著者
柴崎 徳明 蓬茨 霊運
出版者
立教大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

超強磁場中性子星が発見されたので、その研究をミリ秒パルサーの研究に優先させ行い、以下のような成果を得た。X線、ガンマ線を爆発的に放射する天体がある。今までに4例見つかっており、Soft Gamma Repeaters(SGR)と呼ばれている。私たちは、1998年の4月と9月、X線天文衛星「あすか」でこの内の一つSGR1900+14を観測した。その結果、定常的なX線放射を検出し、その強度が5.16秒の周期で振動していることをみつけた。このパルス周期は1.1×10^<-10>ss^<-1>の割合で伸びていた。さらに、X線のスペクトルはベキ型であることも見い出した。これらの観測事実をもとに考察、検討を重ね、つぎのようなことが明らかになった。(1)パルス周期とその伸び率から、バルサーは〜10^<15>Gという超強磁場をもつ中性子星(マグネター)である。(2)解放される中性子星の回転エネルギーは少なく、定常X線成分を説明できない。エネルギー源はたぶん磁場そのものであろう。(3)定常X線成分は、中性子星表面からの熱放射ではなく、たぶん磁気圏からの非熱的放射であろう。中性子星が誕生する際、その回転がたいへんに速く周期がミリ秒程度のときは、ダイナモメカニズムが強くはたらく。その結果、磁場は〜10^<15>Gぐらいまで成長し、マグネターができると考えられる。私たちはマグネターの磁場の進化および熱進化について調べ、次のような結果を得た。(1)コアの磁場は、ambipolardiffusionにより10^4年ぐらいで一様にはなるが、大幅に源衰することはない。(2)中性子星全体としての磁場の減衰はコアとクラストの境界あたりでのジュール損失できまり、減衰のタイムスケールは10^8年以上である。(2)解放されるジュール熱により、中性子星の表面温度は10^6年から10^8年以上わたって、〜10^5K以上に保たれる。
著者
佐々木 成人 岡 美恵子
出版者
(財)東京都医学研究機構
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

ネコをパネルに向かって立たせ、パネル中央に投射した光点を注視させた状態から、光点を視野周辺に向かってスッテプ状、ramp-hold状に移動させ追跡させた。移動刺激に対して、ネコはまず頭を60ー150msの潜時でゆっくり動かし、この時眼球はVORで逆方向に動き、視線は空間内で固定される。次にサッケドとそれに続く速い頭の運動が起り、視線はターゲットを捕らえる。移動刺激からスッテプ刺激に変えると指向運動の潜時の著明な延長と頭の運動速度の低下が起ることから、ステップと移動刺激により誘発される指向運動は異なることが分かり、前者を位置誘導型志向運動、後者を速度誘導型指向運動と呼ぶことにした。更に速度誘導型指向運動は光点の移動速度からその到達位置を予測して、光点が移動中に動き始め、視線と光点がほぼ同時にターゲットに到達する予測指向運動と、光点の速度と位置情報の両者を手がかりにして光点がターゲットに到達してから指向する速度・位置誘導型指向運動に別れた。両者は以下の点でも異なった。頭の速度の刺激速度依存性は予測指向運動では見られたが、速度・位置誘導型ではほとんどなかった。光点を移動中に短時間消すと、後者ではではターゲットに正確に到達できたが、前者はできなくなった。ステップ刺激では予測志向運動を行っていたネコは短潜時または長潜時の位置誘発型に移行したが、速度・位置誘導型指向運動からは長潜時の位置誘導型指向運動に移行した。脳幹網様体には、頸の指向運動と関係して2種類のニューロン、phasic sustained neuron(PSN)とphasic neuron(PN)、がある。PNは指向運動のサブタイプとはあまり関係せず発火したが、PSNは速度誘導型指向運動と良く一致した。この結果は上位中枢がPSNを選択的に制御することにより異なるサブタイプの指向運動を発現していることを示唆した。
著者
坂東 博 竹中 規訓
出版者
大阪府立大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

