著者
御堂 直樹 仰 暁清 池田 浩二
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.182, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】温かいスープはそのエネルギー量から予測される以上の満腹感をもたらすことが報告されている。その要因としては、品温、風味、粘度、油脂量等が複合的に関与していると考えられるが、明確になっていない。本研究では要因の1つと推測される品温に着目し、満腹感との関連を評価した。品温から受ける感覚は、夏と冬では異なると考えられることから、季節の違いについても併せて検討した。【方法】健常な成人16名(男性7名、女性9名、28.6±5.8歳)を対象とし、異なるサンプルは別の日に評価するクロスオーバー法にて評価を実施した。サンプルは、市販の粉末キノコスープ1食を150 mlの熱湯に溶かし、65℃(温スープ)または10℃(冷スープ)まで冷却したものとした。対象者にはスープを朝食の代わりに摂取してもらい、Visual Analog Scale (VAS)により、官能、満腹感、食欲および満足感の評価を行った。同様の評価を、夏(室温28.0±0.0℃、外気温28.8±2.6℃)と冬(室温17.3±1.3℃、外気温0.4±0.7℃)に実施した。【結果】夏の評価では、温スープと冷スープによる満腹感は摂取直後に上昇し、徐々に低下するという同様の推移を示し、双方の間で有意差は認められなかった(直前9.4±3.3 vs. 8.1±2.5 mm、直後53.5±7.2 vs. 56.3±7.2 mm、30分後32.6±6.0 vs. 37.4±6.1 mm、60分後15.5±4.8 vs. 14.9±4.0 mm)。一方、冬の評価では、温スープは冷スープに比べ、摂取直後および30分後の満腹感が有意に高かった(直前10.0±3.4 vs. 7.1±1.7 mm、直後61.5±7.4 vs. 50.3±6.6 mm、30分後40.3±6.7 vs. 29.0±5.1 mm、60分後15.5±4.7 vs. 15.2±4.6 mm)。満足感についても同様の傾向が認められており、満腹感または満足感を目的変数、官能評価各項目を説明変数とした重回帰分析の結果、摂取30分後の満腹感や満足感はおいしさと相関した。従って、季節に合った品温のスープのおいしさが、満腹感や満足感をもたらす要因の少なくとも1つであると考えられた。
著者
渡邊 幾子 植田 和美
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.175, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】ういろうの歴史は古く鎌倉時代に中国から伝わったとされる。名古屋、山口、京都をはじめ全国各地でういろうは作られており、主原料やその配合割合により特性があると考えられる。徳島でも全国的な知名度は低いが小豆あん、米粉、砂糖を主原料とした阿波ういろう(以下、阿波)が寛政年間に作られ始め、現在も親しまれている。アンケート調査から、ういろうの有名な地域としてあげられた名古屋、山口の市販ういろう(以下、名古屋、山口)と阿波を比較検討し、その地域特性を明らかにすることを目的とした。【方法】2008年度にアンケート調査を実施し、その結果から名古屋と山口の各5種ずつを用いて、破断強度、水分含量、糖度、色彩を測定し、阿波10種と比較検討した。【結果】アンケート結果から、ういろうが有名と思う地域は名古屋が72.7%と最も高く、徳島24.2%、京都3.5%、山口2.5%と続いた。これはアンケート対象者が徳島県在住者であることが影響し、徳島が2位となったと考えられた。ういろうの品質表示から主原料は、阿波が米粉、名古屋は米粉と澱粉、山口は小麦粉、澱粉およびわらび粉を使用している傾向がみられた。これらの破断強度を測定した結果、破断応力では阿波が9.311×104N/m2と最もかたく、名古屋5.135×104N/m2と山口5.667×104N/m2は近似していた。水分含量では阿波が34.65%と最も少なく、名古屋44.34%、山口44.47%となった。いずれも阿波と名古屋、阿波と山口で有意に差(p<0.01)がみられた。この3地域の比較から、阿波は水分含量が少なく、かたいという特性がみられた。
