著者
福田 哲也
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

慢性リンパ性白血病(CLL)患者に対し、自己の白血病細胞に、生体外でアデノウイルスベクターを用いてCD154遺伝子を導入し、生体内に注入するという遺伝子免疫療法がカリフォルニア大学サンディエゴ校にて施行された。この患者6人の治療後の血清について検討すると、治療前には明らかでなかったアデノウイルスに対する抗体産生が5人に、白血病細胞表面分子に対する抗体産生が、3人に認められた。詳細な検討により、この抗体の中に、受容体型チロシンキナーゼであるROR1に対する抗体が含まれていることが明らかとなった。ROR1に対する抗体を作製して検討したところ、ROR1は健常人の末梢血細胞中にはその発現は認められず、CLL細胞に特異的に発現することが確認された。ROR1には細胞外領域にWntファミリーメンバーと結合しうるCRD領域が存在するが、293細胞を用いて、各種レポーター遺伝子を導入することにより、ROR1と非典型的WntファミリーのWnt5aを共遺伝子導入するとNF-κBの活性化が起こることが明らかとなった。Recombinant蛋白を用いてROR1とWnt5aの結合はin vitroにおいて確認された。このWnt5aとROR1の結合はCLL細胞のin vitroにおける生存率を増加させる事が明らかとなった。この生存率増加は治療後の患者血清を添加すると抑えられ、患者体内でROR1のブロッキング抗体が産生されたことにより、治療効果が得られたと考えられた。
著者
永盛 克也
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

17世紀の劇作家ラシーヌは少年期に受けた人文主義教育を通してセネカに体現されるストア主義に親しんだと考えられる。その悲劇作品において情念の抑制の困難あるいは不可能性を強調する点で、ラシーヌは同時代のストア主義批判の潮流に与しているといえるが、その一方で登場人物に付与されるきわめて反省的な自意識はセネカ悲劇の主人公のそれに比すべきものである。ラシーヌによるセネカの受容は意識的かつ批判的なものだったといえる。
著者
趙 宏偉
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

平成16年度〜17年度、中国の北京、上海、天津等都市、ロシアのモスクワ、台湾に学術調査や研究会とシンポジウムの参加に赴き、日本では合計11回の研究会のほかに、日本現代中国学会、アジア政経学会、中国研究所、環日本海研究所、日本対外文化協会、及び愛知大学と早稲田大学のCOEプロジェクト等が主催した研究集会で発表や講演を行った。そして日本現代中国学会誌等に論文を発表した。中華人民共和国は、その成立してからほぼ1990年代の半ばまで旧ソ連と短期間の同盟関係を持っていた以外、非同盟を貫いていた。これを「中国式孤立主義」と呼ぶ。1994年9月、江沢民党総書記は最高実力者〓小平から全権力の譲渡を受けてから、外交戦略を集団安保主義へと根底から転換しはじめた。96年4月に江沢民の主導で創設された第1号の集団安保組織として「上海ファイブ」が結成された。それから江沢民政権は「新安全観」(97年4月)として総括された外交理念を掲げ、中国の北では「上海ファイブ」を「上海協力機構」に発展させ、南ではアセアンとのFTA体制を進みながらそれを梃子に全面協力体制を作り、北東アジアでは北朝鮮核問題を課題に6カ国協議の開催に努力しながら北東アジア安保体制の将来像を模索した。江沢民は米中関係の安定化を図りながら、周辺地域で集団安保外交を推し進めていた。2002年12月から、江沢民の後を受けた胡錦涛は、江沢民外交を継承しながら守りから攻めへと集団安保外交を強めていった。胡錦涛は中国の「平和的台頭」、それによる「国際関係の多極化」を外交戦略の目標としている。(1)03年から、中ロ印協調体制の構築を取り組んでいる。3カ国外相会議は年2回に定例化され05年まですでに5回もの開かれた。3カ国協調で東ユーラシア大陸集団安保体制を結成し、アメリカとEUに相対する第3の極の構築を目指している。(2)上海協力機構の強化と拡大を図っている。05年にインド、パキスタン、イランを新規オブザーバーとして受け入れた。(3)中国とアセアンを軸として東アジア首脳会議を主導することを図っている。中ロ印は上海協力機構と東アジア首脳会議の両方に加わるが、両組織ともアメリカを除外するものである。(4)胡錦涛中国は北東アジアにおいて北朝鮮核問題を取り扱う6力国協議を主導し、そして05年に「北朝鮮大開発」に乗り出した。米中は「利害相関責任者」(筆者訳)として将来6カ国による北東アジア安保体制の構築に合意し、また「台湾問題」と「日本問題」(歴史問題と領土領海問題)を米中共同管理とすることになっている。
著者
山崎 一夫
出版者
大阪市立環境科学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