大気中のペルオキシラジカル(HO_2+RO_2、R=アルキル基等)は、炭化水素-HOx-NOxの連鎖反応サイクルを通して大気光化学反応系を駆動する重要な反応中間体である。本研究課題では測定系に吸引された試料大気に高濃度のCOとNOを添加し、一定条件下のHOx+NOx+CO連鎖反応サイクルで生産・蓄積するNO_2の量を測定することにより元の大気中のペルオキシラジカルの濃度を求める「化学増幅法」反応装置を作製し、目的の測定を行った。増幅されたNO_2の測定には従来から知られているルミノールとの化学発光法を使って実環境試料を対象に測定を行った。また、新しい技術として大気中に共存する他の酸化剤の妨害を受けない高選択性カップリング反応を利用した蛍光法によるNO_2検出技術の開発も平行して試みた。実環境大気に測定は(1)島根県隠岐島後国設隠岐酸性雨測定局(期間:98/7/22〜8/10)、(2)大阪府堺市大阪府立大工学部建物屋上(期間:98/9/10〜10/30)で行った。(1)は離島で人為影響の少ない遠隔地の代表的大気、(2)は都市域の典型的な汚染大気が測定対象である。(1)ではペルオキシラジカル濃度は太陽光強度と良い相関を示し、晴れた日の日中正午頃に最大濃度30-40ppt程度を示し、大気中ラジカルが光化学的に生成しているという従来の説を支持する結果を与えた。これに対して、(2)の測定では、日中13-14時頃に最大濃度20-30pptを示す点は(1)と同じであるが、日没後19-20時頃になってもラジカル濃度は10-20ppt近くも維持され、光化学的な発生とは違うラジカル発生機構が存在することが明らかになった。他汚染物質との相関から、この発生にはオゾン+オレフィンあるいは、NO_3ラジカル+オレフィン反応が関与している可能性が示唆された。新しいNO_2検出法開発として、3-aminonaphthalene-1,5-disulphonic acid(C-acid)を蛍光試薬とする系について、その蛍光スペクトル、強度分布、亜硝酸との蛍光体形成反応の条件等、基礎的な検討を行った。実用上の問題として、NO_2の溶液への取り込みの効率を高める必要があることが判明した。
著者
横山 三紀 横山 茂之
出版者
日本大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.NAD分解酵素であるリンパ球表面抗原CD38を用いて、ガングリオシドとの相互作用を明らかにするために結晶構造解析をこころみた。マルトース結合蛋白質とCD38の細胞外ドメインとの融合蛋白質(MBP-CD38)を大腸菌で発現させた。発現させたMBP-CD38の大部分は正しいSS結合のかかっていない不活性型であったため、チオレドキシンとの共発現系を用いて安定に活性の高いMBP-CD38を調製する方法を確立した。MBP-CD38とガングリオシドGT1bとの結晶化のハンギングドロップ法での条件検討をおこない、PEG10,000を沈殿剤として結晶を得た。この結晶から分解能2.4オングストロームの反射を得ることに成功した。2.CD38を発現している細胞にガングリオシドを取り込ませると、CD38のNAD分解活性が抑制される。ガングリオシドの効果が同一細胞表面上のCD38とのシスの相互作用であつのか、又はCD38とガングリオシドとがトランスで相互作用する結果なのかを明らかにするために、THP-1細胞のCD38-トランスフェクタントを用いた実験を行った。CD38-トランスフェクタントにGT1bを取り込ませた場合にはNAD分解活性の阻害が起こったが、導入をおこなっていないコントロールの細胞にGT1bを取り込ませたものをCD-38トランスフェクタントと共存させた場合には阻害が起こらなかった。このことから阻害はCD38とGT1bとが同一細胞の表面にあるシスの場合に起こることが強く示唆された。
著者
諸橋 憲一郎
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究は生殖腺や副腎皮質などのステロイドホルモン産生組織の形成機構を明らかにすることを目的に行われた。主に核内レセプター型転写因子であるAd4BP/SF-1とDax-1の相互関係を明らかにすることに主眼をおいた。結果として、Dax-1遺伝子の転写がAd4BP/SF-1によって活性化されることが明らかになった。またこの活性化がDax-1遺伝子上に存在するAd4配列によるものであることが証明された。しかしながらこれらの結果はin vitro系で得られたものであったため、このような調節が生体内で機能していることを示すことが重要であると思われた。そこでAd4BP/SF-1遺伝子のハクアウトマウスを用い、Dax-1の発現を調べたところ脳下垂体と視床下部における発現は消失していた。この結果は生体内においてもAd4BP/SF-1はDax-1遺伝子の主要な転写因子として機能していることを示すものであった。一方、Dax-1はAd4BP/SF-1の転写活性に対し抑制的に働くことをP450SCCとP45011β遺伝子を用い明らかにしてきた。従って、Ad4BP/SF-1はステロイドホルモン産生に不可欠な遺伝子の転写を活性化するとともに、自らの転写抑制因子の転写を活性化していることになる。このような調節系は微妙な転写調節を可能にするものであると推測される。生体内においてAd4BP/SF-1により発現調節を受ける遺伝子はいずれも組織の特異性を規定するものが多く、その発現量は精密に調節される必要がある。Ad4BP/SF-1とDax-1による一見複雑とも思われる調節系が、このような精密な調節を可能にしているものと思われる。
著者
小谷 汪之 関根 康正 麻田 豊 小西 正捷 山下 博司 石井 博
出版者
東京都立大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

