著者
濱田 輝一 二宮 省悟 吉村 修 楠元 正順
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【目的】我々は,H23年度から臨床実習指導体制の構築の検討を目的に質問紙調査を行い,当学会にて発表してきた。今回,指導の実態とその認識について,免許取得後5年を基準に,5年以上(以下,経験者)と未満(以下,未熟者)の2群で比較検討したので報告する。【方法】調査期間はH25年8月からの8か月間。42施設の理学療法士を対象として任意に回答要請し,質問紙調査を行った。回答方法は無記名で,選択肢質問と自由記載とした。次いで信頼性保持の為の社会的望ましさ尺度で不適切と判断されたものは除外し,有効回答を抽出し分析した。検討課題は,過去に報告の「指導で困る」の分析から,経験者は「学生の資質」,未熟者「自分自身の指導方法や自信」と相反する視点であることに着目し,1.指導で困った時の相談相手,2.学生の能力把握方法,3.指導時の参考,4.指導時の学生へ合わせるレベルの高さ設定の4項目とし,指導実態の全体像把握を目標とした。【結果】1.回収689名の内,有効回答者449名。2群の内訳は,経験者315名(男208,女107),未熟者134名(男82,女52)。臨床経験年数は経験者10.99±5.76年(平均±S.E.M)。未熟者3.08±0.79年。2.検討課題:得られた結果を経験者(未熟者)で各項目を見ると,1)困ったときの相談相手:2群に差がみられ(P<0.01)選択肢8項目中上位2項目(1,2位)と下位3項目(6~8項目)は同一内容で,残りの3位~5位の3項目で順位に差が出た。つまり,経験者では3位(5位)が養成校教員となった。これは熟練者ほど,学生の問題で困っているからこそ,まず施設内部の上司・先輩で解決を試み,次いで教員に相談する構図が読み取れた。逆に未熟者はどうしようもなくなって教員へ相談する行動と推測できる。また,学生指導で困った時の相談相手で分析すると,経験者は教員への相談が2位であるのに対し,未熟者は6位となる結果(P<0.01)もこれを裏付けた。2)学生の能力把握の方法:2群で差が見られた(P<0.01)。第1位は共に「口頭試問」で約25%。2位と3位は「レポート」,または「検査・治療時の学生の反応」で,2群の順位が逆転した。3)指導時の参考:2群で差がみられ(P<0.05),上位から「就職後の現場」48%(50%),「自分の学生時代」30%(49%),「研修会」18%(10%)。経験者がより研修会を参考とすることが分かった。4)指導時の学生へ合わせるレベルの高さ設定:レベルの高さは2群に差が見られなかった(P>0.05)。高い割合でみると,能力相応53%(52%),時々高いレベル31%(36%),少し低いレベル13%(11%)。一方,学生の能力に合わせた指導をしているか?の回答は,経験者が85%となり,未熟者より約15%と高く,差が見られた(P<0.01)。【考察】結果から,5年以上の経験がある臨床指導者と養成校教員で協議検討し,臨床経験が浅い指導者へのサポートが必要であることが示唆された。
著者
高田 彰人 杉浦 史郎 豊岡 毅 岡本 弦 西川 悟
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.F-124-F-124, 2019

<p>【はじめに,目的】</p><p> 不安定な面での体幹トレーニングは体幹筋の筋活動を上昇させるという報告は散見するが,実際に腰痛の予防効果を示した報告は少ない。そこで,不安定面を含むTrunk Instability Training(以下TIT)による腰痛予防効果を前向きに調査することを目的とした。</p><p>【方法】</p><p> 対象は腰痛既往のない高校男子バスケットボール選手40例とした。2017シーズンから腰痛予防を目的として毎回の練習後にTITを導入した。2017シーズンの22例(平均年齢15.9±0.8歳)はTIT介入群とし,2016シーズンの18例(平均年齢15.6±0.5歳)は対照群として,1シーズン7ヶ月間での腰痛発生状況を比較した。TITは①バランスディスク上での臀部バランス,②ストレッチポールEX(LPN 社製)上でのSit-up,③四肢伸展位でのサイドブリッジで構成した。統計処理にはカイ二乗検定を用いて,有意水準は5%とした。</p><p>【倫理的配慮】</p><p> 本研究は当院倫理委員会の承認を得て(承認番号:2430番),対象者に説明と同意を得た上で行った。</p><p>【結果】</p><p> 腰痛発生は対照群で5/18例,TIT介入群で0/22例となり,有意差を認めた(p<0.05)。</p><p>【考察】</p><p> TITは腰痛既往のない選手に対して,腰痛の発生予防を期待できる可能性が示唆された。今後は対象毎の負荷設定を含めたトレーニング内容の検討を行いたい。さらに,TITによって改善が得られる身体機能因子についても検証していきたい。</p>
著者
羽田 晋也 柳澤 博志 徳弘 宙士 増井 健二 桂 大輔 駒野 倫久 藤井 崇典 安井 一敏 坂口 史絋 髙濵 宏 町田 恒一 岩間 誠司 山川 智之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】バリアフリー展は,高齢者・障がい者の快適な生活を提案する総合福祉展として西日本最大規模を誇る展示会であり,近年の来場者数は開催3日間で9万人を超えている。(公社)大阪府理学療法士会は,理学療法の啓発を目的として,平成23年度よりリハビリテーション相談のブース出展と理学療法士が実践で培った介護技術を伝達する研修会を開催している。過去4年間のブース来訪者および研修会参加者へのアンケートから若干の知見を得たので 検討を加え報告する。【活動報告】ブースでは4年間で442件の相談を受けた(アンケート回収率35.1%;155件)。相談内容は,リハビリテーションや介護に関する全般的なことから個別的な治療,自主練習,制度および仕組み等の多岐にわたるものであった。アンケートより,相談に対する説明が分かりやすく,役に立つ内容で95%を超える方に満足いただけた。研修会は4年間で1,183名の参加があった(アンケート回収率70.0%;828件)。参加者は,介護福祉士,ケアマネージャー,ヘルパー,看護師,理学療法士,作業療法士など医療・福祉・介護に携わる専門家が65%以上を占めていた。アンケートより,理学療法士が実践で培った介護技術は,分かりやすい内容で75%を超える方に満足いただけた。【考察】リハビリテーション相談は,高い満足度を得ることができたが,スタッフの目の前でアンケートを記入することが回収率低下をまねいた一因と考える。研修会は,医療・福祉・介護に携わる専門家の参加が多く,理学療法士が実践で培った介護技術が多職種から認知されていると同時に,高い次元の内容を求められていたことがブースに比べて満足度が低かったと推察する。【結論】今回の取り組みは,理学療法により府民の医療・福祉・介護および健康保持に寄与するものであり,重要な公益目的事業に位置づけられている。今後,このような公益性の高い事業が全国に広まることを期待する。
著者
藤田 裕子 来住野 健二 木山 厚 五十嵐 祐介 中山 恭秀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0659, 2012

