著者
難波 謙二
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究では底沸点有機ハロゲン化物のうち金属の洗浄剤などとして用いられてきたトリクロロエチレン(TCE)の定量を行った。TCEは揮発性の発ガン性のある有機溶剤で,地下に浸透し,地層を汚染している場所がある事が知られている。この様な場所ではTCEが地下水から検出され,重大な問題となっている。TCEは工場排水や地下水等を通じて,河川・沿岸環境に流入している事が知られているため,堆積物の前に水中での分布をまず調べる事にした。分析装置としてはガスクロマチグラフ-FIDを用いた。溶存揮発性有機物の濃縮装置を作成したが,環境水に適用すると,メタンなど通常の炭化水素のピークによってTCEの検出が妨害される。これに対処するには,FIDに代えてBCDを検出器とし用いることがまず考えられるが,本研究では,ヘッドスペース法によって環境基準よりも二桁低いnM程度の濃度までは定量できることが分かったので,試水のヘッドスペースをFIDによって分析した。カラムはChromosorb AW-DMCS 60/80を用いた。夏期の浜名湖の湖央で水深別に採水し,測定を行った。その結果,TCEと保持時間が同じピークが現れ,20nMと定量された。また,鉛直的には2m程度の水深で最も高くなることが観察された。なお,TCEはメタン資化細菌によって分解されることが知られているので,メタン添加実験を行った。しかし,細菌の増殖はなく,TCEの分解は促進されなかった。浜名湖周辺には工場の立地もあるので,このTCEの由来を今後広範囲に水平的に調べていきたい。東京湾湾奥花見川河口付近で汚染地下水由来と思われる環境基準と同程度の数百nMのTCEが定常的に検出されている。海洋に近づくと濃度が低下する傾向があること,鉛直的には表層で低濃度になることから,表層では大気に拡散するほか紫外線による分解を受けているものと考えられる。
著者
阿部 定範
出版者
慶應義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

新鮮手術材料を用いた検討では、新鮮胃癌細胞を対象とした時のカットオフ濃度である30μg/mlにおける抑制率(IR_<30>)は0.18〜63.5%に分布し平均±標準偏差は35.2±15.3%あった。同一患者から採取された胃癌細胞および脾細胞に対する脂肪親和性陽イオン/Delocalized lipophilic cations(DLCs)の抑制効果は、腫瘍細胞に対しては明らかな濃度依存的な抗腫瘍効果を示したが、脾細胞に対しては有意な細胞障害性は示さなかった。すなわち、DLCsは同一宿主に由来する腫瘍細胞と正常細胞に対しても選択的な毒性を持つことが示唆された。ヌードマウス可移植性ヒト癌株に関する検討では、大腸癌株Co-4におけるDLCsの抗腫瘍効果は7.5mg/kg/日が、14日間腹腔内に投与された群においては対照群と同様な腫瘍増殖が示されたのに対し、浸透圧マイクロポンプを用いて同量が持続皮下投与された群では相対腫瘍重量T/C値の最小値が59.0%と境界的な抗腫瘍効果が認められた。この結果から、DLCsの同等量投与においては持続投与の方が間欠的投与よりも抗腫瘍効果が高いと考えられた。また、CRL1420、St-4、およびCo-4の3株に対して浸透圧マイクロポンプを用いた20mg/kg/日、7日間の持続皮下投与を行った結果、実験期間中の相対平均腫瘍重量T/C量の最小値が42%以下となり有効と判定された。本投与量におけるマウスの衰弱死亡は認められず、体重減少も20%以下であり、本投与法における最大耐容量と考えられた。実際にHT29に対しては40mg/kg、LST174Tに対しては30mg/kgの浸透圧マイクロポンプを用いた連日投与を行ったが、マウスの衰弱死亡が確認され、本投与方法における最大耐容量は20mg/kg/日、7日間の持続皮下投与であると考えられた。
著者
鈴木 賢士
出版者
山口大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

