著者
野澤 雄樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.131-148, 2019-03-30 (Released:2019-09-09)
参考文献数
109

テストが測定対象とする学力が,基礎的な知識・技能を中心としたものから高次思考スキルを重視したものに移行するのに伴い,受験者に解答の生成を求める形式の項目が多用されるようになってきている。この傾向は歴史的に選択式項目が広く用いられてきた米国において顕著であるが,国内においても,大学入学共通テストで部分的に記述式項目が出題されることになるなど,類似した動きが見られる。一方で,記述式項目を含んだテストの運用にはさまざまな課題が存在しており,それらを解決するために教育測定の理論面および実践面での強化が求められる。本稿では,記述式項目を使用する際に考慮すべき教育測定学的なテーマのうち,(a)項目形式が測定に与える影響,(b)記述式項目を含んだテストにおける等化,(c)テストの使用がもたらす結果の検証,の3つを取り上げた。これらのテーマは,国内では議論されることが少ないものの,妥当性との関連が深い重要なテーマである。各テーマについて,研究が進んでいる米国での議論を参考に,今後必要となる研究について考察した。全体考察では,日米の違いや,国内の教育測定学が抱える課題について指摘した。
著者
山本 博樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.46-62, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
85
被引用文献数
3

本稿の目的は,2015年7月から2016年6月末までの1年間を中心に,教授・学習研究の動向を概観し,今後の展望を考察することである。授業の中ではたくさんの教師が説明実践に本質的な問題を抱えていることに加えて,説明実践にかかわる問題が教授・学習領域に要請された重要な研究課題となっている。それ故,説明実践に焦点をあてて,説明実践の支えになると考えられる教授・学習領域の1年間の動向を概観する。概観にあたっては,説明実践を支援モデルの観点から捉えて,次の5つの節に分けて検討したい。それらは,1) 授業での説明の役割,2) 授業中の理解不振・学習不適応,3) 説明方略・理解方略,4) 教科に即した説明実践,5) 説明力の育成,である。これらの概観を過去30年にわたる研究動向の中に意味づけた上で,今後の展望を示す。最後に,説明の原点に立ち返り,説明実践が抱える難題を示し,この解決に資する研究推進上の原則を示したい。本稿を通して,教授・学習研究が説明実践の支えになるという可能性を提示する。
著者
上原 泉
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.1-13, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
40
被引用文献数
1

本稿では,教育心理学会第55回総会と,2012年7月から2013年6月末までに『教育心理学研究』『発達心理学研究』『心理学研究』『Japanese Psychological Research』で発表された乳幼児に関する研究の動向を3つの領域に分けて概観した。乳幼児の認知発達に関する研究の関心は,主に,非言語的な認知,言語,数,社会性であり,養育者や保育者が関連する研究の関心は,主に,子どもの自己制御機能,子どもの認知・行動と養育者の接し方との関連,養育者や保育者の認識・行動であった。保育・教育環境に関する研究の関心は,主に,幼児期の保育・教育のあり方や保育の質であった。これらの知見の学術的意義と教育的意義について述べた。最後に,教育心理学会ならではの教育的視点から,多岐にわたる知見を統合する必要性について論じた。
著者
瀬野 由衣
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.8-23, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
81
被引用文献数
1 3

本稿では,2015年7月から2016年6月までの1年間に発表された,日本における乳幼児期と児童期を対象とした研究を概観した。対象とした主な研究は,『教育心理学研究』『発達心理学研究』『心理学研究』『Japanese Psychological Research』『日本教育心理学会第58回総会論文集』に掲載されたものである。日本教育心理学会第58回総会においては,乳幼児期,児童期ともに昨年度と同様,「他者とのかかわり」を研究テーマに含む研究発表が多い傾向がみられた。本稿では,論文の著者が「どのような他者とのかかわりを想定しているのか」を筆者なりに推測し,幼児期と児童期の研究を分類した。最後に,幼児期と児童期の研究の共通性と相違点について考察し,今後の展望について述べた。
著者
やまだ ようこ
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.146-161, 2000
被引用文献数
7