【はじめに、目的】 Four Square Step Test(以下FSST)は2002年にDiteらによって考案された評価法であり、先行研究より信頼性と妥当性が検討され、臨床的なバランス評価に有用と示されている。また、健常者や脳卒中、骨関節疾患を対象とする疾患別のバランス評価としての有用性や、他の臨床的バランス評価との比較によりTimed"up and go"Test(以下TUG)と有意な相関関係が示されている。FSSTの臨床評価指標としての位置づけは他のバランス評価との比較が中心であり、実際にどのような要素が含まれていて、何を反映させている評価指標であるかは明らかにされていない。また、FSSTはテスト方法から前後左右への重心移動やまたぎ動作、後進歩行が必要と考えられ、その要素のひとつである足圧中心(以下COP)の移動が動作に反映しているのではないかと考える。しかし、パフォーマンス動作からバランスを評価できるとされているTUGやFunctional reach test(以下FRT)は、COPの軌跡や動揺を客観的に評価できる重心動揺計を用いた研究により、それぞれのテストがもつ特性や要素の検討がなされているが、FSSTの検討は見当たらない。そこで今回バランスを、静的バランス、支持基底面を変化させずにCOPを支持基底面に保持させる動的バランス、支持基底面を変化させることでCOPを支持基底面に保持する動的バランスの3つに分け、FSSTと関連性を比較することとした。それぞれのバランスの指標として、静的バランスの指標を、姿勢安定度評価指標(Index of postural stability:以下IPS)、支持基底面を変化させない動的バランスの指標をX方向とY方向の平均姿勢動揺速度(以下動揺速度)、支持基底面を変化させる動的バランスの指標を動的バランスの要素を含むTUGの3つとした。【方法】 対象は健常成人17名(男性9名、女性8名、平均年齢は27.5±4.1歳、平均身長166.2±8.1cm)であった。FSSTはDiteらによる方法を基に、TUGはPodsiodleらによる方法で測定し、練習のあと2回の計測を行い、それぞれの2回の平均値を採用した。また、重心動揺計の計測は裸足で行い、両足踵間距離は10cmとし、視線は2m先の指標を注視させ、上肢を体側に下垂させた。IPSを静的バランスの指標とし、安静立位保持の測定で得られた平均動揺速度(cm/s)を、支持基底面を変化させない動的バランスの指標とした。重心動揺計はアニマ社製GS-3000を使用しサンプリング周期50msにて計測した。解析指標としてはFSSTとTUG、IPS及び動揺速度の計4項目とした。各指標間の関係性を調べるためにそれぞれの指標において正規性の検定を行い、正規分布を確認した後、Pearsonの積率相関係数を求めた。危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に則り研究の目的と方法を説明し、同意を得た。【結果】 今回、測定結果の平均値は、FSSTは7.03±0.9秒、TUGは6.17±0.69秒、IPSは1.63±0.27、動揺速度は0.49±0.16cm/sであった。また、FSSTと各評価間の相関係数は、IPSはr=0.275、TUGはr=0.489、動揺速度はr=-0.145を示した。TUGと動揺速度はr=-0.241、IPSはr=0.475となり、動揺速度とIPSはr=-0.794となった。この内で有意な相間関係を示したものは、FSSTとTUG、IPSと動揺間で有意な相関関係を示した。【考察】 本研究においてTUGとFSSTの相関関係が示されたことは先行研究と同等の結果となったが、TUGと動揺速度の指標間では相関関係が見られなかったことは先行研究と異なる結果となった。FSSTは跨ぎ動作、重心移動、後進動作などの要素をもち、TUGは立ち座り、歩行、方向転換の要素をもっているのではないかと考えられる。また今回、健常者を対象としてFSSTの測定を行ったが、静的バランスとの関係性は認められず、動的バランスであるTUGとの関係性が示された。しかしFSSTとTUGの相関関係があるにも関わらず、要素が大きく異なっている。このことから、臨床において、これら2つの評価方法がパフォーマンスを行うことで動的バランスを評価する指標でも、独立したバランス指標となりうることができるのではないかと考える。とくにTUGには跨ぎ動作や後進歩行が含まれていないため、FSSTではこれらの要素を反映している可能性が考えられる。一方で先行研究より、TUGは高齢者を対象として、動揺速度との関連性があるとされている。今回は対象者が健常者のみの測定であったため、今後FSSTにおいて対象者を健常者以外の高齢者や疾患別に重心動揺計の計測を行い、さらに検討していく必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究や先行研究と合わせてFSSTとTUGは動的バランス評価として関連性があるのではないかと考えられる。今後はFSSTの要素をさらに検討していくことで、TUGとは異なった要素を含むバランス指標として臨床的に有用な指標となり得る可能性があるのではないかと考える。
著者
板倉 尚子 小松 裕 赤間 高雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1125, 2010

【目的】第25回ユニバーシアード大会(ベオグラード2009)が平成21年7月1日~12日に12競技203種目にて開催された。本大会は大学生が参加する総合国際大会であり、選手村を設けて運営され、選手村の中で世界各国の競技者と国際交流し競技活動する大会である。今回、筆者は本部医務班にアスレティックトレーナーとして帯同する機会を得た。本大会での活動報告および国際大会において理学療法士がアスレティックトレーナーとして果たす役割について考察する。<BR>【方法】日本選手団本部医務班は財団法人日本オリンピック委員会情報・医・科学専門委員会医学サポート部会(以下、医学サポート部会)に所属する医師3名(内科医2名、整形外科医1名)およびアスレティックトレーナー1名(理学療法士)で編成された。筆者は先発隊として内科医1名と伴に6月25日に出国し、選手村へ入村、医務室設営および村内の環境確認を実施し、またPoliclinicを訪問しチーフドクターおよび理学療法士と事前打合せを行った。本大会における帯同トレーナーは18名(本部1名、8競技団体17名)であり、トレーナー帯同のない競技は4競技団体であった。メディカルスタッフの帯同がない競技については、本部医務班スタッフで調整し試合会場へ入りメディカルサポートを実施した。本部医務室の開設時間は7時半~23時としたが、トレーナー活動は主に試合前後の時間帯であり、日中の試合時間帯に試合会場内で活動を行った。トレーナー活動は6月26日から7月11日まで16日間実施した。<BR>【説明と同意】本発表を行うにあたり医学サポート部会へ発表の主旨を説明し同意を得た。<BR>【結果】トレーナーが対応した競技者は35名(42部位)で選手総数265名のうち13%の利用があり、述べ利用者数は185件であった。利用者内訳は性別では男子16名、女子19名。競技別ではトレーナーが帯同している競技では10名(5%)、帯同がない競技では25名(36%)の利用があった。部位別では腰背部10件、足関節8件、大腿部7件、肩関節5件、膝関節4件、その他8件であった。大会期間中に発生した急性外傷のうちアスレティックトレーナーが対応したのは4件であり、右足関節捻挫1件、股関節部打撲1件、突き指1件、左ハムストリング肉離れ1件であった。その他は入村以前からの症状が残存しているものや慢性外傷、長時間のフライトによるコンディショニング不良であった。本大会における渡航は成田空港よりミュンヘン国際空港を経由しベオグラード・ニコラ・テスラ国際空港まで合計約14時間のフライトであった。入村前に受傷し患部の症状は軽減していたが、移動中に腫脹および疼痛が増悪、関節可動域制限が生じ来室した競技者が5件(足関節内反捻挫4件、膝外側半月板損傷術後1件)あった。なお今回はマンパワーに限りがあり本部医師とも相談のうえ、リコンディショニングや明らかなコンディショニング不良にのみ対応し、マッサージのみを希望する競技者の受け入れは行わなかった。<BR>【考察】本大会において本部医務班はメディカルスタッフ帯同がない競技団体へのサポートを積極的に行い、また本部医務室だけではなく練習および試合会場へも移動してメディカルサポートを実施した。大会期間中に急性外傷を発症し本部医務室を来室し理学療法を施行した競技者は4件であり、医師と監督との協議の結果、すべての競技者は競技活動を続行した。急性外傷を有した競技者が競技活動を継続する際には患部の症状増悪や再受傷、二次的損傷を防ぐための万全の対応策が必要である。また外傷が完治していない部位や後遺症を有する部位に対して、一時的に痛みを軽減させる治療を希望し医務室を来館する競技者もあった。これらの競技者へは適切な評価に基づいた医学的判断と運動学的知識に基づいたスポーツ動作への理解により対応策が講じることが必要である。特に本大会は大学生が参加する国際大会であり、競技者育成の観点から、その場凌ぎのコンディショニングは行わずに評価と理学療法を施行した。本大会に帯同し競技者が国際大会でパフォーマンスを十分に発揮できる日常的なメディカルサポート体制構築の必要性を感じた。<BR>【理学療法学研究としての意義】国際大会の場で理学療法の対象となるスポーツ外傷および障害についてデータ収集し、競技者が十分なパフォーマンスを発揮するための理学療法を構築するための基礎的データとする。<BR>
