著者
石原 康成 堀江 翔太 立原 久義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101316, 2013

【はじめに、目的】腱板断裂では,上肢挙上の際に,肩甲上腕関節における求心位保持能力の低下と,それに伴う肩甲胸郭関節,胸郭運動の異常が報告されている.したがって,腱板断裂患者に対して理学療法を行う際は,肩甲上腕関節のみならず,肩甲胸郭関節や胸郭にもアプローチする必要がある.しかし,腱板断裂における肩甲骨の位置異常と胸郭運動の特徴については明らかになっていないため,機能評価と効果的に肩甲胸郭関節や胸郭へアプローチする手技の確立を困難にしている.本研究の目的は,腱板断裂における肩甲骨の位置異常と胸郭運動の特徴を明らかにすることである.【方法】対象は,当院で腱板完全断裂と診断され鏡視下腱板修復術を施行された24 名(以下RCT群)(男性14 名,女性10 名,平均年齢69 歳,49 〜 86 歳)と,肩関節に既往のない40 〜60 代の健常者16 名(以下健常 群)(男性8 例,女性8 例,平均年齢51 歳,43 〜 64 歳)である.これら2 群の,上肢挙上に伴う肋骨・胸椎運動と下垂位での肩甲骨の位置を比較し腱板断裂における肩甲骨位置と胸郭運動の特徴を検討した.測定方法は,肩下垂位と130°挙上位の2 肢位で胸部3 次元CTを撮影し,骨格前後像と側面像にて肋骨・胸椎と肩甲骨の位置を評価した.肋骨の動きは,肋椎関節を基準として肋骨先端の上下方向への移動距離を測定した.胸椎の動きは,第7 胸椎を基準として胸椎伸展角度を測定した.肩甲骨の位置は,内外転方向の位置として,脊椎から肩甲骨内側縁の距離(Spine Scapula Distance,以下SSD),挙上下制方向の位置として,肩甲骨下角の高さを,回旋方向の位置として肩甲棘の傾斜を測定した.統計学的検討にはMann-Whitney's U 検定を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】病院倫理委員会の承認を得た上で,本研究の目的とリスクについて被験者に十分に説明し,同意を得た.【結果】RCT群の下垂位から130°挙上位までの肋骨移動距離は,挙上方向へ平均5.8mmであった.最大は第7 肋骨の9.7mmであり,第7 肋骨から離れるに従い移動距離は小さかった.健常群では挙上方向へ平均5.2mmであった.最大は第5 肋骨の9.4mmであり,第5 肋骨から離れるに従い移動距離は小さかった.2 群を比較すると,第9,11 肋骨でRCT群の肋骨移動距離が有意に大きかった(p<0.05).すなわち,腱板断裂により肋骨運動の中心が尾側にシフトしていた. RCT群の下垂位から130°挙上位までの胸椎伸展角度は平均2.4°であった.健常群では平均3.8°であり差はなかった.RCT群における下垂位でのSSDは平均60.3mm,健常群では平均68.6mmであり,RCT群で有意にSSDが小さかった(p<0.01).下角の高さと,肩甲棘の傾斜には差がなかった.すなわち,腱板断裂により肩甲骨は内転位に変化していた.【考察】本研究より,上肢挙上に伴う肋骨運動は,健常者では第5 肋骨を中心に挙上するのに対し,腱板断裂患者では第7 肋骨中心に挙上することが明らかとなり,腱板断裂により肋骨の運動中心が尾側へシフトすることが明らかとなった.また,腱板断裂に伴い肩甲骨の位置は内転位に変化することが明らかとなった.従来の報告によると,腱板断裂に伴い肩甲骨他動運動と肋骨運動が制限される可能性が指摘されている.また,肩甲骨位置異常は,肩甲骨周囲筋のバランス異常の存在を示唆している.この事実は,肩甲骨周囲での胸郭運動が制限されていることを示しており,これを代償するために,胸郭運動の中心が尾側へ移動した可能性が考えられた.【理学療法学研究としての意義】腱板断裂が、肩甲骨の位置と肋骨運動パターンに影響を与えることが明らかとなった.肩甲上腕関節のみならず,肩甲骨位置や肋骨運動パターンを考慮することで,より有効な理学療法を提供できる可能性がある.
著者
尾崎 尚代 千葉 慎一 嘉陽 拓 西中 直也 筒井 廣明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101619, 2013

【はじめに】古くから諸家によって肩関節機能に関する研究がなされてきている。腱板機能訓練に関しては筒井・山口らの報告を契機に多くの訓練方法が用いられ、近年では肩甲骨の機能が注目され、肩関節求心位を得るための訓練方法が多々報告されている。しかし、肩関節の動的安定化機構である腱板を構成する各筋が肩関節求心位を保つための機能について報告しているものは渉猟した限りでは見つからない。今回、腱板断裂症例の腱板機能を調査し、肩関節求心位を保持する腱板機能について興味ある知見が得られたので報告する。【方法】2011年9月末までの2年間に当院整形外科を受診し、初診時に腱板断裂と診断された症例のうち、「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像を撮影し、手術した症例35名(年齢60.8歳±12.7、男性19名・女性16名、罹患側 右22名・左13名)について、術前MRI所見および手術所見からA群(棘上筋単独断裂 23名)、B群(棘上筋+棘下筋断裂 5名)、C群(肩甲下筋を含む断裂 7名)の3群に分類した。 「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像のうち肩甲骨面上45度挙上位無負荷像を用い、上腕骨外転角度、肩甲骨上方回旋角度、関節窩と上腕骨頭の適合性について、富士フィルム社製計測ソフトOP-A V2.0を用いて計測した。上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度は任意の垂線に対する上腕骨および関節窩の角度を計測し、関節窩と上腕骨頭の適合性は、関節窩上縁・下縁を結ぶ線を基準線として関節窩に対する上腕骨頭の位置関係を計測した値を腱板機能とした(正常範囲-1.11±2.1、大和ら1993)。統計学的処理は、Kruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定、χ²検定を用いて危険率5%にて行い、上腕骨外転角度、肩甲骨上方回旋角度、腱板機能について3群を比較検討し、さらに腱板機能については正常範囲を基に3群間で比較検討した。【説明と同意】当院整形外科受診時に医師が患者の同意を得て診療放射線技師によって撮影されたレントゲン像を用いた。なお、個人情報は各種法令に基づいた当院規定に準ずるものとした。【結果】測定平均値をA群、B群、C群の順で示す。上腕骨外転角度(度)は43.59±8.84、45.64±7.04、33.83±7.54、肩甲骨上方回旋角度(度)は10.17±13.46、0.96±5.02、24.87±22.92であり、上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度については3群間で有意差は認められなかった。腱板機能は-0.75±4.76、5.44±12.61、7.84±5.07であり、3群間で有意差は認められ(p=0.007)、なかでもC群はA群と比較して関節窩に対して骨頭の位置が上方に移動していた(p=0.0008)。腱板機能について正常範囲を基に各群間で比較した結果、A群では正常範囲に入るものが23名中10名(43.5%)であり、関節窩に対して骨頭が上方に移動しているもの、下方に移動しているものがそれぞれ26.1%、30.4%あったが、B群、C群では正常範囲に入るものが0%、14.3%であった。B群は骨頭の上方移動および下方移動を呈するものが半数ずつであったが、C群では7名中6名(85.7%)が骨頭の上方移動を呈しており、有意差が認められた(p=0.03)。【考察】腱板断裂の指標として用いられる肩峰骨頭間距離は下垂位前後像で計測し、その狭小化を認める症例は腱板断裂の疑いがあるとされているが、今回用いた機能的撮影法は肩甲骨面上45度拳上時における肩甲骨と上腕骨の位置関係を調査している。 当院では、肩関節疾患患者に対し理学療法実施時に疼痛誘発テストとして肩甲骨面上45度挙上位での徒手抵抗テストを行ない、理学療法プログラム立案の一助としているが、このテストと同一の撮影肢位であるレントゲン像を用い、腱板断裂症例の腱板機能を断裂腱によって分類して調査することによって肩関節の求心位に作用する筋が明らかになると考えた。その結果、棘上筋の単独断裂では約半数は正常範囲にあり、残りの半数および棘下筋を含む断裂では関節窩に対して上腕骨頭が上方あるいは下方へと移動するが、肩甲下筋を含む断裂では関節窩に対して上腕骨頭の上方移動が認められたことから、肩甲下筋の機能不全が肩関節求心位に大きく影響することが示唆された。また、上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度は各群間で差がなかったことから、腱板機能不全を呈する症例は上腕骨を空間で保持するために肩甲骨が様々な反応を示すことが推測でき、前回報告した結果を裏付けするものと考える。 臨床上、肩甲下筋を選択的に収縮させることによって肩関節可動域が改善する症例を経験するが、肩甲帯の土台である肩甲骨の機能はもちろんのこと、腱板機能不全に対し肩関節求心位を確保するために選択する理学療法プログラムは肩甲下筋を考慮する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から肩関節疾患症例に対しておこなわれる腱板機能に関する理学療法プログラム立案を再考する必要性が示唆された。
著者
田村 幸嗣 吉田 裕一郎 河野 芳廣 大寺 健一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db1208, 2012

