著者
高橋 英章 本田 光 居林 基 斉藤 佳代子 秋野 憲一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.695-705, 2021-10-15 (Released:2021-10-06)
参考文献数
30

目的 札幌市における地域検診および個人・職域を含めたがん検診受診の実態を独自調査によって明らかにすること,がん検診受診率が低い集団を特定し,がん検診受診率を向上させるための施策の基礎資料とすることを目的とした。方法 札幌市在住の40~69歳の男性3,000人および20~69歳の女性4,000人を対象にした自記式質問票による調査を実施した(有効回収率:32.4%)。調査内容は,国民生活基礎調査の健康票のうちがん検診受診に関するものを引用したほか,基本属性,がん関連属性とした。χ2検定またはロジスティック回帰分析を用い,がん検診受診率と基本属性,がん関連属性との関連を解析した。結果 本研究の胃がん検診受診率は男性67.4%,女性48.7%,大腸がん検診受診率は男性59.2%,女性47.7%,肺がん検診受診率は男性66.1%,女性53.4%,子宮がん検診受診率は52.7%,乳がん検診受診率は56.1%だった。 男女ともにすべてのがん種において,就労していない者または国民健康保険に加入している者の受診率が有意に低かった。属性とがん検診受診に関して,就労なしに対する就労ありのオッズ比は,男性3.00~3.09 (肺がん3.00 95%信頼区間:2.09-4.32,大腸がん3.03 95%信頼区間:2.09-4.38,胃がん3.09 95%信頼区間:2.09-4.57),女性1.41~2.46だった。医療保険が国民健康保険の人に比べ,それ以外の保険の人の受診オッズ比は,男性3.47~4.26,女性1.47~2.52だった。また,男女ともに札幌市がん検診の認知度とがん検診受診に女性の胃がん検診を除いて有意な関連がみられ,認知度ありのオッズ比は,男性1.41~1.74,女性1.24~1.48だった。結論 がん検診受診率が50%を下回ったがん種は,女性の胃がんと大腸がんのみであり,とくに男性は胃・大腸・肺すべてのがん検診受診率が50%を超えていた。男女ともに就労していない者,国民健康保険に加入している者,札幌市がん検診(地域検診)を認知していない者のがん検診受診率が低い傾向にあり,国民生活基礎調査のみでは示されなかった札幌市における低受診者集団の特徴が明らかとなった。
著者
渋谷 雄平 井上 明 河上 靖登
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.432-436, 2006

<b>目的</b>&emsp;フィブリノゲン製剤納入先医療機関名の公表に伴い,神戸市では相談窓口の設置に加えて C 型肝炎ウイルス(以下 HCV)の無料検査(年齢制限及び HIV 同時検査なし)を実施した。それらの分析結果より今後の C 型肝炎対策についての一考察を加えた。<br/><b>対象と方法</b>&emsp;平成16年12月,保健所,各区役所保健福祉部など市内12箇所に相談窓口を設置するとともに,「平成 6 年以前に,公表医療機関で出産や手術等の際に出血のためフィブリノゲン製剤を使用された可能性がある神戸市民で,その後 C 型肝炎検査を一度も受けられていない人」を対象として,平成17年 3 月末まで HCV 検査を実施した。HCV 抗体を測定し,陽性の場合は HCV-RNA にてウイルスの有無を確認した。<br/><b>結果</b>&emsp;(相談件数・内容について)3,717件の「相談」があり,女性3,145件(84.6%),男性572件(15.4%)と女性が圧倒的に多かった。相談内容の主なものは,「肝炎検査について(検査場所,費用等)」,「過去に出産・手術をしたが大丈夫か」等であり,国の中間集計と同じ結果がみられた。<br/>&emsp;(C 型肝炎検査について)1,372人が検査を受け,女性1,165人(84.9%),男性207人(15.1%)と,「相談」と同様に女性が 8 割以上を占めた。HCV 抗体陽性は32人(陽性率:2.3%)で,その内 HCV-RNA 陽性者は13人(陽性率:0.95%)であった。持続陽性者は60歳代で 7 人と最も多かったが,30歳代でも男性 1 人を認めた。平成13年の非加熱血液製剤の使用医療機関公表時の実績(HCV 抗体陽性率:8.2%)と比較すると,今回の抗体陽性率は有意に低かった(<i>P</i><0.01)。HCV-RNA 陽性率を節目検診(平成15年度)と比較してみると,女性では低く(0.60%),逆に男性では高い傾向がみられた(2.90%)。特に69歳以下の男性では有意に高く(<i>P</i><0.05),節目外検診における HCV-RNA 陽性率にほぼ匹敵していた。<br/><b>結論</b>&emsp;「相談」・「検査」共に女性が多かったことが特徴的であったが,フィブリノゲン製剤は過去に外科的手術だけでなく,出産時にも頻繁に使用された経緯があるためと推察された。この公表を契機として肝炎対策を一層推進するために実施された今回の措置は,大規模な節目外検診として有益であった。今後も年齢に拘らず,C 型肝炎の感染リスクのより高い者を対象として,積極的に検査の普及啓発を展開していくことが適切な対応と思われる。
著者
荒木 和夫 増澤 祐子 高橋 由光 中山 健夫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.730-743, 2018-12-15 (Released:2018-12-27)
参考文献数
45
被引用文献数
1

