著者
木村 太一
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

我々は滑膜肉腫細胞株におけるスフィア形成細胞群で有意に高発現しており、幹細胞性遺伝子発現と高い相関の見られる細胞表面抗原Aを同定した。表面抗原Aは滑膜肉腫細胞株から高い造腫瘍能、自己複製能、多分化能を有する細胞集団を分離・濃縮可能であり、滑膜肉腫幹細胞マーカーであることが判明した。表面抗原Aの発現の有無と悪性度との関連を検討するために、42例の滑膜肉腫症例を用いた免疫組織化学的検討では、表面抗原A陽性症例では有意に全生存期間の短縮が見られた。さらに表面抗原Aの特異的阻害剤による腫瘍増殖抑制効果の検討から、2種の滑膜肉腫細胞株で有意な増殖抑制効果を有する事が判明した。本研究において我々は初めて滑膜肉腫幹細胞の存在を明らかにし、分離・濃縮を可能とする表面抗原Aを同定した。さらに表面抗原Aの阻害剤による滑膜肉腫の増殖抑制効果、臨床検体における予後不良因子であることも解明した。このことは滑膜肉腫における新規治療標的を探索する上で極めて重要な発見であると考える。
著者
松野 将宏
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

仙台市の事例研究による、プロスポーツを通じた地域活性化メカニズムを分析、考察した。結論として、第一に、プロスポーツクラブ・球団の存続と発展は、地域における多様なステイクホルダーの支持と参加、さらには、ガバナンス構造の確立が決定的要因であることが考察された。第二に、プロスポーツが地域活性化に貢献するためには、プロスポーツクラブ・球団を支援するネットワーク組織としての実践共同体(コミュニティ・オブ・プラクティス)の生成と発展が、地域における学習活動の促進に寄与していること、特に仙台市の事例では、官民共同支援組織がその機能を果たしていることが明らかにされた。
著者
添田 仁
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

近代日本は、近世の閉鎖的な「鎖国」を打開し、「開国」によって海外との「自由」な交通・取引を実現した国家として理解される。このような近世と近代との国際関係史が断絶したものであることを前提に議論する研究潮流を見直すために、近世・近代移行期の開港場における行政実務の構造的特質と、前近代の国際都市長崎で活躍した実務役人が開港場で果たした役割を分析することで、近代日本における国際関係の内実を近世的な到達点の上に解明した。
著者
ツェレンプル バトユン
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

馬乳酒はモンゴルの伝統的で代表的な乳製品であり、モンゴル国内外で健康的な食品へ関心と馬乳酒の需要が増加しているため、高品質の馬乳酒を生産する伝統的知識の記録と、要因の解明が重要である。国全体で聞き取り調査をおこなった結果、馬乳酒生産は中央部および南部、西部で盛んであった。高品質の馬乳酒生産に重要だと多くの牧民に認識されている項目は、牧民の技術、酵母の選択、植物の種類であった。馬乳酒生産用のウマの行動圏は、搾乳時間帯(日中)より非搾乳時間帯(夜間)で大きかった。これは水場や塩類露出地域、食物の利用可能量の空間分布が影響したと考えられ、放牧地の選択とウマの管理手法の重要性が示唆された。
著者
箱田 徹
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究はミシェル・フーコー(1926-1984)の1960年代後半から1970年代にかけての著作を分析し、不連続性や差異を強調する独自の方法論が明確化される過程を論じた。とくにフーコーが言説分析にかかわる諸概念を実践の問題系に位置づけたことに着目し、この時期以降のフーコー思想にとって政治的主体性の問いが重要性を占めていくことを指摘した。また一連の思索の展開が「六八年五月」と深い関わりがあることも示した。
著者
松尾 智晶
出版者
県立広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

就職活動を組織間協働と捉え、大学組織と企業組織が学生というリソースをやり取りするダイナミズムを捉える本研究においては、平成21年度の研究結果より各大学のキャリアセンターが対内外への情報提供及び調整機能を果たすことが明らかとなった。平成22年度の研究成果として、大学の機能拡充は大学教育の在り方自体の見直し経緯の一環として行われており、その方向性は学士教育の質保証に沿うことが明らかとなったものの、課題として1)教育と研究の重点配分が大学経営の方針によって大いに異なり一般化が困難、2)組織間協働の機能を果たす機関としてキャリアセンターを研究対象としたが実態は継続性・専門性の不足と責任範囲の不明確さ等により期待される役割を十分に果たせていないことが明らかとなった。
著者
横山 浩
出版者
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