紅葉の色彩は植食性昆虫に対する警告信号であるとする仮説と、秋に好蟻性アブラムシを誘引し翌春にアリによって木を植食性昆虫から守ってもらう機能があるとする仮説を、野外調査で検証した。4 地点3 樹種の調査から2 仮説が支持されることはなかったが、紅葉が虫に対する抵抗性と相関をもつ例があった。また、150 種以上の植物で新葉と古葉の色彩を比較したところ、春の新葉と秋の古葉の色が異なるケースが多く認められ、春と秋で葉色に対する選択圧が異なることが示唆された。
著者
正木 忠彦 石丸 悟正 富永 治 山形 誠一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

目的大腸癌に見られる遺伝子変化の中で18番長腕の染色体の欠失が大腸癌の進展の中で、どのような意義があり、また臨床上応用されうるかを検討しるものである。材料と方法手術より得られた大腸癌原発巣80例で検討した。標本は-80℃で保存し、proteinase-K及びフェノール/クロロフォルム症例によりDNAを抽出した。18番長腕の染色体の欠失は、DCC内のマイクロサテライトの多型性を利用し、polymerase chain reaction (PCR)法を用いLOHを判定した。結果遠隔転移による死亡はDCCのLOHが見られないものでは、3/15 (20%)、LOHのみられるものでは13/31(42%)であった。術後生存期間をDCCのLOHで検討してみると、単変量解析では、有意差が出なかったが、有意に生存に関与していたDukes分離と(p=0,019)組織型(p=0.002)を考慮に入れた多変量解析をおこなったところ、DCCのLOHのある症例は、術後生存期間が短いという傾向が出た。(p=0.056)結論ガン抑制遺伝子であるDCCの存在する第18番染色体長腕の欠失は、大腸がん患者において予後に相関し、有用な臨床マーカーとなりうる可能性が示唆された。
著者
橋本 伸哉 谷 幸則
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

微生物によるハロカーボンの生成量および生成機構に関する知見を得ることを目的とした。微生物の培養液等の粘性の高い試料中のハロカーボンを高感度に分析するために、ダイナミックヘッドスペース法(DHS法)による分析条件を検討した。標準溶液をDHS-ガスクロマトグラフ質量分析装置で測定した結果、pmol L^<-1>~nmol L^<-1>の間で直線性がみられ、再現性も良好であった。本分析法をバクテリア培養液の測定に適用し、バクテリアによるクロロメタン、ブロモメタンの生成を初めて明らかにした。
著者
宮原 哲浩 内田 智之 久保山 哲二 廣渡 栄寿
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

知識発見と情報融合を実現するため,半構造データからのデータマイニングと機械学習について研究した.厳密には定義されていない構造を持つデータを半構造データという.主に,半構造データとして木構造で表される糖鎖データを対象とし,その構造的特徴を表す木構造パターンを獲得する機械学習手法を提案した.手法として,木構造などの構造的表現を扱うことのできる進化的最適解探索手法である遺伝的プログラミングを用いた.
著者
芦田 実 片平 克弘 吉田 俊久
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

