著者
犬木 努
出版者
大谷女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

3ヶ年に及ぶ当該研究の最終年度である本年度は、下記のような研究を実施した。昨年度に引き続いて、いわゆる下総型埴輪およびその前段階の埴輪についての詳細な資料調査を実施した。具体的には千葉県人形塚古墳出土埴輪、同金塚古墳出土埴輪、同羽黒前古墳出土埴輪、埼玉県杉戸町目沼瓢箪塚古墳出土埴輪の円筒埴輪・形象埴輪についての悉皆調査(調査検討・観察・写真撮影・調書作成・計測)を行った。これらの資料調査は本年度でほぼ終了し、現在までにこれらの調査記録や写真資料の整理作業もほぼ終了している。このほか、本年度は、下総型埴輪の対照資料として、宮崎県西都市西都原171号墳出土の円筒埴輪・形象埴輪の本格的研究に着手した。数次にわたる調査を経て、各埴輪についての検討・観察・写真撮影・調書作成・計測を行い、大半の作業を終了させることができた。本年度も含めて、この3ヶ年の調査・研究を通じて、特定埴輪工人集団の内部構造の解明を大きく進めることができた。関東地方においては、いわゆる下総型埴輪およびその直前段階の埴輪の製作に携わった埴輪工人集団の全体像及び内部構造を「工人レベル」で解明することができた。また南九州地方では、西都原古墳群出土埴輪の製作に携わった埴輪工人集団の内部構造を「工人レベル」で解明することができた。両地域での分析を踏まえ、同様の分析手法を他の地域・時代に適用することによって、さらに大きな成果を得ることができると考えている。なお、本研究の成果を踏まえて、2月5日〜6日にかけて、葛飾区立郷土と天文の博物館において開催された第6回埴輪研究発表会にパネラーの一人として参加し、「下総型埴輪再論-同工品識別の先にあるもの-」と題して発表を行った。また2月13日には、宮崎県立西都原考古博物館において、「西都原古墳群の埴輪を考える」と題する講演を行った。
著者
橋本 政晴
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、1991年から鹿島アントラーズのホームタウンとなり、2002年のW杯開催の受け皿となった茨城県鹿嶋市を事例として、これらプロスポーツチームやスポーツイベントに対して地域住民たちは、どのような「働きかけ」をおこなったのかを明らかにすることである。さらには、その働きかけを駆動させた背後には、どのような「生活の倫理」が内在しているのかについても明らかにするため、サポーター活動に奔走し、その後市議会議員をつとめている地元出身のT氏と、彼をとりまく同市佐田地区の地域住民たちを対象とした。プロスポーツチームやスポーツイベントに対するT氏とその地域社会の対応の諸相から、次のことが明らかになった。第一に、住民たちにとってサッカーは、決してい身近なスポーツではなく、言説によって凝り固められたメディアスポーツであり、メディアイベントであった。T氏はそうした住民よりも近くでサッカーを経験してはいるが、「熱い」サッカーを諦観する住民たちの暮らしぶりにも寄り添っている。ここから、メディアスポーツ/メディアイベントにおける受け手の能動性/受動性について語ろうとすることは、彼らの経験をあまりにも単純化・抽象化してしまうことにならないだろうか。第二に、住民たちがサッカーに対して諦観の姿勢を固持していたのは、自らの暮しをつつがなく送っていきたいがためのものだった。加えて、そうした地域の生活に配慮しつつ、「もの静か」な暮らしぶりに近づこうとするT氏の姿は、他方のサポーターとしての「過激な」振る舞いとは対照的であった。サポーターの代表としてのT氏は、地域の生活者でもある。両者が繋がりがないままに癒合している彼の身体性。それは、「地域」の歴史的な暮らしぶりが、かろうじてつなぎとめているのかもしれない。第三に、T氏はスタジアムに足を踏み入れると過激になり、ゴール裏を纏め上げることが求められる。鹿島に興味を注ぐマスコミや研究者に対しても、「地元サポーターの代表」としての役割が期待される。ところが共に地域生活を営んでいく人物としてのT氏に求められているのは、「つつがなく暮らしていく」ために地域に貢献することだった。だからこそスタジアムでは「ガラ悪く」しているのだが、地域生活者としての彼は、自身のこれまでの活動に苦悩し、「地域」に対して控え目に振る舞うのである。それだけ彼にとって「地域」の共同生活とは揺るぎのないものなのだ。鹿島においては地域生活とは無関係なままにサッカーが展開してきた。しかしそこで生活するT氏は「地域」とかかわらざるを得ない。スポーツ社会学の問いは、こうした生活の事実から出発することが求められている。