著者
藤平 保茂 古井 透 岡 健司 小枩 武陛 酒井 桂太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】大学生を対象とした豊田(2012)の研究では,「自分に対して要求される援助的指導や友好的指導に対し,相手の性に対する好意帰属には性差がある」としている。ところで,臨床実習(以下,実習)における学生への効果的な教育には,Active learning(能動的学習)習慣を引き出すことが推奨されている。しかし,実際の実習場面では,常に臨床実習指導者(以下,SV)から援助的指導や友好的指導を受ける場面ばかりではない。むしろ叱責されることも少なくないだろう。指導の受け止め方次第では不安感が学生の自主的な取り組みを阻害し,実習をさらに辛いものにすることもあるだろう。われわれ教員の願いは,学生が「実習は辛いかもしれないが実りのある楽しいもの」と感じてくれていることだが,SVとの性差が学生の心理状況に影響があるとすれば,実習指導時に配慮する必要があるだろう。そこで,本研究では,学生とSVとの性差関係における同性,異性の観点から,実習に対する学生の心理状況を調査・分析し,その特徴を比較することを目的とする。【方法】対象は,平成24~26年度に8週間実習を終えた大阪河﨑リハビリテーション大学(以下,本学)理学療法学専攻の204名の学生(男子144名,女子60名)であった。調査には,筆者らの臨床教育経験から予想される項目を選び本研究用に作成した調査票を用いた。属性は,学生自身の性,SVの性を問うた。質問は7項目(不安感,緊張感,辛さ,楽しさ,やり甲斐,SVへの苦手意識,我慢(とにかく我慢しなければと言いきかせた))で,「非常によくあてはまる:7」から「全くあてはまらない:1」までの7件法で評定させた。調査は,実習終了後の第一登校日に実施した。分析は,学生の性(男,女)とSVの性(男,女)の組合せにて4群に分類し,Spearmanの順位相関検定にて,質問項目間の相関関係をみた。なお,有意水準を5%未満とした。【結果】4群間の比較では,同性同士の2群に共通する相関関係では,不安感と楽しさ・やり甲斐間,辛さと楽しさ・やり甲斐間,楽しさと我慢間の関係にそれぞれ有意な負の相関(r=-0.30~-0.40)が認められた。しかし,これらの関係は異性間の2群では一切認められなかった。一方,同性間で有意な相関関係が認められたにも関わらず,女子学生と男性SV群では,不安感・辛さと苦手意識の関係,やり甲斐・苦手意識と我慢間での関係が認められず,男子学生と女性SV群において,やり甲斐と苦手意識間での有意な関係が認められなかった。【考察】学生の心理状況には,学生の性とSVの性の組合せによって相違が生じることが示唆された。つまり,男性同士,女性同士の組合せでは,不安感・辛さが強いと楽しさ・やり甲斐が低く,楽しさが高いと我慢する気持ちが低くなった。一方,男性SVと女子学生の組合せでは,不安感が強いと苦手意識が強いこと,辛さが強いと苦手意識が強いこと,やり甲斐が高いととにかく我慢する気持ちが低いこと,苦手意識が強いと我慢する気持ちが強いことが,それぞれ認められなかった。また,女性SVと男子学生の組合せでは,やり甲斐が高いと苦手意識が低いことはなかった。豊田(2012)は,「男子では,自分が援助的行動を要求された場合,同性よりも異性に対してより快な感情が生じ,女子では,自分に対して友好的行動を要求してきた場合,異性より同性に対してより快な感情が喚起される」と報告した。すなわち,例えば,担当学生が失敗を繰り返したならば,性を問わずSVはその学生への感情評定を下げるが,男性SVの場合は男子学生より女子学生に対しより援助的となり,女性SVの場合は男子学生より女子学生に対し非好意な感情を強めたと考えられる。そして,このようなSVから感じ取れる学生の思いが,異性よりも同性のSVにより強く持たれ,不安感や辛さをより強め,楽しくない実習,とにかく我慢しなければいけない実習と感じたのではないだろうか。しかし,男性SVに対し女子学生が苦手意識を高めながらも我慢しなくてはならないと感じなかったのは,男性SVが女子学生を快く指導できることが彼女らの自尊感情を高めることに繋がったからではないかと考えられる。一方,女性SVに対し男子学生がやり甲斐が高まるにも関わらず苦手意識が下がらなかったのは,男子学生の女性SVに対する非友好的感情がSVの快な感情を下げることに繋がったからかも知れない。【理学療法学研究としての意義】学生とSVとの性差に視点をおいた今回の研究は,学生の能動的な学習習慣を引き出す手がかりになり得る研究と考える。
著者
竹井 和人 村田 伸 甲斐 義浩 藤野 英己 村田 潤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3021, 2009

【目的】転倒は多くの危険因子により発生する.転倒予防において、支持面である床と唯一の接触部である足底、とくに足趾が重要な役割をはたすことは既に多くの報告がなされている.足趾は支持機構としての働きのほか、感覚の情報入力においても重要である.足趾機能の評価指標として足把持力は多くの研究で用いられている.また、足趾に対する訓練として足趾歩行、ビー玉移動などがあるが、床上に置いたタオルを足趾でたぐりよせるタオルギャザーは、臨床で多く用いられるトレーニング方法である.そこで、本研究では、タオルギャザーによる足把持力トレーニングの効果について検討した.<BR><BR>【方法】健常成人女性19名(平均年齢20.3±0.5歳、平均身長159.6±5.5cm、平均体重52.4±7.6kg)を対象とし、6週間の足把持力トレーニングを行った.トレーニングはタオルギャザーとし、タオルの上に0.5kgから2.0kgの重りを段階的に増加させながら実施した.運動頻度は週4日で、1日あたり10回×2セットとした.トレーニング前、トレーニング3週間後、6週間後に足把持力を測定し、各測定値は反復測定ANOVA検定、およびFisherの多重比較検定を行いトレーニング効果の判定を行った.<BR><BR>【結果】足把持力値はトレーニング開始前10.1±2.6kg、トレーニング開始3週間後12.8±2.6kg、6週間後では13.0±2.6kgであった.足把持力は3週間後では有意な増加がみられ、6週間後では3週間後と比較して有意な変化はみられなかった.<BR><BR>【考察】健常成人女性を対象に足把持力トレーニングとしてタオルギャザーを実施したところ、開始3週間後には有意な増加が認められたが、3週間から6週間の間では有意な増加は認められなかった.タオルギャザーを用いた足把持力のトレーニング効果について、開始後4週間で効果がみられたとする報告や、開始後10週間で訓練の効果がみられたとする報告などがある.しかし、トレーニング種目が複数であったり、トレーニング実施が被験者の自主性にゆだねられていたり、足把持力のトレーニング効果については必ずしも明確とはいえない.本研究では、トレーニングには験者が毎回立会い、確実に実施できているかを確認しながらおこなった.筋力増強訓練の効果について、筋力訓練を開始した直後の筋力増加は神経系の促通によるもので筋肥大は伴わないと考えられている.また、筋肥大を伴う筋力増加は最低6週間程度の運動の継続が必要であるといわれていることからも、今回、開始3週間で有意に増加した足把持力は神経系の影響によるものと考えられる.タオルギャザーによる足把持力トレーニングは比較的早期に訓練効果が得られることが示唆された.
