著者
降籏 徹馬
出版者
東京理科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度は研究計画に基づき研究を進めた。本年度中に採択された代表論文の概要は以下の通りである。論文「階層的目的地選択と小売集積:シミュレーション」では、現実の小売集積形成のメカニズムの解明に接近するため、従来からの小売集積形成のシミュレーション方法を再検討し、階層的目的地選択モデルに基づくシミュレーションの方法を提示した上で、埼玉県を分析対象地域として設定し、実際の人口分布を用いてシミュレーションを行い検討した。その結果、消費者空間行動モデルによる記述と現実の人口分布を用いるだけでも相当な類似度で現実の小売集積量を再現できることを確認できた。得られた知見の中で、特に興味深い点の一つは、現実の小売集積は仮想都市空間上のシミュレーションにおいて形成された王冠型小売集積の形態に近い可能性を示したことである。現実の小売集積の分布形態は王冠型ではなく、極度に集中する小売集積と人口に応じて均一に拡散して集積する形態の中間を示していると考えられる。もう一つの興味深い点は、実際の消費者空間行動の距離パラメータ値を小売集積形成のシミュレーションにより推定できる可能性を示したことである。これはシミュレーション結果において得られた各地区の店舗数と実際の店舗数との誤差を評価した場合、実際の距離パラメータ値付近で誤差が最小になっていることから明らかである。もちろん、小売集積形成のシミュレーションは多大なコンピュータ処理を要するという実践性に欠ける面も含んでいる。しかし、他の地域においても同様の性質を確認できれば、消費者動向調査等のデータが存在しない場合の代替方法の一つとして活用していくことができると考えられる。
著者
樺島 博志
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

前年度,ミュールハイム=ケアリッヒ事件の憲法判例を取り上げ,原発設置許可手続における市民の手続的参加権の保障が基本権保護義務の内容となりうることを明らかにした。本年度は,前年度の研究成果を公表し,さらに計画に従って考察を進めた。まず,憲法判例の前置手続として提起された行政裁判を検討した。この事件は,行政行為の執行差止の仮処分をもとめて争われたものであり,迅速手続であったからこそ,憲法訴願においては手続的参加権が主として争われ,実態的基本権侵害の存否について正面から判断は下されなかったものと考えられる。この行政裁判所の判決を検討したあとで,当憲法判例以降に係属したミュールハイム=ケアリッヒ原発関連の行政裁判に考察を進めた。同原発の設置に関する許可処分に対しては,複数の訴訟が提起され,下級審では,許可処分を適法と認めるものと,無効とするものとに,判断が分かれた。最終的には,連邦行政裁判所で無効が確定した。いずれの判断も,裁判所による原発設置の技術的評価にかかわっており,行政裁判において行政庁の判断を裁判所はどの程度尊重すべきか,逆に裁判所はどこまで技術的判断を下すことができるのか,という観点から判例を検討した。ドイツにおける実地調査は,本務との関係で当初の計画ほど十分に出来なかったが,年度末に近い二月に実施し,同事件に実際にたずさわったコブレンツ行政裁判所のルッツ判事にインタヴューを行うことが出来,ミュールハイム=ケアリッヒ原発問題について,事件の争点と全体状況に関して有益な知見を得ることができた。ドイツでの実地調査が遅れたこと,計画期間中に二度の転勤が重なったことから,最終的な研究報告をまとめるにはいたっていないが,判例の翻訳等,逐次Web上で公開する予定である(URL:http://www/law.tohoku.ac.jp/~kabashima/)。
著者
吉本 直弘
出版者
大阪教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