【はじめに、目的】 一般に肺外科手術の術前評価の一つとして肺機能検査が行われる。最近では一秒量が1000mlを下回る症例でも手術適応となる場合があり、当施設でも低肺機能症例に対して術前理学療法が処方される。これらの症例に対しては術前オリエンテーション、排痰法指導、深呼吸指導等と合わせて効率的な分泌物の除去方法とされているアクティブサイクル呼吸法(以下ACBT)の指導もしている。ACBTは呼吸コントロール、胸郭拡張、ハフィング、強制呼出手技で構成される。一般には吸気筋トレーニングに関してはある程度の効果とする報告が多い一方、EMT(expiratory muscle training:以下EMT)の呼気流速に関連する呼吸機能に関しては変化がなかったとする報告が多い。EMTの具体的な方法としては器具を使用し呼気に抵抗をかける場合がほとんどである。そこで今回は低肺機能症例でも安全でかつ呼気流速を改善する方法として、ハフィングの反復練習が呼吸機能に及ぼす効果を研究目的とした。【方法】 喫煙歴や疾患の既往がない健康な成人18名(男性6名、女性12名)を無作為にトレーニング群(男性3名、女性6名、平均年齢28.1±7.3歳、身長160.5±8.65cm、BMI22.0±4.07)と対象群(男性3名、女性6名、平均年齢26.2±3.88歳、身長163.2±9.19cm、BMI21.8±2.60)に振り分けた。トレーニング群にはスパイロメーター用のマウスピース(直径30mm)を渡し、立位をとり肺機能検査の方法で最大努力の呼気を1日20回ハフィングの反復を指示した。トレーニングは続けて行わず個々のペースで行なうよう指示した。トレーニング期間は2週間とした。測定にはVM1 VENTILOMETERを用いて努力性肺活量(以下FVC)、一秒量(以下FEV1)、peak expiratory flow以下(PEF)を測定した。測定はトレーニング群にはトレーニング開始前と2週間後、対象群には初回測定日と2週間後の2回、初回測定時と同時刻にそれぞれ3回測定し、最高値を測定値とした。統計処理は対象者の属性についてはMann-Whitney U検定を行い、呼吸機能の測定値にはウィルコクソンの符号付順位和検定を行った。統計処理の手段としてはR Ver.2-11を用い、すべての検定において有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って進めた。対象者には研究内容を文書及び口頭で説明した。参加は任意であり、参加に同意しないことをもって不利益な対応を受けないこと、いつでも不利益を受けることなく撤回することができることを説明し参加の同意を得た場合には研究計画書に自筆署名して頂いた。【結果】 1.トレーニング群と対象群の基礎データにおいて、各代表値に有意な差は認めなかった。2.呼吸機能の変化;FVCではトレーニンニング開始前(2.95±1.27L)、トレーニング2週間後(3.39±1.39L)となりトレーニング群において、トレーニング前後の代表値に有意な差を認めた(P<0.05)。FEV1、PEFには有意な差を認めなかったもののトレーニング群においては一定の増加傾向がみられた(但しFEV1;P=0.07、PEF;P=0.05)。3.対象群ではいずれの測定値も有意な差を認めなかった。【考察】 一般には呼吸筋トレーニングの効果として肺機能の指標は変化しないと言われている。今回の結果ではFVCにおいて改善を認めた。FVCは最大吸気位からの最大呼気量である。FVCの改善のためには吸気量が増える事、残気量が減少することで達成される。これらは胸郭の柔軟性の改善と吸気筋および呼気筋の筋力の増強が因子として挙げられる。胸郭の柔軟性に関してはトレーニングの際は最大吸気位からの最大呼出を指示しているため反復することで通常よりも大きな動きを繰り返した結果胸郭の柔軟性が改善した可能性がある。今回は安静位、最大吸気位、最大呼気位の胸郭拡張差の測定を実施しておらず胸郭柔軟性の改善は検討できていないため今後の検討が必要となる。また、筋力としては2週間のトレーニングでは筋の肥大は起こらないとされているが、神経因性の筋力増強のメカニズムとされている大脳の興奮水準の増加(活動参加する運動単位の数や発火頻度の増加)、拮抗筋の抑制、運動プログラムの改善などが関与した可能性がある。また、今回はマウスピースを使用したハフィングトレーニングのため肺機能検査と同様の運動様式となり特異性の法則により効果的に高められた可能性もある。今回の結果では有意な差は認めなかったもののピークフロー値も増加の傾向があることから効率的な運動が可能となった可能性もある。今後は諸因子の検証とともに低肺機能患者についても検討を加え術前トレーニングの有効性を検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果、2週間のマウスピースを使用したハフィングトレーニングは呼吸機能の改善を期待できる。
著者
橋本 直之 横川 正美 山崎 俊明 中川 敬夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AdPF1010, 2011

【目的】<BR> 高齢化の進行とともに認知症高齢者も増加し、その予防に対する取り組みが注目されている。歩行などの有酸素運動は認知機能を改善させるとの報告がある。一方、前頭前野は大脳後半部からの情報を把握、了解、統合、分析を伴う場所であり認知症と深く関係があるとされており、長期的な有酸素運動により前頭前野機能テストの改善が見られたなどの報告もされており、有酸素運動は脳機能向上に有用といえる。前頭前野が関与すると考えられている、運動および精神機能を評価する指標として、脳血流動態の測定があるが、脳血流は運動負荷により増加するとされて、運動強度の違いにより脳機能の向上に違いがある可能性がある。高齢者に対する運動療法では、軽負荷の運動プログラムの方が参加しやすく、運動強度の違いによる効果の違いを検証することは重要であると考える。そこで、本研究ではその予備的研究として若年健常者に対し、異なる運動強度で行った運動が高次脳機能にどの程度影響を及ぼすかについて比較&#8226;検討することとした。<BR>【方法】<BR>20歳代から30歳代の一般健常男性で研究内容に同意の得られた者30名(24.5±2.7 歳)を対象とした。最大運動能力測定(MVE)は自転車エルゴメーターを用い、症候限界性多段階運動負荷試験を行った。MVEは自覚症状の出現により駆動が困難となった時点、または運動の中止基準に該当する所見が出現した時点の負荷量とした。MVEの20%、40%、60%の負荷で運動を行う運動群とコントロール群の4群にランダムに振り分けた。運動群は15分間の自転車エルゴメーター駆動を行い、その前後にPaced auditory serial addition test(PASAT)およびPsychomotor Vigilance Task (PVT)を行った。コントロール群は自転車エルゴメーター上での安静座位を15分行い、その前後に運動群と同じテストを実施した。各群の前後のテスト成績の比較を二元配置分散分析で検討した後、多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】<BR>測定の趣旨&#8226;方法について口頭及び書面にて説明を行い、同意を得られた者を対象とした。本研究は所属する施設の医学倫理委員会の承認(承認番号257)を得て行った。<BR>【結果】<BR> 二元配置分散分析で交互作用を認めた項目はなかった。多重比較において、PASATでは20%、40%、60%MVEの各群で運動前と比べ運動後の方が、有意に点数が高かった(20%、40%:p<0.05、60%:P<0.01)。PASATの連続正解数では40%MVEでのみ有意な増加が見られた(p<0.05)。PVTの多重比較では、どの群においても運動前後で有意な変化を認めなかった。<BR>【考察】<BR>PASATの遂行時には前頭前野、左下頭頂小葉&#8226;左上、下側頭回が同時に、あるいはこのいずれかが関与していたと報告されており、テストにおける賦活領域は前&#8226;中大脳動脈の流域であると推察される。中大脳動脈は中等度運動時に脳血流が最大となる、あるいは低強度運動でも前頭機能の血流量が増大するという報告があり、今回の20%、40%、60%MVEの運動時にPASAT の点数が改善したことは、これらの報告と一致すると考える。今回一過性運動の効果の検証を行うため、運動の前後でテストを実施しており、慣れにより影響を受ける可能性が考えられた。コントロール群には増加傾向を認めたが、統計学的に有意な差を認めなかった。したがって、今回の結果より慣れによる点数の増加は否定できないが、運動による効果はあるものと考える。注意の要素としては(1)選択機能(2)覚醒ないし持続性注意(3)認知機能の制御があげられ、PASAT は注意の制御を評価するテストであり、PVTは注意の持続力&#8226;覚醒度を評価するテストである。今回の結果から一過性の運動は注意の制御により効果がある可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>高齢者は軽負荷での運動の方が参加しやすいとされており、どの運動強度がより認知機能に効果を及ぼすかを検証することは重要である。本研究はその予備的研究としての意義を持つと考える。
著者
比護 幸宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>スポーツ外傷・障害(以下傷害)への対応で重要なことの一つに傷害発生の予防があり,傷害により練習や試合に影響を及ぼすことは個人やチームにとって重大な損失となり得る。しかし高校部活のカテゴリーでは未だにその普及は十分とはいえない。本研究では全国大会出場高校サッカー部に所属する生徒を対象に傷害の有無と発生時期,ウォーミングアップ(以下WU)やクールダウン(以下CD)・栄養摂取などの傷害予防行動の実態を調査することで競技者への適切な介入や時期・傷害発生要因を検討する目的で行なった。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は,全国大会出場高校サッカー部で同一チームに所属する男性78名,平均年齢16.9±0.77歳。集合質問紙調査を実施し,競技歴,傷害の有無・部位・発生時期・受傷機転,WU・CDの有無と時間,栄養に関する関心,現在も疼痛を有する者を傷害群としてその傷害の影響について質問した。また統計学的分析では,傷害群と非傷害群間,公式戦登録選手と非登録選手間で傷害予防に有効とされるWU・CDの有無と実施時間,栄養摂取に関してχ<sup>2</sup>検定の独立性検定を行った。有意水準はp<0.05およびp<0.01とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>競技開始年齢6.5±0.3歳,傷害を有する者51%,傷害の原因となる受傷をした競技経験年数8.36±2.9年,傷害部位は足関節36%,膝関節18%,大腿9%で多かった。受傷機転は非接触76%で,そのうち足関節受傷は37%と最も多かった。傷害によって練習に影響がでた割合は69%で,そのうち8%は半年間以上の練習内容の変更が必要であった。また試合に影響がでた割合は59%で,そのうち21%が試合出場機会を失った。WU・CDは100%実施されていた。栄養摂取に関して毎食の栄養バランスを意識している割合が72%,そのうち実際に摂っている割合は35%であった。公式戦登録選手と非登録選手間での意識的な炭水化物摂取と体重測定の有無(p<0.01),蛋白質摂取の有無(p<0.05)で有意な偏りを認め,公式戦登録選手では体調管理の意識が高い結果となったが,傷害群と非傷害群間で有意な差は認めなかった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>傷害発生による慢性疼痛や活動機会減少を防ぐ為の一次予防介入時期は,競技開始年齢と傷害の原因となる受傷をした競技経験年数の和より高校入学以前が望ましいと示唆される。受傷率の高い足関節傷害は再受傷率が高いため一次予防に加え二次予防が重要となる。また活動機会の多い公式戦登録選手では栄養摂取に関して意識が高い結果となった。傷害発生要因として傷害群と非傷害群間でWU・CDの実施や必要栄養素の摂取に差があるのではと考えたが本調査はこの仮説を支持しなかった。しかし,傷害群では試合や練習の機会を失う者もおり,今後の課題としてその他の内的・外的要因に関して傷害群と非傷害群間の差を比較し,高校部活の競技レベルにおいて傷害予防に有効かつ実施可能な内容を検討する必要がある。</p>
著者
長谷川 正哉 金井 秀作 島谷 康司 大田尾 浩 小野 武也 沖 貞明 大塚 彰 田中 聡
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101851, 2013