現代インドにおける宗教対立(とくにヒンドゥーとムスリムの対立)はパキスタンとの関係の変化を伴いながら、南アジア世界をきわめて不安定にしている。小谷は歴史学の立場から、この問題を長期的な見通しで研究し、その成果をWestern India in Historicae Fansitionとして、インド、ニュー・デリーのマノーイル出版社から刊行した。又、2001年12月7-8日にニューデリーのJ.ネルー大学で開かれたUnderstanding Japanese Perspectreis on Fudia : An Inolo-Japanese DialogueというWorkshopで発表した。小西は長年の亘ってインドの民衆文化、とくに民画の研究をつづけてきたが、その成果を『インド:大地の民俗画』(未来社)として公刊した。インドの民衆の間に生きつづける伝統文化が時代の変化に対応して、日々新しいものをつけ加えていく姿がよく捉えられている。
著者
花見 仁史
出版者
岩手大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2001

爆発的星形成をガスから星への変換過程、化学進化と捉えて、マゼラン星雲などをはじめとする近傍の銀河の爆発的星形成領域(SBRs)、のスペクトルエネルギ-分布(SED)の再現を目指した。形成過程に応じて種族合成された星の光は、超新星爆発などによるその周囲のガスの重元素汚染に応じてばらまられたダストに散乱、吸収された後に観測されるので、球対称物質分布近似のもと、輻射輸送方程式を解いて、SEDモデルを構築した。ダストの成分としては、big grains(BGs),very small grains(VSGs),PAHsを考える。この成分比はSEDを再現する時のパラメータである。また、ダスト総量は、この成分比は固定したまま、星間ガス中の重元素量に比例して増加して行くと仮定した。このモデルが信頼性の高いSEDを再現できることは、我々の求めた星形成率が、Halpha線強度などから求められた値とよく一致していることで確かめた上で、近傍の代表的な爆発的星形成銀河について、UVで明るいUVSBGsから赤外で明るいULIRGsまでの数十個について適用して解析した。それらのSEDのほとんどがSMCタイプのダスト、SBRsの年齢が0.1Gyr程度でよく再現できた。さらに、そのそれぞれのベストフィットモデルの星形成領域の物質密度が、ULIRGsでは系全体で重力不安定を起こす程度密度が大きいのに対して、UVSBGsではその臨界密度程度であることを明らかにした。このようにSEDから星形成領域の物質密度を換算するには、ダストによる減光を正しく見積もらなければならない。UVからFIRにわたるSEDモデルとしては、我々のモデル以外にも、現在、提案されているものがいくつかあるが、この星形成領域の集中度の換算は、化学進化によるダスト生成量を星形成率に関わる光度と連動させ、また、光学的厚さを正しく再現する輻射輸送を解く我々の手法ではじめて可能になった。
著者
又賀 駿太郎 澤田 剛
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