著者
堤 愛子 川崎 寛也 水澤 一
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.177, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】食品は様々な味成分や香り成分を含んでいる。いくつかの味や香りは閾値以上だが、閾値以下の成分も含まれているはずである。味覚閾値のうち検知閾値は味の質はわからないが、水とは異なることが感知される閾値とされる。苦味は生得的に忌避される味質であるが、後味が長いことが知られており、検知閾値以下であれば、苦味とは認識されず何らかの刺激をもたらすものと考えられた。そこで、本研究では、閾値以下の苦味がうま味の感じ方に及ぼす影響を、ヒト官能評価を用いて検討した。【方法】100mm Visual analogue scaleを用い、被験者は19-20歳の男女とした。試料は味物質を単体または混合した常温の水溶液とした。苦味物質として硫酸キニーネとナリンジン、うま味物質としてグルタミン酸ナトリウム、食品としてかつお風味調味料を用いた。【結果】閾値以下の硫酸キニーネを含むうま味溶液と含まないうま味溶液のうま味強度を調べたところ、閾値以下の硫酸キニーネを含むうま味溶液のうま味強度が高い傾向であった。一方、閾値以下のナリンジンでは有意な差は検出されなかった。閾値以下の硫酸キニーネの効果を食品においても確認するために、市販のかつお風味調味料を用いた検討を行った結果、うま味強度については有意な増強がみられたが、かつお風味については影響が見られなかった。同様に、うま味の後味の長さに対する影響を検討したところ、閾値以下の硫酸キニーネを混合することにより、うま味の後味は有意に伸びた結果を得た。以上より、閾値以下の苦味は食品のうまみ強度を増強し、うま味の後味を延長させる効果があることが示唆された。
著者
村上 恵 森脇 千陽 梅原 志保 岡田 梨沙 吉良 ひとみ
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.22, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】スパゲティの好ましいゆで状態は「アルデンテ」という言葉が用いられ、スパゲティのおいしさにはその食感が重要視されている。著者らはこれまでに、スパゲティの硬さ及びアルデンテは破断応力と正の相関があり、ゆで水に含まれる金属塩類がスパゲティの硬さに影響を及ぼすことを報告している。そこで、本研究では水に含まれるCaイオンやMgイオンがスパゲティの硬さにどのような影響を与えるかを検討するため、ゆで水にそれらの金属塩類を添加し、検討を行った。【方法】金属塩類としてCaSO4、MgSO4、Na2SO4の3種類を用いた。これらの金属塩類を超純水に添加してゆで水とし、スパゲティをゆでた。スパゲティはイタリア産の直径1.6mmのものを用いた。それぞれのゆで水についてpH測定、温度測定、残渣測定を行った。また、ゆでたスパゲティについては破断測定を行った。【結果】pH測定では、スパゲティを加えず、水のみを加熱した場合ではCaSO4添加水、MgSO4添加水のpHは加熱後の方が有意に低かった。スパゲティを加えて加熱した場合では、Na2SO4添加水のpHは加熱後の方が有意に高く、CaSO4添加水、MgSO4添加水のpHは加熱後の方が有意に低くなった。温度上昇の経過については、各ゆで水間の差は見られなかった。ゆで水中の残渣測定では、CaSO4添加水、MgSO4添加水では見かけ上のゆで溶けは多くなったが、スパゲティ由来の残渣量に差は認められなかった。破断測定によるスパゲティの硬さへの影響はCaSO4>MgSO4>Na2SO4の順となった。Na2SO4によるパスタの硬さへの影響は認められなかった。
