著者
中川 淳一郎
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

我々はクラッシュ症候群の多臓器不全にいたるメカニズムに活性酸素種が強く関与していると考え、活性酸素種を制御するために抗酸化物質ETS-GSを用いて本研究を行った。その結果、抗酸化物質を経静脈的に投与することにより活性酸素種や炎症性サイトカインの産生が抑制され、引き続き生じる遠隔臓器障害が軽減し、生存率改善効果が得られた。活性酸素種はクラッシュ症候群において病態進行を誘導する一因であることが示唆された。
著者
澤 幸祐
出版者
専修大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、ヒト以外の動物において外部の出来事の間の時間関係が、それらの間にある因果関係の推論にどのような影響を与えるのかを検討した。原因は必ず結果に先行するため、二つの出来事の間に時間的な前後関係がある場合には因果関係の存在を推論し、二つの出来事が同時に生起するときにはそうした推論は行われないことが予想される。実験の結果、ラットにおいても出来事の間の時間関係に応じて推論を行うことが示された。また、その際に「自分の行動が結果を引き起こした」という自己主体感をラットも経験していることが示唆された。
著者
小坂 崇之
出版者
神奈川工科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

妊婦体験システムMommyTummyを提案する。MommyTummyは成長していく胎児の重さ、温かさ、胎動などの成長過程を呈示し、妊産婦が受ける身体的負担と胎児が成長する喜びを擬似体験することができる。妊婦の「辛さ・大変さ」「喜び」を擬似体験することによって「助け合いの大切さ」「生命の尊さ」「親への感謝」を感じさせることを目指す。
著者
齋藤 毅
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では,多様で表情豊かな歌声を合成可能にする歌声合成技術の構築を目指し,以下に示すの4つの成果を達成した.(1)オペラ・ポピュラー歌唱者25名による歌声500トラックから構成される歌声データベースの構築.(2)歌声の裏声・地声(声区)の生理的・音響的特徴の操作に基づく声区識別・変換手法の構築(3)オペラ歌唱固有の音響特徴の制御に基づくオペラ歌唱合成手法の構築.(4)歌手の個性を規定する音響特徴量の検討.これらの成果は,従来の歌声合成で実現できなかった豊かな声質,高度な歌唱技量に基づく歌唱スタイルを表現可能にするものである.
著者
高橋 亮
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

(1) 全反射加群の圏の反変有限性が局所環のGorenstein性を特徴付けることを示した。これはAuslander-Buchweitzの定理の逆に相当する。これを用いて全反射加群の個数の有限性による単純特異点の特徴付けも得た。また,Gorenstein Hensel局所環上の反変有限分解部分圏を完全に分類した。(2) 正則環の局所化のD加群構造に関するAlvarez-Montaner-Blickle-Lyubeznikの定理と局所コホモロジー加群の素因子に関するHuneke-Sharpの定理を有限F表現型の環に拡張した。
著者
トレンソン スティーブン 上野 勝之
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、中世日本における密教と神道の交渉史を龍神信仰の観点から再検討した。中世日本では神祇信仰と密教思想は様々な形で結合し、その結果として中世神道の諸流が確立したが、その歴史的展開については未解決な問題が多く残っている。通説では、中世神道が初めて伊勢神宮の周辺に形成され、その後室生山や三輪山などほかの霊地へ広まったとされているが、本研究では、中世神道の言説において龍神信仰に関わる点が多い事実に着目し、そのために古来龍神信仰の聖地とされた醍醐寺の密教の観点から中世神道の様々な信仰を再考した。その結果として、中世神道が醍醐寺の密教から多大な影響を受けたということを明らかにすることができた。
著者
佐々木 掌子
出版者
明治大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本年度は,あらたに,一般母集団の7歳児(小学校1年生)の性の諸要素に関する心理指標のデータを取得することができた。これまでは,6歳児(幼稚園年長組)の協力を得ていたため,これにより6歳児から7歳児(就学前と就学後)における性の諸要素に関する横断的発達の諸相を検討することができる。次年度はさらにその協力児童数を増やす予定である。トランスジェンダーの幼児・児童の性の諸要素に関する心理指標も同様に,着々とその協力者数を増加させていている状況である。さらには,幼児・児童期のみならず,青年期として,大学生・大学院生への性の諸要素に関する心理指標についても収集を始めた。今後は,こうしたデータを通じて,幼児期,児童期,思春期,青年期という性の諸要素についての横断的発達を検討する計画である。8月には,インドのチェンナイで開催された15th Asia-Oceania Conference for Sexologyにおいて,A case of early gender transition in Japanと題したケースを口頭発表した。1月には,教育心理学研究に「中学校における『性の多様性』授業の教育効果」というタイトルで査読論文が掲載された。3月には,第42回日本自殺予防学会でシンポジストとして話した内容を「自殺予防と危機介入」という学術誌にまとめた論考が掲載された(タイトルは「出生時に割り当てられた性別にとらわれない子ども」をどう支援するか」)。
著者
門脇 誠二 西秋 良宏 キリエフ ファルハド マハール リサ ポルティヨ マルタ
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