家畜排泄物の処理、及び資源回収法として水素発酵が注目をされている。水素発酵には単離された水素生産菌を種菌として接種する純粋培養系と、堆肥や活性汚泥、嫌気性消化汚泥などを純化することなく種汚泥としてそれらに含まれている微生物群を利用する複合培養系がある。複合培養系では、原料の滅菌が不要である利点があり、家畜排泄物などを原料とした場合に適している。近年、分子生物学的手法による有力な菌叢解析法として、16SrDNA領域の多型を利用したDenaturing Gradient Gel Electrophoresis (DGGE)法が開発されている。本研究は、DGGE法による乳牛糞尿スラリーからの水素発酵に関与する微生物群の菌叢解析を実施して、その水素発生のメカニズム解明を検討する。60℃と75℃で嫌気培養した乳牛糞尿スラリーとコントロールとして、培養前のスラリーをDGGE解析の試料とした。その試料から16S rDNAのV3領域をGC-341Fと534RプライマーでPCR増幅した。そのPCR産物のDGGEで分離して、バンドに含まれているDNA配列を決定した。60℃発酵させたスラリーからは、Clostridium thermocellumやClostridium stereorariumに類似した細菌が検出された。これら細菌種は、高温水素発酵での種菌として使われる水素生産菌であることから、スラリーの60℃発酵における水素発生に関与する可能性が示唆された。また、75℃発酵させたスラリーからは、Caldanaerobaeter subterraneusに類似した細菌が検出された。C.subterraneusは、海底の熱水噴出口などの高度高温環境に生育する嫌気性高度好熱細菌であり、水素を発生することが知られている。従って、C.subterraneusに類似性を示す細菌がスラリーの75℃発酵における水素発生に関与する可能性が示唆された。本研究から、乳牛糞尿に水素を産生する有用細菌種が明らかとなった。家畜排泄物は発酵の汚泥として有用であり、また、微生物資源としても貴重であること考えられる。さらに、70℃以上に至適増殖温度を持つ嫌気性高度好熱細菌が家畜糞に含まれていることは想定されておらず、本研究結果は新規知見であると考えられる。
著者
藤井 克彦
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

近年、環境への配慮から産業廃棄物・排水の排出規制が一段と厳格化しており、これらの適正な処理に多くの企業がコストと手間をかける時代となっている。申請者は高濃度の糖が存在する厳しい条件下で生育できる微生物の探索を行い、幾っかの環境試料から高濃度糖を含む無機塩培養液で良好に生育する酵母を分離した。そこで本研究計画では、分離株の生化学的および生理学的解析を行うとともに、分離株が産業排水の浄化に利用可能かどうかについて検討を行うこととした。本年度は、分離株OK1-3株を用いて食品産業排水を浄化できるか検討した。まずフラスコスケールで分離株の浄化能を検討した。乳業排水(糖分を多く含む氷菓子排水)および水産加工排水(タンパク質を多く含む練製品排水)に無機塩類培地成分を加え、これに分離株を接種して培養した。培養期間中、全有機炭素値を定期的に測定した。検討の結果、分離株は乳業排水培地で増殖し、3日間の培養で全有機炭素値が約30%低下した。次に、分離株を担体に固定化し、固定化担体の排水浄化能を検討した。その結果、9日間の培養で70-80%の有機炭素が無機化されていることがわかった。さらに1.5L規模の排水浄化装置を試作し、これに固定化担体を充填し、排水の連続浄化を試みた。4日間の連続稼動の結果、排水中の有機炭素量は日を追って低下し、最終日には全有機炭素の90%程度が無機化されていた。しかし比較に用いた醸造酵母でも同様の結果が得られ、OKI-3株独自の有用性を見出すには至らなかった。
著者
黒田 公美
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

