著者
児嶋 大介 木下 利喜生 東山 理加 太田 晴基 山本 洋司 下松 智哉 梅本 安則 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P1044, 2010

【目的】<BR> 日本古来、温泉に浸かると体調が整い元気になるというような伝統的な民間療法が伝承されており、また、運動を行うことにより同様の効果が得られる。運動による全身調整効果は近年Pedersonらによって明らかにされた。骨格筋は単なる運動器ではなく、収縮することにより、サイトカインの一種であるインターロイキン6(以下IL-6)を多量に放出する内分泌器官であることが明らかになった。さらに、筋繊維から分泌されるIL-6をはじめとしたサイトカインは、これまで認識されてきた液性免疫の中心的役割を担うだけでなく、同時に糖代謝、脂質代謝の活性化、造血幹細胞の活性化、神経修復の活性化等を有する多機能サイトカインであることが示され、Myokinesと命名された。我々は、温泉入浴の効果が免疫系・代謝系等多岐にわたる事から、温浴がmyokinesを発現させ、元気になり、体調が整う等の生体への様々な効果を上げているのではないかと推測した。過去にも頚下浸水においてIL-6の変化について言及されることはあったが、結論は出ていない。そこで我々は温泉における頚下浸水の前後で血中IL-6濃度を測定した。<BR><BR>【方法】<BR> 被検者は若年健常男性8名(年齢26.9±4.1歳、身長172.6±8.6cm、体重66.3±6.8Kg)とした。また、全ての被検者は測定前日から激しい運動・カフェイン・アルコールの摂取を禁止した。被検者は、中性温の室内で安静座位をとり、血圧・心拍数が安定した後、30分間の浸水前測定を行った。その後、42&deg;Cの温泉に20分間頚部までつかり(頚下浸水)、その後再び中性温の室内で安静座位を1時間とった。採血は浸水前、浸水直後、浸水1時間後に医師が行い、左前腕から1回20mlを採血し、ただちに遠心分離機で血漿・血清を分離させ、ELISA法により血中IL-6、TNF-αを測定した。また白血球数、およびその分画である単球、ヘマトクリット値、CRPの測定も行った。さらに実験中は舌下温をモニタリングした。<BR>温泉は那智勝浦町立温泉病院地下から湧き出るものをボイラーで温度調節し、使用した。<BR>controlの為、2日間以上の期間をあけて、入浴を行わない対照実験を行った。<BR>結果の解析はANOVAを行い、post hocテストでLSDを用いて負荷前後での検定を行い、有意水準は5%とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究は和歌山県立医科大学倫理委員会で承認されており、実験に先立って被検者には研究の主旨と方法を十分に説明し、同意を得てから施行した。<BR>【結果】<BR> 温泉での頚下浸水負荷前後のIL-6濃度は、入水前:0.88±0.13pg/ml 入水直後:1.20±0.32pg/ml 回復後: 1.75±0.65pg/ml であり、温泉での頚下浸水負荷20分による血中IL-6濃度の上昇が認められた(P<0.05)。TNF-α、白血球数、および単球、ヘマトクリット値は入水前後において有意な変化は認めなかった。舌下温は入水前:37.4625±0.25&deg;C 入水直後:39.2625±0.72&deg;C 回復後: 37.7625±0.40&deg;C であり、入水前後で舌下温の上昇が認められた(P<0.01)。またcontrol群において血中濃度・舌下温は有意な変化が認められなかった。<BR>【考察】<BR> 健常者において、温泉入浴によりIL-6の血中濃度が上昇した。今回、ヘマトクリット値の変化を認めなかったため、血中IL-6濃度の上昇や、その他の血液データは脱水による影響は受けていないと考えられる。<BR>一般に、IL‐6は炎症反応により単球から分泌されるpro-inflammatoryな物質であると考えられている。それに対して、Pedersenらは筋収縮により分泌され、anti-inflammatoryなものであると主張する。今回の研究では、pro-inflammatory 物質であるTNF-αの上昇もなく、単球の増加もないため、炎症反応による血中IL-6濃度の上昇は否定的である。一方、温泉入浴中に筋肉を収縮するような運動も実施していないため、筋肉からIL-6が産生されたとも考えにくい。<BR>今回の結果より、IL-6の上昇はpro-inflammatoryなものとは考えにくく、その上昇メカニズムとして現在わかっているもの以外の存在が推測される。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究により、理学療法の一つの柱である物理療法の源流ともいえる温泉療法効果発現の根幹に迫ることが出来た。温泉入浴が運動負荷と同様にIL-6を上昇させる事実は、IL-6を発現するだけの運動が行えない高齢者や障害者の健康維持の一助となる可能性を示した。
著者
時任 真幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】臨床実習において養成校教員が関わる時間や方法は限られており,巡回指導や実習後の振り返りが十分なリフレクションとなっているか疑問を感じた。そこで心理学の手法として用いられているブリーフセラピーの解決志向アプローチ(Solution-Focused Approach:以下SFA)をアンケートにて調査し,ポートフォリオ化することで学生の特性的自己効力感(以下GSE)や自尊感情尺度(以下SE)がどのように影響を与え,臨床実習の成果(学び)についての検討を本研究の目的とした。【方法】本校理学療法学科最終学年38名を対象に,実習前(4月),臨床実習I終了後(6月),臨床実習II終了後(8月)の計3回,SFAを基にした記述式アンケートを実施した。同時期にGSEと自尊感情尺度を調査し,比較・検討を行った。また,目標設定のスケーリングにおける目標達成上位群と下位群に群分けし,SFAの観点から質的に検討を行った。【結果】1)10点法における目標値推移目標値平均及び標準偏差は4月が2.55±1.52,6月が4.78±1.62,8月が5.49±2.23となった。一元配置分散分析の結果,主効果が認められた(p<0.0001)。さらに,Bonferroniの方法で多重比較検定を行った結果,4月と6月,4月と8月において1%水準での有意差が認められ,6月と8月では5%水準での有意差が認められた。2)①臨床実習I終了後の目標値の変化(6月-4月)と6月GSE,②臨床実習II終了後の目標値の変化(8月-4月)と8月GSEの相関関係①では相関係数r=0.102261,危険率p=0.5412,②では相関係数r=0.312948,危険率p=0.05579といずれも5%水準において相関関係は認められなかった。なお,臨床実習IIにおいて実習中止が2名出たため,②では2名を除外した。3)①臨床実習I終了後の目標値の変化(6月-4月)と6月SE,②臨床実習II終了後の目標値の変化(8月-4月)と8月SEの相関関係①では相関係数r=0.086756,危険率p=0.6045,②では相関係数r=0.124911,危険率p=0.4549といずれも5%水準において相関関係は認められなかった。なお,臨床実習IIにおいて実習中止が2名出たため,②では2名を除外した。4)目標値が初期と最終で大きく変化した上位6名の群(以下上位群)と変化のみられなかった下位6名の群(以下下位群)における事例検討上位群においては目標値,GSE,SE,実習成績の項目において目標値と実習成績に変化が見られた。下位群では全ての項目で変化が乏しい結果となった。【考察】本研究では,臨床実習場面における到達目標設定に介入することにより,GSEやSEにどう影響を及ぼし,実習場面で困難に直面する学生への支援方法としてSFAの質問技法を検討した。結果として,GSE,SEと目標値の向上に相関はみられなかった。詳細には,4月・6月間での達成感からくる目標値に対し,GSE,SEの向上が見られず,6月・8月間では目標値,GSE,SE全てにおいてわずかな上昇率に留まっている。これは,①自己の能力評価と「臨床実習指導者・養成校教員・患者」などからなる他者の評価に乖離がみられる②達成確率と課題の判別性が十分でないこと③自己の能力に関する先行知識の不確実度によって目標設定が曖昧になってしまうことなどが挙げられる。理学療法分野における臨床実習の目標には情意領域,精神運動領域,認知領域が混在している。しかし学生は経験不足とマンツーマンでの指導に対する極度の緊張で具体的な目標を定めることが出来ない場合が多い。この事に対してSFAの手法,特にスケーリングと例外探し,ミラクル・クエスチョンを使用しての質問技法が個人目標値を向上させた上位群においては有効であることを示した。臨床実習のような学生にとっては長い期間であるが,2ヶ月の間に1度の訪問で,後は電話やメールによってしか対応できない。上記の有効性によって学生の支援ツールの一つとしてSFAによる面接やポートフォリオの使用は解決の手がかりとなると考えられる。【理学療法学研究としての意義】「経験はしっかりと内省してはじめて学習になる」という考え方がリフレクションであり,経験の浅い学生にはとても重要であるということは自明の理である。学生にとって臨床実習が有効な学習になるための支援ツールとして,SFAを基にした目標設定が必要ではないかと考える。
