わった。これは、体壁の結合組織がキャッチ結合組織であり、これがかたさの変化を引き起こしていることを示唆する結果である。ヒトデにもキャッチ結合組織の存在することがほぼ確実になった。
著者
山中 高光 永井 隆哉 大高 理 植田 千秋 土山 明 田窪 宏
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

プレートの流動現象や、沈み込むスラブの運動を把握するためにはダイナミカルな構造研究をする上で、地殻やマントルの構成鉱物の環境変化(温度・圧力・成分等)に伴って、生じる転移・分解・融解・結晶内イオン交換反応等の諸々の構造変化のカイネティックスや機構を究明することが重要な課題である。本実験ではケイ酸塩鉱物や類似鉱物の圧力誘起による構造変化と逐次観察と動的構造の研究を行った。1.マントルの主構成鉱物であるカンラン石(Mg_2SiO_4)について分子動力学(MD)計算を用いて圧力誘起の構造転移のシミュレーションを行った。室温では35〜40GPa圧力領域で圧力誘起非晶質相転移が生じ、95〜100GPaで未記載な結晶構造に再結晶化することが計算から明らかになった。ダイヤモンドアンビル高圧発生装置と放射光X線を用いた高圧実験でカンラン石のGe置換体のMg_2GeO_4の圧力誘起非晶質相転移を実際に確認した。2.マフィックな珪酸塩鉱物が海洋地殻で水和物に変質し、それらがサブダクションでの低温(<500℃)で応力下での構造安定性を調べ水の挙動を研究する。そのためCa(OH)_2の圧力誘起相転移と準安定相の存在領域を放射光X線回折実験で決定しその機構を解明した。その結果水和鉱物は高圧下では脱水反応はせず、非晶質相として地殻内部にもたらされ、これらがマグマなどに重要な水の起源として考えられる。3.マルチアンビル高圧発生装置に装着し、SiO_2の同一の多形構造転移を示すGeO_2の圧力誘起非晶質相転移した物質についてS波とP波の弾性波速度を測定し、体積圧縮率や剛性率を求めた。これらの弾性波速度の温度・圧力変化の研究はサブダクション・ゾーンで生じる深発地震の発生の解明にも貢献した。また分子動力学から求められた温度圧力関数にした弾性常数の変化と比較し検討した。
著者
藤崎 源二郎 木村 寛 北川 義久 藤平 秀行 落合 昭二 木村 茂
出版者
宇都宮大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

有限次代数体kのガロア拡大K/kのガロア群がp進整数環(p:素数)I_pのカロ法群に同型であるとき,K/kをI_p-拡大という.I_p-拡大K/kに対して中間体の列k=k,⊆k_1⊆…⊆k_n⊆…⊆K,k_n/kはp^u次巡回拡大,が唯一つ定まる.k_nのイデアル類群のp-シロ一群の位数をp^<en>とすれば,十分大きなすべてのnに対してe_n=λ_n+μp^n+vとなる整数の定数λ(≧0),μ(≧0),Vが定まる(岩澤類数公式).λ,μをI_p-拡大K/kの岩澤不変量という.有限次代数体kに1のpべき乗根すべてを添加した体k_∞はkのI_p-拡大体となる.k∞/kをkの円分I_p-拡大とよぶ.岩澤不変量λ,μの研究は代数的整数論における中心的課題の一つであり,とくに円分I_p-拡大のλ,μの研究は重要かつ興味あるものである.本研究ではとくに円分I_p-拡大のλについて考察した。すなわち,研究代表者藤崎はkが有理数体のあるガロア拡大(ガロア群が(2,2)型アーベル群,四元数群,二面体群など1のとき,kの円分I_p-拡大のλについてある結果(kの部分体のλとの関係)を得た.また,特別なpについて計算例を集めた。研究分担者木村茂はネバンリンナ理論の発展についての総合報告を執筆発表した。研究分担者木村寛は授業資料として計算機から電算機に至るまでの発達を文献対比により整理した.また,中学校の課題学習で扱う教材を事例毎に考察した.
著者
鈴木 邦夫
出版者
電気通信大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