【はじめに,目的】転倒予防や足部障害の発生予防,パフォーマンスの維持・向上には適切な靴選びが重要である.一般的な靴選びは,まず自覚する足長や靴のサイズに基づき靴を選び,着用感により最終的な判断を行うものと考える.しかし,加齢による足部形態の変化や過去の靴着用経験などから,着用者が自身の足長を正確に把握していない可能性が推測される.また,靴の選択基準はサイズや着用感以外にも,デザイン,着脱のしやすさ,変形や疼痛の有無など様々であることから,自覚している靴サイズと実際の着用サイズが異なる可能性が考えられる.そこで,本研究では地域在住の中高齢者を対象とし,自覚する靴サイズおよび実際に着用している靴サイズ,足長や足幅の実測値から抽出したJIS規格による靴の適正サイズを調査し,比較検討することを目的とした.【方法】独歩可能な中高齢者68名(男性20名,女性48名,平均年齢64.0±6.5歳)を対象とした.調査項目は左右の足長および足幅の実測値,足幅/足長の比率,実測値を基に抽出したJIS規格による左右別の適正サイズ,2Eや3Eなどで表わされる適正ウィズ,自覚する靴サイズ(以下,自覚サイズ),および現在着用中の靴の表示サイズ(以下,着用サイズ)とした.なお,各項目間の比較にはフリードマン検定およびScheffe法による多重比較を行い,統計学的有意水準は5%とした.また,自覚サイズと着用サイズの一致率,適正サイズと着用サイズの一致率,および適正サイズおよび適正ウィズの左右の一致率を求めた.【倫理的配慮、説明と同意】実験前に書面と口頭による実験概要の説明を行い,同意と署名を得た後に実験を実施した.なお,本研究は全てヘルシンキ宣言に基づいて実施した.【結果】左右足型の実測値は右足足長22.6cm (21.8-23.85),左足足長22.7cm (21.75-23.7),右足足幅9.5cm (9.0-9.9),左足足幅9.3cm (8.9-9.9)であり,足幅/足長比率は右足41.5%(39.8 -42.5),左足41.0%(39.5-42.6)であった.また, JIS規格により抽出した右足適正サイズは22.5cm (22.0-24.0),左足適正サイズ22.5cm (21.5-23.5)であったのに対し,自覚サイズは23.5cm(22.5-24.5),着用サイズは23.5cm (23.0-25.0)となった(結果は全て中央値および四分位範囲).着用サイズおよび自覚サイズと比較し左右適正サイズ(p<0.001),左右足長実測値は(p<0.001)は有意に小さい結果となった.次に各項目の一致率について,まず自覚サイズと着用サイズの一致率は37%であり,被験者の63%は自身で認識する足サイズとは異なる靴サイズを選択し着用していた.また同様に,右足適正サイズと着用サイズの一致率は7%,左足適正サイズと着用サイズの一致率は4%と極めて低い結果となった.なお,適正サイズの左右の一致率は52%であり,これに適正ウィズの結果をふまえた場合,左右の靴の一致率は4%に低下した.【考察】中高齢者が実際に着用している靴サイズおよび自覚する足のサイズは,JIS規格に基づく適正サイズや足長の実測値より大きいことが確認された.また,自覚サイズと着用サイズ,適正サイズと着用サイズの一致率が極めて低く,中高齢者では自身の足の大きさを自覚していないだけではなく,自覚する足サイズに基づく靴選びをしていないものと考えられた.中高齢者の靴の選択基準には装着感や着脱の容易さ,デザインなど複数の要因が関与することが過去に報告されており,本研究でもこれらが影響した可能性が示唆される.次に,実測値から抽出した左右の靴適正サイズの一致率が極めて低いことが確認された.これは,左右同一サイズの靴を購入した場合,いずれか一方の靴が足と適合しないことを意味している.先行研究により靴の固定性の低下が動作時の不安定性や靴内での足のすべりを増加させ運動パフォーマンスの低下を引き起こすことが報告されており,靴の不適合が中高齢者の転倒リスクを増加させる可能性が示唆された。これらの靴の不適合に対し,靴内部での補正や靴紐などによるウィズの調整,片足づつ販売する靴を選択するなどの対応が必要になるものと考える.また,本研究の被験者の多くが自身の足サイズについて適切に認識しておらず,正しい評価や知識に基づく靴選びが重要と考える.【理学療法学研究としての意義】適切な靴の選択は転倒予防や障害発生予防,パフォーマンスの維持・向上を考える際に重要である.また,インソールの処方時や内部障害者のフットケアなどの場面では適切な靴の着用が原則となる.そのため理学療法士は対象者の足型と靴のフィッティングについて理解を深め,適切な靴の着用について啓発していく必要がある.
著者
三木 千栄 小野部 純 鈴木 誠 武田 涼子 横塚 美恵子 小林 武 藤澤 宏幸 吉田 忠義 梁川 和也 村上 賢一 鈴木 博人 高橋 純平 西山 徹 高橋 一揮 佐藤 洋一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ed0824, 2012

【はじめに、目的】 本学理学療法学専攻の数名の理学療法士と地域包括支援センター(以下、包括センター)と協力して、包括センターの担当地域での一般高齢者への介護予防事業を2008年度から実施し、2011年度からその事業を当専攻で取り組むことした。2010年度から介護予防教室を開催後、参加した高齢者をグループ化し、自主的に活動を行えるよう支援することを始めた。この取り組みは、この地域の社会資源としての当専攻が、高齢者の介護予防にためのシステムを形成していくことであり、これを活動の目的としている。【方法】 包括センターの担当地域は、1つの中学校区で、その中に3つの小学校区がある。包括センターが予防教室を年20回の開催を予定しているため、10回を1クールとする予防教室を小学校区単位での開催を考え、2010年度には2か所、2011年度に残り1か所を予定し、残り10回を小地域単位で開催を計画した。予防教室の目的を転倒予防とし、隔週に1回(2時間)を計10回、そのうち1回目と9回目は体力測定とした。教室の内容は、ストレッチ体操、筋力トレーニング、サイドスッテプ、ラダーエクササイズである。自主活動しやすいようにストレッチ体操と筋力トレーニングのビデオテープ・DVDディスクを当専攻で作製した。グループが自主活動する場合に、ビデオテープあるいはDVDディスク、ラダーを進呈することとした。2010年度はAとBの小学校区でそれぞれ6月と10月から開催した。また、地域で自主グループの転倒予防のための活動ができるように、2011年3月に介護予防サポーター養成講座(以下、養成講座)を、1回2時間計5回の講座を大学内で開催を計画した。2011年度には、C小学校区で教室を、B小学校区で再度、隔週に1回、計4回(うち1回は体力測定)の教室を6月から開催した。当大学の学園祭時に当専攻の催しで「測るんです」という体力測定を毎年実施しており、各教室に参加した高齢者等にそれをチラシビラで周知し、高齢者等が年1回体力を測定する機会として勧めた。A小学校区内のD町内会で老人クラブ加入者のみ参加できる小地域で、体力測定と1回の運動の計2回を、また、別の小地域で3回の運動のみの教室を計画している。また養成講座を企画する予定である。【倫理的配慮、説明と同意】 予防教室と養成講座では、町内会に開催目的・対象者を記載したチラシビラを回覧し、参加者は自らの希望で申し込み、予防教室・養成講座の開催時に参加者に対して目的等を説明し、同意のうえで参加とした。【結果】 A小学校区での転倒予防教室には平均26名の参加者があり、2010年11月から自主グループとして月2回の活動を開始し、現在も継続している。B小学校区では毎回20名程度の参加者があったが、リーダーとなる人材がいなかったため自主活動はできなかった。2011年度に4回コースで再度教室を実施し、平均36名の参加者があった。教室開始前から複数名の参加者に包括センターが声掛けし、自主活動に向けてリーダーとなることを要請し承諾を得て、2011年8月から月2回の活動を始めた。A・B小学校区ともにビデオあるいはDVDを使用して、運動を実施している。C小学校区では2011年6月から教室を開始し、平均14名の参加者であった。教室の最初の3回までは約18名の参加であったが、その後7名から14名の参加で、毎回参加したのは3名だけで自主活動には至らなかった。2010年度3月に予定していた養成講座は、東日本大震災により開催できなかったが、25名の参加希望者があった。A小学校区内の小地域での1回目の予防教室の参加者は16名であった。大学の学園祭での「測るんです」の体力測定には139名の参加者があり、そのうち数名であるが教室の参加者も来場された。【考察】 事例より、予防教室後に参加者が自主活動するには、活動できる人数の参加者がいること、リーダーとなる人材がいること、自主活動の運営に大きな負担がないことなどの要因があった。自主グループの活動やそれを継続には、2011年3月の地震後、高齢者の体力維持・増進が重要という意識の高まりも影響を及ぼしている。C小学校区の事例で、自主活動できなかった要因を考えるうえで、A・B小学校区と異なる地域特性、地域診断を詳細にする必要性があると考える。リーダーを養成することでC小学校区での高齢者が自主活動できるか検討する必要もある。高齢者の身体状況に合わせて、自主活動できる場所を小学校区単位、小地域単位で検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 介護予防事業を包括センター、予防事業所などだけが取り組む事業ではなく、理学療法士が地域の社会資源としてそのことに取り組み、さらに介護予防、健康増進、障害、介護に関することなどの地域社会にある課題を住民とともに解決するための地域システムを構築していくことは、現在の社会のなかでは必要であると考える。
著者
槻本 康人 木股 正樹 夜久 均 田中 大 曽田 祥正 松本 恵以子 柴田 奈緒美 松尾 洋史 並河 孝 藤原 克次 岡野 高久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Da1000, 2012

