著者
井上 清俊 金田 研司 木下 博明
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

肝臓において、類洞壁星細胞が活性化し線維化を生じるに伴って細胞質型のプリオン蛋白(PrPc)を発現することをヒントとし、肺の線維化におけるプリオン蛋白の発現について基礎研究および臨床研究を行なった。基礎研究として肺組織におけるプリオン蛋白産生細胞の解析を、肺線維症モデルを作成し免疫組織化学的手法を用いて行なった。正常肺では細気管支に多く分布し小顆粒を有するクララ細胞の細胞質にPrPcの発現が認められたが、核と顆粒には発現は認められなかった。ブレオマイシンの細気管支投与によって作成した線維化肺では、終末細気管支の周囲の線維化巣において細気管支が増殖し、増殖細気管支はPrPc陽性のクララ細胞に覆われていた。また、PrPc陽性細胞は、肺胞管の上皮と肺胞の再生した上皮にも存在していた。また、線維化巣にはα-smooth muscle actin陽性の筋線維芽細胞が多数存在していたが、PrPc陽性細胞とはその分布は異なっていた。これらの所見より、肺胞が障害を受けた際、クララ細胞が増殖し終末細気管支から腺房に遊走し、肺の幹細胞として増殖し損傷を修復する可能性と、肝と肺の筋線維芽細胞のheterogeneityの可能性を示唆している。臨床研究は、当病院において原発性肺癌症例で放射線療法と化学療法を施行した後、外科的治療を行なった摘出標本を用いて、プリオン蛋白発現を指標とした至適放射線量と範囲および術式の再評価を行なうことを目指した。摘出した標本においては、免疫組織化学的手法およびPCR法を用い検討じたが、放射線療法終了後約6〜8週経過し線維化が完成した為か、明らかなプリオン蛋白陽性細胞の増殖は認めなかった。今後はプリオン蛋白の発現が最も顕著と思われる時期、すなわち放射線療法の影響が強く存在し、明らかに線維化が完成する以前の肺組織を対象として、再度検討する予定である。
著者
金子 邦彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

生命現象の本質を適度に抜きだした力学系モデルを設定し、そこでの現象を解析することを通して、どのような条件のもとで、生命現象の特性があらわれるかを明らかにし、そのための論理を探った。(1)細胞分化システム:細胞内の化学反応ネットワーク、拡散相互作用、増殖だけによって、分化発生が起こることを示してきたが、この時にカオス的なダイナミクスを持って分化するような反応ネットワークを持った方が集団として速く増殖でき、選択されてきたことを示した。幹細胞から、分化、決定していく不可逆性が、多様性やカオスの減少として記述されることを示した。(2)空間的相互作用を含めた細胞分化モデルを解析し、チューリングの形態形成理論とは異なる型のパタン形成が生じることを示した。さらに、細胞内部のダイナミクスに基づいて位置情報が生成し、安定なパタンが維持されることを示した。(3)総分子数が少なく、ゆらぎが多い系では、コントロール的役割を持つ少数の分子と多様増殖をになう分子への分離過程が生じることを示し、デジタル情報を担う遺伝情報と代謝への役割分化を捉えた。(4)少数個の分子での反応系では、連続極限の力学系にゆらぎを加えた系とは本質的に異なる相への転移が起こることを見出し、その機構を求め、細胞内でのシグナル分子の性質との関連をも議論した。(5)ダーウィン進化論の枠の中でも相互作用によって表現型が分化すると、それが遺伝的進化を促しうることを示し、その成立条件調べ、特に、これまでの進化理論で説明されにくい、発生と進化の関係、進化のテンポの非一様性などを議論した。(6)時間スケール、空間スケールの異なる力学系が相互作用したときに速いスケールが遅いスケールに連鎖的に影響を与えるケースを探り、記憶、履歴構造を持つ力学系の原型を探索した。(7)分子内のモードが分化し、分子の一部に長時間エネルギーを蓄える構造が出現することを明らかにした。その時間が蓄えたエネルギーEについて、指数関数的に増大し、この緩和時間が余剰Kolomogorov-Sinaiエントロピーに逆比例することを示した。さらにこうして蓄えられたエネルギーを変換して利用するモデルを構築した。これは分子モーターの原理のひとつを与えると思われる。(8)この他、力学系ゲーム、関数力学系という新しい分野の開拓、計算の力学系的研究なども行った。
著者