本研究の目的は, 三井物産・三菱商事などの総合商社の生成と運動の歴史を分析し, それによって過去および現在の総合商社の基礎理論を提示することである.この課題を達成するため, 本年度において以下の作業をおこなった.1.世界において初めて生成した総合商社である三井物産の活動を分析することが基礎理論を提示するための不可欠の研究であるという観点から, 三井物産の分析を中心におこなった. その際, 三井物産会社資料中の「回議箋」(戦前分)に綴られている各部・各課・各視点提出の議案について, その件名リストを作成した. この作成のため, 謝金を使ってアルバイトをやとった. 「回議箋」所収の議案が莫大な数に達するため, 件名リストの作成は中途までしかおこなえなかったが, 今後も引続きおこなう予定である.2.大阪府立中之縞図書館所蔵の貿易商社名リスト(戦前)などをコピーと筆写により収集し, これをもちいて日本における外国製品の商品別・会社別・国別進出状況を分析し, さらに三井物産, 三菱商事などの日本商社とサミュエル商会・ジェームスモリソン商会などの外国商社の対抗状況を分析する場合の基本的データとして利用するため, 日本商社リストと外国商社の商号リストを作成した.3.日本および諸外国における貿易・生産の状況を参照するため, 貿易・生産に関する基本図書を購入した.
著者
石川 清
出版者
愛知産業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

イタリア・ルネサンス期の建設活動における職人組織の様態を把握するために,まず初期ルネサンスに職能としての建築家像が形成されていく過程を明確にした.十四世紀フィレンツェのドメニコ派修道院サンタ・マリア・ノヴェッラでは修道院内の職能分離によって早くから呼称されていた「建築家」がその技術的な水準の高さから,やがて公共建築や大聖堂のヴォールト架構等の助言者として修道院外においても活躍するようになる実態を明らかにし,十五世紀前半においては,世俗の職人組織の中から,異なったタイプの3人のマエストロ,フィリッポ・ブルネレスキ,ミケロッツォ・ディ・バルトロメオ,アントニオ・ディ・マネット・チャッケリがが「建築家」と呼ばれるようになったかを,彼らが携わった建築現場の様態を示す建設記録とルネサンス期の市民的人文主義者による建築に対する論述の中に現れる記述表現の変遷を文献学的な側面から検証し,職人組織の中でのその職能の分化過程に見出し,建設職人組織の様態の相貌を明らかにする手掛かりとした.中世期の都市停滞期に喪失した建築家像が十五世紀に入ってアルベルティの『建築論』の中で再び構築されていったが,同時に現在なおイタリア都市の性格を物質的に規定し続けている建築の文化的地平が都市機能充実の気運によって営まれた建設活動の中で培われた技術と職人組織とその建設法のシステム化によって支えられたことをさらに裏づけた.ルネサンスの都市化現象に通底した芸術生産活動における組織編成の変容とその過程を射程することによって,ルネサンス期の芸術文化,都市文化の相貌を正確にすることとした.イタリアの中世末期から初期ルネサンス期にかけての職人工房における組織的制作の手順を多次元的に把握することを試みた.
著者
山下 正男
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究の成果の一部は、平成5年1月27日京都大学人文科学研究所刊行、山下正男編『法的思考の研究』の巻頭論文「法的思考とはなにか一義務論理学の効用性一」において発表された。本論文はそれに先だって自分で開発した義務論理学を、実際の法的諸問題に適用し、義務論理学の効用性を験証したものである。そして以下はその効用性のあらましである。(1)義務論理学もしくは法論理学は日本の現行憲法はもちろん民法、刑法をはじめとするすベての法文に適用可能である。ただし憲法前文は適用範囲から除かれる。(2)義務論理学と事実論理学とが互いに還元不能であるということから、法体系が事実学およびイデオロギーから独立しているという主張を正当化することができた。(3)いままでの法文の基本用語はホーフェルドによって提案されたものが用いられていたが、それを改良することができた。(4)法律で便宜的に使われ続けてきた構成要件なるものの論理学的身分を解明することができた。(5)いわゆる概念法学というものの素性をはっきりさせることができた。(6)法延論爭の基本構造を義務論理学と実験論理学を組みあわせることによって解明することができた。(7)いわゆる法的三段論法が欠陥品であること、そしてそれに代わる義務論的仮言三段論法(法的推論)を使うベきであることが提案された。以上7点のほか、義務論理学の応用範囲は今後とも、さらに拡大されることは疑いないと考える。
著者
清水 昌 片岡 道彦 小林 達彦
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