著者
北澤 和寿
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.47, pp.D-9-D-9, 2020

<p> 2008年3月 地元の工業高校を卒業後,オートバイメーカーに就職。休日に友人とオートバイでツーリングに行った帰りに,普通乗用車と交差点で事故に遭いました。意識不明の重体の状態で病院に運ばれ,心臓も二度止まりました。その後,一命は取り止めましたが頸髄損傷による上下肢機能全廃という障害を負いました。それからは別の病院やリハビリ施設での約2年間のリハビリを経て,自宅へ戻ることが出来ました。</p><p> 帰宅後は「人生は一度きり」という言葉を胸に,パラグライダー・スカイダイビング・スキューバダイビングなどに挑戦をしました。また,これからの生き方について考えるようになり,今の自分があるのも様々な人が支えてくれたお陰だと感じ,これからは自分も支援する側になれたらと,福祉系の4年制大学へ入学・卒業をしました。</p><p> 同じ時期に元々,学生時代に運動部に所属していたことから"スポーツをしたい"と思い,重度の障害者ができるスポーツのボッチャと出会い,現在も続けています。</p><p> </p><p> 私は受傷直後から"リハビリテーション"を受け続けています。今回,初めて"リハビリ"というものを受けた頃の気持ちや思ったことをお伝えできたらと思います。</p><p> 当時,感じていたが2つあります。1つ目が,"リハビリの内容について患者さんが,しっかりと理解・納得できているのでしょうか"という点です。患者さんの多くは,リハビリ内容について「専門職者であるセラピストが言うことだから…」と言われるがまま,リハビリを行っている人多いと思います。されるがまま,どこか患者さんの存在が置いてきぼりになってはいないでしょうか?</p><p> 2つ目には,"義肢装具・自助具について【使用する側の想い】と,【支援する側の思考】に相違がある"ように感じたことがありました。私自身も受傷をしてから自助具を何回か製作していただいたことがありますし,自助具や義肢装具によって出来なかった動作ができるようになりました。しかし,自助具や義肢装具というのは機能重視だったりするので,見た目という点が二の次だったりしないでしょうか。当然,価格といった問題もありますが,患者さんが装具や自助具を「気軽に使用したい」と思えるものを製作することができれば,患者さんのできる動作が増えたり,日常的の行動範囲が広がるかもしれませんし,それに伴って生活の質も向上すると,私は思います。</p><p> 患者さんの人生が少しでも良くなっていくように,今回,お話が出来たらと思います。</p>
著者
一之瀬 巳幸 田口 直彦 山口 光國 黒塚 美文子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2113, 2009

【はじめに】ストレス社会と言われる現代において、香りがもたらす心身への効果が注目され、利用されている.しかし、香りが人体にどのような影響を及ぼすのか、古くから研究が行われてきたものの、客観的・科学的な検証は充分とは言えない.今回我々は、香りが心身にプラス効果を与え、臨床に活用できることを期待し、作業能力・ストレスについて香りの有無で比較検討したので報告する.<BR>【対象】健常者20名(男性8名、女性12名、平均年齢32.7歳)、本研究の趣旨に賛同していただけた方を対象とした.<BR>【方法】内田=クレペリン精神作業検査を用いて15分間の作業を5分間の休憩を挟み2回ずつ行い、その作業量と正解率を香り無の群10名と香り有の群10名で比較した.香りは日本人に好まれリラックス効果があると言われているスウィートオレンジ(フィトサンアローム製品)を使用した.芳香方法はディフューザーとコットンに精油を2滴含ませたもので行った.ディフューザーは空気の圧力で精油を小さな微粒子にし、香りを部屋中に広げるアロマ芳香器であり、アロマキャンドルやアロマランプと異なり、熱を加えないため精油成分が変化する心配がない.<BR>【結果】内田=クレペリン精神作業検査では、香り無群の回答数1回目727.7±249.3、正解率99.4±0.80%、2回目823.9±272.1、正解率99.3±0.68%、香り有群の回答数1回目797.5±153.3、正解率99.6±0.48%、2回目879.5±167.8、正解率99.8±0.19%であり、香り無群と香り有群の1回目・2回目の回答数と正解率に有意な差を認めた(P>0.05).<BR>【考察】内田=クレペリン精神作業検査の加算作業の作業量からわかる能力とは、何が出来るか出来ないかなど具体的な能力ではなく、物事を学習したり処理したりする基本的能力のことをいい、日常の学習や動作・行動のテンポやスピードの高低と深い関連があると言われている.この検査の被験者は、単調な思考回転を長時間持続することが求められるため、著しい負担とストレスを受けることになるが、今回、香り無群と香り有群で比較し有意な差を認めた.今回の結果から、香りが身体作業に効果をもたらせているものと推察できる.医療現場に身をおくクライアントは、大なり小なり心身のストレスを抱え、その対応も、臨床上非常に重要となることが多い.今回の結果は、好ましい香りが心身にプラス効果を与え、有意義な作用が存在すると期待され、我々の臨床でも機能障害によるストレスを軽減させたり、運動時の集中力を高めたりなど活用できると考える.近年、医療現場で香りを治療補助として取り入れられるようになりつつある.今後、更なる検討を加え、理学療法における臨床応用への有用性を検証してゆく.
