著者
尾関 美喜 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.26-38, 2007 (Released:2008-01-10)
参考文献数
35
被引用文献数
4 3

本研究では大学生の部活動・サークル集団における迷惑行為の生起及び認知に組織風土と集団アイデンティティが及ぼす影響を検討した。組織風土を集団が管理されている程度である管理性と,集団内で自由に意見や態度を表明しやすい程度である開放性の2側面で構成した。組織風土と迷惑行為の生起頻度との関連を検討したところ,管理性が集団活動に影響を及ぼす迷惑行為の生起を,開放性が集団内の人間関係に影響を及ぼす迷惑行為の生起を抑制することが示された。また,組織風土と集団アイデンティティが迷惑の認知に及ぼす影響を検討した。この結果,集団活動に影響を及ぼす迷惑行為については,管理性と開放性の両方が高い集団(HH型)の成員は管理性が高く開放性が低い集団(HL型)・管理性が低く開放性が高い集団(LH型)の成員よりも迷惑度を高く認知した。さらに集団アイデンティティの強い成員は集団アイデンティティの弱い成員よりも迷惑度を高く認知した。集団内の人間関係に影響を及ぼす迷惑行為については,組織風土,集団アイデンティティともに迷惑度認知に影響を及ぼさなかった。
著者
新井田 恵美 堀毛 一也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.112-121, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
23

男性は女性よりも短期配偶志向が強いということは良く知られている。しかし,短期配偶には様々なコストがかかるため(たとえば「女ったらし」という評判がたつと,望ましい長期配偶相手を得られなくなるため),全ての男性が常に短期配偶をするわけではない。我々は,そうした評判に対するセンシティビティが高まったときには男性は短期配偶志向を抑えると予測した。この仮説を検討するため実験を実施したところ,評判に対するセンシティビティが低いときには男性の方が女性よりも短期配偶志向が強かったが,評判に対するセンシティビティが高いときにはそうなってはいなかった。ただし,この傾向は交際相手のいる参加者に限ってみられていた。評判が短期配偶志向に及ぼす効果について議論した。
著者
坂本 剛 野波 寛 蘇米雅 哈斯額尓敦 大友 章司 田代 豊
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.51-62, 2017 (Released:2017-09-07)
参考文献数
44

本研究は,自然資源の管理政策への協力意図に影響を及ぼす要因の効果を明らかにすることを目的として,資源と直接的な関わりの深い地域の住民と比較的関わりの浅い都市の住民による政策への協力意図に至る心理的過程を比較検討する。中国・内モンゴルの牧畜地域の草原管理を事例として,管理政策への協力意図に対して,手続き的公正感,信用度,法規性が与える影響を分析するために,全住民が牧畜に従事するA村(n=146)と大都市のフフホト市(n=262)で調査を行った。信用度から協力意図への影響は地域住民に顕著に見られる一方で,都市住民は草原管理に関わる行政の法規性を高く評価している場合,手続き的公正感による影響が減じられる「法規性の干渉効果」を示した。法規性の干渉効果について,主に法規性が偏重されることの弊害に注目をして考察を行った。社会的ガバナンスの前提となる多様なアクターの参加という条件のもとでは,結果的に,社会の多数派によって行政が持つ単一の価値のみが重視されるというパラドックスが発生する危険性が指摘された。
著者
早瀬 良 坂田 桐子 高口 央
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.104-115, 2013 (Released:2013-03-09)
参考文献数
38
被引用文献数
1

医療機関では,質の高い医療サービスの提供が求められている。本研究では,医療の質の指標の1つである患者満足度について,医療を提供する側である看護師と医療を提供される側の患者の両者の評価を用い,特に職種間の協力によるチーム医療に着目し,患者の満足度との関連を検討した。調査対象者は外来患者290名,入院患者205名,看護師108名であった。分析の結果,以下のことが示された。(1)外来患者は医師の接遇評価が肯定的であるほど,外来診療への満足度が高い。(2)入院患者は,病棟看護師の接遇評価および医療従事者間の連携評価が肯定的であるほど,入院生活への満足度が高い。(3)さらに,看護師が他者と協力して業務遂行しているという自己評価は,医療従事者間の連携に関する患者の評価を介し,患者の入院満足度を規定した。以上の結果から,質の高いサービスを提供するためには,看護師が他職種と連携することで,患者の満足度を高めることが重要である可能性が示唆された。
著者
原田 知佳 吉澤 寛之 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.122-136, 2009 (Released:2009-03-26)
参考文献数
42
被引用文献数
10 4