著者
岡本 源太
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、ジョルダーノ・ブルーノの「世界の複数性」の思想を調和も照応もなき多様性の哲学として読み解き、多様なものの共生という現代的課題に新たな視座を提起することを目的に、(1)ブルーノ『しるしのしるし』(1583)に見られる世界の複数性の存在論的基盤・倫理的含意、(2)世界の複数性の概念史におけるルネサンス・近世の音楽論の重要性、(3)ルネサンス哲学から近世自由思想に継承された自然主義的循環史観の重要性、を解明した。
著者
林田 敏子
出版者
摂南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

第一次世界大戦期のイギリスでは「カーキ・フィーバー」と呼ばれる制服熱が高まり、多くの女性が制服を着用する職業に殺到した。女性による制服の着用は、愛国心を表明する手段として社会の一定の理解を得る一方、男と女の境界を侵犯する行為として危険視された。本研究では、イギリス初の女性警察組織(Women Police Service:WPS)の制服をめぐっておこなわれた裁判を通して、大戦期におけるジェンダーとセクシュアリティの問題について考察した。裁きの主たる対象となったWPSの指導者M・アレンにとって、制服は旧来のジェンダー秩序を打ち破り、男性の領域に進出する道具であると同時に、自らの性的アイデンティティ(レズビアニズム)を表現する手段でもあった。本研究では、当時のイギリスで、レズビアニズムという概念がまだ流布していなかった事実に注目し、性科学の分野で女性同士のホモセクシュアル行為がどのようにとらえられていたのか分析するとともに、そうした概念が知的フィールドを越えて社会に広まった契機・背景・過程について考察した。制服裁判は、アレンのセクシュアリティを「暴露」することによって、レズビアニズムが概念化されるきっかけをつくるとともに、男性だけでなく女性のあいだにもホモセクシュアルの関係が成り立つとする点で「性的平等化」の契機にもなりうるものだった。第一次世界大戦は「レズビアニズムの発見」というもっとも極端なかたちで、女性のセクシュアリティに関する規範を破壊し、従来のジェンダー秩序に大きな修正を迫ったのである。以上の成果をもとに、研究会で口頭発表(於「越境する歴史学」2007年11月11日)をおこなった上で、論文「制服の時代-第一次世界大戦期イギリスにおけるジェンダーとセクシュアリティ-」を執筆し、『西洋史学』(日本西洋史学会)に投稿(2008年2月)した。
著者
伊藤 毅志
出版者
電気通信大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

将棋を題材にして、人間のエキスパートの学習過程について研究してきた。学習支援の形として、将棋の感想戦に注目した。感想戦とは、対局が終了した後、対局者同士が一局の将棋を振り返りて、反省点を述べ合う一種の協調学習過程である。研究では、様々な棋力の被験者を用意して、実際に感想戦を行って貰い、その過程をビデオで録画して、どのような学習が行われているのか分析した。また、エキスパートの高い問題解決能力のメカニズムを調べるためにトッププロ棋士の認知的過程をアイカメラや発話プロトコル分析を用いて考察する研究を進めてきた。その成果は、論文や研究会報告・海外の国際会議発表を通して、報告してきた。その結果、感想戦では、一局の対局を直感的な言葉で表現する能力と、その対局中でどこが悪かったのかを反省し教訓帰納として反芻する過程が重要であることが明らかになってきた。そこで、まず始めに、一局の対局を言葉で説明するためのコンピュータシステムの構築を目指した。将棋の棋譜データをもとに、一局の将棋について将棋用語を用いて表現することが可能なシステムの構築を行い、研究会報告などでその成果を報告した。そして、さらにそのシステムを用い、学習者に対局を行わせた後、一局の将棋を振り返らせて、反芻させる機能を持たせた学習支援システムの構築を目指している。14年度の終了が近づいているが、現在、そのシステムの構築に一通りの目処が立ったところで、これから、具体的に被験者を用いて、このシステムを使わせて、学習支援システムとしての有効性の検証に入っていく予定である。
