著者
村上 秀明
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

能の機能局在論による脳機能マッピングが、各分野で盛んに行われている。MRスキャナを用いて脳機能を画像化する方法が近年普及し、fMRIとして広く能科学の分野で利用されている。これらを用いて特殊感覚についての脳機能マッピングが行われており、1991年に初めて視覚野での機能画像を取得することに成功したが、ヒトにおける味覚刺激によるfMRIでの大脳皮質野の賦活領域に関する研究はこれまでほとんどなされておらず、味覚野の機能に関しては知られていない。そこで今回我々はfMRIを用いて、大脳皮質における味覚野を同定する可能性について検討することを目的とした。対象は、神経学的に異常の認められない右利きボランティア5名とした。撮像シーケンスは、2次元のシングルショットのEPI法を使用した。撮像範囲は、側脳室を中心に前頭洞を避けるように6スライス設定し、賦活時と安静時をそれぞれ20回ずつ撮像した。賦活領域を解剖学的位置と比較するため、スピンエコー法を用いたT1強調画像で、本法と同部位の撮像を行った。それぞれのデータをMVOXへ転送し、三次元化し重ね合わせた。味覚刺激は、4%塩酸キニーネを使用した。被験者の全員において、左右いずれかの島及び弁蓋部付近に賦活領域が認められた。また、同部位では、安静時より賦活時は信号強度が平均15.5%上昇していた。賦活領域は5人全てで有意差が認められ、5人の信号強度の変化率の平均6%であった。今回の研究により臨床機を用いたfMRIによる味覚野の同定の可能性が示唆された。また、賦活部位を三次元化することで、より明瞭に把握することが可能であった。
著者
櫻井 良樹
出版者
麗沢大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究での基礎データとなる、関東地方7府県における、(1)1899年から1939年までに11回行われた府県会議員総選挙データの収集、および(2)1902年から1942年までに15回行われた衆議院総選挙データの収集は、95パーセント程度完了した。残りの5パーセントはデータの基礎となる公文書・新聞などが失われてしまったため、あらたな史料が発見されない限り収集は不可能と思われる。県別に述べると、群馬・埼玉・東京・神奈川については、当落選者の各郡単位ごとの得票数をほとんどを把握することができた。栃木については1904年衆議院総選挙での候補者の郡ごとの得票数が不明、千葉は明治時代における県会議員総選挙での落選者データおよび1912年衆議院総選挙での候補者の郡ごとの得票数が不明であり、茨城は明治時代の県会議員選者での落選者データおよび6回分の衆議院総選挙での候補者の郡ごとの得票数が不明である。各候補者の所属政党についても、異説は存在するが、ほぼつかむことができた。以上の作業は、各県の公文書館や県立図書館での調査によった。データのパソコンへの入力を現在続行中であり、これは収集したデータのほぼ半分まで進んでいる(茨城・栃木・群馬・千葉が完了)。しかし、まだ確認作業などにしばらく手間取ることと思われる。したがってデータを使用した分析については、これからの課題となる。ただし作業の過程で、県単位の分析よりも郡単位の分析が有効と思われること、所属政派については政友派・憲政民政派・第三勢力・中立その他の4カテゴリーに分けて行うのが適当であることに気がついた。また県会議員の所属政派が時代を下るにしたがって明瞭になっていく傾向があることを実感することができた。なお東京について、収集したデータをもとに4月1日に首都圏形成史研究会で報告する予定である。これから数年かけてデータベースの整理と分析を続ける予定である。
著者
濱田 靖弘
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究は,主要地域が豊平川扇状地に位置している札幌に適したエネルギーシステムとして,扇状地特有の河川伏流水を用いた暖冷房システムの構築の可能性を検討するものであり,研究実施計画に基づいて本年度得られた主たる研究成果は以下の通りである.1.札幌における既存の地下水観測井戸における測定値の収集及び整理を行い,札幌扇状地の不圧地下水流動系の広域的な把握を行った結果,札幌は広範囲にわたって,極めて豊富な高流速の伏流水が存在する可能性が高いことが示唆された.2.地下熱利用のための基礎資料の作成を目的として,地中温度・不圧地下水位等の長期定点測定を実施した.地中温度の測定は,過去に例の少ない不易層到達深度にて行われ,不圧地下水位の変動特性及び不易層温度に関するデータベースを構築した.3.熱水分同時移動,粘性圧縮現象による積雪の変成過程,凍結・融解現象を考慮した積雪寒冷地に適用可能な地中温度シミュレーターを作成し,実測値との比較を行った結果,地中温度,積雪深等の計算値は,実測値を比較的良く再現することを示した.4.扇状地の伏流水を利用した暖冷房システムの設計フローを構築するとともに,伏流水の影響を考慮した地中熱交換器の熱解析モデルを作成し,地下水の流速,凍土形成,土壌の熱伝導率等の要因が採熱量に及ばす影響を示した.以上により,札幌扇状地の伏流水の広域的な流動系,地中熱環境に関するデータベースが構築され,暖冷房のための地中熱交換器の敷設規模の原単位が札幌について明らかになった.
