著者
小塚 晃透 安井 久一
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

空気中において、超音波の定在波を用いた非接触物体捕捉に関する研究を行った。28kHz の空中超音波音源を試作し、凹面型反射板との間で定在波音場を生成した。実験で物体に作用する力を測定すると共に、数値計算で音圧の分布及び音場中の物体に作用する力を求めたところ、定性的な一致が確認された。良好な条件下では、直径2mm の鉄球を音圧の節に捕捉(浮遊)できることを示した。
著者
木村 純子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

【平成16年度の成果】研究の経過過程で明らかにしたのは次の点である。日本で活発に行われている西洋文化としてのクリスマス消費を取り上げ、調査を行った。具体的には、消費文化の受容に関する(1)既存の分析枠組みを批判的に検討し、(2)新たな枠組みを提示し、(3)本研究が提示する枠組みを経験的に検証した。そこで明らかにしたのは、既存理論の限界である。これまでの議論は、西洋文化に日本文化を従属させる(グローバル論者)、あるいは日本文化に西洋文化を従属させる(伝統論者)といった「西洋中心の文化帝国主義モデル」であり、いずれも、文化を本質的なものとしてとらえ、日本の文化状況を均質化に行き着くものとして理解していた。ところが、調査を進めると、実際は、文化は西洋か日本かのいずれかに均質化していくわけではないことが明らかになった。われわれは、消費文化の変容とは、異文化を主体的に受け止め利用していく過程(=文化の再生産)ととらえるべきであることを主張した。【平成17年度の成果】平成17年度は第二次世界大戦後から現在に至るまでに(WHEN)、観光地という場において(WHERE)、それぞれどのような欲望を持って、どのように観光文化を構築し維持しているのかを(WHAT & HOW)、ローカルの人々・観光客・マーケターという異なる主体が(WHO)、主体間の相互作用に注目しながら明らかにする、という全体構想を持って行った。このような研究の全体構想の中で、以下の成果を出した。第一に、既存の文化認識論とは異なる新しい文化認識論を用いることの意義を明らかにした。第二に、第一で提示した枠組みを用いて経験的分析を行った。異文化に接するローカルな文化は、異文化をしたたかに利用しながら、文化の真正性とローカル・アイデンティティを構築していることを明らかにした。
著者
木越 治
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、八文字屋本の時代物浮世草子の注釈的研究を通して、各作品の「他界」を記述しようとするものである。研究期間中に注釈的な検討を終えた作品は、『風流宇治頼政』(享保5年刊)『都鳥妻恋笛』(享保19年刊、以上二作は江島其磧の作品)『勧進能舞台桜』(延亭3年刊)『龍都俵系図』(元文5年刊)『花襷厳柳嶋』(元文4年刊、以上三作品は多田南嶺の作品と考証されている)の計5作品である。ここでは「世界」の概念規定や各作品のおける具体的な「世界」のありようについて述べる余裕はないが、作品によってその様相はさまざまであり、簡単に概括することはできないようである。たとえば、『都鳥妻恋笛』の場合、従来から近松門左衛門作の浄瑠璃『双生隅田川』(享保5年初演)に基づくとされてきたわけだが、くわしく検討してみると、両者の関係は実はそれほど深いものではなく、それよりも、謡曲「隅田川」やその系譜につらなる古浄瑠璃・説経等がはるかに密接な関係を持っていることがわかってきたのである。さらに、それに加えて、元禄歌舞伎における「隅田川」ものがいくつか関与したとみられる部分もあるし、さらに、『伽婢子』『金玉ねぢぶくさ』等の怪異小説が利用された箇所もみられるのである。この一例だけからも、時代物浮世草子作品の「世界」を記述するためには、当該作品の注釈的な研究を踏まえつつ、それぞれの「世界」の系譜を考えていく必要があることを改めて痛感したのである。以上のことをふまえ、本報告には、『勧進能舞台桜』の全注釈を収めることとし、さらに、『都鳥妻恋笛』の新出異版を発見しそれによって得られた知見に基づく発表を行なったので、それもあわせて収めることにしたのである。
著者
柏木 加代子
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

