著者
藤高 紘平 大槻 伸吾 大久保 衞 橋本 雅至 山野 仁志 藤竹 俊輔
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C0959, 2008

【目的】自然立位とサッカーボールキック動作(以下キック動作)における足アーチ高率の変化量、足趾屈曲筋力とスポーツ障害との関係を調べることである。<BR><BR>【方法】対象は大学生男子サッカー選手51名(平均年齢20.5±1.1歳、平均身長173.4±6.2cm、平均体重66.8±5.7kg)とした。自然立位における足アーチ高率は足長、地面から舟状骨結節までの高さを測定し算出した。キック動作は3m先に設置したマーカーをボールと仮定し、ボールをより遠くへ飛ばすようにイメージして蹴ることを指示し3回行わせた。キック動作はデジタルビデオカメラ(Canon社製)を、レンズの高さ3cm、被写体までの距離2mに設置し、サンプリング周波数を60Hzにて記録した。キック動作における足アーチ高率は動画を静止画像に分割し算出した。足趾屈曲筋力測定はデジタル握力計(竹井機器工業社製)を改良した測定器を用いた。データ分析は測定時より1年間以前の整形外科受診結果(障害例は練習を2日以上休む場合に全例整形外科を受診したものとした)を、障害を有した支持脚と障害がない支持脚で足アーチ高率の変化量と足趾屈曲筋力を比較した。統計学的処理は対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。<BR><BR>【結果】整形外科受診59件中、足関節捻挫9件の足アーチ高率の変化量(1.53±0.4%)、足関節障害4件(0.95±0.3%)、足部障害4件(1.55±0.5%)、膝関節捻挫2件(0.89±0.1%)、膝関節障害2件(0.42±0.6%)、障害なし21件(0.94±0.64%)であった。足関節捻挫を有した支持脚の足アーチ高率の変化量は有意に増大した(P<0.05)。足部障害を有した支持脚の足アーチ高率の変化量は大きい傾向にあった(P<0.1)。足関節捻挫、足部障害を有しているものともに足趾屈曲筋力は小さい傾向が認められた(P<0.1)。<BR><BR>【考察】足アーチ高率の変化量の増大は、足部の衝撃吸収機能および、足圧中心位置の変位によるバランス能力の低下を引き起こし、足部・足関節の不安定性を増大させると考えられた。このことから足アーチ高率の変化量の増大は足関節捻挫、足部障害の誘因の一つになることが示唆された。また足趾屈曲筋力の低下により足アーチの保持や足趾把持力が低下し、さらにバランス能力の低下や足部への衝撃ストレスが増大すると考えられる。これらのことが足関節捻挫や足部障害の発生要因になると考えられた。今後、足関節捻挫や足部障害の発症に影響を及す因子や、足アーチ高率の変化量と足部の衝撃吸収機能との関連性についてさらに検討していく必要があると考えられた。<BR><BR>【まとめ】足アーチ高率の変化量と足趾屈曲筋力は足関節障害や足部障害の発生要因となり、足趾屈曲筋力の測定と足部のアライメント評価の重要性が示唆された。
著者
関野 良祐 釜野 洋二郎 石井 真理子 中崎 慶子 中俣 修 上田 泰久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2222, 2011

【目的】側腹筋は外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋に分けられ、それらの腱膜は1つの機能単位を構成して体幹の運動に関与している。特にインナーユニットの一つである腹横筋は体幹の安定性に重要といわれている。腹横筋の収縮を促すために,Abdminal Drawing-in(腹部引き込み運動)やPelvic tilt(骨盤後傾運動)などの運動療法が実施されることが多い。しかし,これら運動療法で収縮を促すことが難しい症例に対して,仰臥位での股関節内転運動を実施すると体幹の安定性が向上した。股関節の内転運動に関する先行研究では,股関節の運動(内転・外転・外旋)が骨盤底筋の収縮を活発にするという報告(小林ら2008) がある。また解剖学的な連結として,大内転筋が坐骨結節や内閉鎖筋を介して骨盤底筋と連結される(Thomas W. Myers 2009)。骨盤底筋と腹横筋はインナーユニットを形成する筋であり,内転筋群の収縮を促通することにより骨盤底筋を介して腹横筋の活動も高まると考えられる。本研究の目的は,股関節の内外転運動と側腹筋との関連性を検討することである。<BR><BR>【方法】対象は,健常成人20名(年齢20.9±1.3歳、身長165.8±7.2cm、体重56.9±7.7kg)とした。計測機器は,側腹筋の筋厚の測定として超音波診断装置My Lab25(日立メディコ社製)を使用した。測定肢位は,上肢を体側へ伸ばし,下肢が股関節内外旋中間位(第2中足骨が床へ垂直) になる背臥位とした。運動課題は背臥位での等尺性の股関節内外転運動とした。筋力の測定はhand-held dynamometer(以下、HHD)を用い,股関節内外転運動の最大等尺性収縮時の発揮筋力を調べ,負荷量は各々20%と60%の2種類とした。測定部位は軸足側の中腋窩線上で,肋骨下縁と腸骨稜の中間点とし,安静時・20%内転・60%内転・20%外転・60%外転の5条件における腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋の筋厚を測定した。測定はランダムに行い,十分に休憩をはさみ5条件を各3回実施して,その平均値を求めた。統計処理は一元配置分散分析後、多重比較(Bonferroni)を用いて行った。有意水準は5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】本研究の内容を書面にて十分説明し,同意書に署名を得た。<BR><BR>【結果】腹横筋の筋厚は、安静時2.79±0.69mm・20%内転3.10±0.66 mm・60%内転3.48±0.83 mm・20%外転2.91±0.86mm・60%外転3.05±0.89mmであった。安静時と比較して,20%内転・60%内転では筋厚が有意に増大した(p<0.01)。また20%内転よりも60%内転で有意に増大した(p<0.05)。さらに、20%外転よりも60%内転で有意に増加した(p<0.01)。<BR>内腹斜筋の筋厚は、安静時8.59±1.66 mm ・20%内転8.90±1.65 mm・60%内転9.39±2.04 mm・20%外転8.87±1.99 mm・60%外転9.04±2.05mmであった。安静時と比較して20%内転(p<0.05)と60%内転(p<0.01)で筋厚が有意に増大した。さらに、20%外転よりも60%内転で有意に増加した(p<0.05)。<BR>外腹斜筋の筋厚は、安静6.37±1.24 mm ・20%内転6.38±1.39 mm・60%内転6.53±1.55 mm・20%外転6.25±1.39mm・60%外転6.32±1.38mmであり,有意差は認められなかった。<BR><BR><BR>【考察】腹横筋では安静時に比べ20%・60%内転時に有意な筋厚の増加がみられた。これは骨盤底筋群との筋膜を介した連結を大内転筋がもつために生じたと考えられる(Thomas W. Myers 2009)。大内転筋の収縮は閉鎖筋膜・肛門挙筋腱弓に伝わり、骨盤底筋を収縮させたと考えられる。その結果、骨盤底筋の収縮により腹腔内圧は上昇し、インナーユニットが活性化され腹横筋が収縮したと考えられる。内腹斜筋では、安静時に比べ20%・60%内転時に有意な筋厚の増加がみられた。これに対し、外腹斜筋の変化については、すべての課題動作に対して筋厚の増加がみられなかった。これは、胸腰筋膜を介し内腹斜筋には腹横筋との連結があるが、外腹斜筋では連結がなかったために変化が起こらなかったと考える。胸腰筋膜は、内腹斜筋と腹横筋の収縮を繋いだ水圧ポンプ作用があり、これが腰椎の安定性に寄与しインナーユニットの収縮を促す(Diane Lee 2001)。これらのことから、股関節内転筋運動により骨盤底筋を介した、インナーユニットである腹横筋と腰椎安定に関わる内腹斜筋の、筋膜連結による活性化が可能であることが分かった。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今回の実験で、股関節内転筋収縮により腹横筋の収縮を促すことが可能であることが解った。腹横筋エクササイズは体幹のみだけでなく、股関節内転筋からの介入によりインナーユニットの活性化も可能であることを理解し、これらを併用した運動療法の有効性が示唆された。
著者
高山 正伸 二木 亮 阿部 千穂子 松岡 健 江口 淳子 陳 維嘉 長嶺 隆二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100438, 2013

