著者
宮道 亮輔 石川 鎮清 尾身 茂
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.321-328, 2013-06-15 (Released:2013-10-16)
参考文献数
11
被引用文献数
2 1

【目的】震災派遣医師のストレスマネジメントにおけるSignificant Event Analysis(SEA)の有効性を検討する。【対象と方法】自治医科大学同窓会東日本大震災支援プロジェクトにより被災地(東北地方)に派遣された医師67名である。SEA施行群(SEA群)と非施行群(対照群)に無作為に割り付け,SEA群には震災派遣から帰還4週間後に質問紙にてSEA調査を行った。【主要なアウトカム評価】改訂出来事インパクト尺度(IES-R),K6質問票を用いて,帰還4週間後(SEA調査前)と8週間後の改善度を調査した。【結果】IES-Rの改善度は,SEA群: 1.27±5.08[平均±標準偏差],対照群: 2.43±4.05であり,p=0.30と有意な差を認めなかった。K6質問票の改善度は,SEA群: 1.83±2.68,対照群: 0.76±3.01であり,p=0.13と有意な差を認めなかった。【結語】ボランティアで被災地支援に行った医師にSEAを行うことは,ストレスの軽減につながらない。
著者
大谷 尚之 井上 一郎 河越 卓司 嶋谷 祐二 三浦 史晴 西岡 健司 中間 泰晴
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.149-156, 2013-03-15 (Released:2013-05-29)
参考文献数
12

【背景と目的】急性大動脈解離は画像診断法や外科的治療法が発達した現在においても死亡率が高く,いかに早期に診断し治療介入ができるかがその転帰を左右する。診断確定には造影CTが有用であるが,単純CTでも内膜石灰化の内方偏位,血腫により満たされた偽腔が大動脈壁に沿って三日月上の高吸収域として認められる所見(crescentic high-attenuation hematoma)など特徴的な画像所見を呈することが知られている。しかし,その出現頻度,単純CTでの診断精度については言及されておらず,単純CTから解離の診断が可能か検討した。【方法】2008年1月から2009年12月までの2年間,当院で急性大動脈解離と診断された54例のうち造影CTが撮影されていない2例,来院時心肺停止5例,他院で解離と診断され当院に転院となった3例を除く44例において来院時に撮影した単純CTを後ろ向きに検討した。内膜石灰化の内方偏位,crescentic high-attenuation hematoma,visible flap,心膜腔内出血4所見のいずれかを単純CTで認める場合に診断可能と評価した。また非解離例37例と比較検討を行った。【結果】44例のうち内膜石灰化の内方偏位を29例(65.9%),crescentic high-attenuation hematomaを33例(75.0%)と非解離例と比較し有意差をもって多くの症例で認めた(p<0.01)。頻度は少ないため有意差はつかなかったがvisible flapは4例(9.1%),心膜腔内出血は5例(11.4%)で認め,44例中40例(90.9%)で単純CTでの大動脈解離診断が可能であった。【結語】単純CTは大動脈解離の診断に有用である。
著者
吉田 哲 安田 季道 白川 寛夫
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.9, pp.389-394, 1997-09-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
16

We experienced a case of severe systemic hyper-sensitivity reaction with sustained shock and disseminated intravascular coagulation (DIC) following intravenous injection of milk. A 41-year-old nurse injected 150ml of cow's milk into her vein in a suicide attempt. Chills, high fever, nausea and systemic erythema appeared immediately after the injection. On admission, her circulation was severely collapsed, and marked loss of peripheral vascular resistance was demonstrated by Swan-Gantz catheter monitoring. Laboratory data revealed a transient leucopenia with a decrease in the serum level of complement, which was followed by a marked leukocytosis over a week. DIC and hypercalcemia were also observed. The hyperdynamic shock was resistant to therapy during the first 24 hours, but was successfully treated by high doses of methylprednisolone, norepinephrine and fluid resuscitation. DIC could be managed by the administration of nafamostat mesilate and an AT III agent. No fat embolism or bacteremia was observed. The patient was discharged from our hospital without any complication on day 10. It was assumed that the type III allergic reaction to foreign proteins in cow's milk was responsible for the severe systemic reaction observed in our patient.
著者
松本 紘典 中田 康城 蛯原 健 加藤 文崇 天野 浩司 臼井 章浩 横田 順一朗
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.877-885, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
20

