著者
阿部 豊 阿部 彩子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.南北一次元エネルギーバランスモデル(EBM)を用いた検討:拡散近似の南北一次元エネルギーバランスモデルを構築し、離心率と自転軸傾斜の影響を吟味した(1)気候レジームは年平均日射、最大日射、最小日射に複雑に依存まる。(2)離心率の増大で年平均日射が大きくなるため概して温暖化する。(3)一般に離心率の増大によって気候の多重状態は解消する。(4)近日点での一時的な暴走状態の発生が、平均的な気候状態や生物生存可能性に大きな影響を与える。(5)自転軸傾斜角、離心率、軌道長半径は一定のままでも、歳差運動(春分点と近日点の位置関係の変化)によって気候モードが変化する惑星が存在する。(6)年間の温度変化幅は傾斜角の大小と歳差運動によって大きく変わる2.大気大循環モデル(GCM)を用いた検討:地球大気用に気候システム研究センターと国立環境科学研究所で共同開発してきたCCSR/NIES AGCM 5.4gを使用して、理想的な惑星(現在の地球大気、地球サイズ)のモデルを作り、離心率を変化させる実験をすすめた。(1)定性的にはEBMを用いた結果と一致するが、やや寒冷化する傾向がある。(2)地面状態の違いによって、離心率が増大したときに暖かくなる場合と寒くなる場合がある。(3)降水分布の年変化は自転軸傾斜による直立・傾斜レジームと離心率による溜め込み・放出サイクルの合成されたものとして理解できる。3.生存可能性について:(1)熱容量が大きい場合、年平均日射が最も重要である。(2)歳差運動まで考慮すると、生存可能な緯度帯を持つ惑星の軌道は自転軸が少しでも傾くと離心率が小さい範囲に制限される
著者
赤尾 光昭 今中 常雄
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

申請者らは漢方方剤が経口服用されることに着目し、著明な配糖体成分の経口投与後のラット体内動態、薬効発現について検討を行ってきた。ポリフェノール配糖体であるバイカリンはユニークな動態を示し、特に腸管での代謝、排出がその動態に大きく関わっていた。現在、強力な抗酸化作用で注目されているポリフェノール類のバイオアベイラビリティーは極端に低く、in vivoでの効果には疑義がある。そこで、ポリフェノール類の動態に及ぼす消化管の寄与について検討することを目的としている。代表的ポリフェノールであるエピカテキン及びケルセチン、さらにlithospermate Bについて検討し、いずれも腸管から吸収されにくいことを明らかにした。特に、lithospermate Bはわずかに吸収されたものも速やかに肝臓でメチル化され胆汁中に排出されるため、血中にはほとんど検出されなかった。バイカリンのユニークな動態の腸管代謝として、配糖体であるバイカリンは腸管上皮細胞への取り込みも僅かであるが、アグリコンであるバイカレインは腸管上皮細胞には取り込まれる。しかし、取り込まれたバイカレインは速やかにバイカリンへと抱合され、血液側ではなく管空側へ排出されるため、やはり難吸収性であった。この腸管上皮細胞からのバイカリン排出は、自然発症MRP2欠損ラットEisai hyperbilirubinemic ratの空腸反転腸管において有意に低く、さらにバイカレイン経口投与後の本ラット血中バイカリンのAUC値が通常ラットより5倍高く、バイカリン排出にMRP2が関与することが示唆された。また、ヒト腸管薬物動態in vitroモデル系であるヒト結腸癌由来Caco-2細胞においても、バイカリンの取り込みはわずかであるが、バイカレインは速やかに取り込まれた。この際も、取り込まれたバイカレインは速やかにバイカリンへと抱合され、バイカリンは主に頂側膜側に排出された。その排出はMRP2選択的阻害剤で抑制され、Caco-2細胞においてもバイカリン排出にMRP2が関わっていることが明らかとなり、ヒト腸管においてもラット同様のユニークなバイカリン動態が推測された。ヒトにおいてもラット同様、ポリフェノール類の腸管における吸収、代謝、排出がバイオアベイラビリティーに大きく関わっていることが示唆された。
著者
仲地 博
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

全体像を示すものとして「沖縄自立構想の歴史的展開」を研究し、沖縄には自治の豊かな土壌があり、琉球王国、明治政府下の特別な扱い、米軍占領の歴史的背景の下で構想力豊かな自治自立の提言がなされてきたかを明らかにした。個別論点としては、「復帰」の意味を問うた「沖縄県の誕生」と故玉野井芳郎の提唱した「地域主義と沖縄自治憲章」について考察した。ヒヤリングは、島袋清徳(元伊江村長)、比嘉茂政(元琉球政府地方課係長、元恩納村長、元県副知事)、座喜味たけ好(元復帰準備委員会琉球政府代表補佐、元県副知事、元沖縄電力社長)に行った。
著者
新正 裕尚 折橋 裕二 安田 敦
出版者
