著者
冨岡 卓博
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、就学前幼児の描画での色使用の実態調査とその分析により、幼児における描画特性をとらえるとともに、色彩がもつ表現上の意味を明らかにすることにある。平成7年度8年度に受けた科学研究補助金によって、平成元年度より継続的に行ってきた調査のうち、平成3年度から平成8年度までののべ6年間で得たデータの整理をおこなった。その結果、美術教育においても感覚や性格、嗜好など測定する基礎的研究の可能性と妥当性を示すことができると再確信することができる情報を得ることができた。すなわち今年度は、6年間8学級グループ(年間延べ園児数で381名)のパス使用量測定のデータ整理をおこない、確たる規準値規準値を設定するための作業をし、年少(3歳児)、年中(4歳児)、年長(5歳児)の男児及び女児それぞれの規準値として扱う数値を得ることができた。調査対象の幼稚園が「園児自らが選ぶ活動」を軸としたカリキュラムで、描画することも含めて自由な活動からのデータである。ただ、こうした規準値設定の目的に対し、あらたに障碍となる問題として浮上したのが、測定対象のパスの消費しない、あるいはほんの僅かにとどまる子が予想以上に多い実態が示されたことである。そのため全体として、70%の多くを規準値対象児からはずさざるをえないと判断をした。こうした傾向の結果、各規準値の母数を目標としてきた100以上とすることができなかった。データ処理の上でも「描画活動をする子」の定義が課題となっている。また、規準値設定の対象園児とは別に、異なる教育カリキュラムの実践園を選び調査対象とした園児約50名について同様な調査方法をおこなって今年度末に3年間のデータを得た。今回、そのデータについてもさきに設定した規準値と直接比較研究ができることを確かめることができた。
著者
河原 正泰
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ブラウン管ファンネルガラスからの鉛の回収と無害化を目的として、還元溶融による金属鉛の回収と塩化揮発による鉛の除去について検討した。また、鉛を回収した残渣からの鉛の溶出性についても検討を加えた。その結果、ブラウン管ファンネルガラスの最適処理法を見出すことができた。
著者
GOUTAM Chakraborty
出版者
会津大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

研究の結果本年度では、前年度に引続き,柔らかい知的分散ネットワークに取り組み、次の研究を行ないました。(1)ユーザレベルプロトコルに基づいたマルチメディア通信のための柔らかいネットワークアーキテクチャ,(2)ユーザの要求に応じる柔らかいリソース・リザヴィーション・プロトコル,(3)ファジ-理論を用いたユーザの要求に反映する知的なメタレベルのインタフェース,(4)ユーザの要求の知的表現に適するプロトコルの合成法特に,前年度の研究結果を踏まえて,ユーザレベルプロトコルとそれに基づいたマルチメディア通信のための柔らかいネットワークアーキテクチャの提案それに基づくシステムの構成法,ファジ-論理に基づいた利用者の自然な要求を表現する形式的な方法などを改善したとともに,ユーザの自然要求をなるべく満たし,且つ,最小限にネットワーク資源を使用する資源のReservation方法とそれをサポートするネットワークルーチングアルゴリズムを開発しました。それを使用すれば,サービスの質(QoS)は、なるべく小さいコストで利用者の許容の範囲内で柔軟に保証することができる.それらの結果をまとめて、国際会議や論文誌に発表、掲載しました。その詳細は、別紙の論文リストを参照されたい。
著者
西平 直
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1、教育におけるスピリチュアリティの問題、あるいは、現代社会における青少年のスピリチュアリティの問題を、シュタイナー教育の調査を通して解明するという研究の趣旨は、聞き取り調査を手がかりとした理論研究の形で、最終報告集にまとめられた。(報告集、第一章)2、同校の卒業生に対する聞き取り調査を通し、彼らは、学校教育から影響を受けるのと同じだけ、(場合によってはそれ以上に)こうした学校にわが子を送る保護者の価値観・人生観から強い影響を受けることが明らかとなった。しかしながら、そうした保護者の価値観・人生観の解明のためには、スピリチュアリティの地平を理論的に整理する必要が生じ、最終報告集にその一部がまとめられた。(報告集、第二章)3、ハワイのホノルルシュタイナー学校、京都の京田辺シュタイナー学校など、定期的に参与観察を続ける中で、シュタイナー教育の本質を、日本古来の「芸道思想」との関連で整理する視点が明確になり、東洋思想の理論的研究を蓄積した。その成果もまた最終報告集にまとめられた。(報告集、第三章)4、とりわけ世阿弥の稽古論との関連が注目され、世阿弥の稽古をめぐる思想の解明が進められた。(報告集、第四章)5、総じて本研究は、卒業生への聞き取り調査を基盤としながら、そこで得られた知見を教育人間学的に解明するための理論構築の作業において、大きな成果を得た。
著者
向田 一郎 下村 義治
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