飲食物による咽喉頭および食道熱傷は臨床上,しばしば経験されるが,その報告例は少ない。今回,我々は90℃の高温飲料の摂取後に緊急気道確保を要する咽喉頭熱傷および遅発性瘢痕狭窄を来した食道熱傷の1例を経験したので報告する。症例は28歳の男性。飲酒の席で約90℃のコーヒーを約200ml飲用し,呼吸苦・嚥下痛にて当院受診となった。来院時,上気道粘膜の腫脹が強く,喉頭ファイバーにて喉頭蓋および声帯の腫脹も認め,気道緊急の状態にあり,気管切開による緊急気道確保を行った。咽喉頭熱傷については,経時的に粘膜腫脹は軽快してきたものの喉頭蓋の腫脹が遷延し,容易に誤嚥する状況が続いた。喉頭蓋の腫脹改善とともに第39病日に気管切開チューブを抜去でき,その後も瘢痕形成などは来さなかった。食道熱傷について,受傷早期は食道穿孔等を来さずに経過したが,第25病日に吐血のため,上部消化管内視鏡検査をしたところ,下部食道を中心として食道全長に渡る粘膜の易出血性びらん,潰瘍所見を認めた。第40病日に再度上部消化管内視鏡検査を施行したところ,内視鏡通過は可能であったが,散在性に瘢痕狭窄所見を認めた。粘膜所見は治癒経過にあり,流動食より食事を開始し,第48病日の食道透視検査にて全体的に伸展不良を認めたが,普通食まで摂取可能となったため,第53病日に退院となった。しかしながら,その後も緩徐に食道狭窄は進行し,食道拡張術も奏功せず,第264病日に食道切除術施行となった。温熱熱傷においても,上気道閉塞および遷延する喉頭蓋腫脹に伴う嚥下障害に対する気道管理や,食道瘢痕狭窄に対する経時的な評価,治療が必要である。
著者
藤田 あゆみ 荒武 憲司 皆川 雄郷 西田 武司 田中 仁 友尻 茂樹 原 健二
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.9, pp.811-816, 2010-09-15 (Released:2010-11-09)
参考文献数
11

近年精神科領域では,定型抗精神病薬に代わって錐体外路系副作用の少ない非定型抗精神病薬の使用が目立つようになってきた。これに伴い自殺企図目的で非定型抗精神病薬を含む薬物の過剰摂取により救急搬送される症例が増加してきている。我々は非定型抗精神病薬であるQuetiapineによる急性医薬品中毒を経験した。症例は精神科通院中の40代の女性で,来院時,循環動態不安定で全身性強直性痙攣を伴う意識障害を呈していた。持参された薬剤の空シートからQuetiapine 8,700mgを大量摂取していた可能性が示唆された。Quetiapine単独服用と考えられ,各種の中毒症状を呈していた。服用量は中毒量を超えるものと推測され,初療にて胃洗浄および活性炭投与を行った。輸液療法を施行するとともに集中治療室にて呼吸・循環管理を行い,第3病日に意識レベルおよび全身状態の改善を認めたため退院となった。我々は,来院時の血清,尿などの生体試料を凍結保存し,レトロスペクティブに分析を行うことができた。一般病院の臨床の現場では,通常簡易な尿中薬物スクリーニング検査キットおよび服用歴から急性中毒を疑うが,Quetiapineは簡易キットでは検出不可能である。Quetiapineは2001年に発売された新規薬剤であり,国内外で死亡例の報告も散見されるようになってきている。分析にてQuetiapine同定を行うことで確定診断に至ることができ,また迅速な確定診断が治療方針の決定に有用であることが示唆された。
著者
市原 利彦 川瀬 正樹 長谷川 隆一 中島 義仁 丹羽 雄大 佐々木 通雄 西村 正士
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.7, pp.448-452, 2013-07-15 (Released:2013-10-16)
参考文献数
10

