著者
高橋 絵里奈 竹内 典之
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.2, pp.107-112, 2007-04-01
被引用文献数
1 3

長伐期林における陽樹冠管理のための定量的な基準を提示する目的で,吉野林業地の38〜210年生の林分において,個体の陽樹冠量(陽樹冠直径,陽樹冠長,陽樹冠表面積)と年平均胸高直径成長量(ΔDBH)の関係を解析した。陽樹冠直径および陽樹冠表面積とΔDBHとの間には良好な回帰直線式が得られた。得られた式の信頼性および測定の簡便怪等を検討した結果,特に陽樹冠直径(Dsc)が残存木選木の指標として有用であると結論できた。また,DscとΔDBHとの関係は林齢の増加にともなって変化しており,この結果は,単位陽樹冠量当たりの直径の成長効率が林齢に沿って変化することを示していた。したがって幅広い範囲の林齢や個体サイズを対象とする長伐期施業においては,林齢等の違いによるDscとΔDBHとの関係の変化を考慮することが重要であることが明らかとなった。さらに, DscとΔDBHの回帰直線式からΔDBHが0.25〜0.54cm/午(年輪幅が2mm前後)となるDscの推定範囲を求めることができ74〜88%の精度でDscから年輪幅が2mm前後であるか否かを判定できた。これらの結果から,これまで定性的に行われてきた残存木選木に対して,一定の精度を有する定量的な基準を林齢別に提示したといえる。
著者
加藤 正吾 細井 和也 川窪 伸光 小見山 章
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.123-128, 2011
被引用文献数
5

付着根型つる植物であるキヅタ (ウコギ科) の匍匐シュートの伸長方向と光環境の関係を実験的に解析した。匍匐シュートに傾度のある光環境条件を与えた場合, 10 mm以上伸長したすべてのシュートで, キヅタは負の光屈性を示した。また, その負の光屈性は, シュートの先端が水平方向と垂直方向の光強度が均一に低下するような空間をめざして伸長するように生じていた。シュートの伸長量は光量の減少にしたがって低下したが, 20 μmol/m<SUP>2</SUP>/sという弱光環境においても負の光屈性は生じていた。つまり, キヅタの匍匐シュートの負の光屈性は, 単なる強光を避ける反応ではなく, 三次元空間的な光環境で暗所方向へ伸長する反応であった。この負の光屈性は, つる植物が林床の不均一な光環境下で, 支持体として有効な樹木を匍匐シュートによって探索する際に, シュート先端が登攀開始点となる暗い樹木の根元に到達する有効な生態的特性であると考えられる。
著者
鳥田 宏行 武田 一夫
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.39-44, 2007 (Released:2008-07-10)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

森林の雨氷害を軽減する知見を得るため,2004年2月に北海道日高町で発生した雨氷害の調査データを解析したところ,直径階ごとの本数被害率の分布形状は,大きく五つのタイプ((1)中庸木に被害が多い,(2)劣勢木に被害が多い,(3)優勢木に被害が多い,(4)立木のサイズに関係なく被害率の変動が激しい,(5)直径階の大小に関わりなく被害率が一定)に分類された。分布形状に差異がみられるのは,風や着氷量などの気象因子が少なからず影響したためだと推察される。また,密度管理図上で軽害林分と激害林分間の判別分析を行った結果,的中率は75%であった。判別分析で得られた判別式と収量比数0.9線を用いて安全域と危険域の境界線を描き,被害軽減が期待できる範囲を密度管理図上に示した。次に,林分平均樹高との限界形状比の関係をロジスチック式で近似して限界形状比曲線を求めたところ,生育段階で限界形状比は異なることが示された。これらの結果は,森林の雨氷害を軽減するためには,植栽密度に沿った適切な間伐が重要であることを示唆している。
著者
竹内 郁雄 永岩 健一 寺岡 行雄
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.390-394, 2007-12-01
被引用文献数
1 1

