著者
小澤 浩之
出版者
昭和大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

【目的】強制的歯牙移動時の疼痛により、プロトオンコジンのひとつであるFos陽性細胞が脳に発現することが中枢神経における可塑性、持続性疼痛と関連が深い現象として注目されているが、そのメカニズム解明の第一歩として今回は動物実験におけるFos陽性細胞出現の推移と、アンケート調査により実施した矯正治療中の患者の傷み感覚の推移について比較検討することとした。【動物実験の方法】Urethane,α-chloralose麻酔下で、Wistar ratをindomethacin投与群、非投与群に分けそれぞれ200gで上顎切歯を離開する矯正刺激を加えた。各群とも刺激直後、2時間後、12時間後に4%paraformaldehyde溶液で灌流固定し脳幹部の凍結切片作成後、抗c-foc抗体を用いたABCによりSP5CにおけるFOS陽性細胞を免疫組織学的に検索した。また、矯正刺激を24時間経験させたラットに1週間後同様の手順で刺激し経時変化を調べた(矯正刺激経験群)。【結果および考察】動物実験における経時変化では、2時間後をピークとして陽性細胞が認められた。indomethacin投与群においては反応が見らなかった。一方患者の痛み反応としては、2時間後より痛み反応が出現し、48時間をピークとして減少した。また矯正治療直後にロキソニン(三共)60mgを経口投与した場合、痛み減少傾向を示した。したがって、Fos陽性細胞の出現は、実際の痛み感覚よりもかなり早く出現し、そそ消失後も実際の痛みは長く継続する性質があり、それにプロスタグランディンが関与していることが示唆された。また、痛み刺激経験群においては、動物実験においてはFos発現細胞数が減少し、患者においては痛み反応が低下した。したがって、間欠的に繰り返される痛み刺激に対して、受容系が寛容状態になることが示唆された。
著者
菊地 賢一
出版者
大学入試センター
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

大学入試センターでは、センター試験の各県ごとの志願者数の予測を行い、それにより試験会場の割り当てなど、試験実施に関する様々な準備を行っている。また、将来的には18才人口の減少などにより志願者数の大きな変動も予想される。,このため、センター試験の志願者数を予測することは、大学入試センターにとって非常に重要な問題である。これまでは、データに単純な多項式をあてはめて外挿する方法と現役高校生や浪人の数などにより予測を行うほほうが一般的であった。しかし、今後の大学受験の多様化により、センター試験の志願者数は、より複雑な変動を示すものと思われる。このため、データを多変量時系列データとして取り扱い、時系列モデルとベイズ的モデルを用いることによって予測を行った方が、より正確な予測が行えるものと考えた。まず、本研究において使用するデータの作成を行った。現在まで行われてきたセンター試験、共通一次試験の資料を、計算機で解析できるテキストファイルとして入力した。次に、多変量自己回帰モデルおよびベイズ的階層回帰モデルのそれぞれ単独での当てはめおよびその組み合わせの当てはめを検討した。そして、モデルを構築した後、そのモデルの妥当性を検討するためにシミュレーション実験を行った。また、そのモデルを利用して、各県、各性別のセンター試験志願者数を予測し、県または性別ごとのパラメータの値の違いなどにより、それぞれの県や性別の特色も検討した。
著者
内田 照久
出版者
大学入試センター
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

外国語リスニング・テストなどの音声メディアを利用した試験を実施する場合,実施環境が異なる試験会場間での公平性の確保が急務となっている.このような状況を受け,提示される音声に重畳する背景雑音の影響を検討するための基礎研究を行った.本研究では,背景雑音の影響を分析的にとらえるため,日本語特殊拍(長音,促音,撥音)と閉鎖破裂子音(t,k)を対象とする音韻とした.ここでの日本語特殊拍は,音声信号としては比較的定常的な特徴を示す.一方,破裂子音は動的な特性を持ち,短時間の内にその波形概形が変移するものである.本研究ではこれらの音韻を含む単語音声において,当該の音声区間をコンピュータ上で雑音置換し,その音声の聴覚的な音韻修復の達成度を指標とした聴取実験を行なった.その結果として,下記の点が見出された.1.特殊拍などの定常的な音声の場合,原音声の波形振幅が小さく,外部雑音で妨害される可能性の多い音韻の方が,聴覚的に音韻修復される可能性が高い.2.破裂子音/t/を雑音置換した場合,音韻修復は/k/の方向に偏移する.3.単語提示で特定の音韻を聞き取らせるテスト形式には熟考が必要である.付記 本研究の結果の一部は,日本教育心理学会第38回総会で発表した.