【はじめに、目的】 股関節疾患のみならず膝関節疾患においても股外転筋力の重要性が指摘されており,なかでも中殿筋は特に重要視されている。中殿筋の筋力増強運動として坐位での股外転運動(坐位外転運動)を紹介している運動療法機器カタログや病院ホームページを散見する。しかし坐位における中殿筋の走行は坐位外転の運動方向と一致しない。坐位においては外転ではなく内旋運動において中殿筋は活動すると考えられる。本研究は①坐位外転運動における中殿筋の活動性は低い,②坐位内旋運動における中殿筋の活動性は高いという2つの仮説のもと,坐位外転運動と坐位内旋運動における中殿筋の活動量を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は下肢に既往がなく傷害も有していない20~43歳(平均29.6歳)の健常者14名(男性9名,女性5名)とした。股関節の運動は①一般的な股屈伸および内外転中間位での等尺性外転運動(通常外転)②坐位での等尺性外転運動(坐位外転),③坐位での等尺性内旋運動(坐位内旋)の3運動とし,計測順序はランダムとした。筋電図の導出にはTELEMYO G2(ノラクソン)を使用しサンプリング周波数1000Hzで記録した。表面電極は立位にて大転子の上方で中殿筋近位部に電極間距離4cmで貼付した。5秒間の等尺性最大随意収縮を各運動3回ずつ記録した。筋の周波数帯である10~500Hz以外の帯域をノイズとみなしフィルター処理を行った。5秒間の筋活動波形のうち3秒間を積分し平均した値を変数として用いた。統計解析は有意水準を5%としFriedman検定を行った。多重比較についてはWilcoxon符号付順位検定を行い,Bonferroniの不等式に基づき有意水準を1.6%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者にはヘルシンキ宣言に基づき結果に影響を及ぼさない範囲で研究内容を説明し同意を得た。【結果】 通常外転積分値の中央値(25パーセンタイル,75パーセンタイル)は149.5(116.0,275.0)μV・秒で坐位外転のそれは127.5(41.8,204),坐位内旋のそれは219.5(85.1,308)であった。Friedman検定の結果3運動には有意差が認められ,多重比較の結果坐位外転は坐位内旋に対して有意に活動量が劣っていた(P=0.0054)。通常外転と坐位外転にも中央値に違いがみられたが統計学的な差は認められなかった(P=0.0219)。通常外転と坐位内旋にも有意差を認めなかった(P=0.124)。最も大きな筋活動量が得られた被験者の数は通常外転4名,坐位外転1名,坐位内旋9名,逆に最も筋活動量が小さかった被験者の数は通常外転3名,坐位外転10名,坐位内旋1名であった。MMTの方法に類似している通常外転によってその他の2運動を正規化すると坐位外転の中央値は76.9(31.2,102.3)%,坐位内旋のそれは119.2(86.9,183.7)%であった。坐位外転では筋力増強運動に必要な筋活動量40%を下回る被験者が4名(14.9~31.2%)みられ,100%を超える者は3名だけであった。一方坐位内旋においては40%未満の被験者はみられず,9名の被験者が100%以上であった。最小値は69.7%であった。【考察】 股関節は球関節のため肢位によって筋作用は変化する。股関節が屈伸中間位のとき矢状面でみた中殿筋の走行は大腿骨長軸と概ね一致しており同筋は外転作用を有する。しかし股関節が屈曲位となる坐位では走行が大腿骨長軸と一致せずむしろ直角に近くなり,中殿筋の作用は外転ではなく内旋になる。本研究結果では通常外転と坐位外転に有意差を認めなかったが,効果量を0.5,有意水準を0.016,検出力を0.8に設定すると48名のサンプル数が必要で我々のサンプル数は不足している。差がないと結論付けることには慎重であるべきである。この状況下においても坐位外転と坐位内旋には有意差が認められた。本研究結果は坐位外転運動が中殿筋の筋力増強運動として非効率であることを明らかにした。加えて坐位内旋運動では通常の外転運動と同等以上の筋活動が得られることも明らかとなった。この傾向は前部線維で強くなり,後部線維では異なる結果をもたらすと予想される。どの運動によって最も大きな筋活動が得られるかは被験者によって異なっていた。その原因として坐位における骨盤の肢位が影響していると考えられる。骨盤が後傾すればするほど中殿筋の走行はより大腿骨長軸と一致する。多くの被験者に関しては坐位内旋運動で高い中殿筋の筋活動が得られたが,一部にそうでない被験者もみられた。骨盤が後傾することによって内旋運動における筋活動は低下し,逆に外転運動における活動が増加すると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究によって中殿筋に対する誤った運動指導は是正されるであろう。
著者
細谷 匠 渡邊 昌宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】跳躍力は陸上競技やバレーボール,バスケットボールなど多くの競技種目で必要とされる。近年,スポーツでは体幹筋トレーニングが数多く取り入れられているが,競技で必要とされる跳躍力にどのような影響を及ばしているかは明確になっていない。そこで本研究では,体幹筋トレーニングが跳躍力にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることとした。【方法】対象は健常男子大学生21名(年齢19.5±1.1歳,身長169.9±5.4cm,体重65.3±6.5kg)とした。介入方法として体幹筋トレーニング(TMT),跳躍に影響を与えるといわれている下腿三頭筋へのDynamic stretching(DS),腹部圧迫(COMP)の3種類を実施した。TMTとしてFront Bridge,Back Bridge,side Bridgeをそれぞれ1分30秒ずつ保持させた。DSでは最大努力で膝を曲げず真上に連続ジャンプを10回おこなわせた。COMPでは臍部直下から腸骨稜にかけて弾性包帯を使用しできるだけ強く巻いた。それぞれの介入は3日以上の間隔を空けランダムにすべて実施した。跳躍力の評価は垂直跳びとし介入前と介入後それぞれ2回の計測をおこなった。計測には上肢の影響を取り除く為,腰に手を当てた状態でおこない,ジャンプMD(竹井機器工業株式會社)を用いて計測した。介入前と介入後に計測された値はそれぞれ平均値を用いた。統計処理にはSPSS statistics Ver19を用い,各種目における介入前と介入後を対応のあるT検定で比較した。有意水準は5%とした。【結果】TMTでは,介入前(47.0±5.5cm)に比べ,介入後(48.4±6.1cm)に有意に高くなった(P=0.003)。COMPでは,介入前(47.3±5.2cm)に比べ介入後(48.0±5.7cm)において高くなる傾向が認められた(P=0.071)。DSでは介入前後で有意差は認められなかった。【結論】体幹部の安定性には体幹深部筋の活動が重要であると報告されている。また,体幹を安定させる能力が高い者ほど,下肢の生み出す力を無駄なく上方へ伝達できるといわれている。今回の結果から,体幹筋トレーニングによって深部筋の活動が増加し体幹部の安定性が得られたことで,跳躍力が増したと推察された。また,腹部圧迫によっても腹腔内圧が高まり体幹の安定性が得られることで,跳躍力に影響を及ぼす可能性があることが考えられた。これらのことから単に腹圧を高めるだけではなく,自発的に筋収縮を促し筋活動を高めることが,より体幹の安定性に影響を与えることが示唆された。体幹トレーニングによる上下肢の筋活動の影響も関与している可能性もあることから,今後は体幹筋トレーニングによる上肢・下肢への筋活動と跳躍力に及ぼす影響について明確にしていきたい。
著者
小泉 利光 安斎 徹 小野 典子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.743, 2003

【はじめに】当院は回復期リハビリテーション病棟を有し、自宅退院を目標に早期から退院前訪問指導(以下、家庭訪問)や患者家族に対して外泊を促している。そこで、今回、これらの取り組みが入院日数と関連性があるかを調査した。【対象】平成13年4月から平成14年3月までに当院の回復期リハビリテーション病棟から自宅退院した67例を対象とした。内訳は男性37例、女性30例、平均年齢71.54±11.13歳である。疾患は脳血管等疾患46例、脊髄損傷2例、大腿骨頚部骨折等の骨折13例、廃用症候群6例である。なお、内科治療等で回復期リハビリテーション病棟から一般病棟転棟後に自宅退院したものは除外した。【方法】調査項目は、初回家庭訪問日、外泊日、入院日数、当院入院日から初回家庭訪問日までの日数で、家庭訪問と外泊、家庭訪問と入院日数についての関連性を検討した。【結果】家庭訪問を実施した者は50例(74.6%)で、実施内容は環境整備や患者家族に対する生活・介護指導等である。一方、家庭訪問未実施者は17例(25.4%)で、障害が軽度で外泊時に問題がなかった者、以前に家庭訪問済みで環境整備が整っているため必要性が少ないと判断した者、家族の受け入れが不十分で実施できなかった者などである。なお、初回家庭訪問までの平均日数は64.26日であった。 当院入院後の初回外泊の傾向としては、家庭訪問以前に初回外泊し訪問後も何度か外泊した者50例中14例(28%)、家庭訪問当日にそのまま初回外泊した者6例(12%)、家庭訪問後1ヶ月以内に初回外泊した者10例(20%)、2ヶ月以内に初回外泊した者9例(18%)で、家庭訪問実施者の54%は訪問後に初回外泊をしていた。一方、家庭訪問を実施したものの一度も外泊せずに退院した者が5例(10%)、家庭訪問以前に初回外泊し訪問後外泊せずに退院した者4例(8%)であった。 入院日から初回家庭訪問日までの日数と入院日数はr=0.64(p<0.001)と高い相関を示した。なお、平均入院日数は116.60日であった。【考察】早期家庭訪問は退院後の在宅生活をイメージしたアプローチが可能である。また、外泊は患者家族に対する退院への意識付けができ、自宅での介護力の評価や新たな問題点の抽出、家屋改造後のリチェックなどその意義も大きい。今回の結果より家庭訪問実施者の54%は訪問後に初回外泊をしており、家庭訪問は外泊を促す一要因と考えられた。 また、早期家庭訪問は入院日数の短縮にも寄与していると考えられた。これは家庭訪問が早いほど、先に述べた外泊協力も得ながら具体化した目標・問題点に対してチームスタッフが連携して取り組めた結果の一つと思われた。
著者