著者
遠藤 千鶴 西堀 尚良
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.51, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】ポリアミンによる動脈硬化抑制、抗老化、炎症抑制などの効果が報告されて以来、食事からのポリアミン摂取が注目され、食品中のポリアミン含有量が報告されるようになってきた。一方、制御栄養の側面から、実際の摂取量を明らかにすることが必要であり、調理・加工によるポリアミン量の変動を明らかにすることが重要であると考えられる。そのため、演者らは加熱によるポリアミン量の変動について研究を重ねており、前回の大豆に続き、今回は、きのこ類の加熱前後のポリアミン含有量の変動を検討した。 【方法】試料のきのこ類にはしいたけ、まいたけ、なめこ、しめじ、エリンギ、えのき、マッシュルームを使用した。試料は荒みじんにした後、一定量を秤量し、加熱は600W電子レンジを使用し、加熱時間は60秒間、「茹でる」はビーカーに水を加えて、同レンジで90秒間加熱した。その後、5%トリクロロ酢酸を加え、ホモジナイズ後、遠心分離し、得られた上澄みを液体クロマトグラフィーで分析した。分析はポストカラムOPA法により行った。【結果】きのこ類に含まれているポリアミンは種類や産地により検出成分、含有量に差があるものの、共通に含まれていた成分はスペルミジンで、量も多く含まれていた。その他の成分として、プトレスシンはまいたけ、ブナシメジ、エリンギに含まれ、アグマチンはまいたけのみから検出された。きのこの主要なポリアミンであるスペルミジンの茹で加熱による損失率は、しいたけで26~37%、まいたけ21~33%、しめじ8~28%、エリンギ16~40%、えのき31~45%であった。また、まいたけに含まれているプトレスシンは「茹で」加熱により、約85%の損失が認められ、ポリアミン成分により損失率に差があった。
著者
中澤 弥子 佐藤 晶子 小木曽 加奈 吉岡 由美 鈴木 和江 高崎 禎子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.113, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】長野県では、一年を通じて家の最大の節目を年取りの行事とする傾向が強く、年神棚にご馳走をお供えし、一年の無事の感謝と新しい年の豊作を祈り、家族揃ってご馳走で祝う習慣1)がある。本研究では長野県の大晦日と正月の行事食の継承の実態と現在の特徴について、平成21~22年度調理科学会特別研究「調理文化の地域性と調理科学 行事食・儀礼食」で行った調査結果を基に明らかにすることを目的とした。 【方法】アンケート回答者のうち、長野県内に10年以上住み、現在も住んでいる人および現在長野県内に住み、他県に10年以上住んだ経験はあるが、行事食に長野県の影響を受けている人の正月と大晦日のデータ(計686人)を集計し分析を行った。 【結果】回答者の年齢層は、10~20代50%、30~40代33%、50代13%、60~80代4%であった。大晦日の認知度は99%、行事食の経験が98%と高く、年取りの祝い料理については、喫食経験ありが67%で、毎年食べるが53%を占めた。年越しそばは喫食経験ありが90%と高く、毎年食べるが57%、毎年ではないが食べるが19%と高率であった。鮭料理の喫食経験ありは62%で毎年食べるが35%、鰤料理の喫食経験ありは54%、毎年食べるが23%であり、現在も鮭や鰤などの年取り魚が年取りの祝い料理として食されていた。その他、海なし県である長野県において肉料理の回答は少なく、刺身、数の子、握り寿司などの海産物がご馳走として好まれ食されている様子がうかがわれた。1)「聞き書 長野の食事」、p348、農山漁村文化協会 (1986)