ナイフによる穿通性外傷の中で内胸動脈損傷は鋭的損傷の多い欧米では少なくないが,国内の報告は少ない。今回受傷機転が刺創の21歳の男性が独歩で来院し,救急外来(emergency room: ER)でショックとなり,primary surveyのみでCT等の検査を施行することなく手術に踏み切った。肺損傷を伴った内胸動脈損傷(完全断裂)による左側の大量血胸であり,胸骨正中切開のアプローチにて緊急手術を行い,救命できた症例を経験した。内胸動脈損傷によるショックに対する治療法は種々なものがあり,手術治療,血管内治療(塞栓術),保存的など施設により対応は異なる。本症例に対し,二次救急医療施設における外傷対応の一貫として,JATECの概念の導入により適切な初期治療を行い,preventable trauma deathを回避できたことからその意義は大きいと考えられる。
著者
臼元 洋介 一二三 亨 霧生 信明 井上 潤一 加藤 宏 本間 正人 乾 昭文
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.174-179, 2008-03-15

電撃傷は生体内に電気が通電することによって発生する損傷を総称しており,雷撃傷も同様に扱われることがある。しかしながら,雷撃傷は受傷時の状況,臨床症状,予後などにおいて,電撃傷とは異なる特徴をもっている。今回我々は,登山中同時に落雷にあい,当院へ救急搬送された雷撃傷の 2 例を経験した。66歳の男性と52歳の女性が大木の下で雨宿りをしている最中に落雷にあった。男性は心肺停止(cardio pulmonary arrest; CPA)状態で搬送され蘇生せずに死亡,女性は第 7 病日に後遺症なく独歩退院した。 2 例とも搬送時に,雷撃傷に特徴的である電紋を認めた。電紋は,体の表面に沿って火花放電(沿面放電)が起きたときに生じる熱傷であるが,電気学的な観点からこの放電は樹枝状に伸展することがわかっている。また電紋の枝の広がる方向を観察することにより,電流の流れた方向が推測できる。今回経験した 2 症例をもとに,生存者の問診から得た情報と電紋の観察から,電流の流れと転帰について考察した。CPA症例では,側撃雷といわれる現象がその転帰に大きく関与していたと考えられ,従来の直撃雷のみではなく,側撃雷についてその啓蒙的意義をふまえて報告する。
著者
境野 高資 本間 多恵子 辻 聡 石黒 精 阪井 裕一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.241-246, 2013-05-15 (Released:2013-07-24)
参考文献数
22
被引用文献数
1

【背景】東京都では年に約4万件発生していた搬送先の選定困難を改善するため,平成21年9月より東京ルールを開始した。東京ルールでは,5つの医療機関に照会または連絡時間20分以上を要しても搬送先が決定しない中等症以下の救急搬送事案に関し,地域救急医療センターなどが調整・受入を行うと定められた。【目的】東京ルール制定以後,小児の搬送先選定先困難事案の発生状況を調査し,その要因を検討する。【対象】平成21年9月から平成22年12月に,東京ルールに該当した15歳未満の事案。【方法】東京都福祉保健局資料をもとに後方視的に検討した。【結果】東京ルールに該当した事案は,15歳未満の小児では119,486件中224件(0.2%)であり,15歳以上の702,229件中16,104件(2.3%)に比べて有意に少なかった。小児例では男児が153件(68.3%)を占め,年齢は隔たりなく分布していた。該当事案の発生は土日祝日1.2件/日,平日0.3件/日で,準夜帯が143件(63.8%)を占めた。傷病種別では外傷が180件(80.4%)を占め,うち177件(79%)は骨折・打撲・挫創などであった。【考察】東京都における搬送先選定困難事案の中に少ないながら小児例が含まれていた。小児例は土日祝日および準夜帯に多く発生し,多くが整形外科領域を中心とした外傷症例であった。小児の搬送先選定困難事案を改善するため,救急告示病院における準夜帯の小児整形外科救急診療体制の再構築が必要であると考えられた。【結語】東京都における小児の搬送先選定困難事案は土日祝日および準夜帯の整形外科領域に多く,対応した医療システムの構築が求められる。
著者
長野 修 多田 圭太郎 芝 直基 平山 敬浩 黒田 博光 寺戸 道久 氏家 良人
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.199-204, 2012-05-15 (Released:2012-06-15)
参考文献数
14