梅雨や台風によりもたらされる集中豪雨は災害の防止・軽減という点からその予測は重要である。しかし、集中豪雨は短時間で狭い領域に大量の雨をもたらすため既存の観測網では捉えることが難しく、そのためその雲内での水の集中化メカニズムの理解は重要な課題となったままである。本研究では狭い領域をできるだけ密な地上観測網で捉えることが出来るようになることを目指して安価でかつ簡易的な観測機器の開発を目的に簡易雨滴粒径分析計の開発を行い、それを用いて観測研究を行った。今年度は昨年度開発・製作した簡易雨滴計のプロトタイプを小型・軽量化し、さらに将来の地上気象観測網の構築を念頭に地上気象観測ステーションに組み込むことを試みた。既存の気象観測ステーションと組み合わせることにより雨滴粒径分布のほか気温、湿度、気圧、風向風速、雨量といった一般気象データも同時に観測ができる。また、この雨量計からの電気信号を受けて雨滴粒径分析計の計測を開始・終了できるようにしたことで観測の無人化が可能になった。このシステムにより得られるデータは一般気象データに関してはデータロガーにより10分ごとの測定で約2週間の連続観測が可能である。雨滴粒径データは改良型ではデータの記録方法を2通りにし、1つは昨年度と同様のビデオによる映像の録画、もう1つは赤外線センサーを雨滴が横切る際の電気信号の変化を電圧としてデータロガーに記録する方法である。前者は解析に時間がかかるが実際の粒子を見ることが出来、後者はデータを簡単に処理できるという長所をもっておりこれらの組み合わせにより効率よい観測・解析が出来るようになった。将来的にはこのシステムを狭い領域で多地点に設置することで、集中豪雨における雨滴形成(降雨形成)の平面的な観測が可能になる。さらにレーダー等のリモートセンシングと組み合わせることで立体的な構造の理解に役立つであろうと期待される。本研究で開発した簡易雨滴粒径分析計を用いて昨年秋に山口を直撃した台風18号からの降水を観測した。また、鳥取大学乾燥地研究センターにおいて冬季日本海側に発達する雪雲からの降水、さらに山口大学において梅雨前線に伴う降水システムからの降水の観測を行った。台風18号に関する成果については第13回国際雲・降水学会において発表された。これらの観測はそれぞれ雲形成メカニズムの異なる雲からの降水の観測で、これらの観測結果を比較すると、一般に雨滴粒径分布はN=N_0exp(-λD)で表されるが、台風の場合は大量の雨をもたらす割に分布の傾きλがそれほど変化しないことがわかり、前線や低気圧に伴う降水とは異なる性質を持っていることが明らかになった。レーダーデータ等との関連を詳しく調べる必要があるが、非常に興味深い結果であり、本研究で開発された簡易雨滴粒径分析計が十分に利用可能であることが確かめられた。
著者
塩崎 修志
出版者
大阪府立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

実験1.ポリアミンの処理方法の検討 塩基態および塩酸塩態ポリアミンの花振るい抑制における効果の差違を検討したところ,プトレッシンとスペルミジンでは効果に差違は無かったが,スペルミンは塩酸塩態の方が抑制効果は高かった.巨峰を用いて,プトレッシン,スペルミジンおよびスペルミンの2種あるいは全てを混用して花振るいに及ぼす影響を調査したところ,いずれの組み合わせにおいても着粒率は増加せず,果粒重量にも影響しなかった.また,茎葉を含め花房にポリアミンを噴霧処理した場合においても,巨峰の着粒は処理により促進されなかった.実験2.ポリアミンがブドウのエチレン代謝に及ぼす影響 ブドウの葉を用いて,試験管内での葉からのエチレン放出に及ぼすポリアミン処理の影響を調査したところ,塩基態ポリアミンは有意に葉からのエチレン発生を抑制した.また,抑制効果はスペルミジンとスペルミンでは3mMの濃度で高かったのに対してプトレッシンは5mMの濃度で高く,エチレン発生抑制効果の最適濃度がそれぞれ異なることが明らかとなった.花房にプトレッシンを処理した場合においても,花房からのエチレン発生は有意に抑制された.なお,果粒中のエチレンの前駆体であるアミノサイクロプロパン1カルボン酸は常法では分析できなかった.ブドウ果粒には分析を妨げる供雑物が多く含まれるため,これらの供雑物を除くことのできる新たな手法が必要であると考えられる.実験3.ブドウ花粉の発芽に及ぼすポリアミンの影響 デラウェアと巨峰の花粉を用いて,試験管内での花粉発芽におけるポリアミンの影響を調査したところ,巨峰においてはポリアミンは花粉発芽に影響しなかったが,巨峰に比べ花粉稔性の低いデラウェアでは培地へプトレッシン処理により花粉発芽が促進された.また,高温下や発芽に必要なホウ酸無添加培地上での花粉の発芽に対しても培地へのポリアミン添加は発芽を促した.また,開花前にポリアミンを処理した花から採取した花粉は無処理花粉に比べて発芽率は高かった.以上から,落果を助長するエチレンの発生抑制と花粉発芽促進による受精促進がポリアミンによるブドウの着粒促進効果の要因と推察された.
著者
森田 規之
出版者
京都府立医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