JMTR温度制御中性子照射を用いて10^<-2>〜10^<-1>dpaの照射量の範囲で詳細な実験が行われた。本研究では、さらに損傷欠陥形成の初期過程を調べるために、より低照射量(10^<-4>〜10^<-3>dpa)の温度制御中性子照射を京大原子炉で行い、その結果より純銅中の損傷欠陥形成過程を調べることを目的とする。試料は公称純度99.9999%の純銅を用いた。また、残留ガスの効果を調べるために超高真空中で熔解することによりガス除去を行った試料を同時に照射した。温度制御中性子照射は京大原子炉水圧輸送照射管において300℃にて行った。試料は放射線冷却の後、電解研磨を行い透過電子顕微鏡試料とした。純銅においては、電子顕微鏡観察の結果、転位周辺の格子間原子集合体の集合、微小なボイドおよび積層欠陥四面体(SFT)が観察された。照射量の増加に伴ってボイド・SFTの数密度は減少した。この数密度は未処理試料と残留ガス除去試料での差はない。また、ボイド・SFT共に照射量の増加にしたがって成長するがボイドの成長はSFTに比べて著しく大きかった。これらの結果より中性子照射中にボイドが移動して合体することにより成長すると考え、照射試料の焼鈍実験を行った。その結果、直径3nm程度のボイドは250℃で移動することがわかった。合計37個のボイドを観測し、その内8個のボイドが移動した。最大で23.9nm移動していた。また、移動方向はfccの[110]方向に近い方位に移動していた。焼鈍実験による結果を踏まえてさらにボイド動的挙動高温その場観察を行った。試料は加熱ステージに装填し、300および350℃においてその場観察を行った。純銅中に形成されたボイド(サイズ:3〜16nm)の観察を行った結果、10nm以下のボイドは300℃以上において移動することが確認された。ボイドが移動する際には円状に白く観察されるボイドが楕円状に変化して長手方向に一次元運動をして移動する。このコントラストの変化はボイド周辺の原子の構造緩和によると考えられる。さらに大きなボイド(サイズ:16nm)は楕円状の構造緩和は起こさないが、観察中に3つに分裂してそれぞれが移動できるサイズに変化することが観察された。これらの観察結果より、10nm以下のボイドは移動することが可能であり、照射中にボイドが移動・合体をすることによりボイド数密度の減少およびボイドサイズの増大が起きていると考えられる。
著者
中澤 隆雄 今井 富士夫 新西 成男
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

ポーラスコンクリートは,その特徴である多孔性によって種々の優れた特性を有している。吸音機能もその1つであり,近年では吸音機能に関する研究も次第に活発に行われてきており,本研究では,これまで道路交通騒音の低減が可能なポーラスコンクリートの開発を目的の1つとして,インピーダンス管による垂直入射吸音率のデータの収集や吸音壁の等価騒音レベル低減効果に関して,実験的な研究を行ってきている。ポーラスコンクリート壁を作製するにあたって用いた火山性軽量骨材のぼら,石灰石およびフェロニッケルスラグ(以下,FNSと記述)の3種類の骨材ならびに2種類の目標空隙率20%と30%が騒音低減効果に及ぼす影響を検討した。騒音低減効果の検討にあたっては,普通騒音計を用いて得られた100〜2000Hzの範囲の各1/3オクターブバンドの周波数の等価騒音レベルを用いている。また,壁供試体から抜き取った直径約100mmのコアに対して,インピーダンス管による垂直入射吸音率も測定し,吸音壁から得られた等価騒音レベルとの関連についても検討を加えている。得られた結果を要約すると以下のとおりである。(1)使用骨材別にみると,FNSを用いた壁の騒音低減効果が最も高くなった。これは粒径が他の骨材よりも小さいために空隙径が小さくなり,実際の空隙率も他の骨材の場合より低めになった影響と思われる。(2)FNSを用いた場合,特に1000HZ以上の周波数に対して,回折行路差の影響を上回る騒音低減が生じていることからも,FNSの吸音効果が高いといえる。(3)ぼらおよび石灰石を用いた壁の騒音低減効果がFNSほど大きくないのは,これらの壁の内部空隙を音が透過する影響によるものと考えられる。(4)ぼらおよび石灰石を用いた場合の垂直入射吸音率は,500Hz近傍で第1の吸音ピークが生じているが,この周波数域での壁の等価騒音レベルの低減量がそれほど大きくないことからも,壁内部の空隙を音が透過する影響があると考えられる。(5)同一骨材を使用した壁の空隙率の影響をみると,空隙率が小さい方が等価騒音レベルの減量は幾分大きくなる傾向が認められた。
著者
綾部 真一 青木 俊夫 明石 智義
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