ビタミンC(vitamin C: VC)投与が腎障害に関与した可能性があると考えられた広範囲熱傷の2例を経験した。【症例】症例1:70歳の男性(体重77 kg),熱傷面積45%,Burn Index(BI)41。急性期にVC補充(2.5-4 g/day)を行い,腎機能の悪化を認めた。第4病日(来院日を第1病日とする)にVC補充を中止して持続血液濾過透析(continuous hemodiafiltration: CHDF)を開始した。第21病日まで血液浄化を施行して腎機能は回復した。症例2:68歳の男性(体重89 kg),熱傷面積63%,BI 41。急性期にVC大量投与(25 g/初期24時間)を行ったが腎機能は維持された。第9病日よりVC補充(0.6-1.2 g/day)を再開し,その後徐々に腎機能が悪化した。VC補充(0.3-0.5 g/day)を継続したまま第12病日よりCHDFを施行したが,腎機能は回復しなかった。【考察】広範囲熱傷では創傷治癒促進や初期輸液量軽減を目的としてVC投与が併用されることが多い。一般にVC投与の安全性は高いと考えられているが,代謝産物である蓚酸の蓄積によって腎障害を来す可能性があることや腎不全の回復を妨げることが指摘されている。2症例とも腎生検を施行していないため,腎障害とVCの因果関係は明確ではない。しかし,どちらも経過中に尿沈査で蓚酸カルシウム結晶を認め,症例1ではCHDF排液中の蓚酸濃度測定によって高蓚酸血症の存在が確認された。広範囲熱傷では種々の原因から急性腎不全をしばしば合併するが,これらの2症例ではVC投与の関与を否定できないと考えられた。また,症例1では蓚酸除去におけるCHDFの有用性が示唆された。【結語】VC投与中は腎機能に注意が必要であり,腎機能が悪化する場合はVC投与を中止して積極的な血液浄化を施行すべきであると考えられた。
著者
山元 良 藤島 清太郎 上野 浩一 宮木 大 栗原 智宏 堀 進悟 相川 直樹
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.7, pp.390-396, 2009-07-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

塩素ガスへ暴露すると上気道粘膜の刺激症状や急性肺損傷acute lung injury(ALI)などの呼吸器系障害が生じるが,ALI発症までには数時間以上を要するという報告が散見されている。今回我々は,塩素ガス吸入後に遅発性のALIを発症した 2 症例を経験したので報告し,ALI発症までの時間と症状出現から増悪までに要する時間について検討した。症例 1 は26歳の女性で,自殺目的で 3 種類の洗剤を混合し,発生した塩素ガスを吸入した。来院時無症状であったが,受傷10時間後に低酸素血症が出現し,胸部X線撮影・胸部CTで両側肺の浸潤影が出現した。ALIの診断でsivelestat sodium hydrateを投与し,受傷 6 日目に軽快退院した。症例 2 は64歳の男性で,塩素含有化学物質を誤って混合し,発生した塩素ガスを吸入した。来院時より上気道症状や低酸素血症を認めたが,受傷35時間後に病態が増悪し,胸部CTでのスリガラス状陰影の出現を認め,ALIと診断した。ステロイドを経口投与し,PaO2/FIO2 ratioは改善した。本 2 症例の経過と,塩素ガス暴露による症例報告や動物実験の報告から検討すると,症状の出現までに10時間程度の時間を要し,受傷後48時間程度で病態が最も増悪することが予測された。以上より,塩素ガスに暴露した患者では,来院時無症状であったとしても10時間程度の経過観察を行い,有症状の患者に対しては48時間程度の慎重な経過観察が必要と考えられた。
著者
相川 直樹
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.7, pp.641-654, 1994-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
107
被引用文献数
3 1