バーグマングリアの分化過程を、S-100β遺伝子プロモーター活性の可視化によって追跡するために以下の検討を行った。分与されたマウスS-100β遺伝子の5′上流領域からプロモーター領域の欠失系列を作製し、これらをプロモーターアッセイのためのレトロウイルスベクタープラスミドであるpIP300plusにサブクローニングした。同種指向性パッケージング細胞Ψ2にトランスフェクトしてウイルス産生細胞株を樹立し、細胞培養上清から組み換えレトロウイルスを調製した。プロモーター活性の可視化のために効率の高いプロモーター領域を、S-100βを常時発現する株化細胞ラットC6グリオーマを標的として検索を試みた。しかしながらプロモーター可視化の効率が極めて低く解析に困難を伴ったことから、プラスミドの再構築、パッケージング細胞への遺伝子導入方法の変更等を行い、最終的に異種指向性のパッケージング細胞PA317を用いて組み換えウイルスを調製して、解析を可能とした。現在、明らかとなったプロモーター領域の活性を初代培養バ-クマングリアおよび小脳培養スライスで解析中である。さらに、マウス成獣の小脳において、バーグマングリアがグルココルチコイド受容体免疫陽性であることを見いだした。用いた抗血清はラットグルココルチコイド受容体cDNAからGST-fusion法によって調製した抗原蛋白質に対するものである。この抗原はグルココルチコイド受容体の転写調節ドメインの一部、マウス配列と92%のホモロジーを有する領域である。イムノブロット解析からマウスにおいても単一のバンドを与え、また、胎生14日の小脳原基において既に発現していることを明らかにした。今後、バーグマングリアの起源、分化との関連性を分子形態学的に追求する。
著者
古屋 秀樹
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究では,対象地域として土浦・つくば周辺地域を取り上げ,TDM施策の1つであるコードンプライシングが実施された場合の影響を交通流動ならびに環境影響の観点から明らかにすることを目的とする.土浦・つくば地域の人口は以前増加が続いており,平成7年現在約29万人となっている一方,公共交通機関への依存度が低く,自動車分担率の比較的高い地域といえる.特に,土浦中心部では茨城南部の中心都市としての機能を有することや南北と東西を結ぶ道路ネットワークの結節点であることから,通過・進入する車両の増加で交通渋滞が深刻化している.その対応策として,土浦・つくば地域に流入する車両に対して課金するプライシングを取り上げ、その影響を把握した.プライシング実施にともなう交通抵抗の増加によって,コードンで囲まれる地域の集中交通量やこれら地域を目的地とする分布交通量の減少が予測される.しかしながら,特に分布交通量のモデルを用いた推計精度が十分高くないことなどから,プライシングが交通機関選択行動,経路選択行動に影響を与えるものと仮定して,プライシング実施前後における交通流動の変化を明らかにした.その結果,プライシング前後で自動車による汚染物質の排出量が改善され,交通渋滞の解消に加え,環境改善に効果があることが分かった.今後の課題として,発生・集中,分布交通量の変化を考慮した分析,道路交通流・排出原単位に対する検証,ドライバー・プライシング実施主体を含めた包括的な費用便益の把握,徴収料金の合理的支出に関する考え方の整理があげられる.
著者
稲葉 哲郎
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

今回の研究においては,1995年の参議院選挙の選挙運動期間中に大学生639名を対象に調査をおこなった。調査票は政治的知識,法定選挙媒体への接触,候補者のテレビ広告の利点と欠点の評価,デモグラフィック要因などの項目からなっていた。接触については,「偶然見た」「自分から進んでみた」という回答を合計したものを接触率とした。候補者の新聞広告への接触率は30%であり,また政党の新聞広告では29%であった。候補者のテレビ政見放送への接触率35%と比べるとやや低いが,政党のテレビ政見放送の接触率24%と比べるとやや高いものであった。今回は単なる接触だけでなく,その媒体についてどれだけ注意を払ったかを尋ねたが,いずれの媒体についても「一応注意をはらった」「かなり注意をはらった」を合計しても回答者の1割ほどにしかならなかった。政治的知識との関連をみたところ,政治的知識の高い層がいずれの媒体にもよく接触をしていた。テレビ広告の利点と欠点については,「ますます選挙にお金がかかるのでよくない」(53%)「お金のある候補者が有利になるのでよくない」(50%)と選挙にお金がかかることへの懸念が多く見られたが,アメリカで話題になっているような対立候補の欠点をあげつらうような広告が放映されることへの不安はあまりみられなかった。一方,利点としては「候補者がどんなひとかよくわかってよい」(39%)「政治に関心を向ける機会が増えるので望ましい」(38%)という意見が多く,候補者をよく知るための手段として評価されていた。評価の規定因としては政治的知識をあらかじめ想定していたが,テレビ広告にお金がかかることについて,政治的知識の高い層で懸念が特に多かった。
著者
赤塚 洋
出版者
東京工業大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

