- 著者
-
伊藤 真之
- 出版者
- 神戸大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2000
X線天文衛星「あすか」の位置検出型ガス蛍光比例計数管GISのデータを用いて、太陽X線の地球大気アルベドのスペクトルおよび長期変動を調べた。この結果、太陽活動の極小期から極大期をほぼカバーして、太陽X線とその地球大気アルベドのスペクトルが、0.5-5keVのエネルギー範囲で、いくつかの元素のK輝線を識別できる程度のエネルギー分解能で得られた。スペクトルは、(a)2温度成分の高温プラズマの熱放射、(b)これに対する中性ガスによる反射・吸収の補正、(c)付加的輝線成分から成るモデルで記述された。主として成分(a)が太陽コロナX線の太陽全面にわたる観測期間内の平均スペクトルに相当する。太陽X線に関する主な結果は次のようにまとめられる。1.得られた太陽X線スペクトルは、温度3×10^6K程度および(5-10)×10^6K程度の熱放射としてほぼ記述できる。高温成分は主とし太陽フレアで生成される高温プラズマの放射であり、低温成分は主としてフレア以外のコロナの放射であると考えられる。2. 2成分の温度には、太陽活動周期にともなう大きな変化はみられなかった。3. 2成分の強度は太陽活動周期と同期した変化を示した。変化の割合は高温成分の方が大きく、太陽活動極大期において高温成分の占める割合が大きくなる。付加的輝線(c)には、地球大気のOおよびAr以外に、Mg、SiなどのK輝線が含まれ、これらは(a)の熱放射から期待される輝線に対してエネルギーが低く、強度が大きい。一つの可能性として、太陽コロナにおける電離非平衡の効果が考えられる。なお、研究の構想段階ではASTRO-E衛星も視野に入れていたが、軌道投入失敗のためこれは実現しなかった。ほぼ同じ設計の衛星ASTRO-EIIの打ち上げが予定されており、X線カロリメータによる高分解能のデータを用いて、本研究の方法による展開が期待できる。