【はじめに、目的】 開心術後リハビリテーションは、二次的な廃用症候群や術後肺炎などの合併症予防に有用のみならず、早期離床を可能とし早期退院に有用である。当院でも二次的合併症の予防や術後運動耐容能を改善する目的で、クリティカルパスに沿って理学療法士が術後早期から介入を行っている。術後リハビリテーションでは、日本循環器病学会の開心術後クリティカルパスを用いている施設も多い。開心術の対象疾患である心臓弁膜症と虚血性心疾患は、術前の病態や重症度は異なる。しかし、同一の開心術後クリティカルパスで術後リハビリテーションを行った結果、体力の低下に不安を抱えて退院する患者も散見される。今回開心術後リハビリテーションに関連する術前の因子について、心臓弁膜症と虚血性心疾患の間で検討した。【方法】 対象は、平成21年4月から平成23年10月までの間に当院で待機的に開心術を行った76例のうち、急性心筋梗塞および複合手術を除く心臓弁膜症患者(20例)および虚血性心疾患患者(25例)である。入院時の性別、年齢、身長、体重、BMIおよび移動能力を調査した。移動能力の指標として、アメリカ胸部学会のガイドラインに従って術前6分間歩行テストを行った。また予備調査として、性別、年齢、身長および体重をもとに6分間歩行距離の予測値を算出した。統計処理はWilcoxon順位和検定を行い、5パーセント未満を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、対象者へ研究の趣旨と内容、調査結果の取り扱いについて説明し、同意を得た上で調査を実施した。【結果】 性別は心臓弁膜症が男性10名、女性10名、虚血性心疾患は男性17名、女性8名であった。年齢は心臓弁膜症74.8±9.2歳、虚血性心疾患69.3歳±8.7歳と心臓弁膜症が有意に高かった。身長は心臓弁膜症156.8±10.7cm、虚血性心疾患162.3±9.5cmと有意差はなかった。体重は心臓弁膜症55.2±9.8kg、虚血性心疾患64.2±8.9kgと虚血性心疾患が有意に高かった。BMIは心臓弁膜症22.3±4.4、虚血性心疾患24.3±2.4と虚血性心疾患が有意に高かった。また6分間歩行距離は心臓弁膜症302.1±92.0m、虚血性心疾患は379.2±83.8mと虚血性心疾患が有意に高かった。予測6分間歩行距離は心臓弁膜症503.8±41.9m、虚血性心疾患は491.2±45.9mと有意差はなかった。【考察】 今回の予備調査では、予測6分間歩行距離に心臓弁膜症と虚血性心疾患の間で有意差はなかったが、実際の6分間歩行距離では心臓弁膜症に有意な低下が見られた。近年リウマチ熱等による若年者の大動脈弁狭窄症は減少し、高齢者の動脈硬化性大動脈弁狭窄症が増加傾向にある。加齢による移動能力の低下が、心臓弁膜症患者の6分間歩行距離低下に影響したと推察された。また、心臓弁膜症患者は、左室拡張末期圧の上昇等で労作時の胸部症状が出現し、日常生活活動の低下や活動量が減少している症例が見られる。これら日常生活の不活発化が、6分間歩行距離の低下に影響を与える可能性が示唆された。虚血性心疾患患者は心臓弁膜症患者と比較してBMIが高く肥満傾向であったが、若年者が多く加齢による移動能力の低下が少なかった事、亜硝酸薬の内服で運動制限が少なく良好な日常生活を過ごしていた事などが影響し、6分間歩行距離が有意に高かったと推察された。よって、術後リハビリテーションでは、心臓弁膜症患者は活動量の増加や移動能力の向上を目的に、歩行トレーニングを中心とした低負荷長時間の運動療法が重要であると思われる。また虚血性心疾患患者は肥満傾向にあったので、冠危険因子を是正し再イベントの発生を回避するため、減量指導や継続して有酸素運動を中心とした心臓リハビリテーションが重要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】 心臓弁膜症患者と虚血性心疾患患者の間で術前調査を行った。心臓弁膜症患者は、胸部症状の出現や加齢により移動能力が低下、虚血性心疾患患者は肥満傾向にある事が示唆された。本研究より、開心術後リハビリテーションでは、同一のクリティカルパスであっても両疾患の特性に応じたリハビリテーションが提供されるべきであると思われる。
著者
斎藤 貴 杉本 大貴 中村 凌 村田 峻輔 小野 玲 岡村 篤夫 井上 順一朗 牧浦 大祐 土井 久容 向原 徹 松岡 広 薬師神 公和 澤 龍一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年がん医療においては疾病の早期発見,治療法の発展により生存率が向上している一方で,治療による副作用が問題視されている。化学療法の副作用の1つに化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy,以下,CIPN)があり,その好発部位から「手袋・靴下型」と称されている。リハビリテーション実施場面においても,化学療法実施中の患者にはしばしば見られる症状である。CIPNは多様な感覚器の障害様式を呈するが,その評価は医療者による主観的な評価が中心であり,どのような感覚器の障害様式なのかはについて詳細な評価はなされていない。本研究の目的は感覚検査の客観的評価ツール用い,CIPNを縦断的に調査し,その障害様式を明らかにすることである。【方法】本研究は前向きコホート研究であり,任意の化学療法実施日をベースラインとし,フォローアップ期間は3ヶ月とした。本研究の対象者は,2015年2月から7月までの期間内に,神戸大学医学部附属病院の通院治療室にて,副作用としてCIPNが出現する化学療法を受けているがん患者35名であり,脊椎疾患を有する者,フォロー不可能であった者,欠損値があった者を除く18名(63.7±11.3歳,女性11名)を解析対象者とした。CIPNの評価は下肢末端を評価部位とし,客観的評価として触覚検査,振動覚検査,主観的評価としてしびれについて検査を行った。触覚検査はモノフィラメント知覚テスターを用い,母趾指腹,母趾球,踵部,足首の四カ所の触覚を測定し,測定方法にはup and down methodを用いた。振動覚検査は音叉を用い,内果の振動覚を測定し,測定方法はtimed methodを用いた。しびれの主観的検査はVisual Analog Scale(以下,VAS)を用い前足部,足底部,足首の三カ所の主観的なしびれを評価した。測定はベースライン,フォローアップ時ともに化学療法実施日に行い,薬剤の投与前に上記評価を完了した。統計解析は対応のあるt検定およびWilcoxonの符号付順位検定を用い,それぞれの評価項目におけるベースライン時からフォローアップ時の値の変化を検討した。【結果】触覚検査では踵部のみに有意な変化がみられ,フォローアップ後に有意に触覚が低下していた(<i>p</i><0.01)。振動覚検査においてはフォロー後に有意に増悪がみられた(<i>p</i><0.01)。下肢末端のしびれの主観的検査においては前足部,足底部,足首部ともにフォロー後に有意差は見られなかった。【結論】三ヶ月のフォローアップ調査により,CIPNの障害様式は主に踵部の触覚低下および振動覚の低下であることが明らかとなった。一方で,主観的なしびれは変化がなく,客観的評価ツールで足底した触覚や振動覚の方が鋭敏に神経障害を反映しており,患者が障害を認知する前から感覚障害が生じていることが示唆された。
著者
久利 彩子 勝山 隆 臼井 永男 吉田 正樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3011, 2009

