著者
関田 一彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.158-164, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
31
被引用文献数
5 2

アクティブラーニングは今, 学習指導要領の改訂にともない, あらゆる校種で注目されている。ただし, アクティブラーニングと一口に言っても, 教師中心と学習者中心に分けることも, 知識定着型と能力育成型に分けることも可能であり, 分けて考えることは, 研究の意義を高める上で有益である。アクティブラーニングは能動的な学習を促す授業の総称であり, 様々な教育方法やアプローチを内包する傘概念である。したがって, アクティブラーニングそれ自体を研究するのは簡単ではない。実際, 特定の手法やデザインの方法や効果についての研究が主流である。中でも協調学習と協同学習は, アクティブラーニングに期待される, 主体的な学び, 対話的な学び, 深い学びを具現化する上で有力である。協調学習は対話的な学び, 深い学びを研究する舞台である。協同学習は主体的な学び, 対話的な学びの成果を探るための機会を提供してくれる。研究者には, 同音異義語の混用を避ける意味でも, 自らの研究的関心によって, 協同学習と協調学習を使い分けることが望まれる。
著者
山内 香奈
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.122-136, 2021-03-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
64
被引用文献数
2

本稿では,2019年7月から2020年6月までの1年間に『教育心理学研究』に掲載された29編のうち,有意性検定を用いた研究論文のサンプルサイズ設計に関する記述状況について概観した。その際,『心理学研究』,Japanese Psychological Research (JPR),Journal of Personality and Social Psychology (JPSP)のそれと比較し論じた。研究のサンプルサイズの根拠について何らかの記述がみられた論文の割合はJPSPが最も高く(93%),他の3誌(7―15%)の約8倍であった。また,検定力分析と同様,統計改革の柱である効果量や信頼区間が分析結果に併記されているかを調べたところ,概して4誌ともサンプルサイズ設計の記載より実践度は高く,JPSPでは対象論文全てにいずれかの記載がみられた。一方,『教育心理学研究』では効果量,信頼区間のいずれも記載がない論文が全体の44%を占め,実践度が最も低かった。最後に,『教育心理学研究』における統計改革の促進について,特にサンプルサイズ設計の実践の促進に向けた方策について筆者なりの見解を述べた。
著者
大塚 雄作 柴山 直 植阪 友理 遠藤 利彦 野口 裕之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.209-229, 2018-03-30 (Released:2018-09-14)
参考文献数
62
被引用文献数
1 1

現在進められている高大接続改革の進展の中で,「学力」をどう捉え,どう評価すべきかといった基本的な部分で,十分な理解が共有されているとは言い難いことをしばしば経験する。調査と選抜試験という評価・測定の目的の違いが安易に軽視されたり,形成的評価に適合する手法や,子どもに必要とされる非認知的要因などの評価が,短絡的に選抜における学力評価などに適用されようとしたりする。 評価・測定は,目的や対象にふさわしい評価手法を状況に応じて選択するということが重要であり,それは高大接続改革のみならず,教育心理学研究においても基本とすべきことである。本討論では,以下の諸点に関して,教育心理学研究の領域における研究事例を紹介しつつ論じていくこととする。(a)大規模学力調査において,目的と設計仕様との整合性の担保,個人スコアと集団スコアの使い分け,データ収集デザイン等が重要という点について。(b)日常的な学校教育実践において,どのような形成的評価が有効に機能するのかについて。(c)子どもの発達に影響を及ぼすと思われる人生早期に培われる「非認知」的な心の性質に関わる研究動向と課題について。
著者
大日向 雅美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.146-156, 2001-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
83
被引用文献数
3 2

本論文は, 子育てに対する危機感が強まっている今日の日本社会にあって, 心理学領域の母性研究が果たすべき課題について言及している。母性に対する研究は, 女性であれば誰にでも画-的に育児の適性があるとした従来の母性観を検証することを課題としてきた。昨今では, 育児支援の方途を求める社会的要請に応えるためにも, 母性研究への期待は大きい。しかし, 子育てはきわめて個別性の高い営みであり, 平均的, 公約数的な母親理解で対処できるものではない。かつてに比べれば, 研究テーマも母親にまつわる諸側面が対象とされるなど多岐にわたっているが, データの数量的な解析を主とする手法に依存する研究が大半を占めているという問題を指摘している。同時に子育てのあり方には時代の要請が大きく反映されるものであり, 研究視点の取り方や知見の解釈において時代のイデオロギー性に流される危険性が高い。子育てに対する社会的な関心は, 往々にして性急かつ単純な因果関係を求める。母性研究は社会的な要請に応えるという課題を担いつつも, 長期的複眼的な視点で親になる過程を検討する必要性を社会に提起する必要性を本論文は訴えている。
著者
丹野 義彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.157-168, 2001-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
44
被引用文献数
1