すべての哺乳類において、親による子育て(哺乳、仔の安全や衛生を守るなどの母性的養育行動)は子の生存にとって不可欠である。したがって親の脳内には養育本能を司る神経メカニズムが備わっており、その基本的な部分はすべての哺乳類で共通であると考えられる。そこで我々は、人間の養育行動とその病理の理解を深める目的で、マウスをモデル動物として養育行動の神経メカニズムを解析している。本研究では、養育しているマウスとしていないマウスの脳内養育行動中枢(内側視索前野、MPOA)を単離し、DNAマイクロアレイ法による網羅的遺伝子発現解析を行うことにより、養育している時だけ発現が上昇する遺伝子群を探索した。見出された遺伝子群はすべて、細胞内シグナル伝達系の一つであるERK経路に関連していた。実際にマウスが養育を開始すると15分でERKが活性化される。また、ERK活性化を特異的阻害剤SL327によって抑制すると、養育未経験なマウスは養育行動を学習できなくなった。しかし、すでに養育を十分習得した母マウスの養育行動にはSL327は影響を与えなかった。さらに、転写因子FosBの遺伝子破壊(KO)マウスでは、養育行動が低下していることが知られているが、このFosBKOマウスでは、MPOAにおけるSPRY1およびRadの発現量が低下していた。SPRY1とRadはそれぞれ、ERK活性化およびカルシウム流入を介した神経細胞活動に対しフィードバック抑制を行う。さらにRadは神経突起の伸長などの形態変化を誘導する機能も持つ。以上の結果より、仔マウスからの知覚刺激により親マウスの脳のMPOAニューロンにおいてERK活性化が起こり、cFos/FosB転写システムが活性化されてSPRY1とRadを誘導し、これらの分子によってニューロンの活性制御と形態変化が起こることが、養育行動の獲得に重要であると考えられた(投稿中)。
著者
宮宗 秀伸
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

代表者はこれまでに、代表的な臭素系難燃剤の一つであるデカブロモジフェニルエーテル(DecaBDE)への曝露が、マウスにおいて精子数を減少させることを明らかにしてきた。本研究ではDecaBDE曝露が引き起こす精子数減少の分子メカニズムの解析を行った。本研究課題によって、新生児期マウスへのDecaBDE曝露は、1) 血中テストステロン濃度の減少、2) 精巣におけるアンドロゲン受容体や甲状腺ホルモン受容体の減少を引き起こし、さらに3) 甲状腺ホルモンのスプライシング産物の比率に影響をおよぼすことが明らかとなった。これらの結果は、DecaBDEが精子数減少を引き起こす分子機構の一端を明らかとした。
著者
小針 誠
出版者
同志社女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本課題研究は、保守化・個人化する現代日本において、学校成員(教師や生徒・児童)の自己意識、国家意識(排他的なナショナリズムも含む)、その中間集団としての「社会」(家族・友人・学校・地域社会・教会など)に対する意識に関して理論的・実証的に明らかにし、子どもたちにおける社会的紐帯の復権を目指す臨床的なアプローチを試みた。
著者
名知 祥
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

臨床的な敗血症・腹膜炎モデルである盲腸穿刺腹膜炎(CLP)マウスモデルを作成し、抗菌ペプチドを投与する事で治療効果を検討した。そのまま閉創する群(control群)と抗菌ペプチドを腹腔内投与してから閉創する群(peptide群)を作成したところ、Peptide群は有意に生存日数が延び、IL-6、TNF-α、血中エンドトキシン値も低値であった。以上から抗菌ペプチドは、CLP モデルへの投与で有意に生存日数を延ばすだけでなく、炎症反応も抑え治療効果があると考えられた。
著者
下司 晶
出版者
上越教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