植物成分の多様性に深く関わるシトクロムP450とトリテルペン環化酵素(OSC)の遺伝子/タンパク質構造と反応様式の関係,発現制御と生成物の生態生理機能,および分子進化を,ゲノム構造解析が進行中のマメ科モデル植物ミヤコグサを主な材料として研究した.ミヤコグサEST中のP450のカタログ化,一部の酵素機能の同定に続いて,イソフラボノイド骨格構築に関わるP450(IFS)の遺伝子構造を調べ,ミヤコグサゲノム中ではIFSが連続した生合成反応を担うO-メチル転移酵素遺伝子と並列して存在することを見出した.またマメ科に特徴的な共生窒素固定器官である根粒で強く発現するP450についてゲノムレベルで解析を行った.さらにIFSの遺伝子情報を基盤としたホモロジーモデリングと部位特異的変異導入によるタンパク質工学的な展開を試み,特異なアリール基転位反応における酵素活性部位のアミノ酸残基の役割を解明した.OSCに関しては,ミヤコグサの主要な酵素をほぼ網羅的に解析し,β-amyrin, lupeol, cycloartenol合成酵素を含む8種の遺伝子を見出した.また他植物の情報とあわせた分子系統解析により,植物トリテルペノイド骨格の多様性の進化要因が,特にβ-amyrin合成酵素群の変異によることが推定された.OSCの過剰発現・発現抑制形質転換ミヤコグサによる遺伝子機能の解析に着手するとともに,exon/intron構造の情報に基づくタンパク質工学的な手法によるOSC触媒機能の厳密な解析が可能になった.さらに生合成系の遺伝子発現と成分変動の全般的な関連付けに向け,ミヤコグサの種々の器官,細胞について成分プロファイルの解析を行った.これらの研究を通じて,特にP450とOSCのタンパク質構造と触媒機能の相関,および特徴的な植物二次代謝系の分子進化の機構に関して興味深い知見がもたらされた.
著者
今田 純雄
出版者
広島修道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

研究1では,簡便性・経済性を優先する食態度(簡便志向),食物および食卓状況から得られる快を希求する食態度(快希求),高塩分を含有する食物に対する嗜好(塩味嗜好),摂取抑制に特徴づけられる食行動(抑制的摂食),外発反応性に特徴づけられる食行動(外発的摂食),ストレスやつよい感情によって喚起される傾向をもつ食行動(情動的摂食),さらに主観的に知覚された心身の不調感(主観的健康障害)に注目し,それらの間になんらかの因果関係が存在するかどうかを検討した.主観的に知覚された心身の不調感(主観的健康障害)を従属変数側終末におき,共分散構造分析をおこない,仮のモデルを構築した.研究2では,研究1によって仮定されたモデルを,新しいサンプルを用いて,より詳細に検討した.研究1と異なる点は3点ある.第1に食物新奇性恐怖尺度を追加したことである.食物新奇性恐怖は,摂取する食物の範囲を狭くし,結果として栄養的に問題となる食行動を導く可能性がある.食行動と健康の関係を論じる場合に,欠かせない要因であるといえよう.第2は,データの処理を男女別に行った点である.食態度については,性差が顕著であり,今回のデータについても男女によりその構造が相当に異なった.第3は,主観的に知覚された心身の不調感(主観的健康障害尺度)を2因子構造のものとして処理した点である.これは本尺度が,「つかれ」を強調し,身体特定部位に限定的な症状に言及しない心理的疲労と,めまい,息ぎれなど身体的症状が比較的明瞭な身体的疲労との2因子構造をもつことが判明したためである.これらの変更点により,食行動と健康障害との関係は,より精緻に構造化され,食行動と健康障害との因果関係を指摘する結果を得た.研究3および研究4では,研究2でとりあげられた食物新奇性恐怖に関する実験調査をおこなった.研究5では,研究成果の異文化交差研究への発展の可能性について論じた.
著者
神寶 秀夫
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