著者
村上 幸士 齋藤 昭彦 永井 康一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AcOF2028, 2011

【目的】近年、スポーツ現場や医療現場において、体幹の安定化を目的とした体幹深部筋群のトレーニングやそのメカニズムを解明するための研究が注目されている。また、リアルタイムに深部組織を、非侵襲的に確認できる超音波診断装置を使用した腹横筋の収縮を筋厚としてとらえる研究も行われている。その一方、腹横筋の収縮に伴う筋膜の変化や腰痛との関連性を比較する研究は少ない。本研究では、腹横筋の収縮による胸腰筋膜の変化を腰痛の有無にて比較することを目的として、腹横筋の筋厚変化と筋・筋膜移行部の変化を同一画像にて検証した。<BR>【方法】研究に対して、同意を得られた男性51名(22.9±4.0歳)を対象とした。まず、腰痛評価表にて、腰痛に対する問診・アンケートを行い、腰痛にて受診経験のある群(以下、A群)、ときどき腰痛を認めるが受診経験のない群(以下、B群)、腰痛を経験したことのない群(以下、C群)に分類した。<BR>次に、超音波診断装置(東芝社製NEMIO SSA-550A)での測定は、臍レベルに統一し、腹部周囲にマーキングを行い、画像での確認をもとに最終的なプローブ(7.5MHz、リニア形PLM-703AT)位置を決定した。測定肢位は腹臥位とし、安静時は腹横筋の先端(筋・筋膜移行部)を画像右端に合わせ、収縮時に変化する腹横筋をイメージングし、動画画像としてDVDに記録した。この時、腹横筋の収縮は、口頭指示および超音波画像による視覚的フィードバックにて行った。なお、すべての測定は左右行い、くじ引きにて順不同に実施した。<BR>記録した動画画像より画像編集ソフトWin DVDを用いて、静止画像を抽出し、画像解析ソフトImage Jを用いて、安静時および腹横筋収縮時の筋厚および画像左端と腹横筋先端との距離を測定し、変化量を算出した。これらの変化量に対し、一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を用い、各群を比較した。統計処理はSPSS version 10.0J for Windowsを用い、有意水準を5%とした。<BR>【説明と同意】得られたデータは研究責任者が責任を持って管理し、倫理的な配慮や研究内容・目的・方法および注意事項などを記載した研究同意書を作成した。この研究同意書を元に、個別に研究責任者が被験者に対し説明を行い、被験者が十分に研究に対し理解した上で必ず同意を求め、直筆での署名を得た。<BR>【結果】腰痛に対する問診の結果、被験者51名は、A群20名、B群17名、C群14名に分類された。左側、右側ともに、筋厚の変化量は有意差を認めなかった。一方、腹横筋先端の移動距離の変化量は、左側:A群2.0±1.6mm、B群5.1±2.3mm、C群5.1±1.7mm、右側:A群2.5±2.3mm、B群5.2±2.2mm、C群6.0±1.9mmであり、両側ともにA群に対し有意差を認め、いずれも低値を示した。<BR>【考察】腹横筋は、深部(中心部)に位置し脊椎分節を安定させるローカル筋システムに分類され、後方では胸腰筋膜に、前方では腹部筋膜に停止し、その筋膜系を介して腰椎骨盤の安定性に影響を与える。また、胸腰筋膜の中層の線維は腰椎横突起に収束し、椎骨の動きは筋膜の長さの変化に関係し、筋・筋膜移行部を外側方向に引く(緊張増加)ことで前額面上の運動をコントロールする。この胸腰筋膜の緊張には腹横筋の収縮が関与する。<BR>本研究の結果、B群およびC群では腹横筋の収縮(筋厚増加)に伴い筋・筋膜移行部の移動距離も大きくなり、胸腰筋膜は側方に引かれた。しかし、A群では、腹横筋の収縮(筋厚増加)に伴う筋・筋膜移行部の外側方向への動きが低下していた。この要因として筋膜自体の可動性の低下が考えられる。つまり、腰痛にて受診経験のある群では、腹横筋の収縮がみられても、胸腰筋膜を外側へ引くことができず、筋膜を介した脊椎の分節的安定性を得ることができない可能性が示唆された。今後は、腹横筋のトレーニングを効果的に行う目的でも、腰部(腰胸筋膜)へのアプローチが必要と考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】最近では、超音波診断装置での測定が有用である腹横筋の筋厚測定などの体幹深部筋に関する研究が注目されている。しかし、胸腰筋膜を介して脊椎の分節的安定性に作用する腹横筋の収縮による筋厚増加を、胸腰筋膜の変化と同一画像にて比較する研究はあまり行われていない。さらに、腹横筋と筋膜の関係や腰痛との関連性を検討した研究は少ない。<BR>よって、同一画像にて測定した腹横筋の収縮による胸腰筋膜の変化と腰痛との関連性を明らかにすることは、腰痛の1つの影響因子や病態の把握がより明らかになると考えられる。今後、超音波診断装置にて腹横筋の筋厚を測定する時に、加えて、腹横筋の先端の移動距離まで測定を行い、胸腰筋膜の動きも分析することは,腰痛の影響因子や脊椎の分節的安定性を考える上で有用である。以上を本研究にて明らかにできた。<BR>
著者
荒川 武士 上原 信太郎 山口 智史 伊藤 克浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0919, 2012

【はじめに、目的】 人工膝関節置換術(以下TKA)後の膝関節屈曲角度を獲得することは、立ち座り動作などの日常生活をスムースに行う上で重要である。機種や手術手技による相違はあるものの、120度の屈曲可動域を得ることは理論上可能と言われている。しかし、手術時の前方侵入による術野展開、更には筋中を深部に向かう術創が、皮膚・皮下組織の癒着・瘢痕などを引き起こし術後の屈曲制限に関係する可能性が十分に推察できる。特に皮膚は、関節軸から最も長いレバーアームをもつため、大きな動きを要求されるという点で癒着・瘢痕の影響を受けやすい組織といえる。そのため、皮膚可動性は屈曲制限に大きく影響すると推察される。そこで本研究は、他動的に膝関節を屈曲させた時の術創部周囲の皮膚可動性に着目し、TKA後の膝屈曲角度に及ぼす影響について検証することを目的とした。【方法】 対象は、TKA 後の入院患者20名(平均年齢76.7±7.7歳)とした。術後平均日数は45.0±17.9日であった。TKA患者は、膝関節屈曲角度120度未満の群(以下120度未満群)と120度以上可能な群(以下120度以上群)とに分類し、健常高齢者10名(平均年齢71.8±8.7歳)から成る対照群を含めた3群間の皮膚可動性の差を検証した。皮膚可動性の測定は浅野(2004)の報告に準じて行った。まず、膝関節伸展位にて脛骨粗面と膝蓋骨下端の距離を基準値とし、同距離を膝蓋骨下端から大腿骨長軸に沿って近位方向に3区間設定し、近位から順にa・b・c・d区とした。さらに各測定点の内外側2.5cmのところに測定点をとって5cmの基準距離とし、近位から(1)・(2)・(3)・(4)・(5)とした。次に膝関節を他動的に90度屈曲させ、その時のa~d(縦方向)、(1)~(5)(横方向)の区間距離を測定した。測定時の膝屈曲角度は、全ての患者が容易に行える角度として90度を選択した。得られた各区間の距離は基準値を100とした変化率に換算し、縦方向、横方向それぞれについて2元配置分散分析(群×測定点)を行った。