本研究は,社会的迷惑行為および逸脱行為といった反社会的行動に及ぼす自己制御の影響過程について,脳科学的基盤が仮定されている気質レベルの自己制御と,成長の過程で獲得された能力レベルの自己制御の2側面に着目し,気質と能力の因果関係を含めた包括的モデルの検討を行った。対象者は高校生・大学生の計641名であり,自己制御の気質レベルはBIS/BAS・EC尺度を,能力レベルは社会的自己制御(SSR)尺度を用いた。分析の結果,次の知見が得られた。(1)SSRの自己主張的側面はBIS/BAS,ECからの直接効果が示されたのに対し,自己抑制的側面はECからの直接効果のみが示された。(2)気質レベルよりも能力レベルの自己制御の方が,反社会的行動により強く影響を及ぼすことが示された。(3)社会的迷惑行為と逸脱行為とでは気質レベルの自己制御からの直接効果に差異が示され,前者はEC,BASからの直接効果,後者はBIS/BASからの直接効果が示された。(4)能力レベルの自己制御と逸脱行為との関連については,自己抑制と自己主張の交互作用的影響が認められ,自己抑制能力を身につけずに自己主張能力のみを身につけると,他者を配慮せずに自己中心的な行動を行う自己主張能力として歪んだ形で現われるために,逸脱行為に結びつきやすい傾向が示された。以上の結果に基づき,反社会的行動に及ぼす自己制御の影響過程,社会的迷惑行為と逸脱行為との相違点および共通点について議論した。
著者
中谷内 一也 大沼 進
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.187-200, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
37
被引用文献数
2 2

本研究の目的は, 千歳川放水路計画を取りあげ, 人々が環境リスクマネジメントの政策決定においてどのような合意形成のあり方を望むのかを検討することである。札幌市民から無作為抽出した成人324名を対象に質問紙調査を行った。調査結果から以下のことが明らかにされた。(1) 近傍一般市民の環境アセスメントへの広義の信頼を改善するためには, 事業者の不誠実な行為へのモニタリング機能を整備することが有効である。意図への期待が損なわれているときに, 専門的能力の高さをアピールしても効果はない。(2) 近傍一般市民が好意的に受け取る紛争解決方法はかなり強い当事者主義であり, 決定プロセスのどの局面においても利害関係者の意見を入れることを望む。これらの結果からもたらされるリスクマネジメント実務への示唆を検討した上で, さらに, 理論的な問題を議論した。
著者
野波 寬 蘇米雅 哈斯額尓敦 坂本 剛
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.116-130, 2014 (Released:2014-03-18)
参考文献数
32
被引用文献数
3 1

正当性とは,自他がコモンズの管理に関与する権利の承認可能性と定義され,その規定因として,法規などの制度にもとづく準拠枠である制度的基盤と,自他の専門性などへの主観的評価である認知的基盤が提起される。本研究では,内モンゴル自治区における牧民・行政職員・都市住民の間での,牧草地の管理権をめぐる正当性の相互承認構造を検討した。牧民が認知的基盤に依拠して自らの正当性を承認する一方,行政職員は制度的基盤より彼らの正当性を否認するなど,三者間には正当性の判断に不一致が見られた。コモンズの管理など多様な人々の利害にかかわる公共政策の決定において,正当性の相互承認に焦点をあてることの重要性について議論した。
著者
杉浦 仁美 坂田 桐子 清水 裕士
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.101-111, 2015 (Released:2015-03-26)
参考文献数
35
被引用文献数
1

