著者
田中 雅侑 福留 千弥 藤田 直人 藤野 英己
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1353, 2012

【はじめに、目的】 肺高血圧症は進行性の肺動脈リモデリングを特徴とし,右心室の後負荷を増加させ,右心不全を惹起する.また,肺高血圧症の進行により顕著な運動制限を来す.その原因として骨格筋の運動耐容能の低下が指摘されており,運動耐容能の低下による身体活動量の減少は骨格筋の萎縮をさらに進めるとされている.近年,肺高血圧症に対する運動療法は運動耐容能の低下を改善させるとの報告がみられる.一方で,肺高血圧症における運動は肺動脈圧を上昇させ,右心室への負荷を高くするとされており,心筋への過剰な負荷は筋萎縮を誘発する炎症性サイトカインを発現させるという報告もある.このような報告から重度な肺高血圧症への運動療法は右心室に過負荷を与え,骨格筋の萎縮を助長する可能性も考えられる.本研究では,増悪期の肺高血圧症に対する運動が骨格筋の萎縮に及ぼす影響を遅筋と速筋で検証した.【方法】 4週齢のWistar系雄ラットを対照群(Con群),肺高血圧症群(PH群),肺高血圧症に運動を行った群(PHEx群)の3群に区分した.肺高血圧症はモノクロタリンの腹腔内投与(30mg/kg)によって惹起した.運動はトレッドミルを用いたランニング(速度;13.3m/min,30分間/日)を実施した.運動はモノクロタリンを投与した翌日から開始し,週5回の頻度で,4週間継続した.実験期間中は1週間毎に体重を測定した.4週間の実験期間終了後,ヒラメ筋及び前脛骨筋,並びに心臓を摘出し,湿重量を測定した.得られた骨格筋試料は急速凍結し,10µm厚の横断切片を作製した後にATPase染色(pH 4.5)を行った.ATPase染色の光学顕微鏡所見を用いて筋線維をタイプI線維,タイプIIA線維,及びタイプIIB線維に分別し,筋線維タイプ別の横断面積を測定した.また,体重に対する心重量比率を算出し,心肥大の指標とした.測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い,有意水準は5 %未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は,所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得たうえで実施した.【結果】 モノクロタリン投与4週目にPH群とPHEx群は体重減少を認めた.体重に対する心重量比率は,PH群及びPHEx群がCon群に比べて有意に高値を示し,PHEx群はPH群に比べて高値を示した.ヒラメ筋の湿重量及び全ての筋線維タイプにおける筋線維横断面積で,PH群とPHEx群はCon群に比べて有意に低値を示したが,PH群とPHEx群の間には有意差を認めなかった.前脛骨筋の湿重量はPH群とPHEx群はCon群に比べて有意に低値を示した.さらにPHEx群における前脛骨筋の湿重量はPH群に比べて有意に低値を示した.前脛骨筋の筋線維横断面積はタイプI線維では3群間に有意差を認めなかった.一方,速筋線維であるタイプIIA及びIIB線維では,PH群とPHEx群がCon群に比べて有意に低値を示した.さらにタイプIIB線維はPHEx群ではPH群に比べて有意に低値を示した.【考察】 肺高血圧症に対する運動は,遅筋であるヒラメ筋の萎縮には影響を及ぼさなかったにもかかわらず,速筋である前脛骨筋に対しては萎縮を進行させた.先行研究では,モノクロタリン投与後4週間で右心不全が惹起され,心臓悪液質によって骨格筋の萎縮を誘発するとされている.本研究でもモノクロタリン投与4週目に体重の減少を認めたため,ヒラメ筋と前脛骨筋の萎縮は肺高血圧症モデル動物が心臓悪液質に陥った事が原因であると考えられる.また,肺高血圧症の増悪期における運動は右心室への負荷を増大することで炎症を惹起するとされ,その炎症は腫瘍壊死因子などのサイトカインを過剰発現するとされている.本研究では運動に伴う心肥大を認めたため,運動によって心臓への負荷が増大し,右心室で炎症性サイトカインが過剰発現していた可能性がある.炎症性サイトカインは心臓悪液質に関与するとされ,悪液質による骨格筋異化作用は,遅筋線維に比べて速筋線維で大きいとされる.その理由の一つとして,遅筋と比較して速筋では,悪液質による骨格筋異化作用の抑制に関わっているとされるNO産生が少ないことが報告されている.本研究では肺高血圧症の増悪期においても運動療法を実施したことで,心臓悪液質による影響が増し,速筋である前脛骨筋の萎縮を助長した可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 増悪期の肺高血圧症に対する運動は,心臓に過度な負荷を与えるだけでなく,主として速筋の萎縮を助長することが明らかになった.このことから肺高血圧症に対する理学療法は,介入時期,及び心臓への負荷を考慮し,運動療法等の介入は慎重に行うべきであると考えられる.
著者
青山 倫久 林 英俊 竹内 大樹 福留 千弥 太田 夏未 中村 崇 清水 勇樹 宇都宮 啓 内田 宗志 綿貫 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年Femoroacetabular Impingement(以下FAI)患者におけるCore stabilization training(以下体幹トレーニング)の治療効果がケーススタディレベルではあるが報告されている。我々は第50回日本理学療法学術大会で,FAI患者を一般的な殿部トレーニングを行う群とそれに体幹トレーニングを加えた群とに分け比較し,体幹トレーニングを加えた群で有意に疼痛や股関節スコアが改善したことを報告した。しかしながらFAI患者においてどの体幹筋に機能低下が存在し,アプローチすべきかは明らかになってはいない。本研究の目的は,内腹斜筋(以下IO),外腹斜筋(以下EO)に着目し超音波診断装置(以下US)を用いてFAI患者の体幹筋の筋動態を観察し,健常人の筋動態と比較検討することである。【方法】対象は,当院でFAIと診断された患者12名(男性5名,女性7名,平均年齢41.8歳)をFAI群とし,股関節痛および腰痛の既往のない健常成人男性17名(平均年齢26.0歳,BMI:21.9)を健常群とした。US(HITACHI社製Noblus)の7.5MHzLinerプローブを用い,安静時,下肢の自動伸展拳上(以下ASLR)時および抵抗下SLR時のIOとEOの最大筋厚を計測した。測定位置は臍レベルで腹直筋鞘と内外腹斜筋を描出できる部位で体幹の長軸に対し短軸走査として測定した。抵抗下SLRはBealsらの報告に基づき体重の6%にあたる4kgの重錘を足部に着用して行った。ASLR時および抵抗下SLR時筋厚の安静時筋厚に対する割合を算出し,各筋を対応のないt検定を用い群間で比較した。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】EOはASLR時にFAI群110%,健常群100%,抵抗下SLR時にFAI群115%,健常群107%とFAI群で有意な筋厚増加率を認めた(<i>p</i><.01)。IOはASLR時にFAI群103%,健常群107%,抵抗下SLR時にFAI群106%,健常群110%とFAI群で筋厚増加率の幅が小さく有意であった(<i>p</i><.01)。【結論】FAI患者は健常人に比べASLRや抵抗下SLRの運動課題を課した際にIOの筋活動が弱く,主にEOを使用して運動課題を遂行していた。BealsらはASLRのような低負荷の運動では同側のIOが主に活動するが,骨盤帯部痛患者はASLRが高負荷運動であるかのように腹壁全体を活動させると報告している。今回の我々の結果においてもFAI群でローカルマッスルであるIOが弱化していることで,EOが代償的に過度な収縮を強いられている可能性が考えられた。本研究よりFAI患者における体幹トレーニングにはIOが有用である可能性が示唆された。今後はFAI患者の体幹トレーニングにおいてIOを中心的に実施した縦断研究を行っていくことでFAI患者におけるIOトレーニングの有用性を証明していきたい。
著者
管野 敦哉 横串 算敏 谷口 志穂 澤田 篤史 成松 英智 丹野 克俊 岡本 博之 石川 朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D0677, 2005