著者
石田 佐恵子
出版者
大阪市立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

近年急速に映像メディアの文化、インターネットをはじめとする現代メディアの文化が、世界的な規模で共有されつつある。その状況は急速に変化しているが、個別の文化の具体的なありようや展開、人びとの日常生活に及ぼす影響については十分に明らかではない。本研究では、現代メディアが日常生活に占める位置とそれがどのような形で諸個人の日常生活に現れてくるのかという観点から、現代メディア文化のさまざまな諸相についてクロス・カルチュラルな研究を試みた。平成9年度は、世界規模で共有されつつある現代文化のグローバリゼーションの成立過程について考察した。特に受け手の意味構造と社会全体の変容とに着目した。平成10年度の研究は、その継続研究に当たる。西洋的な脈絡との比較で考える観点と、アジア・アフリカ諸国との比較から考える観点の2つを併用して行われた。その考察の結果、「現代メディアの文化」と呼ばれるものには、インターネットや携帯電話のように「無国籍文化」としてとらえられるものと、マンガやアニメ、コンピュータ・ゲームのように特に「〈日本〉文化」と関連づけられて語られるものとがあることが明らかになった。クロス・カルチャー、グローバリゼーションという視点から見た現代メディアの文化は、それぞれの国々の日常生活のレベルで個別に生きられるものであると同時に、国際的な文化商品の輸出入・翻訳という観点から考察されるべきであるとの結論に達した。
著者
待鳥 聡史
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本年度は2年間にわたる科学研究費補助金の第2年度に当たる。前年度の成果を受けて、当初からの研究課題と今年度の研究計画に沿った成果を出すことが目指された。具体的には、政党再編期における参議院について、会派変動と議員行動の因果連関を解明するという観点から、計量データに依拠した実証分析を行うという試みであるこの試みは、2つの成果となってあらわれた。1つは研究論文「参議院自民党と政党再編」である。ここでは、従来ほとんど分析がなされていなかった自民党参議院議員の離党及び会派残留行動について、衆議院自民党の分裂を説明するための諸モデルよりも、参議院自民党において歴史的に形成された文脈を重視したモデルの方が、よりよく説明できることを明らかにした。すなわち、参議院自民党では長らく佐藤派-田中派-竹下派の圧倒的優位が続いていたが、それが少なくとも一時的に弱まったのが、1989年選挙による大幅な議席減から93年の分裂にかけての時期であった。他派閥の所属議員は、竹下派優位が弱まった状況の下では、以前に比べて党内昇進などで有利になっていたと考えられるが、分裂に際して、そのことが明らかに離党を抑止する要因として作用したのである。もう1つの成果としては、参議院議員の総合的データベース構築に着手できたことである。上に挙げた論文の中では1993年分のデータの一部しか利用しておらず、現時点でもデータベースとしては未完成の段階である。しかし、幸いにも衆議院に関して同様のデータベース構築を進めている研究者(建林正彦・関西大学助教授、エリス・クラウス・カリフォルニア大学サンディエゴ校教授)や国会の計量分析に実績のある研究者(川人貞史・東北大学教授、増山幹高・成蹊大学助教授、福元健太郎・学習院大学助教授)との共同研究にも見通しが立っているので、今後とも作業を継続する予定である。
著者
福田 理絵子
出版者
北里大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度の我々の研究は、前年度確立したラット頬髭の毛乳頭細胞を使用した、毛乳頭細胞凍結保存法を用いて、臨床の場でも今後この凍結プログラムが使用可能かを見極める事である。その方法としては、頭部腫瘍や瘢痕拘縮修正術を行う際に出る正常ヒト毛乳頭細胞を患者の承諾を得て採取する。正常毛乳頭細胞は少量のため既知の方法にて培養後に使用した。前年度に我々が確立した凍結法に基づき処理した後に、コンピューターフリージングを施行した。ラットに比べ細胞の回収率は低いが保存量としては十分と考えられた。(ラット毛乳頭細胞の場合60〜70%に対しヒト毛乳頭細胞では、50〜60%であった。)