目的 現行個人情報保護・研究倫理法制の体系と立法目的を明らかにすることにより,研究主体と研究対象の違いによる分類ごとに適用すべき個人情報保護・研究倫理関係法令等の適用関係を示す。学術研究目的による個人情報保護法令等の適用除外を考察することにより,改善点と今後の在り方を提示する。方法 系統的文献調査による記述的研究。「e-Gov法令検索」により,個人情報保護又は研究倫理に関する法令であって,人を対象とする医学系研究又はヒトゲノム・遺伝子解析研究に適用可能なものを選択した。薬機法およびGCP・GPSP省令等ならびに行政組織・手続等に関する法令は除外した。さらに,都道府県の個人情報保護条例(個条例)および対象法令に対応するガイドライン等を選択した。これらの法令等に基づき,個人情報保護と研究倫理に関する現行法体系とそれらの適用範囲・優先適用関係等を検討した。個人情報保護3法・個条例の目的規定および学術研究目的による適用除外規定の内容ならびに個条例の規定の地域的偏りを調査した。結果 個人情報保護に関する現行法体系は約2,000件の法令等を含む3階層から成ること,医学研究に関する個人情報の保護について包括的な法律がないこと,そのため研究主体の類型により適用法令等が異なることが明らかとなった。研究倫理は,医学研究の種類により適用法令等が異なっていた。個人情報保護法(個情法)は2つの目的を,行政機関個人情報保護法(行個法)と独立行政法人等個人情報保護法(独個法)は3つの目的を規定していた。学術研究目的の場合,個情法には包括的除外規定があるが,行個法と独個法は3つの個別除外規定を設けていた。個条例では,都道府県により規定の有無・内容にばらつきがあるが,国の法令と整合性を取るため要配慮個人情報に関する改正が相次いだ。結論 我が国の現行個人情報保護法令等の体系は「混合方式」と考えられる。さらに,(1)法令等の間で必ずしも整合性がとられていない,(2)研究倫理に関する包括的な法律はない,(3)研究主体の類型により適用法令が異なるため,学術研究目的による個人情報保護法令等の適用除外に違いがあるほか,とくに共同研究の場合は適用法令等の判別が複雑である。そのため,医療に関する個人情報については,今後,制度という大きな枠組みで,その保護,利活用および倫理問題について検討を進めることが不可欠と考えられる。
著者
藤田 淳子 福井 小紀子 池崎 澄江 辻村 真由子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.819-827, 2020-11-15 (Released:2020-12-23)
参考文献数
26
被引用文献数
1

目的 在宅チームケアにおいて重要な役割を担う介護関連職の認識する医療職との連携困難感を測定する尺度を開発することである。方法 緩和ケアの多職種研修会に関連した研究結果から介護関連職からみた医療職との連携困難感に関する内容を抽出し,専門家パネルにて10項目の設問からなる尺度原案を作成した。1都市の在宅ケアに従事する介護関連職を対象に,自記式質問紙調査を実施し,尺度の信頼性・妥当性について検討した。結果 220人を分析対象とした探索的および確証的因子分析の結果,2因子構造6項目を採択した。因子は,「尊重されない感覚」「コミュニケーションの壁」と命名した。Cronbach α係数は,尺度全体で0.80,各因子は,0.77-0.81であり内的整合性が確認された。基準関連妥当性について,他の2尺度との相関係数を算出したところ,尺度全体でr=−0.36~−0.42の負の相関が有意に認められた。下位尺度は,第Ⅰ因子と他の2尺度とはr=−0.17~−0.27,第Ⅱ因子と他の2尺度とは,r=−0.41~−0.42の負の相関が有意に認められた。結論 開発した尺度は,在宅の介護関連職の連携困難感を測定する尺度として一定の信頼性・妥当性を有すると考えられた。
著者
康永 秀生 井出 博生 今村 知明 大江 和彦
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.40-50, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
55
被引用文献数
14