飯野 雄一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、線虫C.elegansを用い、性行動に関する突然変異体を分離することを目的とした。性行動は霊長類以外の多くの生物においては生後の学習を必要とせず、完全に遺伝的にプログラムされたものである。ところが、各種生物における性行動の記述は比較的よくなされているものの、その行動がいかにプログラムされているかという遺伝子レベルでの研究は非常に少ない。そこで、性行動の分子遺伝学的研究の第一歩として、線虫においてオスの性行動に異常のある突然変異体の分離を行った。オスが高頻度で出現するhim-5変異と、精子の注入に伴い雌雄同体の陰門に盛り上がり(プラグ)を生じるplg-1変異を持つ二重変異体に変異原処理を施し、プラグの形成を指標としてスクリーニングを行った。この結果、精子の注入に至らない突然変異体を39株分離した。線虫のオスの性行動は大まかにresponse to contact,turning,vulva location,spicule insertionの4つのステップから成るが、得られた変異体の中にはresponse to contactに異常があるものが14株、turningの異常が23株、vulva locationの異常が5株含まれていた。ただし、複数のステップに異常がある変異体も含まれている。また、これらの性行動不能変異体のうちの20株は、性行動に特に重要である尾部の形態に異常が見られた。オスの尾部にはSensory rayと呼ばれる感覚器官が左右9対存在するが、見られた異常の多くはSensory rayの融合、欠失などであった。また、精子の注入に重要な交尾針(spicule)の伸縮に欠陥があると思われる変異体も6株見出された。また、明らかな形態上の異常が見られない変異体の中の11株は蛍光色素DiOによる染色の結果、感覚神経の異常が明らかとなった。これらの突然変異体はオス特異的な構造、特に感器官の発生、分化に関わる遺伝子に変異を持つものと考えられる。本研究により、このような性分化に関わる遺伝子カスケードを明らかにするための端緒が得られた。
著者
小口 一郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、近年の文化研究における「身体性」の再発見に基づき、ロマン主義文化の物質・肉体面を超領域的に考究し、ロマン主義の身体意識を宗教、文学、政治、哲学に通底し、ヨーロッパ全土に渡る超域的文化運動として再定義することを目的としている。文化史および文化理論の分野に棹さすものであるため、方法論的な原理を考察した後に、研究対象の時代順に研究に着手した。平成16年度は、ロマン主義以前の科学、政治思想、そして擬似科学の調査を実施した後、最初期ロマン主義の身体性の研究への見通しをつけた。まず、ヤコブ・ベーメ、カドワースを始めとする17世紀までの神秘主義者やプラトン主義思想家の宇宙観と、神の恩寵たる「流出」の概念、そしてそれを受けたニュートンの物理学と、宇宙に遍在する「能動的原理」の思想、そしてプリーストリーら18世紀の非国教会派の科学的世界観を、ロマン主義の身体性に繋がる思想の流れとして捉え直した。こうした思想が、政治思想における共和主義、民主主義政治運動そして革命的急進主義の流れとへ結びつくことを、資料のレベルで確認した。この成果を基に、ロマン主義最初期の身体意識を概観した。1780年代から90年代にかけての英国および大陸ヨーロッパの急進主義と自然哲学、そして非国教会系の神学運動を調査し、ロマン主義文化のインフラストラクチャーとして位置付けた。この結果、ゴドウィン、エラズマス・ダーウィン、ウィリアム・ペイリーなどの政治思想が、神学および自然哲学の観点から再解釈され、ロマン主義的身体性の枠組みを構成することが明らかになった。同時に、18世紀の神経生理学が、神学と政治学を思想的に結び付け、ロマン主義初期の唯物論的な身体意識を産む思想的枠組みとなっていたことを突き止め、この観点から本研究の本年度における暫定的な結論付けを行った。
著者
高橋 輝暁