著者
武智 多与理 原田 和樹
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.58, 2011 (Released:2011-08-30)

セリシンタンパク質の抗酸化性についての考察○武智多与理1)、原田和樹2)1)平安女学院大学 2)水大校【目的】蚕の繭を構成するセリシンは、絹糸タンパク質であるフィブロインを接着するタンパク質であり、繭に20~30%含まれている。近年になりセリシンの物理・化学特性(粘性,乳化性,抗酸化性,チロシナーゼ阻害活性等)が報告され、化粧品や医薬品分野での利用が提案されている。私たちは、セリシンの様々な化学的特性の中の抗酸化性に着目し、具体的な抗酸化活性値を明らかにすることを試みた。本研究では4種類の方法を用いてセリシンのラジカル捕捉活性を測定し、その抗酸化性について検討した。【方法】セリシン試料は、異なる繭から調整したセリシン粉末2種類(緑繭、白繭由来)を使用した。緑繭はあざやかな黄色の繭で、セリシン粉末にケルセチンなどのフラボノール色素を含んでいる。抗酸化測定試料は、セリシン粉末に水を加えて磨砕し、遠心分離(15,000×g、4℃、15分)後、上清をろ過して調整した。調整した抗酸化測定試料について、DPPH法、化学発光法、ORAC法、及びESR法の4法でラジカル捕捉活性を測定した。【結果】4法での測定により、数種類のラジカル捕捉活性を知ることができる。いずれの方法でも、2種のセリシンタンパク質は高い活性を示した。DPPH法では緑繭セリシンが白繭セリシンの約1.3倍、ORAC法では約2倍の抗酸化能を示した。化学発光法では緑繭セリシンと白繭セリシンの抗酸化能はほぼ同程度であった。一方、ESR法では白繭セリシンが緑繭セリシンよりはるかに高い抗酸化能を示した。これらの結果から、セリシンタンパク質が高い抗酸化性を持つことが明らかになった。これまで言われてきたセリシンタンパク質の抗酸化性について、具体的な抗酸化能の測定値により裏付けることができた。
著者
植田 和美 渡辺 文雄
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.36, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】日本人にとって二枚貝はビタミンB12の主な供給源である。中でもアサリは、日本食品標準成分表2010によると可食部100g当たり52.4μgとビタミンB12含有量が高い食品である。また、アサリ加工品である水煮缶詰(液汁を除いたもの)においても、63.8μg/100gのビタミンB12が含まれており、手軽な食素材であることからビタミンB12供給源と考えられた。さらに、これまでの研究から活アサリの「煮る」加熱調理では、ビタミンB12の煮汁中への移行が認められている。そこで、本研究ではアサリ水煮缶詰を固形物および液汁に分けて測定を行い、ビタミンB12含有量を明らかにすることを目的とした。 【方法】3種類の市販アサリ水煮缶詰各5試料を用いて、ビタミンB12含有量を測定した。ビタミンB12の測定方法は、フードカッターにより均質化したアサリ固形物および液汁を分析試料とし、Lactobacillus delbrueckii subsp. Lactis ATCC 7830 によるバイオアッセイ法を用いた。 【結果】アサリ水煮缶詰3種類のビタミンB12は、固形物中に17.4~39.4μg/100g、液汁中に6.3~8.8μg/100gが含まれており、製造元により含有量には差が見られた。また、日本食品標準成分表における水煮缶詰のビタミンB12含有量は液汁を除いたものとして示されているが、一缶に含まれるビタミンB12含有量の15~30%が液汁中に存在していた。つまり、液汁25g程度で成人の推奨量である2.4μg/1日を補完することが可能であると言える。このことから、アサリ水煮缶詰の利用方法としては、液汁も一緒に使用する調理方法がビタミンB12供給のためには有効であると考えた。