教育学部および学外のサーバーからインターネットに公開したホームページを下記の様に充実させた.H15年度(2月下旬まで)に47件(29名),H14年度に21件(12名)の質問があった.必要に応じて日常生活に例えて,できる限り速やかに平易な言葉で回答(e-mail)し,質問の回答も公開した(ホームページ).質問内容としては,光の吸収と反射(色と光),溶解現象と溶解度(沈殿と溶解度積),電子殻・電子式(化学結合と分子の形),イオン化エネルギー(電子親和力),化学式(分子と結晶水),イオンと酸-塩基の中和(濃度とpHの計算),酸化・還元(電極電位と電池),気体,沸騰現象・沸騰石と蒸気,溶液の調製や再結晶などの小学校〜高校程度の素朴な疑問が多い.他に,局部電池など高校までの知識では説明できない現象,大学の講義や実験のレポートに関すると思われる質問もあった.質問箱とは別に,化学の考え方や現象を分かりやすく解説する目的で,クイズ形式の化学Q&A集を自作している.以前に制作したものを改良し,さらに項目を追加した.その他,水溶液の濃度計算と調製方法(食塩水,塩酸,酢酸水溶液,アンモニア水,水酸化ナトリウム水溶液),Excel形式とJava Applet形式の計算・作図(直線の回帰分析,表形式,CSV形式),酸-塩基滴定のシミュレーションに関する自動サービスを試行的に開始した(ダウンロード可能).教育実習を含めた学校の授業(実験の準備,実験中のデータチェック,実験後の整理,予習・復習)や自由研究など種々の目的で使用できよう.なお,インターネット上の雑誌「化学教育ジャーナル(CEJ)」や日本コンピュータ化学会年会などで成果の一部を発表した.
著者
諸田 龍美
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

中国の中唐時代を代表する詩人白居易は、恋愛詩の傑作「長恨歌」によって広く知られており、平安朝を中心とする日本文学にも多大な影響を及ぼしたが、そうした本質的な影響関係が成り立ち得た背景には、「風流・多情・好色」の美意識を基軸とした、両国の<文化における共通性・同質性>が存在したことを、多様な資料および論拠によって明らかにした。
著者
寺尾 保
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、肥満者を対象に、低圧環境下の歩行運動に対する運動終了後のエネルギー消費量(実験1)、さらに、12週間のトレーニング期間で歩行運動を週3回の頻度で、1回が高地(低圧低酸素環境)、残り2回が平地(常圧環境、走者応答型トレッドミル使用)の併用によるトレーニングの有効性(実験2)等を検討した。その結果、実験1では、1.低圧環境下の運動終了30分、60分後のエネルギー消費量は、常圧環境後の値に比べて,有意な高値を示した(p<0.05)。2.翌朝の安静時代謝量は、低圧環境後の方が非運動時の値に比べて、有意な増加を示した(p<0.01)。安静時の脂肪からのエネルギー消費量は、低圧環境後の方が常圧環境後に比較して、有意な増加を示した(p<0.01)。実験2では、1.トレーニング前後の体重は、実験群と対照群(週3回、常圧環境下の歩行運動)とも、有意な低下を示した(p<0.01、p<0.05)。トレーニング前後の平均値の差では、実験群が対照群に比して、大きな傾向を示した。2.体脂肪量は、両群とも有意な低下を示した(p<0.05)が、平均値の差では実験群が対照群に比して、大きな傾向を示した。3.トレーニング前後の安静時代謝量は、実験群が有意な増加を示した(p<0.05)。4.安静時の脂肪からのエネルギー消費量は、両群とも有意な増加を示した(p<0.01、p<0.05)が平均値の差では、実験群が対照群に比べて、大きな傾向を示した。以上、本研究の成績から、低圧環境下の歩行運動は、運動後、長時間にわたって脂質代謝を亢進させ、エネルギー消費量を高める可能性のあること、さらに、トレーニング頻度を週3回とした場合、1回の高地と2回の平地による併用の歩行運動が単に平地の歩行運動に比べて、長期間、継続することで安静時代謝量の亢進と脂質代謝の改善が行われ、より効果的な減量ができる可能性のあることが示唆された。これらの観点からも本トレーニングシステムは、肥満の有効な運動療法の1つになると考えられる。
著者
森 祐一
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.遺伝性TBG増多症の7家系(日本人3家系、白人4家系)と、男児のみにTBG増多症を認めた日本人1家系において、TBG遺伝子量をDuplex PCR・HPLC法により定量した。TBG増多を示した患者全てに、TBG遺伝子の増幅を認めた。3倍増幅を5家系に、2倍増幅をde novoの症例を含め3家系に認めた。患者の血中TBG値は遺伝子量に対応していた。解析した8家系全てに遺伝子増幅を認めたことから、これが家族性TBG増多症の主要な機序であることが判明した。2.染色体のFISHを日本人4家系と白人1家系で行い、それぞれ1家系でDuplex PCR・HPLC法と合致するTBG遺伝子の3倍増幅が確認された。残りの3家系で確認できなかったが、これらにおいて増幅単位が小さいためと考えられた。3.家族性TBG増多症の日本人4家系で、12種類の制限酵素を用いてサザンブロット解析を行った。全てでRFLPを認めず、制限酵素によるDNA断片がカバーする52Kbp内に増幅の段端点の存在しないことが示された。4.日本人のTBG完全欠損症(CD)あるいは減少症(PD)を呈する50家系で、Allele Specific Amplification法による遺伝子スクリーニングを施行した。44家系がCDJの変異(コドン352の1塩基欠失)、残りの6家系がPDJ(コドン363の1塩基置換)であり、両遺伝子変異が日本人の祖先に生じ広く浸透したものと考えられた。5.CDJ10家系、PDJI家系で、X染色体の不活化パターンを解析し、CDJ、PDJのヘテロ女性各1名が選択的不活化を呈していた。両患者では、正常のTBG遺伝子が不活化されCDJ、PDJのみ発現したため、男性患者と同じTBG値を示たものと解釈された。
著者
石井 明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