重症の救急患者にみられるショックや臓器障害の病態は侵襲に対する生体反応に起因し,その発生機序にサイトカインが重要な役割を演じている。サイトカインはエンドトキシンなどに対しマクロファージ,単球,リンパ球,好中球などが産生する生理活性物質で,多くの種類がある。腫瘍壊死因子(TNF),インターロイキン(IL)-1, IL-6, IL-8などは炎症性サイトカインと言われ,とくにTNF-αとIL-1とは侵襲直後に産生され,他のサイトカインや種々のメディエータの産生を誘導する。エンドトキシンなどの外因を投与しなくても,TNF-αやIL-1-βの投与によりショックや臓器障害が起こることは,外因に対する生体反応がショックや臓器不全を起こすことの証拠として重要な知見である。IL-6は急性相反応のalarm hormoneの役割を演じ,IL-8は好中球の走化・活性化因子としてARDSの病因となる。一方,IL-4, IL-10,可溶性TNFレセプター(TNFsr)やIL-1レセプターアンタゴニスト(IL-1ra)などは抗炎症性サイトカインであるが,侵襲下では炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの両者とも産生が亢進する。サイトカインの多くはautocrineやparacrineとして局所で作用し,侵襲に対する生理的反応に不可欠な物質である。しかし,高度の侵襲によりサイトカインが多量に産生されたり,サイトカイン産生の制御機構が破綻すると,血中に種々のサイトカインが高濃度検出されるようになる。このような高サイトカイン血症で惹起される過大な全身性炎症反応から,自己破壊的なショックや臓器障害が起こる。この状態を筆者はサイトカイン・ストーム(cytokine storm)と称している。種々の病態におけるサイトカインの役割の解明とともに,抗サイトカイン療法が新しい治療法として注目され,とくにキー・メディエータであるTNFやIL-1の制御を目的として,抗TNF抗体,IL-1ra, TNFsrの応用が試みられている。抗サイトカイン療法はリスクの高いサイトカイン・ストーム下の患者でその効果が期待される。
著者
池田 弘人 金子 一郎 多河 慶泰 遠藤 幸男 小林 国男 鈴木 宏昌 中谷 壽男
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.190-194, 2001-04-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
21

A middle-aged man was found unconscious at apartment after ingesting gamma hydroxybutyric acid (GHB) purchased via the internet sales and was admitted to our critical care center. He underwent gastric irrigation and respiratory assistance with intubation at the emergency room due to a probable drug overdose and respiratory acidosis. After fully recovering, he admitted he had taken large doses of GHB with alcohol. The US Federal Drug Administration (FDA) banned GHB sale as an OTC drug in 1991 but has not succeeded in controlling increased GHB addiction. Unconsciousness, coma, hypothermia, bradycardia, hypotention, muscle weakness, myoclonus, convulsion, respiratory distress, and vomiting are common symptoms after GHB ingestion. Treatment such as gastric irrigation, atropine for bradycardia, and respiratory assistance in hypoxia are recommended. Little attention is paid to GHB in Japan because of its rarity and its sale is not illegal, unlike the strict restrictions in the US and European countries. With GHB available over the Internet, its abuse is expected to increase.
著者
大倉 隆介 見野 耕一 小縣 正明
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.9, pp.901-913, 2008-09-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
29
被引用文献数
4 6

