著者
池内 敏
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

(1)以酊庵輪番制に関わる史料・論文、(2)対馬藩士の手になる外交史料(『善隣通交』『善隣通書』ほか)、(3)(1)(2)と密接に関連すると思われる対馬藩政史料〔国元日記や江戸藩邸日記〕、(4)元禄竹島一件に関わる論文、史料、(5)近世日朝間における外交折衝の特色を分析・評価する上で参考となる近代日朝漂流史料、を収集した。収集史料のうち、いくつかを選んで翻刻作業を進め、分析を行った。以酊庵輪番制については、現時点で得られる先行研究の整理を行った上で問題点を整理した。既往の評価が一面的であることを明らかにすると共に、今後以酊庵輪番制研究を進めていうくえで解明すべき点を具体的に指摘することとなった。それら諸論点のうち、第86代輪番僧であった梅荘顕常の動向に関わっては口頭報告を行った。対馬藩士の手になる外交史料については、収集した諸本間の比較検討を行った。また、対馬藩における外交史料集の嚆矢ともいえる『善隣通書』『善隣通交』の成立と元禄竹島一件交渉との関わりを検討した。その作業を進める過程で、元禄竹島一件交渉について詳細な検討を行わざるをえず、これまで歴史具体的な分析の不足していた安龍福事件について詳細に明らかにし、口頭発表を行うとともに原稿化した。
著者
南 一誠
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

居住者の個別性や生活の変化に対応できるように開発されたKEP方式による低中層集合住宅を対象に、入居後23年を経た実態を調査し、開発意図の実現や課題を明らかにして、今後の計画の参考にしようとする研究。調査対象は、住宅・都市整備公団が1982年〜1983年にかけて多摩ニュータウンに建設したエステート鶴牧3団地内の低中層分譲集合住宅で、低層21戸、中層93戸の調査を実施。入居直後の1983年と12年後の1995年に初見学らが行った調査データと比較しながら、生活の変化や間取り変更の実態を経年的に分析している。分析の結果、低層棟には竣工当初から住み続けている居住者が多く、中層棟では、KEP方式を採用していないタイプに長期居住者が多い。間取りの変更は、低層棟で約半数の住戸が、中層棟では約3割の住戸が実施している。これら低層棟と中層棟の違いは、住戸規模やメゾネットかフラットかの違いによるものと推測した。生活の変化への対応については、子どもが小さい頃は、子ども室を広くとり、成長に伴い個室に分割する変更が多く見られる。子どもが独立した後は、空いた部屋をそのままにしている例と隣接する部屋と一体にして広くする例がある。以上の実態から、若い世帯を対象とする計画では、はじめから細かく部屋を分けずに、必要に応じて段階的に問仕切ることができる構成が相応しいこと、また間仕切の変更は、居住者自らが行うことは少なく、遮音への不満も多いことから、居住者自身による変更を重視せず、遮音性に優れた構法で計画すべきであることを指摘した。また集合住宅のインフィルリフォームにおける住性能評価手法に関する研究として、民間分譲共同住宅(築後23年)を対象として、鉄骨系工業化住宅メーカーのインフィルシステムを用いて改修する現場の実態調査、環境性能測定を行った。この改修事例をモデルとして環境性能評価手法について検証した。
著者
酒本 勝之 田中館 昭博 野城 真理
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

多周波インピーダンスCT装置の製作と多周波インピーダンスCTの応用前に済ましておくべき生体電気特性の基礎的検討を以下の様に行った。1.多周波インピーダンスCT装置の作成:位相検出のため高精度の電子素子を用いた回路設計と試作を行った。その結果、振幅に関し周波数50kHzでの従来のインピーダンスCTで得られた精度と同等の結果が得られた。しかし、高周波数(約100kHz以上)で、浮遊容量の影響、周波数切り替え時での相互干渉が大きく、充分な位相検出の精度が上がらず、設計変更をする必要があった。2.