著者
島津 貴幸 柴田 哲成 中野 優恵 前田 英児
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101163, 2013

【はじめに、目的】変形性膝関節症(以下:OA) において、大腿脛骨関節(F-T joint)のみでなく膝蓋大腿関節(P-F joint)の重要性について報告が散見される。臨床でも、OAのF-T jointよりP-F joint に問題を抱える症例を経験する。一方、レントゲン画像 (X線) 評価では、関節裂隙の狭小化と骨棘形成の重症度分類,下肢アライメント評価が主に用いられている。そこで今回、変形性膝関節症と診断され膝関節鏡視下術の術前X線を用いて膝関節周囲の骨アライメントについて内側広筋の機能を加え比較・検討したのでここに報告する。 【方法】対象は、平成24年1月から8月までに当院で膝関節鏡視下手術を施行したOA群29膝(女性20名・男性9名、平均年齢60.5±14.7歳)、コントロール群として膝に既往のない当院スタッフ10膝(女性5名・男性5名、平均年齢26.2±2.66歳)を健常群とした。レントゲン評価は、腰野によるOA分類、Femorotibial(FTA)、Q-angle、膝蓋骨の形態の分類(Wiberg)、膝蓋骨高位(Patella height)、滑車面角(Sulcus angle)、適合角(Congruence angle)を計測し健常群と比較した。加えて、超音波にて内側広筋筋腹の収縮前後を計測し除算したものを収縮率とし各々X線との関係性を検討した。統計学的分析では、Mann-Whitney U検定、ピアソンの積率相関係数を用い危険率を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に研究の十分な説明の上、レントゲン画像の使用の同意を得た。【結果】OA分類の内訳はGrade0:27.6%,Grade1:44.8%,Grade2:27.6%だった。Patella heightはOA群1.05±0.14健常群0.95±0.11、Sulcus angleはOA群134.7±6.09°健常群129.2±5.51° 、Congruence angleはOA群20.44±8.99°健常群11.4±3.86°と有意差(p<0.05)がみられた。Q-angle、FTA、Wibergには有意差はみられなかった。内側広筋の収縮率と比較するとPatella heightとの間に有意な相関(r=-0.49、p<0.05)がみられた。【考察】今回、初期OAのX線ではF-T jointよりP-F jointに有意差がみられ、パテラアライメントに問題を抽出しやすいと示唆された。特に、Patella heightでは内側広筋の収縮が起こりにくい結果となった。OAは内側広筋機能不全を伴い大腿直筋・外側広筋・腸脛靭帯の短縮または過剰収縮が起こると報告があり、膝蓋骨の位置を構成する組織として大腿四頭筋・膝蓋靭帯・膝蓋大腿靭帯・半月大腿靭帯・腸脛靭帯とされている。今回の結果から、従来軽視されていたX線でのパテラアライメント評価が、筋・靭帯の異常の指標の一つとなると考えられる。今後、パテラ位置の評価から運動療法の効果判定まで一連しての研究を行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究により初期OAのレントゲン画像上、膝関節周囲の骨アライメントはP-F jointに異常所見を抽出されやすいことが示唆された。このことから、パテラの位置の確認が一評価として重要であり、考慮した運動療法のプログラム立案が必要だと考える。
著者
田舎中 真由美 山本 泰三 菅野 洋平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】骨盤底筋群,腹横筋,横隔膜,多裂筋はインナーユニットと総称され,腰痛症や尿失禁に対する運動療法の際に呼吸法と併用してトレーニングされている。臨床上,尿失禁や臓器下垂の症例や経産婦の呼吸は胸式呼吸が多い。骨盤底筋群に機能低下がある場合,吸気に骨盤底筋群を下方に押し下げることを避けるために胸式で呼吸すると考えられる。昨年の本学会で我々は意図的な腹圧上昇課題により腹壁が膨隆すると骨盤底部は下降し,腹横筋は伸張されることを報告した。しかし,呼吸時の腹壁の動きが骨盤底筋に与える報告はまだない。本研究の目的は,超音波画像診断装置及び3次元動作解析装置を用い,呼吸様式の違いが骨盤底筋に与える影響を評価することである。【方法】対象は胸腹部及び骨盤内臓器の手術歴の既往がない健常成人男性7名(平均年齢36.3±9.1歳)とした。呼吸様式は上部肋骨を上下させる上部胸式呼吸(以下,上部胸式),下部肋骨を広げる下部胸式呼吸(以下,下部胸式),腹式呼吸(以下,腹式)とし,それぞれの様式で安静呼吸と最大深呼吸させた。各呼吸課題は事前に練習した。胸郭と腹壁の動きは3次元動作解析装置(VICON社製)を用い,マーカーは第2肋骨,両肋骨下端,臍にマーカーを設置し測定した。各呼吸様式における胸郭及び腹壁の動きは安静呼気終末を基準として吸気時の各マーカーの変化量を算出した。骨盤底筋群の測定には超音波画像診断装置(Sono Site社製MicroMaxx)を用いた。骨盤底筋の変化はWhittakerらの手技に準じ,背臥位で恥骨結合の上部にプローブを当て,膀胱後面の動きを骨盤底筋の動きとし,安静呼気終末と吸気終末,最大呼気終末と最大吸気終末に測定した。安静及び最大呼気終末時の腹壁から膀胱後下面までの距離を基準として,各呼吸様式における安静及び最大吸気終末の膀胱後面の下降率(下方が正の数)を算出した。統計学的分析は分散分析後にポストホックテストした。各呼吸様式における第2肋骨,下部肋骨,臍点の変化量,及び各吸様式の臍点の変化量と膀胱後面の変化量の相関を求めた有意水準は5%未満とした。【結果】被験者の安静呼吸様式は上部胸式が6名,腹式が1名であった。安静呼吸における第2肋骨の矢状面の変化量は,上部胸式で1.0±1.3%,下部胸式で1.4±1.5%,腹式で1.0±1.5%であった。下部肋骨の前額面の変化量は,上部胸式で1.4±1.1%,下部胸式で2.7±2.5%,腹式で2.1±2.9%であった。安静呼吸の腹壁の矢状面の変化量は上部胸式で7.9±16.8%,下部胸式で36.6±86.8%,腹式で25.0±58.4%であった。最大深呼吸における下部肋骨の前額面の変化量は,上部胸式で3.6±2.7%,下部胸式で3.9±3.5%,腹式で4.5±4.5%であった。安静呼吸における膀胱の下降率は上部胸式で0.8±1.6%,下部胸式で0.4±1.0%,腹式で7.5±4.9%であり,安静腹式の下降率が下部胸式より有意あった。最大深呼吸における膀胱の下降率は,上部胸式で3.9±1.4%,下部胸式で0.3±1.9%,腹式で7.5±2.7%であり,最大深呼吸では腹式の下降率が上部胸式及び下部胸式より有意であった。各呼吸様式の腹部の矢上面の動きと膀胱下降率の相関は認められなかった。【考察】最大腹式呼吸における吸気では他の呼吸様式に比べて骨盤底筋を下降させることが分かった。骨盤底筋群の機能不全例では腹式呼吸を避け,胸式呼吸を行っていることが多い。これは骨盤底部に過剰な腹圧をかけないための逃避動作を裏付ける結果となった。上部胸式呼吸同様に下部胸郭を外側に広げる下部胸式呼吸では骨盤底筋は下降しにくいことが分かった。DeToroverらによると下部胸郭に対して吸気に抵抗をかけると次の呼気相において腹横筋が選択的に促通されるとの報告もある。臨床において骨盤底筋群の運動療法の際,腹式呼吸を併用させて吸気で腹部を膨らませ,呼気で骨盤底筋群の随意収縮を促すことが用いられている。しかし,本研究の結果から骨盤底筋群の運動療法を行う場合,初期段階では下部胸式呼吸は吸気に骨盤底筋に過負荷を与えることなく呼気で随意収縮を促しやすくなるため有効であると考える。今後症例数を増やし,呼吸様式の違いによる骨盤底筋群及び腹横筋の随意収縮への影響や腹圧変化を確認し,適切な体幹のスタビリティートレーニングを行うためのプロトコルを検討する。【理学療法学研究としての意義】腹式呼吸は他の呼吸様式に比べて骨盤底筋を下降させることから,骨盤底筋に機能不全がある場合,初期段階では吸気で骨盤底筋に負荷を与えにくい下部胸式呼吸を併用した運動療法を行うことが有効である。
著者
黒木 唯 柿木 理沙 桒畑 慶輔 大山 史朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.H2-92_2-H2-92_2, 2019