【はじめに】陽・陰圧体外式人工呼吸器(以下、RTX)は非侵襲的であり,陰圧による吸気の介助に加え,陽圧による呼気の介助が可能であることが特徴の人工呼吸器である。この呼吸器は急性期から慢性期,在宅での呼吸管理に使用することが可能とされており注目を集めている。当院では急性呼吸不全患者に対する人工呼吸管理の他,神経筋疾患患者の排痰介助などに使用されている.今回、当院高度救命センターに搬入された3名の患者に対し,呼吸理学療法と併用する機会を得たのでここに報告する.<BR>【症例1】30歳,女性.外傷性くも膜下出血,肺挫傷.平成16年4月13日,バイク転倒にて受傷.CTで両背側下葉に無気肺が認められ,気管内挿管され,理学療法開始となる.第3病日,無気肺が改善し,抜管するもSpO<SUB>2</SUB>の低下が見られ,RTXを使用する.30分間の装着後,PaO<SUB>2</SUB>が 68.7mmHgから98.0mmHgに改善し,第9病日に転院した.<BR>【症例2】50歳,男性.気道熱傷,一酸化炭素中毒.平成16年4月20日,火災現場で発見され,当院搬入される.直ちに高圧酸素療法施行し,気管内挿管され,理学療法開始となる.第4病日,抜管されるも,酸素化不良,排痰困難のためRTXを使用する.30分間を2回装着した後,すす混じりの痰が多量に排出され,PaO<SUB>2</SUB>が76.7mmHgから158.2mmHgに改善し,第9病日に独歩で退院した. <BR>【症例3】22歳,女性.溺水,肺炎.統合失調症にて他院に入院中.平成16年6月1日,外泊中に川に飛び込み受傷.E病院から当院救命センターに搬入される.酸素投与で経過観察されていたが,CT上両背側に無気肺,肺炎が認められ,呼吸理学療法を開始しRTXも使用する.約1時間の装着後,PaO<SUB>2</SUB>が 88.5mmHgから133.5mmHgに改善し,人工呼吸管理も行なわれず,第9病日に転院した.<BR>【考察】救急医療現場における呼吸管理の問題として,人工呼吸器からの離脱,抜管後の気道閉塞や低酸素血症,排痰困難などがある。その問題に対し,呼気介助や排痰手技などの呼吸理学療法を行うことが一般的になっている.しかし、最近ではそれに加え酸素投与前の再挿入管回避として非侵襲的人工呼吸管理が行われる場合がある.今回使用したRTXは食事や会話などが可能であるなどの特徴がある.それに加え,呼気や排痰の介助が長時間にわたり集中的に可能であるということから呼吸理学療法の役目を担う一面も特徴として挙げられる.今回の3症例では30分から1時間の使用でPaO<SUB>2</SUB>が改善し,その後も順調な経過をたどったと考える.しかしRTXを救急医療現場で使用した報告は少なく,適応疾患や使用時間,モードの使い分けなどには更なる検討が必要と思われる.
著者
福留 千弥 田中 雅侑 藤田 直人 藤野 英己
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1101, 2012

【はじめに、目的】 心不全患者の特徴の一つに運動耐容能の低下が挙げられる。運動耐容能が低下する原因には心機能の低下だけでなく、骨格筋における退行性変化も関与しているとされている。心不全患者における骨格筋の退行性変化の一つに、骨格筋線維周囲における毛細血管数の減少がある。心不全患者は活性酸素種(ROS)の過剰発現によって酸化ストレスが亢進しているとされており、血管内皮細胞の機能不全や毛細血管の退行性変化をきたす。多くの栄養素は酸化ストレスを除去する能力を持つが、心不全患者は食欲不振による低栄養を伴うことが報告されており、心不全患者では酸化ストレスを除去する栄養素が欠乏していると考えられる。本研究では、心不全における骨格筋と心不全を伴わない低栄養のみの骨格筋を比較することで、心不全と低栄養が骨格筋内毛細血管の退行性変化に及ぼす影響の差異を検証した。また、心不全患者では速筋よりも遅筋において筋萎縮が起きやすいという報告から筋線維タイプによる違いも存在すると考え、速筋と遅筋の比較も併せて実施した。【方法】 4週齢のWistar系雄ラットにモノクロタリン(30mg/kg)を投与することで心不全を惹起した(CHF群)。また、同一週齢のWistar系雄ラットを用い、給餌量を自由にした対照群(Con群)と、給餌量をHF群と一致させた群(PF群)を設定した。4週間の実験期間終了後、ペントバルビタール(50mg/kg, <i>i.p.</i>)による深麻酔下で心臓、肺、足底筋およびヒラメ筋を摘出し、急速凍結した。組織切片のエラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色所見を用いて、心臓の線維化と肺動脈壁の厚さを観察した。足底筋とヒラメ筋はアルカリホスファターゼ染色にて毛細血管を可視化し、筋線維あたりの毛細血管比率(C/F比)を算出した。さらに、足底筋とヒラメ筋はジヒドロエチジウム染色にてROSを可視化し、その発現量を測定した。得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】 心臓と肺のEVG染色所見では、CHF群にのみ心筋線維の肥大と膠原線維の増殖、および肺動脈における中膜の肥厚を認めた。足底筋のC/F比は、CHF群ではCon群とPF群に比べて有意に低値を示したが、PF群とCon群間には有意差を認めなかった。一方、ヒラメ筋のC/F比は、PF群ではCon群に比べて有意に低値を示したが、CHF群とPF群の間には有意差を認めなかった。足底筋とヒラメ筋のROS発現量は、PF群ではCon群に比べて有意に高値を示し、CHF群はPF群に比べて有意に高値を示した。【考察】 速筋における骨格筋内毛細血管の退行性変化は主として心不全に起因するが、遅筋における骨格筋内毛細血管の退行性変化は、心不全だけでなく低栄養の影響を受けることが明らかになった。足底筋では低栄養によるROSの過剰発現を認めたものの、低栄養による骨格筋内毛細血管の退行性変化は生じていなかった。一方、ヒラメ筋では心不全によって低栄養以上にROSが発現していたにも関わらず、骨格筋内毛細血管の退行性変化は心不全を伴わない低栄養のみの状態と変わらなかった。このことから、心不全や低栄養によるROSの過剰発現だけで骨格筋内毛細血管の退行性変化が誘導されるわけではないということが示唆された。一方、心不全では血清中にTNF-αが過剰発現するとされている。TNF-αは血管内皮細胞の機能不全を誘発し、血管内腔の狭小化を引き起こすことで骨格筋への血液供給を減少させる。このことから、CHF群の速筋と遅筋における骨格筋内毛細血管の退行性変化にはTNF-αが関与していたのではないかと考えられる。また、PF群の遅筋における骨格筋内毛細血管の退行性変化には、低栄養に由来するROS以外の経路が関与していたと考える。しかし、足底筋とヒラメ筋における低栄養由来のROSの過剰発現に対する両筋の反応はそれぞれ異なっていた。この点については不明であるため、低栄養に由来するROSの発現に対する筋線維タイプによる反応については今後検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 心不全患者における骨格筋内毛細血管の退行性変化には、心不全による因子だけではなく、栄養状態も関係していることが明らかになった。本結果より心不全患者における骨格筋の退行性変化を予防するには栄養状態のコントロールも重要であると考える。
著者
中窪 美佐緒 町田 浩樹 小室 美智子 永島 智里 荒井 洋
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.J-63_1-J-63_1, 2019

<p>【はじめに】脳性麻痺者(以下,CP)の粗大運動能力は,一般に6歳から9歳をピークに低下すると知られている.しかし,青年期以降のCPの粗大運動能力の縦断的変化を調べた報告はほとんどない.本研究では,包括的なリハビリテーションを継続的に受けた青年期・成人期CPの粗大運動機能の経年的変化を粗大運動能力尺度(GMFM)を用いて評価し,理学療法の効果について考察する.</p><p>【方法】2015年1月から2018年6月に集中リハビリテーション目的として当院に半年から1年間隔で複数回入院したCP 87名(男57名,女30名)を対象とした.初回入院時年齢は12歳~50歳で,10歳代58名,20歳代22名,30歳以上7名であった.2~4週間の入院中は移動機能,生活動作,コミュニケーション,学習・労働能力の向上あるいは回復を目指して毎日平均2~3時間のリハビリテーションを提供し,あわせて環境整備,自主練習指導を行った.通院可能な67名では外来で1回1時間,年間各12回の理学療法・作業療法を行った.GMFMは入院時に診療の一環として主担当者と熟練した理学療法士が2人で測定したものを,カルテから後方視的に調査した.3回以上入院した場合は,初回値と最終値とを比較した.</p><p>【結果】対象全体のGMFM66の変化は-13.5~19.9(平均1.68±4.40)で,増加62名,低下20名,不変5名であった.両側性痙性麻痺は63名中増加40名,低下10名,不変13名名で,平均2.22±3.91増加した.失調型は3名全てが3以上の増加を,片側性痙性麻痺は4名中3名が5以上の増加を示したが,アテトーゼ型は17名中増加8名,低下6名,不変3名であった.機能レベル別では,歩行群37名(GFMCSレベルI,II)で2.11±4.32,非歩行群50名(GFMCSレベルIII, IV, V)で1.37±4.48,それぞれ増加した.年代別の変化量に明らかな差はなかった.GMFM66の大幅な低下には,青年期の身体の成長,中年期のうつ状態,歩行機会の減少,介後環境の変化など,背景に特定の原因があった.</p><p>【考察】今回の検討では,一般に知られるようなGMFM66の一様な低下はなく,粗大運動能力の維持あるいは増加が認められ,包括的なリハビリテーションの効果と考えられた.ただしアテトーゼ型ではばらつきが大きく,運動機能維持がより困難であることが示唆された.今後,運動機能低下の原因をチーム医療で改善する方法を模索したい.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】使用したデータの研究目的の利用については,匿名化を条件に,入院時に医師から患者本人もしくは保護者に説明し,同意を得た.</p>
著者
木村 成代
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.47, pp.J-23-J-23, 2020