著者
齋藤 芳子
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

先行文献を踏まえた上で、複数の理工系研究室の参与観察およびインタビューを実施し、研究室における活動・生活を通じて学生が発達する様子を確認するとともに、指導教員が重視していること・配慮していることや、それらを学生がどのように受け止めているかなどについても知見を得た。これらの知見を、他の教育学研究者と議論したり、別の研究室を率いる指導教員等に意見を求めたりする中で、さらに精査した。得られた知見は、『シリーズ大学の教授法5 研究指導』(玉川大学出版部、2018)における15章のうちの5章にまとめ、上梓した。
著者
杉山 昌史
出版者
近畿大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究においては、マウス糸球体腎炎としてウシ血清アルブミン(以下BSA)による血清病腎炎を用いた。8週齢の雌IL-18R KO S129/B6マウスと、同じく8週齢の雌S129/B6マウスに、BSAを投与して血清病腎炎を作製し比較検討を行った。投与方法は前感作として、BSA 0.2mgを完全アジュバンドと混合し、マウス皮下に2週ごとに4回投与し、その後抗原として、BSA1.0mg/日をマウス腹腔内に連日4週間投与した。投与前、前感作中、抗原投与中は2週間ごとに検尿を実施し、蛋白尿定量を行った。投与終了後、屠殺し腎臓を摘出して、パラフィン包埋によるPAS染色標本と凍結切片を作製し、検鏡により糸球体病変、尿細管病変の評価を行い、蛋白尿の所見とともに腎炎の評価に用いた。評価についてはいずれも病理標本よりスコア化した。すなわち、糸球体病変については、正常糸球体の0点から、硝子化や半月体形成を来している高度糸球体病変の3点までの4段階で評価し、尿細管病変については、障害尿細管の割合よりスコア化を行った。マウス生存率はいずれも100%であった。BSA投与終了時の蛋白尿は、正常対照マウスにおいては10匹中4匹が3+、6匹が2+であったのに対して、IL-18R KOでは10匹とも1+であった。糸球体病変については正常対照マウスにおける平均スコアは、3.52であり、IL-18R KOにおいては0.85であった。尿細管病変については、正常対照マウスにおける障害尿細管の割合は、45.7%であり、IL-18R KOにおいては7.5%であった。また、凍結切片における糸球体免疫グロブリンの沈着も同様にスコア化したところ、正常対照マウスの平均1.8に対し、IL-18R KOでは平均0.9と抑制されていた(0〜3点)。これらのことから1L-18の抑制はマウス糸球体腎炎の進展を抑制することが示唆された。
著者
石神 靖弘
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、近年拡大しつつある大規模温室での安定的な周年生産における複合環境制御技術の確立のために、園芸施設の環境制御に必要なコスト、具体的には夏季に蒸発冷却法の一種である細霧冷房を用いた場合の冷房効果、および冬季における暖房にかかるコストを推定するモデルを開発し、年間を通じた運用コストの推定をおこなった。その結果、年間の環境制御にかかるコストを地域ごとに推定することが可能となった。
著者
片岡 達彦
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、重金属耐性遺伝子の単離と機能解析を目的として研究を実施した。重金属汚染土壌の環境回復の実現に対する貢献が強く期待されている植物特有の有用遺伝子の単離を試み、機能解析を行った。特に、硫酸イオントランスポーターによる吸収が認められているセレンやクロム毒耐性に着目して、代謝およびトランスポーターを介した、新規の重金属耐性メカニズムの解析を行った。有用遺伝子の単離は、モデル植物であるシロイヌナズナの発現ライブラリーを、酵母で発現される系を用いて実施した。植物由来のcDNAライブラリーを形質転換した組み換え体の酵母について、硫酸イオンのアナログであるセレン酸(SeO_4^<2->)やクロム酸(CrO_4^<2->)を含む培地上で、スクリーニングを行った。