著者
宇和川 小百合 色川 木綿子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.92, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】日本には四季折々の年中伝統行事があるが、核家族化や食の簡便化が進み、行事食を受け継ぐ機会も減っている。そこで、女子大生の行事食に対する実施状況及び意識調査を行い、行事食の現状を探ることを目的とした。また、平成21~23年度に実施された本学会の特別研究「調理文化の地域性と調理科学-行事食・儀礼食-」として公表されている調査データとも比較、検討した。 【方法】平成22年7月、東京家政大学栄養学科・同短期大学部栄養科の学生377名に質問紙法による調査用紙を配布し、その場で回答させて回収した。(回収率100%)調査内容は、行事食の認知度、実施状況、意識調査(理解度や子供に教えていく必要性など)、代表的な行事食の調理実態などである。 【結果】行事食(12種類)の認知度は「夏至」「お盆」が50%以下と低く、他の行事については高い認知度であった。毎年実施している行事は「正月」(94.7%)、「大晦日」(85.9%)が高かった。行事食をいいものだと思う者は「非常に」(49.9%)、「比較的」(42.7%)で9割以上の学生が食文化としていいものだと認識しており、自分の子どもに教えていく必要性も9割以上の学生が「ある」と思っている。しかし、行事食を理解して食べている者は51.2%、あまりそう思わない者は48.0%であった。また、行事食の調理経験については作ったことが「ある」(55.2%)、「ない」(43.5%)であり、今後、行事食の伝承の仕方を考えていく必要がある。
著者
原 夕紀子 飯島 久美子 香西 みどり
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.76, 2011 (Released:2011-08-30)

目的緑色野菜に含まれるクロロフィル系の色素は、加熱により分解、変色しやすいため、調理過程を予測するには色と物性両方の定量的把握が必要である。本研究では、ゆで加熱・炒め加熱・揚げ加熱による野菜の色と硬さの変化を定量的に扱い、これらの単独加熱に炒め加熱を加えた組み合わせ加熱において、色と硬さの変化を予測し、最適条件の設定を行った。さらに「油通し」に代わる前処理法として「湯通し」の効果を検討した。 方法試料としてピーマンを用い、ゆで加熱では70~99.5℃、炒め加熱と揚げ加熱では100~190℃の各温度で加熱し、色(色差計,-a*/b*)と硬さ(テクスチャーアナライザー)を測定し、-a*/b*を緑色度とした。各温度における色の変化と軟化の速度定数を求め、試料の色と硬さの変化を予測し、実測値と比較した。ゆで加熱後に炒め加熱(湯通し)を、また揚げ加熱後に炒め加熱(油通し)を行い、単独加熱で算出した色の変化と軟化の速度定数から、組み合わせ加熱における試料の色と硬さの変化を予測し、実測値と比較した。 結果いずれの加熱操作も、加熱初期段階に緑色度の増加がみられ、その後に退色が起こるため、2段階で解析した。100℃における緑色度増加の速度定数はゆで>あげ>炒め、退色はあげ≧ゆで>炒め、軟化の速度定数は、あげ>ゆで>炒めの順に大きかった。単独加熱の結果を用いて、組み合わせ加熱における試料の色と硬さの変化を予測し、実測値と比較した結果、ほぼ一致した。また、「湯通し」は「油通し」より、炒め時の外観が良好で、簡便な前処理としての利用が期待でき、実際の調理における油通しや湯通しを用いた組み合わせ加熱への本法の応用可能性が示された。
著者
長尾 慶子 佐藤 久美 粟津原 理恵 遠藤 伸之 原田 和樹