アンケート調査の方法として,従来から郵送調査法・面接調査法などが汎用されている。インターネット調査法の医学研究への適用は,その有用性や妥当性についていまだ評価が確立していない。今回,2005年 4 月現在までに報告された,インターネット・アンケートを利用した邦文医学研究論文36編をレビューした。インターネット調査法を用いた原著論文の絶対数は,近年若干の増加傾向を認めるものの依然として少ない。アレルギー疾患(アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎,蕁麻疹など)など,青壮年層の患者数が多い疾患を対象とした研究が比較的多い。従来法と比較して,インターネット調査法の利点として,(1)調査者・回答者双方の利便性が高い,(2)データ回収が迅速である,点が挙げられる。欠点として,(1)利用者の年齢層が偏っている,(2)モニター登録という有意抽出法が採用されるため,無作為抽出法と比較して標本誤差が発生しうる,点が挙げられる。しかしながら,近年のインターネットの爆発的な普及拡大によって,利用者の年齢層の偏りは解消されていくことが期待される。高齢者層にもアンケート対象が拡大すれば,より多くの疾病について研究が可能となる。インターネット調査法の利点を考慮すれば,今後は社会医学・臨床医学研究における有力なツールのひとつになりうると考えられる。
著者
鈴木 有佳 仙田 幸子 本庄 かおり
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.669-676, 2021-10-15 (Released:2021-10-06)
参考文献数
16

目的 出産を経ても就業を継続する女性の割合が増加している。欧米では,女性の特定の職種が出産時・出生後の児の死亡リスクと関連することが報告されているが,日本ではこの関連を検討した疫学研究はない。そこで本研究は,全国調査データを用い,母親の職種による妊娠12週以降出生までの児の死亡リスク(解析1),出生から出生1年後までの児の死亡リスク(解析2)について検討することを目的に実施した。方法 1995, 2000, 2005, 2010, 2015年度人口動態職業・産業調査(出生票,死産票)ならびに1995-96,2000-01,2005-06,2010-11,2015-16年度人口動態調査(死亡票)を用いた。解析1では生まれた児のうち,5,355,881人を対象とし,解析2では同期間に出生した児のうち,5,290,808人を対象とした。説明変数は母親の職種(管理・専門・技術,事務,販売,サービス,肉体労働,無職),目的変数は自然死産(自然死産なし=出生)(解析1),新生児・乳児死亡(新生児・乳児死亡なし=出生1年後生存)(解析2)とし,ロジスティック回帰分析を用いて解析した。また,有職者における職種に起因した自然死産の人口寄与危険割合を算出した。結果 自然死産は61,179人(1.1%),出生した児のうち新生児・乳児死亡は12,789人(0.2%)だった。出産時の母親の職種が管理・専門・技術と比較した,事務,販売,サービス,肉体労働,無職の,自然死産に関する調整オッズ比(95%信頼区間)は,1.24(1.20-1.29),1.48(1.41-1.56),1.76(1.69-1.83),1.54(1.46-1.61),0.95(0.92-0.98)だった。母親の職種と新生児・乳児死亡の関連は見られなかった。また,有職者における母親の職種が事務,サービスの自然死産に対する人口寄与危険割合は7.4%,12.3%だった。結論 本研究の結果,母親の職種により自然死産リスクに差が認められた。とくに,母親の職業がサービス職である場合,自然死産のリスクならびに人口寄与危険割合が最も高かった。一方,母親の職種と出生後の新生児・乳児死亡リスクには関連がみられなかったことから,母親の職種は妊娠期において児の状態に影響する可能性がある。本研究結果により,妊娠期の母親の職業に注意を払う必要が示唆される。
著者
熊谷 麻紀 五十嵐 久人
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.850-859, 2020-12-15 (Released:2020-12-31)
参考文献数
48

目的 本研究は,国内の中小企業雇用者のWFCは生活習慣や就労状況とどのような関係があるのか明らかにすることとした。方法 研究協力の得られた中小企業4社294人の従業員を対象に,自記式質問紙調査を実施した。調査項目は基本属性,就労状況,生活習慣,多次元的ワーク・ファミリー・コンフリクト尺度日本語版(WFCS),主観的健康感,主観的ストレス度とした。WFCの下位尺度であるWork Interference with Family(仕事から家庭への葛藤:WIF)とFamily Interference with Work(家庭から仕事への葛藤:FIW)スコアを高低で2群化し,これらを従属変数にロジスティック回帰分析を行い,関連する要因を検討した。結果 227人から回答を得て,欠損のない185人を分析対象とした。男性146人(78.9%),女性39人(21.1%),平均年齢43.6±11.2歳,配偶者および子がいる者の割合は6割弱で,WIF・FIWそれぞれの中央値は3.0,2.3であった。 WIFの2群間では平均労働時間(h/日),休暇取得のしやすさ,欠食の有無等に有意差があり,FIWの2群間では休暇取得のしやすさ,主観的健康感,主観的ストレス度に有意差が認められた。 ロジスティック回帰分析の結果,WIFには「欠食の有無」,「主観的ストレス度」,「平均労働時間(h/日)」,「年齢」,「主観的健康感」,「休暇取得のしやすさ」との関連が認められ,FIWには「主観的健康感」のみ関連がみられ,異なる要因が抽出された。結論 中小企業雇用者のWFCに関連する要因を検討した結果,仕事から家庭への葛藤(WIF)を低下させるためには,適切な生活習慣を送ること,長時間労働の短縮や雇用者が休暇を取得しやすい職場環境の改善を要し,家庭から仕事への葛藤(FIW)を低下させるためには,ストレスとうまく向き合い,精神的安定を図り,主観的健康感を高めていくことが必要となる可能性が示された。
著者
田中 英夫 野上 浩志 中川 秀和 蓮尾 聖子
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.929-933, 2002-09-15