東京経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

スラブ融解メルトとマントルかんらん岩の反応について理解を深めることを目的として,スラブ融解に関連すると考えられる高温の沈み込みがあった場所の火成岩の研究と,高温高圧実験による研究を行なった.そして以下のような成果があった.(1)マントル最上部に相当する1GPaの条件下でカンラン石とデイサイト質メルトとの反応実験を行なった.そして実験生成物の微量元素組成をレーザーアブレーションICP質量分析計(L、A・ICP・MS)を用いて測定した.50μm径を超える斜方輝石および単斜輝石を成長させることに成功し,斜方輝石および単斜輝石とデイサイト質メルト間の分配係数をおよそ25元素について決定した.斜方輝石については,軽希土類をはじめとする液相濃集元素の珪長質メルトに対する分配係数が苦鉄質メルトより大きいという従来指摘されていた組成依存性に反して,苦鉄質メルトと差がない分配係数を得た.(2)高温の四国海盆の沈み込みに関連した,西南日本弧の海溝寄り地域の中新世火成岩について研究を行なった.ザクロ石が安定な高圧下での融解により形成された珪長質火成岩が広域的に分布することを見出すとともに,海溝に近接した場所での大量のS-type花こう岩質マグマの成因について議論した.(3)南米アンデス弧の中でも,Chile Riseの沈み込む場所に近接する,Southern Volcanic Zoneの第四紀フロント火山の全岩化学組成の島弧伸長方向の変化傾向について研究を行い,火山弧下のスラブ年齢が古くなるにつれて,沈み込む堆積物由来成分のマグマソースへの寄与が大きくなることを明らかにした.(4)ジルコンをはじめとする鉱物のレーザーアブレーションICP質量分析法による微小領域分析について鉱物間の分配係数の決定や年代測定法について成果があった.
著者
田吹 亮一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究では琉球列島の浅海性の現生および化石貝形虫の殻に見られる捕食痕の形態の特徴と貝形虫種の生態との関連を明らかにするとともに、捕食痕を形成した捕食者の特定を試みた。具体的には、現生貝形虫として石西礁および瀬底島礁池からの貝形虫遺がいを、化石貝形虫として知念砂層(更新統)からの貝形虫化石を研究対象とした。捕食痕は貝形虫の殻の外表面から内側に貫通した穴で、その3次元的形態により、「パラボラ型」、「円筒型」、「不定形」に分けられる(但し、「不定形」は定まった形態を示さない捕食痕の集合体)。又、殻に捕食痕の見られる貝形虫は、生態的には、砂底種、泥底種、葉上種に分けられる。現生貝形虫では、葉上種に多く捕食痕が見られた。ボーリング痕であるパラボラ型、円筒型の捕食痕、さらには不定形(一部)のボーリング痕の形成者として、Naticidae、Muricidaeの肉食性巻貝が想定されているが(Maddocks,1998)、これら巻貝は砂泥底にのみ生息する事から、葉上種については、他にボーリング痕の形成者を探さなければならない。不定形の捕食痕の周辺の殻表面には、削り痕、引っ掻き傷、あるいは酸により溶かされた痕と見えるものが多い。このことから、不定形の捕食痕にはボーリング痕の他、(例えば、小型の十脚類などが)割ったり、突き刺したりした痕と考えられるものも含まれる。上記の選択的捕食者による3タイプの捕食痕とは別に、ナマコ等の非選択的捕食者の消化管内での溶解、又は無機的溶解の結果、貝形虫殻の一部に空いた穴も見られる。捕食痕を残した捕食者を特定するための飼育実験を水槽内で行ったが、残念ながら、捕食者の特定に至らなかった。今後の実験の課題として、飼育容器内の水質を良好に保つこと、捕食のための口器等を手掛かりに、捕食者候補を絞っていく必要があること等が挙げられる。
著者
柏木 敬子
出版者
千葉科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

細胞増殖因子ポリアミン(プトレスシン、スペルミジン、スペルミン)の輸送機構の解明とポリアミンによるNMDA受容体活性調節機構解明を目指し研究を行った。その結果、新たにスペルミジン排出系を同定し、ポリアミン取り込み系に関して活性に関わるアミノ酸残基を同定した。また、スペルミンにより活性調節を受けるNMDA受容体の調節領域(Rdomain)の性質を明らかにすると共に、チャネル領域のスペルミン調節部位を同定した。
著者
村上 俊之
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題では, 機械システムによる人の動作支援制御の体系化を1つの目的とし, 電動自転車のパワーアシスト制御を外乱の切り分けアルゴリズムにより実現した. ここでは, 自転車のステアリングアクチュエータによる姿勢安定化アシスト制御, 走行駆動アクチュエータによる走行負荷低減アシスト制御に関して提案を行い実験的検証を行った.