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.59, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】活性酸素による酸化ストレスから身体を守るには食品の抗酸化成分の摂取が有効だといわれている。しかし食品の抗酸化能は調理法で変化するため、食事全体の抗酸化能評価においては実測値に基づいた考察が必要である。我々は和食献立の抗酸化能を高める食事設計法を具体的に検討するために、壮年期女子の食事摂取基準を参考に調製した数種の料理や献立全体の抗酸化能をORAC法および化学発光法により実測評価した。 【方法】各料理の凍結乾燥試料を0.2g/20mL超純水で抽出して2種の抗酸化能測定に供した。化学発光法ではペルオキシラジカル捕捉活性をIC50値で求め、ORAC法ではペルオキシラジカルにより分解される蛍光物質の蛍光強度からORAC値を求め、料理単位での抗酸化能を比較した。その結果から抗酸化能の高い料理を組み合わせたモデル献立を作り、基準献立との比較を行った。 【結果】主菜の[鶏つくね]では電子レンジ加熱が、副菜の[金平ごぼう]では水浸漬なしのごぼうを用いた方法が、汁物の[野菜味噌汁]では鰹だしと赤みその味噌汁にナスを加える方法が、それぞれ抗酸化能を高める料理と決定した。それらに主食の玄米飯と副々菜にホウレンソウの白和えを組み合わせたモデル献立にすると化学発光法のIC50値(%)は平均1.11、およびORAC値(μmol trolox等量/100g乾燥重量)は平均2,475となり、基準献立における同測定値の平均1.46および平均2,115に比べて抗酸化能が高くなり、共にp < 0.05であった。以上より、日常の食事づくりにおいて抗酸化能の高い料理を組み合わせることで、酸化ストレスに対応する理想的な和食献立を提案できることが示唆された。
著者
加藤 裕朗 村山 裕佳 濱田 奈保子 和田 俊
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.32, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】浸透圧を利用して食品から水分を取り除くことができるシートとして開発された脱水シート(商品名:ピチットマイルドシート, オカモト社製)は2枚の食品用半透膜フィルムの間に,高濃度の食用糖類と食用糊料をはさんだ構造になっている.鮮魚の品質保持効果に関しては,サバ類,イワシ類,タラ類,ブリ及びサンマについて,VBN抑制効果とK値の上昇抑制効果があることを精査してきた(*濱田ら 2002,2003).本研究ではカツオを対象として,多角的角度から品質保持に及ぼす脱水シートの影響について検討を行った. 【方法】カツオを脱水シート,対照としてポリ塩化ビニリデンシート(サランラップ 旭化成製)で包装し,5℃の冷蔵室で0~4日間貯蔵した.脱水率,水分含量及びATP関連化合物量を経日的に測定した.色彩に関しては,血合肉と普通肉においてL*a*b*値を測定及びL*a*b*値とそれらの値から求められるΔEとΔEに彩度を加えたΔE00を求めた.また,におい識別装置(島津製作所 FF-2A)を用いた総合的なにおい分析の計測を貯蔵2日目と4日目に計測した. 【結果】脱水シート包装の脱水率は貯蔵1日目で6.2%,貯蔵4日目には14.4%であり,水分含量は貯蔵2日目から4%以上の差が見られた. ATP関連化合物量については有意差は見られなかった.色彩に関しては,ΔE及びΔE00ともに脱水シート包装において色彩の保持効果が観察された.また血合肉でより高い効果が見られた.においに関しては,貯蔵4日目において類似度と多変量解析の結果に差が見られた.以上の結果から,カツオの品質保持に関して色彩とにおいにおいて脱水シートによる優位性が示唆された. *日食科誌, 49, 781-785 (2002). 日調理科誌, 36, 354-359 (2003).