<p>【はじめに、目的】</p><p>女性の多くは,月経前3日~10日間(黄体期),月経発来とともに減退ないし消失する月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)に悩まされている.しかしこのPMS症状は主観的な捉え方が多く,定量化された報告は少ない.Liuらにより「ACLにエストロゲン・プロゲステロンのレセプターが存在し,女性ホルモンがACLのコラーゲン構造や代謝に影響を与えている」と報告されている為,PMSを含む生理周期における身体機能を定量化できれば,それぞれの生理周期に対するアプローチ確立に効を奏すると考え,調査に至った.</p><p>【方法】</p><p>対象は,本研究の主旨に同意の得られた健常成人女性7名(出産経験なし,年齢23.8±0.8歳,身長157.7±6.3cm,体重53.1±8.2kg)とした.方法は,月経期:月経1~3日以内の出血量が多い時期,卵胞期:月経終了後6日以内の心身ともに安定した状態の時期,黄体後期:月経1週間程前のPMS症状により心身に不調が出てくる時期の3つの生理周期にて計測をした.黄体前期に関しては黄体後期と同じくプロゲステロンが徐々に増えていく時期であるため本研究ではプロゲステロンの影響を最も受ける黄体後期のみ選択した.計測項目は%MV(%muscle volume:筋質量)・WBI(weight bearing index: 体重支持指数)・視床間距離(Finger Floor Distance:FFD)・体幹回旋角度・activeSLRを用いた.生理周期に関しては生理日管理アプリ(携帯アプリ)を使用し周期を管理した.統計処理は,Statcel4を用いて,各測定項目について月経期・卵胞期・黄体後期で違いがあるのか,一元配布分散分析にて比較した.有意水準は危険率5%未満とした.</p><p>【結果】</p><p>月経周期毎での計測結果では,FFD月経期:0.9±10.9cm,卵胞期:-0.5±8.5cm,黄体後期-0.5±4.3cm,WBI月経:95±13.5,卵胞期:111±12,黄体後期:106±8.8で優位さは見られなかった.</p><p>【結論(考察も含む)】</p><p>生理周期において身体機能の低下は見られないことが示唆された.しかし,WBI・SLRの項目においては卵胞期で高値を示している.卵胞期はエストロゲン値が高い時期であり,エストロゲンの働き(自律神経やホルモンの乱れを整える)により,交感神経・副交感神経の働きに均等が取れることでWBI・SLRの数値が高値を示したのではないかと考える.本研究結果では生理周期において身体機能の優位な差は見られないという結果となったが,対象者個人で変化を追うと身体機能に変化が見られている例もあった.今後の課題としては症例数を増やすと共に,今回の研究で測定できていない精神面(ストレスとの関係性)も調査することで生理周期が引き起こす心身機能の不調についてより認識を深められるのではないかと考える.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言の精神に基づき,対象者には研究の趣旨について説明し,書面にて同意を得た.個人が特定されないようプライバシーの保護に留意した.</p>
著者
三谷 祐史 細江 浩典 安井 敬三 林 優子 小坂 香織 古野 泰大 犬塚 加菜 河合 潤也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに】リハビリテーション(以下リハ)病院入院時のFIMにおいて軽症群の自宅退院率が高いことは言われているが,軽症にも関わらずリハ病院から自宅退院できなかった症例について検討した報告は渉猟したがなかった。【目的】当院の脳卒中地域連携パス(以下連携パス)を調査し,軽症にも関わらずリハ病院から自宅退院できなかった要因について検討すること。【対象及び方法】対象は2011年4月から2015年3月に当院から,連携パスを用いてリハ転院し,リハ病院から連携パスを回収でき,かつ記載不備のなかった1189名のうち,リハ病院入院時FIM91以上の399例とした。それをFIM別に91-100(以下91群)101-110(以下101群),111-120(以下111群),121-126(以下121群)の4層に分け,さらにリハ病院からの転帰で自宅退院群(以下退院群)と非退院群に分け,それぞれの特徴を回収された連携パスを基に調査した。調査項目は,年齢,当院ならびにリハ病院の在院日数,リハ病院退院時FIM(以下退院時FIM),FIM利得,FIM効率とした。検定には分散分析を行い,多重比較にはTukey法を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】退院群/非退院群は343/56例で,それぞれ91群95/24,101群100/22,111群107/6,121群41/4であった。各項目の平均値は,91群,101群,111群,121群の順に,年齢(歳)が72.0/67.6,73.4/63.9,64.4/67.7,60.8/62.0。当院在院日数(日)が28.2/27.7,27.4/32.6,25.4/24.3,25.7/29.3。リハ病院在院日数(日)が64.8/67.9,52.9/62.4,48.9/55.8,38.3/61。退院時FIM(点)が110.2/107.6,116.2/113.9,121.3/119.5,123.6/124.5。FIM利得(点)が154/12.3,10.5/8.6,6.1/4.2,0.2/2.3。FIM効率(点)が0.27/0.19,0.22/0.19,0.14/0.11,0.03/0.04であった。同じ層内での退院群-非退院群間には全ての項目で有意差は見られなかった。退院群内では,当院在院日数に有意差は見られなかったが,91群121群間でそれ以外の全項目で有意差が見られ,91群111群間では年齢,当院在院日数以外の項目に有意差が見られた。その他,各群間で有意差が散見された。【考察】軽症患者の機能的転帰や予後については,概ねリハ病院入院FIMに準ずることが示唆された。軽症でも非自宅退院となった具体理由を見てみると,再発及び他院での治療を要する他疾患合併によるバリアンス例が全群で13例あった。それ以外では,91群,101群において,入院期間が60日上限の施設へと転出され,60日後に転院となった例が半数近くを占めていた。これらの症例は運動失調や失語症が残存する例,若年で職業復帰を目指す症例などが散見された。その他では,同居者なしや生保にて施設入所となった例,精神症状により転院となった例などが見られたが大きな傾向はつかめなかった。【結論】同程度のFIMであっても,合併症や症状,家庭環境などによって治療が長期化する傾向が見られ,転院先を考慮する必要があると考えられた。
著者
赤尾 静香 朴 玲奈 梅田 綾 森野 佐芳梨 山口 萌 平田 日向子 岸田 智行 山口 剛司 桝井 健吾 松本 大輔 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】妊娠,出産は急激な身体の変化を伴うことで,さまざまなマイナートラブルが起こるといわれている。その中でも骨盤痛含む腰痛は妊婦の過半数が経験し,出産後も痛みが継続するという報告もされている。また腰痛を有する妊婦は身体活動が制限されることにより,ADLやQOLが低下すると報告されている。妊娠中に分泌されるリラキシンホルモンの作用により,仙腸骨靭帯や恥骨結合が弛緩することが原因で発症する腰痛を特に骨盤痛と呼び,出産後はオキシトシンの作用によりすみやかに回復するとされている。しかし実際に出産後1ヶ月以上経過した女性を対象とした研究は少なく,妊娠期の身体変化が及ぼす影響が出産後どのくらい持続しているか報告している研究は少ない。そこで,本研究では,妊娠期での身体変化が回復していると考えられる産褥期以降の女性における骨盤痛の有無と骨盤アライメント,腰部脊柱起立筋筋硬度に着目し,その関連性について検討することを目的とした。【方法】対象は名古屋市内の母親向けイベントに参加していた出産後3ヶ月以上経過した女性77名(平均年齢30.7±4.2歳,平均出産後月6.3±2.6ヶ月)とした。測定項目として骨盤アライメントの測定には,骨盤傾斜の簡易的計測が可能なPalpation Meterを上前腸骨棘と上後腸骨棘の下端に当て,静止立位時の左右の骨盤前後傾角度,上前腸骨棘間距離(以下ASIS間距離),上後腸骨間距離(以下PSIS間距離)を測定し,骨盤前後傾角度の左右差,ASIS間距離とPSIS間距離の比を算出した。腰部脊柱起立筋筋硬度の測定には,生体組織筋硬度計PEK-1(株式会社井元製作所)を使用し,第3腰椎棘突起から左右に3cmおよび6cm離れた位置を静止立位にて測定し,一ヵ所の測定につき5試行連続で行った。得られた値の最大値,最小値を除いた3試行の平均値を代表値とした。アンケートは基本項目(年齢,身長,体重,妊娠・産後月齢,過去の出産回数),骨盤痛,腰背部痛の有無,マイナートラブルの有無(尿漏れなど),クッパーマン更年期指数,エジンバラ産後うつ病質問票,運動習慣に関して行った。対象者は産後3ヶ月から12ヶ月までの者を抽出し,今回は骨盤痛に腰背部痛のみを有する者を除外した。骨盤痛(仙腸関節,恥骨痛のいずれか)の有無により痛みあり群と痛みなし群の2群に分けた。統計解析は,SPSS22.0Jを用い,Mann-Whitney U検定およびχ<sup>2</sup>検定を行った。【結果】痛みあり群は42名(79.2%),痛みなし群11名(20.8%)であった。痛みあり群は痛みなし群と比較してASIS間距離とPSIS間距離の比が有意に小さかった(痛みあり群2.82±0.81:,痛みなし群:3.47±1.29,p<0.05)。その他の骨盤アライメントと腰部脊柱起立筋筋硬度に有意差はみとめられなかった。また,尿漏れについて,痛みあり群では7名(16.7%),痛みなし群にはいなかった。【考察】本研究の結果より,産後女性において骨盤痛が持続していることが明らかとなった。またこれまで妊婦において非妊娠者と比較しASIS間距離,PSIS間距離が有意に大きくなると報告されている。本研究では痛みあり群でASIS間距離とPSIS間距離との比が有意に低いことから,PSIS間距離がASIS間距離と比較し回復が遅いことが,痛みの誘発に関連しているのではないかと想定される。また妊娠後期おいてPSIS間距離と臀部痛,尿漏れに有意な負の相関がみとめられるという報告もあり,本研究の結果から産後女性においても同様の結果が得られた。これらから骨盤の安定性に関与するとされている筋が,出産後も十分に機能していないことが想定される。しかし本研究では腹筋群,骨盤底筋群の評価は行っておらず,骨盤アライメントと筋の関連性は証明できなかった。今後は評価項目を増やし,骨盤アライメントが回復しない原因を検討することが必要である。本研究により産後女性の骨盤痛に対し,妊娠期での影響を考慮した上でのアプローチが必要であると示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究結果より,産後女性でも妊娠期に特徴的な骨盤痛が持続していること,出産後3ヶ月経過しても骨盤アライメントが回復していないことが明らかとなった。現在,日本では妊婦,産後女性に対する理学療法士の介入はほとんどない。しかし今後産後女性の骨盤痛と骨盤アライメントの関連性を明らかにすることで,骨盤痛に対する治療やその発症を予防するための理学療法介入方法の検討につながると考えられ,理学療法士の介入の可能性が示唆された。