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.ヨーロッパにおける「精神」(Geist)概念の系譜について,初期古代ギリシアの哲学者アナクシメネスにいう「プネウマ」(pneuma)までさかのぼって吟味するにあたり,古代ギリシア語ならびにラテン語のうち18世紀ドイツで「精神」(Geist)およびその派生語を用いてドイツ語訳された単語や概念を探るという方法で,たとえば,キケロにおける「狂気」に相当するラテン語(furor)は,デモクリトスにおけるギリシア語「プネウマ」に対応する意味をもつ概念として,18世紀ドイツのゴットシェートにより「精神を吹き込まれた状態」を意味するドイツ語(Begeisterung)をもって翻訳されていることが確認された。2.ヘルダーリンの作品やヘーゲルの『美学講義』において,「精神」概念を「プネウマ」の訳語としてとらえ,その汎神論的原義にさかのぼって解釈することにより,難解とされる各箇所を明解に解釈できることが確認された。3.「プネウマ」の類義語ともいうべき「エーテル」(aither/aether)を概念史的に追跡したところ,近代では,少なくとも初期ライプニッツにおいて,「エーテル」概念は「プネウマ」のラテン語訳とされる「スピーリトゥス」(spiritus)とも密接に関連し,物質性とともに観念性をもあわせもつ「プネウマ」に特徴的な二重性のうち,「自然」としての前者には「エーテル」概念が,「精神」としての後者には「スピーリトゥス」概念が用いられ,それぞれ概念的に使い分けられているとの感触をえた。この点の立ち入った検証とともに,このライプニッツの思想が18世紀ドイツにおける「精神」概念に与えた影響の追跡は,今後の課題である。4.東洋思想における「気」の概念と「プネウマ」概念とは,ともに「大気」という物質性と「精神」という観念性をあわせもつという並行的対応関係の比較対照的分析の糸口をつかむことができた。
著者
加藤 洋介
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究には大きく二つの目的があった。一つには、これまでに受けた科学研究費補助金によって、源氏物語全巻について『源氏物語大成 校異篇』(以下『大成』と略称)の河内本校異の補訂作業を行なってきたところであり、その成果として『源氏物語大成 校異篇 河内本校異補遺 稿(一)〜(五)』をまとめてきた。しかしながらこれは「補遺」であり、常に『大成』と見合わせる必要があった。また『大成』刊行後に紹介された伝本の校異をどうするかという問題も残っていた。そこで『大成』に未採用の諸本の校異を加えた上で、河内本の校異を一覧できる一書としてまとめることを企画した。これについては、本研究期間中に『河内本源氏物語校異集成』として刊行したところである。もう一つの目的は、別本についても『大成』の校異を補訂することであった。河内本源氏物語の成立を考えるためには、ぜひとも『大成』の青表紙本校異や『河内本源氏物語校異集成』と同基準での校異データが必要である。また自分自身の目で別本の本文に触れて、その感触を確かめてみたいという興味もあった。そうしたことから、河内本について行なった作業と同様のことを、別本についても試みたのであるが、その成果が研究成果報告書であり、「付 源氏物語大成 校異篇 別本校異補遺稿(上)(桐壺〜幻)」とした所以である。本研究は当初平成15年度までの4年間の研究期間を予定していたが、幸いにも科学研究費補助金の前年度申請が採択され、同じ研究課題名で平成15〜18年度までの継続研究が認められた。現在までに源氏物語全体の約2/3の調査を終えており、この研究期間内に源氏物語全巻の調査を終え、今回と同様の研究報告書を作成する予定である。
著者
加藤 洋介
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の主たる目的は、『源氏物語大成 校異篇』(以下、『大成』と略称)の別本校異について、刊行の際に割愛された音便や表記の異同などに関する校異を増補し、合わせて『大成』校異の誤脱を修正することにある。これにより『大成』青表紙本校異と『河内本源氏物語校異集成』(加藤洋介編、風間書房、平成13年2月。)を合わせ、ほぼ同一の採用基準によったデータに基づいて比較研究を行なうことができる環境を整えることになる。本研究は同研究課題名での前年度申請によって採択されたものであるが、すでに先の研究期間における研究成果報告書では、桐壺巻から幻巻を対象として、約16,000項目の校異を増補し、3,600箇所ほどの『大成』校異の補訂を行なった(加藤洋介『河内本源氏物語の本文成立史に関する基礎的研究』(平成12〜14年度科学研究費補助金 基盤研究(C)(2)研究成果報告書)、平成16年6月。)。この研究期間においては、残りの匂宮巻から夢浮橋巻までを対象とした調査とその結果のとりまとめを目指した。『大成』所収の別本伝本に関する調査を行い、データの集約と整理を実施した。約8,300項目の校異増補と『大成』の誤脱2,000箇所程度の補訂作業を終え、その結果を研究成果報告書としてまとめたところである(研究成果報告書は『大成』の判型に合わせるためB5判とした)。これにより『大成』の別本校異すべてにわたる増補補訂作業を終了したことになる。今後は『大成』未収伝本へと調査対象を拡大し、『別本源氏物語校異集成』(仮称)として書籍刊行できるよう、研究の継続を計画している。また今回の調査研究の過程において、『大成』の青表紙本校異についても同様の調査が必要であることが判明しつつあり、こちらについても近々研究を開始したいと考えている。