著者
佐藤 幸子 織田 佐知子 新藤 一男 本西 晃 花里 匡史 数野 千恵子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.38, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】川魚として代表的なアユ(鮎)は、生育環境により香りが異なるため、味覚にも影響を与える。そこで、環境によるアユの不快臭を軽減する目的で、多摩川中流の河川水で飼育したアユとその河川水に炭(多摩産杉間伐材)を使用したろ過水で飼育したアユの香気成分を比較検討し比較を行なった。またそれらの官能評価を行い炭の効果を検証した。【方法】飼育アユ:約15gの養殖アユを多摩川中流の水および炭でろ過した水のそれぞれの水槽で約2週間飼育し約25gのものを使用した。餌:多摩川中流の水および炭でろ過した水に石を投入し藻を付着させたものを適宜アユの飼育槽に投入した。試料の調製:試料は1尾を細切後、10gをバイヤル瓶(20mL容)に密閉し、SPME法で香気成分を捕集しGC-MSおよびGC-O分析を行った。さらに、アユはオーブンで焼いた後、匂いの強さと味について官能評価を実施した。【結果】多摩川中流水で飼育したアユの香気成分から2,6-Nonadienal(キュウリ様の臭い)やPentadecene(メロン様の臭い)等のアユ固有の匂いに関与する物質やMethyl vinyl keton(カビ臭)等の不快臭に関与する物質が検出された。ろ過水で飼育したアユでは原水で飼育したアユに比較してMethyl vinyl ketonが少なくなった。官能評価では、加熱調理後の匂いは、原水で飼育したアユに比較してろ過水で飼育したアユの香りを弱く感じた人が多かった。しかし味のよさやアユの匂いは個人的な食経験により良否が左右された。なお、本研究は東京都産業労働局農林水産部島しょ農林水産総合センターの委託事業によるものである。
著者
石川 由花 市川 智美 内山 けい子 熊谷 美智世 工藤 裕子 小西 雅子 峯木 真知子 茂木 美智子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.81, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】近年、料理は食味、エネルギーともに軽いものが好まれる傾向にある。料理店格付けで高い評価を得ている天ぷら専門店の食味の軽さは、衣調製方法と加熱温度管理が主因であろうとの仮説で検討を行った。天ぷらの技術情報は、教育機関のテキスト、一般料理書、メディア情報を含め記述幅に大きな差はないが、衣調製方法や加熱温度管理の細部情報はない。本報告では、特に衣の配合、卵水の攪拌方法、衣付着方法、加熱温度について、熟練者(職人)と非熟練者(一般情報を得てきた人)を比較解析し、好ましい食味の天ぷらを再現性高く作ることができる調理技術情報としたい。 【方法】工程解析は、熟練者として「てんぷら近藤」店主 近藤文夫氏と、非熟練者3名の計4名から得た。材料、揚げ油、油量、鍋の材質と形状は熟練者の方法に統一した。調理工程及び所要時間、加熱中の油温度の変化、加熱開始から引き上げ後の揚げ種内部の温度変化を測定した。天ぷら試料のテクスチャー特性・重量変化率・衣試料の吸油量を測定、食味判定はプロファイル法により官能評価を行い、衣の性状は組織観察を行った。 【結果】熟練者の衣は(水+卵):薄力粉が容積比換算で(10+1):11の配合であった。卵水の卵の割合が低く、攪拌方法に特徴があり、また衣付着前に揚げ種に薄力粉をまぶした。熟練者は天ぷら試料投入による低下を加味して、油温をほぼ一定に保持する火力調節を行った。非熟練者は油温低下による火力調節の結果、油温の変動幅が大きかった。熟練者の加熱時間には、繰り越し余熱を計算にいれた終点決定がみられた。以上、熟練者の技術解析から、組織観察、官能評価も総合し、天ぷら技術の要点情報が示唆された。
著者
明神 千穂 安藤 真美 伊藤 知子 大塚 憲一 久保 加織 露口 小百合 中平 真由巳 原 知子 水野 千恵 村上 恵 和田 珠子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.80, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】中学校、高等学校の家庭科担当教員に調理実習の現状について実態調査を著者らが行ったところ、揚げ調理を実施している中学校、高等学校はともに20%で、授業時間数の減少や補助者の問題などが関係し減少傾向にあることが分かった1)。そこで、油の処理も含めた揚げ調理の一連の操作を学ぶことができる教材の開発が必要であると考えた。