著者
秋山 智
出版者
広島国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、若年性神経難病患者の生活の質(QOL)の向上を目的としている。その指標として、個人の生活の質評価法-直接的重み付け法(SEIQoL-DW)を原則として年に一回ずつ50名に実施し、前年と比較して値の変動が大きいケースの原因を検討した。下降したケースと上昇したケースの主な原因を分析すると、共に"家族関係"の状況が値の変動に大きく影響していた。また、仕事や患者会等の"社会との接点"といった状況もQOLを上下させる重要なものであった。
著者
福田 道雄 木村 玄次郎
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

近年、1)慢性腎臓病(CKD)は早期であっても心血管病の危険因子であり、2)腎機能が正常な時期から腎機能低下につれて心血管病の危険度が増加する事(=心-腎連関)が判明し、CKDを早期診断・治療して心血管病を予防する事が世界規模の健康問題となった。私達名古屋市立大学心臓・腎高血圧内科学の研究グループは、24時間に亘る適切な血圧管理のために24時間血圧測定を日常診療に取り入れた結果、腎機能が低下するにっれて夜間血圧が低下しなくなるnon-dipper型の血圧日内リズムを呈し、かつ日中に比し夜間の尿中ナトリウム排泄量が多くなることを発見した(Kidney Intemational. 2004 Feb ; 65 (2) : 621-625)。この現象を「腎機能が低下すると日中に十分なナトリウムを排泄しきれなくなり、本来夜間に低下(dipper)する血圧を高いまま維持することで圧-利尿を発揮し夜間にナトリウムを排泄する」と解釈し、この考えを「non-dipperの腎性機序」として提唱してきた。さらに日中の活動時にナトリウム排泄が低下してしまう病態では臥位から立位に体位変化をするとナトリウム排泄が低下してしまうとの仮説を立て、本研究を立案・実施した。平成17~18年度は「non-dipperの腎性機序」を支持する研究成果を積み重ね、平成19年度は立位負荷時の尿中ナトリウム排泄低下が、血圧や尿中ナトリウム排泄のnon-dipper型日内リズムを検知し得ることを明らかとした。non-dipperや食塩感受性の基本には共通した腎におけるナトリウム排泄障害が存在し、それを立位負荷時のナトリウム排泄低下で診断し得る可能性が示された。non-dipperも食塩感受性も心血管イベントリスクである事は確立しており、立位負荷による腎予備能低下の診断はCKD早期における心血管イベントリスクのスクリーニングに有用である可能性が示唆され興味深く、今後さらなる検討を要する。本研究を支えて頂きました日本学術振興会様、国民の皆様に深謝致します。
著者
アリスター モンロー
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

エコ商品とは、環境上の利点を持った日用品のことである。たとえば、カーボン・ニュートラルな航空機による旅はエコ商品と言える。エコ商品の存在は、さらなる環境保護につながる可能性がある。しかし、価格のごく一部しか環境保護に充てられない例がしばしば見受けられ、これは、「グリーンウォッシュ(環境保護に努めているふりをしながら利益を貪ること)」と呼ばれるエコ商品特有の現象である。経済学的実験から、被験者にエコ商品を購入する機会を与えると、環境理念全体に対する貢献度の低下につながる可能性があることが判明した。被験者はエコ商品を買うことで、それ以外の環境理念に対する寄付をやめるのである。一方、環境理念に対する貢献を求められた時の道徳的ジレンマを回避するために、あえてお金を払う被験者もいる。要するに、エコ商品のために、環境理念に充てられる資金が減少し得るということである。