この三年間、科学研究費補助金の交付を得て、領邦都市マインツの統治構造を考察し、それを通して「中間権力」の観点から近世ドイツ絶対主義の特質を論究してきた。絶対主義体制において中間権力がどの程度の機能を果たしていたのかについて、最終的に以下の結論に至ることができた。領邦都市段階の当市の統治構造は、市民の誠実宣誓をまって大司教支配権が成立し得るという、前近代的な二元主義の特質を有していた。しかし、固有の身分制国家段階はすでに過去のものであって、市民の臣民としての服従義務が前面に出ているのである。市民の一定程度の自律性を保証する都市参事会及び兄弟団も、一方においては確かに「中間権力」としての性格をなおも維持しているものの、他方では、その性格も、都市参事会における参事会員の「終身制」、兄弟団の集会における同意権と「口伝の法」に関係した場合の裁判権・規約制定権にしか見て取れないほどに、制約されていた。兄弟団を、政治権力を制約された「社会的団体」と規定することができる所に、政治的権利と社会的権利(=営業独占権)との分離の一定の進展が認められ得るのである。以上のことから、近世(領邦)都市は、完全な「中間権力」の態をなしていた中世都市と「公法上の地方団体」である近代都市との間に位置する、独自の都市類型と把握することができるのである。そして、宮廷都市における中間権力の機能は、中世に比較し、限定的であったのである。
著者
兵藤 晋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

軟骨魚類が海に生きるために、体内に尿素を蓄積することは必要不可欠で、複雑な構造を持つ腎臓での尿素再吸収がそのことを可能にしている。ゾウギンザメで新規尿素輸送体を複数同定し、飼育下のドチザメでは尿素輸送体が環境浸透圧の変化によって細胞膜への集積が可逆的に制御されることを見出した。進行中の広塩性アカエイや培養系での解析とあわせ、軟骨魚類の腎機能、脊椎動物での腎機能の進化の解明に大きく貢献した。
著者
西嶋 恭司 櫛田 淳子 河内 明子
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,地上における大気チェレンコフ望遠鏡観測において,観測のスケジューリングや観測効率,観測データの質に大きな影響を及ぼす雲を常時監視し客観的な記録を残すために,赤外線全天雲モニターの開発を行うことであった.国立天文台で実用化された中間赤外線雲モニターをベースに,検出器部には8μmから14μmの赤外線に対して感度がある非冷却型固体撮像素子を備えた市販の赤外線カメラを用い,視野角を全天に拡大するための反射凸面鏡および副鏡を組み合わせた光学系を設計・製作した.画像の取得は,特注の45m長RS232Cケーブルでカメラとコントロールルームをつなぎ,パソコン上からGUIを用いてリモートコントロールできるようにした.リモートコントロールについては,適切なキャリブレーションを行えば,オフセットをオートにし,ゲインのみ調整すれば見やすい画像が得られることがわかった.また,昼間は摂氏40度を越える猛暑の砂漠の中で9日間の長時間連続運転テストの結果,一部のピクセルにノイズが乗ったものの正常に動作することが確認された.夜間の観測中には肉眼では視認できなかった薄い雲が,モニター画面上でははっきり見えており,その有効性が確かめられた.さらにデータを1次元スライスすると,雲の位置とその厚さが明確に見え,快晴でも天頂より低空の方が赤外線が強く見られた.当初,信号雑音比を上げるために画像の演算処理による重ね合わせを考えていたが,その必要が無いことも確かめられた.本雲モニターの導入により,空の状態の常時監視と客観的記録が実現するため、データの質の向上が期待され、効率的な観測のスケジューリングが可能となった。
著者
遠藤 辰雄 高橋 庸哉
出版者
鳥取環境大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