著者
加藤 洋介 高木 元
出版者
愛知県立女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、平成4年度文部省科学研究費補助金 奨励研究(A)「河内本源氏物語の校合と校異語彙索引の作成」での研究成果をもとに計画したものである。上記研究において、池田亀鑑編著『源氏物語大成 校異篇』(以下『大成』と略称)で割愛された河内本校異を、原本調査に基づいてすべて採録し、その過程で発見された『大成』校異の誤りを正した。その成果はすでに『源氏物語大成 校異篇 河内本校異補遺 稿(-)』(1993)としてまとめたところであるが、対象としたのは洞壺巻から葵巻までであり、本研究はその後を受け、平成6年度から作業を開始し、『稿(二)』(賢木巻〜朝顔巻、1994)『稿(三)』(少女巻〜若菜下巻、1995)『稿(四)』(柏木巻〜早蕨巻、1996)、『稿(五)』(宿木巻〜夢浮橋巻、1997)として成果をまとめ、これで『源氏物語』全巻の調査を終えたことになる。上記『源氏物語大成 校異篇 河内本校異補遺 稿(一)〜(五)』にて調査した校異は、すべて機械可読データとしても保存している。そこでは校異に採用したミセケチ・書入傍記などの情報を、機械データとして検索可能なものとすることによって、原本調査のデータシートにそのまま流用でき、さらにはそのデータに一定の符号等を付し、日本語組版ソフトLAT^EXを使用することで、校異データに『大成』と同様の符号を付した印刷用版下を作ることも可能になった。諸本調査および校異作成からその印圧刊行までの過程で発生する人為的誤りを、機械を使用することで可能な限り減らすための方法を、ほぼ確立できたように思われる。
著者
南 俊朗 廣川 佐千男 伊東 栄典 池田 大輔
出版者
九州情報大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

ICT技術の進展を受け図書館は様々な取り組みを行ってきた.Webサイトを開設し外部に向けた情報発信を積極的に行い,Web経由での蔵書検索を可能とし,貴重図書のディジタルデータの公開,電子ジャーナルの充実などを行ってきた.本研究は,図書館における次なる段階として評価情報などを利用した図書推薦システムに着目し,そのシステム要件や運用に関する基礎的な検討を行い今後の実用化への道しるべを与えることを目的に実施された.このような図書推薦システムの実現には,(1)評価情報などの収集,(2)情報の解析,(3)結果の提示,などが必要となる.これらに関する次のような研究を行い,また,その成果を国際会議などで発表した.(1)収集:評価情報への基礎データには,図書館外部情報,図書館サイトで収集された情報,図書館内収集の資料利用データなどがある.この認識の下,特定トピックに関するWebページを収集するトピッククローラーを開発しWebページからの情報抽出技術を研究した.また,RFID技術を利用したインテリジェント書架による館内での図書利用データの収集技術を研究し予備的実験を実施した.(2)解析:図書の評価情報を含む幅広いメタデータを対象とした解析技術を研究した.書評リストや音楽のプレイリストも対象とした.評価データ抽出へ適用するために,大量の項目リストから類似項目を発見する技術も研究した.またインテリジェント書架で収集された利用データを解析し,図書館や図書館利用者にとって有益な知見を得る手法を研究した.(3)提示:図書推薦サービスはそれだけで独立したものではなく,図書館ポータルサイトにおける利用者インタフェース全体の問題との認識の下,検索結果を鳥瞰して提示する技術を研究しWeb情報の統合化に関する研究成果を学内ポータル構築に適用した.これらの研究成果は,今後図書館で普及すると考えられる利用者への個別(Personalized)サービスなどに有効であるものと期待される.