選抜された遺伝子については、配列を確認後、新たに完全長cDNAを有するプラスミドを作成して、再度形質転換を行うことにより、形質の確認を行った。その結果、膜タンパク局在が予想される遺伝子が選抜された。本遺伝子が属するファミリーは現在まで、機能が明らかにされていない。ファミリーに属する複数の遺伝子について、発現様式の解析を行ったところ、目的の遺伝子のみが硫黄欠乏により発現が誘導され、根及び地上部のいずれの組織においても発現が認められた。また、プロモーターとレポーター遺伝子の融合タンパクを用いた解析より、本遺伝子は根、葉のいずれの組織においても表皮細胞で強く発現されることが示された。酵母では、高親和性の硫酸イオントランスポーターとの共発現により、硫酸イオンの吸収が抑制されていることが示されたことから、吸収活性の制御あるいは硫酸イオンの排出に関わる遺伝子である可能性が示された。
著者
相良 雅史
出版者
独立行政法人放射線医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、遺伝子の発現を人為的に抑制することによってそれらの遺伝子の機能を調べる方法として、近年新しく開発された手法であるRNA干渉法を利用して、目的とする癌関連遺伝子BRCA1および14-3-3σ遺伝子の発現を抑制することで、その細胞が相同組換え修復能あるいはG2/Mチェックポイントを喪失し、放射線高感受性になることを確認することである。そこで、Elbashirらの方法を参考にして、ヒト正常乳腺由来細胞MCF10においてBRCA1または14-3-3σ遺伝子の発現を抑制できるdsRNAを作製した。その際、以下の点について検討を行った。1.それぞれの遺伝子の発現抑制に有効なdsRNAの配列を検討するため、3種類ずつのdsRNAを合成して細胞に導入後、mRNAの発現レベルを調べたところ、それぞれ70〜90%の減少が認められた。2.発現抑制に最適なdsRNAの導入濃度を検討したところ、100nMで導入した際に最も発現レベルの抑制が認められた。3.細胞へのdsRNAの導入法を検討したところ、Oligofectamineを用いた導入法が最も適していた。4.発現抑制の持続期間を測定した結果、導入後72時間で最も発現レベルの抑制が認められた。5.各遺伝子の発現を抑制した細胞において、他の遺伝子発現がどのように変化しているかをマイクロアレイを用いて解析した。それぞれの遺伝子の発現を抑制した場合において、発現が抑制された遺伝子群および活性化された遺伝子群、また挙動が共通した遺伝子群に分類した。6.各遺伝子をターゲッテイングした細胞に種々の線量の放射線を照射したところ、BRCA1および14-3-3σ遺伝子のどちらの場合でも発現を抑制した細胞は放射線に対して高感受性となっていることが明らかとなった。
著者
吉田 哲
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

緑内障の再生医療を念頭に、iPS細胞から網膜神経節細胞および成体における網膜幹細胞であるミューラー細胞を分化誘導する方法の確立、網膜内のミューラー細胞の同定法の探索を行った。まずiPS細胞からの分化誘導を行うために、網膜前駆細胞マーカーであるRx遺伝子座に赤色蛍光タンパク質DsRedが発現する組換えBACを作成しipS細胞に安定導入した。また、ミューサー細胞を同定するためにマーカーを探索し、エピプラキンが該当することを見いだした。
著者
瀬川 麻里子
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、原子炉から発生するガンマ線及び熱中性子線を種に高速中性子を他方向に発生させ、設置位置可変の分散型中性子ジェネレータを新たに開発する事を目的とする。そこで、LiF及びPbからなる中性子ジェネレータより発生する高計数率の中性子及び除去すべきバックグラウンドであるγ線を2次元で計測するシステムを構築した。当システムは、中性子・ガンマ線検出器、マルチチャンネルデータ計測器、可視化部からなる。線源及びコリメータを使用して当システムの空間分解能を評価し、本実験に向けた性能を実証することに成功した。
著者
荒木 寿友
出版者