【目的】<BR>立位姿勢で床面に接地しない状態の足趾を「浮き趾」と言う.近年,幼児における「浮き趾」の激増や健常成人における「浮き趾」の実態が報告されている.しかし,姿勢の変化や姿勢保持中の経時的な状況において「浮き趾」の床面接地が変化するか否かについて報告は少ない.本研究では,「浮き趾」の足趾が,両足・片脚立位姿勢保持中に,接地状態が変化するか否か明らかにすることを目的に,調査を行った.<BR><BR>【対象者と方法】<BR>対象者は,同意の得られた「浮き趾」のある健常成人9名中「浮き趾」が確認できた14足で,平均年齢28.9±7.7歳(男性5名,女性4名)であった.「浮き趾」有無の評価は,厚さ15mmのアクリル板の上で対象者の両足部を肩幅として前方直視で裸足にて立位保持させ,足底面画像をスキャナー(Canon社製CanoScanD1250U2F)を用いてパソコンに取り込んだ後,足底面の状況を視覚的に観察し確認を行った.さらに,両足部を肩幅として前方直視で裸足にて立位保持させた対象者の足趾と足底接地させたアクリル板との間に,市販の付箋紙1枚を抵抗なく差し込めるか否かで,「浮き趾」有無を再確認した.「浮き趾」の経時的な床面接地状況の測定肢位は,30秒間の開眼閉足両足立位および開眼片脚立位とした.両足立位の測定姿勢は,日本めまい平衡医学会の定めた方法とした.片脚立位の測定姿勢は,東京都立大学体力標準値研究会『新・日本人の体力標準値2000』による指標に基づいた.「浮き趾」の経時的な床面接地状況を確認するため,「浮き趾」が床面に接地するとスイッチが入り,LEDが発光する装置を自作した.様子を撮影した動画を30フレーム/秒ごとに確認し,LEDが発光した全フレーム数を時間に変換し,測定結果を得た.統計処理は,ウィルコクソン符号付順位和検定を用いた.<BR><BR>【結果】<BR>「浮き趾」が30秒間の姿勢保持で接地する時間の第1,第2,第3四分位数はそれぞれ,両足立位で0.0秒,4.2秒,23.8秒,片脚立位で5.6秒,26.2秒,27.7秒であった.片脚・両足立位とも,「浮き趾」の床面接地は経時的に変化していた.片脚立位と両足立位では「浮き趾」の接地時間に有意差が認められた(p<0.01).<BR><BR>【考察】<BR>立位姿勢を保持させ,「浮き趾」の経時的な床面接地状況を調査したところ,片脚立位姿勢保持では,閉足両足立位姿勢保持に比べて「浮き趾」の接地が増大していた.このことは,姿勢保持の難易度と「浮き趾」の接地状況に関係があることを意味すると考えられる.また,閉足両足立位において「浮き趾」の経時的床面接地の中央値は4.2秒であった.「浮き趾」有無の判定は,肩幅に足部を開いた両足立位で行っている.足底が肩幅に開いた立位姿勢と閉足立位の姿勢の違いが,「浮き趾」の経時的な接地に影響を及ぼすのではないかと考えられる.
著者
谷口 匡史 建内 宏重 森 奈津子 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0198, 2012

【目的】 腰痛発生要因の約60%が体幹回旋と関連しており、腰痛と回旋動作には深い関係がある。腰痛患者では、体幹回旋時に骨盤回旋に対して脊柱回旋による回旋の割合が増加しており、相対的な脊柱回旋可動性の増加と腰痛が関連することが示されている。また、体幹回旋中の筋活動量に関する研究では、脊柱起立筋や外腹斜筋の異常筋活動が報告されており、この異常な筋活動状態で繰り返される回旋動作が腰痛を引き起こす可能性があるが、脊柱可動性と筋活動の関連は明らかではない。本研究の目的は、腰痛患者における脊柱可動性と筋活動の関連を明らかにすることである。【方法】 対象は、健常群15名(男性9名、女性6名:年齢25.2±5.5歳)および腰痛群15名(男性9名、女性6名:年齢22.5±2.4歳)とした。腰痛群は、Visual Analogue Scale(以下VAS)で30mm以上の腰痛が過去に3カ月以上続いた者とし、測定課題実施時には痛みのない者とした。神経症状を伴う腰痛や内部疾患および精神疾患による腰痛は、除外した。腰痛群における最近1カ月の疼痛は、VAS:平均35.6±23.3mm、腰痛群の健康関連QOL(Oswestry Disability Index)は平均15.1±10.5%であった。測定課題は、立位での体幹回旋動作とした。開始肢位は、両踵骨間距離を被験者の足長および足角10度とし、上肢は腹部の前で組んだ姿勢とした。対象者には、約2m前方で目線の高さに置かれたLEDランプを注視させ、LED点灯の合図にできるだけ速く回旋を開始するよう指示し、約1秒で最大回旋角度の75%以上体幹を回旋させ、その終了肢位で3秒間静止させた。数回の練習後、左右ランダムにそれぞれ5回ずつ実施し、非利き手側への回旋動作を解析に用いた。回旋角度の測定には、三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製)を使用し、サンプリング周波数200Hzにて実施した。体幹回旋角度は胸郭セグメントの回旋、脊柱回旋角度は胸郭セグメントと骨盤セグメントの回旋差により算出した。これより最大体幹回旋時における脊柱回旋可動性は、脊柱回旋角度を体幹回旋角度で除した脊柱回旋比として求めた。また、筋電図測定には、表面筋電図TeleMyo2400(Noraxon社製)を使用し、サンプリング周波数1000Hzにて三次元動作解析装置とLED信号を同期したパソコンに記録させた。3秒間の最大等尺性収縮時(MVC)より得られた筋電図波形は、全波整流平滑化し、この値を100%として各課題実施時における筋活動量(%MVC)を求めた。測定筋は、左右両側の脊柱起立筋腰部、多裂筋、腹横筋(内腹斜筋)、外腹斜筋、腹直筋、広背筋上部・下部線維、大殿筋上部線維の計16筋とした。解析区間は回旋開始から終了までとし、体幹回旋角度により規定した。なお、これらの分析にはMathWorks社製MATLABを使用した。統計学的検定は、群間比較にはMann-Whitney検定、腰痛群における脊柱回旋比と筋活動の関連はSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は、倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には本研究の目的を十分に説明し、書面にて同意を得た。【結果】 最大回旋時における脊柱回旋比は健常群28.6±5.9%に対し、腰痛群32.9±4.6%と腰痛群で有意に増加していた。また、筋活動量は、非回旋側外腹斜筋が腰痛群4.92±2.19%に対して健常群では3.42±1.69%であり、腰痛群の筋活動量が有意に増加(p=0.04、効果量: 0.77)し、非回旋側多裂筋の筋活動量が減少する傾向(p=0.09、効果量: 0.64)にあった。腰痛群における脊柱回旋比と筋活動の関連は、両側多裂筋(非回旋側: r=-0.732、p<0.01、回旋側: r=-0.604、p=0.02)と脊柱起立筋(非回旋側: r=-0.514、p=0.04、回旋側: r=-0.557、p=0.03)で有意な負の相関関係が認められた。【考察】 腰痛群では健常群に比べ、相対的な脊柱回旋可動性が増加し、外腹斜筋の筋活動量増加がみられた。また、腰痛群では脊柱回旋比と多裂筋・脊柱起立筋に有意な負の相関関係が得られたことから、回旋時の脊柱回旋可動性が高いほど多裂筋や脊柱起立筋の筋活動が低下していることが示唆された。腰痛群では外腹斜筋の筋活動量増加がみられたが、脊柱回旋比と関連を示さなかったことから、この筋活動増加は脊柱安定化筋の機能低下を代償し、回旋主動作筋としてだけではなく脊柱を安定させる固定補助筋として作用している可能性がある。以上より、腰痛患者の脊柱可動性増加は、主動作筋の過活動ではなく、多裂筋や脊柱起立筋の脊柱安定化作用の機能低下によって生じている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 腰痛患者における脊柱回旋可動性と体幹筋活動の特性を明らかにした研究であり、臨床場面における評価・治療の一助となる。
著者
田中 宏樹 後藤 由美 隈川 公昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1022, 2011

【目的】<BR> 立ち上がりは、目的動作や行為の一部として生活・活動範囲の拡大に関与する。股関節内転筋群は、骨盤の安定化やブリッジ機能といった作用が報告されており、体幹の安定性獲得に重要であり、立ち上がりにおいても重要な役割を果たすと考えられる。しかし、立ち上がりにおける股関節内転筋群の関与についての報告は少ない。そこで今回健常者を対象に、股関節内転筋群を作用させた立ち上がり時の骨盤や股関節への影響を明確にすることを目的とした。<BR>【方法】<BR> 現在整形外科的疾患・神経学的疾患を有さない、健常成人15名(年齢27.3±4.7歳、身長169.1±3.5cm、体重60.5±7.7kg)を対象とした。立ち上がりは、安楽坐位姿勢(以下normal)、股関節内旋位(internal rotation:以下internal)、Ballを挟んでの立ち上がり(adduction:以下add)の3種類で検討した。スタート肢位は、両上肢を体幹前面で組み、座面は大腿部が床面と水平な位置とし、膝関節90°、足底が全面接地可能な範囲とした。被験者の肩峰、上後腸骨棘、大転子、膝関節外側関節裂隙にマーカーを貼付し、各立ち上がりをビデオカメラにて撮影した。撮影した動画から1秒間に30フレームの連続した静止画を作成し、Image Jを使用して、肩峰-上後腸骨棘-大転子のなす角(以下 骨盤前傾角)と、上後腸骨棘-大転子-膝関節外側裂隙のなす角(以下 股関節屈曲角)を測定した。3種類の立ち上がりの骨盤前傾角・股関節屈曲角を反復測定一元配置分散分析で検討し、有意差を認めた場合には多重比較検定(Bonferroni)を用いて検定を行った。なお有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> すべての対象者には、本研究の主旨を口頭にて説明し参加同意の得られた者を対象とした。<BR>【結果】<BR> スタート肢位での骨盤前傾角は、normal 93.1±12.6°と比較し、internal 85.7±11.2°,add 87.3±10.4°では有意に低値を示した(P<0.01)。しかしinternal、add間においては骨盤前傾角に有意差を認めなかった。股関節屈曲角度においては3群間normal 162.3±12.6°,internal 177.6±51.4°,add 178.0±51.5°で有意差は認めなかった。<BR> 立ち上がり時の最大骨盤前傾角は、normal 73.7±12.0°と比較しinternal 67.5±11.5°,add 69.4± 12.3°では有意に低値を示した(P<0.01)が、internalとadd間では、有意差は認めなかった。最大股関節屈曲角においてはinternal 142.7±13.1°と比較しnormal 136.7±14.4°で有意に低値を示し(P<0.01)、またinternalとadd 139.5±12.5°間においても、addの方が有意に低値を示した(P<0.05)。しかしnormalとadd間においては股関節屈曲角に差を認めなかった。<BR>【考察】<BR> 今回測定を行った骨盤前傾角・股関節屈曲角は、角度が低値を示すほど、骨盤前傾及び股関節屈曲は大きくなる。今回の結果から、立ち上がり時のスタート肢位の骨盤前傾及び、最大骨盤前傾はともにinternal,addで骨盤前傾が大きかった。最大股関節屈曲では、normalとaddで大きくなった。<BR> 股関節内旋は、運動連鎖的に骨盤を前傾させる作用が報告されており、internalでのスタート肢位では、normalよりも骨盤前傾が大きくなったと思われる。また最大骨盤前傾角においても、股関節内旋による運動連鎖で骨盤前傾が大きくなったと考えられる。一方、最大股関節屈曲に関しては、股関節内旋位が股関節のclosed-packed-positionの1つに相当するため、股関節がしまりの肢位となり、股関節屈曲が制限され、normalよりも最大股関節屈曲が小さくなったと考えられる。<BR> 股関節内転筋群の開放運動連鎖は股関節内旋にも作用すると述べられている。したがって、スタート肢位でBallを挟んだ際は股関節内転筋群が活動することで、股関節が内旋し、運動連鎖的に骨盤を前傾させたものと考えられる。また最大骨盤前傾角においてもBallを挟み続けることで、運動連鎖が維持され、骨盤前傾がnormalよりも大きくなったと考えられる。最大股関節屈曲角においてはinternalよりaddの方が大きくなったが、立ち上がりでの股関節内転筋群の関与として、動作開始から離殿前までは股関節屈曲を補助すると述べられている。このことから、股関節内転筋群を収縮させることで股関節の補助的な屈曲に作用し、最大股関節屈曲に差が認められたと考えられる。<BR> 以上のことからinternalでの立ち上がりでは、骨盤前傾は増加するが股関節屈曲は制限されることが示された。またaddでの立ち上がりは、normalと同程度の股関節屈曲を維持し、骨盤を前傾させて立ち上がりを行うことが可能であることが示された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回のaddでの立ち上がりは、変形性膝関節症患者で見られる骨盤後傾で立ち上がりを行う症例に対して臨床的に応用できると考える。
著者
佐倉井 紀子 河村 光俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.B0044, 2005