「教育」と「治療(心理臨床)」の境界について、精神分析を中心に原理的な研究を行った。その結果、特に児童生徒の「心」の理解と教育との関係や、道徳性の発達等の問題について、成果を提出することができた。すなわち、(1)教育モデルと治療モデルとの異同や混交を原理的に解明すること、(2)教育において心理学のはたす役割とその限界を提示することができた。さらに(3)精神分析を中心とする心理療法についても、従来は十分に踏まえられていなかった思想史的観点から、新たな一次資料を発掘し検討するなどの基礎的な知見を付け加えることができた。以上の成果は、各種学会等で発表されるのみならず、一部は大学教育や現職教員向けの講習等でも広く還元された。特に教員養成の現場に対しては、今後の教員養成の指針となりうる観点を提出することができた。
著者
吉原 ゆかり
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は、昨年度に引き続き、16・17世紀イギリスのコレクターたちの業績および彼(女)たちが生きた激動の時代について、調査と資料収集を行った。今回とくに注目したのは、16・17世紀・18世紀における古代ローマ・ギリシア研究、古代イングランド研究、中国研究、アジア研究および自由主義思想(リベルタン思想)とのつながりである。このようなつながりから、蒐集文化の研究は、単に美術や古物蒐集といった高級文化の研究という側面のみならず、当時における歴史研究、政治思想などとも深い関係をもつものであることがあきらかになった。たとえば、ヨーロッパ・キリスト教文明全般の源流とみなされつつも16-18世紀においては、イスラム教帝国オスマン・トルコの支配下にあったギリシア・小アジア地域の研究は、当時における国際政治の実状と切り離しては考えることができない。また、放蕩と自堕落を礼賛する形式で、政治的自由思想が表現される傾向があり、政治的自由思想を有する人々が古代ギリシア・ローマの文物のコレクターであり、その時代における性的自由を礼賛することで、自らの生きる時代を諷刺したことなどから、蒐集文化と社会諷刺、さらにはポルノグラフィの誕生がきわめて密接な関係にあることが明らかになった。本助成は今年度で完結するが、将来にむけては、上記したような方面への展開・発展を目していく予定である。本助成研究の総括、および将来へむけての準備として、当該テーマに関心をもつ国内の代表的な研究者を筑波大学にまねき、16年11月、研究集会を行った。参加者は、荒木正純(筑波大学)、箭川 修(東北学院大学)、川田潤(福島大学)、川田理和子(山形保険医療大学)、南隆太(愛知教育大学)、大和高行(鹿児島大学)である。当日は、ジョン・イーヴリンを代表とする、17世紀のコレクターの動向などをめぐり、盛んな質疑応答が行われた。
著者
又吉 里美
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は大山方言の文法を記述することを目的とした大山方言の総合的研究である。主な成果は以下の3点である。(1)音韻体系および音韻変化の過程を考察し、大山方言における緩やかな口蓋化を指摘した。(2)はだか格を含めて16個の格形式を整理し、その機能を明らかにした。(3)動詞の形態について、動詞活用のタイプ、文末形式、連体形、テンス・アスペクトについて整理した。
著者
岡部 悦子
出版者
長崎外国語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成18年度の研究では、前年度までに行った「外国人交換留学高校生の日本留学に対する印象」(岡部2005)での分析結果をもとに、外国人交換留学生に対するアンケート調査と、インタビュー調査を実施した。アンケートの質問項目は、岡部(2005)で得た、日本留学に対する4つの印象項目(I.異文化を知り、様々な体験をした)、「II.異文化の中で、苦労しながら人間関係を築いた」、「III.留学プログラムの制度・行事を通じての体験」、「IV.留学に対する肯定的な評価」から34問を作成した。インタビューでは、アンケート調査の内容をフォローアップすると同時に、日本語の口頭表現能力も調査をした。その結果、すべての留学生が「留学してよかった」「学校に行ってよかった」「ホームステイをしてよかった」と留学体験とプログラムを肯定的に評価していた。差が見られたのは、「日本の習慣に驚きましたが、だんだん慣れました」、「日本にすんで、日本の社会は悪いと思いました」(「II.異文化の中で、苦労しながら人間関係を築いた」に関する質問項目)、「ことばがわからなくて大変でした」(「III.留学プログラムの制度・行事を通じての体験」に関する項目)であった。インタビュー調査で人間関係・言語面で苦労した点について尋ねると、「日本ではいつも集団行動をしなければならない」「みんな同じ意見や行動をしている」といった集団性、同一性に対する違和感、「自分の日本語の意図が誤解されてしまう」「同じ高校生なのに、先輩・後輩で言葉を使い分けなければならない」という、意図の解釈の違いや敬語に対する違和感が聞かれた。これらの原因は、日本語能力というよりは、社会や言語行動に対する価値観に起因する面が大きいと思われる。交換留学高校生の受け入れにあたっては、日本社会における「前提」を丁寧に説明し、価値観の<摺り合せ>をしていくことが必要だと考える。
著者
堀井 悟志
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,日常的な予算管理実践からどのように新製品開発戦略が創発するのかを実践論的研究によって検討した。その結果,集約的財務指標,新製品開発の短期化のもとで予算管理プロセスを議論の場として用いることで,会計と行動計画のリズムの調和の乱れをきっかけに戦略的適応,製品イノベーションが可能になっているだけでなく,予算管理プロセスが新製品開発の基礎である人的資本の構築の場を提供し,組織能力を向上させていることが明らかになった。そのうえで,予算管理の運用においては管理会計リテラシーが重要であることを指摘した。
著者
本庄 武
出版者
一橋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