細胞内外液量分布の変化と生体組織の電気インピーダンス変化との関係:細胞内外液量分布の変化と生体組織の電気インピーダンス変化との関係を流動血液を用い、理論と実験を持って検討した。また、有限要素法による数値解(ラプラスの方程式の解)によりシャドウイフェクトの影響を検討した。以上の結果,シャドウイフェクトの影響により、細胞外液抵抗の変化率は細胞外液量の変化率より小さいが、細胞内液抵抗の変化率は細胞内液量の変化率にほぼ等しいことが分かった。3.人工透析時の細胞内外液変動の検討:人工透析時に患者の下肢での電気インピーダンス変化の測定を行ない、人工透析中の細胞内外液の変動を裏付ける結果が得られた。特にショック時でのインピーダンス値は不定期で急激な変動が見られ、細胞内外液量に大きく急激な変動が見られることが示唆された。4.組織温度の変化による組織内血液量の変化の測定:電気インピーダンス法を用い筋組織温の変化による組織内血液量の変化を推定した。温度の上昇により血液量の増加が推測され,従来考えられている通りの結果が得られた。
著者
古木 達郎
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

苔類ツキヌキゴケ科について多様性と種分化を研究し、Mizutaniaについて雄枝を初めて発見し、かつ植物 体は他に類縁を見いだせないほどネオテニーが進んでおり、非常に特異であることを論じた。また、日本産 の分類学的再検討によって3属18種を認めた。トサホラゴケモドキとツキヌキゴケのタイプ標本の解釈の誤り、 フジホラゴケモドキが台湾産Calypogeia formosaと同種であること、タカネツキヌキゴケが基本種と同種であ ることなどを確認した。更に、ハワイ諸島産について3属6種、マレーシアに2属種5を認めた。
著者
宮入 興一 樋口 義治 黍嶋 久好 宮沢 哲男
出版者
愛知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の成果は、「平成の大合併」によって基礎自治体が広域化、大規模化し、これに対応するために制度が形成されてきた都市内分権にともなう「地域自治組織」と「住民自治組織」との重層的な仕組みについて、合併の背景や合併経緯、合併方法まで含めて「多層的内部自治組織」として構造的に解明し、それらを類型化して比較分析することによって、「多層的内部自治組織」の本質を究明するとともに、それらが様ざまな形態をとることの意義を住民自治の観点から理論的・実証的に解明し、広域的市町村におけるより好ましい地域自治のあり方を探究しえたことにある。
著者
須田 千里
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

当該研究期間における主な研究成果は以下の通りである。1、『風流線』における橘南渓『東遊記』の影響。『風流線』「手取川」で、工夫たちが手取川上の空中を飛行する男女の姿を目撃し、それを二柱の神と考えて地震や津波の前触れかと噂し合う場面は、『東遊記』巻之二「松前の津波」に拠る。2、『白牛』における『白縫譚』第二十七編(柳下亭種員作)の影響。『白牛』の遊女屋の女主人の形象は、『白縫譚』で牛のイメージで描写されるお牛に拠る。3、『風流線』『続風流線』における草双紙の影響。(1)草双紙的見立て。本作は大津絵の枠組みで捉えられており、滑稽性や伝奇性が顕著なことなどから、作品全体は草双紙に見立てられていると考えられる。(2)俵藤太秀郷のムカデ退治譚を踏まえ、お龍と巨山の対立が設定されている。(3)柳亭種彦『偐紫田舎源氏』の影響。仲働のお辻が双眼鏡で見回す趣向は、『偐紫田舎源氏』第二十編に拠る。また、幸之助が美樹子にわざと言い寄ったところ、彼女の方も幸之助を養子とした上で姦通しようと持ちかける設定は、『偐紫田舎源氏』第二編に拠る。(4)二世柳亭種彦作・二世歌川国貞画『七不思議葛飾譚』第六編の影響。『続風流線』「七箇の池」で、三太の養母がヒロインお龍の絵姿を調伏する場面は、『七不思議葛飾譚』で、厚ぎの姥がま萩の方の絵姿を板に張り付け、ヒキガエルや蛇などを供えて呪詛する設定に拠る。4、『夜叉ケ池』における柳亭種彦『綟手摺昔木偶』の影響。前者の舞台「越前国大野郡鹿見村琴弾谷」は架空のもので、『綟手摺昔木偶』冒頭、女仙赤魚が住む「琴引谷」に拠る。また、末尾で赤魚が飛び去るときの地震も、『夜叉ケ池』末尾のそれと対応する。5、『神鑿』における馬琴『頼豪阿闍梨恠鼠伝』の影響。『神鑿』で、人形の精が坊主と双六を打つ場面は、『頼豪阿闍梨恠鼠伝』巻之二に見える、双六を打つからくり人形に拠った可能性が高い。