スルースペース相互作用が可能な位置にベンゼン環を積層したパラシクロファン、メタシクロファンは垂直方向にパイ電子系を拡張した系であるが、これらのシクロファンでは、ベンゼン環は平面性を保持出来ずボート型に歪んでいる。著者らは、ベンゼン、ナフタレン環が平面性を保持したまま接近して積層した3層、4層[3.3]オルトシクロファンを合成し構造を明らかにした。以下に結果を示す。1) 弱塩基を用いてアセトンジカルボン酸ジエステル5とビス(プロモメチル)ナフタレンあるいはビス(プロモメチル)ベンゼンを反応させ、ナフトシクロヘプテンを合成し、次いで、テトラキス(プロモメチルベンゼン)を弱塩基を用いて反応させて、4個の芳香環をを持つトリスケトンテトラエステルを合成した。これを加水分解、加熱脱炭酸してトリスケトン体を得、ケトン基をアセタール化して4層積層オルトシクロファンを合成した。ベンゾ/ベンゾ/ベンゾ-、ナフト/ベンゾ/ナフト-3層オルトシクロファン、ベンゾ/ベンゾ/ベンゾ/ベンゾ-4積層オルトシクロファンも同様な方法により合成した。2) 多層積層ファンの1H NMRでは、上下の芳香環で挟まれたベンゼン環のプロトンは高磁場シフトした。また、3層、4層ベンゾファンのUVスペクトルでは、積層構造に基く吸収帯の長波長シフトが見られた。3) 3層ナフト/ベンゾ/ナフト- 及びベンゾ/ベンゾ/ベンゾ-オルトシクロファンのX線結晶構造解析を行った。いずれのファンにおいても、積層したベンゼン環は平面性を保持したままスペース相互作用が可能な位置に近接し、積層した環の面間角は、2層ファンからから3層ファンへ積層数が増加するにつれて狭まっている。
著者
森田 孝夫 佐々木 厚司
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は,阪神・淡路大震災においてさまざまな生活支援施設の地震対応を調査し,実時間で最適な地域施設の対応システムを開発することである。研究実績をまとめると次の通りである。1, 地域施設の対応システム開発(医療福祉系):医療福祉系施設において,日常活動の非常時展開,および地域活動の拠点的展開に対応するために,共用スペース規模の量的充実に対する建築計画的配慮と,異分野や異属性のサービスのマネージメントの必要性が明らかになった。2, 地域施設の対応システム開発(消防・救助系):甚大な被害を受けた地区では,地域施設・設備も被害を受ける可能性が高いために,人間集団の協力に頼る率が高くなる。焼失型では,芦屋市や神戸市長田区真野地区のような民間消防団や企業消防団といった集団力を発揮させるソフト計画が必要となる。ただし,前提条件は局地的な被害実態と広域的な被害実態の両方の迅速な把握である。3, 地域施設の対応システム開発(商業系):コンビニエンスストアが早期に稼働する実態が判明したが,その他の施設の対応は期待できない。むしろ被害者自身が被害が小さかった地域の商業施設へ出かけたり,他府県に住む親類などによる個人的な運搬が非常に活発に行われた。問題はそのような行動ができない災害弱者に対して支給する緊急生活支援物資の調達・配送ネットワークの確立が必要である。
著者
松村 良之
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