下位検定にはBonferroni補正法によるt検定を用い、各区間それぞれについての群間差を検証した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、事前に研究内容を十分に説明し同意を得た。【結果】 TKA患者を分類した結果、120度未満群は10名で、平均屈曲角度は101±7.7度であった。120度以上群は10名で、平均屈曲角度は120.5±1.6度であった。縦方向の皮膚可動性は、120度未満群でa区138%、b区126%、c区129%、d区122%であった。120度以上群はそれぞれ140%、129%、124%、118%であった。対照群は151%、163%、137%、130%であった。2元配置分散分析の結果、要因間に有意な交互作用が認められた。更に下位検定を行った結果、b区間においてのみ対照群と120度未満群、対照群と120度以上群との間に有意差を認めた。120度未満群と以上群の間に差は見られなかった。横方向については、120度未満群は(1)102%、(2)102%、(3)103%、(4)101%、(5)98%であった。120度以上群はそれぞれ101%、102%、102%、100%、99%であった。対照群は104%、104%、105%、103%、101%であった。2元配置分散分析に統計学的有意差は認められなかった。【考察】 TKA患者は健常高齢者と比較して、特に縦方向b区の皮膚可動性が顕著に低下していることが判明した。この要因の一つには、術創部の癒着・瘢痕化による皮膚そのものの伸張性低下が関係している可能性が挙げられる。また、本研究で計測したb区はちょうど膝蓋骨上縁付近にあたるため、この部分に内在する皮下組織、すなわち膝蓋上嚢や大腿四頭筋遠位付着部と皮膚との間の滑走の低下も複合的に関係している可能性が考えられる。一方、患者群同士に着目すると、120度未満群と120度以上群の間には縦方向の皮膚可動性に差を認めなかった。これは膝関節屈曲90度における縦方向の皮膚可動性が、TKA後に獲得できる膝屈曲角度に対する強い制限因子ではない可能性を示す結果と言える。しかし、実際の臨床では最終可動域付近において皮膚可動性が低下していることを多く経験し、皮膚へアプローチすることで即時に可動域改善が見られることがある。つまり、皮膚可動性は各個人の膝屈曲最終可動域付近にて強く影響しうるものであり、本研究で検証した90度屈曲時の可動性ではその影響を反映しきれていない可能性が推察された。【理学療法学研究としての意義】 理学療法介入において、関節可動域の制限因子解明は効率的治療の選択に繋がる。膝関節構成要素の一つである皮膚に着目し、TKA後の可動域への影響を見た本研究は、学術的にも臨床的にも有用な情報を寄与するものである。
著者
石井 寛海 阿南 雅也 森 淳一 山口 豊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.H2-225_1-H2-225_1, 2019

<p>【症例紹介】変形性膝関節症(以下,膝OA)患者の人工膝関節置換術(以下,TKA)後の理学療法は,下肢筋力トレーニング,関節可動域運動,歩行練習などが一般的に行われている.大腿四頭筋の筋力は,TKA後の最初の数週間にてTKA前よりもより低下するとされており,その筋力低下はTKA後数年経っても完全には解決できていないことが報告されている.TKA後の大腿四頭筋の筋力低下の原因は,単独で生じる筋萎縮のみならず,手術侵襲,術後安静,および関節原性筋抑制(以下,AMI)も挙げられる.また,膝OA患者の神経筋系の特徴として,膝周囲筋群の共同収縮が挙げられる.膝OA患者は歩行時の膝関節周囲筋の共同収縮が増大するとの報告があり,膝関節の病態を取り除いたTKA後の歩行でも報告されている.そこで今回、膝OA後のTKAを施行した症例に対し,膝関節周囲筋の共同収縮に着目し,質的な筋機能の改善を目的として介入した症例を報告する.</p><p> 症例は80歳,女性.数年前より膝関節痛のため階段昇降や長距離歩行が困難となった.1年前に左膝TKA施行し,今回は急性期病院にて右膝TKAを施行し術後3週で当院へ入院された.主訴は,「膝が曲がるようになってほしい、バスに乗りたい.」であった.</p><p>【評価とリーズニング】当院入院1週間後に初期評価を実施した.右膝関節可動域は他動運動で膝屈曲120°/膝伸展−5°,自動運動では屈曲105°/伸展-5°.右膝関節屈曲時に術創部,大腿直筋の伸張痛あり.NRSは2/10,圧痛は無く軽度の熱感あり.膝伸展筋力はMMT4レベル.Extension lagは陰性.共同収縮の評価は座位での膝伸展運動時における共同収縮の指標であるCo-Contraction Index(以下,CCI)とした.表面筋電計NORAXON(酒井医療)を使用し,膝伸展運動時の筋電図を計測した.被検筋は外側広筋(以下,VL)・内側広筋(以下,VM)・外側ハムストリングス(以下,LH)・内側ハムストリングス(以下,MH)・腓腹筋外側頭(以下,LG)・腓腹筋内側頭(以下,MG)とした.CCIはFalconarらが推奨する算出方法にて,VMとMH,VMとMG,VLとLG,VLとLG間で算出した.CCIは値が大きい程より共同収縮が強いことを示し,膝関節伸展運動時のCCI(%)は,VM:MHは57,VM:MGは33,VL:LGは76,VL:LGは64であった.</p><p>【介入内容および結果】質的な筋機能の改善を目的に,端座位での膝伸・屈曲展運動を10回3セット実施した. 膝下垂位から3秒間で膝最大伸展位になるように膝伸展運動を行い,その後3秒間で膝下垂位となるように膝屈曲運動を意識して行うように指導した.その他,理学療法内容として関節可動域運動や歩行練習,階段昇降練習を1週間実施した.</p><p>結果,関節可動域やNRS,MMT, Extension lagに変化はなかった.膝関節伸展運動時のCCI(%)は,VM:MHは57→41,VM:MGは33→17,VL:LGは76→54,VL:LGは64→33と全てにおいて減少した.</p><p>【結論】本症例では,質的な筋機能の改善のために端座位での単関節運動による開放的運動連鎖(以下,OKC)のトレーニングを行った.特に,膝伸展筋である大腿四頭筋を求心性収縮と遠心性収縮にて選択的に促通した.その結果,初期評価時に共同収縮は高い数値を示していたが,1週間後には軽減していた.先行研究では,TKA後1ヶ月での大腿四頭筋の筋活性化は,筋力の大きさと同様に術前よりもさらに低下するとされている.介入期間を考慮すると,主動作筋である大腿四頭筋と拮抗筋であるハムストリングスの相反抑制を正しく再学習することで共同収縮の改善に至ったのではないかと考える.このことから,TKA後には筋力トレーニングによって量的な改善を促すより,質的な改善を目指すことで質的な筋機能の向上が期待できることが明らかになった.しかしながら,実際に随意的な筋活性化が改善されたかどうかは,本症例では明らかにできてはいない.今後,共同収縮と随意的な筋活性化の関係性や共同収縮を効果的に改善する運動療法を模索・検証していきたい.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき当該病院の倫理審査委員会の承認(A0017)と被験者の同意を得て実施した.</p>
著者
杉本 諭 三品 礼子 佐久間 博子 町田 明子 前田 晃宏 伊勢﨑 嘉則 丸谷 康平 工藤 紗希 室岡 修 大隈 統 小林 正宏 加藤 美香 小島 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P1189, 2009