大阪府の夏期高温日の午後に発生する強雨と熱的局地循環との関係について調べた。解析対象は大阪府内の7つのアメダス観測点で、解析期間は2005年7月18日(近畿地方の梅雨明け)から8月31日までの45日間である。日最高気温が30℃以上に達し、大規模な大気擾乱の通過に関連せずに日最大1時間雨量5mm以上の降雨が観測された事例は8日間あった。これらのうち、主に大阪平野に強雨がもたらされた3事例について、アメダス及び大阪府地域大気汚染常時監視測定データを用いて、地上の気温場と風系を詳しく解析した。いずれの事例も8時から10時にかけて大阪府南部沿岸地域で海風の進入が見られた。海風は時間と共に大阪平野の内部へと東進し、12時から14時には海風前線の進行方向前方の大阪平野北東部に高温域(最高気温38℃)が形成された。同時に、大阪平野上に形成された高温域に向かって京都府南部から北東寄りの風が吹いていた。この風と大阪湾から進入する海風とが衝突し、大阪平野上に大きな気流の収束が形成された。この収束域で雲頂高度が対流圏界面に達する発達した積乱雲が発生し、強雨がもたらされた。京都府南部から大阪平野上の高温域に向かって吹く北東寄りの風は、これら二つの地域の温度差によって生じた局地風であると考えられた。この風と海風循環によって夏期高温日の午後に大阪平野上に強雨がもたらされる。大阪平野上の高温域の形成には都市のヒートアイランド現象の影響が考えられた。大阪市周辺の都市型集中豪雨の予測には、大阪平野上の気温場と風系の詳細な把握と精確な予測が必要である。
著者
青砥 清一
出版者
神田外語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、パラグアイ国チャコ地方のコンセプシオン市とフィラデルフィア市において、58の語彙項目、ならびにレ代用法(Leismo)、ボス法(Voseo)、アスペクト迂言形などの形態統語論的バリエーションに関する質問票調査を実施した。そのうえで、同国におけるスペイン語の語彙的・形態統語論的バリエーションに関する全国言語地図を作成し、言語変化の内的および外的な動機付けを探求した。言語地図は電子化し、ウェブページにおいて公開した(http://www.geocities.jp/pedro1aoto/index.html)。
著者
阿部 徹也
出版者
兵庫医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

口腔・顔面領域は皮膚領域と、粘膜領域とが入り組み、ラットへのホルマリンの注入刺激は顔面皮膚領域の方が口腔内の粘膜領域より多くの疼痛関連行動を起こす。その行動は脳内抑制性伝達物質であるGABA受容体を通して制御され、その制御効果も顔面の疼痛に対する方が大きい。口腔粘膜領域はC線維が顔面皮膚領域より少なく、そのことが中枢の制御機構にも差を生じさせている。ペプチド性のC線維に含まれるサブスタンスP(SP)の受容体であるニューロキニン1(NK-1)は三叉神経尾側亜核(Vc)のI層とIII層に分布し、侵害受容に関わっている。私たちは細胞質内に入って毒性を発揮するライボソーム非活性化毒素であるサポリンをSPに結合させたSP-サポリン(SP-Sap)を延髄の後角(Vc;三叉神経尾側亜核)に作用させ、I層やIII層に存在するSPの受容体であるニューロキニン1受容体(NK1)を持つニューロンを削除することに成功した。SP-Sapを小脳-延髄槽(大槽)に投与して2~4週間後のラットでは、VcのI層とIII層のNK-1受容体免疫陽性ニューロンの数が減少した。SP-Sap処置ラットではホルマリン誘導侵害受容反応Vcがコントロールラットに比べ減少した。コントロールラットではホルマリン注射の前にビククリンを全身投与すると侵害受容反応は減少するが、SP-Sap処置ラットでは逆に増加した。すなわちNK-1を持つニューロンが侵害刺激の受容だけでなく、上位脳のGABA_A受容体を介した制御系に関与することを示した。
著者
唐川 亜希子
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

消炎鎮痛薬である非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は,破骨細胞の分化・骨吸収活性を調節する.本研究では破骨細胞の分化過程におけるシクロオキシゲナーゼ(cyclloxygenase ; COX)の動向を解明し, NSAIDsの骨代謝への作用機序を検討した.研究期間内に我々は,(1)破骨細胞分化前期から細胞内にCOX発現が認められること,(2)骨吸収時および炎症起因物質添加時の,成熟破骨細胞のCOX-2発現が増加すること,(3)細胞内のCOX活性上昇時に転写因子ERKが影響を受けることを確認した.現在, NF kappa B, I kappa B等の核内転写因子の関連性について,継続して解析中である.
著者
高橋 伸弥
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ニュース音声を音声認識した結果に含まれる単語をキーワードとして検索したウェブ上の文書から音声認識用言語モデルを学習することで音声認識処理を高精度化することを試みた。その際、検索結果の文書内に含まれる単語の出現頻度を用いて計算した文書間の類似度により分類した結果から、元々の認識結果の信頼度を推定する方法を提案した。更に口語文章に含まれる長単位での定型表現をモデル化するためにネットワーク文法を自動構築する方法について検討し、高精度化のための手法を考案した。
著者
谷村 晋
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