北海道大学教育学部附属乳幼児臨床発達センターの5、6歳児5名を対象にインタービューを行い、子供の所有権の概念の獲得について、以下のような知見を得た。(1)5、6歳の幼児といえども、所有権の概念(,..は誰のもの)が存在する。(ii)客体の支配可能性が所有の条件であることは被験者すべての発言が一致している。(iii)家のものと自分のものとの区別ははっきりとは存在していないように思われる。(iv)子供の理解では、所有権の始期あるいは発生原因の重要なものとして、売買があるように思われる。(v)売買の理解が所有権の概念の獲得に結びつくと仮定した場合、その理由は現実の所持の移転ではなく、売買の対価性にあるように思われる。そして、対価性に所有権の獲得の根拠があるとするならば、この問題はアダムスらに始まる分配の公正の心理学と結びつくであろう。実際、被験者の幼児は公正ではない分配を受けると(例えば友達はお菓子1つで自分は2つ先生から分配を受ける)、所有についてとまどいを感じているのである。(vi)売買に加えて、贈与という概念も理解されていて、それも所有権の根拠になっている。ただし、それは家族間など特定の人間関係に限られているように思われる。(vii)所有権の消滅については子供がどのように考えているかはよくわからない。ただし、占有(現実の所持)を失っているだけでは所有権は消滅しないと考えているらしい。(viii)貸す、借りるという概念も子供に理解されている。長く貸したり、借りたりしていることにより、所有権が消滅したり、移転することはないということは理解されている。
著者
阿部 康二
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、今日までその原因が充分には明らかにされていない進行性難治性筋疾患ある。ALS発症者の5-10%は遺伝性で(FALS)、1993年には細胞質内の活性酸素消去機構であるCu/ZnSOD(superoxide dismutase)遺伝子に点突然変異が見い出されてきて、これが一部のFALSの原因遺伝子であることが強く推定されるに至った。すでに以前の研究により日本人の家系を用いた予備的な研究によって2家系のCu/ZnSOD遺伝子に、症状の進行が極めて遅いなどの際立った臨床的特徴を持った新しい遺伝子変異(点突然変異)を見い出して報告している(H46R変異)。さらに本年度の研究により、もう5家系においても、白人家系にはまだ報告のないCu/ZnSOD遺伝子の5つの異なった異常を見い出した。異なった遺伝子変異は、それぞれに特徴的な臨床所見を示しており遺伝子変異と臨床的特徴の関連が注目される。さらにCu/ZnSOD遺伝子変異による蛋白チロシン残基のニトロ化が運動ニューロン死のメカニズムに深く関与していることを明らかにし、変異SOD導入マウスにおいて筋肉に大腸菌LacZ遺伝子を発現させることに成功したことは、本病の原因解明と治療法確立の足掛りとなり、本年度の当初目的は達成できたものと考えられる。
著者
長田 俊樹 高橋 慶治
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

インド東部のムンダ語族やチベット・ビルマ語族の文献収集のために、まず最初に文献収集リストを作成する必要がある。そこで、従来ある文献目録を使用して、コンピューターに打ち込むことからはじめた。具体的には、Franklin E.Huffman.Bibliography and Index of Mainland Southeast Asian Languages and Linguistics.Yale University Press.1986.を使用した。打ち込みに必要なコンピューターは長田用と高橋用の二台購入する予定であったが、高橋は研究室にある、設置済みのコンピューターで、対応することになった。現在、長田はムンダ語族の文献目録を作り、高橋はチベット・ビルマ語族の文献目録を別個に作成中である。なお、打ち込みのさいには研究協力者に打ち込んでもらっている。打ち込みの際には、トピック(または、キーワード)、著者、書名(または論文名)、出版年、出版社名などを項目別に打ち込み、文献目録が完成したあかつきにはそれぞれの項目別の索引を作るための便宜をはかった。そのため、所期の計画よりも打ち込みに若干時間がかかった。一方、長田は別の科研でインドへ行く機会があったので、その際文献の収集を行った。とりわけ、ムンダ諸語で書かれた出版物を中心に収集を行った結果、かなりの数購入することができた。こちらについては来年度に文献目録に順次追加していく予定である。初年度については、順調に研究は経過しており、本年度の研究計画についてはほぼ達成できたと考えている。
著者
梶川 浩太郎 大内 幸雄
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