鹿児島県北部のヒノキ4林分で,台風による落葉量を調査した。調査地城には2004年に5個の台風が接近し,森林に最も強い影響を与えたのは台風18号で,瞬間最大風速40m/s以上の東および南西の強風をもたらした。落下した落葉枝の長さは,4林分とも10cm未満のものが大部分で,20cm以上はわずかであった。落葉量は,南西向き斜面のP1,P2でそれぞれ1.0,0.8t/ha,北向き斜面のP3,P4でそれぞれ0.7,0.2t/haであった。4林分の落枝量は,落莫量の7〜15%と少なかった。林分での落葉量は,斜面方位や風上側の保護山体の有無などによる風速の強さを反映したものと推察された。落葉量が多かったP1,P2林分で現存量の調査を行った。台風前の葉現存量はP1,P2でそれぞれ13.8,15.5t/haと推定された。台風前の葉現存量に対する落葉量の割合はP1が7.5%,P2が5.1%であった。このように,ヒノキ林では台風による幹折れなどの顕著な被害発生がなくても,落葉被害が発生することがわかった。
著者
正木 隆 森 茂太 梶本 卓也 相澤 州平 池田 重人 八木橋 勉 柴田 銃江 櫃間 岳
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.48-57, 2011
被引用文献数
1 3

林冠の閉鎖した94年生アカマツ人工林において, 間伐後8年間の個体の成長経過を同齢の無間伐林, 140年生天然アカマツ林と比較しつつ, 成長が改善されたか否か, 成長変化と相関する因子は何か, この人工林を天然アカマツ林のような大径木を含む林型に誘導できるか否か, を検討した。サイズは天然林 (DBH=68 cm, <I>H</I>=30∼35 m) の方が人工林 (DBH=41 cm, <I>H</I>=25∼30 m) よりも高い値を示した。形状比は人工林で50∼80, 天然林で40∼70だった。樹冠長率は人工林0.2∼0.4に対し, 天然林では0.25∼0.5だった。間伐により人工林の約4割の個体の成長が0.1 cm yr<SUP>−1</SUP>改善されたが, 無間伐林では逆に8割の個体の成長が低下した。個体の成長の改善度は, 隣接個体との競合環境の変化や, 樹冠長率など個体の着葉量の指標と連関していなかった。この人工林が140年生時に天然林のような大径木を含む林型に達するには, 今回観測された成長の改善では不十分である可能性が高いと考えられた。
著者
北島 博 菅 栄子 槙原 寛
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.192-196, 2006-06-01
被引用文献数
1 1

コウモリガ幼虫を市販の蚕用人工飼料を用いて,25℃の長日区(LD16:8)と短日区(LD10:14)で220日間飼育した。蛹化率は長日区(37.6%)の方が短日区(13.6%)より有意に高かった。長日区では雌雄とも蛹化したが,短日区では雄の蛹化だけがみられた。羽化率は長日区(25.6%)の方が短日区(12.8%)より有意に高かった。長日区の雄,雌,および短日区の雄における平均幼虫期間は,それぞれ158.6日,159.7日,および151.6日間,平均蛹期間はそれぞれ23.9日,22.6日,および22.5日間であった。以上より,本種幼虫を蚕用人工飼料を用いて飼育できること,本種幼虫の蛹化には日長条件が密接に関係しており,蛹化率を高めるには25℃の場合長日の方が短日より望ましいことが明らかとなった。
著者
鈴木 保志 近藤 稔 吉村 哲彦
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.3, pp.208-216, 2005-06-01
被引用文献数
3

ある地点における架設可能なH型架線の組数により支点設置可否特性を定義し,路網開設に際して重要な指標となる崩壊危険度および関連地形因子との関係を分析した。まず,架設可能性の判定計算に先立ち,H型架線の架設事例から現実的な2線の位置関係を明らかにした。また,荷上索角度の制限により主索への過張力を回避する現行の作業方法を力学的に考察し,荷重点高さを想定した。分析の結果,支点設置の可能性が高い地点ではそうでない地点よりも相対的に崩壊危険度が低かった。関連地形因子との関係では,斜面の横断形状,傾斜変換点,集水面積,およびこれらの交互作用において,支点設置の可能性が高いことが崩壊危険度を小さくする要因と一致した。傾斜については,崩壊危険度を高くする急な斜面の方が支点設置の可能性が高かった。
著者
小島 康夫 安井 洋介 折橋 健 寺沢 実 鴨田 重裕 笠原 久臣 高橋 康夫
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.337-341, 2006-10-01 (Released:2008-01-11)
参考文献数
38
被引用文献数
3 4

