著者
新井 武志 大渕 修一 逸見 治 稲葉 康子 柴 喜崇 二見 俊郎
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.118-125, 2006-06-20
被引用文献数
9

本研究では,包括的高齢者運動トレーニング(以下CGT; Comprehensive Geriatric Training)に参加した地域在住虚弱高齢者の健康関連Quality of Life(以下HRQOL),うつ傾向,転倒に関する自己効力感を評価し,CGTによる身体機能改善効果との関連について検討した。対象は,CGTに参加した地域在住の虚弱高齢者20名(男性4名,女性16名,平均年齢74.6±7.2歳)であった。CGT開始前後に歩行能力やバランス機能などの身体機能測定に加えて,HRQOL (MOS Short-Form 36-Item Health Survey;以下SF-36),高齢者うつ評価(Geriatric Depression Scale簡易版;以下GDS),転倒に関する自己効力感(Falls Efficacy Scale;以下FES)を測定した。介入により有意に改善した身体機能の変化量とSF-36,GDS,FESとの相関関係について検討した。トレーニング後,参加者の身体機能は最大歩行速度,ファンクショナルリーチ,長座位体前屈,Timed Up and Goが有意に改善した(p<.01〜.05)。SF-36,GDS,FESの初回評価値とそれら身体機能の変化量との関係では,SF-36(心の健康)がファンクショナルリーチの変化量と有意な相関(r=0.53,p<.05,年齢調整後偏相関係数r=0.53,p<.05)を認めたのみで,GDS,FESはいずれにも有意な相関を認めなかった。今回CGTに参加した地域在住の虚弱高齢者において,身体機能の改善効果とうつ傾向や転倒に関する自己効力感の関連は認められなかった。適切な介入方法を用いることによって,HRQOLやうつ傾向,転倒に関する自己効力感の高・低にかかわらず高齢者の身体機能を向上させられる可能性が示唆された。
著者
加藤 浩 神宮司 誠也 高杉 紳一郎 岩本 幸英 吉村 理 新小田 幸一
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.178-184, 2002
参考文献数
24
被引用文献数
6

本研究の目的は,股関節疾患患者の中殿筋を対象に,従来の静的表面筋電図周波数解析に加え,新たに歩行時の動的表面筋電図周波数解析を行い,その結果を筋組織学的レベルから検証することである。当院で手術を受けた股関節疾患患者11症例を対象とした。手術直前に100・50%MVCにおける等尺性股関節外転運動を行わせ,中殿筋筋腹部を電極部位とした静的な表面筋電図測定を行った。又,10m自由歩行を行わせ,動的な表面筋電図測定を行った。そして,wavelet変換を用いた静的・動的表面筋電図周波数解析を行った。手術中に中殿筋筋生検を行いATPase染色による筋線維のタイプ分類(typeI及びtypeII)を行った。さらに画像解析ソフトによる筋線維横断面の形態計測を行った。50%MVC時のパワースペクトルとtypeII線維数の間には,正の相関が認められた。また,歩行時の立脚期初期のパワースペクトル変化は,typeII線維の線維径とtypeII線維横断面の総面積比率が関与していた。wavelet変換を用いた静的・動的周波数解析は,筋線維組成比やtypeII線維の萎縮といった組織学特徴を推測する有効な手段になりうるものと思われた。
著者
池添 冬芽 浅川 康吉 島 浩人 市橋 則明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.232-238, 2007
参考文献数
38
被引用文献数
10

加齢に伴い,ヒト骨格筋においては筋張力が低下するだけでなく,筋厚,羽状角など筋の形態的特徴も変化する。近年では超音波法により簡便に筋の形態的特徴を調べたり,固有筋力を推定することが可能になったものの,高齢者を対象とした研究は少ない。本研究では大腿四頭筋の形態的特徴や筋力の加齢による変化について明らかにすること,ならびに高齢者の筋力低下に影響を及ぼす因子について検討を行うことを目的とした。超音波診断装置を用いて,外側広筋部での大腿四頭筋の筋厚および羽状角の測定を行った。また,大腿四頭筋の筋厚と大腿周径から筋横断面積の推定値を求め,さらに膝伸展筋力をこの筋横断面積で除した固有筋力指数を求めた。その結果,高齢女性では若年女性と比較して大腿筋厚や筋横断面積で約1/2,膝伸展筋力では約1/3に有意に減少することが確認された。また高齢女性において,膝伸展筋力と年齢との間に有意な相関がみられ,筋厚や筋横断面積と年齢との問には相関がみられなかった。これらのことから,大腿四頭筋では筋量よりも筋力の方が相対的に加齢による低下の程度が大きいことが示された。固有筋力指数も高齢者では若年者より有意に低い値を示し,加齢による筋力低下は筋量以外に神経性因子の変化が関与していることが推察された。さらに,高齢者の固有筋力指数は変動係数が56%と高く,筋力発揮に関わる神経性因子は,高齢者では個人差が拡大することが示唆された。
著者
川島昭彦 川島 敏生 横塚 政久 野鳥 長子 三ツ木 豊 三ツ木 裕子 田村 真佐美 栗山 節郎
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.117-122, 1990
被引用文献数
1