近接場領域での非線形分光を実現することは、短時間で高感度な検出が可能な光学系が求められる。そのため、前回我々が報告したように近接場領域における非線形光学の観察には繰り返し周波数の高い超短パルスレーザーが用いられてきたが、数10ヘルツ程度の繰り返し周波数で10ナノ秒程度のパルス幅を持つレーザー光を用いた近接場領域における非線形光学の観察例はほとんどない。本研究では10ナノ秒程度のパルス幅を持つTiSaレーザーを用いた近接場光学顕微鏡を構築した。超短パルスレーザーでは問題となる光ファイバ中におけるパルス光のひろがりなどの問題が気にならないこと、イルミネーションモードを用いることが可能であること、レーザーの単色性がよく広い波長領域(λ=690-1000nm)でレーザー発振が安定であるため分光測定に適していること、レーザーの構成が単純であり光学系に特殊な技術を必要としない、などの利点がある。実験に用いた光源はNd:YAGレーザー励起のTiSa:レーザーを用いた。パルス幅は約10-15nsであり繰り返し周波数は10Hzと非常に低いため、SHGによる近接場光学顕微鏡像は難しい。そのため、試料形状はHeNeレーザー光などを用いて通常の線形光学像として観察をおこない、注目した領域をSHG観察する構成である。ナノ秒程度のパルス幅を持つレーザー光を用いることには以下の利点がある。この顕微鏡の構築が終了し、その性能を確かめるために有機色素分子の集合体の観察を行っている。
著者
赤木 和夫 朴 光哲
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

導電性高分子のポリアセチレンにらせん構造を付与したヘリカルポリアセチレンを合成し、さらにその種々のキラル化合物を合成することにより、不斉液晶場でのアセチレン重合を展開した。(1)キラルネマティック液晶からなる不斉反応場でアセチレンを重合することにより、らせん構造をもつヘリカルポリアセチレンを合成した。ポリアセチレン鎖およびそれらの束であるフィブリルのらせんの向きは、左旋性と右旋性のキラルドーパントを使い分けることで自在に制御できることを見出した。(2)次に、軸性キラル化合物以外のドーパントして、不斉中心を持つフェニルシクロヘキシル化合物を合成した。軸性キラルバイナフトール誘導体よりも半分以下の旋光度をもつこの分子系からなる不斉液晶場においても、ヘリカルポリアセチレンが合成できることを示した。同時に、ヘリカルポリアセチレンのねじれの度合いは、キラルドーパントの旋光性によって制御できることを明らかにした。(3)軸性キラルバイナフトール誘導体や含不斉中心化合物をチタン錯体の配位子として用いることで、キラルドーパントのみならず、触媒能をも有する新規キラルチタン錯体を合成した。これを用いた不斉反応場においても、ヘリカルポリアセチレンが合成できることを見出した。(4)基板に対して垂直に配向するホメオトロピックなネマティック液晶に、軸性キラルバイナフトール誘導体をキラルドーパントとして加えることで、垂直に配向したキラルネマティック液晶を調製した。これを反応場とするアセチレン重合により、フィブリルがフィルムの膜面に対して垂直に配向した、垂直配向へリカルポリアセチレンを合成することができた。
著者
金子 邦彦
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

細胞内部の化学反応ネットワーク、化学物質のやりとりによる細胞間相互作用、細胞内での反応の進行に伴う体積増加による分裂、の3つの機構だけをとりいれた構成的モデルの数値実験と理論研究を行なった。このような簡単なモデルでも細胞分化さらには幹細胞システムががあらわれることを既に我々は見出しているが、それを進めて今年度は以下を調べた。(1) 安定性:我々のモデルは(a)細胞内の化学成分のゆらぎにもかかわらず同じ細胞タイプがあらわれる(b)あるタイプの細胞を取り除くなどの大規摸な乱れに対しても、分化の比率の自発的制御により、もとの細胞分布が再現する、という2種類の安定性を有することを明らかにした。(a)については、そのために必要な分子の数などを調べ(b)についてはそのためのダイナミクスの性質を調べた。(2) 細胞が2次元空間の上で増殖していく場合のモデルを調べ、それによって幹細抱から派生したいくつかの細胞タイプが、同心円状、縞模様などのパターンをつくることを示した。これらのパターン形成過程は安定であり、たとえば一部をとりのぞくと再生する能力をもつ。このパターン形成は位置情報の生成過程としてとらえられ、特に位置情報と細胞内部のダイナミクスの間の相互フィードバックによって安定性が生まれることを示した。また細胞間の接着の違いを導入することにより、幹細胞→分化した細胞集団のコロニー→幹細胞の放出による次世代の細胞集団の誕生→残った細胞集団の増殖の停止、という多細胞生物のサイクルが簡単に生じることを明らかにした。
著者
大隅 典子
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