東京大学北海道演習林では, 積雪期にエゾシカによる激しい樹皮剥ぎが発生し, おもに小径の樹幹が剥皮される。この演習林では, イタヤカエデ, イチイ, イヌエンジュ, ウダイカンバ, エゾマツ, オヒョウ, シウリザクラ, シラカンバ, ハリギリ, ハルニレ, ミズナラ, ヤチダモが森林施業や保全の上で重要である。われわれは, これら12樹種小径樹幹の内樹皮成分を分析し, 各成分とエゾシカの樹皮嗜好性との関連を検討した。エゾシカはイヌエンジュに対して低嗜好性を示したが, この樹種はアルカロイドを含む唯一の種であった。他の11樹種に関しては, エゾシカの樹皮嗜好性に対して灰分含有割合が正の, 酸性ディタージェントリグニン含有割合が負の関係をそれぞれ示した。
著者
片井 秀幸 高橋 誠 平岡 宏一 山田 晋也 山本 茂弘 加藤 公彦 袴田 哲司 戸丸 信弘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.73-78, 2011 (Released:2011-06-22)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

静岡県のブナ集団の遺伝的系統を推定するため, まずブナの分布域全体にわたる55集団を用いて葉緑体DNA (cpDNA) ハプロタイプの地理的分布を調べた。調査した集団にはハプロタイプD, EおよびFの3種類が存在し, 中部地方の太平洋側に分布するDとEが大部分を占めていた。次にブナの分布域および明らかとなったハプロタイプの地理的分布にもとづいて6集団を選定し, 核マイクロサテライト (nSSR) により遺伝的多様性を調査した。nSSR座の対立遺伝子頻度から計算された集団間のDA距離にもとづいた無根近隣結合樹から, 調査した集団は全て太平洋側の系統群に属し, 地理的な位置関係と一致することが明らかとなった。nSSR座の対立遺伝子頻度は集団間でほぼ均一であったが, cp DNAハプロタイプの地理的分布には構造が認められた。この差異はcpDNAと核DNAの遺伝様式に起因する遺伝子流動率の違いを反映していると考えられる。
著者
小野澤 郁佳 久米 朋宣 小松 光 鶴田 健二 大槻 恭一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.366-370, 2009 (Released:2010-01-26)
参考文献数
25
被引用文献数
9 10

林分蒸散量の算定において樹液流計測は有力な手法だが, 竹に樹液流計測が適用可能であるかは明らかでなかった。本研究では竹林蒸散量算定の第一歩として, 樹液流計測による竹の個体レベルでの蒸散量の算出方法の確立を目的とし, モウソウチクにおいて自作の長さ1 cmのGranierセンサーによる樹液流計測, 切り竹による吸水量計測を行った。その結果, 自作センサーにより桿内の水の上昇 (以下, 樹液流と呼ぶ) の検出が可能であり, 計測された樹液流と吸水量の時系列変化は良好に対応した。量的には, 従来の樹液流速換算式によって計算される単木あたりの樹液流量が吸水量より過小となることが示され, 新たな樹液流速換算式を提示した。以上より, 樹液流計測によるモウソウチクの個体レベルでの蒸散量の測定が可能となった。
著者
小松 光 久米 朋宣 大槻 恭一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.94-103, 2009-04-01
参考文献数
48
被引用文献数
3 9

針葉樹人工林の間伐による渇水緩和機能の変化を評価する一環として,小松ら(2007c)は間伐による年蒸発散量の変化を予測するためのモデルを作成した。このモデルは蒸散と遮断蒸発の部分からなり,モデルの妥当性は,1)間伐による蒸散量の不変性,2)間伐による遮断蒸発量の減少量,3)モデルの流域スケールへの適用可能性の3点から検証される必要がある。本論ではおもに2)の検証を行った。間伐による遮断蒸発量の変化を計測した7事例を文献より収集し,モデルによる予測結果と比較したところ計測値とモデル予測値は概ね一致し,2)がほぼ妥当であると思われた。3)については,流域水収支法による蒸発散量の計測データが1事例しか得られなかったが,このデータについては計測値とモデル予測値は概ね一致し,モデルが流域スケールへ適用できる可能性が示唆された。本論では1)の検証は行われておらず,3)の検証も不十分であるので,将来の検証作業で必要となるデータを列挙し,今後の計測研究に指針を示すことも行った。
著者
篠原 慶規 井手 淳一郎 東 直子 小松 光 久米 朋宣 智和 正明 大槻 恭一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.1, pp.54-59, 2010 (Released:2010-04-01)
参考文献数
44
被引用文献数
12 14