日本の臨床心理学は心理療法やカウンセリングの成果について量的なデータを持っていない。これはつクライエントの心理的症状について量的な記述をほとんどおこなわないためである。こうした点を克服するために, 科学者-実践家モデル (Scientist-Practitioner Model) の視点からいくつかの提案をした。第1に, 心理療法の成果について実証にもとつくアプローチを提案した。実証にもとつく臨床心理学の良いモデルとしては, アメリカ心理学会の心理的治療のガイドラインや, 実証にもとつく医学をあげることができる。実証にもとつく臨床心理学は, 臨床心理学とその関連領域が共同研究をおこなうための基本的なフレームワークとして機能しうる。第2に, 分類, 実施手順, テストバッテリの視点から心理アセスメントのスキーマを提案した。心理アセスメントを実施する際には, 受理面接・詳しいアセスメント・事例の定式化・治療仮説の形成・治療効果のポストアセスメントを含むべきである。第3に, 異常心理学を確立させることを提案した。異常心理学は臨床心理学とアカデミックな心理学のインターフェースとして機能する。
著者
松尾 直博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.165-182, 2016 (Released:2016-08-12)
参考文献数
51

日本の道徳教育は大きな転換点を迎えようとしている。小中学校において, 今まで領域とされていた道徳の授業が, 「特別の教科 道徳」として教科として位置付けられ小学校では平成30年度(2018年度), 中学校では平成31年度(2019年度)から実施されることとなった。道徳教育, 道徳科の授業の目標が明確化され, 効果的な授業についてもより開発の必要性が高まっている。近年日本で行われた道徳性や道徳教育に関わる研究を概観しつつ, その知見が道徳教育にどのように貢献できるかについて考察を行った。その結果, 道徳的判断, 子どもの道徳性の経年比較, 感情が道徳的認知に及ぼす影響, 共感, 海外の道徳教育, 道徳の授業実践に関する研究などが行われており, そのような研究の道徳教育への応用可能性について考察した。今後の展望として, さらなる基礎, 授業に関する実践研究などの必要性が述べられた。
著者
高橋 和子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.147-155, 2005-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
17

基本的な意思疎通に問題がないとされている高機能広汎性発達障害の子どもたちは, 学校などの健常児集団の会話の中では, 健常児が共通理解できる言外の話題の前提や文脈が分からず, 周囲から奇妙だと思われる発言をしたり, うまく会話に参加できなかったりするといった語用障害をもっている。そのため, 彼らには健常児集団内での会話支援を行う一方で, 高機能自閉症児の集団内でコミュニケーション・ソーシャルスキルの支援を行うことが効果的であると考えられる。しかし, 国内では, まだ彼ら仲間集団内で相互交渉を通してコミュニケーションを系統立てて支援した報告はほとんどない。また, 支援の結果, どのようなプロセスで子どもたちはコミュニケーションの破綻を修正し, 他者の心情を確かめたり, 自己の心情を伝えるようになるのかについても, 明らかにはされていない。本稿では, 小学5年生から中学1年生を中心にした10人の高機能広汎性発達障害児集団で集団活動に取り組み, そこでINREALによるコミュニケーション・ソーシャルスキル支援を行った。その取り組みに対し, 援助の内容と, 子どもたちが自分の気持ちを伝えたり相手の気持ちを推し量り情動調整を行うプロセスに検討を加えた。
著者
村山 航
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.118-130, 2012
被引用文献数
17