<b>目的</b> 全国の薬局,薬店で喫煙者の鎮咳,去痰剤として販売されている紙巻きたばこ型薬用吸煙剤(ネオシーダー,製造:アンターク本舗,千葉県,以下 NC と表す)の医薬品としての妥当性を,製品のニコチン含有量と,これを試行した者および連用者の尿中コチニン量から評価検討した。<br/><b>方法 1</b> NC および,コントロールとしてマイルドセブンエクストラライト(以下 MSE と表す),マイルドセブンスーパーライト(以下 MSS と表す),セブンスター(以下 SS と表す)の葉0.25 g を蒸留水10 m<i>l</i>で 5 分間振とうし,遠心分離後に抽出液を発色反応させ,高速液体クロマトグラフィーで分析した。<br/><b>方法 2</b> 喫煙中であった32歳医師を被験者とし自記式問診とともに,禁煙時,NC 使用時,禁煙継続かつ NC 不使用時の 3 点で尿中コチニン量を測定した。<br/><b>方法 3</b> 外来患者の中でタバコの代替物として NC を継続使用していた 2 人の連用者を見出し,自記式問診と採尿を実施し,尿中コチニン量を測定した。<br/><b>成績 1</b> 製品 3 cm(実際の 1 本当たり消費量)当たりの平均ニコチン含有量は,NC; 0.79 mg (n=6), MSE; 5.04 mg (n=2), MSS; 4.91 mg (n=2), SS; 5.55 mg (n=2)。<br/><b>成績 2</b> 被験者の喫煙中の Fagerstrom Test for Nicotine Dependence は 3 点。禁煙の開始から最終回の採尿までの期間の受動喫煙はなし。尿中コチニン量は,禁煙開始 7 日目10.0 ng/m<i>l</i>。NC を 3 日間で17本使用後47.2 ng/m<i>l</i>,禁煙継続かつ NC 不使用 3 日目8.4 ng/m<i>l</i>。<br/><b>成績 3</b> 53歳男性:喫煙当時の FTND は 6 点。調査期間中の受動喫煙はなし。NC を 1 日平均40本連用中の尿中コチニン量は937 ng/m<i>l</i>。75歳女性:喫煙当時の FTND は 7 点。NC を 1 日27本連用中の尿中コチニン量は2724 ng/m<i>l</i>。NC 中止96時間後では27.7 ng/m<i>l</i>。<br/><b>結論</b> NC は非麻薬性で習慣性がみられないと説明されているものの,ニコチンを含有していること,使用により本剤に含有するニコチンが体内に移行することがわかった。また,本剤の使用によってニコチンへの依存性が生じ,長期連用を引き起こしていたとみられる 2 例を報告した。
著者
富永 真己 中西 三春
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.468-476, 2021-07-15 (Released:2021-07-20)
参考文献数
24

目的 国内では,地域包括ケアシステムにおける社会資源の要である介護施設の介護人材の不足が深刻さを増す中,介護職においては就業継続の意向の高さも報告される。本研究は質的研究により,介護職における就業継続の意向の要因について,介護の仕事に関する肯定的側面から明らかにすることを目的とした。方法 半構造化面接を用いた帰納的アプローチによる質的記述的研究法を用いた。近畿圏の11か所の介護施設のユニットリーダー計14人を研究対象者とした。うち女性は9人で,平均年齢は35.0(±6.45)歳であった。2人もしくは3人1組の共同インタビューを2018年8月~11月に計6回実施した。インタビューガイドを用いて面接を実施し,内容は対象者の許可を得て録音した後,逐語録を作成した。逐語録データから介護職における就業継続の意向について,介護の仕事に関し肯定的側面から語られた記述をコードとして抽出し,質的帰納的に分析した。結果 27コードが抽出され,さらに3カテゴリー,すなわち《高齢者への愛着と接することの楽しさ》《人生における先輩の最期の時間への思いと共感》《利用者と家族からの心理的支え》の3サブカテゴリ—から成る【介護の仕事に対する愛着】と,《理性的な職場成員の結束力》《職場内の縦横の良好なつながり》《職場外での同業種とのつながりの機会》の3サブカテゴリーから成る【職場の結束力と職場内外のつながり】,および《上司の心理的報酬と支援》《目標の共有と現場目線の職場運営》《教育体制とキャリア開発の機会》の3サブカテゴリーから成る【支援的な現場目線の職場運営と人材開発】が抽出された。語りから,介護職が抱く仕事に対する愛着と,それに影響を及ぼす人間関係を基盤とした結束力やつながり,職場運営や教育体制といった職場環境が,介護職における就業継続の意向の要因であることが確認された。需要が急速に増す国内の介護人材の確保と定着に向け,仕事への愛着を育む支援と同時に,人間関係を基盤とした職場環境の整備の必要性が示唆された。結論 介護施設のユニットリーダーを対象とした質的記述的研究法により,【介護の仕事に対する愛着】【職場の結束力と職場内外のつながり】,及び【支援的な現場目線の職場運営と人材開発】が介護職における就業継続の意向の要因として抽出され,介護人材の確保と定着の方策に向けた示唆が得られた。
著者
光武 誠吾 柴田 愛 石井 香織 岡崎 勘造 岡 浩一朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.361-371, 2011 (Released:2014-06-06)
参考文献数
26
被引用文献数
3