河上 淳一 田原 敬士 宮崎 優 光野 武志 尾池 拓也 曽川 紗帆 宮薗 彩香 桑園 博明 嶋田 早希子 中村 雅隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P2183, 2010

【目的】我々は第6回肩の運動機能研究会で、投球動作でのボール把持違いによる上肢帯の可動域変化を報告した。結果としては、ボール把持時の母指と示指の位置違いは上肢帯可動域に影響を及ぼさず、ボールと母指の接触面の違いは、3rdTRの可動域に影響していた。しかし、肩関節可動域の変化と投球障害発生は直結するものではない。そこで、今回は投球障害歴の有無に対し、身体的特徴とボール把持項目が投球障害発生にどのような順列で関わるかを検討した。<BR>【方法】対象は、中学生の軟式野球部で、野球歴が一年以上ある65名(年齢13.1±0.8/身長158.88cm±20.42/体重50.39kg±9.75)とした。対象者を、投球障害歴あり群19名(以下:あり群)(肩障害2名/肘障害13名/肩肘障害4名)と、投球障害歴なし群46名(以下:なし群)に分けた。群分けの方法は、過去に病院を受診し、肩または肘に対し投球障害の診断名が下ったものをあり群とし、野球経験の中で肩または肘に疼痛がなかったものや病院を受診しなかったものをなし群と決めた。障害歴に関与する因子、A.個人因子4項目(年齢/身長/体重/野球経験)、B.身体チェック36項目(両側SLR/HBD/HER/HIR/DF/HFT/CAT/2ndER/2nd I R/2nd TR/3rd ER/3rdIR/3rdTR/Elbow-Flex/Elbow-Extension/Supination/Pronation、一側FFD/Latissimus Dorsi)、C.ボール把持8項目(示指と母指の位置関係/母指とボールの接触部位/投球側握力/非投球側握力/母指示指長/母指中指長/示指中指長/ボールと皮膚の距離)、D.ボールの握りに対するアンケート12項目(a.握りを意識するかb.ポジションで握りは変化するかc.ポジションによって握りを気をつけるかd.キャッチボールと守備練習中では握りが違うと感じるかe.指にかかる事を意識しているかf.キャッチボールで縫い目を気にするかg.守備練習中で縫い目を気にするかh.理想の握りがあるか i.ボールを強く投げる時強く握るかj.ボールを強くに投げる時軽く握るかk.握りを習ったことがあるかl.ストレートを習ったことがあるか)を調査した。以上60項目に対し平均値の差の検定はT検定、独立性の検定にはχ二乗検定を行い、群間の有意差を確認した。そこで有意差が認められたものを説明変数とし、障害歴の有無を目的変数に設定した。その変数に対し、多重ロジスティック回帰分析を用いて、どのような順列で判別されるかを確認した。<BR>【説明と同意】本研究はヘルシンキ条約に基づき実施し、同意を得た。<BR>【結果】群間の結果は、A.個人因子では年齢(P=0.0002)、野球歴(P=0.0006)、身長(P=0.014)の3項目で有意差が認められた。B.身体チェックでは有意差を認めなかった。C.ボール把持項目では母指と示指の位置関係(P=0.0008)、母指示指長(P=0.0160)、母指中指長(P=0.0161)、ボールと皮膚の距離(P=0.0249)、投球側握力(P=0.0022)、非投球側握力(P=0.0091)の6項目で有意差が認められた。D.アンケートではa.(P=0.0000)、b.(P=0.0354)の2項目に有意差が認められ、これら計11項目を説明変数に採用した。ロジスティック回帰分析では、変数減少ステップ法を用いP値が0.2000以下になるまで説明変数を減少させた。結果として有意な変数が4項目選択され、P値が低値なものから順に年齢(P=0.0348)、母指と示指の位置関係(P=0.0407)、野球歴(P=0.0502)、アンケートb(P=0.0533)であった。<BR>【考察】一般的に投球障害は、フォームの乱れを持ち合わせたまま、投球を長期継続した結果起こるオーバーワークだと考えられている。本研究においても、オーバーワークの要素となりえる年齢と野球歴の説明変数に高い判別値を認めた。同様の結果が先行研究にあるため、今回の研究の妥当性がうかがえる。ボール把持に関しても、アンケートbと母指と示指の位置関係の説明変数に高い判別値を認めた。そのため、ボール把持は投球障害に強く関与していると考えられる。当院の先行研究をふまえて結果を考察すると、ボールと母指の接触面は上肢帯の可動域に影響を認め、投球障害に影響を認めない。一方で、母指と示指の位置関係は上肢帯の可動域には影響を認めず、投球障害に影響を認める。今回の結果だけではフォームへの影響などは検討できない。そのため、今後は症例数を増やし障害部位別で検討を実施し、ボール把持と身体的特徴との関連性を検討したい。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は、理学療法場面での遠位運動連鎖を検討する重要性を示唆している。<BR>
著者
塩見 誠 糸数 昌史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】日本での腰痛の有訴者率は高く,年代が上がるにつれて高くなる。太田らは腰痛患者を対象とし体幹深層筋に焦点を当てた運動療法を施行した結果,腰痛の程度が改善し,さらに腹横筋,第3,4腰椎高位における多裂筋の筋厚が増加したと報告しており特定の運動療法の効果は認められている。国民のスマートフォン(以下スマホ)所持率は近年67.4%と高い。スマホには様々なアプリケーション(以下APP)が存在しており運動学的解析APPでは,妥当性,再現性は低速歩行にて三次元位置解析装置と同様の性能を有することを示しており,簡便である。またスマホにはミラーリング機能(以下MS)があり携帯端末の画面を投影することが可能である。そこでスマホAPPとMSを組み合わせ視覚的バイオフィードバックシステム(以下BFS)を考案した。本研究は一般的に普及されているスマホを用いて腰痛患者に効果的な運動療法の姿勢特性を捉え,BFSを用いて姿勢の制御を行うことが可能かどうかを明らかにする。</p><p></p><p></p><p>【方法】健常成人男性9名(年齢25.1±2.5歳),測定環境はiPhoneとiPod touchを重ね仙骨後面に固定し,iPhoneのデザリング機能を用い同一Wi-Fi環境とした。使用APPはCSV出力用として「ジャイロくん3」,視覚提示として「水平器Pro」を使用,BFS画面は「Reflector2」を用いてMacBook Pro(Apple Inc)に投影した。</p><p></p><p>姿勢保持は1分間行い,四つ這い対側四肢挙上運動(右上肢-左下肢挙上)とし,条件は1)FB有り,2)FB無しの2条件をランダムに選び,計測は四つ這いでの骨盤の位置を基準とした。運動は「ドローイン後,手と足を地面に水平になるように挙上する様に」と指示した。基準は地面(前後傾,左右回旋0°)とし,FB有りでは画面上に映し出される目印を基準0°に姿勢を合わせるよう指示した。解析は運動開始から20~60秒の40秒間を採用(50Hz)。FBの有無による骨盤前後傾,左右回旋角度を得た。運動中の骨盤角度変化の傾きを恒常誤差(CE)基準値からの誤差を全体誤差(TE)角度変化のばらつきを変動誤差(VE)にて算出し,2条件の平均を対応のあるt検定を用い統計ソフトSPSS用いて解析した。(有意水準5%)</p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>CEでは骨盤は前傾,左回旋する傾向にあった。FBありで前傾は有意に基準に近づいた。</p><p></p><p>TEでは骨盤前後傾角度でFB無しでは6±4°FB有りでは3±2°と有意な変化を認めた。</p><p></p><p>VEでは骨盤左右回旋角度でFB無しでは2±1°FB有りではと1±1°と有意な変化を認めた。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>四つ這い対側挙上運動においてFB無しで骨盤位置がより左回旋かつ前傾の傾向になっているため姿勢保持に大臀筋の膨隆,体幹背筋が作用した可能性が考えられる。骨盤位置の制御では視覚的BF有りの方が目標の位置からの誤差が小さく,運動中の動揺が少ないことが明らかになった。スマートフォンを用いたBFSにより姿勢特性を捉えられかつ制御できる可能性が示された。</p>
著者
中瀬 智子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.B-39_2-B-39_2, 2019