中ソ関係のソ連側資料はソ連邦崩壊後、ある程度使えるようになった。さらに中国側資料を含め、中ソ間で1950年代、中ソ指導者間に生まれた認識のズレから、次第に相互不信がエスカレートしていく構造が出来上がっていく過程についての研究を深めた。中ソ対決は1969年3月、中ソ国境を流れるウスリ-江の川中島の珍宝島(ロシア語名、ダマンスキー島)で両国国境守備軍が戦った珍宝島事件でピークを迎える。この事件についても、両軍指揮官の回想を入手し、検討した上で、中国黒龍省虎林県の現地を訪れて、事件の真相を探った。珍宝島の対岸に位置する「209高地」(事件の際、ソ連側から砲撃を受けた。高さが209メートルなので、このように呼ばれている)に登って、考察した。事件は1969年3月3日と15日の2回の大きな衝突からなるが、第1回衝突は中国側優勢、第2回衝突は、敗勢を挽回しようと戦車まで動員したソ連側が優勢であったことが、裏付けられたと言ってよい。また、珍宝島が川の主要航路の中国側に位置していることも確認できた。なお、中ソ関係はその後、中ソ西部国境でも衝突が起き、対決状況が続く。中ソ冷戦と称される時期を経て、両国は関係改善に向けて瀬踏みを続けるが、両国間の見解の食い違いは調整がむつかしく、両国関係が正常化したのは1989年のゴルバチョブ書記長の訪中を持たねばならなかった。今後もこの分野の研究を進めて、中ソ対決の構造の全面的な研究を進めていきたい、と考えている。
著者
宮下 志朗
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

19世紀フランス文学において「読書の文化史」の研究が立ち後れていることを実感して、16世紀研究者でありながら、あえて19世紀の読書空間の探索に乗りだしてみた。この間、平成12年度〜14年度の基盤研究(C)(2)「19世紀フランスにおける、著作権・印税システムと作家の関係について」(課題番号12610521)に続き、合計7年間を、19世紀読書空間の研究に捧げた。その成果を、前回のもの([]に入れた)と合わせて、箇条書きにしておきたい。・[パリでのシンポジウムでの発表を共著として公刊したこと(2001年、パリ)。]・[『書物史のために』(晶文社、2002年)を刊行したこと]・自著『本の都市リヨン』が韓国語に翻訳されたこと(2004年、ハンギル社)。・19世紀のパリで、読書クラブ・書店・新聞発行元として、英語話者を中心にヨーロッパ中に顧客を擁した、Galignani書店の資料類の調査をおこない、放送大学大学院の「地域文化研究III--ヨーロッパの歴史と文化」(第13回「近代読者の成立」)で具体的に紹介したこと。・「フランス的書物の周辺」と題する連載をおこなったこと(NHKテレビフランス語講座のテクスト)。・研究の実践態として、《ゾラ・セレクション》全11巻(藤原書店)の刊行を、小倉孝誠慶応大学教授とともに実現させたこと(『美術論集』『書簡集』が未刊)。・バルザックに関しても、今回の成果を生かし、短篇を翻訳中であること(光文社古典新訳文庫)。・本研究の総括として、「19世紀の読書の文化史」という主題で、単行本を執筆中であること(刀水書房)。
著者
朝田 衞
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