著者
城 斗志夫
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

食用キノコの主要香気成分、1-オクテン-3-オールの生合成機構の解明を目的として、その生合成に深く関与すると考えられるリポキシゲナーゼ(LOX)を香り高いことで知られているヒラタケ(Pleurotus ostreatus)から単一に精製し、合成機構との関連を検討した。ヒラタケの傘をブレンダーと超音波破砕機でホモジナイズ後、遠心して粗酵素液を調製した。これをセファクリルS-400ゲルろ過カラム、ダイマトレックスグリーンAアフィニティーカラム、DEAE-トヨパールイオン交換カラムの3つのステップで精製した。その結果、LOXは126倍に精製され、回収率は5%、比活性33U/mgの蛋白質が得られた。精製酵素をSDS-PAGEで分析したところ一本のバンドしか検出されず、上記の方法でLOXは均一に精製されたことがわかった。精製酵素のゲルろ過による分子量は72,000で、SDS-PAGEでの分子量が67,000であったことから同酵素は単一のサブユニットから構成されていると考えられた。酵素反応の最適条件は25℃、pH8.0であり、本酵素は40℃以下、pH5〜9で安定だった。また、原子吸光分析と吸光スペクトル分析により本酵素は非ヘム型のFe原子を持つことがわかった。精製酵素は脂肪酸のうちリノール酸に高い特異性を示し、その反応生成物を調べた結果、13-ヒドロペルオキシドを特異的に生成していた。キノコの1-オクテン-3-オール生合成経路には9-ヒドロペルオキシドを経た経路と13-ヒドロペルオキシドを経た経路の2つの説があり、ヒラタケの結果は後者により1-オクテン-3-オールが合成されることを示唆している。さらに、露地栽培されたヒラタケのLOX活性を収穫時期である秋から冬にかけ測定したところ、収穫初期の10月頃で最も高く、寒くなるにつれ低下することがわかり、人が感じる香りの強度変化と一致していた。
著者
稲見 正浩
出版者
島根県立国際短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

ダルマキールティの『プラマーナ・ヴァールティカ』プラマーナシッディ章はその思想的重要性にもかかわらず、サンスクリット・テキストが未だ十分な校訂がなされておらず、定本と呼ぶべきものが存在しないのが現状であった。本研究は、同章のサンスクリット・テキストのクリティカル・エディションを作成すべく、以下の様な研究を行なった。1.ラーフラ・サーンクリットヤーヤナ等による各出版本に言及されている写本のヴァリアント、および出版本間のテキストの異同を明確にした。2.スタンダード版とされるサキャパンディタのチベット語訳(sDe dge No.4210)、さらにデーヴェーンドラブッディ、・プラジュニャーカラグプタ、ラヴィグプタ等の注釈書(sDe dge Nos.4217,4221,4224,etc.)に含まれる他の訳者の手になるチベット語訳を検討した。3.デーヴェーンドラブッディ、シャーキャブッティ、プラジュニャーカラグプタ、ラヴィグプタ、マノーラタナンディン等の注釈者の解釈から偈頌のテキストを想定した。4.ジャイナ教やニャーヤ学派等の論書に引用されるテキストを収集し、一覧表を作成したうえで、比較検討を行なった。5.以上の成果をパソコンに入力し、データベースを構築し、その上でサンスクリット・テキストのクリティカル・エディションを作成した。最終的には以上全体の研究成果はウィーン大学チベット学仏教学研究所より出版したりと考えている。
著者
三浦 研
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

前年度は、阪神大震災の被災者対策として設置され、異なる社会福祉法人に運営委託されたケア付き仮設住宅2棟を対象として、介助行為および入居者-職員間の会話から、両ケア付き仮設住宅において入居者-職員の関係性や雰囲気に違いが見られること、またそうした差異が職員のシフトやケアスタンスの相違に依ることを示し、同一設置形態のグループリビングユニット間に見られる差異を画タイ的に示したが、本年度は、引き続き両ケア付き仮設住宅がグループハウスに統合される過程を中心に調査を行い、小規模グループリビングにおけるケアの継続性と入居者の適応過程について、行動観察と入居者-職員間の会話内容に基づき考察し、小規模グループリビングの施設転居直後、居室滞在率が高まり「閉じこもり傾向」が見られること、入居者による自発的な会話が減少するだけではなく、その内容も介助に関連する割合が増え、より多くのサポートを必要とする受け身の状態となることから、平常時に増してケアが必要となること、また、適応過程全般にける入居者による自発的会話と日常会話の割合の時系列的変化から、入居者-職員の関係性が構築される過程を示した。また、ケアスタッフが変化しないグループとケアスタッフが新しくなるグループを比較し、施設転居に伴う影響がケアスタッフの変化したグループに強く現れることから、小規模グループリビングにおいて、ケア環境の継続性が物理的環境と同様に重要であることなどを、高齢者グループリビングの統合過程から示した