平成15年度はフロベールの20世紀初頭芸術への影響を日本文化も含めた国際的な視野で考察した。明治維新(1867年)にフランスに紹介された歌舞伎<芝居>特有の「花道」や「回り舞台」などは、当時のフランス文壇がレアリスムに傾倒していたことからレアリスム表現として評価されたという。殺戮や暴力シーンが舞台裏で行われてきたフランス古典劇に慣れ親しんだフランス人には歌舞伎の技法が新鮮に映ったのだろう。フロベール存命中の1870年出版のLe Japan illustree(en 2 vols)が日本に関しての最初のテクストである。フロベールのレアリスム考察に東洋思想が影響していたのかどうかは議論しなければならないが、少なくとも初稿『聖アントワーヌの誘惑』にもあるように、<舞台裏と舞台>といった戯曲の基本理念において、フロベールは真のレアリスムのあり方を試行錯誤していたことは明白で、当時の日本趣味の影響をそこに見いだすことも可能である。1878年の万国博事務官長前田正名の原作で「忠臣蔵」を手本とした劇『ヤマト』(1879年2脚日初演)。がゲイテ劇場で上演されているが、パリの劇場にしばしば通っていたフロベールがこうした時代の潮流とは無関係であったとは考えにくい。フロベールの沈黙指向はまさに歌舞伎の<見得>に呼応する舞台技法であって、役者が含蓄の深い目立った表情・動作をしてみせ、観客が拍手を惜しまない沈黙の一瞬である。フロベールにとっての「演劇創作時代」である1870年代に日本趣味がパリの演劇界を賑わしていたことは注目に値する。
著者
児玉 竜一
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、現存する近世期の歌舞伎台帳の性格を大きく二分する、貸本屋系統の台帳と、劇壇内部の上演の台帳との比較をおこなうための基礎的な研究をめざした。前者の代表としては、名古屋の大手貸本屋・大野屋惣八(大惣)に代表される貸本屋の歌舞伎台帳が挙げられ、従来の歌舞伎台帳研究を代表する『歌舞伎台帳集成』にも多く翻刻の底本として取り上げられてきた。しかし、そこでは台帳の性格については、おおむねが「貸本用の筆写」とされることが多く、詳細に言及されることはなかった。本研究では、台帳の筆跡を通して旧蔵者に注目することで、劇壇内部に所蔵された上演用の歌舞伎台帳が、貸本屋へと流れていった可能性を、複数の事例から示すことを得た。さらに歌舞伎台帳の性格を論じる基礎データとして、従来の歌舞伎台帳翻刻叢書の総覧を作成した。なかでも「七五三」と署名のある台帳群については、京都大学所蔵本の詳細な書誌事項と筆跡の追求から、旧蔵者の特定への可能性を示唆しうるが、完全に特定するためには基礎データの収集に留まった。さらに「七五三」署名台帳の旧蔵者を特定する資料をも見いだしており、これらを総合することにより、現存する歌舞伎台帳の性格について、大きな認識の変化をもたらすことができる見通しである。本研究の成果としては、上記の過程で、上演年代に関する記載のない台帳について、同系統と思われる台帳群との比較を通して、その成立年代をおおまかながら類推することができたことを副次的成果と考える。この過程で、歌舞伎・人形浄瑠璃の代表的作品である「仮名手本忠臣蔵」の現存最古と目される台帳を発掘することを得た。
著者
中本 大 赤間 亮 赤間 亮 冨田 美香
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、立命館大学アート・リサーチセンターに寄贈された近世絵入版本を中心とする作品の基礎的研究を行い、展覧会の開催、ならびにその目録化を推進した。研究協力者を含めた研究会活動により、カタロギングのための情報収集と情報の共有化に研究の重点がおかれ、その成果として詳細な書誌目録としての報告書を世に送り出すこととなった。とくに絵入本の内、希少価値が高いもの、歴史上意義の高いものについて、目録とは別に、詳細な解説を付し、挿絵入りの解説が実現できている。本コレクションは、江戸絵入本のジャンルを広くカバーしており、価値が高いものであるが、残念なことに、林美一氏の自宅に保管されていた段階で虫損被害が進み、保存状態としては、劣悪なものである。本研究では、こうした状態の悪い古典籍の修復をも兼ねてしかも、修復を終えたものをデジタル画像で発信するという、公開型の研究を実施した。さらに、本コレクションの整理分類をするなかで、林美一氏が京都在住時代に映画会社大映京都に働き、また江戸研究家として独立し、時代考証により映画制作に関った経緯があるために、大量の映画スチル写真を持っていることがわかり、その目録化も鋭意進めることとなった。残念ながら、研究期間内では、完全な目録としては上梓できなかったが、日本映画のスチル写真データベースとして研究利用が可能となった。また、本報告書は、現代の情報発信技術に照らし合わせて、印刷物としてのみ提供するに不足を感じるものであり、別途WEBサイトにより、冊子では提示できなかった解説情報も含めて公開することになる。URL : http://www.arc.ritsumei.ac.jp/db1/arcsyoseki/search.htm
著者
佐々木 隆爾 鍋本 由得
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