西アジア北端のコーカサス地方における農業発生のプロセスを明らかにするために、アゼルバイジャン共和国の初期農村遺跡(ギョイテペとハッジ・エラムハンル、約7,500-8,000年前)を発掘調査し、この地域に世界最古の農業が普及したタイミングやプロセスについて研究を行った。具体的には、穀物管理に関わる道具(穀物の収穫・加工具)や貯蔵庫の発達過程を調べると共に、初期家畜ヤギの骨からDNAを増幅し、系統解析を行った。その結果、南コーカサスへの農業普及は約8,000年前に急速に始まり、農業先進地であるメソポタミア(肥沃な三日月地帯)の北部から穀物管理具の影響や家畜ヤギの運搬が生じていた可能性を指摘した。
著者
福武 慎太郎
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

2002年に正式独立を果たした南洋の島国、東ティモール民主共和国のナショナリズムに関連する問題について、現地におけるフィールドワークと文献調査で得られた知見にもとづき考察をおこなった。東ティモールの公用語であるテトゥン語を共通言語とし、カトリック信徒で、かつティモール島南部にかつて存在した王国とのつながりを共有するテトゥン社会は、東西国境をはさみ合計50万人規模であり、人口100万人の東ティモールにおいてけっしてマイノリティではない。親族や姻戚関係、そして商業目的での国境の往来は頻繁におこなわれており、「東ティモール人」アイデンティティを理解する上で重要な文化圏であるとの見解に至った。
著者
直野 章子
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では「原爆被害」と「被爆者」の意味をめぐって繰り広げられる政治的・文化的闘争について、戦後補償と被爆者援護に関する法制度、日本被団協運動と在韓被爆者運動(特に裁判闘争)、被爆者の証言行為を中心に考察した。特に、「被爆者」が法によって作られた主体位置だという点に着目しながら、日本被団協の立法運動や在韓被爆者の裁判闘争が「被爆者」や「原爆被害」の時空間的な範囲を広げてきた様相を描いた。
著者
北口 公司
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

食物繊維を摂取することでアレルギー疾患を予防できる可能性が示唆されている。これまでに我々は,水溶性食物繊維の一種であるペクチンを摂取することで腸管免疫担当細胞の炎症応答を抑制し,敗血症や大腸炎に対して保護的に働くことを明らかにした。さらに,その抗炎症作用には,ペクチンの側鎖が重要であることも見出している。一方,ペクチンが腸内で資化された結果生じる短鎖脂肪酸が血中に移行することで,腸管局所のみならず全身の炎症応答を調節できる可能性も示唆されている(プレバイオティクス効果)。しかしながら,ペクチンの化学構造とプレバイオティスク作用との関係には不明な点が多い。そこで,化学構造の異なる2種類のペクチン(シトラス由来ペクチン,オレンジ由来ペクチン)をマウスに給餌し,遅延型過敏症である接触性皮膚炎の病態と盲腸内の短鎖脂肪酸の産生に及ぼす影響を調査した。オレンジペクチンは,中性糖の割合がシトラスペクチンに比べて約3.5倍高く,側鎖を多く含んでいることが示唆された。シトラスペクチンとオレンジペクチンを含有する飼料をマウスに給餌した後,ジニトロフルオロベンゼン(DNFB)溶液を除毛した腹部に塗布することで感作を行い,感作から5日後にDNFB溶液を再度左耳に塗布して接触性皮膚炎を耳介に惹起した。その結果,オレンジペクチン含有飼料摂取群では,DNFB塗布により惹起された耳介の腫れが有意に抑制されたが,シトラスペクチン含有飼料摂取群では,耳介の腫れは対照飼料摂取群と同程度であった。また,オレンジペクチン含有飼料摂取群では盲腸内容物中の短鎖脂肪酸量が有意に増加し,とりわけ酢酸の増加が顕著であった。以上の結果より,ペクチンの接触性皮膚炎抑制効果は,側鎖の含有量が重要であり,短鎖脂肪酸を介している可能性が示唆された。
著者
中條 和子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