<p> リヴァさん(エマニュエル・リヴァ Emmanuelle Riva, 1927-2017)はフランス出身の女優さんです。映画「24時間の情事(ヒロシマモナムール,Hiroshima mon amour, 1956)」で主役を務めました。その映画の撮影地がこの広島でした。リヴァさんは映画収録のかたわら,ご自身のカメラでヒロシマを撮影しました。その画像が2008年に発見され,写真集「Hiroshima1958」として出版されました。戦後の復興の時期の広島の姿を,当時の子どもたちなど生活者の視点から切り取った写真が多く収蔵されています。</p><p> 私たちの国日本は,戦後大きな経済的発展を果たし,成熟した国となりました。少子高齢化や社会保障費の削減など,喫急の課題を抱えていますが,現在は世界に稀な幸せな国になっています。</p><p> リヴァさんは,その後広島を訪れて「本当に復興したすばらしい町」と表しています。彼女がみたヒロシマは何だったのか,私はジャーナリストとしてそれを考えながら,第6回日本予防理学療法学会に全国から参加する1,000余名の皆様に,「リヴァさんのヒロシマ」を通じて国際平和都市広島を紹介し,皆様に広島をよく知っていただきたいと思っています。</p>
著者
北村 綾子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101901, 2013

【はじめに、目的】訪問リハビリテーションは、現行制度においてその実施機関が、診療所や老人保健施設で実施されるリハビリテーションと、訪問看護ステーションのセラピストが行うリハビリテーションがある。いずれも理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職種が疾患や障がいを抱える利用者の自宅へ訪問し、リハビリテーションサービスを提供するが、介護保険制度上、前者は「訪問リハビリテーション」に、後者は「訪問看護」に位置づけられている。平成22 年の介護給付費実態調査では、訪問看護ステーションからのセラピストによる訪問リハビリテーションの比率は訪問リハビリテーション全体の3 割と報告されているが、大阪府においては5 割近くを占めており、その役割は大きい。今回、訪問看護ステーションから行われるリハビリテーションの利用者特性を把握するため、当事業所の利用者の属性について年齢区分に調査・分析したので報告する。【方法】対象は、平成24 年10 月度、当事業所のセラピストによるリハビリテーション(以下リハビリ)を受けた利用者70名である。方法はカルテからの遡及的分析で、調査期間は平成24 年10 月1 日〜31 日とした。調査内容は、疾患、ADL、利用保険、医療機器の使用状況、看護師介入の有無、認知症の状況、生活活動状況などで、ADLはBarthel Index(以下BI)、認知症状況は認知症老人の日常生活自立度(以下、自立度)、生活活動状況には障がい老人の日常生活自立度(以下、寝たきり度)を使用した。対象者を75 歳未満と75 歳以上に分類し分析を行った。統計処理はPearsonのχ2 検定を用い有意水準は5%未満とし、統計ソフトはSPSS11.OJを使用した。【倫理的配慮、説明と同意】事業所の倫理規定に基づき、個人が特定されないよう個人情報の保護に配慮し実施した。【結果】対象者の年齢の平均は72.4 歳(18 〜100)で男性22 名31.4%、女性48 名68.6%であった。対象者全体の年齢区分は75 歳以上が38 名54.3%、75 歳未満32 名45.7%であった。利用保険は、75 歳以上で介護保険が35 名92.1%、75 歳未満では17 名53.1%が医療保険利用であり、75 歳未満で医療保険利用の割合が有意に高かった(p<0.05)。疾患は、75 歳未満で神経難病などが14 名43.8%、75 歳以上は3 名7.8%で75 歳未満に神経難病などが有意に多かった(p<0.05)。在宅酸素やPEGなどの医療機器は75 歳未満が14 名43.8%の利用者が使用し、75 歳以上では6 名15.8%で75 歳未満の使用が有意に高かった(p<0.05)。看護師介入は75 歳未満19 名59.4%、75 歳以上が15 名39.5%であった。寝たきり度は75 歳未満のランクJ10 名31.2%、A6 名18.8%、B4 名12.5%、C12 名37.8%、75 歳以上はランクJ5 名13.1%、A18 名47.4%、B8 名21.1%、C7 名18.4%であった。自立度は75 歳未満が、ランクIが17 名53.1%、II6 名18.8%、III1 名3.1%、IV以上8 名25%、75 歳以上はランクI17 名44.7%、II12 名31.5%、III2 名5.3%、IV以上9 名23.8%であった。BIの合計点の平均は75 歳未満が45.6 点で75 歳以上は61.2 点であった。【考察】本研究では、訪問看護ステーションのセラピストにおけるリハビリ対象者の属性を、75 歳以上、75 歳未満の年齢区分により行った。75 歳未満の特性としては、75 歳以上と比較し、医療保険利用が多く、医療機器使用者が多く、寝たきり度が高い。疾患分類では、神経難病や先天性疾患が4 割を占めており、神経難病の利用者の多さが関連すると考えられた。75 歳未満にこれら利用者が多く集まる理由としては、訪問看護のリハビリと病院・診療所などの訪問リハビリでは、活用できる公費制度が異なり、特に特定疾患については、訪問看護ステーションは利用者負担が全額公費負担となり利用しやすいためと考えられる。次に後期高齢者の特性としては、生活の活動性と認知症症状は、概ね屋内生活が自立し日常活に支障はなく、看護師介入の必要性が低い等であり、ADL維持と認知症症状、生活圏狭小化の予防を目的とした利用者であると考えられた。以上から75 歳以上と未満との対象者は明らかに異なるものといえ、75 歳未満の利用者には医療機器や重度利用者対応への知識と技術、後期高齢者においては、認知症予防への取りくみ、老年症候群の知識と評価能力がセラピストに求められると考えられた。【理学療法学研究としての意義】訪問看護ステーションによるリハビ対象者の年齢区分による属性分析により75 歳未満、75 歳以上の特性を明らかにし、対象者を把握することで、訪問看護ステーションの役割・機能を踏まえたリハビリテーション活動を行うための資料とすることができる。
著者
桑坪 憲史 河野 公昭 村橋 淳一 勇島 要 室田 一哉 木村 由香里 長屋 孝司 松永 義雄 山賀 寛
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P3132, 2010