(1)土壌より分離した糸状菌Mortierella alpina 1S-4をグルコースを主炭素源とする培地で培養すると、菌体中に著量のアラキドン酸含有油脂を蓄積することを見いだした。本菌を用いてアラキドン酸含有油脂の蓄積量増大に関する培養条件の検討を行った。炭素源としてグルコースと共にオリーブ油、パーム油などのオレイン酸含有油脂を併用すると、菌体油脂中の不飽和脂肪酸の割合が著しく上昇することを見いだした。また、培養時間の延長、窒素飢餓条件下でグルコースなどの炭素源の添加は、アラキドン酸含量の上昇に寄与した。最適条件下でのアラキドン酸生産量は約5g/lに達した。(2)本菌のアラキドン酸生合成経路の解明を行った。その結果、本菌ではグルコースから生成したステアリン酸が不飽和化と鎖長延長を繰り返してアラキドン酸へ至ることを生合成経路の各中間体を単離することにより明らかにした。(3)アラキドン酸生合成に関与するΔ5不飽和酵素反応について検討を加え、本反応の特異的阻害剤が天然物中に存在することを認めた。ゴマ種子、ウコンの抽出物から阻害剤の単離を試み、それぞれセサミン関連リグナン化合物、クルクミンを単離・同定した。(4)上記のゴマ種子抽出物またはウコン抽出物を本菌の培養液中に共存させて培養を行うと、Δ5不飽和化反応が抑制され、アラキドン酸の前駆体であるジホモ-γ-リノレン酸が蓄積することを認めた。最適条件下での生産量は3.2g/lであった。
著者
友枝 敏雄
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

社会変動分析の方法論的課題として、1.自然主義-反自然主義 2.ミクロ-マクロ3.歴史主義-反歴史主義の3つに注目し、それぞれ検討した。まず1.自然主義(自然主義的な立場)-反自然主義(反自然主義的な立場)、2.ミクロ(方法論的個人主義)-マクロ(方法論的集合主義)の問題を解決するために、社会変動分析において「意味」の問題を考えることが重要であること.「意味」の問題を考える糸口として・ギデンズの提唱するプラクティス(practice)があることを明らかにした。プラクティスとは慣例的行動もしくは日常行動と訳されるものであり、我々の日常生活の中に沈澱した行動に注目して、社会制度や社会構造の成立を説明しようとするものである。プラクティスは、これまでの社会学の概念である集合意識、エートス、社会的性格と重なりあうものであることを明らかにした。つぎに3.歴史主義-反歴史主義については、歴史的説明の代表的な例である趨勢命題(産業化、官僚制化、合理化)を理論的説明として精綴化していく方法を検討した。社会変動論の代表として市民社会論と近代化論があるが、本研究ではとりわけ市民社会論に焦点を当てて、西欧社会で市民社会論が登場してきた歴史的背景と、日本の社会科学の展開に市民社会論がはたした役割を考察した。市民社会論と近代化論はともにモダンの社会変動論であるため、近年の冷戦構造の終〓と世界社会化の中では、それなりの限界を有するものであるが、ポストモダンの社会変動論として再生していく方法を研究した。