著者
堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

インフルエンザウイルスが細胞に感染すると、細胞内で多数の子孫ウイルスが短時間で複製され、細胞外に放出される。この時、ウイルス感染に伴う細胞応答、つまり様々な細胞性因子がこの一連の過程を制御している。本研究では、それらの細胞性因子を同定し、解析することを目的とした。その成果は、効果的で副作用のない新しい抗インフルエンザウイルス薬の開発につながると考えられる。本研究では、その新しい解析方法として、自己発動性組み換えインフルエンザの応用を考えた。つまり、感受性細胞のcDNAをランダムに組み込んだ組み換えインフルエンザウイルスを構築し、それを非感受性細胞に接種した時のウイルスの増殖を指標にし、感染を制御する細胞性因子を同定しようという試みである。つまり、その場合に、ウイルスに組み込まれたcDNAを同定することにより、細胞性因子の同定が可能になる。昨年度のパイロット実験では、耐性細胞上で増殖を再獲得した組み換えウイルスを選択することはできなかった。そこで本年度は、新たに変異誘導剤ICR191を用いて、ウイルス感染耐性CHO細胞株を72クローン樹立した。さらに、人の肺組織由来のcDNAを新規に購入し、それを用いて組み換えウイルスを再度調整した。これらを、耐性細胞に接種した結果、残念ながら増殖を再獲得するような細胞株は得られなかった。その原因が、耐性細胞株側にあったのか、組み換えウイルス側にあったのかは現時点では不明である。
著者
小野 修三 米山 光儀 梅垣 理郎 坂井 達朗 永岡 正己 小笠原 慶彰 松田 隆行 安形 静男
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は一つには石井十次の岡山孤児院大阪分院(大阪事務所)の活動記録たる日誌を、石井記念愛染園(大阪市浪速区日本橋東)に出張して写真撮影し、その複写物によって原文の翻刻を行ない、成果を大学紀要に発表することで、明治末から大正初めの大阪の地における社会事業に関する第一次資料を公的に利用可能なものとすることであった。この点では、この弓年間の研究期間で2年度に亘り当該日誌の翻刻を研究代表者および研究分担者の所属する大学の紀要にて発表することが出来た。本研究のもう一つの目的は、上記資料を実際に利用して、明治末から大正初めの大阪の地における社会事業展開の実際の過程を解明することであったが、この点についても2篇の論考をまとめることが出来た。そこではまず第一に、事業展開における事業主とその手足として働くスタッフとの間の信頼関係が、ある場合(石井十次と光延義民)には毀損し、ある場合(石井十次と冨田象吉)には、事業主の没後も事業主の遺志を継承して精励していたことが判明した。また、事業展開の場を、大阪から朝鮮半島に求めることが当時広く模索されていたが、ある団体(岡山孤児院、時の事業主は大原孫三郎)は調査の結果進出を断念し、ある団体(加島敏郎の大阪汎愛扶植会)は同じく調査の結果、朝鮮総督府、東洋拓殖株式会社の支援のもと、進出を決断したが、この明治末から大正、昭和初期の過程を今回まとめることが出来た。ただ、昭和20年の植民地統治終了時に至る過程については未解明であり、今後の研究課題としたい。
著者
近藤 浩
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

人物の顔写真の対称度を測定するため、まず顔の軸を水平方向(行方向)に対して直角になるように回転させる。これはアフイン変換によりごく簡単に行えるが、回転を行うことにより画像サイズからしばしばはみ出して消失される部分が出るため顔の重心を画面の中央に移動させ、この重心を中心に回転を行った。これにより軸の回転に対する問題はほぼ解決できた。次にこうして回転させた画像の一次元フーリエ変換を必要な全行に対して行いその実部のみを2乗し、虚部をゼロとしたもののフーリエ逆変換を行う。この段階で画像の各行毎の水平方向一次元関関数が得られたことになる。このときフーリエ実部のみの逆変換(real part-only synthesis)の相関であるから原画と左右折り返しの画像との相互相関を自動的に計算していることになる。各行の原点での値(第1列目の値)はreal part-only synthesisから得られる2重画像(原画と折り返し画像)のその行のみでのエネルギーを表し、第2ピークが求める相互相関値となっている。従って目の部分、鼻の部分、また口の部分のみの関係した行のみを縦方向(列方向)に和をとることだけで局部対称性が求められる。さらにすべての行を足し合わせると顔全体の相関となり全体像の対称度が求まる。従って、初期値として目、口、鼻など必要な部分の行番号を入力しておけば、上記一連の処理は瞬時にして完結する。70人の学生に協力してもらい顔写真をディジタルカメラでコンピュータに取り込みこれらの処理を行った。平均処理時間は2.79秒であった。本年度科研費によりほぼ本テーマを完全遂行できたことに感謝するとともに、来年度からは影の消去及び3次元立体回転へと展開していきたい。