【目的】ジュニアユース(U-15)年代は成長期であることや、より激しいパフォーマンスが要求されるようになることなどから、成長期特有のスポーツ傷害を生じやすい時期である。傷害予防の為には成長期の身体特性を考慮する必要があり、メディカルチェックはとても重要な手段である。その為、我々は2007年よりスポーツ現場でのコンディションチェックだけでなく、当院でのメディカルチェックを試み、問題点と予防法などをフィードバックし傷害予防に努めている。そこで今回は、メディカルチェックの結果から選手の身体的特徴の変化を捉え、傷害発症との関連を検討し、今後のメディカルサポートに役立てることを目的とした。<BR><BR>【方法】2007年度にメディカルチェックを実施したジュニアユース(U-15)サッカー選手17名(レギュラーメンバー)を対象とした。競技レベルは全国大会レベルであり、我々がメディカルサポートを行っているチームである。メディカルサポートの介入内容としては、週1回の練習時のケアおよびコンディショニング指導、公式戦へのトレーナー帯同、そして、メディカルチェックのフィードバックである。メディカルチェックの実施日は2007年4月4日(メディカルサポート介入前)と同年12月3日(介入後8ヶ月でU-15年代最終戦の全国大会直前)の2回であった。メディカルチェックの内容は身体計測・アライメント測定・タイトネステスト・関節可動域測定・関節弛緩性テスト・筋力検査・パフォーマンステストの7項目であり、1回目と2回目の結果から、選手の身体的特徴の変化を検討した。そして、介入後8ヶ月の間に発症した傷害について調査し、傷害発症群と非発症群において、1回目のメディカルチェックの結果で指摘した異常値が、どの様に変化していたかも検討した。異常値の設定は、メディカルチェックの結果を標準偏差に基づいて5段階にランク分けし、Average-1.5×標準偏差(SD)より逸脱したものをランクE(異常値)と設定した。<BR><BR>【説明と同意】今回、測定を行った17名およびチーム関係者には、測定の意義・目的を説明し、同意を得た。<BR><BR>【結果】介入後8か月間の身体的特徴の変化としては、身体計測(身長・体重)・筋力検査(膝屈曲筋力・握力)・パフォーマンステスト(反応時間)に有意な増加(P<0.01)が認められた。また、身体計測(BMI)・タイトネステスト(傍脊柱筋・股関節内転筋群・腓腹筋)・筋力検査(膝伸展筋力)に有意な増加及び改善(P<0.05)が認められた。しかし、関節可動域測定(足関節踏込み角度)の有意な低下(P<0.01)も認められた。傷害発症件数は、慢性外傷4件(1,000時間1人あたり0.67件)急性外傷6件(1,000時間1人あたり1.01件)であった。傷害発症群と非発症群におけるランクE(異常値)の含まれる数については、両群間に有意な差は認められなかった。また、2回目の測定においては、Eランク(異常値)の改善は認められたものの、新たな項目にEランク(異常値)が出現していた。<BR><BR>【考察】今回の結果から、身体計測や筋力検査の向上は、この年代が成長期であることを示す結果であり、成長期の身体的変化に対応していくことの重要性が認識された。成長期は骨の発達が著しいため、一般的に筋のタイトネスが発生しやすく、骨端症などの成長期特有の傷害が発症しやすい時期といえるが、タイトネスの改善が認められたことは、メディカルサポートの介入の効果が反映しているものと思われた。しかし、足関節の踏み込み角度の低下が認められたことは、成長期のサッカー競技が足関節のStiffness増大に関与しているものと思われた。その為、今後は、足関節のセルフケアを徹底させたり、コンディショニングの指導を行っていく必要があるものと考えられた。メディカルチェックの結果からランクE(異常値)を抽出し、選手にフィードバックしていくことは、傷害予防として重要であると考えられるが、今回の結果からは、必ずしもランクE(異常値)を多く含む選手が傷害を発症しておらず、その関係は見いだすことは出来なかった。しかし、1回目でのランクE(異常値)の数は2回目の測定では減少しており、メディカルサポートの介入の効果は認められたと思われた。しかし、新たなランクE(異常値)が出現していることから選手の状態は常に変化しており、継続的なメディカルチェックやメディカルサポートの体制を確立していくことが重要であると思われた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】医療の現場からスポーツの現場へ、理学療法士の担う役割は大きいと思われる。今回の研究結果から、成長期のスポーツ傷害を少しでも軽減し、次のカテゴリーへステップアップさせることが重要である。そして、日本のサッカー競技の向上に微力ながら貢献できれば幸いである。
著者
橋本 隆哉 松岡 達司 河﨑 靖範 槌田 義美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BcOF1042, 2011

【目的】脳卒中患者に対するリハビリテーションアプローチにおいてEvidence-Based Medicine(EBM)の重要性が提唱され、脳卒中治療ガイドライン2009においては起立-着席訓練(以下起立訓練)や歩行訓練などの下肢訓練量を多くすることは、歩行能力の改善のために強く勧められ、推奨グレードはAとなっている。今回、当院においても脳卒中患者に対して起立訓練を積極的に推奨することを目的に、試験的に起立訓練を実施し移乗動作や歩行、ADLに対しての効果を調査し、良好な結果を得たので報告する。<BR>【対象】H22年5月から10月(6ヶ月間)までに当院の回復期リハビリテーション病棟を退院した初回脳卒中患者107名で重度の意識・高次脳機能障害、下肢の整形疾患の既往、全身状態不良の患者を除外し、通常訓練に加えて積極的に起立訓練を行った群(起立群)と通常訓練群(通常群)の2群に無作為に分類した。その中より入院時FIM79点以下、かつ下肢Brunnstrom Stage(以下BRS)においてステージ4レベル以下の患者を抽出し、退院まで経過を追うことができた起立群11名(男性6名、女性5名、平均年齢64.9±11.6歳、下肢BRS;ステージ1:3名、ステージ2:6名、ステージ3:2名)と通常群7名(男性2名、女性5名、平均年齢70.3±13.7歳、下肢BRS;ステージ1:3名、ステージ3:2名、ステージ4:2名)とした。<BR>【方法】在院日数、入・退院時FIM得点、FIM利得、FIM効率、移乗動作獲得までの日数、歩行獲得までの日数をt検定にて2群間を比較した。起立群においては1日当たりの平均起立訓練量の推移を調査した。<BR>【説明と同意】発表に際して全ての症例に対し十分説明を行い、同意を得た。また本研究はデータ抽出し、集計分析した後は個人情報を除去し、施設内の倫理委員会の審査を経て承認を得た。<BR>【結果】在院日数は、起立群135.7±35.1日、通常群137.9±26.1日で有意差はみられなかった。入院時FIM得点は、起立群32.9±10.8点、通常群42.3±20.5点、退院時FIM得点は、起立群88.9±18.9点、通常群78.0±35.2点で有意差はみられなかった。FIM利得は、起立群56.0±15.6点、通常群35.7±17.1点で有意差が見られた(p<0.01)。また、FIM効率においても、起立群0.44±0.19点、通常群0.26±0.13点で有意差がみられた(p<0.05)。退院時移乗動作獲得者は、起立群では11名中8名(73%)で移乗動作獲得までの日数は68.0±18.9日であり、通常群では7名中3名(43%)で移乗動作獲得までの日数は44.3±3.2日で有意差はみられなかった。退院時歩行獲得者は起立群では11名中7名(63%)で歩行獲得までの日数は97.7±34.6日であり、通常群では7名中2名(29%)で歩行獲得までの日数は86.0±52.3日で有意差はみられなかった。起立群における1日当たりの平均起立訓練量は、リハ開始から1週間で49.2回、1ヶ月目83.4回、2ヶ月目107.3回、3ヶ月目95.9回、退院時103.3回であった。<BR>【考察】原は、早期に起立訓練を開始することが、歩行獲得と歩行のレベルにも影響すると報告している。三好は、起立訓練は健側下肢を強化するだけでなく、麻痺の促通、バランス訓練にもなり、片麻痺者の身体不自由を最も効果的に改善すると述べている。今回、起立群において入院時早期から積極的に起立訓練を行った結果、安静臥床期間における身体機能低下を最小限に留め、下肢筋力・麻痺促通等の身体機能の改善を得られたため、FIM利得・FIM効率の向上につながったものと推測され、退院時移乗動作・歩行獲得者数においても起立群が高い獲得率を得られたものと思われた。起立群における1日当たりの平均起立訓練量では、3ヶ月目になると起立訓練の回数が減少する傾向が見られた。この要因として自宅退院前ではよりADL訓練の比重が大きくなる為、起立訓練の回数が減少したものと思われた。また、退院前に増加した理由としては、リハ訓練、病棟訓練のみでなく、自主トレーニングによる起立訓練が行われた結果だと思われた。今後は、さらに症例数を増やし、脳卒中患者への起立訓練の影響を検証していきたい。又、起立訓練を積極的に取り入れた症状別のリハビリテーションプログラムを導入していきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳卒中患者に対する起立訓練は、下肢筋力や歩行能力向上に伴うADL向上に有効であることが示唆された。
著者
星 葵 亀田 光宏 榊 聡子 井上 翔太 小林 紀子 熊谷 雄基 松永 康二郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.A-65_1-A-65_1, 2019

<p>【背景・目的】</p><p>我々は食欲の評価指標であるCNAQを用いることで,食欲低下のある慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者は6ヶ月後に体重が減少し6分間歩行距離が低下することを報告した.一方で,COPD患者は,%標準体重(% ideal body weight:%IBW)が90%未満の場合に栄養障害と判断され,栄養障害が重症化するほど改善が困難なため,体重が正常範囲の時点で栄養障害を予測する必要性がある.本研究では,栄養障害のないCOPD患者の食欲低下が体重と運動耐容能に与える影響を検証した</p><p> </p><p>【方法】</p><p> 対象は,当院呼吸器内科にて外来通院している栄養障害がなく食欲低下しているCOPD患者6名(年齢77.6±3.4歳,FEV1.0%34.7±7.3%,%IBW97.5±3.6%,BMI21.7±0.8,CNAQ25±2)とした.初期評価時より6ヶ月後の体重と%IBWの変化率,及び6分間歩行試験(6MWT)の変化率に対し,Wilcoxon符号付順位和検定を用いて比較した.有意水準5%未満とした.</p><p> </p><p>【結果】</p><p> 初期評価と比較し6ヶ月後の体重が5.4±2.7kg減少,%IBW9.4±4.7%減少した(p<0,05).また,6MWTが66±33m減少した(p<0,05).</p><p> </p><p>【考察】</p><p> COPD患者では,%IBWが90%未満の軽度体重減少の場合は食事指導などの栄養治療の適応となるが,90%以上では正常体重と判断され経過観察となる.しかし,今回の結果より経過観察となる正常体重のCOPD患者が食欲低下を認めた場合,6ヶ月後には栄養障害に移行し運動耐容能が低下することが示唆された.今後は,CNAQを用いて食欲低下を評価し,栄養障害を予測し早期の食事指導を開始し,呼吸リハビリテーションを併用することで治療効果を高めていく必要がある.</p><p> </p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>人を対象とする医学研究に関する倫理指針に基づき,各症例に対して説明と同意を得た.</p>
著者
平野 康之 夛田羅 勝義 川間 健之介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