本研究の目的は,地位格差のある集団間状況において,集団間葛藤が生起する過程を明らかにすることである。そのため,内集団バイアスに着目し,集団間の相対的地位と集団間の関係性,集団内での個人の地位が,内集団,外集団メンバーの評価に及ぼす影響について検討した。大学生120名に対して,集団間地位と集団内地位を操作した実験を行った。その結果,高地位集団では,高地位者よりも低地位者のほうが,外集団メンバーの能力を低く評価することが明らかとなった。逆に,低地位集団では,低地位者よりも高地位者のほうが,外集団の能力を低く評価していた。また,この交互作用は,集団間の関係を非協同的であると認識する者においてのみ見られた。これらの結果から,集団内地位と集団間地位の高さが異なり,個人間比較と集団間比較のジレンマが生じる状況では,補償的に外集団を卑下する戦略が用いられる可能性が示唆された。
著者
加藤 謙介 渥美 公秀 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.155-173, 2004 (Released:2004-04-16)
参考文献数
39
被引用文献数
2 3

本研究では,高齢者に対するロボット介在活動(Robot Assisted Activity: RAA)の事例を取り上げ,RAAを,ロボットをめぐる物語の共同的承認の過程であるとして検討した。筆者らは,有料老人ホームに入所する高齢者を対象とした,ペット型ロボットを用いたRAAを実施し,参与観察するとともに,RAA実施中における参加者群の相互作用を,定量的・定性的に分析した。定性的分析の結果,RAA時には,対象となった高齢者のみではなく,施設職員やRAAの進行係等,RAAの参加者全員が,ペット型ロボットの挙動に対して独自の解釈を行い,それを共同的に承認しあう様子が見出された。また,定量的分析の結果,RAA実施中における参加者群の「集合的行動」のうち,最も頻度が多かったのが,「ロボットの動きを参加者群が注視しながら,発話を行う」というパターンであることが明らかになった。筆者らは,RAAを,参加者によるロボットの挙動に対する心の読み取り,及びその解釈の共同的承認を通して物語が生成され,既存の集合性とは異なる集合性,<異質性>が生成される過程であると考察した。
著者
田島 司
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.145-155, 2001-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
41

本研究の目的は, 日常生活における対人関係が実験場面における内集団バイアスと協力行動とに与える影響を検討することである。87名の女性の調査対象者は, 日常での対人関係に関するいくつかの質問に回答するよう求められた。その回答によって, 他者との同一化の程度と, 自己の役割を顧みている程度が測定された。実験参加者は無作為に2つの集団のどちらか一方に所属するよう割り振られ, その後集団成員の属性について評価するよう求められた。また, 被験者は社会的ジレンマ状況におかれ, 100ポイントを自己と内集団とに対して分配するよう求められた。実験の結果は以下の通りである, (a) 能力評価における内集団バイアスは家族との同一化と負の相関関係にあった, (b) 協力的分配は家族での自己の役割を顧みる程度と正の相関関係にあった。
著者
吉田 綾乃 浦 光博
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.120-130, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
30
被引用文献数
6 3

自己卑下呈示を通じて適応が促進される過程は2つある。ひとつは自己卑下呈示を行うことそれ自体によって適応が直接的に促進される過程であり, もうひとつは自己卑下的に呈示した内容を他者から「そんなことはない」と否定する反応を受け取ることによって, 間接的に適応が促進される過程である。このような影響過程は, 自己卑下呈示規範を内在化する程度によって調整されることが考えられる。自己卑下呈示に対して他者が返す“否定反応”は, 受け手がその呈示を“卑下”として受け取ったことを示している。自己卑下呈示規範内在化高群は, 自己卑下呈示を行う際に否定反応が返されることを当然視しているが, 低群はそのように見なしていない。そのため, 低群にとって自己卑下呈示に対して“否定反応”が返されることが重要であると考えられる。本研究では, 3ヶ月の期間をおいた縦断的な調査において, 自己卑下呈示規範内在化高群では直接的な適応促進効果が見れるのに対して, 低群では間接的な適応促進効果が見られるだろうと予測し, 検討を行った。仮説はおおむね支持された。考察では, 直接的・間接的な効果が, 対人間適応あるいは個人内適応のいずれに影響を及ぼしていたのかを明らかにする必要性について論じられた。
著者
正木 郁太郎 村本 由紀子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.12-28, 2017 (Released:2017-09-07)
参考文献数
39
被引用文献数
3