この研究目的と同じ内容の北極圏スバルバールのニーオルセン(北緯79度東経12度)で行った観測結果が未解析で残っていたので、その解析を詳細に進め、その結果から標題の目的の研究を行うことにした。この期間は1998年12月16日から1999年1月9日までの間であり、この地方は完全な極夜であり、大気化学的条件としては、光化学反応は考慮する必要がないという興味ある環境であった。また、この時期はこの地方では比較的降雪が見られ、この時期を過ぎると全く降雪がないとされている。その降雪も量が少なくかつかなりの強風であるといわれていたのであるが、この年は大雪に恵まれ、しかも余り強風でない状態続いた。解析によって得られた知見は以下の通りである。(1)降雪試料に含まれている化学成分はかなり低濃度ではあるが、これまでの観測結果の傾向が再確認された。それは、雲粒付の雪結晶と雲粒の全く付かない雪結晶雄である雪片は硫酸塩と硝酸塩を夫々卓越して含んでいた。(2)雲粒の付かない雪片だけが観測された時間に環境大気の硝酸塩はエアロゾルの粗大粒子よりは微粒子の方で枯渇した状態が発見された。(3)また雲粒無しの雪結晶が降る時の降雪試料にかなりの高濃度の硝酸塩が検出され、それと同時に同じ濃度の水素イオンが測定された。このことから、雲粒の付かない雪結晶の表面では硝酸ガスそのものを物理吸着の形でとりこんでいるものと考察される。(4)3日間に亘る長時間の連続する降雪の途中から硝酸塩が枯渇するする現象が発見された。これも光化学反応が起こらないためであると考えられる。以上のことを総合的に考察すると硝酸塩もまた長距離輸送される大気汚染物質であると考えることが出来る。
著者
田中 久男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、アメリカ文学を地方主義(regionalism)という観点から究明しようと試みたものである。東部、南部、中西部、西部という従来の合衆国の地域分けを本研究も踏襲した。しかし、E.エリオット編『コロンビア米文学史』(1988)で地方主義を担当したJ.M.コックスも、「西部は未来と移動性そのもの--つまりアメリカなのだ」と、西部を扱うことの難しさを歎いているが、本研究でも、西部の研究は言及程度に留まった。とはいえ、従来の地域分けにつきまとっていた、ニューイングランドを含む東部を合衆国文化の中心とする政治的、経済的力学と連動した地域文化観の偏りを意識して、4地域を平等の力学の中で捉えようと努めた。もっとも本研究者の関心が、W.フォークナー研究にあり、当然、南部に比重が大きく傾くことは避けがたかった。が、それでも、現今の批評の柱であるジェンダー、階級、人種という3視点に注意を払い、宗教やエスニシティや時代の要素にも目配りしながら、各地域のアイデンティティやイメージ、すなわち、その地方が意識し内面化しているアイデンティティと、文学や映画や写真などの外部のメディアや部外者が提供するイメージとが、どのように絡まって重層的に地方の特質を築きあげていくのかを考察しようとした。その際、F・ジェイムソンの『地政学の美学』(1995)やH.K.バーバの『文化の位置づけ』(1994)という文化唯物論的なポストコロニアリズムの視点に立つ研究書を参照することにより、場所の間にも歴史的に構築されたヒエラルキーが存在することを認識し、文学における地方主義の表象解釈が依拠していた審美的な要素に、彼らの先鋭なイデオロギー的な視線を呼び込むことにより、少しは新しい解釈を提供できたのではないかと自負している。
著者
高谷 富也 加登 文学
出版者
舞鶴工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、暴風雨時の波浪や潮流によって生じる繰り返し荷重や地震時における海底パイプラインの耐波・耐震安定性を評価することを目的として、パイプライン-地盤系の動的応答解析を通じて、パイプラインの変位挙動やその周辺における地盤剛性の低下との関連を検討し、耐波・耐震安全性に関する資料を得るために2年間の研究を遂行した。研究代表者は、既に遠心力模型載荷実験に基づいた繰り返し水平載荷を受けるパイプライン周辺地盤の間隙水圧応答の予測評価式を提案し、パイプライン周辺における地盤剛性の低下との関連を検討してきており、暴風時の波浪や潮流によって生じる繰り返し荷重を受けるパイプライン-地盤系の動的応答解析に基づいた耐波安全性についての検討を行った。その結果、パイプラインに作用する水平荷重と鉛直荷重の比、繰り返し水平荷重の大きさや周波数、パイプラインの初期上載圧や初期埋設深さ、パイプラインと地盤との接触面に設定したジョイント要素の力学特性などがパイプラインの変位挙動、周辺地盤内部の応カ-ひずみ履歴応答や間隙水圧応答に大きく影響することが明らかとなった。一方、研究分担者は砂の粒子形状に着目した非排水状態下におけるせん断特性を把握するために、LabVIEWによる単純せん断試験の計測支援システムを構築した。これにより、海底地盤の砂層に対するせん断特性が定量的に把握することができた。その結果、粒子形状が丸い砂は少ないせん断ひずみで、過剰間隙水圧比が増加から減少に転じるところの変相点に至るため、有効応力が回復しやすく高いせん断応力を発揮することが明らかとなった。
著者
堂寺 知成
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