目的 インターネット上の健康情報を有効に活用するためには,適切に健康情報を検索し,評価し,活用していく能力(e ヘルスリテラシー)が必要であるが,我が国では e ヘルスリテラシーを測る尺度すらないのが現状である。本研究では,欧米で開発された eHealth Literacy Scale (eHEALS)の日本語版を作成し,その妥当性と信頼性を検討するとともに,e ヘルスリテラシーと社会人口統計学的特性およびインターネット上の健康情報に対する利用状況との関連を検討した。方法 社会調査会社にモニター登録している3,000人(男性:50.0%,年齢:39.6±10.9歳)にインターネット調査を実施した。eHEALS 日本語版 8 項目,社会人口統計学的特性 6 項目,インターネット上での健康情報に関する変数 2 項目を調査した。探索的因子分析による項目選定後,構成概念妥当性は,確証的因子分析による適合度の確認,基準関連妥当性は,相互作用的•批判的ヘルスリテラシー尺度との相関により検討した。また,内部一貫性(クロンバックの α 係数)および再検査による尺度得点の相関により信頼性を検証した。さらに eHEALS 得点と社会人口統計学的およびインターネット上での健康情報に関する変数との関連の検討には,t 検定,一元配置分散分析,χ2 検定を用いた。結果 eHEALS 日本語版は 1 因子構造であり,確証的因子分析では一部修正したモデルで GFI=.988, CFI=.993, RMSEA=.056と良好な適合値が得られた。また,eHEALS 日本語版得点は,相互作用的•批判的ヘルスリテラシー尺度得点と正の相関を示した(r=.54, P<.01)。信頼性については,クロンバックの α 係数は.93であり,再調査による尺度得点の相関係数は r=.63 (P<.01)であった。eHEALS 日本語版得点は男性より女性,20代よりも40, 50代,低収入世帯よりも高収入世帯,インターネットでの情報検索頻度が少ない者より多い者で有意に高かった。また,eHEALS 日本語版得点の高い者は,健康情報を得るために多くの情報源を利用しており,その中でも特にインターネットを活用し,インターネットから取得している健康情報の内容も多様であった。結論 eHEALS 日本語版は我が国における成人の e ヘルスリテラシーを評価するために十分な信頼性と妥当性を有する尺度であることが確認された。今後も増加するインターネット上の健康情報を個人が適切に活用するためには e ヘルスリテラシーが重要であることが示唆された。
著者
横溝 珠実 二宮 忠矢 片岡 久美恵 中塚 幹也
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.20-064, (Released:2021-03-31)
参考文献数
18

目的 子どもへの虐待防止のためには,妊娠中から社会的ハイリスク妊産婦への支援を開始する必要がある。岡山県が独自に開始した「妊娠中からの気になる母子支援」連絡システムの現状と成果を検討する。方法 2011年運用開始からの8年間の取り組みを振り返り,運用前の状況や開始のための準備,運用の実際,連絡事例の内容等について検討した。「妊娠中からの気になる母子支援」連絡票4,598件のうち,連絡票送付時期および17項目のリスクの種類について単純集計を行った。また厚生労働省の平成30年度福祉行政報告例より岡山県の児童虐待相談対応件数の推移を明らかにした。結果 岡山県内の分娩取扱医療機関および分娩取扱いはないが妊婦健診を実施している医療機関52施設のうち,すべての医療機関(100%)が岡山モデルに参加していた。医療機関で気になる妊産婦を把握し,連絡票を送付した時期は,2011年~2018年の8年間全体でみると,妊娠中が56.1%,産後が43.6%,無記入0.3%となっていた。連絡事例の内容をみると社会的リスク因子として「未婚」1,318件(28.7%),「精神科的支援が必要」1,090件(23.7%),「10代の妊娠」769件(16.7%),「夫・家族の支援不足」801件(17.4%)などが高率であった。岡山県内における児童虐待相談対応件数は「妊娠中からの気になる母子支援」連絡票を活用したシステム開始の翌年である2012年以降は減少に転じており,2012年度の相談件数1,641件に比べ,2018年度は850件と半減していた。各保健所と産科医療機関等との連絡会議などを通じて,連絡事例の検討や連携システムのあり方などについて継続的に協議を重ねていくなかで,岡山県内において本システムが浸透し,定着しつつあった。結論 職域のハードルを越えて,「気になる」という感覚を共有することで,支援を必要とする妊産婦を見落とさない環境が整いつつある。また,その後も地域に応じたネウボラの取り組みや産婦健診,産後ケア事業,養育支援訪問等の普及や医療機関と行政の連絡会議が各保健所単位で定期的に行われていること等により,虐待リスクの可能性がある妊産婦への支援を早い段階で開始することで,虐待が深刻になってからの相談や通告件数が減少してきている可能性がある。
著者
大野 治美 村上 晴香 中潟 崇 谷澤 薫平 小西 可奈 宮地 元彦
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.92-104, 2021-02-15 (Released:2021-02-26)
参考文献数
26