いわゆる小児科医不足は深刻な社会問題であるが、小児科医総数で見るとむしろ微増傾向にあり、地理的偏在などにより小児科医への受療機会が不均等になっていることが問題の本質であると考えられる。我々は、街区面積に対する小児人口密度と小見科医療機関の分布は非常によく一致していた一方で、小児人口が多いが近隣に小見科医がいない地域がいくつかあることを示した。しかし、医療機関には診察時間があり、常にアクセスできるわけではない。そこで、診察時間に基づく時間帯別アクセシビリテイマップを作成し、アクセシビリティの曜日別時間的変動を検討した結果、月火水金の診察パターンはほぼ同様であったが木土日は他の曜日とは異なるパターンを示した。月曜日の受療可能な小児医療機関の数は、0:00-6:00は1、6:30-7:30は0、8:00は2、10:00は83、12:00は30、14:00は71、16:00は79、18:00は8、18:30-19:30は0、20:00-24:00は1であった。アクセシビリティ指標が高い(アクセスが悪い)地域は、朝と夕方ではパターンが異なったが、一日を通じでアクセスの悪い地域も見られた。少数の医療機関が診察している時間帯では、その医療機関の地理的分布によつてアクセシビリティの分布が大きく異なるため、近隣の医療機関において診療時間を相互に調整することにより全体のアクセシビリティが向上する可能性が示唆された。6:30-7:30及び18:30-19:30は、どこも診察をしていないため、共働きの家庭が子供を診察に連れて行く際には困難が伴うことが予測された。本研究は、住民側の受療機会に着目した医療計画評価手段を提案するものであり、今後の小見科医不足問題に貢献するものと考えられる。
著者
有竹 清夏
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

一部の不眠症患者は、実際の睡眠時間は質・量ともに正常であるにもかかわらず、主観的には眠れないと苦痛を訴える(主観的および客観的睡眠時間の乖離)という睡眠状態誤認に陥っている。本研究では、健常成人を対象に、主観的及び客観的睡眠時間の乖離メカニズムに関する基盤データを取得することを目的に、主に客観的睡眠パラメータが睡眠中の主観的経過時間にどのように影響するか、6ブロック評価プロトコルを用いて明らかにした。睡眠中の主観的経過時間は一日の中で睡眠をとる時間帯には関係せず、睡眠構造とくに先行する徐波睡眠量に依存することを明らかにした。
著者
井上 純一
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究課題最終年度のである今年度は,今まで3年間にわたり取り組んできた経路積分の方法を用いた市場履歴を含むマイノリティゲームのダイナミックスに関する解析を完成させた(プレプリント:Generating functional analysis of Minority Game with Inner Product Strategy Definitions, J.Inoue and A.C.C.Coolen).解析結果は簡単な計算機シミュレーション結果と一致した.ここでの結果は複数のトレーダーが過去まで遡る市場の履歴を情報源として共有し,自分の「売り」「買い」に関する意思決定に用いる場合,過去に履歴を遡って使うことで市場の揺らぎ(ボラティリティ)を小さくすることができるが,ボラテイリィティを最小にする履歴数が存在し,この臨界履歴数を越えると,より過去に遡った履歴を用いることによっては市場を安定化することはできないこと(ボラティリティをいくらでも小さくすることはできないこと)が明らかになった.さらに,当初の予定にあった[経済物理への展開]であるが,今年度は上記のゲーム理論に関する結果の他に,Sony bankに代表されるネットバンクの円ドル為替レートの変動メカニズムが自然界に現れるFirst Passage Timeの問題と等価であることを見出し,その統計的性質を調べるための解析手法を考案した.また,待ち行列の理論を用いることにより,顧客がネットワークにログインしてから,レートが変動するまでの平均待ち時間,及び,平均レート変動幅を評価する方法論を提示し,Sony bankの所有する実データの解析結果と一致した(Sony佐塚直也氏との共同研究).さらに,所得分布の冪則(いわゆるパレート則)をミクロなモデルから導出する試みとして,「壺モデル」と呼ばれるモデルを用いて,人々の間のお金の流れを数理モデル化し,それを解析することで,パレート則が出現する条件を詳細に議論することができた.これらの結果はいずれも今年6月にイタリアで開催される国際会議で発表予定である.プレプリント,掲載状況はhttp://chaosweb.complex.eng.hokudai.ac.jp/~J_inoue/で逐次報告していくので参照されたい.
著者
伊藤 雅之
出版者
独立行政法人農業環境技術研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