同志社女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、学校コミュニティの形成を図る一つの方法としてL.コールバーグ(Lawrence Kohlberg: 1927-87)のジャスト・コミュニティアプローチ(Just Community Approach)を用いることによって、様々な学校教育階梯におけるコミュニティ形成のためのカリキュラムをデザインすることにあった。ここでいうカリキュラム・デザインとは、教育課程編成を意味するだけではなく、隠れたカリキュラム、及びコミュニティの空間等のデザインも含まれる包括的な用語である。総括にあたる本年度は、とりわけこどもの「学び」が現実の生活の中で実感できるためのカリキュラムデザインについて研究を行った。本年度は、昨年度に引き続き、ワークショップを行った(2007年7月1日実施)。本ワークショップでは、大学近隣のこども(3歳から12歳まで)35名を大学へ招き、ダンボールを媒介として、こどもの遊びを中心とした活動を行った。具体的には、ダンボールでフロアに巨大迷路を造り、それぞれポイントとなる場所に子どもたち自身に「秘密基地」をつくってもらうという活動である。本ワークショップを通じて、人と人、人とモノの関わり合いの中から、こどもにとっての「学び」を捉えることができた。つまり、「学び」とは決して自分自身がモノと向き合うだけで成立するものではなく、そこには他者との関わりが必要であるし、またそれによって過去の自分がイメージしていたことをより具体的に表現することなのである。
著者
田崎 直美
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、フランス第四共和政期(1946-58)の芸術音楽活動を国家による音楽政策との関連を考察する目的で、情報省管轄下で国内唯一の国営ラジオ局の音楽番組方針とその内容について調査を行なった。その結果、音楽監督の強力な主導のもとで、1)芸術音楽番組による国民啓蒙と教育、2)「メトリーズ」による児童合唱およびフランス音楽活動の振興、3)国際協調と並行したフランス音楽の栄光の強調、の実態を明らかにした。パリの「被占領からの解放」の記憶化はアメリカ亡命作曲家作品への高い評価の形で行われたこと、1950年頃までにドイツとの音楽交流を通じた親善の動きが出てきたこと、も明らかにした。
著者
大北 全俊
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

HIV感染症を主とするpublic healthに関する事象について、その隠れた政治哲学的枠組みを明確にするとともに、今後の議論のための哲学的・倫理学的枠組みを構築することを目的とする研究である。結論として、public healthに関する哲学的・倫理学的議論の枠組みとは、個人と集団それぞれの位相、および規範的な議論の位相とpublic healthの権力作用を記述する位相、これらを多層的に併せ持つものであることを明確にした。
著者
三木 夏華
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ベトナムでは80年代後半のドイモイ政策を境に在越華人や華語教育に対する政策が大きく変化する。本研究ではベトナムで最も華人人口の多いホーチミンにおいて2009年から2010年にかけて華人の使用する中国語方言、特に広州方言中心に字音、語彙、語法などの調査を行った。その結果、在越二世、三世と代を重ねることに差異が現れることが分かったが、これは彼らが受けた華語教育などの言語生活における環境と深い関わりがあることが聞き取り調査により明らかになった。
著者
長谷川 珠代
出版者
宮崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