昨年度に引き続き数値解析を行い、その結果、レーザー発振に必要となる励起酸素の生成には、ガス温度が低く(1000K程度)、電子温度が高い(7000〜9000K)熱的に非平衡なプラズマが望ましいと言う結果が得られた。そこで、マイクロ波放電により比較的低気圧(0.5〜10Torr程度)の酸素プラズマを生成し、同プラズマの酸素ヨウ素レーザー媒質への応用の可能性について検証を行った。本プラズマは石英放電管内部において、2.45GHzのマイクロ波放電により生成される。放電条件としては、マイクロ波発振電力600W,放電圧力0.5〜10Torr、酸素ガス流量0〜0.5l/minであった。酸素原子励起準位からの発光スペクトルを分光分析し、原子励起数密度分布を測定した。その結果、プラズマは電離プラズマに特有な密度分布をしており、同プラズマが電離プラズマであることを確認した。電離プラズマでは原子励起数密度が原子基底状態数密度に比例することにより、同プラズマが圧力が高くなるにつれ、また下流に進むにつれ酸素分子の解離度が低下することを確認した。励起酸素O_2a^1Δの検出を試みたが、測光システムの検出効率に限界があり検出できなかった。ダブルプローブ法によりプラズマ下流域において電子温度と電子密度を測定した結果、それぞれ0.4〜5.0eV,10^8〜10^<12>cm^3となり、両者ともに高気圧放電となるにつれて低下する傾向が見いだされた。また励起酸素O_2a^1Δの生成に適した電子温度7000〜9000Kの条件が、放電圧力4〜10Torrの間で達成されることを確認した。以上本件級の結果、マイクロ波放電酸素プラズマ下流域において、マイクロ波出力600W,放電圧力4〜10Torrにおいて酸素ヨウ素レーザー触媒として適切な酸素プラズマが生成されている可能性があることが判明した。
著者
矢野 浩司
出版者
山梨大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

パルスパワー発生装置への応用にむけて、静電誘導型半導体素子の動作究明を半導体デバイスシミュレーションにより行った。まず現在の半導体シミュレー夕をパルスパワー応答解析用にバージョンアップした。そしてこのシミュレータを用い、静電誘導デバイスのターンオン過程を検討した。パルスパワー応用で半導体素子を用いる場合、100nsec以下の高速ターンオン性能が必要である。シミュレーションの結果、静電誘導半導体素子のターンオン動作は、空乏層幅の急速な減少によるチャネル形成により行われ、このチャネル開放時間は1nsec以下であることがシミュレーションから明らかになった。この時間はMOS構造素子のMOSゲート充電時間やGTOサイリスタにおけるベース層キャリア蓄積時間よりも2桁以上も小さい。実際静電誘導素子がオンする為に要する時間は、チャネル開放時間に素子活性領域にキャリアを蓄積させる為の時間を加算した時間となるが、この時間を比較しても静電誘導素子は従来のGTOサイリスタよりも1桁以上速いことがわかった。即ち静電誘導半導体素子は、パルスパワー用半導体スイッチとして有用であることが予測できた。今後は、静電誘導半導体素子のトータルのターンオン時間を改善する設計手法を明らかにしていく予定である。具体的には主にゲート構造の改良、キャリア寿命制御の最適化に着眼し研究を行っていく。また、周辺回路要素の静電誘導半導体素子のターンオン動作への影響の検討にも対処出来るように、半導体シミュレータをヴァージョンアップしていく。
著者
福島 道広
出版者
帯広畜産大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