<b>【はじめに,目的】</b>近年,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の需要が拡大する一方で,訪問リハ従事者が経験する事故や病状急変などの件数は増加傾向にある。このような現状からサービス提供における安全管理の徹底が求められるが,訪問リハ従事者におけるこれらのアセスメント能力(技術)の実態については明らかではない。本研究の目的は,訪問リハ従事者が実施する健康状態や病状把握のために用いるアセスメント項目の知識(技術)の程度や実施の程度,必要性の認識などについての実態を把握することである。<b>【方法】</b>対象は,全国の訪問リハ事業所(病院)に勤務する訪問リハ従事者である。方法は都道府県ごとにランダムに抽出した540施設に対して,以下に示す訪問リハビリテーションアセスメント(以下,vissiting rehabilitation assessment:VRA)に関する自己記入式質問紙を郵送した。VRAは利用者の健康状態や病状把握に必要と考えられる①心理・精神に関する項目,②生命・身体に関する項目,③生活に関する項目の3領域からなるアセスメント(全42項目)で構成され,回答にあたっては知識(技術)の程度(以下,知識度),アセスメント実施の程度(以下,実施度),訪問リハ実施時における必要性(以下,必要性)について5段階のリッカート尺度により回答を得た。解析は,まず知識度,実施度,必要性についてアセスメント項目ごとに記述統計を行い,その傾向を検討した。次に知識度,実施度,必要性の関連性についてSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。なお,質問紙の作成にあたっては信頼性,妥当性を確認し,統計学的有意水準は5%未満とした。<b>【倫理的配慮,説明と同意】</b>郵送時に本研究の主旨に関する説明書を同封し,質問紙の返送をもって同意とした。なお,本研究は徳島文理大学倫理委員会の承認を得た。<b>【結果】</b>質問紙の回答は63施設:120名(11月11日現在,回収率:12%)から得られた。回答者属性は,男性:62名,女性:58名,年齢は20歳代:45名,30歳代:53名,40歳代:16名,50歳代:6名であった。職種は理学療法士:81名,作業療法士:38名,言語聴覚士:1名であり,経験年数は10年未満:77名,10年以上:43名であった。VRAの結果より,知識度に関して"知っている"と回答した者が最も多かった項目は「バイタルサイン(以下,VS)」であり,次いで「意識レベル」,「転倒」,「経皮的酸素飽和度(以下,SpO2)」の順に多かった。実施度に関して"実施する"と回答した者が最も多かった項目は「VS」であり,次いで「意識レベル」,「視診」,「運動に伴うVSの変動」の順に多かった。必要性に関して"必要がある"と回答した者が最も多かった項目は「VS」であり,次いで「意識レベル」,「転倒」,「SpO2」の順に多かった。次に知識度,実施度,必要性の関連性については,「VS」,「内服薬」,「認知機能」の一部以外のすべてにおいて弱い,または中等度以上の相関を認めた。知識度と実施度の関連において,相関係数が0.6以上を示したのは「非がん性の痛み」,「心音聴取」,「がん性の痛み」など17項目であった。必要性と実施度の関連において相関係数が0.6以上を示したのは「非がん性の痛み」,「食事」,「SpO2」など12項目であり,「うつ」,「頸静脈怒張」,「心電図変化」,「胸部打診」は0.4未満であった。また,知識度と必要性の関連において相関係数が0.6以上を示した項目はなく,「VS」,「内服薬」,「認知機能」については相関を認めなかった。<b>【考察】</b>必要度の上位に位置した「VS」,「意識レベル」,「転倒」などは"必要である"と回答した者が約80%を超え,知識度や実施度においても知識を有し,いつも実施しているとの回答が得られていたことから,訪問リハサービスの提供において重要なアセスメント項目であると考える。また,知識度と実施度の関連が認められた「非がん性の痛み」,「心音聴取」,「がん性の痛み」など17項目については,知識量が多ければ多いほど実施度が高い傾向にある項目であると考える。また,必要性と実施度の関連が認められた「非がん性の痛み」,「食事」,「SpO2」などの12項目については,訪問リハの実践に必要であると認識しているほどよく実施している,またはよく実施しているほど訪問リハの実践に必要であると判断している項目であると考える。また,「うつ」,「頸静脈怒張」,「心電図変化」,「胸部打診」で相関係数が低かったことについては,訪問リハにおいて内部障害系のアセスメント項目の必要性や実施の程度に偏りや乖離がある可能性が示唆された。<b>【理学療法学研究としての意義】</b>本研究結果は訪問リハの教育カリキュラムや研修計画などの作成にあたっての有効な資料となり,訪問リハの質向上に寄与すると考える。
著者
武田 知樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>キャリアアンカー(career anchor)とは,個人が仕事をしていく上でそのやり甲斐(達成感)や意味の実感(有意義感)の拠り所となる中心的な価値観のことをいう。</p><p></p><p>本研究の目的は,臨床業務に従事する理学療法士のキャリアアンカーの特徴を明らかにして,キャリア支援のための基礎的知見を得ることである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は大分県内の医療機関に勤務する理学療法士142名(男性68名,女性74名,平均年齢26.6±4.7歳)であった。</p><p></p><p>調査方法は,県内で開催された研修会に参加した者に対して,E.H. Scheinにより開発された「キャリア指向質問票」を配布して無記名で回答を依頼した。この質問票は ①専門・職能別コンピタンス(TF),②全般管理コンピタンス(GM),③自律・独立(AU),④保障・安定(SE),⑤起業家的創造性(EC),⑥奉仕・社会貢献(SV),⑦純粋な挑戦(CH),⑧生活様式(LS)の8領域のキャリアアンカーで構成されている。</p><p></p><p>分析は各キャリアアンカー得点(5~30点)を性別および臨床経験年数別,職場規模別に比較して,キャリア意識の特性を明らかにすることを試みた。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p><b>1</b><b>)性別の比較</b></p><p></p><p>各キャリアアンカーを性別に比較したところ,キャリアアンカー8領域中6領域(TF,GM,AU,SE,EC,SV)で男性は女性に比べて有意に高値であった(Mann-Whitney U-test,p<0.05)。</p><p></p><p><b>2</b><b>)臨床経験年数別の比較</b></p><p></p><p>経験年数別(10年未満,10年以上)で比較すると,AUでは経験年数10年未満16.0±4.1点に対し10年以上は13.4±3.2点であり,経験年数10年以上の者が有意に低値であった(Mann-Whitney U-test,p<0.05)。</p><p></p><p><b>3</b><b>)職場規模別の比較</b></p><p></p><p>職場規模別に比較してみると,SVについて10名未満の職場では20.0±4.2点,10~29名では21.5±4.0点,30名以上は22.1±3.7点であった。30名以上の理学療法士が勤務する職場は10名未満に比べてSVが有意に高値であった(Kruskal Wallis test,p<0.01)。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>医療機関に勤務する理学療法士において,性差によるキャリア意識の違いが顕著であった。また,臨床経験年数別では10年以上の方が10年未満の者に比べて自律・独立に関するキャリアアンカーで低値であった。この事は,一定期間の就業経験を通してチーム医療が重要視される医療機関の組織風土に適応した結果であると考えられた。</p><p></p><p>さらに,職場規模については職員が多い職場の方が奉仕・社会貢献に関連するキャリアアンカーが高値であったことは,職場規模に応じた教育や研修体制の充実が影響したものと考えられた。</p><p></p><p>以上の事より,キャリア意識の性差や経験年数,さらには職場規模を踏まえたキャリア支援のあり方が議論され,それぞれのキャリアラダー構築に反映させる必要性が示唆された。</p>
著者
持田 有希 野中 聡 津布久 健一 高野 智央 大塚 智 草野 麻里 恩田 浩一 樋口 佳子 岩部 昌平
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.A1107, 2005
被引用文献数
1