著者
坪内 俊二
出版者
名古屋市立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

腰痛の発生にはいろいろな原因があるが、椎間板性の腰痛は最もよく知られているもののひとつである。現在までに椎間板そのものの神経支配についてはよく調べられており、線維輪の外側3分の1までしか神経の存在が認められないとされている。しかし、椎間板の上下にあたる椎体終板における神経支配はほとんど発表されていない。ここに神経、特に疼痛の伝達物質であるSubstance-Pをふくむ神経の存在を調べれば、腰痛の発生機序並びに椎間板の栄養の調節機構を解明する一助となると考えられ本研究を開始した。15EA02:本研究は免疫組織化学的方法がもとになっている。まずはじめにクライオスタットを用いて凍結切片を作成する技術を習得した。その後、家兎・剖検・手術材料などから得られた椎体終板・椎間板・棘上棘間靱帯・仙腸関節などに存在するであろうと思われる神経週末をsubstance-P,S-100蛋白,neurofilament,PGP9.5などに対する抗体を使いABC法にて染色した。現在までのところ、神経組織がうまく染色されたのはヒトの棘上靱帯のみであり、終板部ではまだみつかっていない。ヒトの骨は動物のものに比べて脱灰しにくく、クライオスタットで切っても軟部組織との境界部で固さの違いにより、うまく切れなかったり、切片を厚くすると染色時にはがれやすいなどの難点を抱えている。これらを試行錯誤により改善しつつ、本来の目標であるヒト椎体終板染色を行っているところである。当然調べられていいはずの椎体終板部での発表がないということは(ラットやマウスでは2-3みられる)、脱灰、染色などで同様の苦労をしていると考えられる。何とかこれを克服して神経終末の存在の有無を明らかにしたい。また、コンスタントに染色して神経の存在を確認することが出来るようになれば、変性を誘発するような処置、椎間板切開・振動させる・adjuvant-induced arthritis modelを作製するなどして神経分布の変化を調べることができる。
著者
小池 淳司
出版者
鳥取大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

現在,わが国では,財政赤字の増大などの社会的要請をうけて,社会資本整備評価必要性が叫ばれている.社会資本整備評価のためには定量的な客観性を有する評価手法が必要であるが,そのためには経済理論に基づいた社会資本整備手法の確立が不可欠である.土木計画学の分野では,これら社会的要請に答える形で,社会資本整備評価に応用一般均衡モデルを適応する試みがここ数年の研究課題となってきている.本研究では旅客交通整備評価のための空間的応用一般均衡モデルの開発と同時に,その実証分析に向けた応用の検討を行うことを目的としている.一般に,空間的応用一般均衡分析による交通整備評価は物流交通整備を対象としているため,旅客交通を明示的に扱うことが不可能である.そのため,本研究では世帯が消費する自由目的の旅客交通行動と企業が消費する業務目的の旅客交通行動を応用一般均衡のフレームで整合的モデルを構築している.さらに,交通需要データ(全国旅客純流動調査)と社会経済データ(地域間産業連関表)によりモデル内の未知パラメータ推定手法を提案することで実証可能としている.実証研究としては,わが国における整備新幹線計画,リニア中央新幹線計画,さらに,羽田空港発着枠増加などの効果を計測し,地域別の帰着便益を算出している.一方,東京首都圏における震災による交通マヒの社会経済的被害なども算出している.以上の研究成果は,土木計画学研究発表会,応用地域学会年次大会,WCTR(世界交通会議),RSAI(世界地域学会),災害比較シンポジウムなどを通じで内外の研究者と意見を交わし,評価を受けている.さらに,査読付き論文として,土木計画学研究論文集,Proceedings of 1^<st> Workshop for "Comparative Study on Urban Earthquake Disaster Managementに登載された.