(1)未利用動物資源である北海道産アレチマツヨイグサ種子油の脂肪酸組成はそれぞれリノール酸が71%及びγ-リノレン酸が13.7%占めており,市販の月見草油がリノール酸71.7%,γ-リノレン酸9.2%であったのに対し,γ-リノレン酸が4.5%高い値を示した.n-6脂肪酸のα-リノレン酸はアレチマツヨイグサ油には含められていなかった.(2)ラットへのコレステロール負荷条件下での短期投与(6週間)及び長期投与(13週間)実験の結果,短期投与では投与期間を通して成長阻害はみられなかったが,長期投与では月見草油,バイオγ-リノレン酸,紅花油,パーム油及び大豆油より体重増加量は減少した.血液中の総コレステロール濃度は短期及び長期投与の両方ともアレチマツヨイグサ種子油投与区で他の投与区より有意に低下した.また,悪玉コレステロールのLDL-コレステロール濃度も同様に低下した.アレチマツヨイグサ油は肝臓においてコレステロール濃度が短期投与及び長期投与ともに低下傾向を示した.糞便中へのステロール排泄量は,短期投与では各投与区間に変化はみられなかったが,長期投与ではγ-リノレン酸23.1%含んでいるバイオγ-リノレン酸油が他の投与区より有意に増加した.(3)各植物油脂を投与したラットの肝臓におけるHDL及びLDLの主要アポタンパク質であるアポA-1及びアポBのmRNAレベルには大きな差はみられなかった.また,血液中からのLDLの取り込みを担うLDL受容体のmRNAレベルについても変化はみられた.◎未利用資源として,リノール酸71.0%,γ-リノレン酸13.7%含むアレチマツヨイグサ油のラットへのコレステロール代謝を検討した結果,γーリノレン酸を9%含む月見草油と同様,短期投与(6週間)及び長期投与(13週間)ともに強いコレステロール低下作用を示した.以上,アレチマツヨイグサ種子油にはラット生体内のコレステロールを低下させる機能がみられた.その作用機序はコレステロール負荷条件ではコレステロール合成・代謝及びアポタンパク質への影響ではなかった.
著者
松尾 哲孝
出版者
大分医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

申請者は、茶カテキン類が肥満細胞株RBL-2H3細胞およびラット腹腔内細胞(PEC)のケミカルメディエーター(ヒスタミン及びロイコトリエン、LT)放出をin vitroで抑制することを既に明らかにしている。そこで本研究は、茶カテキン類の生体内での肥満細胞のケミカルメディエーター放出抑制効果について検討した。まず、茶カテキン類の中で最も強い抑制活性を示したEGCGをラット腹腔内に投与すると、A23187の刺激によるヒスタミン放出を抑制することがわかった。次に、茶カテキン類の経口投与における肥満細胞のケミカルメディエーター放出抑制効果について検討した。サフラワー油・月見草油・パーム油の3種の食餌脂肪に茶カテキン類を1%(w/w)添加してラットに3週間自由摂食させ、A23187で刺激したときに放出されるケミカルメディエーター量を測定した。その結果、茶カテキン類のヒスタミン抑制効果は認められなかったが、LT放出においては、すべての食餌脂肪群で抑制効果が認められ、特にサフラワー群ではその活性が強かった。また、月見草群では、LTB_4およびLTB_5の両方の放出を抑制した。さらに、PEC細胞膜リン脂質の脂肪酸組成を調べたところ、サフラワー群ではLTB_4の前駆物質であるアラキドン酸の有為な低下が認められたが、その他の群ではこのような効果は認められず、茶カテキンの抑制効果は、LTの前駆物質減少以外にも関与している可能性が示唆された。
著者
池谷 のぞみ
出版者
東洋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