著者
角田 力弥 中村 直哉
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

我々は科研費の助成を受けて、濾胞樹状細胞(FDC)の新規機能的マーカー:胚中心Bリンパ球(GCB)のEmperipolesis能を発見し、FDCはこの密接な細胞相互作用を介してGCBのアポトーシス感受性を変動させ、そのセレクションにも積極的に関与していると報告してきた。今回はこの研究をさらに発展させ、FDCはに再発現するRAG-1&RAG-2も制御している可能性を検索した。ただ、研究を始めてまもなく、改めてRAG-1&RAG-2が成熟Bリンパ球に特異的に再発現する事自体が疑問視されるようになり、我々の研究も依然として推敲を重ねている途中であるが、これまでの成績からいえることは、(1)ヒト扁桃の成熟Bリンパ球に明瞭なRAG-1&RAG-2の発現はない。(2)それをrIL-4/CD40で活性化させるとRAG-1&RA6-2の発現がで時折観察される。(3)しかし、FDCに包み込まれた分画Bリンパ球に発現の有意義な変動はなかった。(4)29例のB細胞腫瘍株でのRAG-1&RAG-2の発現をサーベイすると、Follicular lymphomaのほとんど(3/3)とDiffuse large B cell lymphomaの亜群(centroblastic 1/9,T cell/histiocyte-rich 5/7)にメッセージが確認された(中村ら、発表)。以上のことから、FDCは胚中心のRAG-1&RAG-2発現現象に積極的に関与していないらしい。ただ、B細胞腫瘍株での検索ではRAG-1&RAG-2発現が胚中心成熟段階と関連深いことを改めて示唆しているので、意義についてはさらに現在の検出実験系の感度を上げたり、その他の遺伝子発現との総合的な検討をくわえた研究を続け、将来に成果を発表したい。
著者
田村 智淳 桂 紹隆 フランシス ブラサル
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

平成14年以降、入力済みの梵文テキスト(Vaidya本)、チベット語テキスト(デルゲ版)、漢訳テキスト(60・80・40巻本)の校正を開始し、同時にSuzuki本、チベット語ペキン版、収集した諸写本との校合に従事した。研究期間中に収集した28本の写本の中、5本の画像化を終了し、残余については10〜50%のスキャン率である。総体的には約30%を画像化した。華厳経入法界品第1章の完全な"Tri-lingual text"をめざして、以下のような最終報告書を作成した。(1)既刊本のVaidyaテキストの下に、Royal Asiatic Society所蔵の写本の読みを全文ローマ字体で記載した。さらに、Suzuki本、Baroda写本、Cambridge写本の異読をfolio-lineの数字を伏して記載した。(2)デルゲ版チベット語テキストの全文を梵語テキストの下に記載し、ペキン版の異読をその下に附した。(3)漢訳3本の全文をチベット語テキストの下に記載した。これらの作業を通して気づいたことは、少なくとも第1章に限れば、梵語テキストおよびチベット語テキストに関しての異同は、そのほとんどが書写ミスであり、また語句の順序の違いであり、新しい解釈の資料となりうるようなものは見いだせなかったことである。しかし、同様の作業を入法界品の全章にわたって完了するならば、あるいは何かを見いだせるのかもしれない。特に、漢訳3本のあいだの異同は多く見られ、それぞれの漢訳の梵文原典を推察することは今後の課題であろう。
著者
小林 一三 蒔田 明史 星崎 和彦
出版者
秋田県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