メタンの吸収源としてのみ評価されてきた森林土壌について、メタンを放出しうる湿潤な地点を含めてメタン吸収・放出能の評価を行った。その結果、比較的乾いた土壌では既往研究の報告と同様にメタン吸収が主だったが、斜面下部の湿潤な土壌では、特に夏期の高温時にはメタンの放出源として機能した。また、渓畔の湿地では夏期に非常に大きなメタン放出が観測され、メタンの生成過程が降雨条件等の水文条件に規定されることが示された。
著者
鎌倉 昌樹
出版者
富山県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は次のような項目において研究を実施した。1,神経化学的解析による疲労の分子機構の解明ロイヤラクチンの抗疲労作用を総合的に評価するため疲労の新たな評価系の構築を目指し、脳内における疲労の分子機構の解明に着手した。疲労の発現に大きく関与する脳を中心に疲労前後のマウスにおいて発現が変動している遺伝子を解析した結果、流水遊泳装置を用いて疲労させた後の海馬において発現が上昇する因子として、興奮性のシナプス伝達に関与するAMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)α1サブユニット(GluR1)と神経細胞においてアポトーシスのシグナル伝達に関与するB-cell receptor-associated protein 31(Bap31)を新たに見出した。一方拘束水浸ストレスを与えたマウスでは、GluR1とBap31の遺伝子発現に変化は見られなかった。従って、GluR1とBap31は精神ストレスではなく疲労の時にのみ発現が誘導される因子である可能性が考えられた。2,ローヤルゼリーの抗コレステロールの作用機構の解明ローヤルゼリー(RJ)は肝臓に対する様々な薬理活性を有す。しかし、その作用メカニズムやRJ中の有効成分は未だ明らかになっていない。そこで今年度は、RJの肝臓に対する薬理作用のメカニズムの解明にも着手した。その結果、RJの抗コレステロール作用は、コレステロール合成に関与するスクアレンエポキシダーゼの発現を転写レベルで抑制し、コレステロールの肝臓への取込みに関与するLow density lipoprotein receptor (LDLR)の発現を増強することに起因していることが明らかとなった。3,ロイヤラクチンが作用する肝細胞の受容体の同定昨年度、バインディングアッセイによる解析から57kDaローヤルゼリータンパク質(ロイヤラクチン)ははトランスフォーミング増殖因子(TGF)-αのアゴニストとして、肝細胞表面の上皮増殖因子(EGF)受容体に作用している可能性があることを報告した。さらに、ラット肝臓cDNAライブラリーを対象として酵母Two hybrid systemを用いた解析を行ったところ、ロイヤラクチンと相互作用するタンパク質としてRhomboidというタンパク質が新たに見出された。Rhomboidは、ショウジョウバエ(Drosophila)においてSpitzというTGF-α様のリガンドを切断し、EGF受容体を活性化している因子である。現在のところ、哺乳類細胞におけるRhomboidのホモログは見つかっているが、Spitzと相同性を示すタンパク質はいまだ見つかっていないことから、TGF-α様のロイヤラクチンが疑似的にRhomboidと結合したものと考えられた。しかし、ロイヤラクチンは蜜蜂においてRhomoboid-Spiz経路を活性化するという新たなシグナル経路を形成している可能性が示唆された。現在、Drosophilaを用いてロイヤラクチンが同経路の活性化しているか否かについての検討を行っている。
著者
大辻 永
出版者
茨城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