救急医療は119番に通報する市民にはじまり、災害救急情報センターで119番通報を受ける受付指令員、救急隊から連絡を受け、医療機関と連絡をとりあう救急管制員、医療機関における医師、看護婦、その他のスタッフなど、多様な専門領域の人々が,それぞれの場所で分業を担うことによって特定の患者を搬送し、治療を受けさせるという一連の活動を可能にしている。この時間および空間をこえたところでの協働作業が可能となるためには、適切な情報環境の構築が重要である。そこで本研究では、救急医療情報システムにおいて、実際にどのように業務が遂行されるのか、すなわちそれぞれの分業の場面において情報がどのように扱われることで互いの協働作業がどのようになされるのかについて、ある大学の救急救命センターを拠点としてエスノメソドロジーの立場に立ったフィールドワークを通じて明らかにすることを試みた。特に、消防庁から患者受け入れ要請を救急救命センターにするためのホットラインに焦点をあて、その通話内容を分析した。実際の患者を目の前にしていない消防庁の管制員が、救急隊の連絡を受けて、それを正確に、医師にとって意味のある形で、しかも迅速に伝達することは容易ではないことが明らかになった。さらに、119番通報が年々高騰するなかで、救急救命センターに患者を搬送する際の判断基準を踏まえた活動の必要性を医師は感じていることがわかった。また、「上申」と呼ばれる、毎朝上級医師に対して行われるカンファレンスについても観察および録画を行い、複数のチームによる、チーム医療のもとでいかに情報の共有が行われ、クオリティ・コントロールがなされるのか、また具体的なケースを扱う中でインターを含めた若い医師に対していかに教育がなされるのかについても明らかにした。
著者
松田 靖
出版者
九州東海大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

Kojima and Kawaguchi(1989)の研究により,ディプロスポリーによる高頻度な条件アポミク1・であることが判明している花ニラ用栽培品種‘フラワーボール'‘テンダーポール'を供試材料とし,胚の単為発生期に特異的に発現する遺伝子群のクローニングを試みた.まず,両品種における胚の単為発生時期を特定化するため,花器官の形態的調査,ならびにパラフィン切片法による未受精胚の発育状況を調査した.その結果,2品種ともに,他のAllium属種と同様に,雄性先熟であり,開花5日後の柱頭成熟期に卵細胞の分裂が開始していることが判明し,この時期を単為発生初期とした.本時期に特異的に発現する遺伝子のクローニングを行うために,開花当日および成熟期(完熟種子)を加えた3つの異なる発育ステージにある胚(開花当日・単為発生期は胚珠)からnIRNAを単離し,RT-PCRによりcDNAを合成した.その後,ディファレンシャルディスプレイ法を使用し,単為的な胚発生初期にのみ特異的に形成するバンドの選出を行った.両品種において,それぞれ単為発生胚初期に特異的な複数のバンドが検出され,得られたバンドの塩基配列決定を順次行っている.塩基配列決定後,既知の遺伝子との相同性を確認し,これまでに報告されていない新規の遺伝子群を選抜するともに,in situハイブリダイゼーションにより組織特異性を調査することで,単為発生に関与する遺伝子群の特定を図る予定である.
著者
松田 靖
出版者
九州東海大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

アポミクシスの発現は一般に,高次倍数性個体で認められ,低次倍数性個体では抑制されることが知られている.そこで,アポミクシスの一様式であるデイプロスポリーの発現様式解明を目的とし,ニラを用いた半数体の誘導ならびに同形質に関連する,特に単為発生期に発現する遺伝子(群)の単離を試みた.半数体獲得を目的として,既にアポミクシス率が報告されているニラ(2n=4X=32)の3品種('テンダーポール','フラワーポール'および'ワイドグリーン')を供試材料とし,未受粉の5,075胚珠をB5ホルモン無添加培地上で培養したところ,4.49%に相当する227胚珠で胚形成が認められた.胚形成頻度を各品種間ならびに由来種子(多胚性種子あるいは単胚性種子)で比較したところ品種間で有意な差異が認められ,'ワイドグリーン'で最も効率的な胚形成が確認された.その後,順化にまで至った個体の倍数性をフローサイトメーターにより調査したところ,それらは全て4倍体であり,倍数性を維持していたことが明らかとなった.このように半数体獲得には至らなかったため,特定の発育ステージに発現するmRNAを比較することで,単為発生期に発現する遺伝子(群)の単離を試みた.花ニラ用栽培品種である'テンダーポール'を供試し,胚形成が認められない開花直後,単為発生胚の形成が開始される開花4日後の胚珠および種子内の成熟胚からmRNAを抽出し,これらをサンプルとしてディファレンシャルディスプレィ法による単為発生期に特異的に発現する遺伝子(群)の探索を行うこととした.現在,上流プライマー24種,下流プライマー9種の計216組み合わせで反応を行い,増幅産物による比較を行っている.
著者
笹森 崇行
出版者
仙台電波工業高等専門学校
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