近年, 管理放棄された人工林が増加している。蒸発散量は水資源量に大きな影響を与える要素であるが, 管理放棄人工林での計測事例と判断できるものはこれまでになかった。本研究では, 九州大学福岡演習林に設置された御手洗水試験流域の管理放棄されたヒノキ人工林において樹冠遮断量の計測を行い, 他の針葉樹林と比較した。本試験地の樹冠遮断率 (樹冠遮断量/降水量) は24.9%となった。他試験地の針葉樹林の樹冠遮断率は立木密度とともに増加する傾向があり, 本試験地の樹冠遮断率はその分布の範囲内に収まった。このことは, 従来報告されている樹冠遮断率と立木密度の関係が, 管理放棄人工林に対しても成り立つかどうかを判断する上で有益な情報となるであろう。
著者
相浦 英春
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.73-79, 2005-02-01
被引用文献数
2

斜面積雪の安定に必要な林分の条件を, 斜面雪圧によって立木に根返りが発生しないとともに, 林内の積雪が安定していることとし, 各種の森林における積雪の移動量や, 立木に加わる斜面雪圧などの測定を行い, そのような条件を満たす立木密度についてスギとブナを対象に検討した。その結果, 斜面雪圧によって立木の根返りが起こらない限界の立木密度は, 最大積雪深と立木の根元直径によって樹種ごとに決定された。また, 林内の積雪を安定させるためには, 立木がほぼ均等に分布していることを前提として, 立木密度400本/ha以上が必要であった。したがって, 斜面積雪の安定に必要な立木密度は, これらの条件をともに満たす値として求めることができた。
著者
小川 泰浩 清水 晃 久保寺 秀夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.329-336, 2006-10-01
被引用文献数
2

1995年に雲仙普賢岳噴火活動が終息し数年が経過した時点において,降下火山灰が堆積した林地と火砕流堆積地における火山噴出物表層の透水性変化過程を明らかにするため,表層の飽和透水試験と土壌薄片による表層の土壌微細形態を解析した。リターが地表に堆積したヒノキ林地と広葉樹林地の火山灰層では粗孔隙が分布し,透水性はリターの堆積によって向上していた。ヒノキ林地の中でもリターが地表にみられない場所の火山灰層には薄層がみられ,孔隙率と飽和透水係数はヒノキリターが堆積した火山灰層に比べ低い値を示した。この薄層は,表面流で移動した火山灰が堆積して形成された堆積クラストであると考えられた。火砕流堆積地では細粒火山灰が流出した結果,孔隙特性が良好となって表層の透水性が上昇したと推察された。噴火活動終息後数年が経過することにより,林地と火砕流堆積地における表層の透水性には違いがみられ,土壌微細形態解析によってこの違いはリターの堆積や細粒火山灰の流出に伴う表層の堆積構造の変化により引き起こされていると推察された。
著者
平岡 真合乃 恩田 裕一 加藤 弘亮 水垣 滋 五味 高志 南光 一樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.145-150, 2010 (Released:2010-08-10)
参考文献数
29
被引用文献数
14 19

ヒノキ人工林における地表の被覆物が浸透能に及ぼす影響を明らかにするために, 急峻な斜面の14地点で振動ノズル式散水装置による浸透能試験を行って最大最終浸透能を測定し, 下層植生をはじめとする地表の被覆物との間で回帰分析を行った。得られた最大最終浸透能は5∼322 mm h−1 であり, 最大最終浸透能と下層植生量, 植被率との間に有意な正の線形関係が認められた。植被率が50% を下回ると最大最終浸透能は45 mm h−1以下と低くなり, 自然降雨下においてホートン型地表流の発生する可能性の高いことが示された。また, 植被率をブラウン-ブランケの被度指標で読み替えた場合でも, 被度3以下で最大最終浸透能が急激に低下することが示された。本研究の結果から, 急峻なヒノキ林斜面では下層植生で被覆された地表面で高い浸透能を維持できること, また下層植生の被度区分を浸透能の指標とできる可能性が示唆された。したがって, ホートン型地表流を抑制する観点から浸透能の目標値を設定し, 下層植生の被度調査によってヒノキ林の荒廃度を評価できる可能性があり, 下層植生を指標とした水土保全機能の評価に基づいた, 施業計画の策定につながることが期待できる。
著者
小川 安紀子 藤原 章雄
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.5, pp.360-364, 2007 (Released:2008-08-19)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

アメリカ合衆国のLTERネットワーク(USLTER)では,設立以来,データ共有を基本方針の一つとして,情報マネジメントに力を入れてきた。近年では,これまで蓄積されてきたデータを統合・比較研究などに二次利用するため,メタデータを中心とするエコロジカル・インフォマティクスの最新技術の開発と情報インフラの整備に積極的に取り組んでいる。これらの技術の最近の動向を紹介する。
著者
鳥田 宏行
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.354-357, 2005-08-01
被引用文献数
2