向精神薬を意図的に過量服薬し救急病院を受診する患者の臨床的特徴及び救急外来における対応の現状を明らかにするために,2004年 1 月以降の 3 年間に神戸市立医療センター西市民病院(旧・神戸市立西市民病院)の内科救急外来に受診した過量服薬患者194名(件数273件)を対象として遡及的に検討した。対象例は同期間の救急外来受診件数全体の0.75%を占めており,平均年齢は36.2 ± 13.3歳,性別は男35名(39件),女159名(234件)であった。推定服薬時刻から来院までの平均時間は 4 時間 9 分であった。救急車による搬送例は167件(61.2%)であった。服用量が多いほど来院時の意識レベルは低かった。服用薬物は大多数が医療機関から処方されたものであり,ベンゾジアゼピン系が最多であった。アルコールの同時摂取例は救急搬送及び入院の割合が高かった。ICD-10に準じた精神科的基礎疾患としてはF3(気分障害)とF4(神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害)が多かった。救急外来で血液検査を施行する頻度は高かったが,心電図や胸部X線撮影を施行する頻度は低かった。また,活性炭投与を施行する頻度は胃洗浄を施行する頻度よりも低かった。全受診例のうち126件(46.2%)が入院を要した。救急車による搬送例はそれ以外の患者と比べて入院を要する割合が高かった。入院例の在院日数の中央値は 2 日であった。死亡例はなかった。当院精神科医への診察依頼があったものは94件(34.3%)あった。救急外来からの帰宅後または退院後 1 週間以内に過量服薬で再受診した症例は21件(7.7%)あった。これらの結果は,一般病院の救急外来を受診する向精神薬過量服用患者の臨床的特徴を示すとともに,救急外来における過量服薬患者への救急医学的,精神医学的対応の現状と問題点を指摘するものであり,今後更なる検討が求められる。
著者
日本救急医学会 熱中症に関する委員会
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.211-230, 2012-05-15 (Released:2012-06-15)
被引用文献数
3 2

日本救急医学会「熱中症に関する委員会」では,2010年6~8月に3回目の全国調査を行った。94施設(2006年の第1回調査では66施設)から収集した1,781例(同525例)の分析からは,日常生活中の高齢者の増加とその重症化が顕著であった。一方で,労作性熱中症患者は重症化が抑制された。スポーツ,労働における熱中症対策が進んでいるのに対し,温暖化,高齢化,不景気,孤立化などが進行しつつあり,高齢者の日常生活における熱中症の予防が重点課題といえる。今後も節電の夏が予想される中,今回の調査結果を生かし,家族,地域社会,行政などが協力して効果的な対策を立てる必要がある。また,熱中症の国際的な基準として使用できる診断基準,重症度分類,ガイドラインなどの策定を急ぐ必要がある。
著者
山谷 立大 小泉 寛之 樫見 文枝 近藤 竜史 竹内 一郎 隈部 俊宏 浅利 靖
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.12, pp.892-896, 2014-12-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
14

顔面外傷は気道閉塞や出血性ショックなど,時に緊急度の高い病態を引き起こす。我々は顔面外傷による気道閉塞に対してドクターカーの出動により迅速かつ適切な気道確保を行い,出血性ショックに対して迅速かつ有効な血管内治療により救命した重症顔面外傷の1例を経験したので報告する。症例は53歳の女性。自動車で走行中, 路肩に停車していたトラックに後方から衝突し受傷した。トラック運転手により救急要請,高エネルギー外傷および気道閉塞の可能性があり同時に救急隊よりドクターカー要請となった。救急隊現着時意識レベルGlasgow coma scale(GCS)7[E1V1M5],SpO2 76%,血圧96/71mmHgであった。鼻腔および口腔内からの大量出血による気道閉塞に対し直ちにAirwayscope®を使用し気管挿管を行い, 出血性ショックに対し急速輸液開始し当院救命救急センターに搬送した。病着時には収縮期血圧60mmHgまで低下し輸血の急速投与を行った。頭部CT検査で多発顔面骨骨折, 外傷性クモ膜下出血, 急性硬膜下血腫,気脳症,頭蓋底骨折を認めた。体幹部CT検査で肺挫傷,気胸を認めたが出血性ショックの原因となる所見は存在しなかった。鼻腔および口腔内からの出血が持続していることから,原因として外頸動脈系からの出血を疑い血管造影検査を施行した。左顎動脈からの血管外漏出像を認めたため緊急に経カテーテル動脈塞栓術を施行,直後から血圧が上昇し循環動態の安定を得ることができた。
著者
尾世川 正明 森尾 比呂志 野本 和宏 西澤 正彦 貞広 智仁
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.11, pp.703-710, 2002
被引用文献数
2

