著者
岡田 涼
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.151-171, 2022-03-30 (Released:2022-11-11)
参考文献数
157

本論文では,日本での自己調整学習とその関連領域における研究の動向を明らかにし,今後の研究の方向性を明らかにすることを目的として研究レビューを行った。特に,近年の学校教育において自己調整学習への関心が高まっていることに鑑み,小学生から高校生を対象とした研究に焦点をあてた。2011年以降に日本の主要雑誌に掲載された論文を検索し,52論文を抽出した。レビューの結果として,(a)小学生から高校生までを対象とした研究があり,英語や算数・数学における研究が多いこと,(b)自己調整学習の主要な要素であるメタ認知,動機づけ,学習方略のいずれも研究の対象となっているものの,3つの要素すべてを扱っている研究は少ないこと,(c)自己調整学習の要素を用いて学業成績を予測するような調査研究から,介入によって自己調整学習を促そうとする実践的な研究まで幅広くみられること,が明らかになった。日本における今後の研究の方向性として,自己調整学習の理論と教育実践とのつながりをもつ研究が増えていくことが予想される。そのなかで,「理論をもとに実践を創る研究」と「理論をもとに実践を切り取る研究」の2つの方向性を示唆した。
著者
杉本 希映
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.81-99, 2022-03-30 (Released:2022-11-11)
参考文献数
124

本稿は,2020年7月から2021年6月末までの1年間に,『教育心理学研究』に掲載された論文(第68巻第3号―第69巻第2号),日本教育心理学会第62回,第63回総会において発表された研究を中心に,104本の研究発表,論文の動向を臨床心理学的問題と臨床心理学的援助,臨床心理学主要5領域の視点から分類し概観した。そのうえで,研究方法と研究環境についての課題を述べるとともに,今後発展が期待される領域やテーマについて論考した。
著者
深谷 達史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.30-46, 2019-03-30 (Released:2019-09-09)
参考文献数
95
被引用文献数
2

本稿では,2017年から2018年に『教育心理学研究』に掲載された論文と,2018年9月に開催された日本教育心理学会第60回総会で発表された研究を中心に,近年の教授・学習・認知研究を概観した。レビューの一つの視点として「主体的・対話的で深い学び」に立脚し,子ども(学習者)の学びに関する知見を,主体的な学び,対話的な学び,深い学び,それぞれに関連する研究と,3つの学びを統合した授業デザインに関連する研究とに分け,整理した。また,新学習指導要領の理念を実際の教育として実現するためには,教師研究が重要となることから,大人(教師)の学びに関する知見をもう一つの視点として設定し,レビューを行った。その上で,(1)教師研究は重要であるにもかかわらず,本領域において数多くなされているとはいえず,教師の学びを明らかにするような更なる発展が望まれること,(2)実践への関心が高まっているにもかかわらず,実践カテゴリーの論文数は増えておらず,研究者が実践の機会を持つなど実践研究を行う基盤を構築する必要があることなど,今後の研究を進める上での課題と展望が示された。
著者
田上 不二夫 山本 淳子 田中 輝美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.135-144, 2004-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
77
被引用文献数
8 5

本論の目的は, 教師のメンタルヘルスに関わる研究を教師のストレスに焦点をあてて概観し, 今後の課題について検討を行うことである。はじめに, 教師のストレスに影響を及ぼす要因を, その職業の特性から3つ (職業の特殊性, 個人特性, 環境の特異性) に分類し, 概観した。そして, 要因間に複雑な関連はあるものの, 教育現場へのより具体的な提言を可能にするために, ある特別で限定された側面に焦点をあてた研究が必要であることや, 教師のストレス反応を引き起こす過程を明らかにするような研究が必要であると論じた。次に, 教師や学校組織によるストレス軽減のための方法について検討している研究を, その取り組みの形式から2側面 (教師のスキル向上と学校組織の再構成) に分類して概観した。最後に, 組織・個人双方向からのアプローチの重要性を指摘するとともに, 地域や学校関連機関との連携に関する研究の必要性について論じた。
著者
渡辺 弥生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.126-141, 2015 (Released:2015-08-25)
参考文献数
82
被引用文献数
4 4