研究代表者等はこれまで一貫して寒冷地域におけるマツ材線虫病の発症メカニズムの解明に取り組んできており、以下の知見を得ることができた。1.寒冷地におけるマツ材線虫病感染による枯死木発生は,感染直後の夏場のみならず,晩秋から翌年(年越し枯れ)にかけて通年発生すること。2.材線虫病の媒介者であるマツノマダラカミキリの羽化時期は秋田市においては6月中旬から7月末,産卵時期はそれより約一ヶ月遅れの7月中旬から8月一杯であること。3.カミキリの産卵は,マツの幹下部よりも幹上部や枝に多いこと。4.温暖地では通常1年1化であるマツノマダラカミキリは寒冷地では2年1化になるものがあり,特に夏が冷涼であった年にはその比率が高まること。5.1年1化の場合カミキリ1頭が数万頭のザイセンチュウを媒介するが,2年がかりで羽化したカミキリの体内に存するザイセンチュウ数は著しく少なくなること。6.ツチクラゲ病や雪害枯死などの在来要因によって枯れた木も,マダラカミキリの産卵対象木となり得ること。7.年越し枯れ木の材線虫保有数は,当年枯れ木に比べると著しく少ないが,6月以降に枯れた場合には,マダラカミキリの産卵対象木となるため,防除対象にしなければならないこと。これらの知見をもとに,マツ材線虫病の防除のためには,媒介者であるマツノマダラカミキリの生態に即した防除法をとることが重要であり,従来の全量駆除に変わって,マダラカミキリの産卵対象となった木に的を絞って防除するマツ枯れ防除の「秋田方式」を提唱した。この方式は秋田県行政にも採用され,「松くい虫専門調査員」の制度を生み,マツ枯れ防除法の改善に結びついている。また,枯死木の処理に当たり,それらを資源として有効活用する炭焼きに取り組んできたが,その活動が人々の森への関心を呼び起こして,官民学の協働によるマツ林の保護につながることも示された。
著者
田村 純一
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を起こす蛍光発色基を装着したヘパラン硫酸オリゴ糖を酵素基質として化学合成することにより、迅速かつ簡便なヘパラナーゼ濃度の診断を可能にし、がんの早期発見法を開発する。本研究期間中に、基質となるヘパラン硫酸四糖骨格の高収率かつ立体選択的な合成経路を確立した。現在FRETを起こす蛍光発色基の糖鎖への装着を進めている。
著者
竹内 保
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

胸腺内T細胞分化に関与する胸腺上皮細胞表面蛋白質、HS9を過剰発現するトランスジェニックマウス3系統を作出した。HS9は生理的には胸腺外側皮質に発現する。これに対して、いずれの系統のトランスジェニックマウスでもHS9は胸腺上皮全般に発現していた。トランスジェニックマウスには外見上の奇形および病変は認められなかったが、胸腺細胞数は1.2-1.8倍に増加していた。主にCD4CD8陽性でTCR陽性の分画が増加していた。この結果はHS9がCD4-CD8-(DN)からCD4+CD8+(DP)への胸腺T細胞分化を促すという従来の知見を裏付けるものである。さらに、これらトランスジェニックマウスはsplenomegalyを呈しており末梢の免疫異常を伴うことが示唆される。ConAによるT細胞刺激による反応性が低下していることが明らかになった。また、本年度はノックアウトマウスの為にベクターを構成した。129マウス用にHS9をコードするgenomicDNAを単離してエクソン1-3の置換型タイプのベクターを開発した。
著者
桑野 栄治