著者
大門 正克
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1950年代から60年代の日本において、生活改良普及事業及び新生活運動など、生活を改善する運動が盛んに取り組まれ、とくに女性及び家庭生活に大きな影響を与えた。近代化と民主化を進めるためであり、戦後日本の復興を生活面から支えるためだった。生活改善運動は、農林省・文部省・厚生省の各省庁、政府、民間団体など、官民をあげてひろく取り組まれ、農村では生活改良普及事業が、都市では新生活運動が主として展開した。
著者
重松 隆 川上 憲司 森 豊 関口 千春 重松 隆
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

微少重力に人体が曝露されると、骨組織、筋組織、カルシウム代謝などに影響を受けると言われている。微少無重力状態では比較的短時間で骨塩が減少し骨粗鬆症が生じるとの報告がある。この発生機序は本邦においては宇宙飛行の経験も少ないため、未だその詳細は不明な点が数多く残されている。今回邦人宇宙飛行士の協力により、骨塩、カルシウム代謝を計測する機会を得、4回のミッション(宇宙飛行)における解析を行ったので報告する。計測方法は、DXA(全身、腰椎、大腿骨、踵骨など)UBD(踵骨)24時間量、尿中カルシウムカリウム、リンなどを計測した。測定は飛行開始60、30日前、飛行より帰還当日、3、10、30、120日後に行われた。測定結果は、それぞれのミッションの飛行時間も異なるため若干のデーターのばらつきを認めた。得られたデータのなかで、確実に認めた傾向は以下のごとくである。微少重力によって、骨カルシウム代謝が影響を受けることが、ほぼ明らかとなった。骨塩量は、踵骨腰椎などの荷重骨でより減少傾向を示し、その影響は尿中への漏出という形で腎臓に影響をおよぼす。この機序の詳細は不明であるが副甲状腺の血清カルシウム値の変動に対する反応性の低下が関与している可能性が示唆された。微少重力の影響は、骨組織に対して、骨形成の低下と骨吸収の促進という形で現れることが予測され、この結果として骨塩量が減少する可能性が示唆される。微少重力の骨カルシウム代謝への影響については今後さらなる検討が必要である。
著者
豊澤 英子 中野 重行 小手川 喜美子
出版者
大分医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

研究目的:本研究は、老年者の服薬コンプライアンス(遵守)に関与する要因の分析およびノンコンプライアンス患者への看護介入の効果について明らかにすることを目的とした。研究方法:通院治療中の老人患者(65歳以上)および成人患者(64歳以下)のうち、研究の目的と方法について説明し、同意を得ることができた患者を対象として面接調査を行い、服薬コンプライアンスに影響する要因を検討した。また、ノンコンプライアンス行動を示した患者の追跡調査を行うことにより、服薬コンプライアンスの改善を目的とした看護介入の有用性を明らかにした。統計解析は、X^2test、t-test、Mann-Whitney U-testおよびKruskal-Wallis testを用いた。研究結果および考察:1.調査対象者は老人101名と成人105名の計206名であった。老人は成人に比し、複数処方の実際を担当医師に報告する割合が高かった(各々 p<0.01,p<0.05)。老人は成人より服用薬剤の種類は多いが、自己評価による服薬遵守は良好であった(p<0.01)。また、飲み忘れも少なかった(p<0.001)。老年者・若年者ともに、治療期間が5年以下の者あるいは治療効果有りと判断した者では、自己申告によるコンプライアンスは良好であつた(各々p<0.05)。2.ノンコンプライアンス行動を示した患者10名を6カ月間追跡調査した結果、定期的に面接し、服薬指導および健康問題の解決に関する話し合いをもった患者では、服薬コンプライアンスが改善した。看護ケアプランに基づく看護介入が有効であることが示唆された。結語:老人は成人に比し、服薬に対する関心が高く、望ましい服薬行動を取っていた。また、両者ともに、治療期間、治療効果に関する患者の認識および薬物治療への不安が服薬コンプライアンスに影響しており、ケアプランに基づく看護介入がそれらの改善に有効であった。
