著者
白井 裕子
出版者
愛知医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

炊き出しの場所で,ホームレスの人々が主体的に自身の健康に取り組んでいけることを目指した健康支援活動を実施した。自己の健康を知る機会のなかった人々が,それを知ることを通して,健康に対する意識の変化や健康行動を獲得していくことにつながった。また、活動を積み重ねることで「互いに思いやる身近な存在としての関係」が構築された。この関係性は,支援活動の成果であるが、その一方で支援関係の基盤でもあった。
著者
佐藤 隆広
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の特筆すべき研究成果は以下の3点にある。第一に、解雇規制がインド労働市場に与える効果を事業所レベルのミクロデータや州パネルデータなどを通じて分析した。第二に、労働市場にかかわるデータ整備を行い、そうしたデータの一部を用いてインド経済のマクロ分析を行った。第三に、家計調査のミクロデータを用いて、労働供給の規定的要因である人口問題や貧困層向けに政府が自営を奨励したり賃金雇用を提供したりする貧困対策事業などの政策評価、などの実証分析を行った。
著者
金子 百合子
出版者
岩手大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

動的事象の推移において「限界」の概念はロシア語の言語的世界像を形成する意味的優勢素として提示されてきた(ペトルーヒナ)。事象の安定的側面を優勢的視座で記述する日本語と対照させることによって、日本語と比較した際のロシア語における「限界」の際立つ優位性を検証した。当概念の優位性は、終了限界性に基づくアスペクト的動詞分類、結果を修飾する動詞語形成手段の多さ、和訳における限界的解釈の希薄さ、アスペクトの文法範疇の主導的役割といった点に特徴的に現れる。
著者
福田 伊津子
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、食事性AhRリガンドであるフラボノイド類のうち、フラボン、フラボノール、フラバノン、カテキンの各サブクラスから数種の化合物を選定し、これらの化合物がAhRの活性化に関わる事象に対する影響と、投与形態がその体内動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。その結果、1.フラボン、フラボノール、フラバノンに属する化合物はAhRとアゴニストとの結合を競合的に阻害するのに対して、カテキンは阻害しないことが分かった。2.培養肝細胞においてダイオキシン類が誘導するAhRの核内移行に対しては、フラボンとフラボノールに属する化合物がこれを阻害した。3.(-)-エピガロカテキン-3-ガレート(EGCg)のみを投与したときの総EGCgが43nMであったのに対して、GTEを投与したときの総EGCgが427nMであった。同じ動物個体から得た血清を用いてマウス肝腫瘍由来Hepa-1c1c7細胞に処理したところ、4.2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-p-ジオキシンによって誘導されるシトクロームP450 1A1の発現を有意に抑制した。
著者
林田 敏子
出版者
摂南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

女性参政権獲得後、フェミニズム運動が分裂の危機におちいるなか、ファシズムに惹かれていったメアリ・アレンは、ファシスト組織British Union of Fascistsに入党したあとも、フェミニストとしての自己意識を失わなかった。彼女のような「フェミニスト・ファシスト」は、こうした特殊な状況下でこそ成立しうる概念であり、フェミニズム運動とファシズム運動の「共闘」は、戦間期イギリス社会のもっとも大きな特徴を表しているといえる。
著者
張 周恩
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、PETイメージングの感度と信憑性を高めるために、腫瘍の分子ターゲットを増幅する新たな戦略を提案し、腫瘍を標的する多機能性ホスト・ナノ粒子-ゲストPETトレーサー・システムの構築を試みた。PAMAMデンドリマーをホスト分子シクロキストリン(CD)修飾して、多機能性ホスト・ナノ粒子PAMAM-CDを得ることが出来た。C-11標識したカボラン類縁体などはゲストPETトレーサーとして設計し合成した。該類多機能性ホスト・ナノ粒子-ゲストPETトレーサー・システムは癌の超高感度イメージング及び画像誘導治療への応用が期待できる。
著者
矢部 拓也
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は全国24地点を調査した都市間比較研究を通じて、まちづくりの担い手形成=中心市街地活性化の過程を示した。これらに共通するものとして、土地の所有と利用の分離を適切に行うことで、土地の利用者=まちづくりの担い手が生み出されている事が明らかになった。
著者
齋藤 満
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