著者
田中 亮 木下 義博 山下 雅代
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101160, 2013

【はじめに,目的】先天性多発性関節拘縮症(以下AMC)は先天性非進行性の四肢多発性の関節拘縮と運動障害を主症状とする症候群である。原因は不明であるが、神経支配の欠如など神経原性と筋自体の異常など筋原性の2つの病型に分類されている。最近は文献での報告は少なく、臨床で出会うことの少ない疾患であると思われる。今回このAMCを持つ女児を6ヶ月の初診時から担当する機会を得た。約3年の治療経験から見えてきた臨床像や理学療法を実施する上での治療方針について考察したので報告する。【方法】症例は、41週2日2598gで出生。出生時より膝関節伸展位での股関節屈曲など異常を認め、転院先で牽引療法を実施していた。月齢5ヶ月初診。6ヶ月で理学療法開始となる。全体像は、愛嬌のある可愛らしい女児。母親とのやりとりを楽しむ姿が印象的。おもちゃへの興味も高く触ろうとするが、肘関節屈曲位の上肢を肩甲骨挙上や体幹伸展で持ち上げていた。疾患名の通り、四肢の関節には拘縮が認められたが、筋力低下も併せもっているように思われた。自発運動を含む粗大運動、関節可動域に加え、筋力や感覚も評価した。2歳からはPEDIを聴取し、日常生活状況も評価した。理学療法は運動や遊びの促しを目標にし、母親への指導と運動療法を中心に理学療法を開始した。母親へは姿勢の介助方法や遊び方の指導を行った。運動療法では座位や立位練習を早期から開始し、頭部と体幹の支持性向上に努めた。また、移動の経験や上肢筋力向上を目的に車椅子自走も早期から行った。【倫理的配慮,説明と同意】今回の発表についてはその旨を本人と保護者に説明し、保護者から同意書を得た。【結果】初期評価として、粗大運動は頚定不十分、背臥位での頭部回旋や腹臥位での瞬間的頭部挙上は可能。側臥位までの寝返りも可能。関節可動域は肘関節伸展右-25°左-25°、膝関節屈曲右60°左70°と制限が認められ、肩関節屈曲や外転、股関節伸展にも可動域制限が認められた。母指内転や外反踵足などの変形も見られた。体幹変形はなかった。筋緊張は全身的に低緊張。自発運動では上肢では肩関節屈曲や肘関節伸展、母指外転が、下肢では膝関節屈曲や足関節底屈は観察されなかった。筋力は自動運動の観察からMMTによる段階づけを基準に行った。頚部・体幹伸展、肘関節屈曲、股関節屈曲・内転、膝関節伸展はMMT3以上相当、体幹屈曲、肩関節屈曲、肘関節伸展はMMT2相当、股関節伸展、膝関節屈曲、足関節底屈はMMT1以下相当と判断した。上肢より下肢に筋力低下が目立った。四肢の触覚刺激への反応は認められた。運動発達の経過は、頚定7ヶ月、座位1歳、ずり這い1歳2ヵ月、起き上がり1歳6ヵ月であった。その後、2歳7ヶ月に座位でのPush Up、2歳10ヶ月にはベンチ移乗が可能となったが、四つ這いや歩行には至っていない。移動においては2歳4ヵ月時に車いすを作製し、3歳2ヶ月時には「お家でお手伝いがしたい」という本児からの希望を叶えるためローカートを作製した。また、座位にて肩より高いものをとることができるようになり、母指外転も可能となり、上肢の操作性も向上した。関節可動域においては肩関節屈曲が左右とも180°、肘関節伸展も左右とも0°と改善がみられた。しかし、下肢においては上肢に比べ変化は見られていない。PEDIは2歳、2歳6ヶ月、3歳4ヶ月時に聴取した。尺度化スコアが移動領域の機能的スキルでは32→42.4→49.7に、介助者による援助では31.9→40.9→47.2に、セルフケア領域でも機能的スキルでは37.8→45.2→54.9に、介助者による援助では20.1→44.4→53.4に変化した。知能検査は2歳時に実施しIQ83であった。足部変形に対しては2歳7ヶ月時に手術を行っている。【考察】本症例は主治医より「関節が硬いだけで、関節が動けば歩ける」と伝えられていたが、実際には関節拘縮と筋力低下が主症状であった。上肢では腋窩・橈骨神経領域に、下肢では坐骨神経領域の筋力低下が目立ち、神経原性拘縮と思われた。上肢においては筋力の回復に伴う関節可動域の改善が見られたが、下肢を含めると筋力など著しい身体機能の改善は得られていない。しかし、知的に高く代償動作の獲得や移動器具の活用が可能であり、PEDIの結果からも日常生活能力の向上が認められた。AMCを持つ児への理学療法においては、知的状況も含めて残存機能を評価し把握することで、運動発達や日常生活能力の獲得を予測し、アプローチを行うことが重要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本報告は、報告例の少ないAMCについて理解や治療方針を考える上での一助となりうる。
著者
板谷 麻美 岩本 久生 小林 亜紀子 金澤 浩 白川 泰山 浦辺 幸夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.524, 2003

【目的】足関節腫脹の評価は、健側と比較して行われることが多いが、そこに本来左右差があれば比較の対象にならないのではないかと考えた。 そこで今回、健常者の足部・足関節に左右差があるかを明らかにすること、ならびに、腫脹の評価法の客観性を確認することを目的とし、基本的な測定を行った。【方法】対象は、足部・足関節に腫脹を残す疾病及び外傷の既往や現症のない者18名(男性3名、女性15名)36足。年齢(平均±SD)は、25.2±6.8歳、身長は158.1±8.0cm、体重は50.0±5.5kgだった。 (1)水槽排水法(Petersenら、1999)は、排水口まで温水を入れた特製の水槽に足を入れる。この時水槽から溢れ出た水量をメスシリンダーで測定する。 (2)Figure of Eight法(Estersonら、1979)は、代表的なメジャー測定法として用いられている。まず、メジャーをTA腱と外果の中間から内側方向へ伸ばし、舟状骨結節遠位を通り、アーチを横切って第5中足骨骨底の近位を廻り、TA腱に戻る。次に、内果の遠位端からアキレス腱を通り、外果の遠位端を廻り、再びTA腱へ戻し、以上の距離を測定する。 独自の方法として、メジャーを使い(3)内果及び外果の遠位端、(4)舟状骨結節と第5中足骨骨底、(5)第1中足骨骨頭と第5中足骨骨頭を通る値を測定する。 それぞれの測定値の左右差を算出し、差の検定には対応のあるt検定を用いた。また、(1)の測定値と(2)-(5)の測定値の相関係数を算出した。危険率は5%未満を有意とした。【結果】左右差(左-右)は(1)9.54±14.33mL(p=0.01)、(2)0.26±0.54cm(p=0.06)、(3)0.06±0.46cm(p=0.61)、(4)0.03±0.23cm(p=0.64)、(5)0.01±0.37cm(p=0.95)であり、いずれも左が大きかった。 (1)と(2)-(5)の相関係数(r)は、(1)vs(2) 右:0.95、左:0.96、(1)vs(3) 0.91、0.96、(1)vs(4) 0.91、0.92、(1)vs(5) 0.89、0.87で、いずれも高い相関を認めた(p<0.05)。【考察】今回、足関節腫脹の評価法の客観性を確認するため、健常者の足部・足関節に左右差があるかを調査した。 その結果、左足の容積及び周径が大きいことが明らかになった。容積の左右差9.54mLは、対象の足部・足関節の平均容量850mLの約1.1%にあたる。右足の容積にこれを加えたものが、左足の容積になるという臨床的な目安が示された。左足の値が大きい理由は、平沢(1980)が足底面積が左側で大きいことを示していることと関係すると考えるのが妥当であろう。 水槽排水法は足関節腫脹の評価において高い妥当性が示されたが、臨床的にはメジャー測定法が簡便である。今回行ったメジャー測定法は全て水槽排水法と高い相関があり、特にFigure of Eight法は足部・足関節全体を評価できることから、客観性のある方法と考えられた。
著者