<p>【はじめに】今回,交通事故による頭部外傷により遷延性意識障害と筋緊張低下を呈し,基本動作に全介助を要した症例に長下肢装具を用いた歩行練習を行った.これにより,起居動作と端坐位保持能力の改善を認めた症例を経験したので報告する.</p><p>【方法】症例紹介:10代後半,男性,家族と5人暮らし,受傷前ADL自立.診断名:びまん性軸索損傷,両側前頭葉脳挫傷.現病歴:乗用車の後部座席に乗車中,正面衝突により受傷,救急搬送され入院,回復期病院を経て当院入院となる.</p><p>介入初期,意識レベルE4V1M3,MAS全般的に0~1と筋緊張低下を認めるが,足関節は2と足クローヌスを認めた.起きあがりは伸展パターンが出現し,端坐位保持は立ち直り反応を認めず頸部保持困難で姿勢保持に全介助を要した.立ち上がりは長下肢装具の使用に関わらず全介助を要し,声掛けによる頭部挙上は困難なため動画視聴による刺激入力を行い立位訓練を実施した.足関節背屈角度に制限が認められたためヒール付き長下肢装具を使用していたが背屈角度が0度に改善したためヒールを除去し背屈角度を5度に設定し歩行練習開始、その後背屈角度を8度に変更し歩行練習を継続した.</p><p>【結果】介入後意識レベルはE4V1M4と改善を認め,筋緊張は介入初期と著変なく推移した.起き上がりでは頸部の立ち直り反応が認められるようになりon handからon elbowは動作介助に対する協力が得られるようになった.端坐位保持は軽介助となり動画視聴による刺激入力を行うと自力での頸部保持が10分可能となった.長下肢装具による歩行では前方より動画視聴による刺激入力を行うと頸部保持での歩行が可能,また重心移動の介助を行えば自力で右下肢の振り出しがみられるようになった.</p><p>【考察】脳卒中ガイドライン2015によると,脳卒中に対し早期から装具を使用した歩行練習が推奨されており有効性が認められている.本症例は頭部外傷であるが長下肢装具を使用した歩行練習により覚醒状態の改善と歩行能力の改善を目指した.介入当初足関節背屈角度には制限が認められヒール付き長下肢装具を使用した立位練習を行いながら足関節可動域改善目的にてウルトラフレックス足継手の短下肢装具を使用した.歩行練習当初背屈角度5度に設定したが歩行介助量軽減と歩行距離が一番伸びるようにその後8度に設定し歩行練習を継続した.抗重力伸展位と股関節の伸展を伴う歩行は歩行能力の改善が期待できるだけでなく,覚醒状態の改善も期待ができる.今回は股関節と体幹の抗重力保持だけでなく,頸部の保持も確保したうえで歩行距離を伸ばせたことが覚醒状態と基本動作能力の改善に寄与したと考えられた.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本報告はヘルシンキ宣言に基づき,本人同席のもと家族に口頭にて説明,書面にて同意を得た.</p>
著者
石原 望 纐纈 良 山本 剛史 渡辺 侑一郎 安藤 易輔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】現在,スポーツ場面や学校,職場などで障害予防を目的に様々なストレッチが行われている。身体の総合的な柔軟性を評価する検査としては,立位にて膝関節を完全伸展させたまま体幹を前屈させ指先と床面との距離を測定する指床間距離(以下,FFD),ハムストリングスの伸張性に着目した検査では背臥位にて膝・股関節を90°屈曲させた状態から他動的に膝関節を伸展させる膝窩角(popliteal angle以下,PA)などがある。近年,柔軟性が低下した者に対する新たなストレッチ法としてジャックナイフストレッチが提案されている。現時点で健常成人を対象にその効果を検証する研究がいくつか行われているが,従来から行われてきた立位にて体幹を前屈させるストレッチとジャックナイフストレッチの効果を比較した報告はない。本研究の目的は,全身的な柔軟性の指標としてFFD,ハムストリングスの伸張性の指標としてPAを用い,ジャックナイフストレッチが柔軟性に及ぼす効果を明らかにすることである。【方法】健常成人22名(男性15名,女性7名,年齢25.3±3.5歳,身長167.5±8.1cm,体重60.1±9.9kg)を対象とした。課題はジャックナイフストレッチを行った群(以下,JS群)と体幹前屈ストレッチを行った群(Trunk Forward Bending以下,TFB群)の2つとし,無作為に割り付けた。課題はそれぞれストレッチ時間10秒×5回とし,JS群はしゃがんだ姿勢から足首を把持し大腿部と胸部を離さないように膝関節を伸展させていくように指示した。TFB群は立位にて膝関節完全伸展位を保持したまま,ハムストリングスの伸張痛が出現する直前まで体幹前屈を行うよう指示した。各ストレッチは朝・夕の1日2回,4週間毎日実施した。FFD,PAの測定は介入開始前,介入終了後の計2回測定した。FFDの測定は被験者は30cmの台上に立位となり,膝関節伸展位で体幹を前屈し上肢を下垂させ,中指と床面との距離をメジャーで計測した。PAの測定は,股・膝関節90°屈曲位からの膝関節伸展の他動運動とし,挙上側の股関節内・外転,内・外旋は中間位,足関節は中間位とした。測定時は,Tilt Table上背臥位にて対側大腿部・骨盤をベルトで固定し代償動作を極力除き,対側股関節・膝関節は伸展位とした。測定により疼痛が出現する直前の角度をPAとし,測定はゴニオメーターを用いて行った。統計解析は介入前の測定値と身体的特性(年齢,身長,体重)において,2群間で統計的に有意差がないことを確認した後,介入の効果判定としてFFD,PAを指標とし,1要因に対応がある二元配置分散分析を用いて比較した。なお,有意水準は5%未満とした。【結果】介入前後での比較では,JS群はFFD 30.2±8.7cmから21.1±6.1cm,PA 155.9±11.3°から165.4±10.3°,TFB群はFFD 35.1±12.0cmから28.1±10.8cm,PA 152.7±11.6°から160.0±14.4°となり,両群においてFFD,PAともに有意差が認められた。ストレッチ間での比較では,FFDではJS群21.1±6.1cmに対し,TFB群28.1±10.8cm,PAではJS群165.4±10.3°に対し,TFB群160.0±14.4°とFFDのみ有意差が認められ,PAでは有意差は認められなかった。【考察】結果より,ジャックナイフストレッチが柔軟性に及ぼす効果として,ハムストリングス以外の要因に対してより大きなストレッチ効果を及ぼす可能性が示唆された。JS群でよりFFDの改善が得られた要因として,ジャックナイフストレッチは自己の股・膝関節伸展筋力によって筋を伸張させるのに対し,体幹前屈ストレッチは自己の体幹重量のみで筋を伸張させる。よって,ジャックナイフストレッチでは筋により高強度な伸張を加えることができると考える。また,ジャックナイフストレッチはその実施方法から,肩峰と足首の距離が規定されるため常に腰椎屈曲位を強制されることになる。一方,体幹前屈ストレッチは,膝関節完全伸展位を規定し体幹前屈を行うためハムストリングスに対してはストレッチが強制されるが,腰椎の屈曲は強制力が働きにくい。そのため,柔軟性低下の原因が腰椎の屈曲制限による被験者ではストレッチの効果が得られにくかった可能性がある。今後の課題として,今回は柔軟性の要素の一つとしてハムストリングスを指標として検討したが,その他にも骨盤や腰椎の可動性などについても検討が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】ジャックナイフストレッチがFFD,PAに及ぼす効果が確認できた。また,ジャックナイフストレッチはハムストリングス以外の関節,筋肉などにより大きな効果を及ぼす可能性が考えられた。本研究が柔軟性向上を目的としたストレッチを行う上での一助になると考えられる。
著者
中川 慧 大鶴 直史 猪村 剛史 橋詰 顕 栗栖 薫 中石 真一路 河原 裕美 弓削 類
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】臨床現場においても,難聴者とのコミュニケーションに難渋することが多い。高齢による難聴の多くは感音性難聴といわれており,内耳から脳への伝達経路での障害が原因と考えられている。一般的に感音性難聴を評価する際には,音の聞き分けができるかどうかの主観的評価が用いられているが,加えて大脳皮質応答を客観的に評価することも重要と考えられる。そこで本研究では,聞き取りやすさの条件を変更することで音の聞き分けに対する大脳皮質応答が変化するのかを検討し,感音性難聴を客観的に評価するシステムを確立することを目的とした。【方法】実験に先立ち,難聴者9名を対象に57-S語表(日本聴覚医学会)を用いた50音の聞き取り検査を行い,聞き取りの難しい音・簡単な音を調査した。結果,聞き取りの正答率が最も高い音は『ル』,最も誤答が多かった組み合わせは『ミ』と『ニ』であったため,これらの音を用いて課題を作成した。課題は,約20%の確率で逸脱音を呈示するoddball課題とし,難課題(標準音『ニ』,逸脱音『ミ』)と易課題(標準音『ル』,逸脱音『ミ』)の2課題を設定した。計測は,健聴者10名を対象に,シールドルーム内にて,被験者前方3mの位置のスピーカーから700ms間隔で呈示される音(70dB)を聴いた際の聴覚誘発脳磁界を記録した。スピーカーには,音の指向性および高音域の音圧を高め,聞き手が聞き取りすくなる構造を持つ『COMUOON<sup>Ⓡ</sup>』(ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社)および同一の素材で作られた標準的なスピーカーを使用した。なお計測中,被験者には音に注意を向けないように指示した。各条件500回程度加算し,逸脱音と標準音の差分波形(ミスマッチ反応:mismatch field)をもとに,等価電流双極子推定法を用いて左右聴覚領域それぞれの活動源を推定し,各条件での電流モーメントを比較した。【結果】音の呈示に伴い,刺激後100msをピークとする活動源が両側上側頭回付近に推定された。逸脱音から標準音の応答の差を求めると,易課題では,スピーカーの種類に関わらず100ms(N1m)と220ms付近(P2m)にピークを持つ波形が記録された。一方,難課題ではN1mの振幅が小さく,P2mの潜時が平均288msと遅かったが,『COMUOON<sup>Ⓡ</sup>』を用いることでP2mの潜時が平均259msと短縮した。【結論】感音性難聴の客観的評価システムの導入を目的に聞き分けの難しい言語音を用いた課題を作成し,聴覚誘発脳磁界を指標としてその有用性を検証した。その結果,話し手側から聞き取りやすい音を伝える高精度のスピーカーを用いると,音の認識に関与すると考えられるP2mの出現潜時が短縮した。これは本手法が感音性難聴の客観的評価に対する一つとして有用である可能性を示している。今後は,難聴者を対象に計測を行い,評価システムの確立を目指したい。
著者