研究成果の概要(和文):我々は腎代償性肥大(片腎摘除後に残腎が腫大し腎機能が亢進する現象)を起こす生体腎移植ドナーから摘出された移植腎機能は、代償性肥大がないドナーから摘出されたそれと比較してその移植腎機能は有意に良好、という結果を得ている(Saito M et al,American Transplant Congress 2007)。この結果からIGF-1やGHといった組織増殖因子(やその受容体)の遺伝子多型が、ドナーの残腎代償性肥大発生に関与するかどうか、そしてそれらが移植腎機能や生着率に与える影響などについて解析を行った。またドナーの予後調査も行い、残腎代償性肥大発生がドナーの腎機能や生命予後に与える影響などについても併せて検討した。結果的には、今回我々が調査した組織増殖因子(やその受容体)の遺伝子多型と、ドナーの残腎代償性肥大発生、移植腎機能、移植腎生着率などとの関連性は見いだせなかった。またドナー腎摘出後の腎生検標本における、組織増殖因子(とその受容体)の免疫染色では、ほとんどの標本が陰性であり解析不能であった。ドナーの予後調査については、ほぼ全てのドナーにおいて残腎機能は良好のままであった。腎機能が悪化した、あるい他因死したドナーと残腎代償性肥大発生との明らかな関連はみられなかった。
著者
七澤 朱音
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,教育実習前の大学における効果的なカリキュラムを検討・実践するとともに,一貫性のある大学と実習校との指導体制を検討することを目的とした.大学のマイクロティーチングでは,教師役学生の指導言が,複合状態から短文に整理される様子や相互作用行動の向上が見られ,説明における"質問機会の提供"と"明確な課題提供"が有意に向上した.教育実習簿と指導教官の指導内容の分析からは,実習生が「教材研究」「技能下位生徒への適切な相互作用」に課題を残すことが明らかになった.
著者
寺崎 秀一郎
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

2003年度、2004年度にホンジュラス共和国コパン県に位置するロス・イゴス遣跡、エル・アブラ遺跡、エル・プエンテ遺跡の3遺跡において発掘調査をおこなった。本研究における発掘調査の目的は、古典期(AD250〜AD900)に南東マヤ地域最大のセンターであるコパン遺跡の周縁部において、地方センターがどのようなプロセスを経て形成されていくのかを明らかにすることである。上記3遺跡は、コパン遺跡北東約60kmに位置するラ・エントラーダ地域に分布する8箇所の地方センターの一部であるが、発掘調査の結果、少なくともフロリダ谷に位置するエル・アブラ遺跡とエル・プエンテ遺跡の起源はほぼ同時期と考えられる資料を得た。一方、ロス・イゴス遺跡は斜面を利用して構築されていることから層位学的に良好なサンプルを得ることができなかったが、二次堆積層から原古典期の年代を示す放射性炭素年代測定結果が得られている。本年度は、現地において、出土土器資料の予備分類を現地スタッフを中心に進めた。予備分類については、メソアメリカ地域の考古学研究で広く採用されているタイプ・ヴァラエティ・システムに準じておこなうが、適宜、周辺地域では唯一土器編年が整備されているレネ・ヴィエルによるコパン編年を参考にしている。また、図面も現地スタッフの協力の下、データ化を進行中である。これらの成果の一部は、2005年12月に開催された古代アメリカ学会第10回研究大会において報告した。本研究では、地方センターの起源に重点を置いた発掘方法を採用したが、より詳細な都市形成過程の解明には建造物のシークエンス研究が必要不可欠であり、そのための集中的な調査が望まれる。本年度はこうした視点も含め、ホンジュラス国立人類学歴史学研究所所長リカルド・アグルシア氏と本研究が対象とするラ・エントラーダ地域での今後の考古学調査研究の展開についても協議をおこなった。
著者
菅 磨志保
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