目的 ふん便(以下,便)は,我々の食事や栄養状態ならびに腸内細菌叢の特徴を反映し,身体の健康状態や栄養摂取状況を,簡便かつ非侵襲的に評価できるツールであると考えられる。一方で,便を包括的に評価し,簡便かつ客観的に評価する適切なツールに関する検討は十分に行われておらず,日常の排便状況や便性状を的確に把握できる有用な質問票が求められている。習慣的な排便状況(排便回数)や便性状(排便量,色,形状など)を把握するための評価ツールを作成し,排便日誌に基づく排便回数や便性状の記録と比較し内的妥当性を検討した。方法 22から78歳までの成人男女35人(45.2±17.1歳)を解析対象とした。習慣的な便に関する質問票(以下,習慣的便質問票)による最近1か月間における平均的な排便回数,1回あたりの排便量,便の色や形状,便の浮きや腹部膨満感を調査した。この習慣的便質問票の各項目の再現性を検討するため,2回の調査を実施し,再現性を確認した。その後,排便日誌を用いて,毎日の排便時刻や便の性状などを1週間記録した。この排便日誌を基にした排便回数や便性状を内的妥当基準とし,習慣的便質問票により得られた回答を比較した。なお,習慣的便質問票における排便回数は,排便回数がカテゴリー化された回答を選択する選択回答法と数値による自由回答法の2種類で回答した。結果 習慣的便質問票の再現性を検討した結果,全ての項目においてスピアマン順位相関係数の有意な相関(ρ=0.431~0.911)が認められ,重みづけκ係数においても高い一致度を示した(weighted κ=0.348~0.841)。また,内的妥当性については,排便日誌による1週間あたりの排便回数と,習慣的便質問票における排便回数の回答を比較すると,自由回答法による1週間あたりの排便回数の方が,選択回答法より高い相関(ρ=0.855)を示した。さらに,便性状については,1週間の排便日誌における便性状の回答の中央値と習慣的便質問票での回答との相関を検討したところ,「便の浮き」を除いて有意な相関が示された(ρ=0.429~0.800)。結論 本研究で作成した質問票は,習慣的な排便状況や便性状を評価する上で,再現性と内的妥当性が高いことが確認された。
著者
本田 春彦 植木 章三 岡田 徹 江端 真伍 河西 敏幸 高戸 仁郎 犬塚 剛 荒山 直子 芳賀 博
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.968-976, 2010 (Released:2014-06-12)
参考文献数
35
被引用文献数
12

目的 本研究は,集会所での自主活動への参加状況と心理社会的健康および生活機能との関連を明らかにすることを研究目的とした。方法 対象は,宮城県の農村部に在住の65歳以上高齢者の中から無作為に 1/3 抽出で得られた413人(2007年12月31日現在)である。初回調査が2008年 2 月に,追跡調査が2009年 2 月に行われた。2 回の調査ともに回答が得られた315人のうち,回答に欠損のない218人を分析に用いた。自主活動の参加が心理社会的健康および生活機能の各指標に及ぼす影響については,自主活動参加状況を独立変数,各健康指標を従属変数とするロジスティック回帰分析を用いて分析した。結果 自主活動への参加状況は,1 年間に 6 回以上参加の高頻度参加者が63人(28.9%),6 回未満参加の低頻度参加者が60人(27.5%),1 回も参加しない不参加者が95人(43.6%)であった。 自主活動の不参加者に比べ,高頻度参加者は抑うつ尺度(OR=0.34, 95%CI: 0.13–0.89),社会参加(OR=0.12, 95%CI: 0.05–0.29),老研式活動能力指標(OR=0.26, 95%CI: 0.08–0.78)の項目において有意にその機能低下を抑えていた。結論 高齢者の自主活動への参加は,不参加者に比べ精神的健康度や社会的健康度および高次の生活機能の低下を抑制することが示唆された。
著者
北村 明彦 阿部 巧 藤原 佳典 新開 省二 清野 諭 谷口 優 横山 友里 天野 秀紀 西 真理子 野藤 悠 成田 美紀 池内 朋子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.134-145, 2020