19年度は、第1に国内において、量刑が争点となる実際の裁判でのあるべき弁護活動、並びに裁判員制度の下でどのような対応策を検討しているかについて聴き取り調査を行った。また、裁判員制度の下での量刑評議をどのように行うことが想定されているか、模擬裁判でどのような取組みがされているかについて文献研究を行うと共に裁判実務家の意見聴取を行った。以上の検討を踏まえ、特に評議における量刑相場(量刑傾向)の扱われ方をチーマに研究会で報告を行った。第2に、裁判員制度の対象となる少年の刑事裁判における量刑及び家裁への再移送のあり方につ.いて従来の研究を発展させ、学会で報告を行った。またその成果の一部として、判例評釈を執筆した他、論文を執筆中である。第3に、アメリカ合衆国マサチューセッツ州における量刑の実情について実態調査を行うと共に文献研究を行った。マサチューセッツ州では、連邦とは異なり、拘束力のない量刑ガイドライン制度を採用しており、量刑の統一性と個別的妥当性を両立させるシステムとなっており、連邦量刑ガイドラインに対してなされているような、硬直的で個別的妥当性を犠牲にした量刑となっているとの批判を回避し得ており、裁判員制度の下での量刑を考える上でも極めて示唆的であった.第4に、アメリカ合衆国連邦最高裁の近時の量刑に関する判例の研究を行うと共に、現地の研究者との間で意見交換を行った。連邦最高裁では裁判官の量刑裁量を拡大する方向での判決を相次いで下している。この動向は、ガイドライン制度の下で量刑の統一性乏個別的妥当性を両立させるというマサチューセッツ州の制度と方向性を同じくしており、非常に興味深いものである。以上の日米の動向についての調査に17-19年度の調査の成果を踏まえ、20年度論文を執筆する予定である。
著者
西村 隆
出版者
大阪教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

論文「20世紀初頭のイギリスにおける義和団事件の表象」においては、1899-1901年頃に中国で起きた義和団事件が、当時のイギリスの主要なメディアである出版物においてどのように表象されていたか、そしてそれに基づいてどのような中国人(東洋人)のイメージが形成されたかを考察した。当時のイギリスで活躍していた文筆家たち、政治・経済学者J.A.ボブスンや冒険小説作家G.A.ヘンティ、小説家ショウゼフ・コンラッドの著作や雑誌『ブラックウッズ・マガジン』など、1901-1903年頃(義和団事件の当時や直後)に出版された資料を集め、中国人がどのようなイメージで表象されているかを具体的に分析した。当時のイギリスの論調が必ずしも「義和団憎し」「中国人は野蛮だ」という方向に偏っていたわけではなく、中国人が西洋列強の中国進出に対して憤るのも当然であるといった論調もあったこと、しかしながら全体として「中国人は高い文化を持ち、普段は穏やかだが、興奮すると凶暴になる」といったステレオタイプを広めるものが多く、義和団の暴動を説明する上でイギリスにとって都合のよいイメージが喧伝されていたことを明らかにした。
著者
中出 麻紀子
出版者
独立行政法人国立健康・栄養研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では大学生とその親に自記式質問紙調査を実施し、大学生の意識・生活習慣や親による食育実施を含む様々な側面から朝食欠食の原因を探ることを目的とした。その結果、朝食欠食者は男女共に一人暮らしの人に多かった。また、女子学生の朝食欠食者では、喫煙習慣者、1時以降の就寝、朝食を欠食しても良いと考える人、夕食~就寝までの間に間食をする人、母親が朝食欠食する人が多く、アルバイト従事者、昼食~夕食までの間に間食をする人、母親の最終学歴が短大・専門学校以上、母親がパート勤務の人には朝食欠食者が少なかった。さらに、子どもの頃に親が食べ物の栄養的価値について子どもと話し合ったり、健康的な食べ物を楽しんで食べるところを見せていた人では朝食欠食者が少なかった。以上の結果から、大学生の朝食欠食には不健康な生活習慣や意識、母親の朝食欠食習慣が関連しており、母親による子どもの頃の食育は朝食欠食を防止し得る要因であることが明らかとなった。