脊椎動物の脳形成はまず外胚葉に神経上皮が誘導され、その後背側で癒合して神経管が形成されるとともに、前後軸に沿ったいくつかのコンパートメント(分節)に分がれることによりなされる。近年、多数の形態形成遺伝子やシグナル分子がこの脳分節に特異的に発現することが報告されており、脳の分節構造は形態的な単位であるばかりでなく、その後の領域特異的な神経細胞の分化やネットワーク形成の基本単位として極めて重要な役割を果たしていると推定される。ショウジョウバエの形態形成遺伝子であるpairedのホモログの一つとして同定されたPax-6遺伝子は転写因子をコードし、発生中の前脳や菱脳・脊髄で領域特異的に発現する。本研究では実験発生学的手法と分子形態学的手法を駆使することにより、脳分節形成の細胞系譜的解析および脳のパターニングにおけるPax-6の役割について解析することを目的としている。今年度は、Pax-6陽性領域である前脳コンパートメントの成立とその運命地図の作成について、培養マウス胚を用いて詳細な解析を行った。さらに昨年度確立した電気穿孔法による培養哺乳類胚への遺伝子導入系を用いて、前脳コンパートメントの維持にカドヘリン群が果たす役割を解析した。また、ラット胚菱脳部において、Pax-6の下流の分子カスケードについて解析し、Wnt遺伝子によってコードされる分泌因子がlslet2などの遺伝子発現を調節することにより、神経細胞の多様性獲得に役割を果たしていることが示唆された。
著者
崎村 建司
出版者
新潟大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

神経細胞壊死の機構解明を目的として、2つのテーマで研究を進めてきた。第一に、一過性の脳虚血負荷後の遅発性神経細胞壊死や、カイニン酸などの薬物投与による急性神経細胞壊死に、NMDA受容体チャネルがどのように関与しているかを検討した。カイニン酸投与による急性中毒では、4種類のNMDA受容体チャネルεサブユニットをノックアウトしたマウスはいずれも耐性を示したが、とりわけε1サブユニットノックアウトマウスは高い耐性を示した。また、眼圧上昇による一過性虚血負荷により発生する遅発性神経細胞壊死が、NMDA受容体チャネルサブユニットε1-4失損マウスでどのように起こるかを経時的な組織学的検索により検討した。その結果、一過性虚血負荷により発生する視神経細胞及びアマクリン細胞の遅発性の壊死が、ε1サブユニットノックアウトマウスではほとんど起こらないことが明らかになった。以上のことから、これらの神経細胞壊死の過程にNMDA受容体チャネルを介する過程が存在することが示唆された。一方、ヒト疾患モデル動物を作成するために、ヒト家族性パーキンソン病、脊髄小脳変性症、歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症の原因遺伝子であるα-Synuclein、SCA1およびDRPLAのマウスカウンターパートをノックアウトした動物の作成を進めている。現在、それぞれの遺伝子のマウスカウンターパートを得るために、プローブ用のマウスcDNAクローンを検索している。
著者
加我 君孝 室伏 利久
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

聴性脳幹反応(ABR)の難聴乳幼児の早期発見のための臨床応用が広く普及するようになった結果、わが国では0才のうちに難聴児が発見されるようになった。同時に0才のうちに補聴器のフィッティングを行い、超早期教育が行われるようになった。我々はこの難聴乳幼児の早期発見、早期教育に過去20年取り組んできた。その成果は著しく、2才前後での言語獲得がなされ就学後は普通学校に入学し、高等教育を受けるに至る場合も少なくなくなってきた。これらの症例を対象とする乳幼児の喃語や言語に関する研究は極めて少ない。早期発見された難聴乳幼児の始語に至る0〜1才の間の発達と音声の変化の関係について、他覚的に明らかにすべく音響分析を行った。対象:0〜1才の正常乳児3例とABR他の検査で高度難聴の証明された5例方法:ビデオカメラで、喃語を行動の記録とともに録音し、それをサウンドスペクトルグラフで解析した。結果:1)代表的な高度難聴乳幼児の発達と喃語および音声の変化を図1にまとめて記述解説し、サウンドスペクトルグラフによる解析の例を生後11ヶ月の“あー"を図2、生後19ヶ月の“あうーん"を図3に示した。2)対象例も難聴乳児もサウンドスペクトルグラフによる解析では、ほぼ同様のパターンを示した。異なる部分も一部に認めた。
著者
赤松 明彦 船山 徹
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