河野 芳廣 吉田 裕一郎 田村 幸嗣 森山 裕一 牧原 真治 廣兼 民徳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI1341, 2011

【目的】換気力学では呼吸筋、胸腔内圧や肺容量、肺気量分画(全肺気量、一回換気量、肺活量、機能的残気量など)、姿勢、肺胸郭コンプライアンスの弾性仕事に関する要因や気道抵抗、肺、胸郭の組織抵抗の粘性仕事に関する要因などが関わっている。その中で、呼吸理学療法を行う際に、姿勢の変化で肺気量が影響を受けることは、多くの先行研究により認知されている。陽圧人工換気のポジショニングや体位呼吸療法(腹臥位管理)は、換気改善の効果があり、呼吸生理学的根拠があることは周知のとおりである。今回、陽圧人工換気下の状態で、姿勢の変化(ヘッドアップ)が及ぼす影響について、若干の知見を得たのでここに報告する。<BR>【説明と同意】今回の報告は、当院の倫理委員会の承認を受けている。<BR>【対象】溺水にて救急搬送、搬入時咳嗽あるも、胸部X線にて肺の状態不良、酸素化能低下し、時間を待たず気管挿管、ICUへ。ウィーニングで抜管するも、喉頭浮腫にて気道閉塞し、再挿管。その後、肺炎悪化。PCVの陽圧人工換気にて治療継続。陽圧人工換気管理下で換気モードはPCV(PEEP6cmH<SUB>2</SUB>O、RR30回/min、PCの圧above PEEP24cmH<SUB>2</SUB>O、FIO<SUB>2</SUB>80%)servo i (シーメンス社製)【方法】1日1回を3回にわたり、下記測定項目を理学療法前に計測する<BR>・2肢位における1分間の呼吸(分時換気量、一回呼気量、一回吸気量)をモニタしていく<BR>・ベッド上フラット位(ギャッジアップ0度、下肢挙上なし)から電動にて45度ギャッジアップ座位にし、それぞれの換気量を計測する。<BR>【測定項目】呼吸機能:分時換気量(MVe )、一回吸気量(VTi )、 一回呼気量(VTe )、終末呼気炭酸ガス濃度(EtCO<SUB>2</SUB>)、呼吸数(RR)、動的コンプライアンス(Cdyn)、酸素飽和度(SpO<SUB>2</SUB>)、呼吸パターン(I:E等)循環機能:動脈圧(ART)、心拍数(HR)<BR>【結果】パラメータ平均値は、1回目の仰臥位;MVe7.20±0.02 L/min、VTi238.35±2.33mL,VTe239.23±2.60mL から、45度坐位MVe5.22±0.04 L/min、VTi165.65±4.74mL、VTe171.12±5.13mLと低下、2回目の仰臥位;MVe7.30 L/min、VTi261.50±2.40mL、VTe261.88±1.93mL から、45度坐位MVe5.35±0.05 L/min、VTi200.00±3.66mL、VTe190.27±3.29mLと低下、3回目の仰臥位;MVe6.82±0.04 L/min、VTi259.96±2.49mL、VTe273.27±1.61mL から、45度坐位MVe4.41±0.03 L/min、VTi180.07±4.62mL、VTe175.96±3.11mLといずれも換気量の低下がみられた。<BR>・1、2、3回目における2条件(仰臥位、45度坐位)はいずれも、45度坐位において換気量の低下がみられ、(Wilcoxonの符号付き順位検定)P<0.01で有意差があった。<BR>・Cdynは1,2,3回目いずれも仰臥位は10.4~11mL/cmH<SUB>2</SUB>O、45度坐位は6.3~7.5mL/cmH<SUB>2</SUB>Oと低下した<BR>・EtCO<SUB>2</SUB>は仰臥位では47~57mmHgで45度坐位では64~76mmHgと上昇した。<BR>・姿勢変化時;酸素化能の変化としてSpO<SUB>2</SUB>値は、一回目に97%から93%に低下、2回目は95%から94%、3回目は97%から96%に低下した<BR>【考察】圧規定換気設定の気道内圧は、気道抵抗と肺胸郭コンプライアンスの大、小により、換気量を反映することになる。気道抵抗が大きいほど、肺胸郭コンプライアンスが小さいほど、換気量は減少するということになる。単に、肺胸郭コンプライアンスが小さくなったこともあると考えるが、それに、仰臥位から坐位時に、安静呼気位レベル(FRC)自体が上がり、結果的に気道内圧に影響し、換気量が変化したと考えられるのではないかと推測した。<BR>【理学療法学研究としての意義】陽圧人工換気下では量・圧規定換気や補助換気の付加など、病態にそって設定を変更させる。よって、同条件下での症例が重ねにくい中で、今回は換気量を測定することができた。陽圧人工換気下で、酸素化能の向上、換気改善目的の姿勢アップや呼吸手技を実施する際にはモニターしながら、圧損傷にたいして十分に注意できるようにする必要があることが理解できた。<BR>
著者
壬生 彰 西上 智彦 田中 克宜 山田 英司 廣瀬 富寿 片岡 豊 田辺 曉人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】変形性膝関節症(膝OA)において,身体知覚に関わる2点識別覚,固有受容感覚および運動イメージの低下や異常が認められており,身体知覚異常が慢性痛に関与する可能性が報告されている。腰痛患者に対して身体知覚異常を評価するために開発されたThe Fremantle Back Awareness Questionnaire(FreBAQ)を基に,日本語版The Fremantle Knee Awareness Questionnaire(FreKAQ-J)を作成し,膝OA患者の身体知覚評価質問票としての信頼性および妥当性を検討した。さらに,Rasch解析を行い,心理測定特性を検討した。【方法】日本語版FreBAQの質問項目にある'腰'を'膝'に置き換えて英語へ逆翻訳し,FreBAQの原著者へ内容的妥当性を確認したうえで暫定版FreKAQ-Jを作成した。対象は,膝OAと診断された65名(男性15名,女性50名,平均年齢68.5±9.1歳)を膝OA群,膝OAの既往がない64名(男性14名,女性50名,平均年齢66.7±7.2歳)を対照群とした。評価項目は,安静時および動作時の疼痛強度(Visual Analogue Scale;VAS),能力障害(Oxford Knee Score;OKS),破局的思考(Pain Catastrophizing Scale;PCS),運動恐怖(Tampa Scale for Kinesiophobia;TSK)及び身体知覚異常(FreKAQ-J)とした。統計解析は,FreKAQ-Jの合計点の群間比較には対応のないt検定を,膝OA群においてFreKAQ-Jの合計点と各評価項目との関連にはSpearmanの順位相関係数を用いた。初回評価より2週間以内にFreKAQ-Jの再テストを行い級内相関係数を求めた。有意水準は5%未満とした。さらに,Rasch解析により,Cronbachのα係数,項目適合度,評価尺度としての一元性,targetingを検討した。【結果】FreKAQ-Jは,対照群に比べて膝OA群で有意に高得点であった(膝OA群12.4±7.6,対照群3.6±4.4)。また,膝OA群においてFreKAQ-Jは安静時痛(r=0.27,p=0.02),運動時痛(r=0.37,p=0.002),PCS(r=0.70,p<0.001),TSK(r=0.49,p<0.001),HADS不安(r=0.46,p<0.001)およびHADS抑うつ(r=0.32,p=0.01)と有意な正の相関を,OKS(r=-0.41,p=0.001)と有意な負の相関を認め,評価尺度としての基準関連妥当性を有することが示された。級内相関係数は0.76であり,高い再テスト信頼性が認められた。Rasch解析の結果,Cronbachのα係数は0.87であり,高い内的整合性が認められた。身体イメージに関する項目7及び9に不適合(misfit)が認められたが,評価尺度としての一元性が認められた。また,FreKAQ-Jは身体知覚異常が高度である対象者をtargetingしていることが示された。【結論】FreKAQ-Jは,膝OA患者の身体知覚異常を評価する質問票として十分な信頼性,妥当性をおよび心理測定特性を有することが示された。今後,本質問票を活用し,膝OA患者の身体知覚異常と疼痛の関連についてさらなる検討を行うとともに,身体知覚異常の改善を目的とした介入の効果検証についても行っていく必要がある。
著者
鵜飼 建志 山崎 雅美 笠井 勉 林 典雄 細居 雅敏 赤羽根 良和 中宿 伸哉 田中 幸彦 宿南 高則 近藤 照美 増田 一太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0974, 2004