1 0 0 0 群論の研究

著者
永尾 汎
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1977
著者
矢尾板 芳郎
出版者
(財)東京都神経科学総合研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.RNase Hによるsubtraction libraryの手法の確立した。その応用によりオタマジャクシの退縮中の尾に誘導される遺伝子のクローニングを行った。10種類程の遺伝子が得られ、その発現様式から3グループに分類された。第1グループは脳、眼球、後肢、尾にすベてに発現しているものである。第2グループは後肢と尾に発現されている。第3グループは退縮している尾に特異的に発現されている。2.変態前のオタマジャクシの尾から、甲状腺ホルモン非存在下で初代培養を始め、いくつかの継代培養可能な細胞株がいくつか得られた。そのうちの少なくとも1つ(12T-15)に、変態時に観察される血中量にほぼ同じ10nMの甲状腺ホルモンT3を添加すると、その細胞は1-2週間のうちに培養皿から死んで離れていく。培地に加えてある10%牛胎児血清を1%馬血清に代えて5日後、抗トロポニシンT抗体で染色すると、強いシグナルを得た。このことは、この細胞が筋芽細胞由来であることを意味する。3.退縮中の尾に特異的に誘導される遺伝子のうちで、細胞株12T-15を甲状腺ホルモンで処理して1日以内に誘導されるものは第3グループに属している1個の遺伝子だけであった。甲状腺ホルモン処理4時間後から甲状腺ホルモン受容体β遺伝子が発現され、8時間後からclone T6-5-12のmRNAが増加していた。甲状腺ホルモン受容体β遺伝子は処理前から発現されていた。そのことから甲状腺ホルモンが既存の甲状腺ホルモン受容体αと結合して甲状腺ホルモン受容体β遺伝子を活性化し、甲状腺ホルモンと複合体を形成し、更にclone T6-5-12の転写を開始させたと考えられる。その遺伝子の塩基配列を決定してホモロジー検索したが、何の類似性も得られていない。細胞株12T-15に、退縮中の尾に特異的に発現されている遺伝子を導入することにより細胞死の分子機構を解明できると考えられる。
著者
的場 梁次 藤谷 登 四方 一郎
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

(1)5週令雄性マウスにメタンフェタミン(MA)を5,10,20mg/体重1kg2週間及び4週間皮下投与し, 心臓の光顕的, 電顕的観察を行った. 同時に対照として同量の生食及びノルアドレナリンを体重あたり1mg投与して心病変を比較検討した. その結果MA投与により光顕で心筋肥大, 萎縮, 融解, 収縮帯壊死, 空胞変性, 酸酸性変性, 錯走配列, 出血, 間質浮腫, 線維化, 小円形細胞浸潤などの心病変が認められたが, その程度は概ね投与期間や投与量に比例していた. また, 電顕では細胞膜の不整化, 筋原線維の増加, 過収縮, 錯綜配列, 幅の広いZ帯, ミトコンドリアの集蔟や変性, 及び筋小胞体の拡張が見られ, 細胞膜直下の多数の小胞体(Surface vesicle)が目立った. 対照のノルアドレナリン投与においても, これら同様変化が認められたが, その程度は弱かった. (2)プロブラノロール(β-blockcr)1mg/体重1kg及びベラパミル1mg/体重1kgをMA投与30分前に投薬した心病変を観察したところ, 上記MA投与時の心病変はほとんど認められなかった. (3)心筋ミオシンのアイソザイムについてHohらの方法を用いて検討したところ, 生食のみを投与した群と同様, MA投与群においてもV_1優位のパターンであった. (4)最近10年間の剖検覚醒剤中毒者26例の心臓組織を検索したところ, 15例の症別において肥大, 線維化, 錯綜配列などの病変が確認された.以上の実験並びに人死例の検索において認められたことにより, ヒト慢性覚醒剤中毒者に認められる心病変はMAの心毒性作用によるものと考えられ, その発因機序としてはMAの主作用である神経末端からのカテコールアミンの放出によるものと考えられる. 更に, 本病変をCa-antagonistで抑えられることや電顕における筋小胞体の拡張所見などより, 本病変にCa-Overloarlが関与している可能性が窺われ, これら心筋病変が肥大型心筋症と類似している点があること等は興味深いと思われる.
著者
村松 幹夫
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