著者
高倉 弘喜
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究では,データベースの主記憶常駐化を実現するために必要となる耐障害方式の開発について研究を行った。近年の計算機はノートパソコンでも数百メガバイトの主記憶を搭載可能であるが、現在主に利用されている二次記憶データベースではその高速性を十分に発揮できない。一方、主記憶には揮発性や電気的衝撃に弱いなどの問題点があるため、主記憶データベースを実現するには二次記憶と同等の耐障害能力を保証するバックアップシステムが必須になる。そこで、本研究では以下の点について研究を行った。1. 部分的主記憶データベースシステムの構築主記憶にデータベース全体を常駐,させる方式は前年度に提案したが、マルチメディアデータは極めて巨大であり、数ギガバイトの主記憶をもってしてもそのすべてを主記憶に常駐させることは不可能である。そこで、ホットスポットデータのみを主記憶に常駐させ、それ以外のデータは従来のシステムと同様に二次記憶に保存する部分的主記憶データベースを構築した。2. 部分的主記憶データベースシステムのバックアップ方式の開発部分的主記憶データベースシステムでは、主記憶データと二次記憶データとの間で検査点時刻が異なるためデータベース全体の一貫性維持が問題となる。そこで、前年度に提案した方式を部分力主記憶データベースシステム向きに拡張した。上記の方式を携帯型地理情報システムに実装し、映像情報をユーザインタフェースとして、GPSおよび姿勢センサーから得られた情報で地理情報を検索・追加・更新するシステムを試作し、携帯時の障害発生に対する有効性について検証を行った。
著者
簑 弘幸
出版者
東邦大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

平成10年度は、ホークス型自己励起点過程と2重確率ポアソン点過程を組み合わせた場合について、EM(条件付き尤度期待値最大)アルゴリズムを用いて強度過程を特徴づけるパラメータの推定表現を導出した。特に、自己励起点過程では平成9年度の実績を踏まえて線形定係数微分方程式による「1メモリの自己励起・抑制型」の場合に着目すると同時に、2重確率ポアソン点過程では弱定常ガウス過程によって強度過程が変調される場合に着目して検討した。その結果として、強度過程のダイナミクスを特徴づけるインパルス応答関数の推定問題は、自己励起の成分と2重確率ポアソンの成分について2元の連立方程式を解く問題に帰着することを見出した。これによって、これまで自己励起型か2重確率ポアソン型のどちからに限ってモデリングする必要があったが、いわゆる混合型に拡張した簡便な推定表現を得ることができ、応用範囲を格段に広げることができた。更に計算機シミュレーションによって、それらの推定方法の妥当性を確認するとともに、点事象数とパラメータ推定精度との関係も明らかにした。その一方で、尤度を最大にするために非線形最適化に基づいてパラメータ推定する従来の方法と開発された方法の計算速度を比較した。その比較では、パラメータの値やEMアルゴリズムのための初期値にもよるが、概ね開発された方法によって高速化されるという結果を得た。これらの結果から、本研究で検討された自己励起・抑制型確率点過程と2重確率ポアソン点過程の強度過程のパラメータ推定アルゴリズムは、多くの分野で遭遇する複雑な点事象のモデリングとパラメータ推定に有効であると結論づけられる。なお本研究は、多変量の2重確率ポアソン点過程における強度過程のモデリング及び推定の一般化に多大な寄与をもたらすと思われる。
著者
佐々木 高弘
出版者
京都文化短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