解凍後のヒト毛乳頭細胞を培養系に戻すと、2〜3日は正常の増殖過程が認められず、その後正常増殖が開始され細胞数が増加した。これら、凍結保存後のヒト毛乳頭細胞を前年度同様にヒト毛包との共培養の系に移植する予定であったが、同時期に正常ヒト毛包を得る事が出来ず、また毛乳頭細胞も十分な供給量が得られなかったため、共培養は断念した。そこで、我々は解凍ヒト毛乳頭細胞をヌードマウスの肉様膜上に移植した。3体のヌードマウスの計4箇所にそれぞれ移植し観察した。しかし、2箇所移植したヌードマウスは移植後2日目に死亡し、他の2体でも発毛は観察されなかった。本年度の我々の研究はまだこの段階である、今後解凍後のヒト毛乳頭細胞の回収率を上げる必要性があると思われた。得にラットに比べヒトの場合、解凍後の培養系に置いcontaminationを起こす確率が高い、これは手技的な問題もあるがラットにくらべるとヒト毛乳頭細胞の方がcontaminationに弱いとも考えられる。さらにヒト毛乳頭細胞においても共培養の系を試みる必要があり、これらの課題をクリアーした上で臨床試験に移りたいと考えている。
著者
大場 浩正
出版者
北海道医療大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

第2言語習得研究において現在議論されている問題の一つは,第2言語文法の発達初期段階において機能範疇が存在するか否かに関するものである。Lakshmanan and Selinker(1994)は子供の第2言語としての英語文法の縦断的な発話データを分析し,(1)第2言語文法の発達初期段階における(機能範疇の)補文標識thatは,時制を持つ埋め込み平叙文において義務的に空(すなわち,音形を持たず,語彙的に具現化されない)として扱われ,(2)時制を持つ補文標識thatは,関係節の領域において初めてthatとして現れる,と主張した。本研究では,Lakshmanan and Selinker(1994)の時制を持つ補文標識thatに対するこのような主張の正当性を,授業環境だけで英語を学習してきた成人の日本人学習者101名(CELTを用いて英語の習熟度を測定し,29名の初級グループと28名の上級グループに分けた)を対象に,2つのタスク(Written Production TaskとElicited Translation Task)を用いた実験によって調査した。実験結果によると,日本人英語学習者は,埋め込み平叙文における時制を持つ補文標識thatを,初級グループから高い割合で使用していた。空(ゼロ)補文標識に関しては,上級グループの方が,初級グループよりも,使用する割合が高かった。この結果は,Lakshmana and Selinker(1994)の結果とは正反対であり,授業環境のみの成人の日本人英語学習者の場合には,埋め込み平叙文における時制を持つ補文標識thatに関して,異なる発達段階が存在するようである。また,関係節の領域における補文標識thatは,初級グループから用いられていたが,上級グループの方がその使用率は低かった。このような結果となったのは,本研究の初級グループが英語文法の発達初期段階を既に過ぎてしまっていた,ということが理由の一つとして考えられるであろう。
著者
鍋島 祥郎
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

同和地区住民の学歴構成は一般的水準と比較して著しく低い。学歴構成上の格差は地区児童・生徒の教育達成水準の著しい低さによって再生産され、同和問題の解決の大きな障壁となっている。地区住民の生活過程で発生する問題に対処するものとして従来より隣保館が設置され、青少年向けに児童館・青少年会館等も設置されている地区も少なくない。本研究ではこれらの施設における教育施策について、1)生涯学習体系への移行、2)同和行政の一般施策への移行、3)「地区住民の自律精神の涵養」という視点から実証的な再評価を、大阪府・鳥取県・福岡県下において観察・インタビューを中心とするフィールドワークによって行った。その結果得られた知見は以下の通りである。1)隣保館の施設・設備、職員配置、事業運営費は必ずしも地区の人口・就労・生活実態に応じたものではない。とりわけ財政規模の小さい市町村において遅滞が目立つ。