【はじめに】重症心身障害児(者)の肢体の特徴として、全身的または部分的な筋緊張の亢進が多く認められる。四肢の筋緊張が強い場合は、特に上肢では屈曲拘縮(肩関節屈曲、肘関節屈曲、手関節掌屈、母指内転)が起こり易く、更衣の着脱や移乗動作が困難になるなどのADLに支障をきたすことも多い。関節可動域制限が筋緊張によってある場合、目的の関節を直接伸ばそうとすると逆に筋緊張が増す。そのため当施設でも体位変換や揺らしを利用したり、自発的な運動後の弛緩状態を狙ったりし、一時的に緊張をといて間接的な関節可動域改善を行ってきた。しかし実際には長期的な可動域制限の進行をとどめるには困難である。そこでこの度、先ず末端部分をほぐすことで可動域の改善を試みてみた。具体的には上肢では内転ぎみの母指を外転方向にリズミカルにストレッチし内転筋をほぐす。この母指外転法を5症例に行った結果、上肢全体にリラクゼーションが図られ、直接アプローチしていない手関節の背屈・肘伸展・肩屈曲角度にも改善がみとめられたのでここに報告する。<BR>【対象】6歳から54歳の重症心身障害児(者)男女5名。いずれも母指内転し、筋緊張によって上肢に可動域制限のある者。<BR>【方法】症例の内転ぎみの母指を、外転方向にマッサージするようにほぐしていく。なお母指には橈側外転と掌側外転があるため、どちらの方向にもストレッチできるように若干回しながら行う。効果判定は、各関節の可動域角度の変化をみるものとする。<BR>【結果】母指を外転する回数を増やしていくと、5症例とも直接アプローチしていない手関節に改善があらわれ、その最適施行回数と改善角度は症例の筋緊張の状態によって若干異なるが,最低でも50回施せば効果は期待できると判断された。結果として手関節には10度から25度の改善がみられた。また、約2ヶ月間、1回/週のリハビリ時に母指外転法を取り入れた結果、施行直後はもとより、経時的にも手関節の関節可動域改善の効果が見られた。手関節のみならず肘関節や肩関節を含めた上肢全体の緊張の緩和が図られたものもあった。<BR>【考察】筋緊張によって上肢の関節可動域に制限のある重症児(者)に対し、末端部分である母指を外転させることによって、無理なく上肢の関節の緊張を緩和することができた。変形・拘縮肢位は何年もの間の連合反応の結果である。末端の肢位は上位の緊張に大きく関わりがあることは知られており、今回の試みは、末端の内転筋を緩めることにより上肢の屈曲パターンを崩し、ブロックすることで上肢全体の筋緊張の緩和が得られたと解釈する。また、この母指外転法は,すでに制限のある重症児(者)に対してアプローチするだけでなく、幼児期からの拘縮予防に多いに役立つのではと考える。特別な技術を要さず安全に行え、いつ何時でもアプローチでき、施行回数も50回をめどに行えば効果は期待される。
著者
蛭間 基夫 鈴木 浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.E0728, 2008

【はじめに】高齢者を対象とした住宅改善支援は介護保険によって全国統一した仕組みで実施されている.ただし,一制度のみでは高齢者の多様なニーズに十分対応しきれない例も少なくない.このような例を補完するには自治体独自の支援制度の整備・拡充が期待される.しかし,このような制度の実態調査はこれまで大規模自治体や東京都特別区あるいは制度の利用実績のある自治体に限定され,地方都市を対象としたものは少ない.本報告の目的は高齢者の住宅改善に対して質の高いサービス提供のために有効な自治体独自の住宅改善費用支援制度の実態を明らかにし,今後の活用を促進する一助とすることである.<BR>【方法】調査対象は東北6県内全63市である(02年度時点).調査は質問紙によるアンケート票を郵送にて配布・回収している.期間は02年8月から2ヶ月で,回収率81.0%である.<BR>【結果】(1)高齢者や障害者を対象とした独自の費用支援制度を整備しているのは42市(82.0%)で,これら42市で費用支援制度の合計は77制度(補助制度46制度,融資制度31制度)である.費用の補助制度を整備しているのは37市(72.5%),融資制度は24市(47.1%)である.両制度を同時に整備しているのは19市(37.3%)である.独自制度が整備されてないのは9市(17.6%)で,このうち整備していた制度を中止した・中止予定とする3市(5.9%)が含まれている.(2)制度の実態として対象者規定では心身機能低下を有する者とした制度が50制度(64.9%)で,反対に低下のない者とした制度は27制度(35.1%)である.(3)制度利用の制限規定としては46助成制度では障害等級(76.1%),回数制限(76.1%),所得制限(73.1%),介護保険との併用不可(39.1%)が上位で,31融資制度では障害等級(45.2%),家族形態(38.7%),納税完済(38.7%)である.(4)制度の利用実態について助成制度の助成限度額は「25万円未満」が23制度(50.0%)で最多である.また,過去3年間の平均利用件数は「1-9件」が最多で18制度(43.9%)である.過去3年間の1件当たりの平均助成額は99年度58.8万円,00年度49.5万円,01年度31.2万円である.<BR>【考察】東北6県内市部の支援制度の整備状況は先行研究で報告されている大都市部の実態と比較すると低い傾向を示し,経済基盤の大きい自治体ほど制度化しやすい傾向を示唆している.また,融資制度が制度として整備されているが,経済能力が不安定な者では利用が難しい内容となっている.助成制度であれば経済能力が不安定な者であっても利用できるが,実際の利用率は低く,年々助成額も低下傾向にある.本報告は調査時期から5年以上経過し,その間介護保険も改正されている.従って,現状を反映した結果とは位置づけられないが,今後の実態を明らかにする上で比較検討の対象になると考えられる.<BR>【まとめ】東北全市を対象として住宅改善費用支援制度について調査を行った.制度は整備されているが利用実績が少ないことが明らかになった.
著者
棏平 司 内山 匡将 原田 千佳 大瀧 俊夫 山上 艶子 福本 貴彦 前岡 浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P3571, 2009