著者
天野 克也
出版者
武蔵工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1.住宅地街路からみたマント空間の評価構造は、居住者は『開放感』『安心感』『親近感』、大学生は『安心感』『視線感』『親近感』、中学生は『親近感』『開放感』『安心感』の3因子構造で説明できること、中学生は、実質的には『親近感』の1軸構造であり、空間を自分にとって親しみを感じる空間か、感じない空間かという1つの観点から評価していること、『視線感』は大学生特有にみられる因子であり、来街者としての大学生は、画像から空間情報を認識して判断しているが、中学生は、空間情報だけでは他者の視線を意識できないこと、一方、居住者は、自分が住んでいる住宅地では、住まいの内からの視線を安心・安全の意識と結びつけて捉えていることを明らかにし、居住者、大学生、中学生ともに犯罪発生の多い地区は『親近感』の低い地区であり、親近感のある空間形成が防犯の面から重要であることを示した。2.敷地が街路に対して閉鎖的なまちは、まち全体として閉鎖的な傾向にあること、居住者は住まいを閉鎖的にして、防犯上安心であると評価する傾向がみられること、マント空間が閉鎖的になるほど犯罪発生は増加する傾向があることを明らかにし、程よく開かれたまち、即ち街路側、隣地側の閉鎖度が低く街路に対して居間の窓が面しているような住まいによって構成されるまちは犯罪者に狙われにくいことを示した。3.5つの住まいの工夫、即ち、(1)住まいと街路間の見通しを確保すること、(2)居間・食事室などの団簗の部屋と街路間で双方の気配を感じられるようにすること、(3)隣地間の見通しを確保すること、(4)住まいの駐車場を街路に対して閉鎖的にしないこと、(5)前庭の意匠を工夫して自分の敷地であることを明確にすること、はいずれも重要で取り入れてもよいと居住者に評価されたこと、街路に対する閉鎖度は30%のものが最も多く支持され、住まいのプライバシーおよび街路への開放性をそれぞれある程度確保し、しかも居住者に受け入れられる閉鎖度は30%程度であるといえること等を明らかにし、防犯環境設計の原則に加え、美しい町にすること、またその状態を維持することが重要であることを指摘した。
著者
筒井 美紀 本田 由紀 阿部 真大 櫻井 純理 櫻井 純理 堀 有喜衣 居郷 至伸 御旅屋 達 伊藤 秀樹 福田 詩織 田近 恵子 喜始 照宣 小柏 円
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

地方分権化は就労支援政策においても進められているが、その理念と実践は労働法制・行政組織法と矛盾しており自治体と支援機関は構造的ジレンマを強いられている。しかし関係者はその相対的自立性によって、法やルールの柔軟な解釈や資源の転用戦略を駆使するとともに、社会本体の変革意識を有している。とはいえ労働市場に関しては、進んでいない。変革的ビジョンを解釈する文化的資源の不足が、政治的迷走を引き起こしている。
著者
水野 惠司 元村 直靖
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1)一般に普及する29の安全地図事例を収集し、その特徴を分析した。主に学校単位で保護者や生徒により作成される安全地図は、犯罪や交通事故の危険想定箇所について原因や周辺環境についての説明がある。主に警察で作成される安全地図は、府県単位の範囲の、犯罪や交通事故の正確な発生箇所と内容を示すが、原因や環境については説明されない。前者は保護者や生徒が犯罪事故を地図化し原因や環境を考える中で、防犯防事故技能の向上が期待できるが、情報が主観的で経験的であること、地図の範囲が狭く、視野が限定される特徴がある。後者は広い範囲の客観的情報を広範囲に伝えることができるが、原因と周辺環境の説明を欠くために、地図の具体的活用方法に不十分さがある。2)安全地図に対する保繊者の意見を参考に、計二版の安全地図が作成された。さらに、小学3年社会科授業においての授業が行われ、そこで、安全地図に描かれた不審者の分布、子ども110番の家分布図が利用された。