イネ科コムギ族に属する種について、類縁関係が遠い属間に交雑を行ない、遠縁雑種における体細胞染色体の安定と不安定性に関する細胞遺伝学的研究を行なった。カモジグサ属(Agropyron)はコムギ族の系統発生の比較的起源点に近く位置すると考えられるが、この族の2種、カモジグサ(A.tsukushiense)及びアオカモジグサ(A.ciliare)、を用い、コムギ属(Triticum)、Aegilops属、ライムギ属、ハイナルディア属、オオムギ属の種などと行なった合計13,015小花の交配から、胚培養によって319本(2.45%)のF_1雑種を得た。それらの雑種植物の葉身に生じるキメラ状の稿による判定では、体細胞染色体数の不安定性はオオムギとの組合せに常に生じたほか、一粒系コムギではT.monococcumとのF_1に稿がみられる。この他のコムギ亜族の属間組合せはすべて正常なF_1雑種となった。オオムギとの雑種の体細胞染色体数は幅広く変異し、両親の半数染色体数の和による期待染色体数よりも増加、または減少した細胞がみられた。染色体不安定性にもかかわらず、カモジグサとのF_1はアオカモジグサとのF_1に比べ生育が良好であり、詳細な研究が可能であった。その結果、増加染色体数と減少染色体数との比は、交配組合せ間で異なるので、遺伝的な差異と考えらる。[増加染色体数/減少染色体数]の比が0または0に近い交配組合せでは雑種植物がカモジグサ親の多倍数性半数体を比較的高い頻度で生じた。F_1雑種の染色体数が安定する組合せについても、アオカモジグサと二粒系コムギのT.polonicum及び普通系のT.aestivumそれぞれの雑種から育成した複倍数体の後代や戻し交雑世代に体細胞染色体数の変異個体の分離出現がみられた。これは複倍数体や戻し交雑世代の低キアズマ頻度によって形成された1価染色体の消失による不安定性の抑制遺伝子をもつ染色体欠失のためと考えられ、そのような遺伝子の存在が推定される。
著者
吉澤 正尹 山本 富士夫 長谷川 健二
出版者
福井大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

「器械運動」は運動教材の中でも、(1)学習者の基本動作に対する経験が極めて少なく、学習すべき動作の感覚がつかめない場合がある、(2)学習の対象となる運動が危険を伴うものであったり、学習者にとって高難度である場合には、実動作の学習の全く取り込めないことなど、学習指導が難しいとされている。それらを克服するために、それぞれ(1)学習すべき運動を指導者が示範したり、熟練者が行ったビデオの視聴によって動作を把握させる、(2)学習者のレベルに合わせて段階的な指導を行うとともに、補助によって十分な安心と安全確保を行うことなどに配慮し、学習指導が進められてきた。本研究では、これら従来の学習指導法に加え、スポーツの力学的・生理学的な研究から得られた理論を背景として、コンピュータを応用した体育における学習指導法の開発という視点から、「鉄棒運動」を中心とした理論学習から実動作体験に至る学習指導プログラムを開発・適用した結果・次のようなことが明らかとなった。1.運動の力学的な側面については、理科における「てこ」教材を発展させ、〈バランスを崩すこと→運動〉を理解させるプログラムが効果的であった。2.学習すべき運動のイメージを身体運動のイメージに結びつける方法として開発した〈コンピュータ画面上の人形をマウス操作〉や〈ラジオコントロールできるロボットをレバ-操作〉によって運動させるようにした疑似体験が、小学生にも積極的に受け入れられた。3.運動の理論的な学習→身体運動のイメージの疑似体験→実動作のドリル学習というステップを踏むことによって、学習者の学習すべき運動に対する認知レベルや技能獲得のための取組みを含めた学習意欲の向上がみとめられた。
著者
楢林 勇 辰 吉光 足立 至 西垣 洋
出版者
大阪医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