【目的】厚生労働省は、「患者の安全を守るための医療関係者の共同行動」の実施を平成13年度より開始し、医療安全対策を全国的に展開している.今回、当院リハビリテーション科(以下リハ科)において過去5年間のインシデント状況調査を行い、その要因について若干の知見を得たので報告する.<BR>【対象】対象は、平成15年1月1日から平成19年12月31日までにリハ科内においてインシデントリポートとして挙げられ、当院の医療安全管理委員会に許可を得たインシデントを対象とした.<BR>【方法】方法は、インシデントリポートより発生件数、発生内容、発生要因、対応、生命への危険度、患者の信頼度について抽出した.さらに、発生要因は、正準判別分析を用いて分析した.<BR>【結果】発生件数は、平成15年(10件)、平成16年(28件)、平成17年(35件)、平成18年(44件)、平成19年(28件)の合計145件であった.発生内容は、リハ中55%、転落・転倒31%、点滴・NGチューブの抜去・抜管5%であった.発生要因は、確認不足15%、観察不足13%であり、問題行動のある患者(R=0.748、P<0.05)であった.男性ではコミュニケーション不足(R=1.234、P<0.05)、女性では点滴・NGチューブの抜去・抜管(R=0.434、P<0.05)であった.インシデントへの対応は医師診察が54%、なし28%であった.生命への危険度は、実害なし51%、全くなし32%、一過性軽度10%であった.患者の信頼度は、殆ど損なわない52%、多少損なう10%、大きく損なう6%であった.<BR>【考察】発生件数は、平成18年までは増加傾向にあったが平成19年には減少した.これは、リスクマネージャーへの報告や会議を行い、インシデントの分析や対策についての会議を開催したため改善されたものと思われる.男女共に関与が深かった問題行動は、認知能力の低下や高次機能障害の問題によるものと思われる.一方、男性にみられたコミュニケーション不足では、男性に多い口数の少なさから生じているのか、あるいは、リハスタッフそのものの熟練性の差によるものと考えられる.女性に関しては点滴やNGチューブの抜去・抜管の要因が挙げられていたが、これは女性の方が男性より不快感をより強く感じるために起こったのではないかと思われる.インシデントへの対応は、医師診察が半数占め、しかも生命への危険度は実害なしが半数を占めていた.しかし、場合によっては手術を要するものもあり問題も見られた.患者や家族への説明は多くの場合行っていたが、患者の信頼度の中で大きく損なうこともあることから事情の説明はすべきものと思われる.<BR>【結語】今回、医療安全についてインシデントの発生から検討した.急性期化が進められる状況の中でインシデントの原因分析と対策は、よりいっそう講じていかなければならないと思われる.
著者
長尾 香奈 平澤 小百合 尾﨑 充代 高木 賢一 平島 光子 仁田 裕也 松下 真由美 西村 麗華 鶯 春夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1092, 2006

【はじめに】<BR> 高齢者が多く入所している施設においては、「できるADL」と「しているADL」の差が問題になることが多い。当介護老人保健施設(以下:当施設)においてもこの差が生じていたので、これらの問題を改善するために「できるADL」と「しているADL」の実態調査を行い、どのADLに差が生じているのか、どのような入所者に差が生じているのかなどを検討した。<BR>【対象・方法】<BR> 当施設の入所者48名(男性10名、女性38名、年齢69~99歳、平均84.5歳)を対象とした。要介護度別にみると、1が8名(16.7%)、2が7名(14.6%)、3が20名(41.7%)、4が10名(20.8%)、5が3名(6.3%)であった。主疾患は脳神経疾患23名(47.9%)、骨関節疾患9名(18.8%)、認知症8名(16.7%)、その他8名(16.7%)であった。方法は、担当理学療法士が直接介護場面を観察したり、介護スタッフに聞き取り調査することにより、機能的自立度評価表(以下:FIM)にて「しているADL」を評価するとともに、FIMの評価表を基に担当理学療法士が「できるADL」を評価し、その差を比較検討した。なお、FIMの18項目のうち、セルフケア6項目、移乗2項目、移動1項目の計9項目を評価した。<BR>【結果】<BR> 「できるADL」と「しているADL」の評価がFIMの9項目全て一致した者は6名(12.5%)で、各項目において「完全自立もしくは修正自立」と採点された者が5名、「最大介助もしくは全介助」と採点された者が1名であった。逆に、一致した項目数が最も少なかったのは1項目で、2名(4.2%)存在し、それは過剰な介助が原因であった。項目別にみた場合、一致率が高かった項目は、食事41名(85.4%)、移乗37名(77.1%)、トイレ動作36名(75.0%)であった。逆に一致率が低かった項目は、清拭17名(35.4%)、更衣・上半身27名(56.3%)、整容28名(58.3%)であった。最も一致率が高かった食事においては、1段階異なった者が5名(10.4%)、2段階以上異なった者が2名(4.2%)であり、最も一致率が低かった清拭動作においては、1段階異なった者が13名(27.1%)、2段階以上異なった者が18名(37.5%)であった。<BR>【考察】<BR> 清拭や更衣の一致率が低かった理由としては、当施設の入浴介助が介護者のペースで行われたり、安全性を重視するあまりに過剰な介助が行われていることなどが考えられた。これらの点の改善ためには、特に、監視~中等度介助レベルの入所者への対応が重要で、安全性の確保や入所者のペースで介助を行う工夫、リハスタッフが生活場面に出向き、介護者とのコミュニケーションを密に取る必要性などが示唆された。
著者
末廣 忠延 渡邉 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb0501, 2012

【はじめに、目的】 近年、腰痛患者や腰部手術を受けた患者はローカル筋群の機能不全が生じることが報告されている。これらのローカル筋群の機能不全が長期間に渡る腰痛悪化の原因となる可能性を示し,またさらなる損傷を受けやすい状態を招くとされており,早期より体幹筋のローカル筋を中心とした腰部安定化運動が実施されている。腰椎術後の腰部安定化運動では安静・固定を目的にコルセットを装着したままでしばしば施行される。しかし,コルセット装着下での腰部安定化運動中の筋活動を調べた報告はない。そこで本研究では,コルセットの使用の有無が腰部安定化運動中の体幹筋活動に及ぼす影響を検討することを目的に実施した。【方法】 対象は,健常な男性10名(平均年齢21.3±0.5歳)とした。測定課題はブリッジ,下肢伸展挙上の2種目とし,下肢伸展挙上は左右両側行った。ブリッジは背臥位で腰椎を中間位に保持したまま股関節伸展0°まで挙上し保持させた。下肢伸展挙上は背臥位で非挙上側の股関節を屈曲45°とし,挙上側の膝関節を伸展位で踵が床から30cmになるまで挙上し保持させた。測定条件は,コルセットを装着しない条件(以下,コルセットなし条件)とコルセットを装着した条件(以下,コルセット条件)との2条件とし,装具はダーメンコルセット(以下,コルセット)を使用した。筋活動量の測定には表面筋電計(Vital Recorder2:キッセイコムテック株式会社製)を用い,サンプリング周波数は1000Hzとした。測定筋は右側の腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,胸部脊柱起立筋,腰部脊柱起立筋,腰部多裂筋とした。得られた筋電波形は筋電図の解析ソフト(BIMUTAS2: キッセイコムテック株式会社製)を使用し,バンドパスフィルター(10 ~ 500 Hz)処理を行った後,全波整流し,中間3秒間の平均積分筋電値(IEMG)を求めた。各測定筋について, MVC時のIEMGで正規化し%MVCの値とした。統計はSPSS ver. 16.0 を用い,Wilcoxsonの符号付き順位検定を用いて比較した(p<0.05)。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者全員に対し本研究について十分な説明を行い,同意を得た。【結果】 (コルセットなし条件,コルセット条件)の順で数値を示す。ブリッジの内腹斜筋(6.2±7.4%,4.2±4.0%)では,コルセット条件がコルセットなし条件に対して有意に筋活動量の低下を示した。その他の5筋は有意差を示さなかった。また同側の下肢伸展挙上の腹直筋(7.1±3.5%,5.1±2.3%)と内腹斜筋(27.9±17.9,25±16.3)でコルセット条件がそれぞれコルセットなし条件に対して有意に筋活動量の低下を示した。その他の4筋は有意差を示さなかった。【考察】 内腹斜筋の活動は,コルセットの使用によりブリッジ,同側の下肢伸展挙上において有意に低値を示した。これは内腹斜筋の鼡径靭帯からの線維が関与していると考えられる。この筋線維は腸骨と仙骨に圧迫を加え,仙腸関節の剛性を高めるように作用する。Snijdersらは,足を組んだ座位姿勢では足を組まない座位姿勢と比べ仙腸関節の圧迫力を強め,骨盤の安定化を代償し内腹斜筋の活動が低下することを報告している。本研究でも,コルセットの使用により受動的に仙腸関節の圧迫力が働いたと考える。これにより仙腸関節の安定化が図られ,内腹斜筋の働きが代償されたために筋活動量が低下したと考える。また,同側の下肢伸展挙上ではコルセット条件で腹直筋の活動量も低下した。下肢伸展挙上の主動作筋である腸骨筋,大腿直筋,長内転筋は,下肢挙上時に骨盤を前方回旋させるトルクを発揮する。これを阻止するために腹直筋や対側の大腿二頭筋が働くことで骨盤の前方回旋を防止する。しかし,コルセット条件では,コルセットが上前腸骨棘から肋骨弓までを覆うことにより,骨盤の前方回旋に対してコルセットが拮抗するように働き,骨盤の前方回旋を阻止する腹直筋の活動量が低下したと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究より,腰部安定化運動中の体幹筋活動はコルセット使用で内腹斜筋の活動量が低下することが示された。このことから腰部術後など急性期でコルセットの使用が余儀なくされる場合ではコルセットを装着していない時よりもより頻回に腰部安定化運動を行い,ローカル筋群の賦活を促していく必要性が示唆された点で意義がある。
著者
東 祥代 小山内 康夫 及川 哲史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.D0472, 2006