2)都市型部落の一部を除いて、生涯学習体系への移行を視野に入れた事業展開を試みているところは皆無である。成人教育事業として着付け・書道・茶道などが大部分の隣保館で行われているが、住民の学習ニーズと合致しておらず参加社の減少が続いている。同和地区の学習ニーズに応じた生涯学習事業の展開は、自治体にも隣保館職員にも重要だとは認識されていない。3)青少年向け学習事業は、算盤・習字などの隣保館事業、学校教職員の手による学力補充事業、都市部を中心に子ども会が組織されているところもあるが、地区によるばらつきが大きい。低学力や家庭の教育力の脆弱さを鑑みた事業展開とはなっていない。4)地区住民は学歴・教育達成上の大きな格差に危機感は持っているが、その解決方法については、家庭教育・社会教育・学校教育のいずれのレベルについてもノウハウも情報も持っていない。5)一般の生涯学習(社会教育)施策水準の低さと、同和対策という特別施策の中で行いうる事業の限界が、地区の教育水準の上昇を促す行政施策に必要な質と柔軟性を損なっている。
著者
甲斐 健人
出版者
愛知教育大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は「底辺校」の運動部員が獲得する文化を通して学歴社会における学校文化を問い、「課外スポーツの経歴」と社会的再生産に関する基礎的知見を得ることにあった。申請者は一農業高校サッカー部を対象とし参与観察を行いながら事例研究を実施した。サッカー部員には積極的入部希望者と1年生は全員部活動に入らなければならないという校則に従った消極的入部者とがいた。実際に活動している人数は部員登録人数よりもはるかに少ない。アルバイト、友人や彼女との約束などの理由で部活動に参加しないのは「当然」であり、練習に何人の部員が参加するかを予測しにくい。さらに、農業高校のカリキュラム上、日常的に実習、当番などで時間を拘束されるために部活動運営はますます厳しい状況にある。彼らにとって部活動は空いた時間に行う「趣味」ともいえるだろう。このような状況においては予定された練習計画を十分に消化することは難しく、現実的には長期の練習計画は作成されていない。結果的には優秀な「スポーツの経歴」を獲得することは困難である。彼らの多くは中学時代の成績によって選別され農業高校に進学し、学校に対してあまり多くを期待していない。彼らの行動は各自がその時々で行動する必要性を感じるか否かによって決定され、校則などは実質的にはあまり意味をもたない。既に彼らは学校文化、学歴社会を相対化していた。その背後には家庭において学校で教えられる価値観とは違う価値観を身につけているなど、家庭の影響を指摘できる。3年生9名の進路は進学4名(短大2、専門学校2)、就職5名。両親の学歴、職業と彼らの進路を考えたとき「スポーツの経歴」が社会的再生産につながっている可能性が示唆された。
著者
石川 国広
出版者
東京工業大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、学校カリキュラムへのアドベンチャー教育導入の可能性を検討することである。ここでいうアドベンチャー教育とは、体験教育・体験学習をベースにしたPA(Project Adventure)のことを指し、体育学のみならず教育学や心理学の領域の理論や知見を統合した教育活動といえる。宮城県では、県教育庁が主導でMAP(みやぎアドベンチャープログラム)事業と銘打って、PAJ(Project Adventure Japan)の指導のもと、全県(仙台市を除く)をあげて学校教育に取り入れる方針で、平成11年度より動き出した。平成13年度は、前年度よりも小学校の指定校が6校増えて小・中・高校とも各7校となり、平成14年度の全学校への普及・展開に備えている。最終的には、小学校328校、中学校159校、高校85校の合計487校における全ての教育活動でのMAPを取り入れた実践と、全ての教員のMAPの理解が目標とされている。最終目標が高く、教育庁からのトップダウン形式での導入なので、現場の教員の戸惑いや不安、無関心も多く、指定校でも進行状況には格差があるのが現状である。問題点としては、講義や資料のみでは教員側の理解を深めることが出来ず、体験を積み重ねる必要があり、指導者養成に時間と労力がかなりかかる点。実践場面での難しさとしては、PAの理念やコンセプトを既存の授業等に織り込む点と、教案通りに授業が進行するとは限らず、学習者の状況や反応を見た上で、臨機応変にその場で教案を書き換える能力が教員に問われる点等があげられている。しかし、積極的で意欲的な教員が中心となって徐々に定着している例も見られ、成果も上がってきており、今後の展開が期待される。提言としては、学校の管理職や行政サイドのスタッフ自身がPAの理解と体験を深め、県教委やMAP事務局が推進のためのハブ組織として機能すること等があげられる。