高杉 潤 松澤 大輔 須藤 千尋 沼田 憲治 清水 栄司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】じゃんけんは,幼少期から慣れ親しんだ手遊びの一つである。通常,勝つことを目的とし,後出しは反則のため,意図的に「後出しで負ける」ことは,「後出しで勝つ」よりも難しい。「後出し負けじゃんけん」は,反射的な行動を抑制する高度な認知機能を要する課題とされ,臨床では前頭葉機能の検査として利用されており,その神経生理学的根拠として,課題遂行中に前頭前野の活性化が機能的MRIや機能的近赤外線分光法(fNIRS)で確認されている。しかしこれら先行研究は,単回の介入結果であり,複数回の連続介入による経時的変化については,パフォーマンスレベル,神経生理学的レベルともに調べた研究はなく,明らかとなっていない。そこで本研究は,後出し負けじゃんけんを複数回連続実施した際の経時的な成績の変化および前頭前野の活動の変化を明らかにすることを目的とする。【方法】<u>実験1</u><u> パフォーマンス実験</u>対象は健常成人10名(男女各5名。平均年齢21.3歳±0.7歳。全例右手利き)。被験者は椅子座位で,正面のパソコン画面から3秒間ずつランダムに提示されるじゃんけんの手の写真15枚に対し,後出しで「負け」か「勝ち」の各課題を4セッションずつ行った。1セッション1分間,セッション間のレスト時間は90秒とした。画像提示は視覚刺激提示ソフト(アクセスビジョン社製Sp-Stim2)を用い,被験者がキーボードで回答するまでの1試行毎の反応時間や正誤も自動的にパソコンに記録された。被験者毎に各セッションの平均反応時間を算出した。各セッション1試行目と誤答した際のデータは解析から除外した。<u>実験2</u><u> 脳活動計測(fNIRS)</u><u>実験</u>対象は健常成人6名(平均年齢21.2±1.0歳,女5名,男1名)とし,実験1のパフォーマンス実験と同様の課題施行中の前頭前野の活動をNIRS(Spectratech社製OEG-16)にて計測した。NIRSは課題開始から終了まで刺激提示ソフトと同期させ,事象関連型デザインで活動を計測した。ただし各セッション前のレスト時間は30秒間とした。記録された各セッションの酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)の濃度変化の平均値を算出し,各セッションの開始後および終了前の各10秒間のデータは解析から除外した。<u>解析方法</u>パフォーマンス実験では勝ち課題と負け課題の1回目から4回目までの各セッションの平均反応時間について反複測定分散分析を用いた。NIRS実験では左右半球の前頭極に位置する各4チャンネル全体のOxy-Hbの平均濃度について反復測定分散分析を用いた。有意水準は5%とした。【結果】実験1の平均反応時間±SD(ms)は,負け課題では,1回目980.3±132.2,2回目930.9±115.6,3回目891.1±160.2,4回目852.5±113.3と徐々に短縮が見られた。勝ち課題は1回目801.0±86.3,2回目794.3±82.0,3回目796.1±91.5,4回目769.5±74.9と大きな変動は無く,課題条件とセッションとの間に交互作用が見られた(p=0.022)。実験2のOxy-Hbの平均濃度±SD(mmol/l)は,右半球(チャンネル4~7)は,負け課題では,1回目0.202±0.17,2回目0.078±0.16,3回目-0.02±0.11,4回目-0.02±0.09と減少傾向を示したが,勝ち課題では,1回目0.02±0.16,2回目-0.04±0.08,3回目-0.0006±0.1,4回目0.04±0.2であった。左半球(チャンネル10~13)の負け課題では1回目0.21±0.22,2回目0.08±0.17,3回目0.005±0.08,4回目0.0003±0.11と,右半球と同様に減少傾向を示した。勝ち課題では,1回目0.05±0.13,2回目-0.04±0.06,3回目-0.05±0.08,4回目0.06±0.11であった。左右半球ともに,課題条件と回数との間に交互作用を認めた(p<0.001)。【考察】「負け課題」が「勝ち課題」に比べ反応時間が遅くなることは先行研究と合致する結果となった。しかし,複数回の試行によって徐々に短縮し,最終的に勝ち課題に近い時間まで短縮した点や,本課題と類似するstroop testでは学習効果を示唆する報告もあることから,本課題も学習効果の影響を受ける可能性が推察された。さらに負け課題の反復によって,左右半球ともに前頭前野の活動も有意に低下が見られたことは,学習効果の影響と推察される。【理学療法学研究としての意義】後出し負けじゃんけん課題は,学習効果があるため,臨床で複数回実施する際は十分考慮することが必要である。
著者
小山 泰宏 葛山 元基 岡崎 久美 高村 隆 岡田 亨
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O3055, 2010

【目的】<BR>臨床において,上腕三頭筋のMMT( Danielsら)での筋力は問題ないにも関わらず,肩関節挙上動作で肘関節伸展が困難な例を少なからず経験する.また上腕三頭筋内側頭,外側頭は,いわゆる単関節筋であり二関節筋ではないにも関わらず,肩関節挙上角度の違いで筋出力が異なることもしばしば経験する.そこで我々は,以下の2つの仮説をたてた.1)上腕三頭筋内側頭,外側頭は肩関節挙上位では筋出力に乏しい.2)上腕三頭筋内側頭は,特に肩関節内転方向かつ伸展方向に筋出力が高くなる.本研究の目的は,上記2つの仮説を検証するため,肩関節肢位の違いにおける上腕三頭筋内側頭,外側頭の筋活動を筋電図学的に検討することである.<BR>【方法】<BR>対象は,健常人男性21名(平均年齢26.29±3.1歳,平均身長171.63±4.9cm,平均体重66.27±8.1kg)の両側上肢42肢である.方法は,肩関節挙上角度が異なる6肢位で,前腕が常に重力に抗した肘関節伸展運動を伸展-20度まで行い,等尺性収縮による表面筋電図を3回測定した.また負荷は1kg重錘とした.測定6肢位は,すべて前腕回外位で前額面挙上4肢位(最大屈曲位,90度屈曲位,0度位,伸展20°位),矢状面挙上2肢位(最大外転位,90度外転位)とした.測定筋は,上腕三頭筋内側頭,外側頭,三角筋後部線維,棘下筋の4筋とした.測定機器は,Noraxon社製表面筋電図(Myosystem1400)を使用し十分な皮膚処理後に電極を貼付した.解析区間は,等尺性収縮5秒間の内,2~4秒の3秒間とした.また各筋の平均活動を算出し,3回測定の平均値を求め,DanielsらのMMT3遂行時の平均筋活動で除して標準化(%RVC)を行った.統計学的処理は,SPSS ver12.0を使用しFriedman検定を用い,その後の検定としてWilcoxonの符号付順位検定にて多重比較を行った.得られたP値についてはExcel上でBonferroniの不等式による修正を行い有意水準5%とした.<BR>【説明と同意】<BR>本研究は,船橋整形外科病院倫理委員会の承認の後に行われた.被験者に対しては,本研究における測定内容,又,皮膚処理時のリスクについての十分な説明を行い,同意を得られた対象のみ測定を施行した.<BR>【結果】<BR>肩関節肢位の違いと各筋の%RVC<BR>1)上腕三頭筋内側頭:平均値は最大屈曲位7515±38.5<最大外転位89.85±48.4<90度屈曲位101.0±52.5<90度外転位128.8±44.2<0度位211.1±134.5<伸展20度位212.55±135.6の順に高値を示した(P=0.000).多重比較の結果は,90度屈曲位‐最大外転位,0度位‐伸展20度位の間には有意差は認めなかったが,その他においてはすべて有意差を認めた.(P<0.05)<BR>2)上腕三頭筋外側頭:平均値は90度屈曲位78.0±31.7<最大屈曲位97.8±47.7<90度外転位107.46±39.4<最大外転位144.26±75.4<0度位149.54±81.6<伸展20度位184.45±81.6の順に高値を示した(P=0.000).多重比較の結果は,最大屈曲位‐90度外転位,0度位‐最大外転位の間には有意差は認めなかったが,その他においてはすべて有意差を認めた.(P<0.005)<BR>3)棘下筋:平均値は90度屈曲位82.27±37.0<90度外転位29.44±21.0<0度位36.62±26.3<伸展20度位40.18±32.1<最大外転位45.53±16.5<最大屈曲位82.27±37.0の順に高値を示した(P=0.000).多重比較の結果は,最大屈曲位‐その他の肢位の間,また最大外転位-90度屈曲位,90度外転位の間に有意差を認めた.(P<0.05)<BR>【考察】<BR>今回の結果から,上腕三頭筋訓練として行われている肩関節挙上位での肘関節伸展訓練は,上腕三頭筋内側頭,外側頭の筋出力に乏しく,棘下筋を主とした肩関節外旋筋の筋出力が高くなることが示唆された.また上腕三頭筋内側頭については,肩関節内転かつ伸展方向に筋出力が高値を示すことが示唆された.肩関節挙上位の動作で上腕三頭筋内側頭の機能改善を促す場合には,上腕三頭筋内側頭の筋機能を十分に理解した上で反復した運動学習を行うことが重要となると考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>関節可動域改善や筋力改善を促す際,筋連結に伴う効果は未だ不明なことが多い.健常人における肩関節肢位の違いによる上腕三頭筋内側頭、外側頭の筋活動を理解することは,肘関節エクササイズを施行する上で,単関節筋における筋機能を効率的に改善できると考える.
