著者
小関 卓也 岩野 君夫
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.93, no.7, pp.510-517, 1998-07-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
29
被引用文献数
2 6

焼酎製造には様々な原料が使用されており, その原料の違いによる個性が備わっていると考えられる。しかしながら, 芋焼酎でその特徴香が甘藷から由来するモノテルペンアルコール類であることが明らかにされていることなど以外に, 原料由来の香味についての詳細な研究は多くはない。本解説では焼酎, 特に泡盛中のバニリンの由来を探求し, バニリンが植物細胞壁のリグニンから麹菌の酵素, 蒸留中の化学反応, さらには貯蔵中の化学反応を経て生成されることを明らかにし, さらには関与する酵素の遺伝子レベルでの研究も含めて, 一連の研究成果について紹介していただいた。このような研究の積み重ねにより, 焼酎をはじめとする酒類の香味に対する原料の意義や, 貯蔵も含めた製造工程の意義が明らかにされ, 酒類の多様化にも寄与していくことが期待される。
著者
山岡 千鶴 栗田 修
出版者
日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.7, pp.462-469, 2015-07

清酒の多様化を図る上での重要な要素は,味と香りの構成成分とその濃度であり,それらを変化させるための技術開発が求められる。清酒は,酒母工程で酵母を純粋培養することによって野生酵母の影響を受けずに安定した製造が行われてきた。酒質にはその酵母の特徴が反映されるため,清酒の多様化・高品質化を目指して,数多くの酵母が育種されてきた。味では多酸性酵母や高リンゴ酸生産性酵母,香りでは酢酸イソアミル高生産性酵母やカプロン酸エチル高生産性酵母が例として挙げられる。今や吟醸酒の製造にはカプロン酸エチル高生産性酵母が欠かせない存在となっているが,もろみ後半でのキレが鈍って低温長期もろみになりやすいという傾向やカプロン酸エチル過多により香味バランスが崩れる場合がある。そこで,これらの対策として,単一の酵母でなく,タイプの異なる複数の清酒酵母を用いて仕込む混合培養法がとられている。このように,清酒製造では,単一酵母の純粋培養だけでなく,同種酵母の混合培養が酒質の安定製造に重点をおいた手段として利用されている。一方,ワインにおいては,清酒が同種酵母の利用だけに留まるのに対して,古くから土着の微生物を積極的に利用している。発酵初期において,Kloeckera属やHanseniaspora属,Candida属,Pichia属やKluyveromyces属などの酵母が関与し,主発酵酵母であるSaccharomyces属がアルコール発酵する段階で死滅するが,これらの非ワイン酵母はワインの香りや味に作用している。例えば,混合培養にH. uvarumやC. stellataを用いるとワインの香り(アロマ)が向上することや,C. cantarelliiを用いると味に幅をもたらす効果のあるグリセロールが増加することが報告されている。筆者らは,清酒の多様化を図る手段として,このワイン製造における異種酵母の混合培養の考え方に着目し,清酒製造への導入を検討したので紹介する。
著者
久寿米木 一裕
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.96, no.1, pp.33-42, 2001-01-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
33
被引用文献数
1 3

醤油および味噌醸造にとって耐塩性酵母の関与は重要である。また乳酸菌と酵母との拮抗作用によっても成分バランスが崩れ製品の品質を微妙に左右する。筆者はこれまでの一連の研究で酵母を改変し, 幾つかの優良変異株を取得した。ここでは, 酵母の育種方法と取得した変異株の諸性質及び利用について解説していただいた。
著者
有山 薫
出版者
日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.6, pp.402-409, 2014-06

昨年の秋ごろレストランにおける食材の誤表示が発覚し,食品の原材料,産地の表示問題が改めて注目を集めた,酒類については地理的表示に関する表示基準により,本格焼酎の「壱岐」,「球磨」,「琉球」,「薩摩」,清酒の「白山」が保護されているところであるが,平成25年7月,ワインの「山梨」も新たに国税庁長官から指定されている。また,果実酒の平成24年度の課税移出数量は約35万KLとなっており,ワインがかなり普及してきている。しかしながら,本稿には日本産ブドウ原料との表示がある市販ワインの原料が外国産である可能性が示されている。ワイン製造に携る方々には本稿をよくお読みいただき,もう一度自社製品の表示について消費者の視点に立って見直して頂きたい。
著者
後藤(山本) 奈美 DANG Hong Anh
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.101, no.12, pp.949-956, 2006-12-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
19