本研究の目的は,日本社会の特徴を踏まえたダイバーシティ風土の類型化を行った上で,組織制度との関係や,その機能を検討することである。多様な企業に勤める社員618名を対象にオンライン調査を実施し,その結果を分析した。第一に,ダイバーシティ風土として5因子からなる質問項目を作成し,各因子と組織の人事制度の関係を検討した。その結果,柔軟な働き方を促す制度(短時間勤務やフレックスタイム勤務など)がダイバーシティ風土の高さと関係していた一方で,育児休暇制度などの一部の制度には,正負両面の複雑な関係が見られた。第二に,ダイバーシティ風土が持つ,職場の性別ダイバーシティの心理的影響の調整効果を検討した。分析の結果,一部のダイバーシティ風土の知覚が弱い場合には職場の性別ダイバーシティが離職意図や,低いワークモチベーションにつながっていた。これらの結果は,多様な働き方を受容する風土の醸成が重要であることを示唆している。
著者
鈴木 有美 木野 和代
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.125-133, 2015 (Released:2015-03-26)
参考文献数
39
被引用文献数
1 3

本研究は,ウェルビーイングの検討において共感性を考慮する重要性に着目し,特に共感性の感情的側面である共感反応の他者指向性―自己指向性の違いに焦点を当ててウェルビーイングにおける差異を検討した。大学生210名を対象とした相関分析の結果から,他者指向的な共感反応傾向および社会的スキルの高い者ほど日常生活や対人関係で満足している一方,自己指向的な共感反応傾向が高く社会的スキルの低い者ほどディストレスの多い傾向が明らかとなった。また,他者/自己指向的な共感反応および社会的スキルにより分析対象者を4クラスタに分類し,ウェルビーイングの差異を検討した分散分析では,他者指向的な共感反応傾向が高く,自己指向的な共感反応傾向が低く,社会的スキルの高いクラスタのウェルビーイングが良好であった。これらにより,自身のウェルビーイングを維持するためには,社会的スキルが高いというだけでなく,他者指向的に共感すると共に自己指向的に共感しない重要性が示された。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.198-210, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
29
被引用文献数
1 5

本論文は,環境,医療,防災,福祉,土木など多くの分野で,専門家と非専門家(一般の人びと)との間の「対話」が重要視されている現状を踏まえ,新たな対話形態として「終わらない対話」というあり方を提示しようとするものである。まず,「終わらない対話」を実現しようとした具体的な試みとして,矢守・吉川・網代(2005)が開発した「クロスロード」と呼ばれるゲーミング技法について紹介した。次に,歴史的な意味でも論理的な意味でも,「終わらない対話」に先行する対話形式として位置づけることができる「真理へと至る対話」,「合意へと至る対話」の2つに言及し,これら2つの対話形式との異同を通じて「終わらない対話」の性質を明確化した。さらに,「クロスロード」を活用した防災実践活動における対話の特徴をルーマンのリスク論に依拠して考察し,「クロスロード」が「終わらない対話」に結びつく根拠を理論的に示した。最後に,「クロスロード」は,「終わらない対話」のみならず,上述の3つの対話形式をすべて包含した重層的な対話メディアであり,専門家と非専門家との対話には,今後,こうした重層的なメディアやアプローチが不可欠であることを指摘した。
著者
宮前 良平 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.122-136, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
54
被引用文献数
1