<p><b>目的</b> 高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施が進められる中,生活習慣病やフレイル関連の各因子が地域在住高齢者の自立喪失に及ぼす影響の強さ(ハザード比)と大きさ(寄与危険度割合)を明らかにする。</p><p><b>方法</b> 群馬県草津町において,2002~11年の高齢者健診を受診した65歳以上の男女計1,214人(男性520人,女性694人)を対象とし,平均8.1年(最大13.4年)追跡した。自立喪失は,介護保険情報による要介護発生または要介護発生前の死亡と定義した。生活習慣病因子として,高血圧,糖尿病,肥満,腎機能低下,喫煙,脳卒中・心臓病・がんの既往等を,機能的健康の関連因子として,フレイル区分,低体重,貧血,低アルブミン血症,認知機能低下を採り上げた。フレイル区分は,phenotypeモデルの5つの構成要素(体重減少,疲弊,活動量低下,歩行速度低値,握力低値)のうち3項目以上該当をフレイル,1~2項目該当をプレフレイルと定義した。Cox比例ハザードモデルを用いた回帰分析により,各要因保有群における自立喪失発生の多変量調整ハザード比(HR),集団寄与危険度割合(PAF)を算出した。</p><p><b>結果</b> 自立喪失発生者数は475人(要介護発生372人,要介護発生前死亡103人)であった。対象者全体でみると,自立喪失の多変量調整HRはフレイル,プレフレイル,認知機能低下,脳卒中既往,喫煙において1.3~2.2倍と有意に高値を示した。自立喪失のPAFは,プレフレイルが19%,フレイルが12%と他の要因に比し高率であった。男性では自立喪失のPAFは,プレフレイルが19%と最も大きく,次いで喫煙が11%であり,女性では,フレイル,プレフレイルがともに18%,腎機能低下が11%であった。前期高齢者では,フレイル,プレフレイルの他に脳卒中既往,貧血,低アルブミン,認知機能低下,喫煙,糖尿病における自立喪失の多変量調整HRが有意に高く,自立喪失のPAFは,プレフレイルが18%,フレイルが13%,喫煙が11%であった。</p><p><b>結論</b> 高齢者健診の受診者を対象とした検討の結果,自立喪失に寄与する割合が最も大きい要因はフレイル,プレフレイルであった。前期高齢期からフレイル予防,ならびに生活習慣病の予防・改善を図ることが集団全体の自立喪失の低減に寄与すると考えられた。</p>
著者
今村 佳代子 瀬上 綾 和田 みゆき 迫田 真貴子 瀬戸 梢 原口 美穂 松木田 恵美 丸山 千寿子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.277-287, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
35
被引用文献数
5

目的 母親の食生活に対する行動変容の準備性と子どもの朝食摂取の状況および家族の健康関連行動との関係を明らかにすることを目的とした。方法 調査に同意の得られた鹿児島県内の18小学校の児童1,949人と,7 校の保護者881世帯を対象として自記式調査法でアンケートを実施した。児童には,朝食の摂取状況やアンケート記入日の朝食の内容を回答させ,保護者には朝食の摂取状況と,Prochaska らのステージ理論に基づいて食生活に対する行動変容の準備性を 5 段階で回答してもらった。結果 回収率は児童が83.3%(1,624人),保護者が83.1%(732世帯)であった。朝食を毎日食べる児童は83.1%であり,15.1%の児童に欠食の習慣がみられた。アンケート記入日の朝食は98.6%の者が食べていたが,ごはんやパンなどの「主食」のみを食べていた者が15.1%おり,「主食」,「主菜」,「野菜•果物」をそろえて食べた児童は34.0%にとどまった。母親の食生活に対する行動変容の準備性は,「維持期」が28.1%,「実行期」が24.0%,「準備期」は6.9%,「関心期」は9.8%,「無関心期」は5.7%であった。そこで,既に食生活に対して何かを実行している「維持期」,「実行期」の者を『実行群』,現在食生活に対して何も実行していない「準備期」,「関心期」,「無関心期」を『非実行群』,質問に対して無回答の者を『無回答群』(25.5%)として 3 群間で比較した。母親が実行群の児童と比べて,無回答群では朝食を欠食する者が多かった(P=0.000)。調査日の朝食内容は,「野菜•果物」を食べた児童が,実行群と比べて非実行群では少なく(P=0.003),無回答群では(P=0.036)少ない傾向にあった。さらに実行群の母親に比べて非実行群と無回答群ではそれぞれ惣菜や市販弁当の利用頻度が高い傾向にあり(P=0.025, P=0.036),家族と食事や食べ物についての話し合いをしておらず(P=0.004, P=0.002),父親の喫煙率も高かった(P=0.000, P=0.000)。結論 母親の食生活に対する行動変容の準備性により児童の朝食摂取習慣や内容,および家族の健康関連行動が異なることが示唆された。今後,学童期の子どもと母親を対象とした食育を実施する際,母親の食生活に対する行動変容の準備性を考慮したアプローチをする意義は大きいと考えられた。
著者
相馬 優樹 乾 明成 浅沼 美由希
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.573-581, 2020-09-15 (Released:2020-10-10)
参考文献数
26