肺癌などの手術前にSPECTにより、肺内の部分的な換気、血流分布に関する部分的な情報を得ることは術後の残存肺機能の予測に重要である。また、手術不能肺癌で放射線治療、化学療法の治療計画に際し換気、血流不均等分布の病態の把握は対策を考える上で重要である。平成4年度は、主に安静時に前後対向同時2方向収集により検討し、平成5年度はSPECT収集にて検討し、方法論として比較した。運動負荷はトレッドミルを用いた。対象疾患は、肺癌、肺塞栓症、COPDなどであるが、運動負荷は正常、肺結核症、COPDであった。測定方法はシンチカメラにより、1門収集、対向2門収集、或いは3検出器型SPECT装置で4度ステップ、1方向30秒で90方向から冠状断における画像構成を行った。V/Q比ヒストグラムは左右肺それぞれの頻度分布を表した。このパターンは正常近似型、死腔様効果型、シャント型、混合型に分類できた。V/Qの正常域を0.67から1.50として、この範囲から外れた死腔様効果とシャント様効果領域の全体のカウント数に占める割合を算出した。40症例の前後対向2門同時収集によるデータをAaDO_2と比較すると、前面像ではr=0.684(P<0.05)、後面像ではr=0.654(P<0.05)となり、前後重ね合わせ像ではr=0.696(P<0.05)であった。一方、諸種肺疾患15例において、SPECT(冠状断)と前後対向2方向同時収集の両者施行した。それぞれのヒストグラムから算出したV/Qの両者の相関係数は0.888(P<0.001)と、良好な相関となった。前後対向2方向収集はSPECTに比し、大幅な検査時間の短縮が可能で、優れたV/Q比分布定量検査法と思われる。運動負荷を行った正常者では負荷の程度によって、V/Qの正常域が増加したが、COPDでは負荷によって異常域V/Qが増大した。運動負荷を行った肺結核症13例では、負荷直後と回復期でV/Q比分布に大きな差異を認めなかった。
著者
神崎 繁 樋口 克己 丹治 信春 岡田 紀子 伊吹 雄 関口 浩喜
出版者
東京都立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

平成7年度は、本研究課題に基づく研究の最終年度にあたるので、その研究成果を纏める意味でも、古代から現代までの道徳的価値をめぐる様々な立場の歴史的再検討と、現代的視角からの原理的研究の双方にわたって、研究分担者の各自の領域に関して研究を行い、その成果を発表してきた。古代に関して神崎は、特にアリストテレスにおける生命の原理としての「魂」概念の関係において、しばしばその生物学的・自然主義的価値理解が問題とされる点を整理し、価値認知がむしろ習慣的な「第二の自然」としての性格を持つ点を確認した。伊吹は、新約聖書における「アガペ-(愛)」の概念を分析して、その価値の志向的性格を明確にした。また樋口は、ニーチェにおける「テンペラメント(気質)」の概念に注目して、ヨーロッパの既成の価値概念の転倒を主張するニーチェの真意を明らかにする作業を行った。岡田は、ハイデガ-における価値哲学批判の意義を、以上の歴史的考察の背景において位置付ける考察を行った。そして丹治は、最近公刊された著書において、言語の共有ということの意義を検討することを通して、全体主義的言語観における価値の問題の位置付けに関する原理的考察の端緒を開いた。また、神崎は研究総括者として、そのような原理的研究において、所謂自然主義的立場の可能性に関して、丹治の立場を批判的に検討することによって、議論を深めることができた。また、以上の研究成果の一部を、報告書として公表すべく、その準備作業を行った。
著者
吉田 力 粕渕 辰昭
出版者
山形大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