古典結晶学で許されない回転対称性を持つ「準結晶」の発見は20世紀後半の物質科学上の大発見の1つであるが、その発見は合金系であり、高分子系では準結晶のような複雑な構造は発見されていなかった。本研究計画において研究代表者ははじめて高分子準結晶を発見し、さらに理論研究を推進することによって、金属(ハードマター)だけでなく高分子(ソフトマター)にも準結晶が存在することを明らかにし、準結晶構造の普遍性を示した。物理と化学の両業界から大きな反響を呼んだ。
著者
石川 誠 山野 英嗣 朴 鈴子 豊田 直香 羽田 聡 不動 美里 黒澤 浩美 平林 恵 木村 健 松村 一樹 西澤 明 竹内 晋平 西村 大輔
出版者
京都教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

生涯を心豊かに生きるための基盤作りとして,学校と地域の美術・博物館が相互の知見を共有し,知的財産(コレクション)を活用した鑑賞学習を多様に試行して七つの実践モデル(CD-ROM)にまとめた。従来,学校で扱いにくいかった分野にも対象を広げ,映像やワークショップ・プログラム,「書」など,実践に一つの道筋を付けたといえる。また,こどもの鑑賞過程で「見る」と「つくる」の密接な関係が確認され,実践計画の立案に示唆が得られた。この成果を公開討論会で問い,社会的な評価を受けている。
著者
舛本 直文 王 一民 任 海 MACNAMEE Micheal BARNEY Robert MACDONALD Gordon
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

2008年北京大会、2010年バンクーバー冬季大会、2010年シンガポール・ユース大会を対象に調査研究した。北京大会では国際聖火リレー問題および愛国主義教育との関連から平和教育が十分ではなかった。バンクーバー大会では国際聖火リレーの禁止およびオリンピック教育における平和運動の不十分さから平和メッセージの発信不足。シンガポール・ユース大会でも平和的メッセージの発信の不十分さ。以上が明らかとなった。
著者
岩崎 徹也
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

中東・イスラム地域におけるイスラム原理主義台頭の経済的根拠としては、石油の高価格を前提に、石油化学、石油精製などエネルギー集約型重化学工業を基軸に国内開発を促進しようとした産油国型開発戦略が、需給緩和・OPECカルテル機能低下により破綻したところへ、人口爆発が重なったことによる過剰人口問題、とりわけ若年層の雇用問題が重要な要素として挙げられる。経済開発の低迷と石油ブーム期以降の医療機関の整備による人口増加により、結果として若年層の雇用問題が顕在化し、アラブ民族主義や社会主義の破綻によって青年層の不満はイスラム原理主義へ向かうこととなった。産油国型開発が破綻した現在、発展途上国開発の成功モデルは、外国資本の直接投資に依存した輸出指向型開発戦略しかないが、中東地域の政治は安定せず、石油の輸出・収入の影響によりコスト・為替レートは、他の途上国と比べて一般的に高く、同地域への直接投資は、アジア、中南米などと比べ、著しく少ない。産油国をはじめとする中東諸国でも、近年、構造改革を実施する一方、直接投資受入れのための投資保障措置の拡大などの施策を行っているが、必ずしも十分なものではない。中東地域の諸国の多くは、君主制や共和制の形式をとった軍事独裁政権で、福祉による国民融和は不可欠だが、財政均衡化のためには、増税や福祉関連支出の削減が必要である。しかし、福祉の削減は国民の不満を拡大し、同地域の一層の不安定化につながる可能性もある。膨大な低コストの労働力を有する中国の輸出指向型工業化が進展する現在、中東地域で構造改革が進展し、労働コストが多少低下したにしても、同地域に外国資本が重点的に投資をするという可能性も低い。当面、産油国としては、他ならぬ中国の世界市場参入・高成長を一因とする資源需給の逼迫を利用しつつ、石油収入を増加させ、国内開発を促進するという戦術をとることになろうが、70年代型の開発戦略は破綻しており、新戦略の模索を続けざるを得ないだろう。
著者
渡辺 秀樹
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