廃用性筋萎縮が生じた膝伸筋のトルク, スピード, 大腿周径の変化を測定した。廃用によって, トルク, スピード, 周径のそれぞれに減少を認めた。減少率は, スピードに比較してトルクが高く, ST線維の萎縮の強さが推測された。さらに当院での通常の訓練を行った後に第二回の測定を行った。その結果, 統計的にトルクのみ改善を認め, スピードと周径に変化はなかった。今後, スピードに対するアプローチも必要と思われた。廃用による周径とトルク, スピードの相関は, 低いか, 無相関であった。周径で厳密に筋力を推定することは困難であり, 評価としての周径の意義について測定方法を含めた再考が必要と思われた。
著者
宮原 洋八 竹下 寿郎
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.155-159, 2004-06-20
被引用文献数
4

この研究の目的は地域在住高齢者を対象に健康寿命と運動能力の関連を調査し,日常生活活動低下の因子を明らかにすることである。奄美大島の笠利町(総人口は6900人)に居住する60歳以上90歳未満の在宅高齢者2578人を,(1)性別(男,女),(2)年齢(60〜69歳,70〜79歳,80〜89歳),(3)居住地域(8集落)の3要因により15%順化抽出し,地域代表性のある386人を対象とした。そのうち日常生活が自立していた323名(男性113名,女性210名,年齢60歳から89歳)を対象に,ベースライン測定時の運動能力(握力,長座作前屈,閉眼片足立ち,10m最大歩行速度)により,3年後の日常生活活動における自立,非自立状態をどの程度予測できるかを検討した。測定された運動能力はすべて年齢と有意な負の相関を示した。日常生活の自立率は,年代が上がるにつれて減少し,3年間の追跡により日常生活活動の低下に関する要因を分析した結果,握力,10m最大歩行速度と関連があった。
著者
藤澤 宏幸 鈴木 克憲 浦島 貴子 金子 文成 綿谷 美佐子
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.21, no.7, pp.425-429, 1994-11-30
被引用文献数
5

本研究の目的は, 運動肢位によってことなるとされる最大筋トルクが, 筋活動量の変化によるものか, または上腕骨長軸と筋走行の成す角度および筋長が変化するため(運動力学的要因)なのかを明らかにすることである。健常男性6名の右肩関節を対象に, 肩関節内外旋運動時の最大筋トルクと回旋筋群の筋電図を, 肩関節90度外転位および90度屈曲位の二つの肢位で測定した。外旋運動時の最大筋トルクは90度外転位で有意に大きかったが, 内旋運動時の最大筋トルクに有意な差はなかった。筋活動量は両肢位で有意な差がなかった。以上の結果より, 運動肢位による外旋運動時の最大筋トルクの変化は, 運動力学的要因が主因と思われた。
著者
牧迫 飛雄馬 島田 裕之 吉田 大輔 阿南 祐也 伊藤 忠 土井 剛彦 堤本 広大 上村 一貴 BRACH Jennifer S. 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.87-95, 2013-04-20