有理数体に1のべき根をすべて添加して得られる代数体をKとする。 ガロア群が可解でないKの不分岐ガロア拡大についての以前の結果を強めることができた。結果は次の通りである。pを5以上の素数とするとき、Kの不分岐ガロア拡大体でそのガロア群がSL2(Zp) の可算個の直積と同型となるものが存在する。
著者
林部 敬吉 雨宮 正彦 中谷 広正
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、日本の伝統工芸技能の伝承方式を、楽器製造、鋳型成型、板金成型、印刷産業などの諸工業での世代間継承に生かすための方策について研究した。「わざ」の伝承には、習熟者と伝承者との間で暗黙知から暗黙知、暗黙知から形式知、形式知から形式知への交換と循環があり、暗黙知-暗黙知過程での継承者が作成した「継承ノート」、暗黙知から形式知過程で熟練者が作成した「伝承ノート」が継承と-伝承を効果的に媒介していた。本研究では、これらの「伝承ノート」と「継承ノート」を電子化した「伝承-継承WEBNOTE」を試作し、継承者と伝承者の間をつなぎ「わざ」の交流の場として知識を共有できる機能を持たせた。ここでは、技能を図解し、その要点を記すと共に、熟練者は継承者にコメントを、継承者は熟練者に質問することが可能である。このWEBNOTEでは、伝承-継承過程を記録・保存し、また誰でも他者が修練を積む過程を参照できる。
著者
伊藤 詔子
出版者
松山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究「文学批評理論としてのエコクリティシズム確立にむけての研究」2年目では、1年目のソローを中心とする研究から、1)エコクリティシズムの批評そのものの現状を分析し、2)環境文学の始まりとなったレイチェル・カーソンの『沈黙の春』を中心に、汚染の言説と環境正義のレトリックの特質を考察し、3)『沈黙の春』以降の女性環境作家作品について、発展的な考察をした。3点についての具体的成果は以下であった。1)ロレンス・ビュエルによる最新のエコクリティシズム研究書Future of Environmental Criticismをエコクリティシズム研究会で研究し、5人で協力してその邦訳を、巻末書誌、環境批評用語解説とともに鶴見書店より2007年5月に出版した。序文と第1章、5章、あとがき、原稿取りまとめ、監修を伊藤が担当した。また英語青年に「ビュエルエコクリティシズム三部作の完成に寄せて」と題して、エコクリティシズムの修正主義である第二波について概説した。2)アメリカ学会・学会誌の特集「自然と環境」に、「Silent Spring--Toxic Infernoを下って沈黙のジェンダー的ルーツを探る」と題する論文を寄稿し、エコクリティシズム第二派が焦点化する、汚染の言説と環境正義のテーマについて考察した。3)ソローとカーソン以降の女性環境作家について、阪大の人文COEプロジェクト「環境と文学」第三回フォーラムで講演し、その他二つの論文で調査研究の成果を発表した。(1)「ソローとホーガンのいきもの表象をめぐって」(日本ソロー学会『ヘンリー・ソロー研究論集』No.33(2)「『沈黙の春』とアポカリプス」ミネルヴァ書房名作シリーズ『カーソン』(2007年5月刊行)
著者
保谷 徹 箱石 大 山田 史子 横山 伊徳 小野 将
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究の成果は、第1に、下関戦争を主導した英国をはじめ、仏・米・蘭各国の動向を当時の国際関係の中で立体的に解明するさまざまな一次史料の発掘にある。本研究は「19世紀列強の陸・海軍省文書を中心とした在外日本関係史料の調査報告」(平成11-12年度科学研究費補助金基盤研究(B)-(2)、課題番号:11691006、研究代表者:保谷 徹)と連携させて遂行した。これまで十分に利用されてこなかった海軍省文書をはじめ、欧米各国の日本関係史料に幅広く目配りし、とくに英国の出先機関(駐日公使)と本国外務省、あるいは軍部(出先と本国)や政府首脳の動向に関して、多くの新たな史料と論点の解明をおこなった。第2に、戦争記録の発掘によって、列強側の軍事行動の具体的有様と、当時の日本および長州藩の軍事力に関するデータと列強側の評価を具体的に明らかにすることができた。第3に、かかる軍事記録に含まれた数々の画像史料の発掘も大きな成果である。本研究遂行の過程で収集した英仏海軍省文書などの欧文史料群あるいは長州藩毛利家の国内史料、作成した目録類は、東京大学史料編纂所に寄贈され、マイクロフィルムやデジタル画像のかたちで、同所において広く公開され研究に供される。
著者
奥田 敏広
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