【はじめに】近年,高齢化する精神科の長期入院患者において,加齢や活動量の減少による身体能力の低下や転倒の発生状況に関する報告が散見される。我々は,第39回日本理学療法士学会学術大会において,当院の精神科入院患者の約3割が転倒経験者であり,転倒は高齢患者に多いことを報告した。精神科入院患者における身体能力や運動療法実施の効果に関する報告は散見されるが,精神科入院患者と同年代の健常者や一般病棟入院患者の身体能力を比較した報告はみられない。そこで今回,我々は精神科入院患者の身体能力を測定し内部疾患患者や同年代の健常者との比較を行い,若干の知見を得たので報告する。<BR>【方法】対象は当院精神科入院患者のうち病棟内を独歩している者で,平成15年4月から9月までの6ヵ月間における転倒の有無を診療録より後方視的に調査できた24例のうち,本研究の目的の説明に対して同意が得られた9例(全例男性,平均年齢60.4±9.4歳,診断名:統合失調症)とした。一般病棟入院患者(一般入院患者)における対象例は,当院に内部障害で入院し,理学療法を施行し病棟内を独歩している4例(男性3例,年齢79.0±10.1歳)とした。また健常者の対象群には複数の先行研究による同年代の健常者のデータを用いた。評価項目は,年齢,等尺性膝伸展筋力(下肢筋力),握力,10m最大歩行速度(歩行速度),開眼片脚立位保持時間(片脚立位時間)とした。なお両病棟における対象例が少ないため,統計手法は用いずに個々の症例について比較を行った。<BR>【結果】精神科入院患者9例中2例に転倒歴があり,いずれも年齢は70代であった。精神科入院患者と健常者との比較では下肢筋力,握力,歩行速度といった比較的短時間に筋力を発揮する項目において精神科入院患者の値が健常者の値を大きく下回っていたが,片脚立位時間では健常値に近似した値を示した。精神科入院患者の転倒例と一般入院患者との比較では握力,歩行速度,片脚立位時間において精神科入院患者が一般入院患者の最大値よりも高値を示した。<BR>【考察】本研究では,精神科入院患者については十分な同意が得られず測定に至らない症例が多く,一般入院患者については独歩症例が少なく十分な検討には至らなかった。しかし精神科入院患者は転倒の有無に関係なく全ての年代において健常者よりも身体能力的に劣っており,精神科入院患者の転倒例は一般入院患者と比べて評価結果が比較的良好にも関わらず転倒していた。本研究では症例数も少ないことから転倒例の身体特性は明らかにならなかったものの精神科入院患者には同年代の健常者に比べて身体能力が低い者の存在が認められ,精神科入院患者に対する理学療法の必要性が示唆されたものと思われた。
著者
堀本 佳誉 粥川 智恵 古川 章子 塚本 未来 大須田 祐亮 吉田 晋 三和 真人 小塚 直樹 武田 秀勝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bb1180, 2012

【はじめに】 脳性麻痺(以下CP)児は乳児期に、健常児と比較してより多くのDNA損傷が引き起こされていることが報告されている。健常児の場合、DNA損傷修復能力は発達とともに高まることが示されているが、乳児期以降のCP児に対する研究は行われておらず、発達による変化が見られるかどうかが不明である。また、一般的に健常成人では、過負荷な運動が過剰なDNA損傷を引き起こす。さらに加齢とDNA損傷修復能力には関連性があり、修復できないDNAの蓄積が老化を促進する。CP児は、臨床的に見て加齢が早いと言われてきたが、「生涯にわたる非効率で過負荷な運動による過剰なDNA損傷」と「運動量の不足によるDNA修復能力の低下」が悪循環し、修復できないDNAの蓄積速度が健常者より早くなるために、早老となっている可能性が高い。DNA損傷修復能力を高めるためには、定期的で適度の運動量が必要であるとされている。このためCP児のDNA損傷修復能力を高めるためには、過負荷な運動にならないように、慎重に運動量の決定を行う必要がある。DNA損傷修復能力という視点から、CP児の最適な運動量・頻度を判断し、早老を予防するための研究基盤を確立することを目的に、今回は安静時のCP児のDNA損傷修復能力の解明に焦点を絞り研究を行った。【方法】 対象は、学齢期の脳性麻痺児12名(13.8±4.3歳、6歳~18歳、男性6名、女性6名、Gross Motor Function Classification レベル1 4名、レベル2 2名、レベル3 6名)とした。脳性麻痺児と学年、性別が一致する健常児12名(14.8±4.4歳、6歳~18歳、男性6名、女性6名)を対照群とした。DNA損傷修復能力の指標として、尿中8-ヒドロキシデオキシグアノシン(以下8-OHdG)濃度の測定を行った。測定には早朝尿を用いた。尿中8-OHdG濃度の測定にはELISA法による測定キット(日本老化制御研究所)を用いた。また、尿中クレアチニン濃度を測定した。8-OHdG濃度をクレアチニン濃度で割り返し、クレアチニン補正を行った。 統計学的検討にはR2.8.1を用いた。シャピロウイルク検定を行い、正規分布が確認された場合はt検定、確認できなかった場合はマンホイットニーの検定を行った。危険率は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者と保護者に対し、書面・口頭にて本研究への協力を要請した。本研究への協力を承諾しようとする場合、書面および口頭にて研究の目的や方法などを説明し、対象者・保護者に質問などの機会を十分与え、かつそれらに対して十分に答えた上で文書にて同意を得た。本研究は千葉県立保健医療大学倫理委員会の承認を得た上で実施した。【結果】 脳性麻痺群の8-OHdG濃度は11.4±2.0 ng/mg CRE、健常群は8.2±0.9 ng/mg CREであった。シャピロウイルク検定の結果、正規分布は確認できなかった。2群間の比較のためにマンホイットニーの検定を行ったが、有意な差は認められなかった。【考察】 Fukudaらは、本研究と同様にDNA損傷修復能力の指標として尿中8-OHdG濃度の測定を行い、脳性麻痺児は乳児期に健常児と比較してより多くのDNA損傷が引き起こされていると報告している。Tamuraらは健常児の尿中8OHdG濃度の測定を行い、発達に伴い尿中8-OHdG濃度が低下することを示している。乳児期のCP児で、尿中8-OHdG値が高値にであったのは、一時的に強い酸化ストレス下にあるのか、何らかの原因でDNA損傷修復能力が低いのか、それとも両方が原因であるのかは不明である。今回の結果では、同年代の健常児と比較し、有意な差は認められなかった。このことより、脳性麻痺児は乳幼児期には一時的に強い酸化ストレス化にあるか、DNA損傷修復能力が低いため尿中8-OHdG濃度が高値を示すものの、その後健常児同様に発達に伴いDNA損傷修復能力が高まることにより尿中8-OHdG濃度が低値となり、健常児と有意な差を認めなくなったと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 今後、運動負荷量の処方を尿中8OHdG用いて決定できるかどうかの研究や、DNA損傷修復能力を向上させるための適切な運動負荷量の処方を検討するための研究、CP者の加齢のスピードを遅くするための運動負荷量の処方のための、基礎資料となる点で意義のある研究であると考える。謝辞;本研究は、本研究は科学研究費補助金(若手 スタートアップ 2009~2010)の助成金を受けて実施した。
著者
河野 将光 佐藤 亮 三宮 克彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】熊本地震発災後の平成28年6月14日,震源地である益城町で応急仮設団地入居が開始された。JRATは益城町役場隊を配置。役場の各関係課と協力して仮設住宅初期改修対応を進めてきた活動内容を報告する。</p><p></p><p>【方法】5月21日仮設住宅950世帯の1次募集開始。5月23日益城町役場内に役場隊配置。保健師と共に高齢者,障がい者等に対し,抽選時にスロープ付仮設住宅への入居マッチングを提案(却下)。そこでJRATが避難所で個別対応した237名と仮設住宅当選者との突合を相談(交渉難航)。6月9日仮設住宅抽選発表。6月14日初の仮設団地鍵渡し実施。役場隊は関係課より仮設住宅平面図を入手,住環境確認。6月18日別の仮設団地鍵渡しに役場隊が参加し初期改修の説明実施。6月22日保健師情報よりJRAT個別対応者のうち仮設住宅当選者が47名と判明。6月21日役場隊が関係課と協議し仮設住宅2次募集の申込書には「移動が車椅子」の選択肢が入る。初期改修の流れを関係課で統一。6月25日初期改修対応開始。JRAT活動中の初期改修依頼は40件,7月30日迄でJRATが受けた訪問調査は終了した。</p><p></p><p>【結果】初期改修対応は各関係課が混乱多忙状態,個人情報提供が困難等により初期改修希望申請に対応する,とした。仮設住宅は1DK,2DK,3DKの3タイプ,基本設計はどの仮設団地も概ね同じ。玄関外に2~3段の段差,トイレ浴室前,浴室入口に約10cmの段差。玄関内部,トイレ内部,浴室扉部には手すりがあった。初期改修受付は復興課が窓口となり役場隊へ情報提供。役場隊は日程調整し活動隊が現場で評価し必要最小限の改修案をまとめ役場隊へ報告。役場隊は復興課へ報告書を提出した。初期改修の状況について,対象者は高齢者38名,未成年2名であった。また1名を除き被介護保険者または身障手帳,療育手帳を持っていた。対応内容は,段差対応が31件。内訳は玄関への対応が26件中段差昇降用手すり設置17件,スロープ設置8件であった。またトイレ前・浴室前の段差の手すり設置は14件であった。</p><p></p><p>【結論】仮設住宅は構造上段差が生じるため,段差昇降が困難な高齢者や車いす生活者は不自由が生じる。初期改修は段差対応が多く,構造上段差部改修対応は予め予測できた。活動隊は,復興費用を使った改修対応を意識し必要最小限の改修を心掛けてもらった。また仮設住宅に対しては,我が国が超高齢社会であるため段差部へはあらかじめ手すりの設置,さらには段差がない仮設住宅の開発を望みたい。また,JRAT活動期間中に初期改修対応手順が構築できた要因としては,震災後の混乱の中役場隊が益城町の各関係課の状況を理解し,日々変化する状況への対応し,錯そうする情報を整理しながら信頼関係を構築したことによりJART活動を啓発できたことがあげられた。今回の経験から有事に際し,発災直後から自治体にJRATが組み込まれた枠組みの構築が望まれる。</p>
著者
久保 雅昭 関屋 昇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.G0422, 2004

