著者
曽我 知絵 三宅 晋司 和田 親宗
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.294-302, 2009-10-15 (Released:2010-12-03)
参考文献数
21
被引用文献数
1

近年,労働者の精神的ストレスは増大しており,ストレス評価機器の開発が求められている.我々はこれまでにストレスの定量評価のための研究を行ってきたが,過去の結果において,作業後の生理反応が作業前の状態に完全に回復しない場合が認められた.その原因を探るため,本研究では,作業時および作業後の感情状態と生理反応の関連性を明らかにすることを目的とした.18名の健常な男性に4段階の難易度に設定した計算課題を遂行させ,作業時および作業後に生じた感情状態と生理量を記録した.その結果,作業時には,RR間隔(RRI)と皮膚電位水準(SPL)が満足感や集中度の因子と関連する可能性が示唆され,鼻部血流量(TBF_N)と指尖容積脈波振幅(PTG)が低下した.作業後では,どの生理量と感情状態にも関係は認められなかった.また,RRIとSPLは作業後すぐに回復したが,TBF_NとPTGは回復に時間を要することが示唆された.
著者
彦野 賢 篠原 一光 松井 裕子
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.248-255, 2015-08-20 (Released:2016-07-14)
参考文献数
18
被引用文献数
1

高い安全性が求められる職場で働く職員の間で,しばしば「繁忙感の高さが業務の品質に影響した」との声が聞かれる.職員の感じる繁忙感の意味を明らかにし,業務品質の向上および事故の未然防止のための方策を検討することは重要である.そこで本研究では,繁忙感と関係が深いと考えられるメンタルワークロード(MWL)の概念に着目し,両者の関係を調べた.実験では事務作業を模擬した課題を用い,繁忙感に最も影響すると先行研究で示唆された,業務密度感因子を構成する4つの要因の下で課題を遂行し,それぞれで繁忙感とMWLを測定した.その結果,繁忙感とMWLは強い相関関係にあることが明らかとなった.さらにMWLの下位尺度の中では,時間圧力の他にフラストレーションが繁忙感を高めることが示された.本研究結果は,繁忙感を軽減する方策検討の一助になると考える.
著者
三宅 晋司 佐藤 望 赤津 順一 神代 雅晴 松本 一弥
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.239-249, 1996
被引用文献数
1

室温のゆらぎ条件 (28~30℃: 1/fゆらぎに基づくもので, 平均45分の短周期ゆらぎと平均90分の長周期ゆらぎ) と28℃で一定の定常条件で温度制御を行い, 終夜睡眠ポリグラフおよび体表面皮膚温を測定した. さらに, 起床時に主観的睡眠感と温熱感の調査を行った. 被験者は健康な男子大学生12名で, 適応夜3夜の後, 3条件の実験を無作為の順序で行った. 睡眠時間は8時間 (11時30分就床, 7時30分起床) とし, 睡眠中はトランクスのみの裸の状態で寝具の使用も禁止した. 有効な10名についての結果では, 定常条件において stage IIの出現率が長周期ゆらぎ条件よりも多いことが示された. また, REM+徐波睡眠の全就床時間に対する割合を睡眠質の指標とした場合, ゆらぎ条件と定常条件間で有意差が認められ, ゆらぎ条件のほうがやや良い睡眠であることが示唆された. その他の各種睡眠パラメータおよび主観的睡眠感では条件間で有意差は認められなかった.
著者
石原 恵子 長町 三生 大崎 紘一 石原 茂和 辻 昭雄
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.9-16, 1998
被引用文献数
3

市販の色セロファンを使った75歳相当の透過率をもつ眼鏡を用いて, 高齢化に伴う眼の水晶体の黄変化を模擬体験し, 高齢者の視界が日常生活にどのような影響を及ぼしうるかを調査した. 食事の場面・買い物・道路で調査した結果, (1) 色が変わってみえるだけでなく, (2) 色による区別がつきにくくなる, (3) 液体など不定形のものが知覚しにくい, (4) 立体感や奥行き感が減少する, (5) 光るものがみづらい, ことがわかつた. 具体的には, 食品の鮮度を誤認したり飲み物の種類や量がわかりにくい, 商品の区別が困難, 段差への対処が遅れるなどの生活上の困難があげられた. 色紙を用いた実際の高齢者による色の同異判断実験では, 黄と白, 青と緑, 濃青と黒, 紫と濃赤という, シミュレーションで誤認しそうな色の組み合わせに対して同じように誤認する高齢者がいることが確認され, ヒアリングでもシミュレーションであげられた困難に関連する事柄があげられた.
著者
堀尾 強 河村 洋二郎
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.423-430, 1994