【目的】後出しジャンケンはレクリエーション活動において、しばしば行なわれる課題の1つである.先行研究において我々は、後出しジャンケンの成績がMini Mental State Examination(MMSE)や転倒経験の有無と関連していることを報告した.本研究の目的は、週2回の後出しジャンケンの介入効果について検討することである.【対象および方法】当院の通所リハサービス利用者および介護老人保健施設の通所・入所者のうち、本研究に同意の得られた高齢者42名を対象とした.性別は女性29名、男性13名、平均年齢は81.3歳であった.後出しジャンケンは、検者が刺激としてランダムに提示した「グー」・「チョキ」・「パー」に対し、指示に従って「あいこ」・「勝ち」・「負け」の何れかに該当するものを素早く出すという課題である.測定では30秒間の遂行回数を求め、「あいこ」→「勝ち」→「負け」→「負け」→「勝ち」→「あいこ」の順に2セットずつ施行し、2セットのうちの最大値をそれぞれの測定値とした.初回測定を行った後、ランダムに16名を選択して介入を行った.介入群に対しては、指示に従って該当するものを素早く出す練習を、5分間を1セットとして休憩をはさんで2セット行い、週2回1ヶ月間施行した.また、後出しジャンケンの遂行回数に加え、MMSE、Kohs立方体組み合わせテストを測定した.介入終了直後に対象全員に対して再測定を行い、介入前後の変化を介入群16名および対照群26名のそれぞれについて、対応のあるt検定を用いて分析した.【結果】介入群における介入前後の後出しジャンケン遂行回数は、「あいこ」は29.5回→30.6回、「勝ち」は18.3回→21.7回、「負け」は10.1回→13.0回と、「勝ち」および「負け」において介入後に有意に遂行回数が増加した.一方対照群では、「あいこ」は30.8回→31.2回、「勝ち」は20.0回→19.7回、「負け」は12.8回→12.4回と、何れにおいても有意な変化は見られなかった.MMSEおよびKohs立方体組み合わせテストについては、介入群ではMMSEが23.6点→23.8点、Kohsが57.6点→61.1点、対照群ではMMSEが25.5点→25.2点、Kohsが62.9点→64.9点と、何れの群においても有意な変化は見られなかった.【考察】以上の結果より、後出しジャンケン練習は、「勝ち」および「負け」すなわち提示された刺激を単に真似るのではなく、ジャンケンに対する既知概念に基づいて、刺激に対して適切に反応するような課題において介入効果が見られた.今回は短期間の介入であったためジャンケンの遂行回数にのみ変化が見られたが、今後更なる持続的介入を行い、他の異なる検査やADLなどへの影響について検討したい.
著者
山田 隆治 福満 智代 黒木 祐輝 園田 睦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】中枢神経障害である脳卒中患者では自覚的視性垂直位(subjective visual vertical)が真の重力方向から偏位していることが多く,臨床的バランス指標の低下やプッシャー症状といったバランス障害との関連が指摘されている。脳卒中患者の立位姿勢は姿勢の動揺や,より非麻痺側下肢に体重が乗った非対称な荷重に特徴づけられる。この不安定な立位姿勢に影響するものとして運動麻痺,体性感覚障害,非対称な筋緊張,空間認知の変化などがいわれている。臨床において視覚のフィードバックを利用した立位姿勢や歩行の獲得,矯正を行う際に姿勢鏡をよく用いるが,垂直指標の条件を変えることで脳卒中片麻痺患者の自覚的姿勢垂直位と下肢荷重量がどのような関係にあるか検討することを目的とした。【方法】対象は発症から6カ月以上経過している慢性脳卒中外来患者12名(男:女=7:5),年齢68.4±8.3歳,身長160.5±11.9 cm,体重62.9±13.4 kg,疾患は脳梗塞9名,脳出血3名,左麻痺8名,右麻痺4名,罹病期間62.0±50.1カ月,下肢のBr. StageはIII:5名,IV:1名,V:1名,VI:5名,表在・深部感覚障害は軽度鈍麻3名,重度鈍麻3名,短下肢装具使用は6名であった。なお,骨折等の既往により運動機能障害を有する者,および半側空間無視などの高次脳機能障害を有する者は除外した。測定は外部刺激の影響を考慮し個室を利用し行った。測定条件は壁,壁に垂直線を引いたもの(以下:壁line),姿勢鏡,姿勢鏡に垂直線を引いたもの(以下:姿勢鏡line)の計4条件とした。壁の条件は部屋を横断的に白い布を貼り視覚に垂直線が入らないよう設定した。姿勢鏡を利用した条件では視覚的垂直指標を可能な限り削除するために,姿勢鏡(高さ192cm,鏡面150×90cm)の枠に曲線のフレームを取り付け,その上から白い布を貼り鏡面を8の字にくり抜き垂直となるものが視覚に入らないよう配慮し作成した。姿勢鏡に映る被験者の後方にはバックスクリーンを貼り垂直なものが映りこまないよう配慮した。また垂直の指標とならないよう上着前面にファスナー,ボタンを有するものを着用の場合はプルオーバーのジャージを重ね実験を行った。下肢荷重量の計測には足圧分布計(PDM-S,zebris Medical社)を使用し,各条件における静止立位を30秒間計測した。壁から足圧分布計までの距離は110cmとし,姿勢鏡からの距離はバックスクリーン以外の物が映らないよう各被験者の視野に合わせ微調整した。静止立位は裸足で装具や杖などを使用せず実施した。学習効果の影響を避けるために測定はランダムに実施し各条件1回とした。立位姿勢は上肢を下垂し,足部を肩幅に開き目線の高さを直視し姿勢保持するよう指示した。得られた下肢荷重量30秒間の平均値から,麻痺側下肢荷重率を求め,左右対称の指標となる50%に対する乖離率を算出し比較を行った。統計処理には統計ソフトR version2.8.1を使用し,反復測定の一元配置分散分析を用いて有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は対象患者に主旨および測定方法を説明し同意が得られた上で実施した。【結果】各患者データから麻痺側下肢荷重率50%に対する乖離率を求め,各条件における平均値は壁15.0±8.4%,壁line12.9±10.1%,姿勢鏡11.42±9.2%,姿勢鏡line7.3±5.8%であった。得られた結果から反復測定の一元配置分散分析において有意差(P=0.0408)を認めたが多重比較においては各条件間に有意差は認められなかった。【考察】今回の研究において,各患者の麻痺側下肢荷重率50%に対する乖離率を求め,各条件における平均値は姿勢鏡line,姿勢鏡,壁line,壁の順に低かった。これらの結果から今回の対象患者では姿勢鏡の垂直指標を無くした条件でも視覚フィードバックによる姿勢調整が行え,さらに垂直線を入れることにより下肢荷重量の左右差を減少させる傾向を示すことがわかった。脳卒中後の非対称な下肢荷重に関連する因子として運動麻痺,感覚障害,痙縮,発症後期間,半側空間無視などが関係しているといわれている。本研究では関連因子との分析は行っていないが,今回は自覚的姿勢垂直位がどの程度下肢荷重量に影響を及ぼしているかについて研究を行い視覚フィードバックに必要な要素が増えることで,より垂直認知が高まることがわかった。脳卒中における下肢荷重量の違いは,立ち上がりや歩行等の動作獲得に影響を及ぼすと考え,姿勢鏡を用いて垂直認知を高めた運動学習が効果的になると思われた。【理学療法学研究としての意義】脳卒中患者において姿勢鏡や垂直指標などの視覚フィードバックを用いることで下肢荷重量を左右対称に近づける傾向があり,これらを用いた運動学習が効果的であると考える。