【目的】<BR> <BR> 厚生労働省の医療改革により入院在院日数が削減され、以前よりも早期の予後予測や効率的な理学療法が要求されているように思われる。また、入院患者の情報収集についても同様であり、このためには病棟との連携が必須である。当院では、脳神経外科病棟(以下脳外)において、今まで週1回リハビリカンファレンスを開催しているが、患者情報の交換が十分であるとはいえない。最近、脳外での朝・夕の申し送りが廃止され、ウォーキングカンファレンス(以下WCF)が開始されたため、効率的な情報交換を目的にリハビリテーション科(以下リハ科)でも週1回参加することになった。リハ科の参加開始1ヶ月の時点で、連携に関する問題点を明らかにすることを目的として、アンケートによる意識調査を行った。<BR><BR>【方法】<BR> 対象<BR> <BR> 当院脳外に勤務する看護師20名(女性18名、男性2名)経験年数1から30年(4年以下は9名)。リハ科に所属するPT7名・ST1名の8名、経験年数1から4年(女性7名、男性1名)。<BR><BR> WCF開始1ヶ月時にアンケート調査を行った。アンケートの内訳は、患者とその家族関連(以下Pt)5項目、自らの業務関連(以下M)4項目、他職種との連携関連(以下R)5項目、設備関連(以下H)1項目の15項目とした。各項目について、評定尺度(5・7段階)を用いて調査した。これらを経験5年以上の看護師(以下N)、経験4年以下の看護師(以下N4)、およびリハ科で集計し、Nとリハ科、N4とリハ科、NとN4の組み合わせで傾向と要因を比較した(評定尺度の中立要素を基準にポジティブ、ネガティブ要素と定義した)。<BR><BR>【結果】<BR><BR> 各項目の回答率は100%であった。N・N4・リハ科間において最も共通性が認められたのは、H項目のネガティブ要素であった。次はM項目の中立要素に共通性がみられ、NとN4間ではポジティブ要素への共通性も認められた。そしてR項目では、N4とリハ科間にネガティブ要素、NとN4間に中立要素の共通性があった。最もバラツキが大きかったPt項目では、ほとんど共通性は認められなかった。<BR><BR>【考察】<BR><BR> 今回リハ科と病棟の情報共有化について意識調査をWCF開始1ヶ月時に行った。Pt項目のバラツキから情報の共有化が良好でないことが推測され、現状の情報交換方法では限界とも考えられる。また、R・M項目に共通性がないことについては、リハ科だけの要因としてWCFへのとまどいや経験年数、病棟頼りの情報収集等が考えられる。また、看護師とリハ科の設備不足への共通性から患者サービスという視点は同じであること、看護師の業務に対するポジティブな姿勢から、リハ科の積極的な発言やWCFについての探求・応用が、今後の患者の情報共有化に重要であり、各職種間の連携を深めることになると考えられる。<BR>【まとめ】
著者
寄本 恵輔 有明 陽佑 早乙女 貴子 小林 庸子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【背景】</p><p></p><p>進行性神経筋疾患の呼吸筋力低下による呼吸障害に対して,気道クリアランスの維持のため最大強制的吸気量(MIC)の維持は重要であり,また,MICを測定することは胸郭柔軟性の把握に役に立つ。しかし,筋萎縮性側索硬化症患者(ALS)では球麻痺や気管切開などにより息溜めができない場合,MICの測定が困難となり,胸郭柔軟性の把握が困難となる。</p><p></p><p>【目的】</p><p></p><p>ALS患者に息溜め機能を有する機器を用いた最大強制吸気流量(LIC)測定について検討する。</p><p></p><p>【対象】</p><p></p><p>当院にて2013年4月から2016年7月までに呼吸理学療法を実施したALS患者20名。また,長期評価対象者として,5名を抽出した。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>簡易流量計と簡易マスクを使用し肺活量(VC)を測定,気管切開の場合はflection tubeを用いた。MIC,LICの測定はバックバルブマスク(BVM)を用い,LICにおいては当院で作成したLIC機器を付け加えた。MIC,LICはBVMで送気を1~3回行い,マノメーターで安全管理し,本人が我慢できる最大限界圧時の吸気量として測定した。MIC,LICにおいて,VC以上の換気量が得られたとする基準は,VCより10%以上増加することとした。また,呼吸理学療法開始時のLICとMICの換気量を比較し,統計学的有意差の有無を確認するため換気量に正規性を確認した後に対応のあるT検定を行い,平均値の差は0.05水準で有意とした。さらに,経時的に評価が確認できた症例に対し,VC,MIC,LICの値を抽出した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>20名中MICの測定が可能であった症例は9名であり,VC以上の換気量が得られた症例は2名であった。その一方でLICは全例測定が可能であり,全例ともVC以上の換気量が得られた。また,MICと比較しLICは有意に換気量が増加した(t値-7.006,p<0.01)。経時的評価ではVC,MICは測定困難となったがLICは球麻痺の症状の悪化や気管切開後においても評価が可能であった。</p><p></p><p>【考察】</p><p></p><p>ALSの呼吸障害は呼吸筋麻痺に伴う換気障害であり,胸郭柔軟性が低下し,肺実質の柔軟性が低下することで排痰ケアを難渋にする。本研究よりLICは,ALSの全病期において胸郭柔軟性の評価が可能であることが示された。つまり,これまで球麻痺症状や気管切開後における人工呼吸器装着期による胸郭柔軟性低下に対する評価は困難であったが,LICの測定が可能となることでALSの呼吸障害の病態像を胸郭柔軟性という視点で捉えることが可能となった。LIC測定は誰もが同じ水準で実践できる呼吸理学療法になるものと考えている。</p><p></p><p>【展望】</p><p></p><p>ALS患者個人がLICを在宅で実施出来るようにするために2014年より機器開発委託メーカーと共同し,LIC TRAINERを作成した。本製品の特徴は,LIC測定機能に加え,機密性が向上し,患者自身でエアリークをコントロールできる呼気弁があること,高圧がかかった際に除圧する安全装置が内蔵されている。2016年3月PMDAより医療機器として受理,同年5月に特許出願(共同出願),同年9月に商標登録申請,販売が開始された。</p>
著者
宮村 章子 解良 武士 一場 友実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.D3O3084, 2010