この論文では, 最近のライフストーリー研究を展望し, 特に生涯発達心理学の観点から, 理論的・方法的問題を論じる。第1に, 「物語」は「2つ以上の出来事をむすびつけて筋立てる行為」と定義される。人生の物語とは, 意味づける行為であり, 人生経験の組織化である。第2に, 人生の物語は, 静態的構造ではなく, 物語の語り手と聴き手によって共同生成されるダイナミックなプロセスとしてとらえられる。特に, 物語の「語り直し」は, 人生に新しい意味を生成する行為として重要だと考えられる。私たちは, 過去の出来事を変えることはできないが, 物語を語り直すことによって, 過去の出来事を再構成することが可能になるからである。第3に, 「物語としての自己」の概念は, アイデンティティやジェネラティヴィティ(生成世代性)の概念と関連づけられる。人生の物語を語ることは, 現世代から, 次の世代や未来世代へのコミュニケーションの重要な道具となる。
著者
松田 修
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.238-243, 2013 (Released:2013-10-30)
参考文献数
9
被引用文献数
1
著者
家近 早苗
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.122-136, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
75
被引用文献数
2

本稿は, 2015年7月から2016年6月までに日本で発表された論文や著書等における学校心理学に関する研究を中心にその動向を概観した。その結果, 今年度の学校心理学分野の研究は, 学校生活で困難さを持つ子どもへの支援である二次的・三次的援助サービス(いじめ・不登校・学校適応)に関する研究が多く見られたが, その他にも一次的援助サービスである「授業づくり・心理教育」, 「援助サービスの担い手の連携」, 「教師の成長」などが研究されていることが理解できた。そして, これらの研究は, 「チーム学校」の3つの提案を支え, 促進する可能性があることが見出された。一次的援助サービス「授業づくり・心理教育」の研究は, アクティブ・ラーニングなどの概念の明確化や指導方法, それを支える子どものコミュニケーション力などに貢献し, 二次的・三次的援助サービス(いじめ・不登校・学校適応)の研究は困難さを持つ子どもの学校生活への適応に貢献する。「援助サービスの担い手の連携」の研究は, 教師と専門スタッフの連携・役割を示すことで体制づくりに貢献する。さらに「教師の成長」の研究は, 「チーム学校」における人材育成に貢献する可能性がある。
著者
中間 玲子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.79-97, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
139
被引用文献数
3

2015年7月から2016年6月までの1年間の間に発表されたパーソナリティに関する研究の概観を通して, わが国におけるパーソナリティに関する研究の動向をとらえ, 今後の研究の在り方の展望を論じた。諸研究は特定の行動との関連における個人差についての研究, 適応に関する研究, パーソナリティの構成要素や概念の再評価に関する研究, パーソナリティの形成や発達に関する研究, の4つの枠組みから整理され, それぞれの動向について, その特徴と課題が論じられた。パーソナリティ研究全体の動向としては, 一対の両極とされがちな事象を対極ではなく独立した次元においてとらえる研究が少なからず見られたこと, 尺度作成が多いこと, 一方で, 尺度の精選や自記式以外の測定法の探究なども見られたということ, 個人の生活世界の要因を組み込んだ形で検討する研究が多くなっているということ, の3点が挙げられた。今後の研究の在り方として, 研究の問題設定におけるレベルの多様化, 文化的要因を組み込んだ研究のさらなる発展, プロジェクト型の研究の増加, の3点が展望された。
著者
佐藤 有耕
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.24-45, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
209
被引用文献数
5

本稿は,国内で発表されたこの1年間の青年期を中心とした発達的研究を概観し,青年期以降の発達的研究の動向を報告し,今後の展望を試みることを目的とするものである。目的に従い,第1に日本教育心理学会第58回総会発表論文集(2016年・香川大学)を総覧し,第2に2015年7月から2016年6月までに発表された国内学会誌6誌を概観した。青年期以降を対象とした発達研究は,複数の年齢層を対象とした研究,特定の年齢層を対象とした研究,展望・理論論文に分けて報告した。また,学会誌論文については領域についての分類も行い,A. 自己に関わる対自的側面の領域,B. 自己以外の他との関係である対他的側面の領域,C. 社会への移行である就職活動も含めた時間的展望の側面の領域,そしてD. 学校・学習と職場に関連する領域,E. 健康・適応に関連する領域とした。各領域において,発達的特徴,発達的変化,発達的な過程に関する研究知見が得られていた。また,過去の展望論文で指摘されていた課題や今後の方向性は現在の研究動向にも通じるものであり,今後の発達的な研究にも求められる方向性であることが確認された。