著者
山本 博樹
出版者
大阪学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

情報化社会では、受け手に情報を「分かりやすく」伝達するにはどうすればよいかという問題が重視される。同時に、このような社会では、映像情報の重要性が高いため、映像情報をいかに「分かりやすく」伝えるかを考察することが急務である。これまでの研究から、理解を支援する画面構成については、受け手の認知過程に適合するような画面構成が重要であると考えられてきた。すなわち、物語を題材とした場合、主人公の目標構造を構造化するように画面を構成することが、受け手の理解を支援することが示されている。主人公の行為が物語の最終的な問題解決にどのように結びついているかは行為の重要度と呼ばれ、階層化されているが、階層の高い行為は基本動作であり、基本動作を踏まえた画面構成が物語の理解を支援すると考えられている。そこで、本研究では、基本動作を踏まえた画面構成が物語理解の構成過程に及ぼす効果について実験研究を行った。実験では、幼稚園を被験者にし、3群を構成した。課題として簡単な出来事について数枚からなる絵画物語を作った。それらは内容が同じであっても、基本動作として重要度の高い動作が描かれた基本動作条件と基本動作として重要度の低い動作が描かれた非基本動作条件、ならびに規範的な動作が描かれた規範動作条件の三つであった。理解テストとして、絵画をランダムな順序で提示し、それらが正順になるように配列させた。各条件が理解の構成過程にどのような効果を及ぼしているかを分析するために、絵画配列行動を下位行動を分析し、また、構成結果がどれくらい正順と相関しているかについても分析を行った。以上の結果から、重要度の高い基本動作に対応させて画面を構成することが理解を支援することが示された。
著者
小清水 右一
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

1. マウスPB-カドヘリンのcDNAクローニングに成功し,その胎児期における発現様式の検討を行なった. Northern blotではPB-カドヘリンは胎生9日齢ごろよりその発現が認められ,胎生後期にかけてその発現量の上昇がみられた. より詳細な発現部位を明らかにするためin situ hybridizationを行なったところ,きわめて特異的なPB-カドヘリンの発現様式が確認できた. すなわちPB-カドヘリンは胎生10日齢では神経管と肢芽にのみシグナルが観察できる. 神経管における発現は腹側に限局して認められ,また将来小脳形成のオーガナイザー領域として機能する中脳-後脳境界領域(いわゆる峡脳)に特に強い発現が認められた. 一方,肢芽における発現はその後端,いわゆるZPA(zone of polalizing activity)領域に限局しており,その後,指骨軟骨凝集塊にその発現部位が変化する. PB-カドヘリンのこの様な発現様式は各種組織・器官の形成に関与する形態形成関連遺伝子,特にShhやFGFファミリー,wntファミリーの各種因子の発現とよく似ており,PB-カドヘリンの発現がこれらの因子により制御されている可能性を推測させるものである.2. マウスおよびヒトPB-カドヘリン遺伝子のゲノムクローニングを行った. マウスに関してはすでにほぼ全長に相当する領域の構造決定を済ましており,現在,マウスおよびヒトにおける染色体マッピングを行っている.3. dominant-ncgalivc型PB-カドヘリンを小脳形成領域に特異的に発現するトランスジェニックマウスの作製を試みた. その結果,すでに5系統のトランスジェニックマウスを得ることに成功しており,順次,その表現型の解析を進めている.