東日本大震災以降,津波で被災した写真を持ち主に返す被災写真返却活動が生まれ,それに関する研究が行われるようになった。しかし,それらの先行研究において被災者に焦点を当てた研究は,依然として存在しない。また,写真は,災害以前の何気ない日常を写したものであるが,復興研究において災害以前の語りや想起に着目した研究は少ない。そこで本研究は,被災写真返却活動の現場において,震災以前に撮影された被災写真や,それを返すという取り組みが被災者にいかに作用するのかについて明らかにすることを目的とする。本研究は,東日本大震災の被災地の1つである岩手県九戸郡野田村で開催されている「写真返却お茶会」への1年以上に及ぶフィールドワークに基づいて行われた。そして,フィールドワークの内容を4編のエスノグラフィにまとめた。その結果,被災者が復興の過程において,津波による物理的な喪失という第1の喪失だけでなく,その第1の喪失すら失われていくという第2の喪失を経験していることが確認された。さらに,第2の喪失に対して写真返却活動がいかに抗しているかについて,「集合的記憶」と「非意図的想起」を用いて考察した。
著者
柳澤 邦昭 西村 太志 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.89-102, 2010 (Released:2010-08-19)
参考文献数
29
被引用文献数
3 4

本研究では,親しい他者,親しくない他者を選択する際の特性自尊心の影響について,および選択における社会的拒絶の調整効果について,杉浦(2003)の説得納得ゲームを用いて検討した。ゲームは90名の大学新入生を対象に実施した。ゲームの特徴を利用し,説得者が説得した人数を従属変数として,セッション1(S1)とセッション2(S2)の説得者を別々に分析した。その結果,S1の他者選択(すなわちゲーム開始直後)では,高自尊心者は低自尊心者よりも親しくない他者との相互作用を多く選択することが示された。同様の効果は,親しい他者の選択においては認められなかった。このような自尊心の影響に加え,S2の他者選択では,S1納得者の際に他者から相互作用を求められる頻度,すなわち社会的拒絶の経験の有無によって,他者選択が調整されることが示された。特に,拒絶を経験した群において,高自尊心者は低自尊心者よりも親しくない他者を積極的に選択することが示された。このような効果は拒絶を経験していない群においては認められなかった。さらに,親しい他者の選択においても認められなかった。これらの結果を踏まえ,特性自尊心が社会的状況における対人選択に及ぼす影響について,さらに社会的拒絶が及ぼす影響について議論された。
著者
堀毛 一也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.116-128, 1994
被引用文献数
12 10

本研究では, これまで行われてきた異性関係スキル研究の問題点を整理するとともに, 1) 異性関係スキルの分類および基本的スキルとの関連性の検討, 2) 関係の発展・崩壊とこれらのスキルの関連性の検討という2点を目的とした調査研究を行った。そのためにまず, 現在進行中の恋愛体験について, 熱中度や, 類似性, 重要性などいくつかの項目で評定を求めた。また, 過去の失恋体験についても, ショックの大きさ, 関係から得た自信などについて評定を求めた。同時にオリジナルに開発した社会的スキル尺度 (ENDE2) と異性関係スキル尺度 (DATE2) により, 基本スキルと異性関係スキルの測定を行った。因子分析の結果, ENDE2では, 男子4因子, 女子3因子が得られた。このうち記号化スキルと解読スキルはどちらにも共通に含まれていた。DATE2の分析からは, 男子7因子, 女子6因子が抽出された。2つのスキル間の関連性を検討したところ, 女子では記号化・解読スキルと異性関係スキルの問に中程度の相関が見られた。一方男子では, 基本スキルのそれぞれが, 異性関係スキルの諸因子と別個の相関を示していた。この結果は, デート場面でイニシアチブを求められることにより, 男子は多様なスキルを早めに高め, 状況に応じて使い分けることが必要になるものと解釈された。<BR>また, 現在進行中の恋愛関係とスキルの関連を分析した結果, 異性・基本スキルとも関係の発展と共に高まる傾向が示されたが, その発展の過程には明確な性差がみられた。男性は, 発展の初期に相手への情熱を高め, スキルを洗練させてゆく傾向があった。これに対し, 女性は相手の特性を慎重に検討し, 関係が重要であるという認識を得た後に, 急速にスキルを発展させることが明らかになった。さらに, 過去の失恋体験もスキルの向上に影響しており, 男性では過去の失恋から得た自信やショックの大きさがスキルの向上と有意な関連をもっていたのに対し, 女性では自分から強い愛情を示しながら失恋した場合にはスキルが高まるが, それ以外に過去体験との関連はみられなかった。これらの知見はこれまでの恋愛や失恋に関する研究結果を支持するものと考えられる。
著者
坂元 章 三浦 志野 坂元 桂 森 津太子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.87-101, 1995-07-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
20