送電線や鉄塔等の送電設備が電磁環境に及ぼす影響の1つとして,中波ラジオ放送所の近傍にある送電設備の工事や保守点検を行うときに,送電線に高い誘導電界が発生する場合があることがあげられる.普通は工事や保守点検時にも停電を避けるために,作業を行う側の回線は送電を停止するが,もう一方の回線は送電したまま行うのが一般的である.しかしこの状態のままでは,隣の送電線を流れる電流からの誘導によって,作業を行う送電線に誘導電流が発生して危険である.そこで,この商用周波数の誘導電流を防止するため,作業をする側の送電線は鉄塔に接続することになっている.しかしながら,中波ラジオ放送所の近傍にある送電設備においては,送電線と鉄塔が接続されることによってできたループがラジオ放送波と共振して高い誘導電界が発生する場合があることが報告されている.本研究では,隣の送電線を流れる電流による誘導と放送波による誘導の両方を低減するための対策として,送電線と鉄塔の接続部にコイルを取り付ける方法を提案した.また,理論解析によって効果的なコイルの値や取付場所について検討し,実測によってその効果を確認した.その結果,適切な値のコイルを適切な位置に取り付けることによって,放送波による誘導電界は大きく低減できることが確認できた.さらに,送電線にコイルを取り付けても誘導電界強度が低くならない径間があることも明らかになってきた.このような問題点があることなどから,本研究を押し進めて送電設備が電磁環境に及ぼす影響の解析と対策をさらに明らかにしていく必要があると考えられる.
著者
藤井 千枝子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

遺伝医療においては、遺伝子診断が可能となっても、治療法が確立されていない疾患がある。遺伝子診断によって患者は、疾病に罹患する予測が立ち、それによる就職や、保険加入時による不利益が起こることが危惧されている。新しい医療技術の発展に伴い、医療現場でも、新たに様々な問題が生じるであろう。入院患者と多くの時間を共有する看護師が、遺伝に関する理解を高め、患者をどのように擁護するかは、今後の遺伝医療の発展の中で重要な鍵となる。患者の療養に関する援助を行うためには、遺伝に関する知識が不可欠なものとなる。現在、癌など、臨床現場の病名告知は、告知前に患者家族と相談して本人へ伝えることが多い。しかしながら遺伝子疾患に関連する告知は、本人だけでなく、その家族の病名診断となりうる。また、家族は、法的な家族であっても、生物学的な家族とは限らない。家族関係の告知ともなりうる。このような医療の進歩の中で、看護は、ケアの倫理を基盤とした患者支援が益々重要となる。本研究は、看護教育において、遺伝医学をどのように導入するかを明らかにすることを目的とした。特に、遺伝医療の発展と疾患に伴う社会的問題、看護の役割について文献レビューおよび国内外の調査により、検討した。その結果、今後の看護基礎教育においては、遺伝に対する理解と、偶発的危機状況にある人々を支援するための看護を構築していくことが必要であることが明らかになった。これらの背景から、看護の遺伝学の基盤となる教育としては、(1)分子生物学の基礎、(2)遺伝と疾患;ゲノムプロジェクトからポストゲノムの時代へ、(3)人々の多様性の意義(生物として、社会として)、(4)集団遺伝学、(5)環境と遺伝、(6)危機理論・危機介入、(7)患者・家族の支援、(8)遺伝と倫理、(9)遺伝看護学の可能性と課題に関する内容が必要と示唆された。
著者
櫛橋 康博
出版者
東京農工大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

(1) 跳躍運動の計測: ヒトの跳躍動作における地面反力,筋電振幅,ならびに,ビデオ画像による跳躍姿勢を同時計測可能なシステムを構築した.本システムを適用し,腕の影響を考慮した上で跳躍実験を行った結果,地面反力は双峰的な振る舞いを示すこと,さらに画像解析と筋電振幅の結果とより,初めのピークが膝の伸展に,2番目のピークが足首の伸展に起因することが確認された.このことは,膝関節伸展動作中の終期において,重心移動速度の垂直方向成分が小さくなり始める頃に,足首関節がトルクを発生し始めることを意味する.(2) シミュレーションプログラムへの実装: 現段階では,ロボット本体の制御は,位置制御を基本として,目標位置を時系列的に与えることによって行っている.(1)で得られた知見をもとに,足首の駆動開始タイミングを遅延させて計算を試みた.その結果,前半は最大時の2〜4割程度の電流値以下に抑えておき,膝関節が最終角度までの中点を通過する近傍で、最終角度を目標角度として足首関節の駆動を開始することによって,双峰性の地面反力波形が得られたとともに,重心の上昇速度が約1割程度増加することが確認された.(3) 実機の改良: 腰,膝,足首角1自由度からなる3関節脚ロボット実機に足首ロール軸を付加して合計4自由度とした.(4) 定格外駆動PWMユニットの開発: 本研究においては,モータの駆動電圧を定格の1.5倍から2倍程度とする.ラッシュ電流が瞬時電機子最大電流を越えないためのリミッタ部とそれらの稼動状態をコンピュータによって非同期に取り込める回路を基本とする専用のPWMドライブユニットを開発し,その有効性を確認するとともに,今後の実機実験の安全性を向上させ,さらに,アクチュエータの長期疲労と短期疲労など昨年度に提案した概念を実験的に検証してゆくことが可能となった.
著者
澤田 祐一
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