(1)「大津絵節」は流行歌としての側面と,語り歌としての側面をあわせ持っている。この両側面を持ち,かつ大衆に新たな感興を呼び起こした歌は,清楽曲を全部または一部借用した歌であり,1830年代に流行し始めた。その端緒は「看々節」およびその原曲「九連環」である。「看々節」は江戸で禁止されるが,「九連環」は江戸・大坂・長崎等で愛好され続けた。清楽曲は,漢詩に節をつけた歌であることから,情報と感情の双方を伝達する手段として利用された。また「看々踊り」等が流行し,流行に拍車をかけた。このことは,19世紀前半から清楽譜が多様に出版された事実と,「甲子夜話」等の信頼性の高い記録から確認できる。(2)幕末の「大津絵節」の流行は,1853年7月に中村座で市川小団次が踊った狂言「連方便茲大津絵(つれかたよりここにおおつえ)」に端を発する。それにあやかって歌川国芳の風刺画が書かれ,それが大流行すると,その絵解き歌として「アメリカ大津絵節」も同時に流行し,それまで愛好されて来た「ヤンレ口説き節」を凌駕するようになった。このことは,安政(1855年)大地震を描いた「鯰絵」に多くの「大津絵節」が登場することで確認できる。(3)「アメリカ大津絵節」が自由民権期を含む1880年代にも強く愛好されたことは,梅田磯士『音楽早学び』(1888年)で確認され,これが民権運動期に運動鼓舞的な演歌として多大な役割を果たしたことは,福田英子『妾の半生涯』の記述から明らかである。福田の記述は,この歌におけるメロディーと歌詞の相互関係も示唆しており,歌詞にあわせて曲のどの部分が省略または反復されるかを推定する手がかりを与えている。(4)演歌としての「アメリカ大津絵節」の時代は長くは続かなかった模様で,この中のリズムが軽快な部分や沈鬱なメロディーの部分は,折から大流行を始めた浪花節の中に,それぞれ「早がけ」および「沈思」の表現法として吸収され,浪花節の表現力と伝播力を高めたものと推定される。
著者
今井 範子
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

日本の都市住宅における今後の畳空間の平面計画とインテリア計画に資するため、大都市圏域である首都圏、関西圏、名古屋圏、福岡圏と、地方都市の熊本圏に立地する住宅の居住者を対象とし、畳空間の現況と住意識に関する調査を実施した。平面における畳室の現況については、例えば、首都圏では畳数は少なく、関西圏では相対的に多いというように顕著な地域差が認められた。畳室の使われ方については、熊本圏では畳室の接客機能が他地域よりも認められるというように地域による違いを明らかにした。畳空間に対する居住者の意識についても、地域と年齢階層などによる差異が明らかになった。畳の必要性や愛着意識などに対し、首都圏ではその薄らぎが他地域よりも認められた。しかし、全地域をとおして畳に対する根強い愛着意識の存在を明らかにした。「畳空間の新しいデザインのあり方」を文献調査から検討し、次世代に継承しうる新しい畳空間のデザインの必要とそのあり方を提示した。さらに、新しい畳空間デザインの居住者の嗜好性を検討した結果、地域差なく、新しいデザインの受け入れが認められた。今後の日本の都市住宅における畳空間の発展方向として、生活機能面からは、接客機能やくつろぎ機能を有する空間としての方向を提示し、そのデザインについては、伝統性を踏まえながら現代性をとりいれた新しいデザインの必要とそのあり方を提示した。
著者
山本 幸男 亀井 康富
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

脂質代謝の性差は、核内受容体ERα(Estrogen Receptor α)が、脂質代謝のマスターレギュレーターである核内受容体LXR(Liver X Receptor)およびCAR(Constitutive Androstane/Active Receptor)に直接もしくは間接的に働き、遺伝子発現を制御することが一因であることを見いだした。
著者
ユーチン シン
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