3年間に1)古英詩の詩語と定型句の意味と系譜、2)動物名人間比喩義の収集分類と構造性の考察、3)研究基礎資料となる英語各種辞書における定型表現と比喩義の扱いの比較を続けてきた。第1分野は柱となる研究で、20年来取り組んで来た古英詩Beowulfのメタファー研究を進め、英文論文2点を雑誌に発表、博士論文を基に古英詩の比喩と定型表現研究書を出版した。論文1点は日本中世英語英文学会の機関誌、学会創立20周年記念号に寄稿を依頼されたもので、それを機にミュンヘン大学Hans Sauer教授より本詩の日本人研究文献表の作成を依頼された。論文は後にBeowulfの研究ハンドブックや最新校訂版に言及されることになって英語史学界に成果を広く認められた。第2分野では3年間で英語鳥名および犬科の名詞群の人間比喩義の体系を明らかにし、特定メタファー表現としては諺的直喩表現"as dead as a dodo"の発生と変化・拡散過程を中世英語の類似表現から論を起こし、19〜20世紀の200年のスパンで示した。両方の研究テーマおよび成果は先行研究が全くない当該研究者のオリジナル論考である。発表論文に対する反応および進捗状況を見て、英語動物名メタファー研究は、他の動物名に拡大して深化させる価値と必要があると判断し、これを研究テーマとする新たな科学研究費補助金研究を申請、採択されて継続中である(平成19〜22年科学研究費補助金基盤(C)(2)英語における動物比喩の総合研究:その歴史・構造・ジャンル(課題番号19520421))。第3の分野は辞書学とメタファー研究の複合で、比喩義や定型表現の独特な説明で名高い英和辞書『熟語本位英和中辞典(齊藤秀三郎)』を参照することが多かったため、研究副産物の形でこの辞書の英文序文の比喩・イディオムの使用法を解読した。これは後に英文書評論文に発展してヨーロッパの歴史的言語研究誌Historigraphia Linguistica(2006)に掲載された。3年間の研究では本来の古英詩文体研究が進み、重要テーマ、英語動物名の比喩体系研究が見出された。研究成果は出版論文・著書・学会口頭発表により公にされて反響を呼び、学界を刺激し一定の評価も得て、今後のBeowulf関係のシンポジウム企画・司会や英語連語研究のシンポジウムの講師を依頼されている。内外の古英詩研究者、英語メタファー研究者、英語辞書編纂者、諺・定型句研究者に新たな知見と資料を提供するものであると信ずる。
著者
張 晴原 浅野 賢二
出版者
筑波技術短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

筆者らが開発した簡易人口推計法に基づいて,2050年までの中国のGDP,エネルギー消費量および食糧消費量の推計を行っている。中国の1人あたりGDP実質成長率は1990年の10%から2025年に3%に,さらに,2035年には2%になるように仮定すれば,2050年のTFR別のGDPはそれぞれ32兆元,35兆元および40兆元となり,1990年の17倍,19倍および22倍になる。統計データによれば,中国の1990年の1次エネルギー消費原単位は373Toe/百万元(1947Toe/百万\に相当)であり,同時期のアメリカの391Toe/百万\,日本の150Toe/百万\と比べてはるかに高い。その原因として,エネルギー利用技術レベルの低さによるエネルギー効率の悪さや製造業を中心とした産業構造が考えられる。したがって,エネルギー利用技術の開発や技術移転,省エネルギーの促進,産業構造の転換などによって,1次エネルギー消費原単位を先進国の1990年レベルまで引き下げる可能性が十分あると思われる。中国のエネルギー原単位が1990年から同一比率で低下し,2050年には200Toe/百万\(1990年実質価格)(38Toe/百万元)になるように仮定すると,1次エネルギー消費量を求めることができる。2020年までは,中国のエネルギー消費量が増加し続け,2022年以降は減少に転じる。その原因として,2020年以降はGDPの成長率が低下し,エネルギー消費原単位の低下率(省エネルギー率)が3.64%で一定であるためと考えられる。1990年における中国1人あたりの食糧消費量は375キロであり,1990年からの最初の35年間は0.75%,次の10年間は0.60%,以降2050年までは0.40%の率で増大するとすれば,合計特殊出生率が1.70,1.87および2.10のとき,2050年の食糧消費量はそれぞれ7.2,8.0,9.2億トンとなり,1990年の1.7倍,1.9倍,2.1倍である。