本研究では、まず天ぷらを取り上げ、生活体験レベルが異なる生徒にも対応可能な教育媒体としてリーフレットを作成した。多くの教育現場で活用してもらうため、このリーフレットを高校家庭科担当教員へ送付し、揚げ調理の実施状況およびリーフレットの評価についてアンケート調査を行った。 【方法】<リーフレット> 天ぷらの作り方について、油の種類・必要な調理器具・食材の準備・衣の作り方・油の温度管理・揚げ操作・油の処理方法までをカラーのイラストと写真を用いて説明した。<アンケート調査> 2010年8月に近畿二府四県の高等学校家庭科教員を対象とした郵送法による質問紙調査を行った。有効回答数は110部、回収率42.3%であった。 【結果】揚げ調理の実施状況では「天ぷらを作ったことがある」は15%であった。リーフレットに関しては「内容、説明、写真、デザイン」は高い評価を得られた。また、「補助教材として使いやすい」、「高校生の天ぷらについての理解が深まる」、「授業の資料として活用したい」と答えたのがそれぞれ76%、88%、78%となり高い評価が得られた。リーフレットへの評価は高いが、学生への配布希望は34%だった。今後は実際に授業で用いた際の生徒からの評価も検討を予定している。 1)日調科誌, 41, 196 (2008)
著者
阪中 專二
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.65, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】カフェインはコーヒーや茶などの嗜好飲料の原料である植物に多く含まれる。強い中枢神経興奮作用を有するカフェインは過剰に摂取すると健康人でも極度の興奮,神経過敏,吐き気,不眠などの作用を引き起こす。カフェインは胎盤を通過したり,母乳中に容易に移行することから妊娠周辺期の女性では過剰の摂取に注意が必要であるとの指摘もある。本研究ではカフェイン含有飲料から,他の成分に影響することなく簡易にカフェインを除去する方法を試験した。 【方法】緑茶の熱水抽出液または緑茶抽出物粉末の溶解液に種々の吸着剤を添加し,抽出液中に残存するカフェイン(CF)と茶ポリフェノール類(エピガロカテキンガレート(EGCg),エピカテキンガレート(ECg))の含量をHPLC分析(Develosil ODS-HG使用)により測定した。吸着剤処理前後のカフェインと茶ポリフェノール類との割合(EGCg /CF)を比較し,効率的な分離を評価した。また,処理後の吸着剤の除去を濾過や遠心分離することなく磁石で簡易に行う方法として吸着剤の磁性化についても試験した。 【結果】試験した吸着剤中,カオリン,酸性白土および活性白土が選択的にカフェインを除去した。これらの吸着剤はいずれもカフェイン残存率が10%以下,EGCg残存率が75%以上であり,選択的なカフェインの除去が可能であった。最も効率的なカフェイン除去効果を示した活性白土を用いて磁性化活性白土を調製し,緑茶抽出液のカフェイン除去を試験した結果,活性白土と同様EGCg/CF割合が約10倍上昇し,90%以上のカフェインを除去することができた。
著者
桑野 靖子 河原 ゆう子 佐宗 洋子 小林 由実 山中 なつみ 小川 宣子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.2, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】加水量,加熱方法,加熱工程の異なる炊飯方法で調理された飯について,甘みと香りの官能評価に対する理化学的な測定値に相関性があるか否かを検討した。 【方法】圧力IH炊飯器,IH炊飯器,ガス炊飯器の3機種で調理された飯とガス炊飯器の飯と同じ硬さとなるよう加水量を調整した飯の4種類を対象に,甘みの評価値として,糊化度と唾液アミラーゼによる人工消化後の還元糖生成量を測定した。香りの評価値として,主要な臭気成分量を定量化し,閾希釈倍数を算出した。官能評価は40歳代女性36名を対象に,各理化学的評価に対応した指標による評価と好みを炊きたてと炊飯後常温で4時間放置した飯(以下冷や)に対して行った。 【結果】「甘み」評価において,糊化度では飯間に差はなかった。人工消化による還元糖生成量ではガス炊飯器の飯とIH炊飯器の飯が有意に多かったが,官能評価ではガス炊飯器の飯と加水量を調整した飯の甘みが強いと評価され,IH炊飯器の飯は最も甘くないと評価された。ごはんの甘み評価には,ごはんの表層部と内部の水分量の違いが関与していると考えられる。「香り」評価手法については,炊きたてと冷やの違いは確認できたが,機種間の違いまでは確認できなかった。