著者
長谷川 伸 八十島 崇 仲里 清
出版者
九州共立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では長期間にわたり投球動作を反復することが、肩関節の回旋腱板筋の筋量低下など量的変化や、筋断面積あたりの発揮筋力の低下など質的変化をもたらすかという点を明らかにすることを目的とした。棘上筋の筋断面積とその機能を表す外転筋力を測定し、固有筋力指数(単位断面積あたりの発揮筋力)を評価したところ、投球競技者の投球側と非投球側では筋断面積や固有筋力指数には差は見られず、投球動作を長期間継続することが投球側の回旋腱板筋において筋の量的、質的な低下をもたらすものではないことが示唆された。
著者
加藤 雄二
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の課題は、アメリカの作家と作品とおもに日本におけるそれら受容史を、歴史的経緯と現代における文学の理論的理解を考慮に入れながら議論することであった。初年度平成15年度にはアメリカ作家ハーマン・メルヴィルと日本における受容史に焦点をあて、日本の第二次世界大戦前後の文学的風土がきわめてつよくロマン主義を思考しており、反ロマン主義的な側面を強く持つメルヴィルの作品とは相容れない本来的な齟齬をきたしていた様を描写した。次年度には、メルヴィルについての研究でその重要性があきらかになった1970年代以降の日本でのアメリカ文学の受容に焦点をあて、作家村上春樹によるアメリカ作家スコット・フィッツジェラルドの影響の源としての利用が、日本におけるアメリカ文学受容の理論的に重要な側面を代表していることを示そうとつとめた。16年度の後半には、アメリカの現在のアメリカ文学研究のありかたをよりよく知ろうとつとめると同時に、日本の戦後のコンテクストにおいて最も重要であると思われるアメリカ作家ウィリアム・フォークナーの受容と研究を、日本の文学の展開と並行するかたちで議論しようとつとめた。これらの研究によって、戦後開始された日本におけるアメリカ文学研究の問題点がいくぶんか明確になり、今後の研究に資することが可能となっただろう。
著者
後藤 隆 村上 文司 村上 文司 松尾 浩一郎
出版者
日本社会事業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、ソーシャルワーカー、ケアワーカー、看護師、保健師など、対人援助(ヒューマンサービス)専門職専門知の特性が、関連専門知識、法規、状況判断、クライアントとのコミュニケーション、利用可能な社会資源等々、多様な情報のからんだ、複雑な対象/問題/対策像構成プロセスにあることを、そうしたプロセスを記録した非定型テキスト・データの一種である「物語状」質的データの計量テキスト分析を通じて明らかにする.具体的には、(1)学齢前障害児通園施設の援助記録の分析, (2)高等看護学校看護学生の看護実習記録の分析をおこなった.(1)では、関連テストによる状態像把握と処遇計画書の関連を、(2)では、看護行為擁護分類と看護学生の看護実習記録および看護研究との関連を、扱った.
著者
藤田 豊己
出版者
東北工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ロボットが作業のために手先を動作している画像を観察したときの人間の注視による関心領域を計測し,位置的類似度を用いて特性を検証した.その結果,対象とした動作においては,トップダウン的な処理が優位なScanpath(視線走査)が生じるがわかった.さらに,画像処理手法により関心領域を検出し,その妥当性をその特性結果を利用して評価した.その結果,ボトムアップ処理とトップダウン処理を表す特徴を統合することで有効な注視領域検出が可能となり,基本的な動作検出も可能となることを示した.