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、対象時期を14世紀後半の高麗(918〜1392年)末期よりほぼ15世紀全般に相当する朝鮮王朝(李朝。1392〜1897年)初期までの約150年間とし、正朝(元旦)・冬至と聖節(明の皇帝の誕生日)に朝鮮の王都漢城(現ソウル)で実施された対明遥拝儀礼(望闕礼という)の制度的変遷とその実態を『高麗史』『朝鮮王朝実録』など官撰史料を中心に追究したものである。その成果の概要は以下の通りである。1 高麗国王が明の皇帝を遥拝する儀礼は、明の太祖洪武帝の即位から4年を経た恭愍王21年(1372)の冬至に王都開城で初めて実施された。これこそ朝鮮初期の歴代国王が実施した望闕礼の原型である。朝鮮国王はみずからが北京に赴いて明の皇帝に拝謁することに代え、朝鮮の王宮にて王世子・文武官僚とともに望闕礼を毎年実施した。この儀礼は朝鮮国王にとっては明中心の冊封体制下における外交儀礼であり、君臣間の儀礼的関係を官僚の前で示す装置としても機能した。2 ところが、クーデターによって王位を簒奪した世祖は、治世年間の後半期になると望闕礼を放棄した。その一方で世祖は中国の皇帝のみが行いうる祭天儀礼(圜丘壇祭祀という)を王都の南郊で実施しており、朝鮮初期の儒者官僚の対明観と皇帝観を覆す異例の行動であった。冊封体制に対する挑戦ともいえる。3 朝鮮国王が王宮で望闕礼を終了すると、ひきつづぎ朝賀礼と会礼宴が実施された。その会場には受職女真人をはじめ日本・琉球からも多様な使節が参席した。彼らはいわば「朝貢分子」であり、その代表格が朝鮮王朝の諸侯を自称する対馬宗氏である。朝鮮政府が北方の女真人を厚遇した背景には辺境の防備という現実的な軍事問題があり、南方の倭窟対策として倭人を撫接する外交政策と相通ずる。
著者
佐藤 公則 渡邊 睦 鹿嶋 雅之
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究はドアノブを握るという自然な動作の中で取得しやすい掌紋を個人認証に用いることを提案した.認証手法としては回転や移動,拡縮,明度変化にロバストであるSIFT特徴を用いている.ドアノブを握る動作の中で取得される1枚の画像のみでは握りの強弱により歪みが発生する.そこで,ドアノブを握る動作の動画を用い,複数の掌紋画像を時系列に時間幅を持たせて比較することを提案し,掌紋の歪みを考慮した認証を行うシステムを構築した.その結果,等価エラー率EERは3.16%となった.また他人受入率が初めて0%となる箇所を見た場合,本人認証率は93.7%となった.
著者
志摩 園子
出版者
昭和女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

冷戦終結後のヨーロッパの東方拡大により他の東・中央ヨーロッパ、バルト諸国と並んで、ラトヴィヤは2004年5月1日にヨーロッパ連合に正式加盟を果たした。これは、1991年に、ソ連から独立を回復してからのラトヴィヤの外交政策の最優先事項であった。このラトヴィヤの独立回復とその後の国家形成は、戦間期に独立をしていたラトヴィヤ共和国をその存在基盤としている。したがって、とりわけ、独立回復後の歴史の見直しにおいて、この「国民国家」ラトヴィヤが、いかに苦難の中から独立を勝ち取ったかという「国民の歴史」が重視され叙述されているのが現状である。このような描き方は、他のバルト諸国の歴史叙述も含めて、一般的なバルト諸国の国家形成史として、冷戦期は欧米の亡命者によって示され、冷戦終結後は、地域内で現われてきている。さらに、こういった歴史叙述の傾向は、戦間期の独立時代にみられたような国民国家としての「国民の歴史」の叙述を想起させるものであり、その歴史観の復活のようにもみえてくる。20世紀末のこの現象は、ラトヴィヤにとって、まさにソ連からの分離・独立回復としての思想的な裏づけをするための政治的な欲求の発露に他ならなかったのである。ところが、実際のラトヴィヤの独立経緯を歴史的な史実に基づいて考察するならば、果たして、国家形成を目指して独立したのかという疑問がわく。また、欧米の研究者が大国のパワーポリティックスの視点に立って国際政治的な観点から叙述する時、ラトヴィヤをはじめとするバルト諸国の独立は偶然の産物であるという主張にも疑問が生じる。これらの疑問に対して、著者は国際関係史の視点から次のように考える。ラトヴィヤ人の民族意識そのものは確かに19世紀後半から育ってきていたものの、実際の国際関係の複雑な動きとラトヴィヤ人の利益を反映するような主体的な動きとの複雑な絡み合いが、歴史的経過の中で係わり合いながら展開した結果、ラトヴィヤの独立に至ったと考えるのである。換言するならば、ラトヴィヤ人としての共通のアイデンティティや地域的な一体性への要求は展開されながらも、国民国家成立に向けての準備ができていないままに、複雑な国際環境の波間に投げ出されたラトヴィヤ人が、歴史の流れの中でラトヴィヤ人の利益を主体的に反映できるのは国民国家であるという理解に至るという経過こそが、独立国家成立への重要な背景となるのである。従って、国家基盤の脆弱性が、地域協力への関心へとつながっている。