自分史がブームになって久しい。「自分史」という言葉は,歴史家の色川大吉氏の造語である。色川は戦争直後の歴史研究にあって,それまでの青史ではなく,歴史に名前を残さない民の歴史,「民衆史」を開拓した。橋本義雄の「ふだん記運動」にも関係して,「自分史」と表現した。このフレームに理科・科学教育を照らし合わせれば,カリキュラムや学習指導要領,教科書を分析するのではなく,学習者に「残ったもの」に焦点を当てた理科・科学教育研究が姿を現す。これが本研究でいう,自分史を方法論とする科学教育研究である。(日本科学教育学会第27回年会において発表)。前年度から収集してきた,本学の自然科学系全女性教官を対象にした自分史を,本年はキャリア選択という観点ら分析した。すなわち,キャリア選択への影響の度合い,あるいは,種類という観点である。その結果,自然系女性研究者のキャリア選択に関わる要因は,素因,遠因,誘因に分けられた。素因には,個人では選択や変更のしようのない生育環境や女性という性別,時代や社会の認識といったもの,あるいは,個人による得意科目などの志向性が分類された。遠因には,現在の専門分野に導いた書籍や出来事などのきっかけが分類できる。誘因には,指導教官が公募情報を寄せてくれたといった,就職に関係する直接的な出来事などが含まれた。その他,被験者の職業選択には,プラスにせよマイナスにせよ,母親の影響が大きいという共通項を見出すことができた。プライバシーにも関わるため具体的なことは記述できないが,全体を通して,真剣に自己に向き合う被験者の姿が浮かび上がってきた(日本科学教育学会平成15年度第1回研究会において発表)。少年・少女時代に受けた教育について語らせることによってその教育のあり方を探る,あるいは,その人物の成長を丹念にたどり描きあげるといった研究は,今後さらに発展させる必要がある。
著者
中村 豊
出版者
九州工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、ネットワーク管理・運営の補助のため過去に蓄積したトラヒックを解析することで異常トラヒックを検出することを目的とする。過去に蓄積したフロー情報を解析し、周期性を抽出し、その周期に基づいた統計処理により確率分布を算出する。フロー情報を用いることによりトラヒック量だけでなく特定ホストに対する解析といった、これまでにない柔軟なトラヒック解析が可能となる。本システムを用いることで、明示的な閾値の設定なしに「転送バイト量・パケット数の変化から通信障害・帯域の圧迫」「平均転送量のホストごとの分散の変化から一部のユーザによる帯域の独占」「平均パケット長の変化からDDoS攻撃の発生」「単位時間当たりのユニークな通信相手先数の変化からワームによる攻撃の発生」と言った事を検出することが可能となる。平成18年度では平成17年度で構築されたシステムを実際の運用サイトに適用し、評価を行った。また、ネットワークに流れるトラヒックからデータを収集し、蓄積・解析・視覚化の一連のデータの流れを構築した。さらに、異なる複数の解析アルゴリズムを実装し、それらの比較評価を行った。これらを以下のような手順で推進した。1.実際のサイトに適用する本学(九州工業大学)のキャンパスネットワークに本提案システムを適用し、実環境において提案システムの有用性を評価した。2.解析アルゴリズムの評価複数の解析アルゴリズムをモジュールとして実装し、それらの比較評価を行った。評価方法に関しては、実運用と連携し、最もfalse positiveの低いアルゴリズムが何であるかを検討した。
著者
有田 峰太郎
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ポリオウイルス(PV)擬似粒子を用いてPVレセプター発現マウス(TgPVR21マウス)に残存性ポリオ様麻痺を生じさせる条件を確立し、残存性ポリオ様麻痺を長期間生じさせたマウスについて解析した。また、ポリオ後症候群の発症に関与する宿主遺伝子群を同定することを目的とし、PVの複製を阻害する化合物の探索を行った。結果、4.1×10^6感染単位以上のポリオウイルス擬似粒子を脊髄内に接種した場合、ほぼ全てのマウスが重篤な残存性ポリオ様麻痺を呈した。このマウスを運動負荷の有無で6ヶ月間飼育したが、誘導されたポリオ様麻痺と運動負荷を原因とする異常を確認することができなかった。PV複製を阻害する化合物として、GW5074(Raf-1阻害剤)を同定し、GW5074と協調的に働くキナーゼ阻害剤としてMEK1/2阻害剤、EGFR阻害剤、PI3K阻害剤を同定した。GW5074に対する耐性変異を同定し、阻害機構が不明である既知の抗ピコルナウイルス化合物enviroximeに対する耐性変異と同じ変異であることを見出した。さらに、GW5074が宿主のphosphatidylinositol 4-kinase III beta (PI4KB)の活性を阻害することによりPVの複製を阻害することを見出し、PI4KBがenviroxime様化合物のエンテロウイルス複製阻害活性の標的の一つであることを明らかにした。
著者
宮本 万里
出版者
国立民族学博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