【はじめに】<BR> 野球肩の多くは、impingement syndromeやrotator interval損傷などの報告が多く、当院ではquadrilateral spaceでの腋窩神経由来と思われる肩後方部痛が多く認められる。これらは第2肩関節や臼蓋上腕関節での障害であり、肩甲胸郭関節での障害はあまり見られない。<BR> 今回、肩甲胸郭関節での障害と思われる広背筋部痛を訴えた野球肩を少数ではあるが経験した。その発生原因について、考察を加え報告する。<BR>【対象】<BR> 平成14年2月から15年10月までに、当院で野球肩と診断された60例のうち、広背筋部に疼痛を訴えた6例(10%)である。<BR>【理学的所見】<BR> 疼痛誘発投球相は信原分類のacceleration phase(以下A期)に全例認められた。圧痛部位は肩甲骨下角部周辺の内側~外側にかけてに位置する広背筋最上方線維部であった。また疼痛の出現の仕方は、脱力を伴うような鋭い痛みであった。3rd内旋可動域低下は全例に認められた。MMT3以下の僧帽筋筋力低下は中部線維が3例、下部線維が全例であった。投球フォームの特徴として肘下がりは2例と特に多いとは言えず、A期で肘が先行するタイプが4例と多かった。<BR>【考察】<BR> 信原は、「広背筋に攣縮が起きると肩甲骨の外転や肩関節外転・外旋が制限され、肘下がりなど投球動作に支障を来すもの」を広背筋症候群とし、rotator interval損傷やimpingementなどの二次的障害を惹起する可能性を指摘しているが広背筋部痛に対する詳細な説明はない。<BR> 広背筋の最上方線維は、肩甲骨下角部をpulleyのようにして外上方への急な走行変化を生じている。今回、広背筋部痛を訴えた選手は全例A期に疼痛が見られた。A期で肩甲骨が上方回旋する際に肩甲骨下角部で広背筋上方線維をfrictionし、筋挫傷を生じさせることが疼痛の原因と考えられた。今回の症例のほとんどが3rd内旋可動域の低下及び僧帽筋の筋力低下を認められたことから、A期において3rd内旋可動域低下が早期に過剰な上方回旋を、僧帽筋の筋力低下が肩甲骨上方回旋に伴う過剰なprotractionを引き起こしたものと思われる。そのため下角部の外上方移動が通常より大きくなり広背筋上方線維へのより大きなfrictionにつながったものと考えられた。<BR> 肩甲骨下角部周辺は広背筋以外にも大菱形筋、大円筋、前鋸筋などが存在し、疼痛は短時間で鋭く発生するため部位の特定がしづらく、当初は治療に難渋した。現在は、広背筋のリラクゼーション、僧帽筋の筋機能改善、肩下方軟部組織の伸張性獲得などを目的に治療を行い、良好に改善が認められている。
著者
川副 巧成 山内 淳 松尾 亜弓 松本 真一郎 古名 丈人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.E1081, 2007

【目的】効果的な認知症予防を行う為には,認知機能低下の兆候を早期に発見することが重要である.認知機能の低下は,感覚入力から情報統合を経た意識的出力(以下,パフォーマンス)に大きな影響をおよぼすと想定でき,早期発見の為には,パフォーマンスに対する現場の気づきが重要である.そこで本研究では,マシンを使用した運動器の機能向上プログラムに参加する高齢者を対象に,定期的に認知機能及び運動器機能に関する評価を行い,認知機能の状態とパフォーマンスの関係から,認知機能低下を示す兆候について検討した.<BR>【方法】リエゾン長崎およびデイサービスくぬぎ(橡)の利用者で,同デイサービスのマシンを使用した筋力向上トレーニングに週1回以上の頻度で参加している要支援・要介護高齢者83名を対象とした.平成18年4月から10月まで,3ヶ月毎に3回の評価を実施した.評価内容は,属性,および認知機能の指標としてMini- Mental State (以下,MMS)とFrontal Assessment Battery (以下,FAB),運動器機能の指標はバランス,巧緻性,粗大筋力,歩行能力とした.その後,対象者の6ヶ月間の認知機能評価の経過から,6ヶ月後の得点が維持・向上された群と,初期評価の値より低位にある群の二群に分割し,認知機評価の得点の経時的変化について検討を行った.さらに,認知機能評価の結果で分類した二群について,各運動器評価項目の経時的変化の差を検討した.<BR>【結果】83名の対象の内,上記の運動器評価が適切に行え,平成18年10月までに3回の評価を終えた方は46名.男性23名,女性23名,介護度は要支援1から要介護3までで,平均年齢は77.4±7.1歳であった.また,MMS得点の経過で6ヶ月後の得点が維持・向上した方は39名(以下,維持・向上群),初期評価の値より低位にあった方が7名(以下,低位群)であった.維持・向上群の平均得点の推移は24.8±3.1点→25.7±2.9点→27.2±2.1点,低位群は23.1±3.8点→21.5±3.6点→20.8±4.2点で,二群ともに3ヶ月後,6ヶ月後のMMS得点に有意差を認めた.さらに,3ヶ月後,6ヶ月後のMMS得点の結果から二群間にも有意差を認めた.次に,運動器評価の各項目を二群間で比較したところ,リーチテストで維持・向上群が16.7±7.5cm→18.8±7.6cm→23.2±7.7cm,低位群が12.3±5.0cm→10.3±6.3cm→15.1±5.5cm,6m歩行の歩数で維持・向上群が14.1±3.3歩→12.7±2.5歩→13.6±3.3歩,低位群が18.0±7.2歩→18.0±6.6歩→17.4±5.5歩と,この二項目において二群間に有意差を認めた.<BR>【考察】今回の結果は,認知機能低下の「兆し」が,バランス機能や歩数で表出される可能性を示唆した.本研究の低位群においては,運動介入後,運動器機能の向上が認められつつも,実際のパフォーマンスの安定に結びつかない状況にあり,認知機能の低下が要因となり,感覚入力から情報統合を経た意識的出力に不具合を来していると推察された.<BR>
著者
片山 訓博 大倉 三洋 山崎 裕司 重島 晃史 藤本 哲也 藤原 孝之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb1236, 2012

【はじめに】 標高1000~3000mに居住する高地住民には,冠心疾患や高血圧症などの発生率が低く,長寿者が多いことが知られている.また,高地トレーニングが脂質糖質代謝の改善に有効なことが指摘されている.しかし,高地トレーニングや低圧低酸素環境下でのトレーニングを実現することは物理的,経済的に極めて困難である.また,低酸素環境における高強度のトレーニングは,重度の低酸素血症を誘発する可能性が高い.心疾患や肺疾患を合併することが少なくない中高年者の生活習慣病予防を目的とした運動としてはリスクが高い.近年,比較的簡易な装置を用いて常圧環境下で低酸素環境を作り出すことが可能となっている.もし,常圧の低酸素環境によって運動時のエネルギー代謝に好影響が与えられるとすれば,効果的なトレーニング環境が容易に実現できる可能性がある.本研究では,常圧低酸素環境における低強度運動時のエネルギー代謝応答を測定し,運動療法施行時の環境としての有用性について検討した.【方法】 対象は健常成人男性13名で平均年齢21.2(20―22歳),平均身長168.8±4.7cm,平均体重62.6±5.1kg,平均体表面積1.72±0.08m2であった.被験者は前日の夕食以降絶食として翌日の午前中に測定を実施した.研究の条件は,研究の条件は,常圧下での低酸素濃度環境(以下,低酸素)(酸素濃度14.5%,0.7atm,高度3,000m相当)および通常酸素濃度環境(以下,通常酸素)(酸素濃度20.9%,1.0atm)とした.低酸素は,藤原らの特許を用いた塩化ビニール製テント(容積4.0m3)と膜分離方式の高・低酸素空気発生装置(分離膜:宇部興産製UBEN2セパレーター,コンプレッサー:アネスト岩田製SLP-22C)を用いて設定した.各条件での測定は,先ず通常酸素条件で行い,その後1週間の間隔を設けて低酸素条件で実施した.両条件とも30分間の安静椅子座位後,嫌気性代謝閾値(以下,ATポイン)の70%定量負荷による自転車エルゴメータ運動(回転数は55回/分)を30分実施した.呼気ガス分析は,エアロモニター(AE-300Sミナト医科学製)を用いた.各データは安静開始から終了まで1分間隔で測定し,5分間毎の平均値で比較検討した.NU(尿中窒素排出量/分)は0.008g/分で一定とした.LOR(mg)=1.689×(VO2-VCO2)-1.943×NU,GOR(mg)=4.571×VCO2-3.231×VO2-2.826×NUで得られたLOR,GORは体表面積で補正した.統計学的手法は,Willcoxonの符号付順位和検定を用い,有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,研究の主旨・内容および注意事項について説明し,同意を得たのちに実験を開始した.【結果】 被検者のATポイント70%における自転車エルゴメータの負荷量は,47.5±5.3wattであった.LORは,すべてのstageにおいて低酸素条件より通常酸素条件が有意に高値を示した(p<0.05).GORは,運動時全てのstageにおいて低酸素条件が通常酸素条件より高値を示した(p<0.05).低酸素条件における運動時GORは通常酸素条件よりも平均で191.1mg/min/m2大きく,逆に運動時LORは,低酸素条件で平均37.5mg/min/m2小さかった.【考察】 低常圧低酸素環境への暴露後の運動が呼吸循環代謝応答に与える影響について分析した.GORは,stageにおいて低酸素条件が通常酸素条件より高値を示した.高地環境における低酸素血症では,ミトコンドリア内では有機的解糖が阻害されるため,ミトコンドリア脱共役タンパク質の減少で代償が図られる.それとともに,嫌気的解糖によるATP合成効率を増やしてATP不足を補う結果,グルコース利用が増加し,血糖値が低下する.結果として,インスリン分泌も低下し,インスリン感受性の改善がもたらされることが報告されている.今回の常圧低酸素環でも同様の効果によりグルコースが多く利用されたと考えられる.低酸素条件におけるGORは30分間の運動中平均は191.1mg/min/m2通常酸素条件よりも大きく,これは通常酸素条件のGORの27.5%に相当した.このことは今回の常圧低酸素設備でも,糖質利用が促進されることを示している.よって,常圧低酸素環は糖質代謝を促進する必要のある対象者にとって有益なトレーニング環境となる可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 低圧低酸素環境では,安静時代謝の亢進および脂質代謝が改善され,より効果的な減量が可能であると報告されている.常圧低酸素環境においても同様の効果が生じる可能性が示唆され,生活習慣病や減量を目的とした理学療法を施行する時の環境として利用できると考える.