著者
隈元 庸夫 伊藤 俊一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0243, 2004

【はじめに】<BR> 大腿四頭筋の中で内側広筋は特に萎縮しやすく,筋力増強運動に対する反応も遅く,回復しにくい筋といわれている.このため,内側広筋の選択的なトレーニング法確立のため様々な検討がなされており,大内転筋活動を伴った股関節内転運動を行うことが重要とされている.下肢疾患者や臥床者に対する大腿四頭筋の簡便なトレーニング法として,patella setting(PS)は臨床で広く行われている. PSについては多くの報告があり,股関節回旋位に関する検討も散見されるが,いずれも股関節屈曲位や長座位での報告であり,一般に臨床で行われることが多い背臥位でのPS施行における,股関節回旋位の違いによる内側広筋の筋活動を検討した報告はない.<BR> 本報告の目的は,背臥位PS時の股関節回旋位の違いが内側広筋の筋活動に及ぼす影響を筋電図学的に検討し,内側広筋のより効果的トレーニング法確立のための一助を得ることである.<BR>【対象と方法】<BR> 対象は,下肢に整形外科的疾患の既往のない健常者20名とした.測定肢位は背臥位とし,PSは測定下肢のみ施行させた.PSの施行は,股関節内外旋中間位,内旋位,外旋位の3肢位とした.筋電測定には,アニマ社製ホルター筋電計MM-1100を用いた.導出筋は,内側広筋(VM),外側広筋(VL),大腿直筋,大内転筋(AM)とした.各筋の筋活動量は,股関節内外旋中間位でのPS施行時の平均積分筋電値を100%とし,外旋位と内旋位での値を各々正規化し%平均積分筋電値を算出し,これを筋活動量とした.検討項目は,(1)各導出筋の筋活動量,(2)VMとVLの筋活動量の比率値(VM/VL),(3)VMとAMの筋活動量の相関,(4)AMの筋活動量変化によるVMの筋活動量変化に関して,各々外旋位と内旋位について比較検討した.統計学的処理は(1)(2)はWilcoxon t-test,(3)はSpearmanの相関係数,(4)Kruskal-Wallis H-test 後post hoc testとして,Mann-Whitney U-test with Bonferroni correctionにて検定し,有意水準を5%未満とした.<BR>【結果と考察】<BR> 内旋位と比較し,外旋位においてVMの筋活動量の有意な増加を認めた.VM/VLに関しては,股関節内旋位・外旋位の違いによる有意差は認められなかった.VMとAMの筋活動量の相関については,外旋位では正の相関を認めたのに対し,内旋位では相関を認めなかった.AMの筋活動量変化によるVMの筋活動量変化は,外旋位でAMの筋活動量が増加した群が最も,VMの筋活動量が増加した.<BR> Cernyは長座位におけるPSの筋活動を検討し,筋活動もVM/VLも股関節回旋位による有意な差はなかったとしている.しかし,今回の結果から背臥位でのPS時には股関節外旋位で内転筋の収縮を意識することが,VMの筋活動に対してより有効となると考えられた.
著者
田辺 康二 洲崎 俊男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.398, 2003

【はじめに】呼吸筋トレーニングにおいて対象となる筋は主に横隔膜であるが、これを除けば呼気筋群あるいは吸気筋群に対してアプローチすることが多く、単独の呼吸補助筋に対して行っている報告はほとんどみられない。<BR> 今回、強い運動強度において呼気に活動するという広背筋(以下LD)に着目し、健常人を対象としてLDの筋力・筋持久力の増加が換気に与える影響について検討し、若干の知見を得たので報告する。<BR>【対象と方法】計画を説明し同意を得た健常男性20名を対象とした。トレーニングはLDに対してラバーバンドを用い、初回時に測定した30%MVCの負荷で疲労困憊に至る回数を各自行わせ、8週間の筋持久力トレーニングとして行った。トレーニングの前後にはLDの筋力・筋持久力の評価および肺機能検査を実施した。また、LDと同様の呼気筋として働く腹直筋(以下RA)についても筋力・筋持久力の評価を行った。<BR> 筋力・筋持久力の評価にはトルクマシーンを用いた。LDは腹臥位で肩関節中間位から伸展方向に最大等尺性収縮を行わせ、ピークトルクとその値の50%まで減衰する時間を測定した。RAには体幹屈伸筋力測定機を用い体幹直立位から屈曲方向に最大等尺性収縮を行わせ、ピークトルクとその値の70%まで減衰する時間を測定した。呼吸機能検査はスパイロメータを用い%肺活量、1秒率、%MVVを測定した。統計学的処理はトレーニング前後の同項目についてt検定を用い、有意水準は1%とした。<BR>【結果】トレーンニング実施頻度は平均4.0回/週(遂行率57.3%)であった。LDのピークトルクはトレーニング前0.54、後0.63Nm/kg、筋持久力はそれぞれ14.8、28.1秒であり、各項目に有意な差を認めた。RAはLDのトレーニング前後でピークトルクや筋持久力に有意な差を認めなかった。肺機能検査では%肺活量、1秒率はそれぞれトレーニング前107.6、92.9%、後111.1、91.9%であり、各項目に有意な差は認めなかった。また、%MVVはトレーニング前119.7、後132.2%であり、有意な差を認めた。<BR>【考察】トレーニング後にLDの筋力に増加(17%増)がみられたが、呼気筋の瞬発性の要素を含んでいる1秒率を変化させるまでに至らなかったと思われる。<BR> またMVVが増加した理由として、呼気時にRAとともに筋力と筋持久力が増加(90%増)したLDとの同時収縮による活動が影響したと考えられる。これにより筋疲労による経時的な腹腔内圧の減少が抑えられ、横隔膜の挙上や肋骨の引き下げを補助し、呼気量を増すよう作用したと推察される。したがってLDの筋持久力の増加は、努力性の最大換気時に呼気補助筋として有効に作用していると思われる。<BR> 呼吸器疾患の症例を対象として考えた場合、呼吸不全の原因として胸郭のポンプ機能不全があげられるが、LD単独の筋持久力の増加は低換気を改善させる可能性が示唆される。<BR>
著者
小林 裕和 池田 勘一 藤川 大輔 安倍 浩之 石元 泰子 冨岡 貞治 柴田 知香 大藤 美佳 中島 あつこ 寺本 裕之 田川 維之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.481, 2003

【はじめに】野球における打撃動作は全身の各関節が連動しながら遂行される。打撃動作のスキルに関与する身体機能のパラメーターを分析することが、打撃動作のスキル向上につながるのではないかと考える。そこで今回我々は、2001年度より定期的に実施している高校野球チームに対するメディカルチェックの結果から、打撃動作解析と各筋力との関係を検討し若干の知見を得たので報告する。【対象】某高校野球部に所属していた高校生32名(右打者30名、左打者2名)を対象とした。【方法】野球部員に対し実施したメディカルチェックの中から_丸1_筋力測定値、_丸2_三次元動作解析器による打撃動作解析結果を用い、分析した。 筋力測定はBIODEX system3(酒井医療株式会社製)を用い、肩関節外・内旋、股関節屈曲・伸展・外・内転、膝関節屈曲・伸展をそれぞれ左右測定した。また体幹屈曲・伸展についても測定した。更にスメドレー式握力計を用いて、握力測定を行った。 動作解析には、三次元動作解析system(ヘンリージャパン株式会社製)を用いて、打撃動作を分析し、バットのヘッドスピード(m/sec)、最大体幹回旋角度(°)、最大体幹回旋角速度(°/sec)を算出した。 統計処理は_丸1__から__丸2_の各パラメーターとバットのヘッドスピード、最大体幹回旋角度、最大体幹回旋角速度における相関分析を行った。【結果】 バットのヘッドスピードと各パラメーターの関係では、右股関節屈曲、外転、内転筋力、左股関節外転筋力、右肩内旋筋力、左肩外旋筋力、右握力、左握力等の間にR=0.513、0.224、0.243、0.221、0.208、0.209、0.409、0.275の有意な相関関係が認められた。【考察】 打撃動作は全身の各関節が連動しながら遂行される。特に、下肢からの回旋エネルギーの伝達が重要であると考える。小野等によると、上体が右後方へ傾斜した際には右股関節屈筋の作用によりバランスを保持すると述べている。右打者の場合、打撃動作初期の右股関節外転、伸展、外旋及び骨盤帯の左回旋により、相対的に上体が右後方へ傾斜する。その状態から回旋エネルギーを上体へ伝えるためのKey muscleとして、右股関節屈筋の作用が重要ではないかと考える。以上の如く、相関の見られた股関節周囲筋はこの回旋エネルギーの伝達に強力に関与しているのではないかと考える。 本学会において更に、データ解析、考察を加え詳細について報告する。
著者
五十嵐 絵美 浜田 純一郎 秋田 恵一 魚水 麻里
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0007, 2007