著者
堤 マサエ 大友 由紀子
出版者
山梨県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

親がどのように子どもの離家・独立・職業選択・結婚の援助をしているか、子どもはどのように認識しているかの実態を明らかにし、世代比較と国際比較の視点から分析した。その結果、若い世代ほど高学歴化し、親の子育て・教育費負担は重い。結婚が一人前の条件ではなくなり、人生における独立することの意味が変化してきた。農村家族は比較的安定した暮らしであるが、若者調査から就職難、親の生活困窮、祖父母の年金で孫の学費を援助するなど世代を超えた援助、奨学金で親子が暮す貧困の実態が新たな問題として出てきた。国際比較から、国際社会の動きに対応し、日本家族の文化や伝統を配慮した子育てとその支援の在り方の重要性が指摘できた。
著者
岡部 鐵男
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究では環境の変化に伴い企業競争が激しくなっている企業の組織編成に関してエージェンシー理論と取引費用理論の有効性について浮き彫りにし、理論的に明らかにした。これらの分析から次のようなことを解明した。(1)プリンシパルとエージェントの二層からなる内部組織において効率的な資源配分を行なうとき、強いインセンティブを与えられた組織ではエージェントの分権化や独立性が高まり組織の生産性も高まるが組織をコントロールするためのエージェンシー・コストや取引費用も高まる。エージェントを動機付けるための価格やボーナスと罰金、また割り当て等の採用による適切なインセンティブ・システムのデザインの仕方がある。シャーキングを避けるためモニタリング制度、インセンティブ・システム、内部監査により組織の非効率を避けることができる。(2)不完備契約によって取引費用が高くつくとき、企業は費用と便役のトレードオフを通じて、市場で取引することを止めて、統合した組織をつくり経済効率を上げようとする。所有権理論は機会主義的行動を抑制し取引費用を節約するので統合した組織をつくる論拠となる。組織のコーディネーション効率の観点からは取引費用とリスク・コスト、セットアップ・コストの和が最小になるところで組織の複雑性の程度が決められる。情報技術の発展は取引費用を節約するので組織の形態を変容させる。(3)取引費用理論とエージェンシー理論によってさまざまな組織構造を分析できる。活動の関連性と技術変化を考慮することによって戦略的に組織を選択できるし、取引費用と内部化を考慮することによって多様化の程度を決定できる。また内部化費用と時間を考慮することによって多国籍企業の組織構造を選択できる。市場と組織の中間に位置するネットワークにあっては取引費用の節約が効果的かつ効率的であるとき維持され、競争上の便役を得ることができる。
著者
笹島 芳雄
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

役員報酬が極めて高い要因はストック・オプションの普及、取締役会の内部委員会である報酬委員会の機能不全、役員報酬の世間相場情報の利用上での問題、外部コンサルタントの行動、国民の価値観などに根ざしている。高報酬の是正は、社内の報酬構造の見直し、世間相場水準の慣性、アメリカ国民の価値観との衝突などがあり容易ではない。他方、底辺労働者の賃金水準は低く、貧困水準すれすれの状況にあり「生活賃金運動」が活発である。また、公正な賃金の実現に向けて、同一価値労働同一賃金の法制化が推進されているが困難な状況にある。多くの企業で実質的には同一価値労働同一賃金が実現している。
著者
田中 敏光 杉江 昇
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

小学校低学年の児童を対象として,コンピュータ内の仮想空間における三次元造形教育を支援するため,バルーンアートを題材とした子供向けモデリングソフトの開発を行った.このシステムでは,細長い風船にねじる,曲げる,ひねるなどの操作を加えて形状を作成する.子供が理解しやすいように,主要な造形機能はその内容を図示した大型のアイコンで表示している.また,操作ごとに異なる効果音を出すことで,操作の識別を容易にし,かつ,作業に飽きが来ないように工夫している.風船モデリングを造形教育に使うには,作った形を評価してより良い形に導く仕組みが必要である.そこで,児童が作った作品をお手本と比較し,一定の値より差が大きければ修正を示す矢印を表示するモジュールを追加した.この指示に従うことで,作品をバランスのとれた形に整えることが出来る.作成した形状をアニメーション動作させるモジユールも追加した.児童が作った作品各部分の長さに応じてアニメーション用の形状と動作を修正することで,作品に対応したアニメーションを生成する.動作の種類は評価に連動して切り替えることができる.試用実験により,システムの使い方は5分程度の説明と数枚の図解で難なく理解できることが確認できた.また,アニメーションは好評で,動きを見るために形を何度も作り変える様子が観察された.しかし,造形操作で元に戻すことが難しい状況になると,困った挙句,始めから作り直す場面が見受けられた.そこで,undo/redo機能を追加し,任意の時点までモデリング作業を戻すことが出来るように改良した.undoバッファには作業開始からの全ての操作履歴を保存するので,これを利用して,お手本の作成過程をコマ送りで表示する機能も追加した.また,ウインドサイズを大きくし,不要な機能を削ることで,作業領域を約2倍に拡大した.これらの改良により,使い勝手が大幅に向上した.