成田赤十字病院は新東京国際空港に近接しており,外国人旅行者の救急患者を診療する機会が多い。本報は当院救命救急センターに1993年から2000年までの8年間に入院した旅行中の外国人救急患者82人(男性50人,女性32人:年齢15-82歳,平均年齢47.7歳)を検討した。患者の国籍は米国が31人と最も多く,次いで東アジア29人で,患者の国籍は22か国に及んだ。55人は英語を話したが,英語を解さない24人とはコミュニケーションをとることが最も深刻な問題であった。このようなケースでは,病歴聴取,治療上のインフォームドコンセントの取得,病状説明などが入院時ほとんど不可能であった。疾患の内訳は,消化管疾患(消化管出血,穿孔,腸閉塞,急性虫垂炎など)22%,循環器疾患(急性心筋梗塞,心不全)16%,外傷18%,中枢神経系疾患(脳血管障害,癲癇など)15%,呼吸器疾患(呼吸不全,肺炎など)7%,その他の疾患22%であった。18人(22%)の患者がICU/CCUに入室した。転帰は62人で軽快,不変が10人,簡易な処置で帰国した者3人,死亡7人(9%)であった。ICU/CCU入室率,死亡率ともこの時期の救命救急センター入院患者よりも高かったが,多くの患者が可及的早期の退院と帰国を希望した。そのため入院期間は短く,3日以下が36人,4-10日が19人,11-20日が15人で,全体の平均在院日数は10.8日であった。帰国時,病状のため医療者(医師および看護婦)の付き添いを要したケースが12人,家族もしくは関係者の援助を要したのは20人であった。帰国時,13人は車椅子を使用し,7人はストレッチャーで搬送された。外国人旅行者の救急医療は言語や医療費の問題に加えて,早期退院や早期帰国などの要望を実現するため,病院とスタッフに特例的な努力を強いる。行政は,このような医療を担当する病院に効果的援助を検討するべきである。
著者
根本 学 佐藤 陽二 後藤 英昭 澤田 祐介 行岡 哲男 松田 博青 島崎 修次
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.12, pp.717-724, 1999-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
13

乗車用安全帽(以下ヘルメット)の着用が頭部保護に関し,効果の高いことは周知のごとくである。一方,臨床の場ではヘルメットを着用していたにもかかわらず,頭部・顔面外傷にて救急医療施設に搬送される患者は少なくない。ヘルメットは日本工業規格(以下JIS規格)により3種類(A種,B種,C種)に分類されており,一般使用者の多くはA種もしくはC種を着用している。臨床検討として,過去2年間に経験した着用ヘルメットが判明している二輪車事故患者157例を対象とし,頭部・顔面外傷の有無とその損傷部位,および着用ヘルメットにつき検討した。実験的研究として,同一条件下で市販されているJIS規格AおよびC種ヘルメットの衝撃吸収試験を行った。統計学的検討はχ2検定およびt検定を用いて行い,危険率5%未満を有意とした。また,実験における測定値は,平均値±標準偏差で表示した。臨床例では157例中,A種着用群は56例,C種着用群は101例であった。頭部・顔面外傷の頻度はA種着用群60.7%であり,C種着用群25.7%に対し有意(p<0.001)に多かった。衝撃吸収試験ではA種よりC種が有意差(p<0.001)をもってすぐれた衝撃吸収能を示した。とくに376cmからの落下実験では,A種で脳に損傷を与えるとされている衝撃加速度400Gを超える値が測定された。JIS規格では125cc以下の排気量に対し,A種ヘルメットの着用を許可しているが,今回の検討でA種ヘルメットの危険性が判明した。ヘルメットの生産・販売にあたり,消費者に保護性能を明確に伝え,消費者自身がヘルメットの機能を認識することが大切であり,今後,現状に見合ったJIS規格の再検討が必要と考える。
著者
岩崎 衣津 時岡 宏明 福島 臣啓 實金 健 奥 格 小林 浩之 石井 瑞恵
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.92-100, 2012-03-15 (Released:2012-05-18)
参考文献数
32
被引用文献数
1