本研究の目的は, 通俗的心理テストの結果のフィードバックが, 人々の, 自己イメージ, 更には, 行動に影響するかどうか, また, その影響の強さが, 学術的な心理テストのそれと異なるかどうかを検討することであった。筆者たちは, 1つの実験を行い, 64名の女子の被験者を2つの群に分け, 1つの群には通俗的心理テストに回答させ, もう1つの群には学術的心理テストに回答させた。そして, それぞれの群の半分には, 外向性の偽のフィードバックを与え, もう半分には, 内向性の偽のフィードバックを与えた。実験の結果は, 外向性のフィードバックを受けた被験者が, 内向性のフィードバックを受けた被験者に比べて, 自分は外向的であると考え, 初対面の人物 (サクラ) に対して外向的に行動するようになることを示した。そして, この行動に対する影響の程度は, 通俗的心理テストと学術的な心理テストの間で同じであった。これは, 通俗的心理テストの結果のフィードバックが, 学術的心理テストのそれと同じ程度に, 人々の行動に影響し, 自己成就現象を引き起こしうることを示唆している。実験の結果は, また, 通俗的心理テストと学術的心理テストは, 行動への影響では違いがないが, 心理的安寧への影響では違いがあることを示した。通俗的心理テストのほうが, 学術的心理テストよりも, 心理的安寧を与えていた。また, 筆者たちは, 補足的調査を行って, それぞれのフィードバック文の特徴を調べた。
著者
中村 雅彦
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.132-146, 1991-11-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
31
被引用文献数
4 2 7

The purpose of this study was to investigate how heterosexual interaction including cognitive and behavioral aspects varies in terms of love styles, satisfaction, and commitment. A questionnaire survey was conducted for one hundred and fifty two college students who were engaging in romantic relation-ships. Respondents answered measures on their current interaction, and on perceived similarity with their partner. They had also rated love style measure based on Lee (1977) 's typology of love, and social exchange measures incuding satisfaction and commitment with partner. Multiple regression analyses showed that Erotic love style was dominant in romantic relationship. That is, Eros was positively afected by exchanges of self-disclosure, giving money and goods, meta-commnication, and perceived similarity. Those results were generally consistent, regardless of respondents' gender, relationship length, and intimacy status. It was also revealed that commitment for partner was generally determined by self-investment, relationship satisfaction and CLalt, supporting the prediction from Rusbult (1983) 's investment model. On the other hand, equity of outcomes had little effect for satisfaction, and commitment.
著者
菊地 雅子 渡邊 席子 山岸 俊男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.23-36, 1997-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
46
被引用文献数
20 20

他者一般の信頼性についての信念である一般的信頼の高さが必ずしもその人の騙されやすさを意味しないというRotter (1980) の議論, および高信頼者は低信頼者よりも他者の信頼性 (ないしその欠如) を示唆する情報により敏感であるという小杉・山岸 (1995) の知見を, 情報判断の正確さにまで拡張することによって導き出された「高信頼者は低信頼者に比べ, 他者の一般的な信頼性についての判断がより正確である」とする仮説が実験により検討され, 支持された。この結果は, 他者一般の信頼性の「デフォルト推定値」としてはたらく一般的信頼の高低と, 特定の他者の信頼性を示唆する情報が与えられた場合のその相手の信頼性の判断とは独立であることを示している。すなわち, 高信頼者は騙されやすい「お人好し」なのではなく, むしろ他者の信頼性 (ないしその欠如) を示唆する情報を適切に処理して, 他者の信頼性 (ないしその欠如) を正確に判断する人間であることを示唆している。最後に, 社会環境と認知資源の配分の観点からこの知見を説明するための一つのモデルが紹介される。