In this research, I analyzed China's ICT exports to Japan and the US, the two largest markets. It shows that China has been the largest ICT exporter to both Japan and the US. In addition, the research suggests that the growth of China's ICT exports has yet crowded out the ICT output of other Asian countries. FDI and production fragmentation may be the major reasons for the rapid growth of China's ICT exportsIn addition, the research used a theoretical model to analyze how the technology progress of a large developing country like China, would affect the welfare of advanced country in an open economy. The exogenous technology growth due to FDI inflows/trade will affect the welfare of the advanced trading partner negatively. The result is more general than Samuelson (2004).
著者
望月 伸悦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

色素体の機能に依存した光合成関連遺伝子の転写制御において、これまでの定説ではテトラピロール合成中間体MgProtoIXの蓄積量が重要であると考えられてきたが、本研究によって、その蓄積量は転写制御と直接の関連性がないことが明らかとなった。更に、CRY1およびHY5とテトラピロール合成系GUN遺伝子との間に、遺伝学的相互作用があることを見いだした。
著者
福元 康文 吉田 徹志 島崎 一彦
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

河川湖沼の水質浄化については、その必要性が理解されていながら、河川の環境基準達成率(BOD)は81%と前年同様で、湖沼の環境基準達成率(COD)に至っては僅か40.9%に過ぎず、過去25年間ほぼ同レベルに低迷しており、早急な浄化対策が望まれている。浄化対策で除去された汚泥の処理技術は確立されていない。今までの研究で、セルロースとリグニン主体の製紙スラッジの特性を生かし、それを成型した土壌還元型育苗ポットを開発した。また江の口川と石手川の脱水汚泥を培土とした各種植物の栽培試験より、植物の成長と発育には異常が認められないばかりでなく、むしろ成育が促進される傾向が認められた。脱水汚泥土壌にはもろもろの有機、無機の成分が含まれており、また土壌細菌検査による結果より、土壌消毒の必要が無いほどに有害土壌微生物は少なかったが、それらが植物成育に有利に作用したものと思われた。しかしながらCaやNaに見られる土壌中に含まれる塩類の上昇と汚泥土壌から流亡する同種塩類が周辺土壌へ流れ込み、注意を怠ると塩類集積を招来し植物の成育に悪影響を及ぼすようになる懸念がある。また培土としての利用に当たり、施肥も汚泥土壌に含まれている要素は減じて行う必要がある。今回使用した江の口川と石手川の脱水汚泥土壌に含まれる有害な重金属は微量であったが、これらは今回の2つの川の汚泥土壌でも認められたように、河川によりその含有されている物質と含有量が異なるものと思われるので、利用に当たり事前の化学調査は欠かせない。脱水汚泥は名前からは想像できないほど匂いも無く、見栄えは普通の腐食に富んだ土壌と遜色はない。道路工事現場への入れ土としての利用には未耕地山土より抑草作用が劣ったため、利用上問題が認められたが、逆に植栽度あるいは土壌改良をともなった畑土への客土としての利用の可能性が強く示唆された。
著者
服部 麻木
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

血管内治療においては、X線透視下でカテーテルの誘導を行なっているが、X線透視画像は二次元画像であり、奥行方向の情報が得られないため、カテーテル先端の方向を把握しにくいという点が挙げられる。これを克服するために、術野に血管等の内部構造を立体画像として投影可能なナビゲーションシステムの開発を行なった。開発では、術者の視線および注視点計測手法,術野表面形状計測手法,術野表面形状に応じた内部構造モデル表示手法の3つの基礎技術の開発を行ない、ナビゲーションシステムの構築を行ないファントム実験において精度や処理速度の検証を行なった。
著者
森原 剛史 武田 雅俊 工藤 喬 田中 稔久
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