著者
亀田 幸枝 島田 啓子 田淵 紀子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究は、妊娠・出産・育児に向けた妊婦の主体的行動を支援するために妊婦のエンパワメントを把握し、出産前教育の評価指標となる尺度を開発することである。臨床での尺度の有用性を確認し、修正した尺度の信頼性・妥当性を検討した。調査の結果、エンパワメント尺度を用いてクラスに参加した妊婦のエンパワメントの変化が把握できること、また、エンパワメントの高さは妊婦の主体的行動に影響することが示された。よって、エンパワメントに介入する意義、出産前教育の評価指標としての有用性が示された。また、尺度の修正版を作成し、妥当性と信頼性を確認した。今後、更に尺度を洗練させ、効果的な出産前教育を検討することが課題である。
著者
石口 彰
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、視覚系の様々なレベル(初期過程から高次過程まで)における視覚検出課題や視覚識別課題において、最適な決定を下す理想観察者と実際の観察者の知覚能力を比較し、効率という観点から視覚系の決定過程の特性を検討するものである。本研究の成果は次の通りである。(1)ランダムドットステレオグラム(RDS)を用いた、矢状平面に関する対称構造(3次元空間内での観察者中心座標系における対称構造)の検出効率を測定。組み込まれるガウスノイズは、両眼視差に関するノイズである。日本心理学会59会大会(平成7年10月)発表(2)ランダムドットステレオグラム(RDS)を用いた、奥行き方向に重なり合う2枚の平面の識別に関する効率の測定。この結果と、隣り合う2枚の平面の識別実験の結果とを比較した。組み込まれるガウスノイズは、両眼視差に関するノイズである。日本心理学会60回大会(平成8年9月)発表(3)ランダムドットシネマトグラム(RDC)を用いた、運動位相の識別に関する効率の測定。組み込まれるガウスノイズは、運動光点の位相に関するノイズである。日本心理学会60回大会(平成8年9月)(4)RDCを用いた、交差する運動刺激の位相差検出に関する効率の測定。組み込まれるガウスノイズは、運動光点の位相に関するノイズである。日本心理学会61回大会(平成9年9月)発表予定(5)運動光点から剛体構造の復元に関し、2種の剛体、および剛体ト非剛体の識別に関する効率の測定。組み込まれるガウスノイズは、運動光点の位置に関するノイズである。
著者
藤井 省三
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1949年の人民共和国建国以来、1988年の台湾全面自由化までの四〇年間、香港は台湾海峡を挟む中国・台湾の間にあって国家機構の過酷な統制を免れ得た「公共空間」であり、そこでは経済発展に伴い独自の文化が成熟した。80年代に至り中国返還が問題化するにともない、市民層は香港人アイデンテイテイの確立を強く求め、その際に大きな役割を演じたのが相互に密接な関係を有する文学と映画であった。本研究は香港アイデンテイテイの形成とこれに対して文学・映画が果たした作用を歴史的に解明し、「香港文学」という概念が登場してくる過程を明かにすることにある。主に1950年代以後の香港の文化および社会を対象として、以下の課題について調査・研究を行った。(1)香港文学の成熟と香港アイデンティティの形成:主要な三作家を取り上げ、也斯に関しては論文「香港詩人のFoodscapeというファンタジイ」、李碧華に関しては共著『文学香港与李碧華』等、施叔青に関しては拙訳『ヴィクトリア倶楽部』(国書刊行会)所収の「解説」で考察した。