現代ブータンは環境保護国として知られてきたが、近年の急速な民主化の動きは、君主制下での一元的で厳格な森林管理を環境保全成功の秘訣としてきたシステムを大きく変えつつある。本研究では、選挙や分権化をとおした民主化プロセスの中で、自然や生物の保護に対する村落社会の人々の価値体系がいかにゆらぎ、どのように再編されつつあるのか、その過程を現地での聞き取りと資料調査により明らかにした。特に、村落住民だけではなく森林局や畜産局、群議会、仏教僧、ボン教の呪術師を含めた複数のアクターによる日常的で多元的な交渉過程が、村落の価値体系と自然観を恒常的に書き換える様を動態的に描出し、環境研究に新たな一石を投じた。
著者
増原 綾子
出版者
大東文化大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1998年5月、それまで30年にわたり続いてきたスハルト独裁体制が崩壊した。本研究は、このスハルト体制の崩壊をめぐって、その背景にあった与党ゴルカル内部の変容とそれに伴う体制内部の亀裂を分析し、体制内部の亀裂が経済危機・政治危機をきっかけに体制内外の政治アクターを結び付ける役割を果たし、スハルトを退陣に追い込んで政治権力の再配置を生み出していった政治過程を説明した。
著者
田原 亮二
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では方向転換を伴う足部でのトラップ動作について、映像とセンサーを用いた動作分析を行い最適なトラップ動作を探索した。その結果、方向転換を伴うトラップ動作に関しては膝の外旋動作よりも、足関節の外反動作によってボールスピードが減衰されていることが明らかとなった。
著者
林 尚示
出版者
東京学芸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

3年計画で,人間としての在り方生き方への自覚を深める高等学校ホームルーム活動に関する研究を実施してきた。その最終年度である3年目の研究実績は,次の4点である。第1番目に,生徒指導と特別活動の関係について質問紙調査を実施し,共分散構造分析を用いて検討した結果,生徒指導の満足度が特別活動の満足度に影響を及ぼすことが確かめられた。そして,分析の結果,特に,生徒指導の中の「個人的適応指導」と,特別活動の中の「学芸的行事」や「健康安全・体育的行事」に着目して特別活動をさらに充実させていくことが提案できた。第2番目に,ホームルーム活動の指導内容になることの多い「いじめ」の解決のためには,被害の申告先を明示して,助言,仲介,加害者側への注意などの方法を駆使して被害者を救済していくことを提案した。「いじめ」や「校内暴力」へは,学校や教師の毅然とした対応が必要であり,政策的側面についてもその具体的な方向を検討できた。第3番目に,子どもの「社会的自立」の基礎を培うためには,ホームルーム活動等での生徒指導の役割が大きいことを言及できた。第4番目に,学習指導要領の内容を吟味しつつ,その中でホームルーム活動を含む特別活動の位置付けを調べ,教育課程上の重要性を再確認できた。これらを総合すると,学習指導要領上でのホームルーム活動を含む特別活動を重視し,その中で子どもの「社会的自立」の基礎を培うために,生徒指導の具体的方策をさらに検討することが課題提起できる。
著者
三輪 哲
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

社会の開放性を、「様々なライフチャンスに対する社会階層的背景の影響が弱いこと」と操作的に定義し、分析の焦点を1)世代間の社会移動、2)結婚における同類婚、3)教育機会の出身階層間不平等と設定して、実証研究を進めた。似た階層的地位の男女は結びつきやすいのか(階層同類婚)、そうした同類婚の傾向は時代的に変化をしたのか、すなわち結婚を通した社会移動とも呼ばれる家族次元における階層問題について分析をおこなった。それにより、階層同類婚の傾向は、親職業、本人学歴のいずれで測ってもみられるものであること、長期的にはそれらの同類婚傾向は弱まってきたこと、日本と韓国では学歴同類婚の趨勢が異なること(日本は緩やかな減少、韓国は増加)などが見出された。さらに結婚における選択行動に着目して研究を進めた。女性は学歴が高くなるほどより高い学歴の配偶者を選択しようとする傾向が強く、それにより学歴同類婚と高学歴女性の晩婚・未婚がもたらされることを明らかにした。社会移動と同類婚の趨勢を見る限り、日本社会の開放性は、長期的にみれば安定ないし微増という程度であったが、格差に関する意識は必ずしもそれと対応しない。世論調査データにみられる格差意識は、この10年ほどでより格差を感じる方向へと大きくシフトした。その変化は社会全体的なものであって、一部の、例えば低所得層において変化が顕著というようなことはない。その意味では、社会の格差意識が二極により分かれていくという傾向ではなく、皆々が日本社会の格差の存在を認知するような局面に移行したというのが近年の変化の方向性であったと指摘できる。