NSAID誘導体によるAβ42産生の抑制作用は認められなかった。背景遺伝子を混合させたAPPトランスジェニックマウスはAβ蓄積を修飾する遺伝子群の収集には大変有効であった。候補遺伝子アプローチで炎症関連遺伝子の関与を調べたが、有意な関係は認められなかった。高齢者の血中CRPと認知機能の変化の関係は本研究機関では認められなかった。
著者
佐藤 宣子 佐藤 加寿子 藤村 美穂 加藤 仁美
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ズギ人工林地帯である九州をフィールドとして、高度経済成長以降、過疎化が進行している山村の持続的な社会への転換と森林、農地、景観等の資源保全に向けた地域連携の課題を明らかにするために、主に、宮崎県諸塚村と大分県上津江村においてアンケートや聞き取り調査を実施した。特に、(1)山村問題を歴史的に概観し、(2)現段階の山村を持続可能な社会へ転換するための課題を、農林経済学、社会学、環境設計論の各立場から明らかにすること、(3)持続的な山村社会形成と森林保全にとって不可欠となっている山村と都市との連携の現況と問題点について検討をおこなった。諸塚村での村民アンケート(1400部強)と小集落アンケート(72集落)によって、近年、道路の維持管理が困難となっており、山村コミュニティにとって、(1)山村社会を支える主体形成のあり方(男性壮年層中心から女性や高齢者、Iタ-ン者などが参加しやすい活動への転換)、(2)集落組織の再編方向(小集落組織合併、集落機能の見直し、村内NPOなど「選択縁」的組織と地縁組織の連携)、(3)地域連携・都市山村交流活動を推進するための山村側の課題(自治体による住民に対する説明責任、都市住民との対等な関係作り、住民の意識改革)といった3点が明らかとなった。また、都市との連携に関して、産直住宅運動、草地景観保全ボランティア、農産物産直について考察を行い、活動を通じて山村住民の意識変化と同時に都市住民との意識差異が依然として存在していることが示された。
著者
須曽野 仁志 下村 勉 織田 揮準 織田 揮準
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、デジタルストーリーテリング(静止画をナレーションでつなげたデジタル紙芝居)の制作を取り入れたプロジェクト型学習を進めてきた。教員養成大学授業では、大学生が「もったいない」「読書」「外国人に向けた日本紹介」等をテーマに、小学校授業では、「この本よかったよ」「英語での自己紹介」をテーマに、学習者がデジタルストーリー作品を制作した。実践成果をもとに、協働学習でのデジタルストーリーテリングの意義、作品制作から学ぶこと、マルチメディアでの情報表現について明らかにした。
著者
白畑 知彦
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

平成10年度は3年間の研究期間の最後の年度であった。最終的に、観察を継続的におこなうことのできた被験者は、チャンチャン(中国人児童)、ジョシュア(ニュージーランド人児童)、ベン(オーストラリア人児童)、シジネイ(ブラジル人児童)、そして、ルーカス(ブラジル人児童)の5名であった。ジョシュア(1年間)を除き、残りの4については2年間以上、1-2週間の間隔で継続的に発話データをとり続けることができた。その結果、莫大な量のデータを収集することができ、極めて貴重なものになると確信している。発話データは60分テープ300本に及ぶ。今年度の研究内容は以下の通りである。(1)夏休み期間を利用して観察データを文字化した。文字化とパソコンへの入力作業は学生に依頼して毎年夏休み期間中におこなっている。文字化作業は終了した。(2)格助詞を構造格(「ガ」と「ヲ」)と内在格(その他の格助詞)に分け、第2言語獲得者が両者を心理的実在として認識しているかどうか分析した。観察結果は第2言語学習者であっても、両者を区別していることが判明した。(3)「ノ」の過剰生成現象の調査。日本語の連体修飾構造において、「大きいノ犬」は非文法的である。この「ノ」の過剰生成は母語を獲得する過程で観察されるが、第2言語の場合でも同様の現象が生じることを明らかにし、それを説明づけた。(4)語順と項構造の省略を調査した。この分析に関しては、2名の英語母語話者のものしか現在までの所終了していない。すなわち、英語は主要部先行型言語であり、日本語は主要部後行型言語である。また、英語は語順の制約が厳格であるが、日本語は語順が比較的自由な言語である。さらに、基本的に英語は項を省略できないが、日本語は文脈が許す限り項を省略できる。このような特色を持つ英語を母語とする子どもが相対する日本語を第2言語としてどのように獲得していくのかを調査した。
著者
日置 幸介 田村 良明
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