【目的】<BR>急性期病院における廃用症候群患者の実態を調査し、移動能力再獲得に影響を与える因子について検討した。<BR>【方法】<BR>対象は、2004年9月から2005年8月に当院入院され、廃用症候群の診断名でリハ処方された患者102名中、死亡例23例・中止例1例を除く78名(男性43名、女性35名)。<BR>診療録より、年齢、痴呆性老人の日常生活自立度判定基準(以下、精神機能)、入院からリハ開始までの日数(以下、リハ開始までの日数)、入院から離床までの日数(以下、臥床日数)、在院日数、転帰先、移動能力(入院前・退院時)について、後方視的に調査した。移動能力については、FIMの移動項目の点数(1~7)を用いた。統計学的解析は、移動能力再獲得に影響を与える因子の分析として、1)年齢、2)精神機能低下(ランク2以下)の有無、3)リハ開始日数、4)臥床日数、5)入院前移動能力を説明変数とし、ステップワイズ重回帰分析を行った。<BR>【結果】<BR>平均年齢は79.4歳。精神機能低下例は、39.7%であった。リハ開始までの平均日数は、9.8±8.7日、平均臥床日数は、11.4±15.1日、平均在院日数は35.7±23.8日であった。転帰先は、自宅が56.4%、転院・施設が43.6%であった。移動能力が、退院時に入院前レベルに回復した例は67.1%だった。<BR>入院前移動能力獲得に寄与する因子として精神機能低下の有無(標準回帰係数=0.400)、入院前移動能力(標準回帰係数=0.365)、臥床日数(標準回帰係数=0.202)の順に採用された。決定係数R<SUP>2</SUP>=16.6%であった。<BR>【考察】<BR>矢部らは、早期離床を阻害する因子として、高齢、運動障害、痴呆、不穏の出現をあげている。本研究からも高齢者が多く、精神機能低下例も4割近くを占めていたことから、これらは廃用症候群に至りやすい因子であると推察された。また、移動能力再獲得例の割合は、門らの内科・外科病棟患者を対象にした研究の82.6%と比較すると、低い値であった。当院では、在院日数短縮の方針のため、病前レベルに到達しなくとも、環境調整により早期に在宅復帰を目指した事が、要因として考えられた。<BR>張替らの終了時移動能力を目的変数として重回帰分析を行った研究では、精神機能、病前移動能力が影響を与えていた。移動能力再獲得を目的変数とした本研究でも、同様の因子に加え、臥床日数が影響したことから、精神機能低下例や、入院前移動能力低下例について、早期離床を進め、廃用の進行を予防していく必要があると考えられた。しかし、決定係数が16.7%と低い値であったことから、今回評価出来なかった因子が関わっている可能性が考えられた。<BR>【まとめ】<BR>廃用症候群患者のリハビリテーションにおいて、「精神機能低下」、「入院前移動能力」の影響を考慮し、早期離床を促すことが重要である。<BR>
著者
石束 友輝 橋本 雅至 井上 直人 古川 博章 山崎 岳志 河野 詩織 吉川 晋矢 木下 和昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2220, 2011

【目的】<BR> 我々は、高校サッカー選手における運動時腰痛の軽減を目的にメディカルチェックと体幹筋トレーニング指導を行っている。体幹筋機能検査として、Kraus-Weber test 変法大阪市大方式(以下、KW)と Side Bridge test(以下、SB)を用いている。KWは体幹筋機能検査として有用性が数多く報告されている。また、我々はSBの体幹筋機能と運動時腰痛との関連性を報告した。先行研究において体幹筋トレーニングを継続した結果、SBやKWの点数の向上に伴い運動時腰痛が軽減したことを報告した。しかし、腰痛が残存する選手も認められた。本研究では初回メディカルチェック時のKW 、SBの点数から低値である選手、高値である選手に分類しトレーニングを継続したことによるそれぞれの点数の変化と運動時腰痛の関連を調査した。<BR>【方法】<BR> 対象は某高校男子サッカー部員で、平成19年度の1年生10名(身長169.0±4.2cm、体重56.9±5.7kg)と、平成20年度の1年生14名 (身長167.6±6.4cm、体重56.8±5.6kg)の計24名。メディカルチェックにおいてKW 、SBの測定と腰痛に関する問診を実施した。KWは大阪市大方式に準じた。SBは姿勢保持の時間を最大60秒とし片側6点満点、左右で12点満点とした。KW、SB共に負荷量は体重の10%の重錘負荷とした。メディカルチェックは初回、中間時(以下、2回目)と約1年後(以下、3回目)に実施し、体幹筋トレーニングは初回メディカルチェック終了後より開始した。<BR> 平成19年度、平成20年度の初回のKWの点数を合計し、平均点を算出した。平均点が中間群に含まれるよう上位群、中間群、下位群の3群に分類した。SBも同様に3群に分類した。今回は上位群、下位群におけるKW、 SBの点数と運動時腰痛の保有者の変化を調査した。<BR> 統計処理は、多重比較検定にTukey-Kramer法を用い、有意水準を5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言及び、個人情報保護法の趣旨に則り、被験者に研究の趣旨や内容、データの取り扱い方法について十分に説明し、研究への参加の同意を得た。<BR>【結果】<BR> KWは下位群9名、上位群8名であり、SBは下位群8名、上位群8名であった。<BR> KW下位群は初回15.1±2.4点、2回目18.0±6.8点、3回目22.3±7.4点であり、初回と3回目(p<0.05)において有意な増加が認められた。運動時腰痛の保有者は初回5名、2回目3名、3回目4名であった。KW上位群は初回24.6±2.4点、2回目26.8±5.3点、3回目27.0±5.4点であり有意な変化は認められなかった。運動時腰痛の保有者は初回7名、2回目5名、3回目4名であった。<BR> SB下位群は初回3.8±1.7点、2回目7.5±2.4点、3回目8.9±3.3点であり、初回と2回目(p<0.05)、初回と3回目 (p<0.01)において有意な増加が認められた。運動時腰痛の保有者は初回7名、2回目4名、3回目5名であった。SB上位群は初回11.3±0.9点、2回目8.9±3.0点、3回目10.9±2.1点であり有意な変化は認められなかった。運動時腰痛の保有者は初回4名、2回目2名、3回目4名であった。<BR><BR>【考察】<BR> 今回の結果からKW、SB下位群では点数向上に伴い運動時腰痛の保有者が減少した。初回メディカルチェック時の体幹筋機能検査において点数が低値である選手は、体幹筋機能の向上に伴い運動時腰痛の保有者が軽減したと考えられる。<BR> 一方KW、SB上位群では点数に有意な変化は認められなかった。KW上位群では運動時腰痛の保有者は減少したが、SB上位群では運動時腰痛の保有者に変化はなかった。我々は先行研究においてKW 、SB共に点数が高値でかつその点数を一定の期間維持することが、運動時腰痛改善の一要因となる可能性があると報告した。今回の結果からも、KW上位群では点数を一定の期間維持できたことで運動時腰痛の保有者が減少したと考えられる。しかしSB上位群では有意差が認められなかったものの点数を一定の期間維持できていないため運動時腰痛の保有者に変化はなかったと考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 腰痛に対する体幹筋トレーニングの効果と体幹筋機能の客観的な評価や腰痛改善との関連性についての報告は少ない。そこで、我々は体幹筋機能を客観的に評価し、運動時腰痛との関連性について経時的に調査することで運動時腰痛発生の要因を検討してきた。本研究では初回メディカルチェック時の体幹筋機能の評価結果から、運動時腰痛の予防や改善のための具体的な方針を決定しうることが示唆された。
著者
丸岡 弘 高柳 清美 伊藤 俊一 森山 英樹 木戸 聡史 井上 和久 藤縄 理 小牧 宏一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3124, 2009

【目的】一般的にストレスマネジメントは、サプリメント摂取や運動などが知られている.しかし、運動などによる酸化ストレス防御系への影響を検討した報告が少ない.そこで今回、実験的疲労動物モデルを用いて運動やサプリメント摂取が酸化ストレス防御系へおよぼす影響について検討した.<BR>【方法】実験動物はWistar系雄性ラット19匹(8週齢)を対象とした.ラットを1週間馴化飼育後に実験1、さらに1週間後に実験2を実施した.酸化ストレス防御系は活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製FRAS4)を使用し、酸化ストレス度(d-ROM:酸化ストレス度の大きさ)と抗酸化能(BAP:抗酸化力)を安静時(RE)と終了直後(PO)に測定し、d-ROM/BAP比(RB比:潜在的抗酸化能)を算出した.実験1(重量負荷強制遊泳試験). 試験は水温23&deg;Cの水を張った黒色円筒容器に、体重の6%のおもりを尾部に装着して2回遊泳(初回遊泳試験後30分間の休息)させた.遊泳は頭部が完全に5秒間水没するまでとして、遊泳時間を計測した.実験2. 対象を10時間以上の絶飲食とした3群(A群7例;行動制限なし、B群6例;行動制限あり、C群6例;絶飲食直前にRoyal Jellyを300mg/Kg強制経口摂取・行動制限なし)に区分し検討した.なお、実験に当たっては埼玉県立大学動物実験委員会の承認を得て実施した.統計学的処理は分散分析と多重比較、相関分析、T検定を用い有意水準を5%未満とした.<BR>【結果】実験1. d-ROMはREとPOを比較して有意差を認めなかったが、BAPとRB比では平均16~19%の有意な増加を認めた(いずれもp<.01).またRB比と遊泳時間との間には、相関を認めなかった.実験2. d-ROM平均変化率はREとPOを比較してA群;3%>B群;-1%,C群;-12%、BAP平均変化率はB群;18%>A群;8%,C群;8%、RB比平均変化率はB群;35%>C群;-6%,A群;-10%(いずれもp<.01~.001)となった.<BR>【考察】遊泳試験(実験1)では抗酸化力を増加させたことにより、酸化ストレス度に変化を生じなかったことが示された.つまり、遊泳時間に関連せずに潜在的抗酸化能を賦活させたことが考えられた.実験2より行動制限なしは酸化ストレス度の増加と共に潜在的抗酸化能の減少、行動制限ありでは抗酸化力と潜在的抗酸化能の増加が示された.このことから、行動制限の有無は酸素摂取との関連などから酸化ストレス防御系に影響をおよぼすことが考えられた.さらに、Royal Jellyの事前投与は酸化ストレス度の減少に繋がるが、潜在的抗酸化能に影響をおよぼさないことが示された.<BR>【まとめ】今回設定した遊泳試験では潜在的抗酸化能を賦活させた.また行動制限やサプリメント摂取は、酸化ストレス防御系と関連を示した.