実験室酵母を用いた実験で, ALD2, ALD3, 及びACH1の遺伝子破壊は, 発酵条件での酢酸生成に影響しないことが示された。また, ACS2の高発現は酢酸生成を抑制したが, アルコール発酵も阻害した。既報のとおり, ALD6の破壊は酢酸生成を減少させたが, ピルビン酸を高生産しており, これは還元力の不足が原因と考えられた。以上のことから, 酢酸の生成には代謝系の酵素活性の他, 酸化還元バランスの維持が強く関わっていることが推察された。
著者
須見 洋行 大杉 忠則 内藤 佐和 矢田貝 智恵子
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.1, pp.28-32, 2011 (Released:2016-06-13)
参考文献数
5
被引用文献数
1

納豆は日本人がこれまで慣れ親しんできた伝統的な発酵食品である。そのスターターである納豆菌の歴史や酵素ナットウキナーゼの特性を同属の枯草菌と比較して分かりやすく解説していただいた。ナットウキナーゼ活性がきわめて高いことが納豆菌の最大の特徴であると述べておられ,Bacillus subtillis nattoがこれまで長く使用されてきたことが首肯できよう。なお,Codex委員会に納豆やテンペなどアジアの大豆発酵食品の国際統一規格化の動きがあることから,その動きをフォローする必要性も述べておられ,業界も是非参考にしていただきたい。
著者
松崎 晴雄
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.97, no.8, pp.567-572, 2002-08-15 (Released:2011-09-20)

筆者は, 香港への日本酒の輸出に係わりながら, 香港の人々の間にも日本酒への関心が高まり, 確実に定着してきている様子を長年にわたって眺めてきた。ここでは, その経緯と最近の香港の日本酒事情について紹介していただいた。
著者
齋藤 浩 望月 太
出版者
日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.2, pp.89-99, 2014-02

「ボルド」や「ラインガウ」のようなワインの地理的表示は,伝統的なワイン生産国では当然のルールとして定着している。わが国では,これまで単式蒸留焼酎や清酒の一部に地理的表示が指定されていたが,平成25年7月に初めてのワインの地理的表示として国税庁長官から「山梨」が指定された。地理的表示は知的所有権として保護されるほか,EUでは「樽発酵」などの表示をするには地理的表示が必要とされている。海外で日本の地理的表示が認められるには今後の交渉が必要となるが,今回の指定は大きな前進と言える。
著者
佐々木 定
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.102, no.10, pp.720-725, 2007

日本酒復活のために次の提言がなされた。<BR>・酒税法改正に潜む製造技術的な問題点を指摘した上で米を原料とした醸造酒の原点に戻り, これからの日本酒は「旨味」の研究を行うべき。<BR>・鑑評会の酒質に関し「売れる酒」,「飲んで旨い酒」,「味吟醸」が入賞出来るような審査基準を設けるべき。<BR>・紙パック商品の低価格競争に歯止めをかける必要がある。<BR>醸造技術者として長年官界, 業界に身を置いてこられた筆者の提言は傾聴に値する。
著者
薄井 隆 中野 敏夫
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.85, no.7, pp.468-472, 1990-07-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
1

新製品の開発が単にファッションとしての発想に基づくものであれば, 製品のライフサイクルはきわめて短いものとなる。本文から, 洋酒が製菓用として今日の地位を確保するにいたった背景を読みとることができよう。
著者
門倉 利守 今村 浩美 中里 厚実
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.315-317, 1992-04-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
4

竹田らが開発したライスワインをアルコール4.0%前後, 酸度2.8前後, 糖8.0%前後に調製した。これに器底に付着性の強いSaccharomyces cerevisiae IFO2019を接種密栓して25℃ で繁殖させ, ガス圧2.5kg/cm2前後に達した時点で熱殺菌 (50~55℃, 1時間) して発酵を停止させ, 発泡性の低アルコール飲料の開発, 製造を行った。その結果, 低アルコール酒を感じさせない果実酒様の発泡性ライスワインを開発することができた。また, 密栓したビン内で繁殖した酵母細胞は器底に強く付着しているので, 開栓してグラスに注ぐ時も菌体が浮遊して白濁するようなことはなかった。'
著者
佐々原 浩幸
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.2, pp.90-96, 2011 (Released:2016-06-14)
参考文献数
27