科研費申請時には年周地殻変動は現象のみが知られておりその原因は謎であったが、本研究により原因がほぼ究明されただけでなく、地震活動の季節変動との因果関係もある程度明らかにすることができた。昨年度は国土地理院のウェブページより取得したGPS全国観測網の2年間のデータと、アメダス積雪深度データを対比することにより、東北地方で顕著に見られる年周成分の主な原因が積雪荷重による弾性変形であることを解明した。この成果は初年度に米サイエンス誌の論文となり、わが国でも主要なメディアに取り上げられる等大きな反響を呼んだ。また田村は、年周視差によって銀河系の測距を行うVERA計画に年周地殻変動が及ぼす影響について詳細な、検討を行った。日本列島の地震活動には季節性が見られるが、海溝型地震は秋冬に多く内陸地震は春夏に多い傾向が昔から知られている。今年度は内陸地震特に積雪地域に発生する地震の季節性を調べ、積雪荷重との因果関係を研究した。地震に先立つ歪の蓄積速度と積雪荷重による断層面でのクーロン破壊応力の増加を定量的に比較し、前者の一年分のほぼ10%におよぶ応力擾乱が積雪荷重によって発生することがわかった。両者の相対的な大きさから、雪どけ時期にピークをもつ地震発生頻度は最小時の三倍程度になることが予測される。もっとも新しい日本の被害地震のカタログから、内陸地震の発生時期を積雪地域で発生したものとそれ以外について統計処理した。その結果モデルから予測されるのと調和的な季節変動が積雪地域で見られ、一方積雪のない地域ではそのような傾向が見られないことを明らかにした。これはEarth Planet. Sci. Lett.誌に2003年2月に掲載され、Nature(http://www.nature.com/nsu/030210/030210-13.html)及びNew Scientist(http://www.newscientist.com/news.jsp?id=ns99993409)の外国の科学雑誌にニュースとして取り上げられただけでなく、国内で、も大きな話題となった(http://slashdot.jp/articles/03/02/19/122254.shtml)。補助金額を考えると極めて投資効率の良い研究補助であったと言うことができよう。
著者
小林 一義 佐々木 敦 菅原 宣義
出版者
釧路工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

送電線用碍子の絶縁特性は、その設置場所の気象条件や環境条件によって大きく変化する。その気象条件は地域による特徴があり、北海道東部の太平洋沿岸では、春から夏にかけて、北上する黒潮暖流と南下する親潮寒流のぶつかりによって、特有の海霧が出現し、また、秋には台風崩れの温帯低気圧の通過による海塩汚損がある。本報告書においては、大気中塩分の測定から海塩汚損の影響を調べ、また、海霧の影響を検討するために、タイムラプスビデオ装置を用いて海霧の出現・動向の観測を行った。その結果から、碍子の海塩汚損状況、その汚損と碍子の絶縁特性との関係、海霧の出現・動向、および、海霧が碍子の絶縁特性に及ぼす影響について述べている。結果を要約すると以下の通りである。(1)碍子の漏洩抵抗は、気温によって変化する湿度の影響が大きい。(2)濃霧の出現で湿度が高くなり、それで碍子表面が湿ると漏洩抵抗は低下する。(3)雨洗効果が働く前は、碍子表面の海塩付着が多く、そこへ濃霧が出現すると、その湿りによって漏洩抵抗は著しく低下する。
著者
渋谷 治美
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

研究期間中に、フィヒテ『1794年の知識学』、シェリング『人間的自由の本質』、ヘーゲル『大論理学』を精読した。本研究の狙いとして、これら三人の哲学思想の底流にスピノザ、カントとの関連を探り、それがそれぞれの自由論、価値論にどのような影響を及ぼしているか、スピノザを経てカントが直面した価値ニヒリズムを彼らがどのように受け止め処理したか、を探るつもりであった。この観点からすると、率直に言ってこの三年間の研究の到達点は、期待にはほど遠いものであった。まずフィヒテのこのテキストには価値ニヒリズムに関連するような記述が断片としてすら見いだすことができなかった。フィヒテの他の時事的な文献からそのようなニュアンスを読み取っていたので、この点は意外かつ落胆した。次にシェリングについていえば、このテキストは結局は価値ニヒリズムの回避の試みであるといえるとは思うが、スピノザ、カントとの関係を匂わす文脈をここに発見することができなかった。最後にヘーゲルのこのテキストは聞きしに勝る難解な書で、意味を追うだけでも辛酸を極めた。しかも価値論に関係しそうな論述を見いだすことができなかった。ということで、本研究の主題的仮説は間違っていないと思うが、今回は選んだテキストが適切でなかったと反省している。反面、副次的な成果は多々あった。まず、フィヒテは思ったほどにはカントの「純粋統覚の外界への自己実現」論を真正面から受け止めていないこと、逆にヘーゲルの弁証法はフィヒテの論理展開の仕方と紙一重であること、シェリングの神論は単純なキリスト教護神論とはいいきれないこと、ヘーゲルは『大論理学』の概念論への導入の箇所でスピノザを高く評価しており、またカントについて随所で適切な批評を下していること、を発見したことは大きな成果であった。というわけで、「ドイツ観念論と価値ニヒリズムの問題」という研究テーマでの仕事は、私にとって仕切り直しとなった。今後中長期的に探求していきたい。