3)大阪北部、兵庫県東部の11市区町を対象に、犯罪と交通事故の空間分析を行った結果、犯罪と交通事故は、地域内の複数箇所に集中するが,その分布は大人と異なる場合が多い。中学校校区単位での子ども人口と犯罪・交通事故件数とは正の相関がある一方で、校区間には有意な発生率の差異が見られ、校区内に発生地点の粗密が見られた。道路や土地利用図との重ね合わせ分析の結果、犯罪の場合、住宅地域特に中高層住宅に多く発生する。また商業地の周辺地域や商業地と住宅地との混在地域に発生が多くなる。このような場所は、通行量の多い場所から、少し住宅地内に入り、人の監視が少なくなる場所に相当する。交通事故の場合、幹線道路上とその近辺に大半が分布する。また住宅地と商業地に多く発生している。子どもの行動が地域の経済社会活動と関連し、交通事故の集中する場所となっていることを示している。
著者
山岡 泰造 松浦 清 並木 誠士 中谷 伸生 張 洋一 井渓 明
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

これまで積極的に評価がなされず、研究の余地を大いに残している大坂画壇の絵画について調査研究を行った。主として関西大学図書館所蔵の絵画作品約550点を調査し、それらの写真撮影、法量などのデータ整理、関連文献の収集を行った。また、大阪市立博物館、堺市立博物館、大阪市立近代美術館(仮称)の所蔵作品約200点を調査し、それぞれのデータをカード化した。さらに、大阪、京都を中心にして、美術商及び個人所蔵の約100点を同じくカード化した。加えて、京都工芸繊維大学他、各研究機関所蔵の文献資料を調査し、重要な文献を複製等を通じて収集した。これらの調査は、主として大坂画壇の中でも最も重要な位置にいた木村蒹葭堂と、その周辺で活動した画家たちを中心に進められた。たとえば、愛石、上田耕夫、上田公長、岡田半江、葛蛇玉、佐藤保大、少林、墨江武禅、月岡雪斎、中井藍江、中村芳中、長山孔寅、西山芳園、耳鳥斎、浜田杏堂、日根野対山、森一鳳、森二鳳、森徹山らである。調査研究の結果、これまで生没年すら不明であった画家たちの生涯や活動歴及び作風と所属流派などがかなり明らかになり、大坂画壇研究の基礎研究として大きな成果があった。つまり、大坂の狩野派、四条派、円山派、文人画派、風俗両派(及び浮世絵派)、戯画などの系統が整理され、基礎資料の蓄積がなされた。今回の調査研究によって、大坂画壇研究の基礎研究が充実し、研究上の新局面を切り開くことができたと自負している。
著者
木村 泉
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

「練習の巾乗法則」は広く知られ信じられているが、実験データに当てはめてみると、案外よく合わないことが多い。この法則の基本形は「両対数方眼紙の横軸に練習回数を、縦軸に毎回の作業時間を取ってグラフを描けば直線になる」というものであるが、その「直線」というところに留保がつく。直線的であるはずのグラフが両端ではしばしば平坦になっているように見える。Seibel(1964)およびNewell & Rosenbloom(1981)は、その平坦化の成因を「初期学習」および「人の能力の限界」に求めている。そのような留保がつくことは、法則の予測能力をそぐとともに、背後のメカニズムを読み取ることへの障害になっている。「なぜそうなのか」という疑問から出発して、報告者は過去7年半にわたり、主として折り紙(実験参加者延べ13名、ほかにあやとり、組木パズル)を題材とする長期的練習実験を実施してきた。その結果今回の補助金受給期間(平成12〜14年度)においては次のことが判明した。1.得た練習曲線はいずれも実験参加者に、好調と不調の波として認識される波動を含む。従来の「初期学習」および「人の能力の限界」に基づく当てはめは、波動の両端を平坦化部分と誤認した可能性がある。2.過去の研究が主にデータの平均的推移を論じていたのを改め、画期的新記録(一定の定義のもとに「見晴らし台」と呼ぶ)の推移に着目した。従来方式の当てはめがとかくデータの一部に過敏に反応して不安定に変化し、信頼しがたい結果を生じていたのに対し、この方法によれば常に個々の実験データの特徴をよく反映した要約データが得られる。3.練習曲線上で、各試行の所要時間が、見晴らし台をつなぐ線(見晴らし線)の何倍に当たる高さにあるかを調べ、その倍数をグラフに描くと、顕著で規則的な波動が現われる。この波動は、参加者に共通の「好・不調」のパターンを示している可能性がある。