著者
近森 秀高
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、3個のタンクからなる単純な洪水流出モデルにカルマンフィルターを併用した排水機場洪水位実時間予測システムについて、カルマンフィルターの適用条件およびモデルの単純化が予測精度に及ぼす影響と、この予測システムに基づく排水機制御システムの有用性について吟味した。得られた結果は以下のようである。1.この予測システムを用いて、昭和47年7月および昭和61年7月豪雨時の巨椋・久御山両排水機場における洪水位の予測を行い、カルマンフィルターの適用条件と予測精度との関係について吟味した。その結果、状態変量の推定誤差分散行列の対角項は1×10^<-3>、システム誤差分散は1×10^<-2>〜10^<-3>、観測誤差分散は1×10^<-2>未満程度がよいことが分かった。2.予測システムを単純化した場合の予測精度の変化について検討した。その結果、洪水位予測の際重要になるピーク水位の予測誤差に着目すると、a)上流域からの流出は非線形タンク1個で表現してもよいこと、b)上流域タンクの孔係数は流出解析の結果に基づいて固定しておいても実用上差し支えないこと、c)他流域からの流入やポンプのon-offにより水位変動が激しい場合は、氾濫域タンク水深をフィルタリングの対象とした方がよいこと、などが明らかになった。3.セルフチューニングコントロール理論を適用して、排水機実時間制御システムを構築し、このシステムを巨椋流域で発生させた10〜100年確率の仮想出水に適用した。その結果、この制御システムを用いた場合、排水規則に準拠して排水量を決めた場合に比べ、洪水時のピーク水位はあまり変化しないが、流域低地部での湛水時間は大幅に短縮できることが分かった。しかし、水位低減時、排水機が激しい間欠運転が起こし、排水管理上問題となることも明らかになった。
著者
鈴木 政弘
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究は,昨年度に引き続いた経年的な研究であるので,調査対象は昨年度と同じ対象で本学歯学部2年生40名とした。アンケートの結果では,19名(約48%)が関節雑音を自覚していた.聴診による客観的診査でも19名で一致していた.保有者の数は昨年と同じであったが,新たに保有者となったものが1名,消失した者が1名いた.関節雑音の性状については,昨年は分類できなかった微妙な性質の雑音に関してもドップラー聴診装置により記録することが可能となった。結果は,reciprocal clickが2名,eminence clickが12名,crepitusが2名,single clickが3名であった.昨年からの変化は,eminence clickからreciprocal clickに変化した者が1名,single clickが新たに発生した者,消失した者がそれぞれ1名ずついた.single clickは,reciprocal clickに移行することも消失することもあることがわかり,初期症状として重要であると考えられた.顎関節部の疼痛に関しては,single clickからreciprocal clickに変化した者1名に認めた.開口障害については,crepitusの2名に認めた.ただし,顕著な開口障害ではなかった.非接触型下顎任意点運動測定装置による下顎運動測定の結果は,臨床症状の変化のある者で下顎運動の変化が大きく,症状の変化のない者は下顎運動の変化も少なかった.single clickの顆頭運動はクリックに対応して小さい軌跡の変化が認められた.single clickからreciprocal clickに変化した者と消失した者との昨年の顆頭運動の違いは,閉口末期の顆頭の回転と移動との関係が前者でやや移動優位の程度が大きかった.single clickが消失した者の今年の顆頭運動は閉口末期の顆頭の移動が正常者の平均と比較してやや大きかった.eminence clickの顆頭運動は左右の協調性の悪いことが特徴であったが1年間の変化は小さかった.crepitusの顆頭運動も1年間の変化は小さかった.来年も経年的変化を分析し,特にsingle clickに着目して検討を行なう予定である.
著者
小松 理佐子
出版者
中部学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本年度は、岐阜県内において介護保険事業者として介護保険サービスを提供している農業協同組合(以下、農協とする)を対象として、介護保険事業開始1年半を経過した時点での事業の実態に関するヒアリングを実施した。さらに、農協のヘルパー研修の修了者と現在農協に雇用されているヘルパーに対する意識調査を行った。それを通して明らかになったのは以下の点である。(1)介護保険事業の運営の実態…介護保険事業に参入した農協のなかでも、当初の見込み通りに事業が展開されているところと、見込みどおりではないところとがみられた。両者を比較してみると、事業が順調に展開されているところでは、住民の二ーズを把握するためのアンケート調査を実施するなど、地域のニーズをもとにして事業の内容を検討し運営がなされていた。