歯内疾患関連菌であるEnterococcus faecalisおよびBifidobacterium longum、齲蝕病巣からの検出が多く報告されているBifidobacterium dentium の広範囲pH 環境における生物学的特異性ついて検討した。E. faecalis は広範囲なpH に調整したアルギニン含有複合培地で高い増殖を示したことから、糖が供給され難い歯内う蝕病巣や水酸化カルシウム製剤を貼薬してもなお難治性病巣を呈する環境では、E. faecalisが滲出液中のアルギニンなどのアミノ酸を利用して増殖可能であることが示唆された。他方、B. dentiumおよびB. longum は、S. mutansと同等の酸性環境において高い生存率と菌体内pH 維持能をもつことが明らかになった。このことが、酸性環境である歯内病巣、または齲蝕病巣から本菌種がmutans streptococciと共に分離される一因であると考えられた。
著者
鈴木 越治
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

健康格差の全体的評価において重要なデータ分析・評価方法の構築を行った。特に、健康格差を評価する際に考慮すべき交絡バイアスの性質を明らかにして、交絡の四つの観念の類型を示した。また、健康格差を評価する際に生じる誤差の新たな体系的分類を提示した。加えて、健康の社会的決定要因(例:ソーシャル・キャピタル)や環境要因(例:砂塵)に着目し、日本における健康格差の特色を明らかにするとともに、格差拡大の背景を評価した。
著者
吉岡 洋輔
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