日頃、誰かをケアし、ケアされている人が、お互いにアートを通して身体的・精神的なストレスを軽減することを目的としたヘルスケア・アートプログラムを実施した。平成19年度は『吹き矢』をプログラムに取り入れ、『呼吸』という生命活動をより効果的に行うことに加えて、アートの視覚的な楽しさ、身体的な爽快感を体験することを目的に行った。ボランティア16名を含めた62人の参加があった。吹き抜けの空間いっぱいに垂らした大きな布に絵の具の入った風船をぶら下げ、吹き矢の的にし、参加者が吹き矢を放つと風船が割れ、中の絵の具がはじけて布に様々な色彩や形が描かれたアート作品ができるようにし、視覚や聴覚を刺激しながら楽しめるよう工夫した。吹き矢は単純な動きではあるがゲーム性が強く、子どもから大人まで夢中になっていた。また障害の有無に関わらず、子どもから高齢者と幅広く楽しめ、プログラムによる開放感を高め、参加者からは「日常では経験できないような大きな作品を創り出すことで楽しさと爽快感が得られた」という意見が得られた。また、対象者同士の世代を超えた交流みられ、「他の家族とゆっくり話す時間が出来た」、「次も交流をしながら楽しみたい」等、人と人とがつながりを求める原動力になる効果も示された。また第11回日本在宅ケア学会にて、ケアする人へのヘルスケア・アートプログラム(HCAP)の実践報告を行い、参加者との意見交換などを通してケアする人へのケアやアートプログラムについて知見を得ることができた。平成18年度は最終年度にあたるため、平成16年度から平成18年度の科学研究費補助金にて行った『ケアする人を支えるヘルスケア・アートプログラムの開発と地域ケアシステムの構築』研究活動をまとめた報告書を作成し、関係者に配布した。
著者
大橋 完太郎
出版者
神戸女学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、十八世紀フランスの博物学者ビュフォンの思想における理論的核を抽出することを目的としている。本助成を受けた研究を通じて、ビュフォンの『博物誌』における生物発生の理論と、修辞家としてのビュフォンの名を確かにした著作『文体論』とのあいだに理論的同形性が存在していることが判明した。生物の発生と人間の思考の両者に共通するこの発生論的アナロジーが、ビュフォンの思想のオリジナルな点であり、それによって生物学と文学とを架橋することが可能になっていることが明らかとなった。
著者
大城 浩子
出版者
山梨大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

11q23転座型急性リンパ性白血病(ALL)は強力な化学療法や、造血幹細胞移植を施行しても予後不良な疾患である。近年、移植後にドナーのNK細胞によるGVL効果(移植片対白血病効果)によって、一部の白血病で再発率が低下することが報告された。今回の研究では臍帯血由来のNK細胞が、KIR(NK細胞レセプター)リガンド不一致の11q23転座型ALL細胞に対して、細胞傷害活性が上昇することが示され、臍帯血移植においてKIRリガンド不一致ドナーを選択することでより強力なGVL効果が期待できると思われる。
著者
秦 劼
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究課題は証券市場における投資家の行動と情報のあり方を分析し、株価暴落の仕組みの解明を目指します。本年度は投資家のリスク回避度と市場の情報非対称性を中心に考察を行いました。ひとつは、個人が証券を取引する際に、リスクに対してどのような態度を取っているのかを、実験に通して調べました。証券投資にはさまざまなリスクが伴い、投資家のリスクに対する態度は彼からの投資行動に大きな影響を与えます。特に、株価下落が続くと、個人投資家のリスク回避度が急速に高まり、クラッシュに繋がる可能性があります。そこで、大阪大学および中国の復旦大学の関連分野の学者の協力を得て、リスク回避度に関する実験を2005年3月に中国上海で行い、被験者たちのリスク回避度やそれに影響を与える思われる要因についてデータを収集しました。今年度は実験で採集したデータを翻訳、整理、集計し、リスク回避度に影響を与える諸要因を分析しました。もうひとつは、証券市場の情報のあり方が価格形成と市場の流動性に対する影響を考察したものです。従来の証券価格理論は情報の完全性を前提にしていますが、現実の市場では、情報が非対称であり、取引に通じてさまざまな情報が価格に織り込まれていきます。情報のあり方と価格に反映されていくプロセスは、証券市場での価格形成、流動性、安定性と深くかかわっています。本研究課題は、市場参加者の間に非対称情報が存在する場合の取引モデルを構築しました。均衡における最適注文ルールと価格関数を導き、それを用いて市場の流動性と非対称情報の関係を調べました。さらに非対称情報と株価暴落の関連性について分析しました。上記の研究予想より時間がかかり、2005年度中の公表には間に合わず、2006年度中に学術誌に投稿する予定です。