目的 本研究は,管理栄養士・栄養士養成施設および養成施設卒業・修了後におけるう歯・歯周病といった歯科保健分野の学習状況に関連する要因を明らかにすることを目的として実施した。方法 公益財団法人青森県栄養士会の会員を対象に質問紙調査を行い,276人を最終的な分析対象とした(調査期間:2019年10月~11月)。従属変数を養成施設および養成施設卒業・修了後のう歯・歯周病に関する学習状況(学習者/非学習者),独立変数を年齢(30歳未満/30~39歳/40~49歳/50~59歳/60歳以上),保有資格(管理栄養士/栄養士),活動拠点(医療機関[栄養管理/給食管理]/行政機関/介護保険施設/学校関係/養成施設教員/その他)とした多重ロジスティック回帰分析を行い,odds ratio(OR)と95% confidence interval(95%CI)を算出した。結果 養成施設における学習状況の関連要因を検討した結果,学習者は年齢が40歳未満で,管理栄養士である者が多かった(う歯:OR=2.79,95%CI 1.08-7.24;歯周病:OR=6.51,95%CI 1.71-24.84)。卒業・修了後の学習状況については,活動拠点が学校関係の者(う歯:OR=4.23,95%CI 1.03-17.27;歯周病:OR=5.56,95%CI 1.15-26.98),養成施設における学習者(う歯:OR=3.21,95%CI 1.65-6.27;歯周病:OR=3.06,95%CI 1.32-7.12)で多かった。また,年齢が40歳代以上で卒業・修了後の学習者が多い傾向にあった。結論 今後管理栄養士・栄養士と歯科保健分野の者の連携を円滑に進めるためには,必要に応じて管理栄養士の資格を保有していない者や,これまでう歯・歯周病に関する学習をしてこなかった者が専門家とともに学習ができる機会を設けることが重要であると考えられる。
著者
舛田 ゆづり 田髙 悦子 臺 有桂 糸井 和佳 田口 理恵 河原 智江
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1040-1048, 2011 (Released:2014-06-06)
参考文献数
22
被引用文献数
3 3

目的 近年,高齢者の孤立死が都市部を中心に社会問題となっている。この問題に対し,地域の見守り活動を推進していくことは喫緊の課題であるが,見守り活動を担う住民組織が直面する課題や方策に焦点化して明らかにしたものは見当たらない。本研究では,今後の都市部における孤立死予防に向けた地域見守り活動推進における住民組織が有しているジレンマならびにそれらに対処する方略を住民組織の立場から明らかにし,今後の実践の示唆を得ることを目的とした。方法 対象は,A 市 b 区 c 地区(中学校区)で見守り活動の実績のある住民組織の代表14人である。研究デザインは,質的帰納的研究である。データ収集は,フォーカスグループインタビュー法(FGI)を用い,テーマは,住民組織が地域の見守り活動を進めていく上で感じている困難や課題等とし,計 3 回実施した。データ分析は,FGI の逐語録から単独で意味の了解が可能な最小単位の単語や文章をコードとして抽出し,次いでコードの類似性を勘案してサブカテゴリとし,さらにサブカテゴリを抽象化してカテゴリとした。結果 住民組織における見守り活動の推進に向けた課題と取組みは個人,近隣,地域の 3 領域に抽象化された。まず,ジレンマについては【見守りの拒否や無関心】,【若年層での孤立や閉じこもり】,【家族が見守りをしない】,【近隣住民の関係性の希薄】,【新旧住民がつながりにくい】,【近所付き合いへの負担感】,【プライバシー意識の高まりによる情報共有の困難】,【見守りの担い手や集う場の資源不足】の各カテゴリーが抽出された。また,方略については【地域の中で 1 対 1 の関係をつくる】,【地域の集まりや輪へ引き込む】,【さりげない日々の安否確認を行う】,【助けが必要な人の存在を知らせる】,【生活の中で互いに知り合う仕掛けをする】,【近隣単位の小さな見守りのシステムをつくる】,【行政と住民組織が連携し地区組織を活かす】,【地域住民の信頼感やつながりを育む】が抽出された。結論 地域の見守り活動の推進に向けては,各住民組織が互いの活動や存在についてより理解を深めるとともに,連携が推進されるような機会の開催や場(ネットワーク)の整え,あるいはそのような風土を地域につくっていくための検討が必要である。