ソーシャル・スキル・トレーニングやソーシャル・エモーショナル・ラーニングは,もはや,子ども達の社会性や感情の側面のみの成長を視野にいれ,子ども達だけに働きかける単なるアプローチではなくなりつつある。むしろ,学校における問題や想定されるあらゆる危機を予防するユニヴァーサルな支援である。子ども達や学校に関わるすべての人たちの支援だけでなく,安心し楽しく伸びやかに過ごせる学校風土を創成することがめざされているからである。したがって,このユニヴァーサルなアプローチは,比喩的に言えば,学校危機が生じても予防できる回復力や免疫力を持てるように導入されつつある。近年,こうした背景を受けて,向社会性をめざした「より良い(prosocial)」や道徳教育に焦点を当てた「より善く(moral)」だけでなく,学校スタッフすべての至福(Well-being)を掲げる「より健康に(healthy)」をめざすようになっている。学校予防教育は,今後ますます健全な学校風土に必要不可欠である学習環境を確立し保持していくために,包括的な教育実践に発展していくであろう。
著者
長南 浩人
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.112-122, 2018-03-30 (Released:2018-09-14)
参考文献数
58
被引用文献数
2 2

本稿は,2016年7月から2017年6月末までの1年間で発表された特別支援教育における教育心理学に関する研究の動向を概観したものである。発表論文について数的な分析を行った結果,近年の発表件数に減少傾向が見られた。また聴覚障害児教育に焦点を当て研究動向を分析した。その結果,音声言語の習得に関する指導法については,バイリンガルろう教育や人工内耳装用児の育ちの実態から,発達早期の段階から音声を利用して指導する方法やキュードスピーチが再び評価されていることが示唆された。また,認知発達や家族心理についても概観し,これらを踏まえて今後の展望を述べた。
著者
小山 義徳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.28-42, 2020-03-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
59
被引用文献数
1

本稿は,この数年の間に発表された,日本教育心理学会における教授・学習・認知領域における研究を概観し,この分野における成果を紹介した。本稿の対象としたのは2018年7月から2019年6月末までに『教育心理学研究』に掲載された論文及び,2019年9月に日本大学で開催された日本教育心理学会第61回総会で発表された内容である。本稿では,『教育心理学研究』に掲載された研究と,総会で発表された研究を分けて紹介し,学会誌におけるトレンドと学会発表のトレンドが明らかになるように構成した。また,「探究的な学習」に関する理論やエビデンスとしてどのような研究があるかを検討した。その結果,「探究的な学習」に関する研究があまり多く行われていないことが明らかになった。そのため,最終節では,特に「疑問生成」にフォーカスして,教育心理学の「探究的な学習」への展開可能性について述べた。
著者
保坂 亨
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.157-169, 2002-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
74
被引用文献数
1 2

本論文では, 不登校をめぐる歴史・現状・課題を, 不登校に関わる用語の変遷を含めたその定義の問題とこれまでの不登校研究の問題点というふたつの面から展望した。1 研究上の用語としての「学校恐怖症」「登校拒否」「不登校」を歴史的経緯に沿って整理し, 長期欠席調査の中に位置づけられる文部省調査の「学校ぎらい」の定義との違いを指摘した。現在ではより包括的な「不登校」がよく使われているが, その背景として, 典型的な類型 (たとえば神経症的登校拒否や怠学) がはっきりしないという臨床像 (実際の子どもたち姿) の変化が考えられる。2 不登校研究の問題点として,(1) 基本統計と実態の乖離,(2) 追跡調査の欠如,(3) 学校環境に関する実証的研究の不足,(4) 学校の事例研究がないことの4点を取り上げて概観した。そのうえでとりわけ不登校と学校環境の関連を複合的にとらえていく学校の事例研究を行っていくことが今後の課題であることを指摘した。
著者
佐々木 淳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.101-115, 2016 (Released:2016-08-12)
参考文献数
76
被引用文献数
1

本稿は, 本邦における臨床心理学の動向と課題, そして2014年7月から2015年6月末までの1年間での本邦の臨床心理学に関する研究の概観という2つの話題を扱っている。前半部では, 1997年以降の『教育心理学年報』の臨床部門の論文から, 臨床心理学のあるべき姿について確認した。そして, 臨床心理学の知見の意味理解の重要性を指摘し, エビデンス・リテラシーの教育と事例研究の必要性を論じた。また, 専門家を対象とした研究への期待を述べた。後半部では, 4つの学術雑誌から45の論文をレビューして紹介した。
著者
田中 志帆
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.74-91, 2020-03-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
85
被引用文献数
1