平成9年度中に,制御スピーカーを取り付けた1次元ダクト内の音圧に関する数学モデルをすでに確立し,さらにダクト開口部に達する進行波成分を最小にする有限次元フィードバック制御器を確率システム理論を用いて構築した.平成10年度は前年の成果に基づいて数値シミュレーションおよび実験を実施し,その動作特性,有効性の検証を行った.数値シミュレーションで取り扱うダクトは実験装置として使用する矩形ダクトと同サイズのものを想定し,全長2[m]のダクトに口径12[cm]の制御用スピーカーを取り付けた.また,制御スピーカーをエンクロージャーで覆いその内部の音圧を計測することで,スピーカーのバッフルボードの変位をより正確に推定できるようにした.数値シミュレーションを実施した結果,騒音源(送風ファン)からの音波(進行波)がスピーカーの設置位置を通過すると同時にその振幅は急速に減少していることが確認され,提案した制御系がダクト内の進行波成分を効果的に押さえることが示された.その性能はおよそ100[Hz]から1000[Hz]までの進行波成分を最大20[dB]減少させることができ,本研究で提案した制御系の目標を十分に満足するものであった.ダクト内の音圧分布という観点から見た場合,騒音源である送風ファンからスピーカーまでの部分では制御の有無に関わらす音圧の振幅にほとんど変化は見られないが,制御スピーカーから開口部に到る部分では音圧のみならず音圧勾配も十分に抑制できていることが明らかとなった.これは,ダクト開口部から放射する音が減少することを意味する.実験は数値シミュレーションの場合と同様のアクリル製矩形ダクトとDSP(Digital Signal Processor)を用いた制御装置により行った.シミュレーションでは1000[Hz]付近まで効果的に制御できることを確認したが,実験ではおよそ120[Hz]から500[Hz]の範囲でダクト開口部付近の音圧をおよそ10[dB]低下させることができ,実験においても1次元ダクトと見なせる周波数範囲で制御系が良好に動作することが確かめられた.
著者
宮城 和宏
出版者
北九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

近年、NIEsでは従来の雁行形態的な技術発展パターンから公的研究期間、海外企業、大学、地場資本が共進化するパターンがハイテク分野でみられるようになってきた。技術発展が1企業レベルでの技術移転から先進国企業との戦略提携や公的研究期間との協同研究を通じて技術成果をスピンオフするパターンに移行しつつある。本研究では、特にNIEsの中でも台湾を中心に、その技術発展過程を考察した。結論は次のようである。後発途上国の技術発展において政府の役割は重要である。途上国企業の大多数は企業規模が小さく経営資源の蓄積の度合いも低い。そのような環境で多国籍企業と交渉し技術を獲得すること、大量の資本を要し不確実性の高いR&Dに多くの資金を投じるのは困難である。政府は公的研究機関を通じて外国人からの技術導入を容易にし、多国籍企業との戦略提携を行い、共同研究開発をつうじてその成果を地場産業に拡散することができる。台湾の半導体産業はまさにそのようなケースであった。ハイテクパークを中心に立地するハイテク企業は、クラスターの形成を通じて公的研究機関、地場企業、大学、超国家的な技術コミュニティが共進化するパターンへと移行している。これは従来の雁行形態パターンからの離脱である。後発途上国は、政府の主導的な役割を通じて先進国にキャッチアップすることが可能である。ただし、これには一定の技術の受容能力が人的資源の育成を通じて蓄積されていることが必要となる。台湾についてはシリコンバレーから多くの帰国者がこれをカバーした。さらに、地場産業に対する政府のイノベーション政策もハイテク分野への直接介入から、人的資源の育成、ベンチャー企業のサポート、税制面の措置、インフラの整備等の重視へとシフトしていくことが求められる。