著者
本村 芳樹 建内 宏重 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】筋活動バランスの観点から,股関節疾患患者などでは大殿筋に対するハムストリングスの優位な活動などの筋活動不均衡がみられることが多く,また,変形性股関節症患者では大殿筋下部線維の優位な筋萎縮などの不均一な筋萎縮も報告されている。したがって,それらを改善するためには筋の選択的トレーニングが重要であるが,ハムストリングスと大殿筋,さらに大殿筋の上部・下部線維について,種々の運動時の筋活動バランスを調査した報告は少ない。本研究の目的は,トレーニングとして多用される股伸展運動とブリッジ運動を対象として,ハムストリングスと大殿筋上部・下部線維の筋活動バランスを分析し,筋が選択的かつ効果的に活動する運動を明らかにすることである。【方法】対象は,下肢に整形外科的疾患を有さない健常男性19名とした(年齢21.8±1.4歳)。課題は,腹臥位右股伸展(股伸展)と右片脚ブリッジ(ブリッジ)とした。股伸展では,ベッドの下半身部分を30°下方に傾斜させて骨盤をベルトで固定し,右股関節のみ伸展0°位(内外転,内外旋中間位),右膝屈曲90°位で保持させた。条件は,抵抗なし,外転抵抗(3 kg),内転抵抗(3 kg)の3種類とした。外転および内転抵抗は,伸張量を予め規定したセラバンドを用いて,両側の大腿遠位で外側および内側から抵抗を加えた。ブリッジでは,両上肢を胸の前で組み,両股伸展0°位(内外転,内外旋中間位)かつ右膝屈曲90°位,左膝伸展0°位で保持させた。条件は股伸展と同じく,抵抗なし,外転抵抗,内転抵抗の3種類とした。各課題について,測定前に十分に練習を行った。測定には,Noraxon社製表面筋電計を用いた。測定筋は,右側の大殿筋上部線維(UGM),大殿筋下部線維(LGM),大腿二頭筋長頭(BF),半腱様筋(ST)とした。各筋とも,各課題中の3秒間の平均筋活動量を求め,各筋の最大等尺性収縮時の筋活動量で正規化した。本研究では先行研究を参照し,二筋の筋活動量の比と分子となる筋の筋活動量との積を算出し,筋活動バランスと定義した。まず,正規化した筋活動量を用いて,UGMとLGMの筋活動量の和をGmax,BFとSTの筋活動量の和をHamとしてGmax/Ham(G/H)の比を,またUGM/LGM(U/L),LGM/UGM(L/U)の各比を算出し,それらと筋活動量との積として,Gmax×G/H(G<sup>*</sup>G/H),UGM×U/L(U<sup>*</sup>U/L),LGM×L/U(L<sup>*</sup>L/U)を算出した。股伸展とブリッジの計6課題(全て股伸展0°,膝屈曲90°)について,上記の各変数の課題間の差を対応のあるt検定およびShaffer法による修正を行った。【結果】筋活動量としては,UGMでは,股伸展・外転が他の課題より有意に大きく,股伸展・内転が最も筋活動量が小さい傾向にあった。LGMでは,股伸展・外転がブリッジ・内転より有意に大きかったが,その他の課題間では有意差は認めなかった。BF,STについては,どちらも股伸展の3課題に比べブリッジ3課題がいずれも有意に大きかった。筋活動バランスとしては,G<sup>*</sup>G/Hは,股伸展・外転のみがブリッジ3課題より有意に高かった。U<sup>*</sup>U/Lはブリッジ・抵抗なしよりも股伸展・外転およびブリッジ・外転が有意に高かった。また,L<sup>*</sup>L/Uは股伸展・内転とともに股伸展・抵抗なしも他の課題よりも有意に高値を示す傾向にあったが,この両者の間では有意差は認めなかった。【考察】本研究で用いた指標である筋活動バランスが高い課題は,比が高くかつ筋活動量も大きい運動を示している。6課題の中では,ハムストリングスに対する大殿筋の選択的トレーニングとしては,股伸展・外転が最も効果的と考えられる。大殿筋上部線維については,股伸展,片脚ブリッジともに外転抵抗での運動が効果的であると考えられる。一方,大殿筋下部線維は,筋活動量としては股伸展・外転が大きかったものの,筋活動バランスとしては,股伸展・内転や股伸展・抵抗なしが高値を示した。これらの運動では,大殿筋上部線維の筋活動が大きく減少したためと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,筋活動量の比と筋活動量の積から算出される筋活動バランスを分析することによって,ハムストリングスと大殿筋,そして大殿筋上部・下部線維を選択的にトレーニングするための重要な知見を提供するものである。
著者
加藤 優志 田原 聖也 梅木 一平 板谷 飛呂 秋山 純一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】現在,日本では超高齢社会を迎えており廃用性筋萎縮による活動性低下が介助量増加の一因となっている。今後さらなる高齢者増加が推測されており,廃用性筋萎縮予防が介助量軽減につながると考える。これまで廃用性筋萎縮の予防に関して様々な入浴療法に関する工夫がされており予防効果が報告されている。入浴療法の中でも温冷交代浴には,反復的な血管収縮,拡張による血流の増加作用などが知られている。本研究ではその点に着目し,温冷交代浴による廃用性筋萎縮の予防効果があると考え実験を行った。【方法】本実験は,SD系雌性ラット12匹(平均体重:355.5±33.5g)を使用し,無作為に6匹ずつの2群に分けた。両群は,筋萎縮モデルの作製のため,非侵襲的に継続的尾部懸垂により後肢の免荷を実施した。尾部懸垂を開始した翌日より実験処置を行った。内訳として①群:温冷交代浴群,②群:温水浴群とした。温冷交代浴は,温水42±0.5℃で4分,冷水10±0.5℃で1分を交互に浸し,温浴で始め温浴で終了した。温水浴は,42±0.5℃で20分行った。温度は常に一定にコントロールし,温水は温熱パイプヒーター(DX-003ジェックス(株))を用い,冷水は保冷剤を用いて温度を一定に保った。水浴処置後に再懸垂を目的にペントバルビタールNa麻酔を投与した。すべてのラットにおいて餌と水は自由摂取であった。実験処置の頻度は,1日1回,週6日行った。実験処置を開始してから2週間後,4週間後に各群3匹ずつをペントバルビタールNa麻酔薬の過剰投与にて安楽死処置を行い屠殺し,ヒラメ筋,腓腹筋,長趾伸筋を摘出した。摘出した筋は,精密秤を用いて筋湿重量を測定し,体重に対する筋湿重量比【筋湿重量(g)/体重(g)】を求めた。ヒラメ筋,長趾伸筋は,液体窒素で冷却したイソペンタン液内で急速冷凍した。そして凍結した筋試料はクリオスタット(CM1100 LEICA)を用い筋線維の直角方向に対し,厚さ5μmの薄切切片としてヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行い,筋線維面積の観察をした。腓腹筋は,中性ホルマリン溶液に浸漬し組織固定をした。固定後約3時間水で持続洗浄し,自動包埋装置を用い上昇エタノール系列の60%,70%,80%,90%,100%,100%エタノールで,各3時間脱水を行った。続いてキシレン:エタノール1:1で1時間,キシレンで2時間,2時間,2時間,透徹を行った。その後,パラフィンブロックに対して筋横断面が中心になるように位置を設定し,60℃の溶解したパラフィンで浸透処理を行い,パラフィンブロックを作成した。その後,パラフィン標本を,スライド式ミクロトームにより厚さ5μmに薄切した。薄切切片は湯浴伸展させ,シランコートスライドグラスに積載し,パラフィン伸展器にて,十分に乾燥させ染色標本とした。染色標本は,アザン染色を行い,膠原繊維面積の観察をした。定量解析は,デジタルカメラ装着生物顕微鏡(BX50 OLIMPUS)を用いて,HE染色像,アザン染色像をパーソナルコンピューターに取り込み,画像解析ソフト(ImageJ Wayne Rasband)で筋線維面積を1筋当たり30個以上計測し,膠原繊維は1筋当たり3か所以上計測した。統計処理は,2群間を比較するためにt検定を用いて行った。【結果】筋線維面積は,実験処置開始2週間後のヒラメ筋では交代浴群が温浴群に対して筋線維の萎縮を抑制しており有意差が見られた。筋湿重量比は,実験処置開始2,4週間後の長趾伸筋で交代浴群が温浴群に対し,筋萎縮を抑制しており有意差が見られた。有意差が見られなかった測定結果の多くにおいて,交代浴が筋萎縮を抑制している傾向が見られた。【考察】温冷交代浴には,温水に浸すと血管拡張作用,冷水に浸すと血管収縮作用などがあり,これらが交互に行われることで皮膚,筋内の動静脈吻合部が刺激されたことで血液循環が促進され,筋に酸素,栄養が運搬されたことにより抑制されたと考える。血液循環に加え,細胞に温熱が与えられると細胞内に誘導される熱ショックタンパク質の作用によりタンパク質の合成が亢進され筋委縮が抑制されたと考える。これらの要因から温冷交代浴療法には,筋萎縮抑制効果の可能性があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究では,廃用性筋萎縮の予防効果として温冷交代浴と温浴の効果を対比させ検討した。今回の結果より温冷浴交代浴が筋萎縮を抑制する傾向が示唆された。温冷交代浴により筋委縮が予防できることで活動性低下を予防の一助になると考える。