雑草メロンのもつ単為結果性の遺伝的機構を解明し、育種的利用のための科学的・技術的知見を獲得することを目的として、単為結果性の遺伝解析を実施するとともに、単為結果性メロン系統と現行メロン品種・系統間の交雑後代の単為結果能力の選抜を実践し、単為結果性メロン品種の育種可能性を探った。その結果、雑草メロンの単為結果性は2つの主要な劣性遺伝子により支配されていると考えられ、本系統を素材として、幅広い作型で単為結果するメロンF1品種の育成が可能であることが明らかになった。
著者
岩橋 利彦
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度は、咳嗽および発声時における声門閉鎖の定量的解析法の確立を目標とした。まず、高速度撮影装置と電気声門図(electroglottography:EGG)の同期記録システムを用いて、片側声帯麻痺症例の咳払いにおける声門閉鎖の有無をEGG波形より間接的に評価できるかどうかについて検討を行った。健康成人例の咳払い時の圧縮相において、高速度撮影画像では、声帯、仮声帯、披裂喉頭蓋括約部の閉鎖が認められ、EGG信号では、EGG波形の一過性上昇が認められた。特に、高速度撮影画像における咳払い時の声帯突起の接触とEGG波形の一過性上昇が一致して認められた。そこで、このEGG信号の一過性上昇に着目し、片側声帯麻痺症例においても、声帯が閉鎖する場合にEGG波形の一過性上昇が認められると考え、その検証を行った。結果として、片側声帯麻痺症例においても、EGG波形の一過性上昇は声帯の閉鎖を反映していると考えられ、高速度撮影画像を用いた視覚認識による声帯の閉鎖の評価よりもEGG信号所見の評価の方が評価者間一致率が高い結果となった。片側声帯麻痺症例では麻痺側の披裂部が声門を覆うことがあるため、約3割の症例で声門を視認できない場合がある。そのため、本研究の結果は、咳払い時のEGG波形の一過性上昇が明確に声門を観察することができない片側声帯麻痺症例の咳払い時の声帯閉鎖能力を予測する有用な指標になり得ることを示した。今回の研究結果については12th Pan-European Voice Conferencesにて発表を行った。
著者
今石 みぎわ
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本州の社寺に奉納されたイナウは、これまでに石川県で9点、青森県で27点、岩手県で1点が確認されている。2年目である本年は、イナウ奉納の背景を探るため、奉納を行った石川県の廻船問屋に関する歴史資料の分析を進めるとともに、類似資料の所在調査を行った。また、成果と課題の共有のため、5月には石川県で研究会を開催したほか、10月にはイナウ奉納の地元である輪島市で、1月には北海道で開催された一般向けの講座で報告するなど、成果の積極的公表にも努めた。歴史資料については戸澗幹夫氏・濱岡伸也氏(石川県立歴史博物館)、堀井美里氏(株式会社AMANE)などの協力を得て、イナウを奉納した角海家文書、七野家文書等の整理・分析を進めている。この結果、角海家が奉納年代に実際に樺太へ赴いていることなどが史料から裏付けられた。詳しい成果については来年度開催の研究会にて研究協力者と情報共有する予定である。また類似資料の所在調査に関しては、戸澗幹夫氏、堀井美里氏、北原次郎太氏(北海道大学アイヌ・先住民研究センター)とともに9月に新潟県で調査を行った。イナウは発見されなかったものの、蝦夷錦や船絵馬等、多数の北方関連資料について調査・検証を行い、イナウがもたらされた背景となる北方交流の在り方について知見を深めることができた。さらに輪島市では、かつてイナウを所有していたという方から新たに情報提供をいただき、来年度現地調査を行う予定である。
著者
和仁 健太郎
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、19世紀~20世紀前半の時期における交戦団体承認制度を再検討した。研究の結果、交戦団体承認とは、反乱者と合法政府または第三国との間で行われる、戦争法または中立法の適用を中心的な内容とする合意であることが明らかになった。交戦団体承認制度は、いくつかのあり得る内戦の規律方法の中で、相対的に現実的かつ実効的な方法であり、今日でもなお重要な意義を有すると言える。
著者
宮 信明 飯島 満
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

現在、正本芝居噺のほぼ唯一の継承者である林家正雀師による正本芝居噺映像記録会を、東京文化財研究所において開催した。正本芝居噺を継承・研究する上での需要な基礎資料を作成しえたことは、本研究の大きな成果である。記録会が一般に公開されたことは、芸能を記録するという側面からも、成果を広く発信するという観点からも、非常に意義深い試みであったといえよう。また、速記や点取り(覚書)、草双紙、キッカケ帖などの文字テクストを比較考察することで、正本芝居噺の特徴(話法や演出、様式など)を正確に把握した。さらに、三遊亭円朝以降の正本芝居噺の系譜についてオーラル・ヒストリーを収集し、文字資料の空白を埋めた。
著者
井上 武
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

機能的な成熟した神経回路は、発生過程で、まず遺伝的情報により形成された後、活動依存的に機能回路単位の再編成が行われることで完成する。神経回路の再編成は、神経伝達を促進するシグナル分子が、シナプス後細胞で活動依存的に発現し、シナプス前細胞と相互作用することが必要と考えられる。本研究では、新規神経ペプチドが活動依存的な神経回路の再編成に関与することで、プラナリアの頭部再生過程における正常な負の走光性行動の機能回復に機能していることを見いだした。
著者
樋口 亮介
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

責任能力について、日本の判例が形成された歴史的背景を調査することで、現在の裁判員裁判における説明の沿革を明らかにした。また、日本の判例に類似するドイツの学説について、意思自由という哲学問題も含めて検討することができた。アメリカにおける責任能力の抗弁の廃止論も含めて、責任非難という大きな枠組みの中においても、複数の問題解決基準が展開されていることを把握することができた。さらに、フランスの学説においても、社会を構成する判断能力ある人間に刑罰を科すという思想が主張されていることを把握できた。