妥当性とは曖昧な構成概念を扱う心理学にとって, もっとも重要な概念の1つである。妥当性というと「基準連関妥当性」「構成概念妥当性」「内容的妥当性」という3つのタイプがあると一般に説明されることが多い(妥当性の三位一体観)。しかし, 1980年代以降の妥当性研究では, こうした妥当性のタイプ分けは適切ではなく, 「構成概念妥当性」という考え方にすべての妥当性は収斂するという考え方が主流である(単一的な妥当性概念)。本稿の前半では, こうした妥当性概念の歴史的変遷について, 思想的な背景や近年の議論などを踏まえた解説を行った。本稿の後半では, 妥当性に関するより実践的なトピックを取り上げ, 心理測定学的な観点から議論を行った。具体的には, 1. 「内容の幅の広い項目群を用いた尺度作成」というアイディアと伝統的な心理測定学的モデルの矛盾, 2. 「個人間相関」と「個人内相関」を区別することの重要性とその関係, そして3. 心理学における「尺度の不定性」が結果の解釈などに与える影響などについて議論を行った。
著者
鈴木 宏昭 杉谷 祐美子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.154-166, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
73

本論文では大学生のレポートライティングにおける問題設定に注目して, その援助の可能性を探究した。問題設定は気づき, 洗練, 定式化の3つのプロセスからなり, この各々のプロセスで支援の可能性が存在する。気づきについては文献の批判的読みと直感的判断が重要である。これらを援助することでよりよいレポートが作成される可能性が高まる。洗練の段階では図的にあるいは言語的に自らのアイディアを外化することでレポートの質が向上することを示した。問題の定式化の段階では, 明確化, 普遍化, 相対化の3つが必要となる。協調学習環境下の長期にわたるライティング実践の結果, 明確化と相対化は普遍化に比べて学習されやすいことが明らかになった。
著者
荘島 宏二郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.147-155, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
20

これまで統計学を用いた意思決定は, 仮説検定においてp値のみを参考にして仮説の採否を決定してきた。しかし, p値は, 標本サイズが大きいほど小さくなり, 標本サイズが極めて大きいときには効果の大小にかかわらず帰無仮説が棄却されるという欠点がある。近年, 統計的意思決定の過程において効果量を利用することが重要視されてきている。効果量は, 介入によってどれくらいの効果があるのかを定量的に示し, 標本サイズの大きさによらない統計量である。しかし, 一方で, 構造方程式モデリングでは, モデルのデータに対する当てはまり具合を多数の適合度指標によって診断するということをすでにやっている。そして, 仮説検定においてよく用いるt検定や分散分析は構造方程式モデリングの下位モデルである。したがって, t検定や分散分析においても多数の適合度指標を参照することで意思決定を行うことができる。本稿では, 被検者内1要因分散分析を例にとって, 適合度指標を用いたモデル選択について解説する。
著者
鈴木 宏昭 杉谷 祐美子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.154-166, 2012

本論文では大学生のレポートライティングにおける問題設定に注目して, その援助の可能性を探究した。問題設定は気づき, 洗練, 定式化の3つのプロセスからなり, この各々のプロセスで支援の可能性が存在する。気づきについては文献の批判的読みと直感的判断が重要である。これらを援助することでよりよいレポートが作成される可能性が高まる。洗練の段階では図的にあるいは言語的に自らのアイディアを外化することでレポートの質が向上することを示した。問題の定式化の段階では, 明確化, 普遍化, 相対化の3つが必要となる。協調学習環境下の長期にわたるライティング実践の結果, 明確化と相対化は普遍化に比べて学習されやすいことが明らかになった。
著者
平林 ルミ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.113-121, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
47
被引用文献数
2 2

2014年1月,日本は国連の「障害者の権利に関する条約(通称, 障害者権利条約)」を批准した。その中にある合理的配慮(reasonable accommodation)とは,「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものであり,かつ,均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」と定義されている。本稿では,学習障害(LD)のある子どもへの合理的配慮としてのICT活用に焦点をあてる。まず目に見えない障害と言われるLDのある子どもへの合理的配慮とプライバシーに関する最新の知見を展望する。次に合理的配慮の対象を判断するための評価研究の動向についてRTI研究及び学業スキルの流暢性評価に焦点をあてる。さらに,LDのある子どもへのICT導入の次の段階としての指導法研究を紹介し,LDのある子どもへの合理的配慮としてのICT活用の動向を整理する。