著者
須藤 圭治 今井 義廣 沖井 明 喜多 憲司 近藤 圭三 松本 初男 宮川 智 左古 多佳子 奥野 秀樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.G0405, 2008

【はじめに】ポートフォリオとは、学習者自身の意志で成果や情報を一元化したファイルのことを指す。その作成を通じて学習のプロセスを再確認し、新たな価値を見出すことをポートフォリオ評価という。鈴木らは、当事者の内省と主体性の発揮を促す面で医療者の卒前卒後教育へのポートフォリオ評価導入の有用性を説いているが、理学療法士の臨床実習においては未だ導入経験の報告がない。今回我々は、鈴木の提唱する「ポートフォリオ評価」を基軸にした臨床総合実習を試みたのでその経過を報告する。<BR>【方法】対象:臨床総合実習生1名。期間:実習期間8週、指導者2名が担当。報告会は、医師、作業療法士も同席する症例検討会型式で行い、実習生へのフィードバックは口頭及び用紙記入で行い、回収した用紙は学生に明示した。総括は実習終了時のレポート、感想文、成長報告会での意見を参考に行った。実習の進行は以下のとおり。第1週「目標書き出しシート」にもとづく「目標カード」の作成とオリエンテーション、第2週:主症例の評価開始、第3週:症例初期評価報告会、第5週:文献抄読の報告会、第7週:症例最終評価報告会、第8週:成長報告会。<BR>【結果】ポートフォリオはクリアファイル2冊分になり、内容の割合は症例関係5割、勉強会関係3割、自己学習2割であった。実習生の感想は「気づきのチャンスが増え、主体的に学習できた」「自身の成長過程がわかった」「実習後の取り組みに生かせる」であり、要望は「実習前、実習初期にこの評価の十分な説明があればよかった」であった。スタッフの感想は「振り返る機会になる」「自己の問題点と改善点が整理できている」「自身の目標を持ち続ける大切さを学べたのではないか」である一方で、「この評価法を理解していないため意見し難い」「勉強会が必要」との意見があった。<BR>【考察】一般的な臨床実習は症例の初期評価に始まり最終評価で帰結し、養成校の評価表にそって指導者が実習生を評価するものであるが、今回の試みは、この流れを踏襲しながらも、「ポートフォリオ評価」を導入する事によって実習生の内省が常に必要とされる点が特徴といえる。実習導入期の「目標シート」作成、展開期の報告会および多面的なフィードバッグ、最終週の成長報告会は、ポートフォリオの見直しを通じての自己省察を深める機会となった。課題としては、実習生に簡潔に説明できる当院での「ポートフォリオ評価」マニュアル作成とスタッフ内の周知の必要性があげられる。今後、実習施設でのポートフォリオ評価が浸透すれば、学内教育と臨床教育との連携を強化するための有効なツールになると考える。<BR>
著者
佐々木 雄一 山下 達郎 柿澤 雅史 石合 純夫 本望 修 佐々木 祐典 岡 真一 中崎 公仁 佐々木 優子 浪岡 隆洋 浪岡 愛 小野寺 理恵 奥山 航平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年,脳梗塞に対する急性期治療の進歩に伴い,死亡率は低下している。しかし,後遺症は日常生活を困難にし,我が国における要介護者の原因疾患第一位となっており,新しい治療の開発が望まれている。脳梗塞に対する骨髄間葉系幹細胞(MSC)の経静脈的移植は,後遺症を改善する新しい治療法として注目されており,前臨床試験と自主臨床研究(12例の脳梗塞亜急性期患者を対象)での良好な結果に基づき,2013年から,札幌医科大学ではMSCを使用した再生医療の医師主導治験を行っている(第三相)。本治験は二つの治験から構成されており,まず,治験①として,"亜急性期の脳梗塞患者を対象とした二重盲検無作為化比較試験"(発症60日±14日に治験薬を投与)を行っている。そして,治験①終了後,プラセボ群だった患者には,治験②として,"慢性期の脳梗塞患者を対象とした単群非盲検試験"(発症150日±14日に細胞が入った実薬を投与)を行い,安全性と有効性の評価をしている。今回,治験②(慢性期の脳梗塞患者を対象とした単群非盲検試験)においてMSC移植を受けた脳梗塞患者1名の身体機能の経時的変化を,Fugl-Meyer assessment(FMA)に注目して報告する。【方法】対象は30代,男性で,治験②において発症166日目に治験薬の投与を受けた脳梗塞患者である。身体機能は,FMAを使用し,転院時,治験①での投与直前,投与1週後,1ヶ月後,3ヶ月後,治験②での投与1週後,1ヶ月後,3ヶ月後の計8時点に経時的評価を行った。【結果】上肢機能に注目したFMAでは,治験②での治験薬の投与を境にして,大きく改善した。さらに,上肢機能におけるサブ解析では,手関節機能,手指機能,協調性・速度の項目で著しい改善を示していた。【結論】本症例では,発症後5ヶ月以上経過した慢性期においても,MSC移植を契機にして身体機能の更なる改善を示した。特に,MSC移植によって運動・感覚などの神経機能が回復するメカニズムには,移植直後からの神経栄養・保護作用,血液脳関門の安定化,血管新生作用,再有髄化などに加えて,リハビリテーションとの組み合わせによって惹起される脳の可塑性の変化が大きく関わっていることが示唆されており,今後は,症例数を増加するとともに,本治療に適した評価方法の確立やリハビリテーションプログラムの再構築,さらには診療報酬体系を含めたリハビリテーション全体の変革が必要と考えられる。
著者
村上 潤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.47, pp.D-14-D-14, 2020

<p> 全く新しいシーティング理論「キャスパー・アプローチ」のご紹介</p><p> 従来の骨盤を垂直に起こそうとする「良い姿勢」を目指すほど,体は物体として「不安定」になることがこの20年以上の検証で明らかとなった。また,多くの負の現象はその不安定に対応できずに引き起こされていることも解明してきた。そして,その「不安定」が「安定」に変わった瞬間に様々な負の現象が変化し,本来のその方の持つ機能が発揮されることも多くのケースで実証し,それらは,新生児から高齢者まで,ほとんど同じストーリーで変化することも解ってきた。</p><p> 今回,「今までの良い姿勢」を目指すと何故体は「不安定」になるのか? その「不安定」を「安定」に変えるにはどうすれば良いのか? キャスパーでいう「不安定」「安定」とはどういう概念なのかを実際の変化をビデオでご覧いただきながら解説する。また,「体が物体として安定」するからこそリラックスが始まり,リラックスするからこそしなやかでアクティブな「自らの意思から始まる動き」につながり,それらは日常的に積み重なること,「安定」は「固定や抑制」ではないということもお伝えしたい。</p><p> そして,それらの変化から医療機関を含めた各関係機関と連携しながら進めようとしている「0才~100才の予防環境支援」という方向性の取り組みを紹介する。</p>