山形県置賜平野の北東に位置する屋代郷低位泥炭地を実験地として本研究を進めた。この地区の積は約950haであり、泥炭層の深さは深いところで約9mであり、最深部に位置する所には積が約5.3haの残存湖(白竜湖)が存在する。この湖周辺の湿原は県の天然記念物として指されている。現在この地区はほとんど水田として利用されているが、近年、営農の合理化のため、場の大型化、大型機械の導入のための乾田化の要求が強い。しかし、湿原保全と湿田の基盤整備相矛盾するところが多い。そこで本研究は以下のことを中心に検討した。1)本地区の地盤沈下の実態調査。2)循環灌漑が低位泥炭地水田におよぼす影響。3)地盤沈下や水環境とも関連の深い白竜湖の面積の推移、4)道路荷重と泥炭の圧密について、5)土壌汚と水質、6)泥炭地内の構造物の耐酸性得られた結果を要約すると以下のようになる。1)本地区は40年間で平均70cmの地盤の変動が確認された。この変動の主たる原因は表層の消失によるものであった。2)この変動は北海道の場合と比較するときわめて少ないものであた。その理由は、この地区は閉鎖系であり、末端部に水門を設け水位を常に一定に保ってるからである。さらに、灌漑期には水門を閉じ循環灌漑を行っているためである。このような水理と対応して白竜湖の面積の縮小速度も著しく遅くなってきた。3)道路荷重により泥炭は圧密れるが、泥炭の透水係数は水田の1/10〜1/15に低下することがわかった。4)かつて指された重金属汚染、水質については現在は問題はない。地区内構造物の酸化の問題も水質調査の果から問題はないことが明らかとなった。この結果は、湿原の保全と周辺地区の開発との両立に示唆を与えるものである。
著者
清水 高正 永友 寛司
出版者
宮崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

Dot-immunobind(DIB)法による鳥系マイコプラズマの簡易同定法及び鶏のマイコプラズマ感染抗体の検出法を検討し、次の成績を得た。1)DIB法には、先人が使用したニトロセルロース膜や最近開発されたニトロプラス2000膜よりも、Durapore膜が染色性,弾力性の点で優れていた。2)マイコプラズマの液体培養を抗原とする家兎抗血清を用いたDIBでは交差反応が著明で、同定は不能であったが、培養液を遠心洗滌して得た菌体を抗原とした場合;ホモ抗血清はヘテロ血清より遙かに高いDIB力価を示した。従って、この方法もしくはモノクローナル抗体を用いたDIB法は、マイコプラズマの簡易迅速同定法になることが示唆された。3)SPF鶏の血清の多くは1:20以下、稀に1:40の弱いDIB力価を有することが判明した。一方、実験感染鶏では1週後から1:160以上の高いDIB力価が産生され、11週まで高い抗体価が保持された。4)実験感染鶏及び自然感染鶏の血清では、HI陽性(【greater than or equal】10)とDIB陽性(Greater Than or Equal80)及びHI陰性(<10)とDIB陰性(【less than or equal】40)がよく一致し、自然感染鶏175羽のうち両反応陽性の鶏78例では、両抗体価の相関性は、r=0.81(P<0.01)であった。5)M.gallisepticum(MG)とM.synoviae(MS)の両抗原を用いたDIB抗体価の測定成績と、これらの両抗原を同一の膜片に固定させ、血清の定点希釈法で実施したDIB反応の成績は、い一致率を示し、後者の方法は野外で感染抗体の有無を調べる際の簡便法になるものと考えられる。以上の成績から、マイコプラズマ以外の病原体についても本法の応用が検討され、それらの抗原が同一膜片上に固定されたキットが市販されるなら、DIB法は各種鶏病の簡易・迅速診断〓〓〓