1、 蛇聟入・苧環型の昔話および伝説の資料収集:本年度は『日本伝説大系』『日本昔話大成』に加えて『日本昔話通観』に基づき、鳥取県・宮城県・大分県・鹿児島県・岩手県・福岡県・福井県・石川県の各県立図書館および市町村立図書館において資料調査を行った。伝説が伝承されている地域については、当該地域の市町村誌および関係地図等を市町村役場、教育委員会において購入した。結果、上記の『日本伝説大系』『日本昔話大成』『日本昔話通観』において簡略化されて上げられている事例を全文確認し、さらにそれらを上回る数の文献を得ることが出来た。また昔話として挙げられている事例のいくつかが、実際は伝説であることも確認出来た。更に今年度は本説話の古典資料および海外の類似説話も収集した。2、 伝説の現地調査:本伝説で語られる場所を具体的に地図上において確認するため、現地における資料調査および聞き取り調査を行った。現地調査を行い伝承される場所の確認が出来たのは、大分県佐賀関町・臼杵市・津久見市・大野町・緒方町、福岡県二丈町、岩手県雫石町・宮城県本吉町・中田町・志津川町、鹿児島県宇検村・大和村・喜界町、福井県今庄町・永平寺町。伝承地の明治期の地籍図撮影をし、フィルムスキャナーで判読加工作業が出来たのは、鳥取県用瀬町大字金屋(明治27年)・日南町大字多里・河原町大字湯谷・牛戸(明治24年)である。なお撮影された地籍図の保存にはMOドライブを使用した。3、 データベースの作成:前年度および今年度の収集資料のデータベースを作成した。昔話については「蛇の棲家/娘の家/解決/儀礼/話型/来訪男/教訓」、伝説については「蛇の棲家/所在地/記念物/娘の家/所在地/記念物/解決/儀礼/来訪男」の項目を立てて分類し、一覧表および分布図を作成した。
著者
小川 亜弥子
出版者
福岡教育大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

研究実施計画にもとづき調査をすすめ、史料をフィルムに撮り、焼き付け(A5・CH版)を行い、整理・解読・検討を遂行した。最大の成果は、幕末期洋学の軍事科学化を飛躍的にすすめた存在として不可欠である長崎海軍伝習所について、その教育の具体的内容を明らかにできたことである。同所におけるオランダ人教師による実地教育については、主に、勝安房『海軍歴史』巻之三・四・五(海軍伝習之上・中・下)、カッテンディーケ『長崎海軍伝習所の日々』、赤松範一『赤松則良半生談』、秀島成忠編『佐賀藩海軍史』、島津家編纂所編『薩藩海軍史』上巻、藤井哲博『長崎海軍伝習所』などに収められた資史料に依拠して、教師及び直伝習生の氏名・構成、伝習期間・方法、教授科目・時間割・規則・心得などを明らにすることができよう。しかし、教育実態の究明には、根本的に史料上の制約が大きく、研究の遅滞が生じていたというのが現状である。こうしたなかで、調査実施の一環として、佐賀県立博物館において、同所での軍艦運用術の伝習内容と思われる史料「操練所伝習」を発見し収集できたは意義は大きい。本史料は、保存状態は良好で、「ブラムステング之揚方」「パルヅーン之成立」「ワント之成立」「ブレガット之ワント掛様ノ図」「セール之区別」「帆木綿之用法」などについて、それぞれ図入りの詳細な説明がみられ、軍艦運用術の直伝習の模様をつぶさに知ることができる貴重なものである。これまで、同所に関する新史料の出現は皆無に近かっただけに、幕末期洋学の軍事科学的展開を究明する上で、その基盤拡大に大きく資することができるものと考えられる。技術的な内容が高度に専門化しているため、現在、科学史家と連携した研究体制を継続中であるが、近く成果を打ち出す予定である。
著者
有田 清子
出版者
東海大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、(1)栄養代謝のアセスメントをするための臨床シミュレーション型CAI教材を開発する。(2)開発した教材の評価し、その結果から教材の修正と活用方法を検討するであった。今年度は、教材を作成し千葉県立衛生短期大学看護学科において、看護学科の学生70名を対象にCAI教材を使用した。教材使用後にアンケート調査(N=71)およびインタビュー調査(N=7)をおこなった。アンケー調査項目は、CAIを使用した学習に関連する11項目とした.調査項目で最も平均得点が高かったものは「CAIを使用した学習は楽しかった」であり4.5±0.6であった.また、最も平均得点が低かったのは、「学習した知識を看護実践の場面でどのように活用したらよいかわかった」3.5±0.8であった.インタビュー調査の項目は、「教材のよいところ」「改善したほうがよいとこと」「その他」の質問項目を準備し、半構成面接をおこなった.