【目的】日本語版-改訂Gait Efficacy Scale(mGES)の信頼性と妥当性を検証することを目的とした。【方法】地域在住高齢者240名を対象とした。そのうちの31名については,自記式による日本語版mGESの評価を2回実施した(評価間隔14〜20日間)。日本語版mGESの妥当性を検証するために,運動機能(chair-stand test,片脚立位時間,通常歩行速度,6分間歩行距離),生活空間,転倒恐怖感との関連を調べた。【結果】日本語版mGESは高い再検査信頼性を示し(級内相関係数[2,1]=0.945,95%信頼区間0.891〜0.973),すべての運動機能および生活空間と有意な相関関係を認めた。従属変数を転倒恐怖感の有無,独立変数を性別,各運動機能,生活空間,日本語版mGES得点としたロジスティック回帰分析の結果,転倒恐怖感と有意な関連を認めた項目は,性別(女性),通常歩行速度,日本語版mGES得点であった。【結論】高齢者における歩行状態の自信の程度を把握する指標として,日本語版mGESは良好な信頼性および妥当性を有する評価であることが確認された。
著者
新保 健次 清水 啓史
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【目的】上腕骨近位端骨折の保存療法はその自動運動が行われるまでほぼ8週を要し、その点で日常生活活動(以下ADL)の改善について大きな負担になっていると考えられる。しかし、上腕骨近位端骨折の保存療法例に関するADL獲得時期についての詳細な報告は少ない。そこで、今回受傷後2、3ヶ月のADLについて調査したので報告する。<BR>【方法】可能な限り詳細にそのADLを調査するために40項目(身辺動作6、更衣7、入浴4、整容6、トイレ動作1、支持4、挙上2、筋力2、生活関連動作8)を独自に作成し、各項目を「できる」、「少しできる」、「できにくい」、「全くできない」の4段階で評価した(以下、「できる」、「少しできる」をできる群とする)。動作時痛をVisual Analog Scale(以下VAS)で評価した。上腕骨近位端骨折の保存療法例6例に直接アンケート記入を依頼し、受傷後2、3ヶ月の計2回実施した。対象は全例女性で、受傷時年齢は60.8歳(43歳~79歳)であった。Neer分類による骨折型はminimal displacement骨折が3例、2part外科頚骨折が2例、3part外科頚、大結節骨折が1例であった。<BR>【結果】受傷後3ヶ月で、できる群の項目数は全例で増加した。1例が30項目(75%)であり、他5例は35~40項目(87.5%~100%)であった。VASは平均48.8mmから14.3mmであり全例で改善した。受傷後3ヶ月で全例が改善した動作は、「更衣動作」、「反対側の脇、肩を洗う」、「ズボンの後ろポケットに手をいれる」、「起きる際に患肢を支えにする」、「目の高さより上の物をとる」、「前の物に手を伸ばす」、「重い物を下げる」であった。改善が低かった動作は「ブラジャーを後ろで留める」、「エプロンのひもを後ろで結ぶ」、「背中を洗う」、「結髪動作」、「ネックレスを後ろで留める」、「患側を下にして寝る」、「手枕をする」、「重い物を目の高さまで挙げる」、「洗濯物を干す」、「自転車に乗る」であった。<BR>【考察】受傷後3ヶ月で、できる群の項目数が増加したこと、VASが改善したことから、ADL拡大に動作時痛の軽減は一つの要素になっていると考えた。他より改善が低かった1例は3part骨折で、75歳以上の高齢者であった。ADLで改善された群から、肩関節部に大きな力が加わると考えられる「目の高さより上の物をとる」、「重い物を下げる」など問題はなかった。しかし、上腕骨に回旋の加わる動作は改善が低い傾向があった。固定期間中に制限される動作に改善が低い傾向があると考えられた。上腕骨近位端骨折の保存療法に影響を及ぼす因子については骨折型、年齢が影響するとの報告がある。後療法では各症例のゴールを踏まえ、機能改善だけでなく骨折型や骨癒合の状態を確認する、できない動作に代償動作の指導を行うなどの必要があると考えられた。<BR>【まとめ】上腕骨近位端骨折の保存療法例6例に受傷後2、3ケ月のADLに関するアンケート調査を行った。全例で受傷後2~3ヶ月でADLの改善が見られた。
著者
加藤 剛平 田宮 菜奈子 柏木 聖代 赤坂 清和
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.17-26, 2011-02-20

【目的】地域在住要介護者等の外出頻度に関連する環境因子を横断研究により検討する。【方法】通所リハビリテーション利用者(77名)を対象にした。多重ロジスティック回帰分析を用いて,外出頻度が低い状態に関連する利用者の基本属性および環境因子を探索した。一週間の外出頻度を従属変数とし,性別,年齢,疾病の種類,日常生活活動能力,利用施設,一週間の通所リハビリテーション利用日数,環境因子を独立変数とした。環境因子は,Home And Community Environment(HACE)日本語版を用いて評価した。【結果】地域の障害の多さを示すHACE日本語版の地域移動性得点が高いことは,一週間の外出頻度が通所リハビリテーションの利用を除くと「まったく外出しなかった(調整オッズ比[95%信頼区間]:8.84[1.80-67.02])」と独立に関連した。また,通所リハビリテーションを外出頻度に含めた二次的分析でも同様の結果が得られた。【結論】地域の物的障害が多いことは,地域在住要介護者等の低い外出頻度に関連する環境要因として重要である。
著者
島田 裕之 内山 靖
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.38-46, 2001-03-31
被引用文献数
17

高齢者に対する運動介入を行い, 姿勢バランス機能が向上するかを検討し, 運動の種類の違いによって改善する機能に特異的な反応が生じるか明らかにすることを目的とした。対象は施設を利用する後期高齢者34名(平均年齢80.8±6.6歳)で, これらの対象を無作為にコントロール群, 静的バランス練習群, 動的バランス練習群に分類した。運動による介入は週2から3回の頻度で12週間継続して行った。バランス検査は全被検者に対し運動開始前, 終了時, 終了から12週間後に行った。介入群では静的・動的バランス検査, 歩行検査, 応用動作検査の全ての要素に関して機能の改善が認められ, それらの多くの機能が運動終了後にも保持されていた。コントロール群では, 最初の12週間で機能変化は認められなかったが, 24週後には姿勢バランス機能の低下が認められた。また, 介入の方法によって改善する機能は変化し, 静的バランス練習では片足立ち保持時間の延長やFunctional Reach Testの向上が認められた。一方, 動的バランス練習ではTimed Up and Go Testにおける歩行時間の短縮と, 階段を降りる所要時間が短縮した。本研究の結果から, 維持期高齢者に対する運動介入は効果的であり, 改善する機能は運動の種類に対応することから, 総合的な評価を行うことで効率的な運動処方の作成が可能であると考えられた。また, 両群に共通してFunctional Balance Scaleが改善し, 介入の効果判定に有益な指標となる可能性が示唆された。