(2)香港映画の成熟と香港アイデンティティの形成:50年代の宝田明・尤敏コンビの『香港三部作』を中心とした日本映画界との影響関係を考察した成果は、宝田明(語り手)・藤井省三(聞き手)、「インタビュー宝田明、『香港三部作』を語る」また香港映画が香港および口頭発表「張愛玲〜上海文壇から香港映画界へ」で報告した。また中国の20世紀史を香港映画がいかに描いているかという問題は、拙著『中国映画 百年を描く、百年を読む』(岩波書店)香港の章収録の7本論文で考察した。(3)(1)(2)に関する国際シンポジウム等の開催およびその他のシンポジウムへの参加:香港大学中文系開催シンポでは「東亜的村上春樹現象」(中国語)を、国際交流基金開催のシンポでは「香港映画の黄金時代I」の報告を行い、前者の内容は論文「村上春樹と東アジア」に記した。
著者
樋田 大二郎 岩木 秀夫 耳塚 寛明 苅谷 剛彦 金子 真理子 大多和 直樹
出版者
聖心女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

われわれが1979年以来行ってきたデータの再分析、および日本、シンガポールの再調査を行っている。シンガポールは、非常に学歴が重視される国であり、研究者の間ではメリトクラシー(能力と努力の結果が支配する)の国であると考えられている。こうした背景には、シンガポールの国際社会やアジアにおける軍事的、経済的位置づけやさらには多民族の融合というこの国独自の事情がある。しかし、それだけでなく、人々を学習に駆り立て、学習の結果を人材の社会的配分の基準にすることを正当化するような考え方や仕組みが存在する。一昨年度以来のわれわれの調査では、シンガポールは、教育政策においてアファーマティブ・アクション(マイノリティへの優遇:大学入学枠の確保、点数の加算など)や救済重視的な社会的敗者対策はとらずに、競争参加への機会均等をすべての国民に対して保証する/競争の結果に基づいて地位配分を行う/競争の結果に基づいて地位配分が行われるプロセスと基準を明確化し納得させる/競争の内容(学習の内容と方法)を明示化し納得させる/競争の内容(学習の内容と方法)を「学問中心」ではなく、生徒の興味、企業からの要請や国際社会からの要請に応じたものにしている/競争の内容(学習の内容と方法)が卒業後の生活と結びついていることを生徒に認知させ、納得させる/競争の結果に基づいて手厚いエリート教育と手厚い大衆教育を行う/敗者復活の機会を用意する、などの教育政策を採っている。しかし、こうしたシステムのあり方に加えて、授業面で、私たちの知見では、シンガポールは、授業内容が卒業後の進路とレリバンスが高く、それを可能にするために、コース設置、教員採用、カリキュラム、教科書などが、現場裁量に任せられる部分が大きく、ガンバが進路先とコミニュケーションを親密にとっている。
著者
今口 忠政 李 新建 李 新建 申 美花
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、事業構造の再構築を「組織能力の再構築」として捉え、そのために必要な組織能力を明確化すると同時に、復活に貢献するコアとなる能力要因を明らかにすることが目的である。そこで、組織能力に関する文献研究、停滞傾向にある企業を組織能力の再構築によって復活する過程のケース研究を行い、日本の上場企業を対象として組織能力に関するアンケート調査を実施した。また、日中韓企業の組織能力比較を試みるために、IT企業群、中国企業、韓国企業を訪問してインタビュー調査を行い、日中韓企業の組織能力特性を定性的、定量的に比較した。
著者
林 文代 斉藤 兆史 斎藤 兆史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、新しい文学研究のあり方を、英米文学とテクノロジーやメディアの表象に関する観点から探るものである。狭義な意味での文学研究の枠を越え、社会科学的、自然科学的要素などの視野も含め、テクノロジー(たとえば映画)やネットなどのメディアと文学の多様な関係について論証を試みた。このような研究は、まだ日本では新しい分野であり、さらに今後研究が必要であるが、研究成果欄に記載したように多くの成果をえることができた。