2004年2月22日から23日にかけて,北海道日高町では雨氷による森林被害が発生した。被害面積は約163haに達し,カラマツが被害面積全体の84%を占めた。本研究では,被害発生当時の気象状況を明らかにし,数量化I類によってカラマツ林の本数被害率と林況および地況との関係について解析を行った。22日から23日にかけての気象状況は,高度400mよりも上空では0℃以上の暖気層があった可能性が高く,これが標高の高いところでは雨氷害が発生しなかった理由と考えられる。斜面方位のスコアからは,北〜北西の方位が高く,着氷後の風によって被害が拡大したことが示唆された。平均胸高直径のスコアからは,直径が25cmよりも大きくなると,被害が抑制される傾向が示された。
著者
斎藤 真己 平 英彰
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.187-191, 2006-06-01
被引用文献数
1 2

スギ採種園における園外からの花粉汚染対策として,閉鎖したガラス室内にミニチュア採種園を造成し,その得失と有効性を検討した。ガラス室内のスギの開花時期は,雄花が2月4日から3月27日であり,雌花は2月5日から3月22日であった。これに対して,野外のスギ花粉飛散は2月21日から4月6日であったことから開花時期はガラス室内の方が野外より3週間程度早かった。室内の80%以上の個体が開花した時期は,雄花が2月17日から3月13日までで,雌花が2月15日から3月3日までであり,その期間はほぼ完全に重複していた。この採種園から得られた種子の発芽率は21.4%であり,従来型の採種園から得られた自然交配種子のそれと同程度であった。以上のことから,ガラス室内ミニチュア採種園を利用することで園外からの花粉汚染を防ぎ,さらに雌雄の開花期が揃うことから確実な交配が行われると期待される。今後のスギ造林は多品種を少量面積で植栽する方向に向かうと予想されることから,このことを実現する上においても,本手法は有効な手段になると考えられた。
著者
井藤 宏香 伊藤 哲 塚本 麻衣子 中尾 登志雄
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.46-54, 2008-02-01
被引用文献数
3 11

二次林の遷移に伴う株構造の変化が林分構造の変化に及ぼす影響を明らかにするために,林齢の異なる照葉樹二次林で調査を行った結果,二次林の発達過程には次の三つの段階が検出された。1)伐採後18年を経た段階では,萌芽由来の照葉樹林型高木種が林冠を優占し,伐採直後に優占していた先駆種は,林冠に到達した萌芽個体の被圧によって消失したと考えられた。2)伐採後23〜46年では,林冠個体の多幹率(全個体に対する多幹個体の割合)と平均幹本数,そして実生由来の下層個体の数が減少しており,林冠が閉鎖したために,劣勢な幹の自然間引や実生の定着阻害が起きたと考えられた。3)伐採後60年を経過する段階から萌芽由来の林冠個体が減少しており,株内での幹の競争により単幹化した個体で枯死が発生していることが示唆された。同時に林床の実生も増加しており,林冠個体の枯死に伴う林冠ギャップの形成と林冠構造の複雑化により林床の光環境が好転し,再び実生が侵入したと考えられた。
著者
上村 真由子 小南 裕志 金澤 洋一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.138-144, 2005-04-01
被引用文献数
4

枯死木分解呼吸の環境要因への反応特性を調べるために, 呼吸量を自動測定するシステムを開発し, コナラの枯死木呼吸量を2年間連続測定した。日単位の呼吸量は, 枯死木表面付近の温度変化に伴い明瞭な日変化を示した。また, 降雨による含水率の上昇に伴い呼吸量は急激に減少し, 降雨後に徐々に増加する傾向がみられた。呼吸量の季節変動は, 温度に対して指数関数的な関係があり, 冬期と夏期の呼吸量の差は約8倍であった。同じ温度下における呼吸量のばらつきは主に材の含水率の変化によるものであると考えられ, 一降雨から次の降雨までの含水率の変化に対して呼吸量は平均約1.5倍程度の変化をみせた。温度を変数とした指数関数と含水率を変数とした2次式を乗じた関数を用いて日平均呼吸量の推定を行ったところ, 呼吸量のばらつきの85%を説明することができ, 温度変化に対する呼吸量の季節変化や, 含水率の変化に対する呼吸量の短期的な増減の再現が可能であった。このように, 枯死木の呼吸量は温度と含水率の時系列変化に伴い, 変化幅が約8倍の季節変化と, 変化幅が約1.5倍の含水率の変化に伴う短期的な変化と, 日変化によって複合的に構成されていることが明らかになった。