この結果、教材のよいところとして、質問の仕方がていねいなのでわかりやすい,自分がキーボードに入力しないとすすまないので自分のペースで学習できる,臨床の場面でこんな風に患者さんに質問すればよいのかということがわかった,答えを間違えても何度でもできるところがよいなどがあった.改善した方がよいところとして、自分が戻りたいと思った画面に戻れるようにしてほしい、文字が多く読みにくい部分があった,またその他としては、グループでディスカッションする時間が増えたことにより他の人の考えや意見が聞けてよかった,もっといろいろ調べたいと思った,インターネットなどでこの教材が公開されていれば自分で学習できるなどがあった.以上のことから、(1)臨床シミュレーション型CAIを使用して学習することは自分のペースで学習が進められること,実践のイメージがつきやすいということから楽しく学習できる(2)学習した知識を実践の場面で活用することに関しては限界がある(3)画面の文字の多さを改善すること(4)インターネット上での公開の必要性などが示唆された.今後は、ソフトウェアの修正をおこない、インターネット上で本教材を公開し、学生・教員ともに開発した教材を広く使用できるようにしていく予定である.
著者
奥野 利幸
出版者
三重大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

セミノゲリン(SgII)の精子への結合性およびプロテインCインヒビター(PCI)との相互作用について解析した.また生理的役割を解析する目的で,健常人および男性不妊患者の精漿中SgIIとPCI濃度を測定し,病態との関連性について検討した.(1) 洗浄した精子とFITCを用いてラベル化したSgII(FITC-SgII)を反応させ,精子に対するSgIIの結合性を蛍光顕微鏡下に観察した。精漿成分を洗い落とした洗浄精子に対してSgIIが結合していないことを確認した後、FITC-SgIIを反応させた後,蛍光顕微鏡を用いて観察すると,ミトコンドリアを多量に含む精子の中部に特異的に結合することが確認された.結合する蛋白については現在解析中である.(2) 男性不妊症患者の精液中のSgII濃度およびPCI濃度と,病態との関連性を解析した.精嚢低形成患者の精漿中にはPCIはほとんど検出されなかった.また,精漿中にはPCI濃度はフルクトースに比較して射精後48時間を経過しても安定しており,精嚢機能不全あるいは射精管閉塞患者の診断に有用であると考えられた.(3) 精子無力症の患者の精漿中PCI濃度は高くPSA濃度は低いことから、PCIが精子自体に作用し精子運動能を抑制しているか、精子の運動能を高めるプロテアーゼの活性を阻害して、精子運動能を低下させている可能性があり現在解析中である。
著者
吉岡 直樹
出版者
慶応義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

磁気特性を有する有機物質を設計することは新しい機能性物質の創世にもつながる重要な基礎課題である。本研究の目的は、安定ラジカル構造を規則的に導入した新規な共役高分子、水素結合連鎖を合成設計し、π電子系または水素結合を介したラジカルスピン間の磁気的な多重相互作用を目指した。本年度は剛直棒状なスピン連鎖の構築法の確立、連鎖の配列様式の解明を重点的に実施し以下の知見を見出した。(1)ラジカル中心として室温大気下で安定なアセチレン誘導体2,2-dip heny 1-3 haro-8-ethy nyl quinoline-1-oxylを合成し、Pd錯体触媒を用いてエチニル水素と環置換ハロゲンを温和な条件下でクロスカップリングし厳密に頭尾結合が規制されたポリラジカル高分子を合成したが、溶解性が低く高分子量体は得られなかった。(2)イミダゾールがプロトン供与性部位と受容性部位を具有することに着目して、2-位にラジカル中心として4,4,5,5-tetramethy limidazoline-3-oxide-1-oxylおよび4,4,5,5-tetramethy limidazoline-1-oxylを導入した誘導体、lm-NNとlm-INを合成した。