「共助」の中身は、支援者-受援者が取り結ぶ関係も含めて、単純に分解できるものではなく、現場の活動実践で重視されている価値観を尊重しながら、そこから汲みだされた概念をうまく活動実践に組み込んでいくことで、無理のない自然な関係に基づく支援関係が形成されることが分かった。また、将来志向の社会学的研究の方法論の提案として、活動実績データの分析という手法の標準化を試み、次のように整理した。(1)災害社会学の時間軸と社会的単位の枠組の設定、(2)個人のレベルと事業のレベルに分けて活動実績を整理、(3)それぞれのアウトプットと相互の関係性を分析する。
著者
石井 秀明
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,サーチエンジンにおける検索結果を的確にランク付けするページランク(PageRank)アルゴリズムに着目し,より効率的な計算手法の確立を目指した.とくにマルチエージェント系の協調制御の観点から,分散型確率アルゴリズムを構築した.エージェント間の通信制約を考慮した場合やグラフの集約化に基づく場合等,アルゴリズムの高速化・ロバスト化を図った.他方,一般的な有効グラフ上の平均合意問題に対しても成果を得た.
著者
柴川 敏之
出版者
福山市立女子短期大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

広島県立博物館での研究成果の記録とまとめ本研究は、広島県立歴史博物館所蔵の草戸千軒町遺跡の出土品と現代美術の柴川作品とのコラボレーションにより、美術の分野と歴史の分野をつなげ、領域を超えた新しい視点で現代社会を検証した。また、子どもから大人までを対象とした大規模なワークショップや、企画展示室と常設展示室を連動させるワークシートの作成等による参加体験型の展覧会を行った。平成15年の夏に展覧会を実施し、多くの学校等の参加と市民のボランティアの協力により、地域に密着した新しいタイプの展覧会となり、全国的にも話題を呼んだ。本年度はその内容と研究成果について記録集にまとめた。今後の美術館、博物館教育の新しい取り組みの参考資料として役立ててもらうため、各地の美術館、博物館等に記録集の寄贈を予定している。「2000年後の冒険ミュージアム」記録集 柴川敏之編著(A5サイズ、272頁、フルカラー 平成17年3月31日発行)内容(目次)は、テキスト(柴川敏之、広島県立歴史博物館草戸千軒町遺跡研究所所長 篠原芳秀氏、大原美術館プログラムコーディネーター 柳沢秀行氏)、展覧会の配置図及び関連アイテム、図版(展覧会の会場風景)、草戸千軒町遺跡に関する資料、柴川敏之に関する資料、ワークシート、ワークショップ、ボランティアスタッフ、2つの関連企画、展覧会データ(入館者数データ、アンケート集計結果等)、みなさんの言葉(館長、子ども、保護者、先生、ボランティアスタッフ、大学関係者、歴史関係者、美術関係者、マスコミ関係者等の様々な立場の方々から寄せられた文集)等。
著者
川又 勝子 佐々木 栄一 澤畑 千恵子
出版者
東北生活文化大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