【目的】前鋸筋を支配する長胸神経が麻痺し、翼状肩甲骨が生じる事がよく知られている。またこの筋に機能不全が生じると、肩甲骨周囲の痛みや違和感、挙上困難を訴える患者がいる。この研究の目的は、長胸神経を構成する頸椎神経根と長胸神経の走行、前鋸筋の上部・中部・下部筋束の神経支配と形態を調査し、長胸神経麻痺のメカニズムと前鋸筋の機能解剖を明らかにすることである。<BR><BR>【対象と方法】解剖学実習用屍体5体10肩(男性3体、女性2体、平均年齢82.4歳)を対象とした。前鋸筋の上部筋束は、第1, 2肋骨から起始し肩甲骨上角(以下上角)に停止する部位、中部筋束は2, 3肋骨から起始し肩甲骨内側縁に停止する部位、下部筋束は第4肋骨以下に起始し肩甲骨下角(以下下角)に停止する部位とした.長胸神経の走行を頸椎神経根レベルから追跡し、中斜角筋貫通の有無とその末梢の神経走行、各筋束の頸椎神経根支配を調査した。さらに各筋束の機能的役割を構造と走行方向から評価した。<BR><BR>【結果】長胸神経は,第5頸椎神経根(以下C5), C6, 7で構成される例が8肩、C4, 5, 6, 7が2肩であった。C5は6肩で中斜角筋を貫通していた。C7が中斜角筋を貫通する例はなかった。上部筋束の複数神経支配は10肩中8肩であり、C5単独支配は2肩のみであった。中・下部筋束はC6, 7神経根支配が8肩であった。上部筋束は前方へ、中部筋束は前側方へ、下部筋束は下部になるに従い前下方に走行していた。肩甲骨を除くと、前鋸筋は菱形筋、肩甲挙筋と一体になっていた。<BR><BR>【考察】C5が中斜角筋を貫通する頻度は60%で、同部が神経障害部位になりやすい。この結果から、急性外傷やスポーツにより中斜角筋貫通部で神経麻痺になり、翼状肩甲骨が生じる可能性が示唆された。上部筋束はC5を中心に複数神経支配が多く、前鋸筋の機能上中心的役割を担っている。各筋束の形態と走行から、上部筋束は肩甲骨の回旋中心を形成し、中部筋束は肩甲骨を外転させ、下部筋束は下角を上方回旋、外転させる機能を有している。非外傷性や軽微な外傷で神経麻痺を伴わない前鋸筋機能不全に陥る症例がある。これらの症例では肩甲骨が下垂・外転している場合が多い。この病態は菱形筋、肩甲挙筋が伸張され、一方前鋸筋は短縮し機能できない状態に陥り、僧帽筋で肩甲骨上方回旋を代償していると推測された。<BR><BR>【まとめ】前鋸筋は主にC5, 6, 7で支配されるが例外的にC4も関与する。C5神経根は60%で中斜角筋を貫通していた。複数神経支配下にある上部筋束は前鋸筋の機能上中心的役割を担っている。上部筋束は肩甲骨の回旋中心を形成し、中部筋束は肩甲骨を外転させ、下部筋束は下角を上方回旋、外転させる機能を有している。
著者
大屋 隆章 財前 知典 小関 博久 田中 亮 多米 一矢 樋口 亜紀 星 唯奈 三浦 俊英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P3400, 2009

【目的】臨床場面において、肩甲骨下制位により肩関節に疼痛を訴える患者を体幹からアプローチすることで、良好な結果が得られることを多く経験する.これらの経験から、今回は腹斜筋群を促通し、肩甲骨脊椎間距離(以下、SSD)に着目し、肩甲骨の位置関係に変化がみられるか検証した.<BR><BR>【方法】対象は、本研究の趣旨を理解し同意が得られた肩関節に疾患を有さない健常男性12名とした.対象の平均年齢は23.5±2.8歳であった.測定は安静坐位での肩甲骨位置と外腹斜筋促通後の位置変化をみた.SSDは坐位にて、肩甲骨脊椎-肩甲骨上角及び下角を結ぶ線をメジャーにて測定した.腹斜筋群の促通方法は背臥位にて、臀部にred cord社製エアスタビライザーを置き、下肢体幹を軽度回旋させ促通し、腹斜筋群の求心性収縮を目的とした.促通の際、上部体幹・肩甲骨の動きが出ないこと、また体幹側面の第5・6肋骨周囲で腹斜筋群の収縮を確認しながら促通を行った.<BR><BR>【結果】上角におけるSSD差は、腹斜筋群促通前と促通後において12名中7名が内方へ位置移動がみられたが0.20±0.63cm、2群間での有意差は認められなかった(p>0.05).下角におけるSSD差は、促通前に比べ促通後では12名中全被検者において内方への位置移動がみられ0.58±0.38cm、2群間に有意差が認められた(p<0.05).<BR><BR>【考察】本研究の結果から体幹筋である腹斜筋群の収縮によって、肩甲骨下角の内方移動がみられた.外腹斜筋と前鋸筋は解剖学上第5肋骨から第8肋骨までで強固に筋連結しているため、前鋸筋による肩甲骨を胸郭へ引きつけ作用が起こったと考える.しかし今回促通されたと考える第4肋骨から第9肋骨に起始する前鋸筋線維は肩甲骨下角に集中して停止しており、作用としては肩甲骨上方回旋である.肩甲骨が内転、下方回旋するには前鋸筋でも上位にある第1・2肋骨に付着する線維の作用が必要である.肩甲骨内転、下方回旋は前鋸筋作用ではなく、他の筋連結作用により起こったものと考えられ、前鋸筋は菱形筋とも筋連結しているため菱形筋作用により今回の結果である肩甲骨内転、下方回旋が起こったものと考える.体幹、肩甲骨周囲では多数の筋連結作用があり、今後は筋電図などで筋を区別し、関与する筋の検証をする必要がある.
著者
湯口 聡 丸山 仁司 樋渡 正夫 森沢 知之 福田 真人 指方 梢 増田 幸泰 鈴木 あかね 合田 尚弘 佐々木 秀明 金子 純一朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D0672, 2005

【目的】<BR> 開胸・開腹術後患者に対して呼吸合併症予防・早期離床を目的に、呼吸理学療法・運動療法が行われている。その中で、ベッド上で簡易に実施可能なシルベスター法を当院では用いている。シルベスター法は両手を組み、肩関節屈伸運動と深呼吸を行う方法で、上肢挙上で吸気、下降で呼気をすることで大きな換気量が得られるとされている。しかし、シルベスター法の換気量を定量的に報告したものはない。よって、本研究はシルベスター法の換気量を測定し、安静呼吸、深呼吸と比較・検討することである。<BR>【方法】<BR> 対象は呼吸器疾患の既往のない成人男性21名で、平均身長、体重、年齢はそれぞれ171.0±5.2cm、65.3±5.6kg、24.9±4.0歳である。被験者は、安静呼吸・シルベスター法・安静呼吸・深呼吸・安静呼吸または、安静呼吸・深呼吸・安静呼吸・シルベスター法・安静呼吸のどちらか一方をランダムに選択した(各呼吸時間3分、計15分)。測定姿位は全てベッド上背臥位とし、呼気ガス分析装置(COSMED社製K4b2)を用いて、安静呼吸・シルベスター法・深呼吸中の呼吸数、1回換気量を測定した。測定条件は、シルベスター法では両上肢挙上は被験者が限界を感じるところまでとし、どの呼吸においても呼吸数・呼吸様式(口・鼻呼吸)は被験者に任せた。統計的分析法は一元配置分散分析および多重比較検定(Tukey法)を用い、安静呼吸、シルベスター法、深呼吸の3分間の呼吸数、1回換気量の平均値を比較した。<BR>【結果】<BR> 呼吸数の平均は、安静呼吸13.02±3.08回、シルベスター法5.26±1.37回、深呼吸6.18±1.62回であった。1回換気量の平均は安静呼吸0.66±0.21L、シルベスター法3.07±0.83L、深呼吸2.28±0.8Lであった。呼吸数は、分散分析で主効果を認め(p<0.01)、多重比較検定にて安静呼吸・シルベスター法と安静呼吸・深呼吸との間に有意差(p<0.01)を認めたが、シルベスター法・深呼吸との間に有意差は認めなかった。1回換気量は、分散分析で主効果を認め(p<0.01)、多重比較検定にて安静呼吸・シルベスター法・深呼吸のいずれにも有意差を認めた(p<0.01)。<BR>【考察】<BR> シルベスター法は深呼吸に比べ1回換気量が高値を示した。これは、上肢挙上に伴う体幹伸展・胸郭拡張がシルベスター法の方が深呼吸より大きくなり、1回換気量が増加したものと考えられる。開胸・開腹術後患者は、術創部の疼痛により呼吸に伴う胸郭拡張が制限されやすい。それにより、呼吸補助筋を利用して呼吸数を増加させ、非効率的な呼吸に陥りやすい。今回、健常者を対象に測定した結果、シルベスター法は胸郭拡張性を促し、1回換気量の増加が図れたことから、開胸・開腹術後患者に対して有効である可能性が示唆された。
著者
木戸 聡史 田中 敏明 中島 康博 宮坂 智哉 鈴木 陽介 須永 康代 丸岡 弘 髙柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DcOF1084, 2011