著者
大谷 真忠 石井 まこと 阿部 誠 幸 光善 本谷 るり
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、大分市内の企業にたいして人事・雇用管理に関するアンケート調査を実施し、雇用・人事管理の今日的特徴を分析するとともに、企業の人事担当者に人事管理の課題について聞き取りを行なった。また、地域の就業構造の特色と変化について統計的な分析を行なった。さらに地域の老舗企業の地域性についてアンケート調査にもとづいた分析を行なった。これらの研究を通じて、とくに雇用・人事管理の面で、次のような最近の特徴が明らかになった。対象企業のなかで職能資格制度があるのは約半数にすぎず、人事評価を定期的に行っている企業も3分の1にとどまる。人事評価で重視されている点は、「能力」がもっとも多く、「業績、成果」、「仕事の姿勢」がそれに続いている。評価結果は主に昇給・賃金の決定、ボーナスの査定に用いられている。最近の人事考課制度の変化として「処遇格差を大きくした」「業績・成果ウェートを上げた」「数量目標を活用」「評価結果を本人に説明」の4項目に集中している。採用管理の面では30歳以上の中途採用が拡大しているが、規模の大きな企業では新卒採用が中心であり、中途採用は補完的な役割にとどまる。他方、リストラの方法としては「パート・アルバイトや派遣社員の積極的活用」が3割ともっとも高い比率を示すほか、「人員削減」を行った企業も多い。100人以上規模の企業は全体的に事業再構築に積極的である。賃金では、賃金テーブルを用いない企業が半数以上を占める一方、一般職の定昇制度は56.4%の企業にある。賃金を決める要素としては、ほぼ半数の企業が「職務遂行能力」で、「仕事上の業績」は4分の1である。人事管理の課題としては「中核的人材・即戦力の採用」が半数を占め、重視されている。地域企業も、基本的には人事管理の全国的な傾向と同じ動きを示しているが、小規模企業を中心として体系的・制度的な整備が遅れているということができる。
著者
相田 洋
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

『点石斎画報』は、上海で『申報』を発行していた申報館から刊行された絵入りの旬刊誌である。当時の中国は、上海を中心として文明開化の波に覆われ始めていたが、まだ地方では旧文化・旧社会が色濃く残存していた。そのため、この画報は、それら文明開化の過程や旧社会の様々な諸相を活写していて、中国社会史・民俗史研究にとって、格好の史料といえる。このように『点石斎画報』の史料的価値は高いが、日本の学界(中国でも同様)ではこれまでほとんど利用されてこなかった。それは、この画報の揃いは、日本に存在しなかったからである。1983年6月に、広東人民出版社から、全5帙・34冊が刊行され、ようやく渇望を充たす事ができるようになった。しかし、この広東人民出版社本は、「丁酉9秋重印」つまり、光緒23年(1897)秋の重刊本を定本にしており、原本ではない。原本との大きな違いは、刊行年月旬や号数が欠けていることである。この点は、時事問題も多数掲載されている画報としては、相当のマイナスである。そこで本研究では、東京大学東洋文化研究所や東洋文庫、東京都立図書館実藤文庫等に飛び飛びに所蔵されている原本を調査して、刊行時期を確かめ、広東人民出版社本を定本に、データーを盛り込んだ目録(稿)を作成して今後の研究の基礎固めをすることをめざした。これらの原本の調査の結果、意外にスムーズに10日おきに刊行さたことや、数々の広人本の閉じ誤りや目次の疎漏等を発見した。ただ、本目録はまだ不十分な点が多いので、より充実させて、公刊して幅広い利用に供したいと思う。