(3)単結晶X線構造解析より、lm-NNはb軸方向に水素結合連鎖を形成していた。ラジカル部位とイミダゾール環は大きく捻れ(48 deg)連鎖間でNO結合が接近していた。lm-NNのモル磁化率は、110K付近で極大を示しスピン間には反強磁性的相互作用が存在した。(2J=_-123cm^<-1>)。この磁気的相互作用はNO結合間の直接的な軌道の重なりで説明され、水素結合連鎖を介してスピン伝達の効果は認められなかった。lm-NN中で不対電子密度がNN部位に局在分布しているためと考察された。(4)プロトン受容性にイミノ基を2つ有するlm-INは、lm-NNに比べ結晶化しにくく構造の詳細は不明であるが不対電子間の相互作用は反強磁性的であった。以上を総合して、水素結合を利用した有機ラジカルの自己組織体の構築法を確立した。
著者
吉野 和芳
出版者
神奈川工科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度は,要介護高齢者や障害者の意図理解を目的として,色の異なるパッチを複数付けたカラーパッチ手袋を利用し,動作を伴うジェスチャ表現における手の形状,手指や腕の動きを検出する手法について検討した.具体的には,本年度の成果は次の2点にまとめることができる.1.カラーパッチ手袋を利用した腕の動き追跡と手指形状推定方法の検討ジェスチャ表現を行っている話者の上半身をビデオカメラで撮影した映像からカラーパッチ手袋上に張り付けたカラーパッチ部分を抽出し,それらの抽出されたカラーパッチ群の映像上での重心を求め,その重心の軌跡から腕の動きを検出することを行った.このとき,映像内では話者の上半身部分を撮影しているために抽出されるカラーパッチのサイズが小さくなり手指形状の推定が困難となることから,コンピュータによる制御が可能なアクティブカメラで話者の手指部分のみを前述の重心軌跡をもとに追跡撮影し,その映像から手指形状の推定を行った.2.連続映像からのジェスチャ単語分割とマカトンサインへの適用追跡撮影された話者の手指部分の連続映像からそれぞれ映像内のカラーパッチ群を抽出し,それらのカラーパッチの色の組合わせの遷移を求め,その遷移状態にしきい値を設定してジェスチャの単語を分割することを行った.さらに,両手分のカラーパッチ手袋を作成し,マカトンサインの推定を試みた.その結果,単語数の増加により推定率は低下するものの適用可能であると期待できる.
著者
樋渡 さゆり
出版者
明治大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

「風景」と「言語」の問題を軸にして、18世紀から20世紀の英詩の特徴を探るという展望の中で、本年は主にテニスンを中心にヴィクトリア朝の文学について考察し、あわせて、ワーズワスらロマン派の文学との関連について考察した。研究としては(1)論文「『イノック・アーデン』と解釈学的な旅」、および(2)国際学会での口頭発表“Descriptive Sketches and the New Language"としてまとめた。従来、文学史としては記述されて来たが、今後の研究が期待される18世紀、ロマン派、そしてヴィクトリア朝の詩の関連について、および、それらと象徴主義や、小説における自然主義との有機的な関わりを明らかにする、という、長期的な展望の研究の一部である。最近のヴィクトリア朝研究の中で、とくに「神と自然」をめぐる自然科学史研究の成果をもとにテニスンの活動や作品を再評価すると、当時の英国文化の特徴は、さまざまな領域に渡る時間的・空間的なコミュニケーションの拡大であることがわかる。上記(1)では、テニスンの作品に特徴的なのは解釈学的なコードの間の「対話」であり、コミュニケーションと翻訳を中心的なテーマとしてヴィクトリア朝時代に特徴的なコミュニケーションのあり方を描いたことを示した。共通する視点から、「風景」や「牧歌」、「言語」のテーマに関わる「コード転換」というテーマから、ワーズワスの叙景詩を、18世紀のピクチャレスク美学との関連から考察したものが(2)である。本年度と同様、今後も、同時代の絵画、造園術、自然科学史、宗教、文化論など、重要な手掛かりになると思われる領域の研究を参考にして、ロマン派以降の英詩について考察を続ける予定である。