2年目は、ジャイナ教文献における断食死儀礼についての記述の解読作業を行った。まずは、断食死儀礼の実践が認められる条件について分析し、災難、飢饉、老齢、不治の病が中核的な条件であり、これら4つは必要に応じて減らされ、最少の場合にはそれらすべてを含む「死期が近付いた時」という表現になることを明らかにした。この分析のもとになった訳注研究は、詳細なクロスリファレンスを付して将来的に公開する予定である。また、ジャイナ教の綱要書Tattvarthadhigamasutraの注釈文献の記述に基づいて、断食死儀礼を行う者の心理に関する分析も行い、ジャイナ教徒から見た断食死と自死との相違を解明した。上記の作業と並行して、5種類のシュラーヴァカ・アーチャーラ文献、および、その理論的基礎を考察するための3種類の哲学文献の電子テキストの入力を行った。この検索可能な電子テキストは、インターネット上での公開を予定している。2年目の経過報告としては、2017年9月に花園大学で行われた日本印度学仏教学会において「地水火風は生きているか?―「ジャイナ教=アニミズム」説の再検討」という題目で、ジャイナ教徒の生命観を再考する報告を行った(発表内容は、2018年3月発行の『印度学仏教学研究』第66巻第2号に論文として投稿)。その他にも、2017年11月には、イギリスの雑誌International Journal of Jaina Studiesの第13巻第2号に"On Corresponding Sanskrit Words for the Prakrit Term Posaha: With Special Reference to Sravakacara Texts"と題する論文を投稿したほか、ジャイナ教在家信者の行動規範を考察するうえで比較が必要となる、ヒンドゥー教の格言詩と聖者伝の訳注も発表した。