明治20年代から昭和20年代までに仙台地方で生産された染物である常盤紺形染に用いられた型紙(常盤紺型)と常盤紺形染以降に生産された浴衣・手拭いの型紙文様のデジタル処理(デジタルデータ化)を行った。破損している文様については電子的修復を加え、さらに、一部の文様については、自動カッターで型紙を複製する際に必要なデータへの変換を試みた。それらの成果の詳細については、『仙台型染資料集I〜III』にまとめた。
著者
高木 裕宜
出版者
文京学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度も研究テーマである会社文化についての資料、論文、文献等の収集、分析を行った。これらの資料から、特に会社文化のなかでも5S活動(整理・整頓・清潔・清掃・躾)について、さらに日本国内での歴史的経緯を分析し、第2次対戦後に定着していると考えられた5S活動は、工場内の衛生運動や安全運動との関連で戦前にもかなりの程度確立していたことを確認することができた。研究テーマに関連する企業に対しては、日本国内においては、昨年度に引き続き、日本本社、特に国際事業関連の業務を遂行する部署への訪問し、会社文化に関する訪問調査を行った。この中で、海外事業に関する現状や、日本本社からの派遣社員による会社文化の海外への移転がはかられていることや、海外子会社での現地採用従業員についての日本国内での教育訓練を通じた関係等によっても、会社文化の移転が行われていること等の制度や実態について把握することができた。さらに、中国の海外現地子会社へ訪問調査し、特に現地派遣社員や現地採用のマネージャークラス等に対して聞き取りを実施した。海外現地子会社では、5S活動や類似する活動の具体的実施方法、内容、評価制度等について確認し、その他には、運動会(スポーツ大会)や新年会、寮生活、食堂等への実態についての把握をつとめた。さらに、研究テーマに関連する事項として、新人教育体制から訓練、研修内容や、階層別の訓練等の教育制度、各種評価によるインセンティブ制度、QCサークル活動、表彰制度等についても調査を行った。これらの調査により、日本本社で実施されている、または、されていた会社文化が移転されていること、実施方法については、日本本社よりも「目で見える管理」を実施し、強化されていることや、チームへの管理よりも従業員個人への評価への程度が高いこと等の日本国内と異なる点について、また日本本社にはない事項が存在していることが確認された。
著者
首藤 文洋
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ヒトに心地よさを感じさせる音を被験者に提示すると、被験者の前頭葉酸素ヘモグロビン量の変動が相対的に小さくなる。被験者はその音を「気分がよい」と評価したと考えられる。これらの音のうち、川のせせらぎの音をマウスに提示すると、情動に深く関与するセロトニンやノルアドレナリンの脳内濃度が変動していた。これらのことは音刺激には本能システムにはたらくことで心地よさを感じさせる脳機能メカニズムに作用するモノがあることを示唆しており、これらの音を使うことで多くの人が安らぎを感じられる音環境が設計できる可能性が示された。
著者
橋口 暢子
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

「目的・方法」本研究の目的は、温熱環境の構成要因である湿度と気流が、入浴後の生体へどのような影響を及ぼすかについて、特に皮膚性状を中心とした生理反応や、不快感、乾燥感を中心とした心理反応の双方から検討し、看護の対象者をとりまく適切な住宅温熱環境についての基礎資料を得ることである。交付初年度の平成17年度は、健康な男子大学生8名を被験者とし、冬期のエアコン暖房使用時の環境を想定した(湿度20%、気流0.6m/s、室温25℃)環境に、一定の手順で入浴した後、80分間椅座位にて滞在してもらい、それと、入浴をしない状況で同じ温熱環境に滞在した場合と比較することで、入浴後の生理心理反応に及ぼす特徴を明らかにし、気流速度が速く、低湿度の環境は、体温調節反応に及ぼす負担や、皮膚の乾燥に対する影響が、入浴後であれば特に大きくなるなどの知見を得た。そこで、本年度は、湿度、気流の違いが入浴後の生理心理反応に及ぼす影響について、昨年度と同様に被験者実験を行った。温熱環境条件は、湿度20、60%、気流0.2m/s以下の各2条件を組み合わせ計4条件とした。測定項目は、皮膚温、直腸温、血圧・脈拍、皮膚水分量、経皮水分蒸散量、皮脂量、体重、主観申告(温冷感、不快感、湿度感、気流感、顔・目の乾燥感)である。被験者の基本衣服は、短パン、半袖Tシャツ、スウェット上下である。「結果」低湿度環境では、皮膚水分量が少なく、蒸散量が多くなること、顔の乾燥の自覚が強まることが示され、気流が大きい環境では、温冷感の涼しいや不快感の申告が多くなること、眼の乾燥が強まることが示された。また、湿度60%、気流無し条件では、入浴後の平均皮膚温の低下が小さいことが示された。「結論」皮膚の乾燥には気流の違いよりも湿度が低湿度であることの影響が大きく、気流速度は主に温冷感、不快感に大きく関与することが示唆された。気流速度が速く、低湿度の環境が他の条件に比べ顕著な生体反応を引き起こすことは示されなかったが、湿度60%、気流無し条件では、入浴後の皮膚温の低下が抑制され、一般に言う湯冷めを軽減させることができることが示唆された。
著者
渡沼 玲史
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

特徴としてデータ量が多くなるモーションキャプチャデータを要約する質評価指標を開発してその有効性を確認した。本研究で開発した指標の特徴は、人文科学的な予見が入らない物理量から指標を作成している事である。さらに、質評価指標を中心とした舞踊解析手法を開発し、いくつかの舞踊動作に適用して検証した結果、当該手法がモーションキャプチャを用いた舞踊研究の効率化を可能することが分かった。また、5組の舞踊家の計9種の動作をモーションキャプチャによってディジタルデータ化した。
著者
牛山 素行
出版者
岩手県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