【目的】わが国では敗血症性ショック患者に対してエンドトキシン吸着療法(以下PMX-DHP)が保険適応になって以来,敗血症治療の第一選択として行われることが多い。しかし,国際的には臨床的有用性は議論されており,治療法としては確立されていない。当院では,敗血症性ショック患者に対して,速やかな感染源の除去,適切な血行動態の維持,抗菌薬の早期投与等の集学的治療を行っている。PMX-DHPを用いない当院において,緊急手術を施行した下部消化管疾患による敗血症性ショック患者の治療成績について後ろ向きに検討した。【対象と方法】下部消化管疾患に対し緊急手術を施行され,周術期に敗血症性ショックとなり昇圧剤を必要とした成人症例を対象とした。血行動態の維持には,頻回の心臓超音波検査による前負荷と心機能の評価を行い,輸液を投与した。昇圧剤にはドパミン,ノルアドレナリン,少量バソプレシン等を用いた。【結果】緊急手術を施行した下部消化管疾患による敗血症性ショック患者28例の院内死亡率は17.9%でAPACHE IIから算出した予測死亡率63.3%に比較して良好であった。とくに大腸穿孔患者15例では,予測死亡率57.7%に対して院内死亡率は0%であった。【結論】下部消化管疾患による敗血症性ショック患者の治療は,心臓超音波検査による適切な前負荷の維持とノルアドレナリンとバソプレシンの使用により,PMX-DHPを用いなくても良好な成績を示した。
著者
吉原 克則 一林 亮 伊藤 博 坪田 貴也 濱田 聡 本多 満 奥田 優子
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.93-98, 2009-02-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
15

有機リン中毒治療に際し,医療者の二次被害と考えられた事例を経験した。中毒症状の強い 1 名は,先天性コリンエステラーゼ(ChE)欠損と診断され,有機リン中毒患者治療により症状を呈した特異な事例である。有機リン中毒患者の脱衣,清拭,気管挿管,胃洗浄などの初療に関係した医療者 5 名と救急室で他患者に対応していた3名に処置中から頭痛・頭重感(8/8),全身倦怠感・目の違和感(5/8),喉の痛み(3/8),四肢の脱力感・歩行障害(1/8)が2-3日, 1 名は 5 日間継続した。暴露後の採血で軽症 7 名のChEは正常であったが,直接関与していないが脱力感・歩行障害も訴えた 1 名はChE 27 IU/lで,その後も40IU/l以下であった。他の血液,生化学的検査に異常は認められず,先天性ChE欠損を疑い,簡易的遺伝子検索を実施し遺伝子変異(DNA塩基置換:G365R変異)のヘテロ接合であることを確認した。しかし,この変異単独例と比較すると表現型が異なるため,他の変異合併を疑わせた。ChE活性低下のため有機リンに対する血中での結合が低下し神経筋接合部により多くの有機リンが作用したと考えられ,正常活性では軽い症状ですむ程度の暴露量でも,先天性ChE欠損では過敏な感受性のため看過できない症状が出現したと考えられた。先天性を含め二次的にもChE活性低下は,しばしば遭遇する病態である。ChE阻害薬中毒患者治療に際しては医療者や来院患者の二次被害防止を徹底すべきである。
著者
山下 衛 田中 淳介 山下 雅知
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.7, pp.273-287, 1997-07-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
88

経口中毒物質の吸収を阻止することは中毒治療の基本原則である。活性炭投与,催吐剤投与,胃洗浄などの方法が古くから行われているが,いずれの方法が経口中毒物質吸収阻止に最も効果的であるかについては議論のあるところである。1980年代までは活性炭の投与方法やその吸着効果について十分検討されなかったことが,その原因のひとつである。この10年間に,活性炭の効果的な投与方法や投与量についてヒトを使って研究され,活性炭投与が中毒物質吸収阻止のために最も重要であり,そのなかでも頻回活性炭投与法が効果的であることが明らかになってきた。この論文では催吐や胃洗浄の方法を説明し,活性炭の中毒治療への重要性について述べる。