箸の性質や持ち方と箸を扱う諸動作の動作時間との関係を明らかにするため, 男女大学生11名を対象に箸を用いた諸動作を解析した. 実験には14cm, 21cm, 33cmの長さの箸を用い, ダイズ, ニンジン, トウフをはさんで, あるいはつまんで運ぶ動作, ソーセージを切る動作, ハンペンをさく動作について, 作業時間, 動作中の手腕の筋電図, 指と箸の間の圧力を測定した. 作業時間は, ダイズ, ニンジンを運ぶときには箸の長さによる違いはみられなかったが, トウフを運ぶときには長い箸が, 切る, さく動作のときには短い箸ほど動作時間が短かった. また, 箸と接触する手の各部位の圧は, 持ち方により違いがあった. つまんだり, はさんで運ぶ場合, 伝統的な持ち方では各部位の圧の違いは箸の長さ, 食品の大小や性状によらず同じパターンであったが, 他の持ち方では各指の圧パターンのばらつきが大きかった. さらに手腕各筋の筋電図では, 短母指屈筋の振幅が大きいことが特徴で, ニンジンを運ぶ動作, ソーセージを切る動作, ハンペンをさく動作の場合, 長い箸のときは短い箸よりも短母指屈筋の筋電図振幅が大きかった. 箸の長さに関しては, 長い箸では, トウフを運ぶとき以外は, 作業動作が終ったときに箸を持つ位置が先端方向に移動していた. 中等度の長さの箸ではソーセージを切る動作でのみ先端方向へ, 短い箸ではトウフを運ぶ動作でのみ逆に後端方向へ移動していた. なお, 箸を用いた各動作の動作時間と身体計測値との相関はほとんど認められなかった.<br>この動作時間, 圧の比較, 筋電図振幅の比較, および作業後の箸を持つ位置の比較から, 大きい食品を運ぶときは長い箸, 食品を切る, さくという動作では短い箸がよく, 動作に適した箸の長さが異なることが明らかになった. また, 箸に接触した指の各部位の圧の比較から, 伝統的な持ち方ではつまんだり, はさんで運んだ場合, 箸の長さ, 食品の大小や性状に関係なく, 各指にかかる圧のパターンは同じであり, 他の持ち方に比べて安定していることが示唆された.
著者
遠藤 敏夫 池田 守利 猪俣 理 深野 重次郎
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.17-23, 1974
被引用文献数
2

人間特性と生産システムの適合性を評価するうえで, 種々の機能検査が応用されているが, その測定条件によって異った測定結果をうることが少なくない.<br>その一つの方法として多用されるフリッカー・テストは, 大脳活動度を指標として, 作業者がシステムの側からうける不利な影響を検出するのに適している. しかし, 従来の測定装置には, 精度や取扱いのうえで, あるいは保守の点などで, 測定条件が必ずしも均一とならない問題があった.<br>こうした問題点を解決するためにフリッカー値自動測定装置を開発した. 試作した装置は, 視標光源には発光ダイオードを用いた光源点滅方式とし, リセットボタンを押すことによって, 連続5試行のフリッカー値測定がおこなわれ, ディジタルに直示, または, 磁気記録されるよう, 安定した電子回路によって測定精度の向上をはかった. また, この装置は, 被験者自身でも単独測定できるのが大きな特徴であって, 測定条件が均一であり, 広く応用が可能である.
著者
黒田 勲
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.45-57, 1972

事故調査より得られた人間像は, その機械のデザインの場において仮想された人間像とは時として異なっているのではないかと考えられる.<br>事故調査組識のあり方, 方法の科学性, 事故原因究明のための確率論的論理の進め方等, 事故調査そのもののもっている問題点により真の人間像を画き出すことが困難である場合が多い.<br>しがし航空事故調査の例から, 経験と熟練度が必ずしもすべての場合に一致するとはいえず, 胴体着陸, 異常接近例からも従来人間工学面において取上げられていない, 操作と時間の関連性, 注意, 知覚の不信頼性の問題がクローズアップされてきている.