欧米近代は合理主義と科学技術の時代と考えられがちであるが、中世伝説が時代遅れな過去の遺物として打ち捨てられていたわけではない。多くの芸術家が中世の英雄伝説や聖人伝説を素材として活用している。しかもそれは、通説となっているような、後ろ向きの復古主義的な目的でもなければ、偏狭な国粋主義的目的のためばかりではない。そこには、宗教や共同体からエロス的な「近代の愛」へという、換骨奪胎ともいうべき、変質には違いないがまた継続性も見られる関係が存在することを、中世に成立したタンホイザー伝説をめぐって具体的に明かにした。
著者
橋本 都子
出版者
千葉工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、オープンプラン小学校の教室環境を対象として、児童と教師の印象評価と音環境評価を明らかにすることで、今後の学校計画における知見を提供することを目的としている。結果より、教室のオープンプラン型小学校の教室の印象評価は、教師・児童ともにプラス側に評価していたが、教師の評価から児童の机まわりが狭いという指摘が多く見られた。児童の評価から教室環境に必要な要素として風通しのよさ、明るさ、適した室温などが指摘された。音響に配慮して設計された学校は、教室内の音響性能(計測値)は良くなるが、児童の評価として大きな高架は得られなかった。空間が開かれて視覚的に連続するオープンプラン型の教室の長所を生かしつつ、良好な音環境を維持する空間デザインの実現は、オープンプラン小学校の空間計画における今後の課題である。
著者
深澤 建次 花崎 泰雄 福岡 安則
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は,埼玉大学に在籍している留学生(院生,学部生,研究生)30名あまりを対象とする,生活史的な聞き取り調査に基づく事例研究である(オーストラリア,モナシュ大学に私費留学する日本人学生の間き取りも,補足として,掲載している).留学生ひとりひとりの想いを,できうるかぎり忠実に記述したい。彼・彼女は,日本に来る前,日本に来て,そして日本を去るに際して,なにを想い,なにに喜び悩んでいるのかを,彼ら自身の言葉で率直に語ってもらい,それを正確に記録したい.そして留学生活を通じて彼・彼女がどのように変わったのかを把握したい.留学生の日常的内面的世界を,時間の流れに即して,探求する,これがわれわれの,この研究の関心であり,目的である.録音機を使って,被調査者の母語による(補足的に日本語による),ひとり当たり,2時間あまりの間き取りを実施したのは,このためである。録音したテープを極力忠実に,文書化,邦訳し,再構成したものが,以下で紹介する各事例である.それゆえ,われわれは,予め特定のトビックあるいは問題に焦点を絞って,調査する方法をとらない.あるいは留学生に立ちはだかる日本社会の「壁」を摘出することを主限としていない。「壁」にぶつからない留学生の日常世界を,彼らがみるがままに,再現したいと考えたのである.