研究実績は以下のとおり.『ヴァーキヤ・パディーヤ』第二巻の注釈本文のテキスト・データベースを作成し、すでに入カ済みの第一巻、第二巻、第三巻詩節本文、および第一巻注釈(自注とプンヤラージャ注)とそれとを対照しつつ第二巻注釈のテキスト校訂を行った。『ヴァーキヤ・パディーヤ』第三巻に対するヘーラーラージャの注釈テキストを入力して電子テキスト化する作業を開始した。作成されたテキストデータベースをもとにして、主として当時の言語論と存在論とに関わる語彙を抽出し語彙研究を行った。たとえばdravya(「実体」)とかguna(「属性」)、kriya(「運動」)、jati(「普遍」)といった語-これらの語は、文法学における語彙であるとともに自然哲学派(ヴァイシェーシカ)などの存在論におけるカテゴリーでもある一を取り出し、そららのこのテキストにおける用法を明らかにした。同時に、関連する他のテキスト、『パダールタダルマサングラハ』、『ニヤーヤ・カンダリー』、『ニヤーヤ・ヴァールティカ』などにおける用法と比較検討した。本特定領域研究A04班「古典の世界像」班研究会における共同研究でなされた他領域の研究者との議論を通じて、インド古典期における「言語観」を、古代ギリシアや古代中国におけるそれとの比較を通じて考察することができた。言語哲学に関して現代哲学を代表する思想家であるJ・デリダやジュリア・クリステヴァの思想と、バルトリハリの言語哲学の比較を試みた。特に、言語の起源の問題と、エクリチュールとパロールの問題は、バルトリハリの言語論の枠組みを考える上でも重要な視点であることを確認した。
著者
岩田 孝 桂 紹隆
出版者
早稲田大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

法称(七世紀中葉)は、独自な論理系を導入して、陳那(六世紀前半)の論理学を説明しつつ、自らの論理系と、陳那のそれとの無矛盾性を多くの箇所で示している。本研究では、法称の論理系が陳那の独創である九句因説と矛盾しないことを論じた『知識論決択』の箇所を分析した。その結果、陳那には見られない法称の視点が浮き彫りになった。それは、推論の成立の主要な条件である論証因と所証との論理的関係を、陳那が「確定される」ものと見なしたのに対して、法称は確定できない場合も有るとし、「疑い」の視点を導入して論理的関係を再分類したという点である。「疑い」の概念の導入により、他者が日常的に認識できない不確定な事柄を証明する場合(例えば常住不変なる実我などの存在を証明しようとする場合に)これを批判することが可能になった。印度の論理学は実例に依存する為に帰納的であると言われている。実例に基づく為に生じる諸矛盾を回避する方法を検討することは、印度論理学の限界を示すという意味で重要である。本研究では、陳那の論理学での喩例の役割を分析した。更に、法称の『知識論決択』での疑似論証因の論述を調べ、実例に依らずに、論証因の成否を検討するという見方の萌芽が法称説に存することを指摘した。上記の推論説の文献学的研究は、仏教論理学の基礎論の研究である。以下の研究は、その応用部分に相当する。ものごとの認識を成立させる根拠を定め、その根拠に基づいて、何が妥当なものとして残るかをラディカルに追求した法称は、世尊自身についても、何ゆえに人々にとって信頼される拠り所(公準、量)になるのかを問題にし、これの証明を試みた。本研究では、この証明に関するプラジュニャーカラグプタ(八世紀後半)の解釈を分析し、世尊の量性の証明が、世俗的上での証明と、勝義上での証明に分類されることなどの特徴を指摘した。