【目的】<BR><BR> 呼吸リハビリテーションでは、Rapid-shallow patternによる呼吸困難感の緩和に意識的な呼吸数の調整が行われる。これは呼吸数を減じ一回換気量を増大させることにより、肺胞換気量が増大し死腔換気率が改善するからであるが、我々は呼吸数の減少そのものも呼吸困難感と関連がある呼吸運動出力の抑制に関わっているのではないかと考えた。本研究は、呼吸数の調整が呼吸運動出力の指標である気道閉塞圧(P<SUB>0.1</SUB>)に及ぼす影響を検討することを目的とする。<BR><BR>【方法】<BR><BR> 健常成人10名(男性6名、女性4名、20.8±0.4才)を本研究の対象者とした。呼吸運動出力の指標としてP<SUB>0.1</SUB>を測定するために、T字状の2way-rebreathing valveにバルーン式閉塞装置を組み合わせた気道閉塞装置(Huns Rudolph、死腔量48.9ml)を用いた。気道閉塞装置の口側にはマスク(MAS0215, ミナト医科学)を接続し、マスクはストラップで被験者の顔に固定した。また気道閉塞装置のサイドポートに直径4mmのチューブを介して差圧トランスデューサー (TP-602G, 日本光電製)を接続し、気道閉塞装置の呼気側に呼気ガス分析器(AE-300S, ミナト医科学)の熱線式トランスデューサーを接続した。差圧トランスデューサーと呼気ガス分析器のアナログアウトプットをADコンバーター(PowerLab 16/sp, ADInstruments)へ接続し、それらの信号をPCに取り込んだ。呼気終末時に気道閉塞装置の吸気側に備わる閉塞用バルーンを拡張させて吸気口を閉塞し、気道内圧が陰圧に転じてから100ms後に得られる口腔内圧をP<SUB>0.1</SUB>値とした。対象者を背臥位におきマスクを装着した後、電子式メトロノームにより呼吸数を10回/分、15回/分、20回/分に調整した上で4分間呼吸を行わせた。呼吸数の調整はランダムとした。測定開始後2分後から4分後まで至適の間隔で計5回P<SUB>0.1</SUB>を測定し、その絶対値の平均値を算出した。呼吸数、一回換気量、分時換気量、呼気終末炭酸ガス濃度(P<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>)は、呼気ガス分析器からの信号を波形解析ソフト(Chart Ver.5.3, ADInstruments)で解析して算出した。統計処理は反復測定による一元配置分散分析を、その後の検定として多重比較検定を行った。統計ソフトウエア-はSPSS Ver.13.0 (SPSS)を用い、有意水準はP<0.05とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR><BR> 対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。また対象者のデータは、すべて統計量として処理し、さらに暗号化されたUSBに保存して個人情報保護に配慮した。<BR><BR>【結果】<BR><BR> メトロノームに合わせて呼吸数は10.4±0.7、14.9±0.2、20.1±0.3回/分と変化し、呼吸数の増加に伴い一回換気量は1.1±0.54、0.78±0.41、0.57±0.22Lと有意に減少した(F=17.37, P=0.001)。一方、呼吸数が増加しても分時換気量は変化しなかったが、P<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>は有意に減少した(F=7.44, P<0.05)。呼吸運動出力の指標であるP<SUB>0.1</SUB>値は一回換気量が減少したにもかかわらず呼吸数の増加とともに上昇し、それぞれ1.2±0.5、1.5±0.9、2.2±1.6cmH<SUB>2</SUB>Oであった(F=6.12, P<0.05)。<BR><BR>【考察】<BR><BR> 呼吸数が増加しても一回換気量が増加しても呼吸運動出力は増加しうるが、今回のように換気需要が同じであっても、呼吸数を増加させ一回換気量を減少させるとP<SUB>0.1</SUB>値は呼吸数の増加に比例して増加した。これはほぼ同じ換気量であれば、肺胸郭系の弾性抵抗の増加よりも気道系の粘性抵抗増加に対して呼吸筋が動員されやすいことを示していると考えられる。逆に呼吸数を減ずると一回換気量が増加するにもかかわらずP<SUB>0.1</SUB>値が減少することから、呼吸リハビリテーションにおける呼吸数調整によるアプローチは、呼吸運動出力の抑制の観点からも効果があると考えられた。ただし本研究の場合、呼吸数の増加に伴いP<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>が低下していることから、本来の換気需要よりもやや過換気または低換気に調節されていた可能性も考えられ、今回のP<SUB>0.1</SUB>値の増加は正当な換気需要に見合わない意識的な呼吸数増加によってもたらされた可能性も否定できない。従って呼吸数増減方法を変えて検討する必要もある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR><BR> Rapid-shallow patterに対する深くゆっくりとした呼吸パターンの効果は、主に肺胞換気量の増大や換気効率の面から述べられていた。本研究の結果から、このアプローチは呼吸運動出力の抑制の面からも呼吸困難感を減少させていると考えられた。<BR><BR>
著者
解良 武士 宮村 章子 一場 友実 下井 俊典
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2014, 2010

【目的】<BR><BR> 気道閉塞圧(P<SUB>0.1</SUB>)は横隔神経の電気活動と直線的な関係があるため、呼吸運動出力の指標として用いられている。P<SUB>0.1</SUB>は一回換気量や呼吸数の測定に比べて肺、胸郭の物理的特性に影響を受けにくいうえ非侵襲的に測定が可能なため、運動生理学や呼吸リハビリテーション分野の研究へ応用されている。しかしながらP<SUB>0.1</SUB>値は安静時であっても呼吸運動自体の揺らぎや測定誤差によって測定値にばらつきが出現するが、その測定値の信頼性については十分検討されていない。本研究はP<SUB>0.1</SUB>測定の信頼性を検討することを目的とする。<BR><BR>【方法】<BR><BR> 健常成人11名(男性7名、女性4名、20.8±0.4才)を対象とした。呼吸運動出力の指標としてP<SUB>0.1</SUB>を測定するためにT字状の2way-rebreathing valveにバルーン式閉塞装置を組み合わせた気道閉塞装置(Huns Rudolph、死腔量48.9ml)を用いた。気道閉塞装置の口側にはマスク(MAS0215、ミナト医科学)を接続し、マスクはストラップで被験者の顔に固定した。P<SUB>0.1</SUB>は、呼気終末時に気道閉塞装置の吸気側に備わる閉塞用バルーンを拡張させて吸気口を閉塞し、気道内圧が陰圧に転じてから100ms後の口腔内圧を測定することで得られる。気道閉塞装置のサイドポートに直径4mmのチューブを介して差圧トランスデューサー (TP-602G, 日本光電製)を接続し口腔内圧を測定し、気道閉塞装置の呼気側に呼気ガス分析器(AE-300S, ミナト医科学)の熱線式トランスデューサーを接続し、呼吸数、一回換気量、分時換気量、呼気終末炭酸ガス濃度(P<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>)を測定した。差圧トランスデューサーと呼気ガス分析器のアナログアウトプットをADコンバーター(PowerLab 16/sp, ADInstruments)に接続し、それらの信号をPCに取り込みChart Ver.5.3 (ADInstruments)で解析を行った。対象者を背臥位におきマスクを装着した後、6分間静かに呼吸を行わせた。測定開始後1分後から6分後まで、30秒に1回の割合でP<SUB>0.1</SUB>を測定し、10回の測定値を得た。検者は測定に熟達した同一の1名とした。P<SUB>0.1</SUB>値はすべて絶対値で表した。信頼性の検討には級内相関係数(ICC)を用い、検者内信頼性にはICC(1,k)を用いた。ICC(1,k)は測定回数を2回より10回まで1回ずつ増加させてICC(1,2)~ICC(1,10)を、一元配置分散分析により標準誤差(SEM)をそれぞれ求めた。統計ソフトにはSPSS ver.13.0 (SPSS)を用いた。<BR><BR>【説明と同意】<BR><BR> 対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。また対象者のデータはすべて統計量として処理し、さらに暗号化して保存して個人情報保護に配慮した。<BR><BR>【結果】<BR><BR> 11名の被験者から得られたP<SUB>0.1</SUB>の平均値は0.7~4.8cmH<SUB>2</SUB>O、変動係数は16.6~50.7%であった。ICC(1,1)は0.704(95%信頼区間0.509-0.885)で、ICC(1,2)~ICC(1,10)はそれぞれ0.877、0.940、0.956、0.973、0.975、0.967、0.952、0.961、0.960(95%信頼区間0.565-0.966 ~ 0.912-0.987, SEM; 0.48-0.65)であった。目標係数を0.9とし、10回反復測定で得られるICC(1,1)から求められた予測される必要な最小反復回数は4回(3.8回)であった。<BR><BR>【考察】<BR><BR> 安静時でも呼吸数、一回換気量には変動があり、P<SUB>0.1</SUB>にも同様の現象が起こる。したがって数回の測定を行い、その平均値を代表値として用いる必要がある。今回の10回の試験で得られたICC(1,1)は0. 704(95%信頼区間;0.509~0.885)であったので1回の測定でも信頼性がある程度は確保されると考えられるが、信頼区間を考慮すると少なくとも3回以上の測定値の平均が必要と考えられる(ICC(1,3)の95%信頼区間;0.837-0.982)。これまでのP<SUB>0.1</SUB>を用いた研究は経験的に5回程度の平均値を用いるものが多かった。今回の研究では5回の測定ではSEMが0.48と大きかったものの、ICC(1,1)は0.973(95%信頼区間;0.937-0.992)、求められた最小反復測定回数は4回であったことから、これまでの5回の平均値を用いる方法は妥当だったと考えられた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR><BR> 呼吸運動出力の指標であるP<SUB>0.1</SUB>測定は、非侵襲的で簡便な方法として従前より主に呼吸生理学の分野で用いられていた。本研究の結果から信頼性の高い測定値であるので、呼吸リハビリテーション分野での基礎研究や効果判定に応用することが可能であると考えられた。<BR><BR>