近年食物アレルギーは増加しており,醤油の原料である小麦は表示義務があり,醤油と味噌の原料である大豆は表示推奨であり,これらを使用しないアレルギー患者用の醤油・味噌様調味料が開発されているが,特に原料の蛋白質含量が少ないために,得られる製品のアミノ酸含量が少なく,旨味が弱い問題があった。そこで,著者は各種原料から,蛋白質・炭水化物の含量が醤油・味噌の原料に近似している「そら豆」を選択して,香味共に良好な醤油・味噌様調味料を開発しているので,解説していただいた。そら豆醤油は商品化され,そら豆味噌は発売予定であり,新商品開発のプロセスが分かるのでご一読願いたい。
著者
今井 誠一
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.92, no.8, pp.551-556, 1997-08-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
25

日本人が古く中国大陸あるいは朝鮮半島から学んだ味噌造りの基本は餅麹型と散麹型とに別けられる。これらが各地に伝えられるとそれぞれの地方に適した独自の味噌造りに改良され, 代々伝えられてきたものが各地の自家醸造味噌として残っている。それらの中で代表的なものにつき解説していただいた。
著者
野田 文雄
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.88, no.7, pp.531-536, 1993-07-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
7
被引用文献数
2 1

いま, 醤油業界はじめ多くの食品業界では, 魚醤の製造が注目されている。著者は, キッコーマン社のシンガポール工場建設のため, 約6年間にわたる現地の生活の中で, 本場の魚醤と接して来られた。従って通り一遍の現地調査とは趣きの異なった, 深みのある解説をしていただいた。
著者
宮崎 久重
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.111-117, 1997

国と県の補助による「地域資源等活用型起業化事業」の一環として, 福島県味噌醤油工業協同組合が中心になって,「味噌・醤油をベースとして新製品の開発」事業に取り組み, 開発テーマの設定から着手, 目的とする新食品の製品化に至る一連の報告書を纏めて頂いた。
著者
松永 恒司 溝口 晴彦
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.102, no.3, pp.168-171, 2007-03-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
4
被引用文献数
1

適量のアルコール飲料はリラックス効果を高めストレスの解消に役立つことは良く知られているが, 具体的にアルコールがどのようにストレスやリラックスに関係するか心理的側面からの研究報告はこれまでなかった。著者らはこの問題に取り組み, 飲酒前と飲酒後の気分の変化を心理テスト (POMS) を用いて分析し初めて明らかにした。本稿ではこれまで得られた知見を中心に解説して戴いたが, 今後はこのような心理テストのデータとストレス関連物質の変化との関連を解明するための発展的研究が期待される。
著者
末澤 保彦 田村 章
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.103, no.2, pp.94-99, 2008-02-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
29

通常, 食品の変敗において, ガスが発生し膨化する原因菌は酵母とされてきたが, 今回, のり佃煮のガスと異臭の発生は耐塩性乳酸菌であるLactobacillus fructivoransが原因菌であることを解説いただいた。次に, 味噌や醤油加工品などの耐塩性乳酸菌による変敗, さらに, 食品の変敗防止対策, 食品工場の微生物汚染防止対策についても解説いただいた。
著者
吉田 元
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.95, no.11, pp.830-834, 2000-11-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
11

かって, 米や麦の乏しい奄美諸島から沖縄にかけて, ソテツの実を原料とするナリ味噌, ヤナブ味噌なる特異な味噌が存在することは, 僅かに聞き及んでいたが, その詳細についてはほとんど知られていなかった。筆者は, 奄美の伝統的発酵食品の歴史と技術の紹介として, 焼酎, 酢 (1) に続いて, 今回は味噌・醤油・ミキと口かみ酒について, 詳細に述べていただいた。ソテツ味噌以外にも, きわめて多くの味噌類, 醤油類の存在, 離島の人々が生活の中から生み出した, 発酵法によるソテツの実 (ナリ) と幹からの毒成分の除去法など大変興味深い。また, 生のサツマイモのおろしを使うミキづくりも興味は尽きない。