【目的】<BR> 呼吸筋に負荷をかけるトレーニング方法はスポーツやリハビリテーションの場面で多く実施されている。しかし呼吸筋のトレーニングが運動耐容能を改善する効果について一致した見解はない。このため, 本研究では運動耐容能の改善を目的として, 持久力運動に呼吸負荷を組み合わせた新たなトレーニング方法を開発し, その効果を運動生理学的に検証した。<BR>【方法】<BR> 本研究のトレーニングで, 呼吸負荷にはReBNA(パテントワークス社製)を使用した。ReBNAはマスク形状で鼻は吸気のみ, 口は呼気のみ可能にバルブが配置され, バルブを通して換気することで呼吸抵抗が生じる。トレーニングは1クール2週間とし, 3クールで合計6週間の期間で, 各クールで各被験者に目標心拍数を設定した(1クール:75%心拍予備(HRR), 2クール:80%HRR, 3クール:85%HRR)。対象者はマスクを装着した状態で目標心拍数を維持する負荷量で30分間の自転車エルゴメータ運動を1週間に3回実施し, これをMASK群とした。CONT群はReBNAを装着しない状態でMASK群と同様のトレーニングを実施した。すべての実験に参加した対象者9名はCONT群4名(男/女:1/3, 21.0±2.1歳)とMASK群5名(男/女:2/3, 20.0±1.1歳)であり, トレーニング毎に終了直前の負荷量を記録した。3クールでは呼吸困難と下肢の疲労感をアンケートで調査した。対象者は6週間のトレーニング期間の前(BL)とトレーニング終了後(6W)で身体測定と運動負荷試験を実施した。自転車エルゴメータ(COMBI社製232C xL)を用いた運動負荷試験は、酸素摂取量の増加がみられなくなるか, 疲労困憊で運動継続が不可能に達するまでランプ負荷を加えた。また, ACSMのガイドラインに従い中止基準を設けた。呼吸代謝諸量の測定には日本光電製のVmaxを用いた。各群内のBLと6Wの比較はPaired t-test, BLおよび6Wの群間比較はStudent t-testを使用した。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者に対して, ヘルシンキ宣言に基づき研究の趣旨と内容について口頭および書面で説明し同意を得た後に研究を開始した。なお本実験は, 所属施設の倫理委員会の承認を受けて行った。<BR>【結果】<BR> トレーニングの実施率は100%だった。1-3クールでの負荷量平均値はCONT群120.9±3.1 watt, MASK群117.7±3.6 wattだった。3クールでの疲労感アンケートで, CONT群では, 足が呼吸に比べて疲労感が高い被験者が3名, 呼吸と足の疲労度が同程度の被験者が1名だった。MASK群では, 足が呼吸に比べて疲労感が高い被験者が3名,呼吸が足に比べて疲労度が高い被験者が2名だった。運動負荷試験の最高負荷量(watt<SUB>peak</SUB>)はMASK群ではBLで199.0±31.7 watt, 6Wで221.8±30.8 wattであり, BLと比較して6Wで有意に高値を示した(p<.05)。V(dot)O<SUB>2peak</SUB>はCONT群ではBLで33.4±2.0 ml/min/kg, 6Wで37.3±2.6 ml/min/kgであり, BLと比較して6Wで有意に高値を示した(p<.05)。MASK群ではBLで35.6±3.0 ml/min/kg, 6Wで42.2±3.1 ml/min/kgであり, BLと比較して6Wで有意に高値を示した(p<.05)。換気性作業閾値(VT)はMASK群ではBLで20.1±1.5 ml/min/kg, 6Wで27.3±1.2 ml/min/kgであり, BLと比較して6Wで有意に高値を示した(p<.01)。6WではCONT群で20.6±1.6 ml/min/kg, MASK群で27.3±1.2 ml/min/kgであり, CONT群と比較してMASK群で有意に高値を示した(p<.05)。<BR>【考察】<BR> watt<SUB>peak</SUB> とVTはMASK群のみ6Wで有意に増大した。Tanakaらの報告(1986)にあるようにVTと心肺持久力の相関は高く, 本結果はマスク使用により最大パフォーマンスだけでなく心肺持久力の向上に効果が大きい事を示した。今回は両群で同一HRRでのトレーニングであるので, 各対象者の負荷量の相対値は同程度である。そのため, マスク装着によって骨格筋への負荷配分が変化した事が, 呼吸筋を含む骨格筋の動員に影響を及ぼし, 心肺持久力の向上に寄与したと考えられる。また, 疲労感アンケートの結果では呼吸が足に比べて疲れたと回答した対象者は, CONT群では0名だったが, MASK群では2名となった。この結果はマスク装着による負荷配分の変化を支持し, MASK群では下肢筋から呼吸筋へ活動量がシフトしたことを示唆した。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回実施したトレーニング方法は, 今後健常者だけでなく, 低体力者や呼吸器疾患患者の運動療法に応用できる可能性がある。本研究結果は, 運動生理学的に新たな知見であることに加えて, 運動療法を発展させるための重要な基礎データである。
著者
長谷部 清貴 石井 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0704, 2012

【はじめに、目的】 膝関節は屈曲位から伸展する際に、スクリューホームムーブメント(以下SHM)と呼ばれる外旋運動が受動的に起こる。荷重位におけるSHMでは、大腿骨と脛骨の相対運動の差分として回旋角度が決定されるため、SHMの評価は大腿骨と脛骨の回旋運動のどちらに大きく影響を受けているのか明確にする必要性がある。しかし、SHMに関する研究は非荷重位のものが多く、荷重位におけるSHMに関する報告は少ない。本研究の目的は、スクワット動作中の大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度を調査し、荷重位でのSHMの特性を明らかにすることである。【方法】 対象は、下肢に整形外科的、神経学的疾患のない健常成人15名(男性:10名、女性:5名)、平均年齢22.5±3.3歳とした。計測課題は、両下肢の間隔を肩幅とした立位姿勢から膝関節を約90°屈曲し、再び立位まで戻るスクワット運動とした。課題動作の計測には、三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)を使用した。赤外線反射標点の貼付位置は、体表面上の所定の位置に計21個の標点を設置し、課題動作中のマーカーの位置を計測した。計測によって得られた標点の三次元座標データを用いて、課題動作中の膝関節屈曲伸展角度、大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、および大腿骨・脛骨回旋角度から膝関節回旋角度を算出した。課題動作は5回測定し、その平均値を算出した。なお、関節角度の算出には、歩行データ演出用ソフトVICON Body Builder(VICON-PEAK社製)を使用しオイラー角を算出した。データの解析区間は、各被験者の膝関節屈曲60°から最終伸展位とした。膝関節屈曲60°での全ての回旋角度を0°と規定し、外旋方向をプラス、内旋方向をマイナスとした。データの解析は、膝関節が伸展していく間に膝関節が外旋する外旋群と内旋する内旋群とに分類した。二群間の大腿骨回旋角度及び脛骨回旋角度の平均値の差の検定にはt検定を用いた。膝関節の回旋運動と大腿骨及び脛骨の回旋角度との関連性を調査するために、Pearsonの相関係数を用いた。なお、統計学的有意水準は危険率p<0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施された。また全被験者に研究の趣旨および内容について十分に説明を行い、研究参加の同意を得てから研究を実施した。また、個人情報は本研究以外で使用しない旨を説明し、情報管理に配慮した。【結果】 SHMに関して、膝関節伸展時に膝関節外旋が生じる外旋群は9名(男性6名、女性3名、平均回旋角度3.5°±1.4)、膝関節内旋が生じる内旋群は6名(男性4名、女性2名、平均回旋角度-2.9°±1.2)であった。SHM中の大腿骨回旋角度の平均値は内旋群が4.9°±1.2、外旋群が-1.2°±2.4である。内旋群では大腿骨が外旋し、外旋群では大腿骨が内旋していた。群間の大腿回旋角度の相違は、統計学的に有意であった(p<0.01)。一方で、SHM中の脛骨回旋角度は内旋群が2.0°±1.0、外旋群が2.3°±1.5と全例外旋を示し、群間に有意差を認めなかった。また、大腿骨回旋角度と膝関節回旋角度において有意な負の相関関係が認められた(r=-0.94 p<0.001)、つまり大腿骨が内旋する被験者ほど、膝関節が外旋する傾向が統計学的に有意であったが、脛骨回旋角度と膝関節回旋角度との相関関係に有意差は認めなかった。【考察】 本研究において、SHMは膝関節伸展に伴い、膝関節が外旋する外旋群、内旋する内旋群の2パターンに分かれた。膝関節伸展運動中の脛骨回旋角度は両群ともに外旋を示したが、大腿骨回旋角度では群間に有意差を認めた。さらに膝関節回旋角度と大腿骨回旋角度は有意に高い相関関係を示しており、荷重位でのSHMは脛骨より大腿骨の回旋運動に影響を受けることが明らかになった。膝関節の運動は、大腿骨上の脛骨の運動(tibial-on-femoral)と脛骨上の大腿骨の運動(femoral-on-tibial)の2種類があるとされ、スクワットのような荷重位の運動は脛骨上の大腿骨の運動である。このため、荷重位でのSHMは大腿骨の運動量が大きく、大腿骨回旋角度に左右される可能性がある。大腿骨回旋角度の差異に関しては、骨盤からの運動連鎖、上半身重心の影響が考えられる。骨盤後傾は大腿骨外旋、骨盤前傾は大腿骨内旋のように、骨盤角度は大腿骨回旋に運動連鎖を引き起こす。したがって、スクワット動作中の骨盤前後傾の差異や股関節周囲筋の活動の差異が、今回の大腿骨回旋角度に影響を与えている可能性が推察される。今後、骨盤の運動解析および筋電図計測を含めて分析を行う必要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より、臨床において荷重位でのスクリューホームムーブメントを誘導する際には、大腿骨の動きを誘導することの重要性が示唆された。