介護保険事業を展開する際に、行政による需要見込みによってサービスを決定するのではなく、住民のニーズから出発するという運営が鍵であるといえる。(2)マンパワーの育成と確保…農協はこれまで農協の事業を担うマンパワーの養成を目的として、ヘルパーの養成研修を実施してきた。それによって多くの3級又は2級のヘルパー資格を所持している会員が存在している。それにもかかわらず、介護保険事業を担うヘルパーが不足したりみつけるのが困難であったりしている。資格を取得した人びとの多くは、会員となっている農協の事業だからとか、介護の知識や技術を家族のために活用したいという動機が多く、仕事としてヘルパーを考えている人が少ないのが実態である。(3)生活の総合的支援…介護保険の給付対象となるサービス以外のサービス(例えば、大掃除、倉庫の整理など)に対して、農協で組織している助け合いの会が対応し、ヘルパーと助け合いの会が連携を取ることによって、総合的な支援を展開しようと取り組まれている。これによって今後総合的な年活支援が可能になると考えられる。
著者
杉本 和寛
出版者
東京芸術大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1,昨年度(平成10年度)に引き続き、赤穂浪士事件に関する資料の閲覧と調査、および収集をおこなった。東京での国会図書館・東京大学総合図書館等の調査をはじめ、京都・大阪・名古屋等への出張調査がこれに該当する。当科学研究費補助金によって、多数の複写物および、写本『赤穂鐘秀記』などを資料として購入することができた。2.資料のデータベース化について、浮世草子に関しては、赤穂浪士物の第一作である『傾城武道桜』(宝永2刊)本文のデータを完了し、『傾城播磨石』(宝永4刊)・『傾城伝授紙子』(宝永7刊)・『忠義武道播磨石』(宝永8刊)等についてもデータ化の作業を遂行中である。実録に関しては、最初期のものと思われる『介石期』のデータベース化を終え、本文の異同について調査中である。また、上記『赤穂鐘秀記』や私費にて購入した『赤穂精義内侍所』・『新撰大石記』についても随時データ化を行っている。特に享保初年頃までに成立したと思われる『新撰大石記』については、『介石記』を頻繁に引用しており、当事における『介石記』に記事に対する信頼性を窺わせるものであり、より精査をおこなうことを予定している。3.平成11年度の東京芸術大学における総合講義におけて(平成11年12月17日)において、事件の虚構化のプロセスと文芸化という観点から論じた。一般的に事件が様々な情報によって肥大化していくパターンによって説明できる部分と、赤穂事件特有の虚構化の様子について解説をしたものである。
著者
安村 直樹
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

11年度においては埼玉県と山梨県を結ぶ国道140号線雁坂トンネルの開通による、埼玉県大滝村および山梨県三富村の両村民の視野拡大に与える影響を把握することにつとめた。あわせて産直住宅事業により上下流の交流を試みている宮崎県諸塚村などにて実態調査を行った。村民の視野拡大に与える影響についてはアンケート調査により把握した。アンケート調査は大滝村、三富村各3集落、合計6集落の全住民を対象に99年11月に行い、回収率は86%であった。トンネル開通前と開通後を比較して「どのようにして観光客を増やすか」「どのようにして村おこしを進めるか」「農産物の販路をいかにして拡大するか」などについて考えることが増えたかどうか聞いてみたところ、どちらの村でも「変わらない」「以前からあまり考えない」とする住民がほぼ半数を占めている。しかし、観光客の特に増加している三富村ではこうしたことを考えることが「増えた」とする人が大滝村の2倍以上の44%に至っている。昨年度の調査からは大滝村でもトンネル開通により少なくない経済的効果が発生していることがわかっているが、村民のこうした意識の形成までには至っていない。意識の形成にはより密度の深い交流が必要であると言える。宮崎県諸塚村では村の林業活性化のために、村産材を住宅一戸分まとめて近隣の県内・県外各地に供給する産直住宅事業に取り組んでいる。アフターケアーを十分に行うため建築棟数が制限され、経済的効果は十分ではないがこうした事業の一環として消費者が木材産地を訪れるツアーが積極的に行われており、消費者には木造住宅の良さを理解する機会、産地側には消費者ニーズを把握する機会となっている。トンネル開通により近隣都市へのアクセスが良くなったことを生かして、大滝村でもこうした事業に取り組むことにより、経済効果と共に村民の視野拡大という人的効果も見込めるものと思われる。
著者
福嶋 路