著者
高氏 涼太 河野 奈美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EdPF1048, 2011

【目的】<BR>人類が二足歩行を行うようになった時から、腰痛は逃れることの出来なくなった健康障害の1つであり、多くの現代人がこの腰痛に悩まされている。平成19年の有訴者率において腰痛は最も高い症状であり、日常生活や労働を行う上で問題となるため、腰痛予防を行うことは重大な課題となる。厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」を策定し、作業環境を含め作業姿勢や重労働者のコルセット使用、作業前体操等推進しているものの、農作業に携わる場合の腰痛予防は十分行われているとは言えない状況である。今回、農業を行っている人を対象とし、農作業時に生じる腰痛動作を明らかにし、農作業時の腰痛予防策を検討したので報告する。<BR><BR>【方法】<BR>対象は、福井県JA全国農業協同組合連合会に依頼し同意が得られた職員および、兼業農家とし、選択式および記述式調査票を配布し後日回収した。調査項目は、年齢、性別、身長、体重、腰痛経験の有無、ここ1年間の腰痛の有無、農作業時の腰痛状況、また、生活状況を把握するために生活様式や食事について質問した。統計処理はSPSS 15.0J for Windowsを用い腰痛と各要因との関係についてχ2検定を用いて行った。<BR><BR>【説明と同意】<BR>福井県JA全国農業協同組合連合会および、兼業農家に依頼し、本研究の目的と調査内容を説明し同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR>調査票を配布した70名中、記入漏れのない53名(有効回答率76.8%)、男性38名、女性15名、平均年齢49.5歳(23~73歳)であった。腰痛経験ありと回答した人は53人中44人となり男性32名、女性12名、平均年齢49.5歳(30~73歳)、腰痛経験率83.0%であった。さらに、ここ1年間の腰痛率は75.0%で、男性71.9%、女性83.3%と男女差はみられなかった。主な生活場所は和室88.0%、洋室12.0%、就寝場所は布団74.0%、ベッド26.0%と和式生活が多かったが、食事する場所は、76.0%が椅子と回答した。食事は3食取っていると回答した人は82.0%で、1週間に3.9回魚や肉を摂取していた。生活状況や食事と腰痛経験の有無との関係について有意差はみられなかった。<BR>腰痛発症状況は、急性腰痛症などで急激に痛みを呈した8名、急性腰痛症を経験していなくとも徐々に痛くなった22名は、腰痛の頻度に関係なく我慢できる痛みと回答していた。腰痛が生じる環境は屋外での作業71.0%と多く、寒い時に腰痛が出ると回答した人は50.0%であった。農作業で初めて腰痛が生じた動作は前屈や中腰姿勢で13名、重量物の取り扱い動作で6名であった。腰痛経験者の農作業の内容として、水田35.0%、畑作24.0%、林業16.0%であった。<BR><BR>【考察】<BR>今回の調査結果から、腰痛経験の有無と生活状況と食事との関係について有意差が見られなかったため、農作業時の動作が主な原因と考えられる。農作業による腰痛率は約83.0%と高く、従来言われている前屈や中腰といった姿勢、重量物の取り扱い動作などによるものがほとんどであった。さらに、軽トラックに乗るときに腰痛を生じていることが明らかとなった。これは、普通の車に比べ、乗車空間が狭く、乗車時に体幹の回旋動作が要求され腰への負担が大きくなることで腰痛が発症すると考えられることから、乗車時の腰への負担の少ない動作指導も必要と考える。<BR>農作業動作では、水田において田植えと稲刈りの時期に腰痛があると回答した人が多くみられた。田植えでは特にうせという作業、収穫期では稲刈り、米袋を運ぶという作業において腰痛が生じていた。畑作では、肥料運びといった種付けの時期や、収穫時で腰痛が生じると多く回答していた。林業では、傾斜での動作・作業時に腰痛を生じると回答した人が多く見られた。農作業時の姿勢は、作業環境を変えることの出来ない状況であることや腰部への負担が継続的にかかるため、同一姿勢での作業は1時間以内にしたり、休憩をしたりする指導は必要と考えられる。しかし、一般的な腰痛予防対策では不十分であり、今後さらなる調査を実施し、腰痛と農作業関連動作について詳細に検討していく予定である。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>農作業時の腰痛予防に対し、理学療法士が地域に積極的に参加して指導することが望ましいが、現状では十分に行われていない。本研究によって、腰痛が生じる農作業時期や内容が一部明らかとなったことで、今後、農作業者の腰痛に対する指導内容のヒントとなるものと考える。<BR>
著者
上島 正光 上倉 將太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0993, 2007

【研究の背景と目的】<BR> 入谷式足底板を作製する際、テーピングを用いて後足部誘導(回外誘導・回内誘導)や果部誘導(内果挙上・外果挙上)など足部肢位を変化させ、それが動作や疼痛に与える影響を評価する。その結果、後足部回外誘導で良好な結果が得られる症例において、果部誘導は内果挙上誘導ではなく外果挙上誘導を選択することが多いと感じる。すなわち、外果挙上誘導は後足部回内誘導を補助・後足部回外誘導を相殺するものではなく、外果挙上誘導独自の作用を持つと推測される。そこで本研究は足関節外果挙上誘導が、荷重位における足関節の最大背屈角度、および歩行時における骨盤帯の外方加速度にどのような影響を与えるか検証することを目的とした。<BR>【対象と方法】<BR> 本研究に同意の得られた、脊柱や下肢に既往のない健常者10名(男性8名、女性2名、平均年齢19.7±1.57歳)の左下肢10足を対象とした。測定は三次元動作解析装置UM-CAT2(ユニメック社)を用い、1)測定下肢を前にした半歩前進位より、膝関節を屈曲した際の足関節最大背屈角度 2)10m自由歩行における左上前腸骨棘の外側方向加速度ピーク値の2点を計測した。外果挙上誘導を行う場合と行わない場合で各課題を3回ずつ行い、その平均値をもって2条件間に差があるか検討した。外果挙上誘導は、被検者端座位にて外果直下にパッドをあて、外果挙上を促しながら25mm幅の伸縮性テープで保持した。各課題は公正を期すため無作為に施行した。統計学的処理には対応のあるt検定を用い、有意水準は1%未満とした。<BR>【結果】<BR> 荷重位での足関節最大背屈運動において、外果挙上誘導時に背屈角度が有意に増加した(p<0.01)。全例において足関節背屈角度が増加し、背屈角度が減少する例はみられなかった。<BR> また、歩行時の外方加速度においても、外果挙上誘導時に外方加速度が有意に減少した(p<0.01)。なかでも、10例中8例において外方加速度に大きな減少がみられた。残り2例においては2条件間で外方加速度に顕著な変化はなく、外方加速度が大きく増加する例はみられなかった。<BR>【考察】<BR> 足関節背屈運動において広い距骨滑車前方部が果部を引き離し、骨間膜線維の走行を真直ぐにする。これに伴い外果は挙上・開排する。今回、外果挙上誘導により全例にて背屈角度が増加した結果は、外果挙上誘導が足関節の運動学を忠実に再現した為と考える。<BR> 近位脛腓関節は脛骨外側顆を腓骨頭が外下方より支えるような形状をとる。その形状ゆえ、外果挙上誘導による腓骨の上昇は、近位脛腓関節を介して脛骨を内上方へ押しあげる。その力の水平成分が脛骨の外方移動を抑制し、結果として外果挙上誘導時に外方加速度が減少したものと考える。<BR> 以上より外果挙上誘導は、足関節背屈制限および歩行時外方動揺性がみられる症例に対する評価・治療の一手段となりえる事が示唆された。<BR>