本稿では,2018年6月から2019年6月まで(一部2017年を含む)に発刊された,臨床心理学領域の論文を概観した。まず,初の国家資格者である「公認心理師」が誕生した年であるため,臨床心理学の各学派と職域で,心の健康についての共通認識を持つことが重要な課題であることを論じた。次に日本教育心理学会第61回総会の研究報告とシンポジウムについて述べ,続いて臨床心理学分野の主要5領域ごとに,7つの学会誌に掲載された65本の学術論文の内容と意義について論じた。選定にあたり,国民の心の健康の保持増進に役立つもの,社会的に周知する意義のあるものを基準とした。そして,臨床心理学の研究において,心の健康の理解と探索のためには,「獲得と受容」「個と集団の相互作用の健全化」「心身の安全と主体性の保障」の3つの観点が重要であることを述べた。
著者
西林 克彦 宮崎 清孝 工藤 与志文
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.202-213, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
33

本論文は2011年から2014年に実施した教育心理学会の研究委員会企画シンポジウムである「教科教育に心理学はどこまで迫れるか」の企画者による教育心理学研究の現状に対する問題提起である。現在の心理学的な教科教育研究では「どう教えるか」という方法のみが焦点化され, 「何を教えるのか」, つまり扱われる知識とその質の問題は教科教育学の扱うべきもので心理学的研究とは無関係とされる。しかし扱われる知識の質を抜きにした心理学的研究は, 実践的な有効性を欠くのみならず, 理論的にも不十分なものになるだろう。扱う知識内容と教える方法は相互作用をするため内容別に方法を考えなければならない, というだけのことではない。授業に臨む個々の教師が, 個々の教材についてその時々に持っている知識の質のあり方を, 教授学習過程の研究に取り込んでいかなければならない。このためには, 特定の授業者が特定の知識内容についておこなう特定の教授学習過程から出発する「ボトムアップ的実践研究」が必要になるだろう。ボトムアップ的アプローチでも科学としての普遍性を求める研究は可能であり, それは教授学習過程について新しい知見を生み出していく可能性を持っている。
著者
田村 節子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.168-181, 2002

学校生活において子ども達は,学習面,心理・社会面,進路面,健康面にわたる多様な援助ニーズをもっている。スクールカウンセラーが,子ども達の援助ニーズに応えるためには,学校心理学に基づく心理教育的援助サービスの理論体系(石隈,1999)が多くの示唆を与える。本稿では,学校心理学を枠組みとしてスクールカウンセラーが実践したコア援助チームの事例を取り上げ,心理教育的援助サービスについて考察した。コア援助チームとは"教師・保護者・コーディネーター(スクールカウンセラーなど)が核になり,他の援助資源を活用しながら定期的に援助する心理教育的援助サービスの形態(田村,1998)"である。コア援助チームでは,それぞれの異なった専門性や役割を生がしながら子どもの状況について検討し,今後の援助について話し合い,援助資源を生かして援助を行う。コア援助チームで行ったコーディネーションや相互コンサルテーションは有効であることが示唆された。さらに,援助資源の把握,アセスメント,援助の立案などのために作成した援助チームシート・援助資源チェックシートも有用であることが示された。
著者
上長 然
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.18-37, 2016 (Released:2016-08-12)
参考文献数
114
被引用文献数
5

本稿は, 日本において2014年7月から2015年6月までに発表された青年期・成人期・老年期を対象とした発達研究について概観したものである。1年間に発表された青年期以降を対象とした発達研究の動向を「自己」, 「対人関係」, 「適応と精神的健康」, 「進路・キャリア発達」, 「その他」の5つに分類し, 論評を行った。自己に関する研究では, 青年期のアイデンティティ発達に関する研究, 自己概念・自己評価に関する研究, 世代性や子育てに伴う心理発達に関する研究がなされていた。対人関係では, 夫婦関係の継続理由や夫婦関係と家族機能の関連を扱った研究が見られた。適応と精神的健康では, 学校行事や接続教育, いじめ, 非行といった学校生活・学校適応に関する研究が多く報告されていた。進路・キャリア発達に関する研究では, キャリア教育や職業意識の形成, 社会参加に関する発達的意義について論じられていた。その他としては, 青年期から老年期にかけての認知機能やパーソナリティの発達について報告されていた。最後に, 青年期以降の発達研究における展望とともに, 今後の課題について論じた。