(1)2005年豪雨災害の特徴解析2005年に発生した豪雨災害のうち,特に台風14号による災害(9/4-8)に注目し,被害の大きかった宮崎県を中心に現地調査,資料解析を行った.豪雨災害が多発した2004年の事例と比較しても,大きな被害を生じた事例であり,数年に1回程度発生する規模の事例と判断された.宮崎県日之影町においては,長年の地域の取り組みにより早期の避難が行われ,20世帯以上が全壊する洪水・土砂災害にもかかわらず人的被害を生じなかった事例を確認した.また,宮崎市においては市による電子掲示板上で市民・市役所間の災害時における迅速な情報交換が行われ,わが国におけるほぼ初めての形態であることを示した.これらの成果は災害後1週間以内にweb公開し,数万ページビュー/日の参照があり,報道機関からも多くの問い合わせを受けた.(2)台風0514号災害時の死者の死因に関する検討台風0514号による人的被害(29名)に関し,台風0423号の際に開発した手法を適用して,死亡状況に関する解析を行い,そのほとんどが,「土砂災害により,高齢者が,屋内で死亡」であったことを指摘した.これは,洪水による青壮年の死者が目立った台風0423号の事例とは異なり,近年整備されている災害情報の活用による救命の可能性がある犠牲者が中心であったことを指摘した.また,この解析手法の有効性を示した.(3)豪雨時の自治体の対応に関する調査2004年度末に調査票を配布した,2004年の豪雨災害時および災害後の被災,非被災自治体における災害対応状況についての調査を解析した.その結果として,(a)豪雨災害の頻発は防災担当者の豪雨災害に対する関心を高める事は確かである。たとえば,リアルタイム豪雨情報の参照頻度が高まる,豪雨災害による避難勧告の可能性を予想する市町村が増加するなどの変化が見られる.(b)関心の高まりは具体的な対策にはつながらない.たとえば,災害前39%の市町村が指定避難場所の選定に浸水の影響を考慮していなかったが,災害後,見直しを行ったのはそのうち12%にすぎない.(c)2003年水俣市土石流災害の教訓は,ほとんど他の市町村に波及していない,(d)防災ワークショップが1割程度の自治体で実施されているが,その半数程度が住民だけで行われている,などを指摘した.
著者
高田 和幸
出版者
東京電機大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

都市鉄道整備の事業評価を行う際には,旅行時間の短縮効果,車内混雑率の緩和効果を評価していた一方,予定した時刻に目的地に到着できるという所要時間の信頼性については定量的評価が殆どなされていなかった.そこで本研究では,鉄道の所要時間の信頼性を,事故等に伴う列車遅延による旅客の時間損失で評価した.鉄道旅客の損失時間については,データ制約もあり,これまで全く定量的な検証が為されていなかったが,『鉄道運転事故等届出書(平成14年度版)』をデータ化し,事故の発生現象(一日あたりの事故発生件数,発生時間,事故原因,事故発生路線など)の確率分布を特定化した.また事故が発生して乗車した列車が運行停止した際,旅客がどのような行動を取るのか(運転再開を待つ,代替路線で移動する,移動することをあきらめる)を,選好意識調査(SP調査)の結果を用いて分析し,選択行動モデルを推定した.先に特定化した事故現象に関する確率分布と,事故発生時の乗客の選択行動モデルを適用してモンテカルロ・シミュレーションを行い,鉄道旅客の損失時間の年間推計値とその確率分布を同定した.またアンケートでは,個々の被験者に,現在の年間損失時間を提示し,その減少分に対する金銭的な支払い意志額を別途調査した.この調査データを用いて,到着時間の信頼性向上に対する支払い時間の確率分布を求めた.ケーススタディとしてエイトライナーを取り上げ,この路線が整備された際に首都圏でどれだけ乗客の年間損失時間が減少するのかを算定し,さらに損失時間減少分の便益を求めた.