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、地域における企業家的活動とそれをサポートする地域に存在するネットワークの特質を調査したものである。いくつかの企業者ネットワークを取り扱った研究はこれまでにもいくつかあったが(例えば金井(1994)、サクセニアン(1991)など)、これらは既存のネットワークを静態的に捉え、性質の異なるネットワーク間の比較という視点からその特質を捉えてきた。本研究ではこれらネットワークがいかに生成され成長し地域企業家を支援するにいたったのかという動態視点を採用することが目指された。また企業者ネットワークの国際比較も試みられた。本研究にあたって、岩手県とテキサス州オースティンの事例が取り上げられた。両者とも、20年前までは必ずしも経済的に発展している地域とはいえなかったが、両地域において大学を中心とした企業家活動を支援する地域ネットワークを形成してきた。この間、これら地域にはインキュベーター、リエゾン・オフィス、企業家教育、企業者ネットワークなどといった仕組みがほぼ平行して出現し、これらが一つのシステムを形成し有機的に一体化し地域の企業家活動を促進してきたことが明らかになった。さらに本研究では日米といった異なる国の地域を取り上げたことによって、国際比較が可能となった。具体的にいうと岩手県のINSと、オースティンにおける複数のビジネスネットワーク(TBN,ASCなど)との比較が試みられている。現在、オースティンのビジネスネットワークは調査中ではあるが、日米におけるネットワーク形成方法の違い、つまりプロセス志向の日本とシステム志向のアメリカという対比が仮説として提示された。
著者
市川 喜崇
出版者
福島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

革新自治体期の(1)老人福祉,(2)公害規制,(3)開発規制,(4)自主財政権獲得政策の4分野の政策過程を分析することによって日本の地方自治体のもつ潜在的可能性が顕在化する条件を探ることが長期的な課題であるが,今年度は,その予備作業として,日本の地方自治史に占める革新自治体期の位置づけを明らかにすることに力点を置いた。革新自治体期はいわゆる「新中央集権」といわれる時代に引き続いて現れるので,新中央集権について考察し,その結果を,論文「『新中央集権主義』の再検討」(福島大学『行政社会論集』第9巻第3・4号,1997年3月)にまとめた。ついで,美濃部革新都政の公害規制政策について現在研究をまとめているところである。まだ完成途上にあるが,その概要は以下のようになる予定である。深刻化する公害問題に対応するため,美濃部都政は公害防止条例を制定し,国の法律よりも厳しい基準で公害規制に乗り出した。これに対して国は当初,自治体が法律よりも厳しい基準を条例で定めることはできないとの姿勢で臨んだが,公害問題が深刻極まる中で法律論争をすることは世論の支持を失うと見ると姿勢を転換し,むしろ,法律の基準を都条例なみに厳しくすることによって問題を決着させた。その結果,国は再び法律の優位を取り戻した。これは都の政策が全国化したという意味で美濃部の勝利であったが,国は,政策内容で譲る代りに,法律-条例関係の厳格は解釈権(「先占理論」)を守ったともいえる。都の勝利の要因は,第1に世論の支持とマスコミの注目であり,第2に都が国と同等以上の専門知識を有していることであった。このことは,上記(4)の政策における都の敗北と対比すると一層明らかになるものと思われる。
著者
小澤 桂子
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

まず、約1年以内に初回の退院をした血液疾患患者を対象に、退院指導についての質問紙調査を行った。退院後の生活等についての説明は、医師から、退院前3〜7日前に、病室で、時間を特にとって、一人で、言葉だけで、どんなことに注意しなければならないかについて説明を受けたと回答した者が最も多かった。それで良かったとの回答が多かったが、面談室で、家族と共に、パンフレットなど紙に書いたものを使って、を希望する意見が多くみられた。P<0.05で正の相関が見れたのは、生活上困ったことの解決の程度と説明が役だったか(相関係数0.737)であった。次に、(1)化学療法とはどのような治療方法であるのかを理解できる、(2)化学療法と自分の疾患の関係を理解し、納得して化学療法を受けることができる、(3)化学療法により起こりうる副作用、自分自身や生活への影響を知り、それらを最小限にするよう、対処方法を獲得できる、(4)得られた知識及び自分の入院中の体験の評価をもとに、退院後に起こる副作用や、自分自身や生活への影響を知り、起こりうる問題に対して効果的な対処方法を検討し、実施することができる、(5)継続した化学療法を行うことを受容できる、(6)自分自身が治療の主体として、疾患や治療とうまくつきあっていこうという意志・意欲を持つことができる、の6つを目標に、退院指導のための看護プログラム及び、パンフレットを作成した。6名の血液疾患患者(男性2名女性4名、平均年齢52.0歳)にプログラムを施行し、退院後1カ月後に質問紙により、プログラム、パンフレットともによくわかり、効果があったとの意見を得た。しかし、副作用などによる生活の困難は依然出現し、退院後の生活を困難にする大きな要因になっているため、この点を改善する方法を検討し、プログラムに取り入れる必要が示唆された。